綾小路清隆の妹として、全力で支えます 作:ぐれーぷ
私の兄、堀北学は昔から全てを完璧にこなす天才だ。
勉強をやらせても、武道をやらせても、料理をやらせても……何をさせてもすぐに結果を出す。
それはまさに私の理想で、憧れの存在。だから私は兄さんを目標にした。兄さんに認められたい。そう強く思うようになった。
「……弱音を吐くことは許されないわよ」
鏡に写る自分の顔を見て、私はそう言い聞かせる。
船上試験以降、私はクラスメイトとの対話を重ねて来た。歩み寄る努力をした。
私は兄さんにはなれない。兄さんみたいに1人では何もできない。だからクラスメイトたちと力を合わせ、Aクラスを目指す。
今日はそのための第一歩。
「鈴音ちゃーん、おはよー!」
扉の外から綾小路さんの声がする。
綾小路愛歌。兄、綾小路清隆と共に入学の日から関わりがあり、これまでも共に様々な試練を乗り越えて来た……いいえ、違うわね。今日まで2人に私は支えてもらった。
もちろんそんなことは口が裂けても2人には言わない。それを認めるのは私らしくないから。何よりそれを言ったら2人に調子に乗られる。それが気に入らない。
ただ私は2人のことをクラスメイトの誰よりも信頼している。
「またせたわね。行きましょう」
「ううん。大丈夫だよ! 今日も楽しもうね」
何故なら2人は、私に初めてできた『友達』なのだから。
「──それでは第1組目の走者の皆さんは準備を」
運動に自信のない生徒たちは、体育祭なんて来ないでくれ……そう思ってるかもだけど、待ちに待った体育祭が遂に始まった。
3年A組の藤巻先輩の開会宣言が終え、最初の競技である100m走が行われようとしている。
1年男子から始まり次に1年女子へと100m走が行われ、1年が走り終わると2年と3年の順に行われる。
そして休憩を挟んだ後、今度は女子から男子へと男女の順番が入れ代わる。学年の順番が入れ代わることは無いみたい。
「うわぁ、見て愛歌。あそこ審査用のカメラが設置されてるよ」
私にそう声をかけたのは千秋ちゃんだ。
「たかが高校生の体育祭に普通あそこまでする?」
「残念ながらここはたかが高校生の集まりではなく、日本の将来を担う高校生の集まりだからね」
何せ政府が管理する学校が選んだ生徒たちなのだから。
その事実を知る生徒は現状いない。もしかすると堀北生徒会長は知ってたり……と思ったけれど、それは坂柳理事長の性格からしてあり得ないね。
なら現状、生徒でその事実を知っているのは私だけか。
「あ、須藤くん走るみたいだよ。ぜひリーダーとして士気を高めるためにも、1位を獲って欲しいね」
「だね。千秋ちゃんも頑張って1位狙ってよ?」
「じゃあ当然愛歌も1位狙うよね?」
「もちろん。狙うは狙うよ。なれるかは別としてね」
誰だって目標は高く持つ権利はあるのだ。
私は1位という目標を持って走る。でもそれが達成できるかどうかはまた別。
などと、心の中で言い訳をしていると千秋ちゃんが、何か物言いたそうな目で見てきた。
「え、なに? 私何かした?」
「昨日の配信見たよ」
「それはなんと。ありがとう。スパチャしてくれた?」
「まっさか。英語の点数があまり良くないくせに、英語をペラペラと読み上げたり、話すようなペテン師ちゃんに私は何もあげないよ?」
「あ、あははは……喋ったり読んだりはできるけど、書くのは苦手なんだよね〜」
「ふーん? それが仮に本当だとしても、もっといい点数が取れると思うんだけど?」
正直なところ、いつか遅かれ早かれ私の配信はクラスは勿論、学校中の生徒が1度は見ると確信していた。
その中でも千秋ちゃんは絶対に視聴するだろうと言う確信があったんだよね。昨日はちょうど外国人向けの配信、英語による配信だった。
まだ走り出しということもあってか、かなりの支援金を頂いているのため生徒会の予算がそれなりに溜まっている。その貯まった予算……生徒会のPPをどう使うか決めるかは私に権利がある。色々と使い道は決まっているから、早く行動に移さないとなんだけど色々立て込んでいるんだよね。
私の
因みに学内の
因みにそちらからは私の懐には1PPたりとも入ってこない。
このように、ざっと計算してみるとこんな感じになる。改めて月払いによる会員制度の恐ろしさを実感した。
補足しておくと既に学校用の某動画配信サイトのチャンネル登録数は100万を裕に超え200万に届く勢いだ。
「おお、流石須藤くん。余裕の1位だね」
隣にいる千秋ちゃんがそう呟き私は意識を体育祭の方へと戻す。どうやら須藤くんが1位を取ったみたいだ。幸先は完璧。流れもよし。
「Dクラスには運動神経のいい子が意外と集まってるから、この体育祭は1位を狙いたいなぁ」
「千秋ちゃんやる気だね」
「そういう愛歌は……愛歌、生徒会長がどうやら用があるみたいだよ?」
そう言われて振り返ると私の方へと向かってくる堀北生徒会長の姿があった。千秋ちゃんは気を利かせて離れてくれたので、私は堀北生徒会長の下へ足を運んだ。
「おはようございます堀北生徒会長。何か御用でも?」
「おはよう。1年のクラスの様子を見にきただけだ。特に理由はない」
「つまり私たち……鈴音ちゃんのDクラスの様子を見にきたと。ちょうどほら、向こうでこっちを見てますよ」
私は手を振ったが堀北生徒会長は視線を向けることもなく、鈴音ちゃんも特に反応は示さず視線を外した。この兄妹、拗れすぎてて泣きたい。
もっと私と清にぃの様に健全な兄妹仲になれないのだろうか? 見習って欲しいよね。
「副会長の件、感謝する。これで少し……いいや、かなり安心できる」
「あー、寧ろごめんなさい。本当は生徒会長になって欲しかったんですよね?」
「そうじゃないと言えば嘘になるな。南雲よりもお前の方が適任だった。南雲と違って全学年から慕われ愛されたに違いない。だがお前のやりたいことがある以上、生徒会長との両立は大変だろう。副会長になってくれただけでも十分だ」
「桐山先輩には申し訳ないですけどね」
「現生徒会長と次期生徒会長、2人の推薦だ。桐山には悪いがお前の方が適任だった。南雲を相手にするには正直荷が重いだろう」
「ノーコメントで……実は言うと私、あんまりあの人のこと好きじゃないんですよね。変にプライド高いですし。現に私に対して敵意に近い物を向けてますから。別にいいですけど」
この体育祭が終わり選挙が正式に終われば、南雲雅と私は生徒会長と副会長を拝命することになる。桐山先輩は自分が副会長なると思っていたから、私にその座を取られたことで不満を持っていた。
多分だけど、私が表向きは副会長の件を断っているのも不満を持たれる原因になっているのだろうね。副会長になりたい桐山先輩と、表向きは副会長に興味のない私……申し訳ないけど自身、副会長の肩書きは欲しかったため、今更譲る気はない。
「アイドル活動をする為に決めたルールの1つ、その条件をクリアするからだな?」
「はい。外部との連絡を取る際には『生徒会長・副会長・クラス担任・理事長・校長』以上5名のうち3名の過半数の許可が必要でしたから。私が副会長になれば2名の許可で認められるようになります」
佐枝ちゃん先生と坂柳理事長から許可を貰えばいいだけ。だいぶハードルが下がった。
いやでもあれか、1年最後と2年の最初は月城がやって来る。少し面倒になるかも。
けれど当然それも想定済み。色々行動が制限されるのは仕方ないが、月城にはどんな形でも学校に来て貰わないと困るね。
もし来なかったら私の負けだ。それだけは避けたい。
「あ、そうだ。南雲先輩には」
「ああ。分かっている」
それなら何も問題はない。
堀北生徒会長が私から、100m走を走る生徒たちへと視線を移した。私もつられて見ると、ちょうど清にぃが走っている。当然やる気は無いため順位は5位。先に走り終わっていた平田くんに労われていた。
「お前の兄は相変わらずだな」
「というと?」
「底が見えん」
「少なくとも私じゃ足元にも及びませんよ」
「……笑えない冗談だ」
流石に冗談だ。敵わないけど清にぃをその気にさせることはできる。
きっと後輩のホワイトルーム生、5期生以降は信じないと思うけど、最初は清にぃよりも好成績を残せたことだってあったんだから。
ただ1度コツを掴むと、清にぃは信じられない早さで成長をする。武術やスポーツとかで勝てなくなるのよね。
それこそ須藤くんと1日バスケをすれば、次の日には須藤くんと同等以上の技術を手に入れるでしょうね。
すると走り終えた清にぃがやってきた。
「そうじろじろと見られると恥ずかしいんだが」
「おにぃの勇姿に釘付けなっちゃって。ごめんね?」
「……おまえもそうなのか?」
「別におまえだけを見ていたつもりはない。ただおまえの妹に話があっただけだ」
「そうか。その割には熱心に見られていた気がしたんだけどな」
「同じ赤組、そして丁度話相手の兄が走っているんだ。ある程度意識するのは普通だろう」
「確かにそれもそうだな」
なんかあれだ。私はこうして清にぃが誰かと普通に会話しているだけで、とても幸せな気持ちになる。
「さて、そろそろ俺は行くとしよう。綾小路兄妹、おまえたちには期待しているぞ」
「オレへの期待の分も、全部愛歌に回してくれ」
「それじゃあ堀北生徒会長頑張ってくださいな〜」
堀北生徒会長は100m走の列へと向かって行った。
「オレについてなんか言ってたか?」
「何にも話して無いよ。相変わらずだねって」
「どうしてあんなに買い被るのか分からないな」
「邪険にされるよりはマシでしょ」
「それはそうなんだが……あまり期待されても申し訳なくなる」
「大丈夫! 私は清にぃの足元にも及ばないって言っといたから。安心し……いたい」
「どこにも安心できる要素がなかったんだが」
清にぃから頭にチョップを頂いてしまった。
これが噂に聞く家庭内暴力……鈴音ちゃんのせいで清にぃは暴力を振るうようになってしまった。そんな鈴音ちゃんは堀北生徒会長のせいで拗らせてるから全て堀北生徒会長が悪い。許さん。
今からでも南雲派閥に寝返ろうかしら。
「お2人さん相変わらず仲がいいことで」
そう声をかけてきたのは千秋ちゃん。戻ってきたみたいだ。
「千秋ちゃーん、清にぃにぶたれたぁ〜」
「理由は知らなけど、きっと愛歌が悪いから、ぶたれても仕方ないよね」
「あれ、もしかして私の援軍じゃ無くて、清にぃの援軍?」
「オレと松下は喋ったことないぞ」
「……言われてみれば確かに。改めてよろしくね綾小路くん」
「ああ。よろしくな松下。妹がお世話になってる」
2人ともなんか今日私に冷たくない?
そろそろ私と千秋ちゃんの出番だ。
私たちも準備した方がいいと思い、私と千秋ちゃんは女子の列へと急いで向かった。
愛歌と松下の2人を見送った後、テントへやって来た。
テントには女子たちの走る姿を見ようと、集まった男子たち。
須藤の姿が見当たらないな……。
「なぁ。池、須藤はどこに行ったんだ?」
「さっきまでそこにいたけど……トイレなんじゃねーの? それより綾小路〜、もうすぐ次の女子たちが走るぞ? 揺れるおっぱいでも見ようぜ」
池は相変わらずだな。
テントを見渡すが須藤と平田の姿が見えない。今回体育祭のリーダーと呼べる2人の存在が同時にいないことにオレは嫌な予感がした。
辺りを探すとコテージの方に高円寺の姿を見つけ、そしてその高円寺に話しかけている須藤と平田の姿を見つけた。
オレは様子が気になったため3人の下へと足を運ぶ。
「おい、高円寺! みんながクラスの為に頑張ってるっつーのに、おまえはいつもいつもふざけた真似しやがって! 少しは同じクラスの仲間として頑張ろうとか思わねぇのかよ!?」
「心外だねぇ〜。私とてこのクラスの一員、みんなの為に力になりたいのは山々なのだよ。ただ……見ての通り今日は体調不良でね? クラスの一員としてみんなに迷惑をかけないために辞退したという訳さ」
「ッ……! 練習も本番も全部サボりやがって……クソが」
須藤は怒りをぐっと堪え、少し高円寺から距離を取った。
まだまだ感情が表に出てくるが……やはり須藤の成長は目を見張るものがある。素直に関心した。
須藤が引き下がったことで、平田が入れ代わり高円寺の説得を試みる。
「高円寺くん体調の方は回復しそうにないのかい……?」
「どうだろうね。回復するともしないとも、断言はできないのだよ」
「はっ。何が私は完璧な存在だ。体調も整えられないような奴が……笑わせるぜ」
「体調を整えるためにこうして休んでいるのだよ。万全な状態じゃない身体で、体育祭に挑んで怪我でもしたらクラスに迷惑をかけるからねぇ」
須藤なりに高円寺を煽ったつもりだったが、流石に相手が悪い。
無人島の時は高円寺自身が、自分の肉体は今日も完璧だ、と自賛していたからこそ上手く行った挑発だ。しかもその挑発した相手が愛歌だったというのも大きいだろう。
今回、高円寺にやる気を出させるのは愛歌とは言え難しいはずだ。もしそれが可能ならば既に愛歌は行動していたはず。だが今現在高円寺はこうして休んでいる。つまり愛歌は今回は無理だと判断したということだ。
成長したとは言え、そろそろ危ないと判断したオレと平田は、念の為須藤を抑えられるように準備する。
「全く、彼女といい君たちといい。私に頼らずにはいられないみたいだねぇ?」
彼女? とオレたちが疑問を浮かべると、高円寺が誰のことか教えてくれた。
「今の君が夢中になってるクールガールのことさ。私に体育祭に参加するよう、今日まで念を押されたのだよ」
「堀北さんが……?」
これに関してはオレは本当に知らなかった。
まさかあの堀北が裏で高円寺の説得を試みていたとは。
しかし当然と言えば当然か。無人島の時も愛歌がいなければ、きっと高円寺は棄権していた。それを危惧してのことだろう。
「ともあれ、私は気分が優れない。回復を願うのなら、1人にしてもらえるかな?」
「高円寺テメェ!!」
「もうよそう須藤くん! リーダーの君が不在なのはクラスの士気にも関わる! だから戻ろう」
「っ……。ああ。
ひとまず高円寺の説得はここまでにしておこう。須藤と平田には悪いが、はっきり言って時間の無駄だ。
高円寺が誰かのために行動するとはオレには思えないからな。
その後、オレたちはテントに帰って来た。
「あ、綾小路くん! 私頑張ったよ……見てくれた?」
そう声をかけてくれたのは、息を切らし肩で呼吸をする佐倉。
佐倉が走るところを見てやることは出来なかったが、これを本人に伝えると傷つくだろう。ここは嘘でも見たと言うべきだ。
「頑張ったな佐倉」
すると嬉しそうに笑みを浮かべる。
「び、ビリじゃなかったよ! 初めて……ビリじゃなかった」
この喜びようからして、誰かが転んだとかではなく実力なんだろうな。
佐倉の足で勝てる生徒となるとかなり絞られるが……ここで誰に勝ったのかを予想するのは野暮か。何はともあれ佐倉も体育祭を楽しめているみたいでよかった。
「清にぃと愛里ちゃんお疲れ〜!」
「ま、愛歌ちゃんお疲れ様! 愛歌ちゃん私ねビリじゃなかったよ!!」
「見てたよ! 愛里ちゃんナイスラン! 頑張ったね!」
帰って来た愛歌が佐倉の頭を撫でながらそう褒める。佐倉は嬉しそうにしていた。
「やっほ。お疲れ綾小路くん」
「松下か。お疲れ様。1位見事だな」
「お、ありがとう。見てくれてたんだ?」
「ああ。流石の走りだったぞ」
「どうも〜。因みに愛歌は3位だったよ」
「そうか。愛歌も頑張ったな」
愛歌の方に視線を移すが、佐倉と話すのに夢中で聞こえなかったみたいだ。
佐倉が楽しそうに話しているため、ここで話しを中断させるようなことはやめておこう。
「ねね。綾小路くんも……凄かったりする?」
「……? いったいなんのことだ?」
「惚けないでよ。兄妹揃って同じなんでしょ?」
松下が何を言っているのかは察せれる。オレたち兄妹が本気でないと疑っているんだろうな。
「何のことか分からないな」
「……ま。ここで話す事でもないね。これが一年女子の最後だね。堀北さんの走りでも見ようか」
松下にそう言われ視線をレースの方へと戻す。結果は堀北が1位。同じ組にはCクラスの伊吹の姿もあり、僅差での1位だった。
しかし走っている最中、堀北は後ろを気にするような素振りを見せていた。あれがなければもう少し余裕を持って1位になれていただろうに。
それはそうと松下か。愛歌からそれなりに優秀だと聞いている。そして他の生徒よりもAクラスで上がりたい気持ちが強いとも。
「外にも内にも……か」
「どうかしたの綾小路くん?」
茶柱、堀北、平田、松下、龍園。こんなに多くの人たちに怪しまれる予定は無かったんだけどな。
オレは松下に何でもないと答え、今後のことを考えて少しため息をついた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
2年再編の10巻のカバーで、森下と坂柳のアイドル衣装を見て歓喜しました。つまりよう実はアイドル活動が推奨されていると(?)これはフラグが立ったな(??)この作品は間違いでなかった(???)
少し文字数を減らしてでも、更新頻度を上げれるように頑張ろうと思ってます…感想お待ちしております!
次回もよろしくお願いします