綾小路清隆の妹として、全力で支えます 作:ぐれーぷ
なんで〜?さん、水丸さん、シュークリーム将軍さん、ハマディアンさん、天下の翠さん、村越雄紀さん、柘榴丸さん、ケイ007さん、なかがわさん、.y.さん、AirHertzさん、ベアーフォールさん、リリアさん
皆様沢山の好評価ありがとうございます!
また多くの感想、お気に入りに登録、そして誤字報告してくださった皆様ありがとうございます。
早朝。空が明るくなり始める頃。
私は身体が鈍ったとこの頃痛感したため、毎朝早朝のランニングをしていた。ショートスリーパーである私は僅かな睡眠時間でも普段の活動に支障がない。昨夜、夜遅くに生徒会長と揉めたけどこうして朝ランニングするぐらいには元気だ。
この時間帯はいい。外に人の姿は少なく、時折聞こえて来る小鳥の囀り。心地よかった。
「奇遇だな綾小路妹。おまえもこのルートを走るのか」
すると後ろから声がかけられた。振り返るまでもなく、直ぐに私の横に並ばれる。声の主は堀北生徒会長だった。
「堀北生徒会長、おはよう御座います。昨夜は成り行きとは言え、すみませんでした」
「おはよう。気にするな。寧ろ誇るべきことだ。あの場面で何ができるか考え行動に移す、僅かな時間でそれを思い付き動いたおまえは優秀だ」
「ありがとうございます。でも幾ら生徒会長とは言え、女の子をおまえ呼びは感心しませんね。傷付きます」
「……済まなかった綾小路妹」
え、可愛い。まさか謝られるとは思わなかった。
実は言うとそこまで気にしてなかったけれど、謝られたので許すしかない。逆に申し訳なくなってしまった。
その後はお互いに会話をする事なく自分のペースで走る。生徒会長とは別ルートだったのか別れたが、走り終える頃にはお互いまた合流していた。
「綾小路妹、おま……君たちは本当にユニークな生徒だ。君たち兄妹はなぜ全ての教科を50点で揃えた」
「清にぃに関しては本人に聞いてください。私はただそうする必要があったからです」
「それもそうだな。では綾小路妹、なぜ君にはその必要があった?」
「それをお答えすることは……いや、堀北生徒会長は来年にはもうこの学校を去っていますね」
「つくづく面白い。入学したばかりでまだ試験を1つも超えていない生徒が、既に来年を見据えている。目の前が見えていない愚か者とも捉えられるが、昨夜のアレを見た以上そうとはとても思えない」
堀北生徒会長は嬉しそうに笑っている。どことなく厨二病感が漂うのはきっと気のせいだろう……気のせい、だよね?
私は迷う。今年で堀北生徒会長達、3年生とはお別れだ。なら在籍中に私のしたいことに協力して貰うべきなのでは? 南雲副会長の抑止力になると判断した場合、間違いなくこの人は協力してくる。
それに私も南雲副会長が生徒会長になった場合、少し動き辛くなるのも事実。恐らく私のやりたいことに賛同はしてくれるかもだけど、協力するために無理難題を突きつけて来るかも知れない。例えば俺の女になれとか。
「堀北生徒会長、今日の放課後お時間ありますでしょうか?」
「作ろうと思えば作れる。なぜだ?」
「元々堀北生徒会長には別件で近々訪ねる予定でしたが、それも含め全てお話しします。今私が何を考え行動しているのか」
「……分かった。改めて連絡する、場所は生徒会室でいいか?」
「お願いします。そこなら他人に聞かれる心配もないでしょうから」
他の人は呼ばないでね、と私は伝えた。分かりやすく伝えてもいいけどなんかこっちの方がかっこいいよね。
ちゃんと意味を理解した堀北生徒会長は2人っきりで会ってくれると約束してくれた。
「それでは連絡先を──」
「昨日端末を渡された時に、既に俺との連絡先の交換を済ませておいた。午前の内に連絡を入れておこう」
「……あ、ハイ」
この人、言ってることやってることやべぇって自覚あるのかな……?
「──綾小路さん、昨日の今日でごめんなさい。もう1度だけ私に力を貸してくれないかしら」
昼休みに入るや否や、堀北の突然の申し出に愛歌は驚いている……ふりをした。今朝のうちに既に愛歌にもオレから話はしてある。ただ堀北が勝手に1人で気まずくなっているだけで、何かあったという訳でもない。
オレは堀北の前で愛歌に改めて昨日の勉強会のことを説明する。昨夜あの後、堀北は考えを改めもう1度須藤達の為に勉強会を開く事にした。そのために愛歌の力を借りたいのだろう。
「鈴音ちゃんなら全然構わないよ! なんでそんなに申し訳なさそうにしてるのさ」
「……あなたのスタンスは1度目の誘いは断らない。これで私は2度目だわ」
「それを言ったら昨日ちゃんと勉強会に参加できなかったから、1度目にカウントされないよ。それに私──」
愛歌は立ち上がる。堀北は抱きしめられると分かったが、一瞬身体が強張っただけでそれを拒絶しようとはしない。
愛歌は美しく柔らかい微笑みを浮かべながら堀北の事を優しく抱きしめ、やや幼さを感じさせる声音で囁いた。
「鈴音ちゃんのことが大好き。だからもっと私を頼って」
「っ……ええ、そうさせて貰うわ。あ、ありがとう、綾小路さん」
唐突だが愛歌はオレから見ても可愛くとても綺麗だと思う。身内贔屓抜きでも絶世の美女と言える。
1人で本を手に取り読む姿はどこか儚さを感じさせ、風に揺れる薄い砂金の髪は幻想的とも言える。大人の女性としての魅力を感じさせ、とても同い年とは思えないだろう。
だがこうして話したり接してみると年相応、いやもっと幼く感じる。良くも悪くも素直で、喜怒哀楽を表情に浮かばせ、友人達と遊ぶ姿は子供みたいだ。何が言いたいかと言うと、愛歌のその美しさと在り方には中毒性がある。
現にあの堀北ですら入学初日から今日まで、たったの1度も愛歌を邪険に扱ったことがない。周囲からは仲のいい姉妹とまで言われている程だ。堀北はオレに対して1人でも寂しくないと良く口にする。しかし、愛歌に対してはたったの1度もそれを口にした事がない。
寧ろ自分から話しかけているぐらいだ。言葉と行動の矛盾。心のどこかで堀北は既に愛歌のことを友人に近い感情、或いはそれ以上のモノを抱いているはずだ。
そしてそれは堀北に限った話ではなく──
「──じゃあおにぃもAクラスを目指してるってことでいいんだよね?」
「ええ。あなたのお兄さんは私の手足となって、従順な僕になりAクラスになるために助力すると誓ったわ」
堀北のとんでもない大嘘に意識が戻される。いったいいつ誰がそんな事を言ったんだ。
「これが証拠の契約書よ」
「本当だ! おにぃ頑張ろうね!」
本当だ! じゃない。オレは渡された契約書をビリビリに破り捨てた。勝手に綾小路清隆とフルネームでサインされており、しかもちゃんと綾小路と書かれた印鑑まで押されている。犯罪だぞ。
「それじゃあ早速だけど綾小路さん今日の放課後にまた彼等を集めて貰えるかしら? もちろん沖谷くんも」
「あ、そのことだけど……鈴音ちゃん。私今日放課後に用事があるの。敢えて正直に言うね、鈴音ちゃんのお兄ちゃん、堀北生徒会長と会う約束になってる」
堀北の表情が強張った。数分間沈黙が続くが気持ちの整理ができた堀北は、いつもと変わらない様子で返事を返した。
「そう。なら明日からやり直しましょう。明日は空いているのよね?」
「うん。空いてるよ。でもやるなら今日からやった方がいいよ。1日も無駄にはできないでしょ?」
「そうしたいのは山々よ。けれどあなたがいないとそれも叶わないわ。私と綾小路くんだけじゃ、あの4人は集まらない。集まったとしても上手くいくとは思えない」
「堀北、もう1度だけ櫛田にお願いするはどうだ?」
「……何故そこで櫛田さんが出るのかしら?」
「鈴音ちゃん、私も櫛田さんが間に入った方がいいと思う。もし今後のことを考えるなら櫛田さんともある程度は向き合っていかないと」
今後のことを考えるなら、つまりAクラスを目指すならということだろう。現状DクラスがAクラスを目指すには平田は勿論、櫛田の協力は必要不可欠だ。
けれどもまあ、言ってしまえばクラスメイト全員の協力が必要なんだがな。
「それは分かっているわ……ええ、そうね。背に腹は代えられないもの。櫛田さんに協力をお願いしましょう」
「さすが鈴音ちゃん。ちゃんと私情を抑えられてる」
「それであの4人の赤点が免れるなら幾らでも抑えるわよ。もしダメだった時は綾小路くんに責任を取って貰うわ」
「なんでオレなんだよ。おかしいだろ」
「そもそも昨日の勉強会に櫛田さんを連れてきたあなたがいけないわ」
「おまえに黙って連れて来たのは悪いと思ってる。だけどな、櫛田がいなかったらもっと酷いことになってたぞ」
「あなたが櫛田さん以上の働きをすればいいのよ」
「……無茶苦茶だな」
コイツはオレのことを超人か何かだと思ってるのか。この話が行われたのが昼休みの、学校でも随一の人気を誇るカフェパレットでのこと。
放課後になり愛歌は堀北学に会いに。オレと堀北は櫛田の協力を得て、池と山内に須藤の3人を呼んだ。沖谷は平田達の勉強会に参加するみたいだ。当然と言えば当然か。
「須藤くん、来てくれてありがとう! メール無視されたから来ないと思っちゃった」
「……今朝休みの時に綾小路の妹に言われたんだ。この学校でバスケができなくなってもいいのかって。私は須藤くんとバスケができなくなると思うと寂しいって、な」
「おい須藤おまえ! 喧嘩売ってるのか!? 俺だって綾小路ちゃんと1回デートしたことあるんだぞ!!」
「池お前だけじゃねぇよ! お、俺だって綾小路ちゃんとは1回デートしてるんだからな! 山内くんってとてもいい人なんだね! って言ってくれたんだからな!」
それは『山内くんはどうでもいい人』って意味だな。それに池と山内、おまえらだけじゃないぞ。オレが知っている限り10人近くデートしてるぞ。1日に3人の男性とデートした話を聞いた時は、さすがのオレでもかける言葉を失った。愛歌のやりたいことを事前に聞かされていなかったら、妹とは言え男癖の悪い女にしか見えなかっただろう。
それはそうと櫛田は笑顔を浮かべているが、目は笑っていないな。
「須藤くんも綾小路さんのことが好き?」
櫛田がそんなことを聞いた。なぜ分かりきったことを聞くんだ。ストレスになるだけだろうに。
「……今の俺にそんな資格はねぇよ。アイツはすげぇんだ。バスケも上手くて、苦手な勉強も頑張ってよう。やらないで後悔するよりもやって後悔の方がいいよって言われた。だから俺もアイツみたいに頑張ってみようと思った」
苦手な勉強でオレは疑問を思ったが、そういえば愛歌も50点で揃えていたんだったな。バスケ経験者の須藤なら気づいているだろう。愛歌は別にバスケの才能がある訳ではない。ならバスケも努力して勉強も頑張る、非凡な生徒に見えている筈だ。
これは須藤が愛歌のことを知ろうとした……正確に言えば愛歌が5月1日に須藤へと植え付けた、仲間意識がもたらした結果だろう。須藤はクラスの中で誰よりも、それこそ池や山内よりも自分のことを理解してくれるのが、愛歌だと思っている。黙って話を聞いていた堀北が口を開いた。
「綾小路さんの言う通りよ。彼女は確かに容姿に恵まれている。けれどそれ以外はごく普通の女の子よ。あなたの言葉を借りるわ須藤くん。そんな平凡な女が頑張っているのよ。そしてあなたが乗り切れると、夢を叶えられると信じている。男なら1人の
「……ちっ、ああ、分かってるよ。堀北頼む、もう1度だけ俺に勉強ってのを教えてくれ」
「ええ。須藤くん必ずあなたを退学なんてさせないわ。もちろんそこの2人もね」
愛歌はこうなることまで予想して動いていたのか。アイツはいつも忙しい。学校中を駆け巡っている。まるで何かに備えるように。
愛歌が妹ではなかった場合、オレはきっと警戒していた。だが愛歌がオレの
そう断言できる。オレはアイツが有能だと把握しているのだから。
須藤は愛歌のおかげでなんとかやる気を見せたが、残りの2人は乗り気ではない。櫛田もきっと内心イラつかせている。顔は笑っているがさっきからずっと目が笑っていない。顔に影が差しているのは気のせいじゃないだろう。
仕方ない、みんなの為にここはオレが一肌脱ぐか。こんな事もあろうかと愛歌から最終手段を授かっている。
「なあ櫛田。櫛田は美人でスタイルも良くて性格もいい。やっぱりもう彼氏はできたのか?」
「やだなぁ綾小路くん。綾小路くんの妹さんには負けるよ。綾小路さんとは違うんだから私なんかに彼氏ができる訳ないじゃん」
(うっさいな。おまえの妹の方が美人だろうが、喧嘩売ってんのか? おまえのクソビッチな妹と違って私は男なんかすぐ作れねぇよ!)
やべ、逆効果だった。そう聞こえた気がした。きっと気のせいじゃない。今の櫛田には何を言ってもダメだな。なら変な前置きはやめよう。下手したら爆発するかもしれない。
「そ、そうか。じゃあもし、オレが50点取ったら、デートしてくれっ!」
「おい綾小路てめぇ! 抜け駆けしてんじゃねぇよ! 俺とデートしてくれ! 51点取るから!」
「黙れよ綾小路! 池! 櫛田ちゃん俺とデートしてくれ52点取るから!」
冷静になった櫛田は俺の狙いに気づいた。流石に迷惑だったか。少し困ったような様子を浮かべて、最終的にはこの中でテストの1番点数がよかった人とデートすることに。
男なんてこんなものだとオレは愛歌に教わった。どうやら事実みたいだ。
「よかったな堀北。全員やる気だぞ」
「ええ、覚えておくわ。男子は想像以上に単純でくだらない生き物だと言うことを。綾小路さんの言う通りね」
愛歌はそこまで言ってなかったぞ。
今頃アイツは堀北学と交渉している最中か。上手くいくといいが。
放課後になってすぐ私は堀北生徒会長の下へと向かった。清にぃと鈴音ちゃんなら上手くやれると信じよう。
なるべく目立ちたくないのでわざわざウィッグで髪型を変え、マスクもしている状態だ。指定された場所にたどり着いた私は数度ノックした。中から堀北生徒会長の声が聞こえたので中に入る。
「待たせましたか? ごめんなさい」
「いいや待っていない。寧ろ遠かっただろう? 早いぐらいだ。今朝の続きだ。早速話を聞こうか」
被っていたウィッグとマスクを外して対面に座る。
「その前に、他の生徒会メンバーが来ることはないですか?」
「心配するな。橘ともう1人桐山という男に生徒会メンバーを集め、生徒会室で会議をしてもらっている。俺もこの話が終わり次第参加する予定だ。場所を変えこの部屋にしたのはそのためだ」
なるほど。それは助かる。なら早速堀北生徒会長とお話を始めよう。早く終わらせないとね。
「じゃあ南雲雅も来ることは無いと信じていいんですね?」
堀北生徒会長の目が少しだけ大きく開かれる。葛城くんや帆波ちゃんを生徒会に入れなかった話は既に聞いていた。その理由は堀北生徒会長はその2人では南雲副会長の相手はできないと判断したため。取り込まれる、もしくは使い潰されるのを危惧したからだ。
私は真剣な表情で敢えて南雲副会長を呼び捨てで呼んだ。嫌悪していると思わせるために。実際好きか嫌いかで言えば嫌いだし。
「おまえは何度か南雲と接触していた筈だ。それにこの場にいないとは言え、俺が認めた副会長を──」
「──ならお話はここまでです。南雲雅を信用している相手と話すことは何もありません。時間を取らせてすみませんでした。これで失礼します」
私は立ち上がりこの部屋から出る。堀北生徒会長に呼び止められたが無視した。出るふりではダメだ。その程度じゃこの人は騙せない。だからこそ確実に一回出る。これで追いかけて来なかったら仕方ない。今回は諦めることにする。
するとすぐに電話がかかって来た。堀北生徒会長からだった。部屋に戻って欲しいとのこと。私は不本意だが渋々それを了承したかのように演出し、部屋に戻って再び堀北生徒会長と向き合っていた。
「理由を聞かせろ。綾小路妹、おまえはどうして南雲雅を警戒する?」
真剣なんだろうね。今朝注意したのにまたおまえ呼びされた。今はそんなことを指摘する気は私にもない。
「あの人は危険です。自分が楽しむことしか考えていません。この学校に来て一ヶ月、そして3年生の先輩と2年生の先輩、その両方の先輩方と接して、疑問が生じました」
「その疑問を言ってみろ」
「3年生達は切磋琢磨、他のクラスの人達と競うことで自分達を磨いています。まさにあらゆる力を競いあい仲間と共に高みを目指している。それは知力、運動能力、行動力、様々です。けれど2年生は違いました。クラスには1人ぐらい足を引っ張る生徒はいるでしょう。それは否定できません。しかし自身のクラスならば助けるべきなのでは? 共に膝を地に突き支え、手を差し伸ばすべきなのでは? それこそ副会長という立場のあろう者が、導く事もせず救える人をただ見捨てる。これからも見捨てようとしている」
私は努めて熱くしかし冷静に語る。嘘の中に真実を混ぜろ。真実の中に嘘を混ぜろ。相手はこの学校の頂点に立っている人だ。冷静に熱くなれ。感情的になるのを抑えている姿を完璧に演出しろ。
「2年の先輩達から話を聞く限り、もう2年生達の決着はついているでしょう。いいえ、まだついてはいませんが、そう遠くない内に終わると私は判断しました。南雲雅が退学した多くの生徒に関わっていたことも聞きました。2年との戦いが終われば次は私たち1年生、そして来年新しく入ってくる新1年生達が標的にされるはずです。来年には生徒会長を務めている筈、この学校の生徒会長が飾りではないことを知っています。その席に南雲雅が座ったらどうなるかなんて、最悪としか言えません」
ただ黙って話を聞いている堀北生徒会長。何を考えているのか分からないけれど、話を挟まない限り私は止まらない。
「まだこの学校にきて1ヶ月しか経たない私には、今の3年生の在り方が正しいのか、2年生の在り方が正しいのかはわかりません。けれども私は今の2年生達は、南雲雅は間違っていると判断しました。私は自分を信じています。これが私の南雲雅を危険だと判断し警戒する理由です」
私はそう言い切った。部屋が静まり返る。早くして欲しい。これも話す予定だったけど思ったより長く語ってしまった。私の本題は別なのだから。瞳を閉じ数分ほど考えた堀北生徒会長は、瞼を持ち上げ静かに私を見据えた。
「綾小路愛歌、おまえを試していた。心から謝罪する。すまない」
そう言うと堀北生徒会長は頭を軽く下げて謝ってきた。どうやら私のことを信じてくれたみたいだ。
「おま……君の言う通りだ。南雲雅、あの男は危険だ。この学校の秩序を壊そうとしている。南雲のせいで己の実力を発揮しきれず、退学していった生徒も多い」
驚くべきことに13人の生徒が既に退学していた。その全てに南雲副会長は関わっている。2年生達からすれば殺し屋みたいなものだ。この学校から消されるのだから。
「頼みがある。生徒会に入れ。綾小路愛歌。君の力が必要だ。実力もあり南雲に屈せず、暴走を止められる生徒……まさに君みたいな生徒が。最悪の場合南雲を退学にさせてでも止めるべきだ。手段は問わない」
「……分かりました。どこまでやれるか分かりませんが助力します。それに私のやりたい事も確かに生徒会に入った方が、実現しやすいと思ってましたから。あ、それから特別におまえ呼びでいいですよ。言いづらそうですから」
私が苦笑いを浮かべてそう言うと、堀北生徒会長は少しだけ咳払いをして眼鏡を掛け直した。メガネクイってやつだ。イケメンがやると絵になる。
「今日の本題はそれだったな。こちらの話を優先してしまいすまなかった。では今度こそ続きだ。おまえのやりたい事、そして実力を隠している理由を聞かせろ」
やっとだ。この話を待ってくるまで随分と時間がかかった。まだ実現できるかどうかは分からない。それでも私はこれを実現させたかった。この3年間を無駄にする訳には行かない。
「実力を隠している理由は穏便な生活をしたいからでした。目立ちたくなかったのですが……この学校のシステムに気づいて実力を隠して学校生活を過ごす、その考えは捨てました」
私は自分の実力を隠していることをあっさり認めた。堀北生徒会長は既に私と清にぃが実力を隠していると信じて、その出した答えを疑っていない。ならここでの否定はただの時間の無駄だ。
「噂や行動を見れば分かる。早い段階でおまえはSシステムに気づいていた。では今は何を考えて行動している?」
「私は────」
正直に全てを話す。今後何をやりたいのか、何をしようとしているのか。その為に何をすべきで何が必要なのか。
当然清にぃのことは一切話していない。そもそも清にぃはこれに関わっていない。私たち兄妹の正体も秘密も話さない。あくまで今堀北生徒会長に話しているのは私のしたいこと。今後やろうと……いいや既に私は幾つか実行に移している。それについて話した。
「────です。どうですか……?」
「……流石に驚いたぞ。自分に相当な自信を持っているな綾小路妹」
「でなければこんな提案はしません。そもそも思い付きすらしませんよ。自分のことは私自身が1番把握しているつもりです。面白いとは思いませんか?」
「確かに面白い。そして……やる価値はある」
まさか堀北生徒会長が納得してくれるとは思わなかった。彼を納得させるだけの理由も考えて来たけどその必要は無さそう。
「それで1度目の誘いは断らないスタンスか。噂を広げていたのはこのためだな? 多くの男子生徒を相手にした理由も合点がいった。いつから計画していた?」
「クラスで自己紹介している時にです。唐突に思いついたので見切り発車ですが」
「それにしては素晴らしい目標だ。直ぐに取り掛かろう。全面的に協力することを約束する」
「えっ!? 待ってください! 本当にいいんですか? 恐らくこの学校が始まって以来、史上初の試みです。堀北生徒会長が重んじる伝統が変わるかも知れません」
そう。私はだから堀北生徒会長が賛成するとは思えなかった。少しばかり疑っている。何か企んでいるのでは? と。
「確かにそうかも知れない。だが新しい事に挑戦するというのは大切だ。伝統を意識したばかり昨日を今日を求め維持するのはよくない。明日を求め進化に貪欲でなければ人は成長しない。この学校は生徒達が成長することを望んでいる。ならばおまえの実現させたい『コレ』にはやってみるだけの価値がある。結果的にそれがたった1人の生徒だけが成長することになったとしても」
「そこまで言うなら……でも私の予想だと早くて7月。下手をすれば今年にできるかどうか」
「白々しいな。だから俺にこの話を持って来たのだろう。教師達は俺が必ず説得させ納得させよう」
「あはは、バレちゃってた。なら全面的に信じます。よろしくお願いします堀北生徒会長」
「ああ。頼りにしているぞ」
私と堀北生徒会長は握手を交わした。
そして1週間が過ぎる。
清にぃ達が再結成した勉強会は順調に行われていた。概ね原作通りに物事は進んでいた。
ちゃんとテスト範囲が変わり、その事を佐枝先生が教えてくれず、この1週間が無駄になったことまで。
ここで私が手に入れて来た過去問の出番なんだけど、清にぃは念の為に3年生からも過去問を手に入れていた。これで2年の南雲副会長と3年から手に入った過去問の照らし合わせができる。
私を信用していないのもあるかも知れないけど、ちゃんとこうして万が一の場合に備えて確認するのが実に清にぃらしい。
「オレは愛歌のことは信用してるぞ。これは本心だ」
「ありがとっ清にぃ! 私も清にぃのこと信じてるよ」
「……オレも本当なんだけどなあ」
清にぃの言ってる意味がよく分からなかったけどそれはどうでもいい。清にぃは私を信用する必要はなく、私だけが清にぃを信じて行動してその結果だけを信じればいいのに。
「愛歌。この過去問なんだが、櫛田が手に入れたという事にしてもいいか?」
「いいよ。それがベストだよ。清にぃが手に入れたと言っても、過去問が信用して貰えないと思う。それに目立つからね。私は『アレ』がやっと実現しそうだし、今はあまり変な目立ち方はしたくないかな」
「そうか。なら決まりだ」
「みんなに渡すタイミングは直前の方がいいよね」
「ああ。そっちの方が全員必死になって覚えるだろうからな」
こうして私たちDクラスは遂に中間テストの日を迎える。
最後の方駆け足です。すいません。早く無人島に飛ばしたい
実は言うと二年生編の無人島が始まった時には構想はできていて、ずっと書こうか悩んでいましたが…書いてみて正解でした。こんなに楽しいって言っていただけるとは思いませんでした。
皆さん本当にありがとうございます。失踪したらごめんなさい笑