綾小路清隆の妹として、全力で支えます   作:ぐれーぷ

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矛盾回路さん、えのき茸さん、白いたぬきさん、橙ニットさん、味噌マヨさん、GOTH 暗黒系さん、bw2さん、漆黒の翼IIIさん、玄孫っちさん、清見さん、かさゆめさん、
た、沢山の好評価ありがとうございます…。
また皆様のおかげさまで100位を取らせて頂きました。ランキングギリギリですがありがとうございます。

今後もよろしくお願いします


5限目〜とても滑稽で可哀想で、愛おしいの!〜

 

 

 5月1日から早くも1週間が経とうとしていた。クラスの皆は前とは違い真剣に授業を受けている。先生の言葉にも確り耳を傾けており、あの須藤も集中して授業に臨んでいた。

 オレの予想ではポイントがプラスに転じない限り、もしくはその術を見つけない限りは変わらないと思っていたのだが、どうやら愛歌は上手くやったようだ。あの櫛田と平田ですら1度は諦めたと言うのに。

 ……実は言うとオレは今眠い。この時間が終われば昼食、昼前の社会という辛い時間帯だ。少し夜更かしをしすぎたな。このまま眠ったら気持ちいいに違いない……少しぐらい眠っても──

 

「──起きなさい

 

「たうわ!?」

 

 深淵の底から聞こえてくる冷えきった声と共に、突如右腕に強烈な痛みが走った。隣に座る堀北の手にはコンパスが握られている。つまりそう言うことだ。

 

「どうした綾小路。いきなり大声をあげて。まさか反抗期か?」

 

 クラスメイトの視線が刺さる。とても痛い。居た堪れない。授業中に居眠りしかけたと知れたらなんと思われるか。間違いなくいいものではないことは断言できる。

 

「い、いえ。大声をあげてすいません。茶柱先生。机に手をぶつけてしまったのですが、それが痛かったのでつい」

 

「そうか。次からは気をつけろ。授業を再開する。この時──」

 

 どうしてコイツはコンパスをいつも常備しているんだ。高校の授業で使う機会なんてそうそうないだろ。オレは少しばかり恨みを込めて堀北を睨み授業が終わり次第、今日こそは問い詰めると心に誓った。

 おい、愛歌小刻みに笑うな。我慢するつもりがあるならちゃんと我慢しろ。

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

「──痛い」

 

「今回は鈴音ちゃんに救われたね清にぃ。鈴音ちゃんがいなかったらそのまま寝てたでしょ?」

 

 清にぃが右腕を摩っている。どうやらさっきの社会の授業中に鈴音ちゃんにコンパスで刺されたみたいだ。寝かけたおにぃが悪い。え? コンパスはやりすぎ? 鈴音ちゃんがやることは全て正しいのです。私は悟りました。彼女には逆らってはならぬと。

 

「悟るな。普通に考えてコンパスで刺すってありえないだろ」

 

「だからDクラスなんでしょ?」

 

「納得した。今オレの中で全てのパズルピースが繋がった。流石だな」

 

「ふふん、清にぃの自慢の(道具)ですから」

 

 清にぃが即答したのはここだけの秘密だ。この会話……盗聴されたりしてないよね? もし鈴音ちゃんにバレたら私もコンパスの刑に処されそう。

 絶対にこの事は2人だけの秘密にしようと清にぃと誓った。鈴音ちゃんだけにはバレたらだめだ。

 

「私が何かしら?」

 

「うお!?」「はわ!?」

 

 兄妹揃って情けない声を上げる。少しオーバーすぎる気もしたけど……まあいっか。

 

「……? それより、2人ともお昼暇かしら? もしよかったら食堂で一緒に食べない?」

 

「もちろん私はいいよ。今日は偶然(・・)お弁当作るの忘れたから、おにぃと学食にしようと思ってたんだ」

 

「おまえが忘れるって珍しいよな。初めてじゃないか?」

 

「そう言う時もあるのです」

 

 おにぃはきっと私の完全記憶能力の事を言っているのだろう。思い出そうとすれば思い出せるだけで忘れることもある。頭の中でちゃんと整理整頓して全部覚えているよ。ただまぁ、今回ばかりは先に謝っておくよ清にぃ。

 

「それで綾小路くんはどうかしら? 這いつくばって靴を舐めなさい。そうしたらあなたも特別に昼食を共にすることを許すわ」

 

「だからどうしてオレにだけはそうなんだ」

 

「冗談よ。綾小路さん私が奢るわ。好きなものを頼んでいいわよ」

 

「ほんと!? 鈴音ちゃんありがとう!」

 

「ええ。綾小路くんも特別に奢ってあげるわ。山菜定食でいいのよね?」

 

「それ、無料の定食だぞ。奢るっていうのか?」

 

「せっかく人が奢ってあげると言っているのに文句ばかり。仕方ないわね、好きなものを頼みなさい」

 

 今日も2人は平常運転だった。√堀北もいいよね。アレはアレで好き。

 学食にやって来た私達は早速注文する。私は天ざるそばの冷たいやつを、清にぃは遠慮の微塵もなくスペシャル定食を頼んでいた。おかず少し貰おっと。

 私と清にぃが隣同士で、清にぃの対面に鈴音ちゃんが座る。お礼と共に私は早速いただきますをした。

 

「おいひぃ」

 

「満足いただけたようで何よりだわ。どうしたの綾小路くん? 冷めるわよ」

 

「……堀北からの誘い、それも奢りときた。なんか怖いぞ」

 

「人の好意を素直に受け取れなくなったら人間お終いよ?」

 

「珍しく人間扱いしてくれたな」

 

「え、人間扱いして欲しくないの? ごめんなさい綾小路くん。私にはまだあなたの性癖と向き合うだけの覚悟がないわ」

 

「やっぱり絶対なんか企んでるだろ」

 

「いいから早く食べたら? 綾小路さんが全部食べきっちゃうわよ?」

 

 そう言う鈴音ちゃんは一向に食べず、清にぃが食べるのをじーっと見つめて待っている。

 このままでは時間ばかり過ぎていくので、清にぃは仕方ないと箸を握った。そして恐る恐るコロッケを一口かじると……、

 

「早速だけど話を聞いて貰えるかしら」

 

「絶対そうだと思ったよ」

 

 ですよね。清にぃ気づいててもなんだかんだ付き合ってくれるし、気配りもできるから将来彼女に好かれ……いや、自分の言うことに忠実な女として弱みを握り調教しそう。うん、そんな未来はなかった。

 話は進む。どうやら鈴音ちゃんは2週間後に控えている中間テストで、クラスから赤点の生徒が出ることを危惧しているようだった。小テストで7人もいたから仕方ないね。

 平田くんもそう思ったようで勉強会を開くことにする。けれどその平田くん主催の勉強会に、須藤くんと池くんや山内くんは、参加するつもりはないみたいだった。

 この3人が赤点を回避できるとは誰も思っていない。となればAクラスを目指す鈴音ちゃんが行動に出るしかなかった。このままだと3人とも退学になってしまうのだから。

 

「明日の放課後、私たちは私たちで勉強会を開催するわ。1日たりとも無駄には出来ない」

 

「事情はわかった。けれどな、あの3人がお前の誘いに乗るとは思えないぞ」

 

「ええ、そうね。そこは綾小路さんにお願いしてあるわ」

 

「まさか愛歌おまえ、今日弁当忘れたの偶然じゃないな?」

 

「ごめんねおにぃ。昨日鈴音ちゃんにお願いされちゃって」

 

「断ればよか──」

 

「誰の誘いでも1度目は必ず応じる、それが綾小路さんのスタンスよ」

 

「……そういうことか。なら別にオレは要らないだろ? 愛歌がいれば十分だ」

 

「ごめん清にぃ。平田くんの方の勉強会も出る予定なの。後から合流することになっているから先にやってて」

 

 私が3人を誘うまではいい。けれど肝心の私がいないとなれば、鈴音ちゃんとその3人の4人による、どう考えても破綻しか見えない勉強会が開かれることになる。清にぃもその結論にすぐ至り、がくっと項垂れた。

 

「オレがいた所で到底上手く行くとは思えないな。そんなムードメーカーみたいなリア充の役割、オレには出来ないぞ」

 

「出来る出来ないじゃないわ。やるのよ綾小路くん。この間言ってくれたものね、Aクラスへ上がるために協力すると」

 

「そんなこと一言も言った覚えはないぞ」

 

「いいえ、あなたの心が言ってた。オレは堀北に全面的に協力する、って。私この耳で聞いたもの」

 

 鈴音ちゃん、事情を知らない人が聞いたらそれただのやばい人だよ。幻聴を聞いちゃってる。クスリをキメてるよこれ。

 

「それに櫛田さんと結託して、嘘で私を呼び出したこと、許したつもりはないのだけれど?」

 

「なにそれ聞いてないんだけど清にぃ」

 

 聞いてないけど知ってる。尾行したかったのは山々だけどその日は遊びに出かけていた。

 

「いや待て、あの件は責めないっておまえが言っただろ」

 

「それは櫛田さんに対して。あなたのことは許したつもりはないわよ綾小路くん」

 

「やることが汚ねぇ……はぁ、やり方はオレに任せてもらうぞ?」

 

「ええ、構わないわ。それじゃあ綾小路さんお願いできるかしら?」

 

 鈴音ちゃんのお願いに1度頷いて端末を操作する。清にぃに鈴音ちゃんの連絡先を送った。てってれー、清にぃははじめての女子の連絡先をゲットした。

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

 本日の授業も無事に終わり放課後になる。

 改めて思った。この学校の授業は本当に凄い。先生全員が教師としての腕が一流だ。もし前世でこんな分かりやすい授業を受けていたならばと思った。もう意味のないことだけど。

 

「堀北は……帰ったな」

 

「おにぃなんかするの?」

 

「ああ。櫛田を誘う」

 

「え、櫛田さんを? 勉強会に?」

 

「そうだ。おまえがいない空間で、あの3人と堀北と5人で居るのは無理がある。まず間違いなく勉強会は失敗に終わる。だから櫛田に協力してもらう」

 

「それはそうだけど……やめた方がいいよ、鈴音ちゃんがそれ許可するかな?」

 

「やり方はオレに任せると言質は取った。なら大丈夫だろ、文句は言わせない」

 

 確かにそれはそうだ。多分おにぃはコンパスの刑に処されることでしょう。私は止めたからね? 

 帰り支度をしている櫛田さんに清にぃが声をかける。まさか清にぃから声を掛けられるとは思わなかった櫛田さんは、首を傾げて少し驚いたような表情を浮かべた。

 

「珍しいね綾小路くんたちから声をかけるなんて。どうしたの?」

 

「少しだけ時間いいか? お願いしたいことがあるんだ」

 

「この後遊ぶ約束してるから少しだけね」

 

 櫛田さんは嫌な顔せず承諾してくれた。なお1度も私と目は合わしてくれない模様。

 クラスでは既に私よりも櫛田さんの方が人気なのにね。池くんや山内くんのことをもう既に私は相手にしていない。声を掛けられたら返事を返すぐらいで、会話もすぐ切り上げるように心掛けている。そんな私と比べ櫛田さんは誰に対しても優しく相手にしている上、自分から遊びに誘うぐらいだ。

 だから彼女の自尊心は守られていると思ったのだけれど……それでも私のことが気に食わないみたい。最悪櫛田さんを退学させる事になるかも知れないね。

 

「──うん! そう言う事ならいいよ! 困ってる友達がいたら助けるのは当たり前だからね! ぜひ手伝わせて!」

 

「櫛田助かる。ありがとうな」

 

「ううん。堀北さん1人で教えるのにも限界がありそうだし、私も教えられるところは負担して教えるよ」

 

「ぜひ頼む。櫛田が居れば百人力だ」

 

「そんな照れるよ。あ、そうだ。2人の連絡先も教えて欲しいな。あと2人と堀北さんだけなんだよね。皆の連絡先を持ってたら困った時に力になれると思うから」

 

 まさかここで提案するとは。私がいるからてっきり勉強会の時に交換すると思っていたけど。そのあと私たちは連絡先を交換して解散した。

 私は私で用事があるので清にぃとはここで別れた。出来る事なら会いたくないけれど、先を考えれば今のうちに1度接触しておく必要がある。

 

「1年Dクラスの綾小路愛歌です」

 

「あれって」「ああ、噂の」「何あの子可愛い……」

 

 どの噂が広がっているんだろ。多分全部なんだろうな。でもよかった。順調に私は他学年にも周知されているみたいだ。今私は2年Aクラスに訪ねている。目的の人物を呼ぼうとしたら見覚えのある先輩が近づいて来た。

 

「愛歌ちゃん久しぶり!」

 

「宮野先輩、お久しぶりです」

 

 この人とは2回ほど遊んだことがある。5月に入ってからは初めて話した。

 宮野先輩は私と仲がいい事をクラスのみんなにアピールするかの様に、大きな声で話し始めた。コイツは俺の女だ、っていう独占欲なんだろうね。

 

「この学校の秘密を知ってびっくりしたでしょ」

 

「はい。まさか自分がDクラスなんて」

 

「きっと学校側のミスだよ。愛歌ちゃんならすぐにCクラス、いやAクラスに上がれるよ。ポイントはあるの? 無いなら少しだけどあげるよ?」

 

「ありがとうございます。でも大丈夫です! 今月いっぱいはなんとかなりそうです」

 

 私は意識して、親しい人にだけ見せるような満面の笑みを浮かべた。先輩は照れたようで顔を赤くさせていた。クラス内でも息を呑む声が聞こえて来る。女子ですら赤くなっている人がいた。

 2年生のAクラスをそう分析していると、私の端末が震えた。画面を見ると宮野先輩からポイントが振り込まれたことを通知するものだった。

 

「聞いたよクラスポイントが0だって。多くはあげれないけど困ったら相談してね」

 

「そんなこんなに悪いですよ宮野先輩。お返しします」

 

 私はそう言って目の前で端末を操作して頂いた3万ポイントを返そうとするけど、宮野先輩に手を掴まれてそれは叶わなかった。

 

「気にしなくていいよ。それでよければこの後なんだけど──」

 

「──悪いな愛歌、待たせた」

 

 頭に手を置かれる。振り返ると私が探していた人物、南雲雅が立っていた。宮野先輩は南雲副会長の登場に動揺する。

 私は頭に置かれた手を優しく振り払い、南雲副会長と向き合った。

 

「構いません。こちらが無理を言ったので」

 

「気にするな。後輩のために時間を作るのは先輩として当然。ましてやこの学校の副会長を務めている身、生徒のために時間を作るのは当然だろう」

 

「そう言ってくださると助かります。宮野先輩ごめんなさい、今日は南雲副会長に用事があったので……また今度誘ってください」

 

「あ、ああ。先約があるなら仕方ないよ。また今度ね愛歌ちゃん」

 

「はい失礼します。南雲副会長行きましょうか」

 

「少し待て。荷物を取って来る」

 

 なぜ荷物を取って来るのにそんな勝ち誇った顔をしてるのよ。そんなに上下関係をハッキリさせたいのかなこの人。小物感が凄い……。

 私たちがやって来たのはとあるカフェの個室。ここなら他人に会話が聞かれる心配もなさそうだ。

 

「去年の小テストと中間の問題用紙が必要と言ってたな」

 

「はい。ポイントは支払いますので譲って頂ければと」

 

「そうだな、5万でどうだ」

 

「それで構いません」

 

 私はすぐに南雲副会長へと5万ポイントを振り込んだ。

 

「取引成立だ。先輩として1つアドバイスしよう。ダメ元でもポイントの交渉をしてみろ。もしかしたら1万で手に入ったかも知れないぞ」

 

「大丈夫です。Aクラスへ、元の持ち主に返したような物なので」

 

 それを聞いた南雲副会長は意味を理解し、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「そう言うことか。随分と多くの男を骨抜きしたみたいだな」

 

「先輩達が私のことを心配して善意でしてくれたことです。優しさに感謝ですね」

 

優しい先輩(バカ)がいたもんだ。これが小テストと中間テストの問題用紙だ」

 

 そう言って先輩に封筒を渡された。中を見て確認する。ちゃんと小テストと中間テスト5教科の問題用紙が入っていた。

 遅れて来たのはこれを準備してたからか。どうやら今朝メールをした時点で、用意してくれていたみたいだ。

 

「さて、俺からもおまえに頼みごとがある」

 

「南雲副会長が私に? 私ができることなんて限られていますが、なんでしょう?」

 

「大したことじゃ無い。中間テストが終わったら1日俺のために時間を作れ」

 

「そう言うことですか。わかりました、1日だけ……他の方同様に18時までで宜しければ」

 

「ああ、それで構わない。日にちはこっちが指定する。幾つか候補を送るからその中から選んでくれ」

 

「分かりました。それじゃあ今日はこれで失礼します」

 

「そうだな、今日はこの辺りにしとくか。俺たち2年も次の特別試験で忙しいからな」

 

 少し身構えたけれど何事もなく1日が終わった。

 帰ったら清にぃにこの過去問のことを報告しよう。

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

「──清にぃこれ過去問。確認したら去年も一昨年も一言一句、同じ問題だったみたいだよ」

 

 そう言って愛歌がオレに小テストと中間テストの問題用紙が入った封筒を渡して来る。実際に小テストと照らし合わせてみると、本当に一言一句違わず同じだった。

 

「よく気がついたな愛歌」

 

「佐枝先生が言ってたからね。赤点を取らずに乗り切る方法が必ずあるって」

 

 確かにそう言っていたな。必ずと言った以上、方法は限られてくる。それこそ真っ先に思い浮かぶのは、2週間後に行われる中間テストの問題用紙を、なんらかの手段で手に入れる方法がある……と言ったぐらいか。この学校でポイントで買えない物はない。それに気づくとはさすがだな。

 

「随分とやる気なんだな」

 

「まーね。鈴音ちゃんのこと好きだから」

 

「堀北にそこまで肩入れするのはどうしてだ……?」

 

 すると部屋の掃除をしていた愛歌の手が止まる。問題用紙から愛歌に視線を移すと、オレは少なからず驚いた。

 蕩けた笑顔。おおよそ人に見せていい顔ではなかった。その笑顔は万人を魅了することだろう。現に兄であるオレですら直視は躊躇われるほどだった。

 

「おにぃは知ってる? 鈴音ちゃんのお兄ちゃんが生徒会長だって」

 

「ああ、見たことある。やっぱり兄妹だったんだな」

 

「そうだよ。きっとね鈴音ちゃんはお兄ちゃんに認められたいんだよ。私はその気持ちがすごく分かる」

 

 なるほど、そう言うことか。自分と同じ価値観に妹という立ち位置を持つ友達ができたなら、協力もしてあげたくなるだろう。オレはそう思ったのだが、どうやら理由は他にもあった。

 

「それでねお兄ちゃんに追いつきたいんだろうね。だからあんなにAクラスAクラスって……ふ、ふふ。あーだめだめ、妹が兄に追いつくだなんて。なんて……なんて愚かなのかしら!」

 

「……」

 

「ええ、ええそうね! 兄に認められたい気持ちは分かるわ! でもダメよ、兄のような存在になりたいだなんて。そんなの身に余る望みよ。わたしそんな彼女の姿を見てると……とてもとても滑稽で可哀想で、愛おしいの! なんて可愛いの!?」

 

「落ち着け、愛歌」

 

「兄を追いかけてこの学校まで来た。認められたくて認められたくて、とっても健気ね! まるで恋する乙女みたいで──「()、そこまでだ」──っ! ご、ごめんなさいおにぃ……」

 

「気をつけろ。最近緩み過ぎだな。滑稽なのはどっちだ? それで本当にオレの役に立てるのか……?」

 

 今にも泣き出しそうな表情になり愛歌が駆け寄って来る。オレの足元に座り込んだ。

 

「ごめんなさい。許してください……わたし」

 

「……いやオレも言い過ぎた。自由にやろうと言ったのはオレだ。悪かったな愛歌」

 

「おにぃは悪くない! わたしがダメだからいつもおにぃに迷惑ばかり──」

 

 これ以上は良くない。オレは愛歌を抱きしめた。

 嗚咽が聞こえて来る。頭を撫で背中をさすりながら抱きしめていると、しばらくしていつもの愛歌に戻った。

 

「落ち着いたか?」

 

「う、うん。ありがとう清にぃ。最近楽しくて嬉しいことが多くて、油断してた」

 

「次から気をつければいい。正直感情的になれるおまえが羨ましいよ愛歌」

 

「あはは、ありがとうおにぃ……私シャワー浴びて来るね」

 

 そう言うと愛歌は浴室へと入っていった。

 愛歌は物心ついた頃から人並みならぬ異常な精神力を持っていた。そしてその精神力で愛歌は自分自身に対して、洗脳ともいうべき暗示をかけている。愛歌がオレを裏切ることはない。それだけは断言できる。もし愛歌がオレのことを裏切ることがあれば──

 

「それはオレが────」

 

 浴室から聞こえて来る水音と微に聞こえる愛歌の鼻歌が、静まり返った部屋に響いていた。

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

「──まだやってるかな勉強会」

 

 平田くん達との勉強会が思ったよりも長引いてしまった。急いで向かうと学校の校舎に入っていく清にぃの姿を見た。どうやら勉強会には間に合わなかったみたい。

 走るのをやめて校舎に向かう。上の方から階段を上る音が聞こえて来た。

 きっと今頃、屋上の扉の前で櫛田さんは荒れ狂っているはず。そしてそれを目撃する清にぃと2人っきり。

 清にぃに一通のメールを入れといて、私は2人が来るのを待った。すると話し声が聞こえて来る。物陰に私は隠れた。

 

「綾小路くん? 帰らないの?」

 

「いやなんだ。悪いが今この時間帯に櫛田と2人っきりでいるのは正直怖い。距離を取って帰るにしても不自然だろ」

 

「そっかあ。それじゃあ仕方ないね。先に帰っていいよ綾小路くん」

 

「……ああ、分かった。また明日な櫛田」

 

 清にぃは寮の方向へと向かう。ここで変に櫛田さんを先に帰らせようとすれば怪しまれるから仕方ない。帰ってから清にぃに渡そう。本当はこの後に渡したかったけど。

 

「あーくそ、よりによってアイツに見られた。堀北もあの兄妹も死ねばいいのに」

 

(うわぁ、やっぱりめっちゃ嫌われてるよ私)

 

「クソビッチの癖に男子からチヤホヤされやがって。集団レイプでもされて、原型も残らないぐらいに顔をぐちゃぐちゃにされればいいのに。その後に死ねばいいのよ」

 

 ちゃんと録音できてるかな? 櫛田さんって本当に不用心だよね。

 その後も色々と吐いたあと、櫛田さんも帰ったのを確認して私も必要な物を回収してから、清にぃの下へと向かった。

 

「櫛田さんの見ちゃった?」

 

「ああ、知ってたのか?」

 

「前に1度見かけたことがあるの。それで、おにぃ櫛田さんの胸はどうだった? 感想聞かせてよ」

 

「どうもなにも……いや待て、どうしてそれを知ってる?」

 

 清にぃの当然の疑問に私は一本の動画を清にぃの端末へと送った。それは先程屋上に設置した監視カメラで撮られた一部始終だ。

 

「櫛田さんのそれを見かけてからこれは使えるなって思って。それっぽい所に3ヶ所仕掛けてた。まさか本当に撮れるとは思わなかったけどね」

 

「……愛歌、おまえは本当に凄いな。これで仮に櫛田が学校側に訴えたとしても退学にならずに済みそうだ」

 

「私がいる限り、誰にもおにぃを退学にはさせないよ」

 

「ああ、頼りにしてるぞ」

 

 そのあと清にぃから勉強会であったことを聞かされる。そう言えば沖谷くんもいたね。それとやっぱり鈴音ちゃんがやらかしていた。

 今度は平田くん達と行われた勉強会の内容を教える。こちらもいい感じとは言えない。平田くん1人だと限界がある。

 

「このままだとDクラスはダメだね」

 

「そうだな。愛歌が手に入れた過去問を使えば今回の中間テストは乗り切れるが……ただ乗り切るだけじゃダメだ。生徒一人一人が変わらなくちゃいけない。特にクラスのリーダーとなるような生徒が」

 

 すると清にぃが入っているグループチャットにメッセージが入る。鈴音ちゃんに関することだった。かなり嫌われているみたい。

 

「愛歌、須藤のことは任せても良いか?」

 

「うん、そのつもりだよ。明日須藤くんと話してみる」

 

「ああ、頼んだ」

 

「頼まれました。それじゃあ清にぃまた明日」

 

 シャワーを浴び日記を書き終え、部屋で柔軟をしていると清にぃが寮の外へと出て行くのが、端末に表示された。身体も温まっていて筋肉もほぐれている。動きやすいラフな格好に着替えて私は清にぃのいる場所へと向かった。

 気配を殺して近づくと清にぃと鈴音ちゃんに、そして生徒会会長の堀北学の姿がそこにあった。

 私が着いて直ぐに生徒会長の裏拳が清にぃの顔に迫る。それを避けた直後、今度は急所を狙った鋭い蹴りが放たれた。凄いなあの人。そろそろ頃合いかな。

 

「あれー? 生徒会長がこんな所で何をしてるんですか?」

 

「愛歌?」「綾小路さんまで……」

 

「ほう……隠し撮りとは感心しないな」

 

 動画を撮りながらゆっくりと私は3人に近づく。

 

「これが学校中に出回ったら──」

 

 直後、生徒会長は私との距離を詰めて来た。端末を奪おうと開かれた右手が迫る。それを左手で叩き流したが、右足の蹴りが私の右腕に目がけて振られる。上半身を逸らして、膝から崩れ落ちるようにして、女の子座りの様な体勢でそれを更に避けた。そのまま生徒会長の足を振り払おうとしたがその場で軽く跳躍され避けられる。その間に私もその場から立ち上がり、バックステップで離れた。

 

「綾小路と言ったな。兄妹揃って良い動きをする。2人とも何か習っていたのか?」

 

「ピアノと書道なら」

 

「清にぃと同じく。ピアノなら自信あります」

 

「面白い。鈴音、まさかおまえに友達が2人も居るとはな。正直驚いた」

 

「2人は友達なんかではありません。ただの……クラスメイトです」

 

 別に否定しなくても良いのに。上のクラスに上がりたいなら死にもの狂いで足掻け、か。確かにこの学校でAクラスで卒業すると言う事は、それだけ難しいことなんだろう。さてと今度は私の番だ。

 

「話を戻させて頂きます。この動画、出回ったら困りますよね?」

 

「……何が望みだ?」

 

「納得するだけのプライベートポイント下さい。そしたらこの動画を今ここで削除します」

 

「いいだろう。幾ら欲しい?」

 

「それは生徒会長に任せますよ」

 

 そう言って私は端末を生徒会長へと投げるとやや驚いていた。このままもし動画を削除すればポイントを振り込む必要はなくなる。

 けれど生徒会長は確りとポイントを振り込んだ上で、動画を削除していた。振り込まれたポイントは10万。十分すぎる。

 

「噂通り面白いやつだな綾小路妹。優秀な妹を持ったな」

 

「ああ、自慢の妹だからな」

 

「ふっ、そうか」

 

 あんなに堂々と言われると流石にちょっと照れる。生徒会長はそれだけ言い残すとこの場を後にした。

 

「……」

 

「愛歌、先に帰っててくれ。もう遅い早く寝ろ」

 

「うん、分かった。鈴音ちゃんおやすみなさい」

 

「……ええ、おやすみなさい」

 

 鈴音ちゃんが私と目を合わせようとしない。きっと生徒会長が帰り際に言った、優秀な妹、という言葉にショックを受けているんだと思う。

 今私と一緒にいるのは気まずいと清にぃは判断した。大人しく帰ろう。

 今の手持ちは約20万プライベートポイント。上々かな。生徒会長とも会えたことだし順調だ。早速明日もう1度会いに行こう。




駆け足になっておりますがご了承ください…早く二年生編に突入したいのです。一年生編でやりたいことも4つほどあるので、4回ぐらいぐだるかも知れませんが…。
ヤンデレとホラータグを増やすべきか悩んでます。

戦闘描写難しいなぁ
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