綾小路清隆の妹として、全力で支えます 作:ぐれーぷ
1限目〜私みたいな優等生もたまにはサボらないと〜
体育祭数日後。
体育祭で頑張ったのだから数日ぐらいは休もう……という訳にもいかない。
何故ならもう直ぐ中間テストが控えており、それが終わると次期生徒会の総選挙及び、新旧生徒会の交代式が行われる。
さらに私たち新旧生徒会会長と副会長の3人はとあるテレビ番組の撮影も控えていた。
何やら全国から学生を集めて頭脳戦をする……と言う番組に出演する。
ふと気になった事を隣にいる堀北会長に聞いてみる。
「学生を集めるって言ってましたけど、高校生だけなんでしょうか? 私が知る限りだと、大学生同士で競うイメージでした」
「全国から多くの学生たちが招待されているそうだ。俺たち以外の高校生も当然いる。勿論大学生からも参加するみたいだな」
「大学生と対決するんですか??」
「俺も詳細は分からない……が、それだけこの高育はレベルの高い高校、期待されていると思われているのだろう」
政府が管理する学校となれば確かにみんな期待はするよね。
しかも高育の情報は驚くほどに外部に出回っていない。
そんな学校の情報が一部だが、紹介として流れることになっている。
今中学3年の受験生なんかは食いつくだろうね。
「同じ高校生相手に負けるのだけは絶対嫌っスけどネ」
「勝敗はさして重要ではない……が高育の代表として参加する以上、恥ずかしい姿を見せるわけにはいかないことも事実だ」
「今回ばかりは私も南雲先輩に同意見ですよ」
「寂しいじゃねぇか愛歌。愛歌には勿論、お前たち一年には何もしてないだろ」
「えぇ。まだ、何もしてませんね」
「2人ともそこまでにしろ。次期生徒会長と副会長としての自覚を持て」
私は首を縦に振り南雲先輩は笑みを浮かべやや肩を竦める形で返事を返した。
「それはそうと……愛歌、副会長になる決心はついたんだな?」
「私に務まるか怪しいですけどね」
「つまんねぇ冗談は言うな。お前が務まらないなら今の生徒会メンバーじゃ無理だな」
「綾小路妹。おまえが「両立」するという部分で気にしているのであれば仲間を頼れ。そうすれば問題はない」
きっと堀北生徒会長は私がアイドルと副会長の2つを両立させることに不安を覚えていると思っている。
申し訳ないけれどそっちに関してはなんら不安はない。問題は今後の流れだ。
私は清にぃのやりたいようにこの学園で過ごして欲しいと思っている。
だから佐枝ちゃん先生には清にぃよりも私に頼って貰うつもりでいた。
けれど問題は清にぃが私を信じていないことだ。
ううん。違う。信じてはいる。けれど父親の存在がチラつかされており、確証が持てない以上最低限やるべきことはしなければならない……そのため行動していると言った感じ。
とりあえず今は目先の問題が片付けることにした。
「堀北生徒会長。話を戻しますが、私たちも高育から撮影スタジオまで移動すると聞いております」
「そうだ」
「他校の生徒とはなるべく接触はせず、学校関係の質問をされた時は教師の指示に従うこと。でしたっけ」
「当然だな」
今回、私が外部の人と接触するのは少しリスクが大きいかな。
残念だけど大人しくしておこう。
そのあと、私たちは本来の用事を済ませ解散することとなった。
ただ、解散する直前に南雲先輩の言っていたことが気になる。
──愛歌、次の特別試験、無事に迎えられるといいな?
はぁ。面倒くさいわね。
さっきまで一年生には手を出してないと言っていた癖に。
考えても仕方ない上、現状彼が動いた所で一年生の誰かが退学になることもない。
ひとまずは放置することにした……それに──
「──清にぃ以外、誰が退学しても構わない」
私がすべきことは綾小路清隆を支えること。
それ以外は切り捨ててしまっていいのだから。
体育祭と中間テストを無事終えた10月中旬の体育館。
オレたち全校生徒の前で生徒会総選挙が行われ新旧生徒会の紹介が始まろうとしていた。
早速、前生徒会長である堀北学が最後の挨拶をするべく壇上へと上がる。
オレは堀北学の妹──堀北鈴音に視線を向けた。
今までの堀北なら兄を見るだけで動揺していたが、今はそんな素振りなどなく、憧れである兄の姿を見守っていた。
頑張って動揺を抑えているのか、悪いは前回の体育祭を経て少なからず成長しているのか……どちらなのかは分からないが後者だったとしてもまだ足りないな。
それに兄に対するコンプレックスを完璧に完治したとは思えない。
堀北の1番の弱点は未だ変わらず兄のままだろう。
そんなことを考えていると堀北学の挨拶は終わり、新生徒会長である南雲雅の挨拶が始まった。
南雲の背後には新生徒会メンバーが並んでおり、愛歌と一之瀬の姿も当然そこにあった。
オレの視線に気づき目があった愛歌は満面の笑みを浮かべ手を振っている。
当然オレは無視したが勘違いした何名かの生徒が手を振りかえしていた。
事実に気づいたら黒歴史確定だな。
さて南雲のスピーチを纏めるとこうだ。
今後、高度育成高等学校をより実力至上主義の学校へと変えていくつもりのようだ。
実力がある生徒は上に。実力の無い生徒は下に。
今までの学校歴史、堀北学が守ってきた伝統を壊すと宣言をした。
堀北学には悪いが、オレは南雲の言っていることは正しいと思っている。
それに南雲の言う実力至上主義がいったいどんなものか見てみたい気持ちが強い。
愛歌が堀北の肩を持つならば、オレが南雲の肩を持つのも悪くないだろう。
ただそれだと当然、面倒ごとに巻き込まれるのは避けられないため、行動することはないがな。
「──南雲生徒会長ありがとうございました。続きまして生徒会副会長、綾小路愛歌さんよりお言葉を頂戴いたします」
次は愛歌か。てっきりあったとしても南雲より先だと思ってたんだがな。
「皆様ごきげんよう。この度、生徒会副会長を任せられました1年Dクラスの綾小路愛歌です」
体育館全体を見渡したあと、微笑みを浮かべながら軽く頭を下げて挨拶をするその姿は気品に溢れていた。
「私からも皆さんにお伝えしたいことがあります。これまでの高育は学年の垣根を超えた交流は最低限なものでした」
確かについこの間の体育祭を除き、2年3年と関わる機会は無かった。皆無と言ってもいい。
「私が副会長になったからには、今後他学年との交流を増やしていこうと思っております。まだここで発表することはできませんが、来年をお楽しみにお待ちください。私からは以上です」
愛歌の挨拶を最後に今度こそ新旧生徒会に交代式は終わった。
その後、生徒たちはクラスに戻り担任教師から幾つかの注意事項を聞かされた後、下校となった。
オレは部活などに所属していないため、そのまま自分の部屋に帰ることになるのだが……何故か部屋主のオレよりも先に愛歌が帰ってきていた。
「おかえり清にぃ。遅かったね」
「おまえが早すぎるんだろ。生徒会の用事とかはないのか?」
「体調が優れないからって言って帰ってきたの。私みたいな優等生もたまにはサボらないと」
「大丈夫なのか? 他学年との交流を増やしていくなんて言ってたが……そう簡単じゃないだろ」
上着を掛け椅子に腰を下ろすと、愛歌にアイスを渡される。
ピスタチオのアイスが乗せられたコーン式のものだ。
「そうでもないよ。寧ろ私がじっとしてても交流は増えていく。少なくとも来年は必ずね」
「どうしてそう言い切れるんだ?」
「だって清にぃ、南雲先輩に体育祭で走りで勝ったでしょ? 負けっぱなし終わるような人じゃないよ〜? 今は堀北先輩にご熱心だけど来年卒業したら今度は清にぃが標的になると私は思ってる」
「つまりお前が何もしなくても南雲の個人的な理由のため、来年2年のオレたちは来年3年になる生徒たちと特別試験で関わることになると」
「正解。幾ら生徒会長とは言え私情だけで他学年の生徒と試験で争う事は無理だからね。でも全学年総当たりの特別試験や交流ができれば?」
「……勘弁してくれ」
「あはは。そう言うわけだから私は何もしなくてもいいのよ。私が他学年の交流を増やしていくと宣言した以上、それが南雲先輩が行動した結果だったとしても周りは私が有言実行したと思うだろうからね」
幾ら南雲とは言え今の1年たちの情報操作をすることは無理だろう。
来年愛歌の言った通りに他学年との交流が増えたとして、それが南雲のおかげだったとしても今日の愛歌の宣言を聞いた以上、大多数の生徒は愛歌の功績として認識するはずだ。
「それに──このままあの人が黙っているとは思えないからね。来年にはホワイトルーム生の1人や2人、送ってくるでしょう」
あの人、オレたちの父親にあたる人物。
茶柱によればオレたちを退学にしろと指示されたそうだが、現状それが嘘か本当かは判断がつかない。
だがそれが嘘か本当かはどうでもいい。愛歌の言う通り黙ってこのままオレたちの卒業を待つような人では無いことは確か。来年の新1年としてホワイトルームから刺客が送り込まれても不思議じゃない。
当然そうなれば学校側にも教師、それも地位のある立場としてホワイトルーム関係者の誰かが着任してくるだろう。
「……理事長か校長辺りか」
「そこしかないだろうね。で、当然そこにホワイトルーム関係者が地位を固めてくるとなると」
「オレたちを退学にするべく他学年との交流、来年の1年と2年による特別試験が行われる可能性が高いな」
「そういうこと〜。南雲先輩が1年と2年だけで遊んでるところを黙って見てるとも思えないから、3年も当然混ざってくるだろうからね」
「なるほどな。確かにお前の言う通り何もしなくても勝手に他学年との交流が増えそうだな」
「でしょ? もちろん佐枝ちゃん先生の話が嘘だとしても、遠かれ早かれあの人は私たちと会うためにこの学校に来ると思うよ。だって、私たちが勝手に動いて黙ってるような人じゃないでしょ」
愛歌の言う通りだ。
オレが引っ掛かっている部分は、茶柱がこちらの事情をある程度知っている事実と、あいつが直接ではなく茶柱を通してオレたちに退学をするように指示を出したこと。
オレたちを退学させようと行動を起こすのは十分理解できる。いいや、寧ろ無い方がおかしい。
だがあるとしても直接本人が尋ねてくるか、ホワイトルーム関係者がやってくると思っていた。
だが実際は茶柱に電話でオレたちを退学にするように頼んだだけ。
「佐枝ちゃん先生の口から伝えるように頼むのはちょっと理解できないよね」
「ああ。そのせいで断定が出来ない。これがホワイトルーム関係者や、オレたちの事情を知っている理事長からの伝言だったなら信じたんだがな」
「かと言って無視できないのも事実……あの人は間違いなく私たちを退学させたいだろうし」
「現状だと五分五分だな。そうなると当然、最悪の場合を想定して動かなければならない」
「あの人が佐枝ちゃん先生に接触したことが本当だったことを前提に……だね」
オレは愛歌の返事に頷いた。
そしてオレは今日愛歌と話して1つ確信した。コイツはオレに隠し事をしている。今の会話での不自然さ……愛歌の言動の矛盾……今指摘することでも無いため、また今度にしよう。
それはそうともし仮にホワイトルーム生が刺客として送られて来た場合、他学年との交流が増えることは好ましい。
一見危険にも思えるが、刺客来る以上、学校側にもホワイトルーム関係者の刺客が送られるだろう……そうなった場合、相手はこちらの情報を知る手段が増える一方で、オレができることは少ない。
だが1年と交流する機会があるのであればこちも情報収集ができ、先手を取られることも、知らないうちに退学、と言った状況を阻止できる。
「来年は今年以上に厄介ごとが多そうだな」
「だね。2年に上がれば退学者も増えるだろうし」
「その中にオレたちも含まれてたりしてな」
「あはは! そうなったら面白いね!」
「いや、冗談のつもりだったんだが……」
その後、他愛もない話をして夕食を一緒に食べて解散となった。
南雲雅か。どうやらオレが思っていた以上に厄介な人物のようだ。
私たち新旧生徒会による交代式の数日後。
今日は中間テストの結果発表。1年Dクラスのみんなは朝からソワソワしていた。
無理も無い。何故なら私たちが通うこの高度育成高等学校では中間と期末で赤点を取った瞬間、即退学にさせられてしまうのだから。
さて、肝心なテスト結果だが……結論から言うと誰も退学者は出なかった。
私と清にぃは相変わらず真ん中辺りを漂っていた。
そして今回最も注目されたのは須藤くんだ。
いつも最下位争いをしている彼が、なんと下から12番目の位置に名前を連ねている。
須藤くん以外にも通常赤点組の池くんや山内くんも点数が向上していた。
これも日々鈴音ちゃんとの勉強会のおかげだね。
「……?」
ふと教室に嫌な雰囲気が流れた。
けれどそんな雰囲気もすぐに霧散する。なんだったんだろう?
清にぃは何か気付いたかも知れないと思い振り返ると、鈴音ちゃんと話していた。
「あなたたち兄妹はまたなんとも絶妙な普通のラインね。いい加減手を抜くのはやめたらどうかしら?」
「何言ってるんだ。一生懸命やってこれだぞ」
「体育祭の一件以来あなたたちは実力を隠している……と私は結論を出したの。悪いけれど信じないわよ」
「はぁ……足がちょっと速いぐらいでそこまで言われるか?」
会話をしていてどうやら気付いていないみたい……いや、私が気づいて清にぃが気づかない訳がない。
もし本当に良くない物なら鈴音ちゃんにもそれとなく話を振っただろうから、あまり気にしなくていいものかも知れないね。
念の為、私なりに調べておくかな。
考え事も程々にして佐枝ちゃん先生の話に耳を傾ける。
軽く雑談を交えた後、来週2学期の期末テストに向けた8科目合わさった小テストが実施されることが告げられた。
当然クラスのみんなから不安の声が上がるが、その小テストでどんな点数を取っても成績に影響せず、退学などといったペナルティがない事も告げられた。
「──ただし、この小テストの結果が次の期末試験に大きく影響を及ぼすことを先に言っておく」
次回行われる小テストの結果を基に、クラス内でペアを作り2人1組みで8科目の期末テストを臨むことになるとのこと。
そして各教科ごとの2人の点数を合計し60点を下回れば退学、赤点だったとしても退学、2つのボーダーラインがある。
また自分のペアがカンニングすれば、2人もペナルティとして退学。
ペアが欠席した場合、正当な理由で無い場合全ての教科を0点として扱うとのこと。
またペアを決める方法は小テストの結果が出た後になる。
遂に来たわね。『特別試験』ペーパーシャッフル。
佐枝ちゃん先生がみんなに説明している間に、ペーパーシャッフルについて改めて整理する。
『特別試験』ペーパーシャッフル。
特定のクラスに『攻撃』と『防衛』を行い、クラスの総合点を比べ勝った方が相手クラスからCPを50得ることになる。
また今回このペーパーシャッフルでは、生徒たちで8科目の問題用紙を制作し、それを相手側のクラスに解かせるという試験となっている。
今回期末試験でやるべき事は、
・対戦相手となるクラスを決める
・ペアで60点を下回らない
・赤点を取らない
・
この4つだ。
「綾小路くん、愛歌さん、作戦会議よ。平田くんにも声をかけて頂戴」
清にぃは頷くと平田くんの下へと向かった。そのまま次いでに軽井沢さんも誘うみたいだ。
2人は清にぃに任せるとして、私は鈴音ちゃんの方に向かう。
鈴音ちゃんはクラスのみんなから質問攻めにあっている須藤くんたち赤点組のの所にいた。
「須藤くんすごいね! こんなに点数上がるなんて」
「60点とった教科も複数だし! いつの間にこんなに点数上がったの!? って感じだよね」
「すげぇな須藤!」
みんな須藤くんのことを褒めていた。頑張ってるからね彼は。見てるこちらも嬉しくなる。
「ありがとうなみんな。これも全部鈴音との勉強会のおかげだぜ。俺だけ他の2人よりも遅くまでみっちり絞られたからな。堀北の作ってくれる対策プリントはやっぱすげぇよ」
須藤くんがそう答えた途端、周りが不自然なまでに静かになった。
突然のことに私も須藤くんも鈴音ちゃんも首を傾げる。
「おいまさか……」
「あの噂って本当なの?」
「いやそんな訳ないって……」
「でも須藤の点数や池と山内たちが毎回ギリギリに赤点を回避していることを考えると」
噂? いったいなんのことなんだろう?
この時、噂がなんのことを指して居たかは分からなかったが、その後平田くんたちと合流し作戦会議を終えた後、平田くんと櫛田さんの2人によって噂の内容を教えられた。
──堀北鈴音は兄である堀北学から、テストの過去問や傾向を教えてもらっており、大量のPPを譲渡されている
教えられた時、私は気づいてしまった。
この噂を流した人物が自分の兄だということを