ヒカルに放置された藤崎あかりが、大変な事になってしまうお話です。

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あかりの御先祖様

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 漆黒の夜空に金貨でも張ったように輝く月華。月の霜…水晶のように神秘的に光る碁石が盤上で星々のように並ぶ。華やかな夢や幻が奪い去られたような寂しさを感じさせる、静寂に包まれた仏間。しんと沈んだ湿気のある碁盤の裏で、口を開ける血だまり。口を墨で塗りつぶした様な漆黒の血だまりの中心突起物に貼られた護符。冥府のように暗く深い闇を纏う護符の中央で、かすかに明暗灯のように明滅を繰り返すそれ。

 

 

…………それは、名状しがたき執念の塊……

 

 

 

 

 

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私、藤崎あかり1986年5月17日生まれ、O型11歳小5。

 

 今日は、1998年1月7日………私はまだ11年ちょっとしか生きていない。それなのに人生最大のピンチに見舞われていた。京都にある母親の実家にお年玉を貰いに来ただけなのに…何故か生命の危機に見舞われていた。

 

 因みに私の母親の実家にあたる京都の三条西家は、平安の時代からあり由緒正しく家格も高い。詳しくは分からないけど、京都で家はどこ? と、聞かれたら。

 

「家ですか? 恥ずかしながら御所の裏手ですねん。町まで出るんは不便ですけど、平安の頃からある家だから引っ越せなくて…」

 

 とか答えると、京都ではエッヘンできる。良く分からないけど、京都的には代々続いてそこに居ることがブランドらしい。

 東京生まれの私からしたら産まれたところや苗字なんか気にする人間は、他に取り柄がない小さい人間だと思う。自分の歴史に自信を持ち、自分の人生を語れる人間に私はなりたい。語る以前に…何か…私の歴史が今日で終わりそうだけど…

 

 私の思考はショート寸前だった。だって、目の前にとんでもない悪霊が居るのですよ、頭が9個に腕が13本、さらに足は24本もある。ジオンの偉い人が大喜びです。手と足は長さがバラバラで、頭の大きさもバラバラで首も異様に長い。しかも、その悪霊が出現する原因を作ったのは、私! 間違いなく、私! 完全に私が犯人!

 だって、だって、だって、仏間に飾ってある碁盤の裏に、映画で見たようなカッコイイ護符が貼ってあるのを見つけたら、普通は剥がすよね? ね? ね? ね? 

 

 その時、悪霊と目が合った。私の思考回路はショートした………

 

 あっ♥ 下腹部に感じた僅かな暖かさが、私の羞恥心を呼び覚まし意識を覚醒させた。そう、私は最悪の状態で意識が覚醒してしまった。気が付くと悪霊と見つめ合っていた。…そして私の中の何かが通じた、波長が合った…繋がった。恐怖心が消え、私は理解した。 …感覚? 霊感? なんかそう言うので理解できた。

 

「あのぉーもしかして、御先祖様ですか?」

 

御先祖様の9個の顔から満面の笑みがこぼれた…

 

( ^ω^ )

( ^ω^)

( ^ω)

( ^)

( )

(^ )

(ω^ )

(^ω^ )

٩( ^ω^ )و

 

『わたしの声がきこえますか?』

 

 私は、コクコクと頷いた。御先祖様の声は、高級ヘッドホンの様に頭の中心から聴こえて来た。

 

『わたしが見えていますか?』

 

 私は、再びコクコクと頷いた。

 

『あまねく神よ、感謝致します。私は人として闇路へ向かう事が出来る』

 

 お願いだから早く成仏して下さい。と、私は心の底から思った。

 

 

 

 

 

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 私、藤崎あかり1986年5月17日生まれO型11歳小5は、無事にお年玉をゲットし東京に帰って来ていた。母親の実家では色々あった…本当に色々あった…こんな話、誰も信じてくれないと思う。色々ありすぎて、母親の実家で頂いたお食事は、少し涙の味がした。

 

 結論から言えば、御先祖様は私の守護霊様になっていた。正確には私に守護霊として憑くことで、私が天寿を全うした時に私と一緒に成仏するらしい。私の御先祖様は、陰陽師に悪霊と間違われて千年以上も封印されていたせいで良くない物が色々と溜まり、人として成仏出来ないどころか、後一〇〇年もすれば本当に悪霊になってしまいかねない状態だったらしい。

 

 奇跡的にお札を剥がして封印を解いたのが、子孫の純真無垢な少女だった。しかも、御先祖様を見ることが出来て更に会話も出来る…霊体の波長も合う? 見たいな? 感じだったので、依り代としては最高の物件。御先祖様は、この奇跡の出会いに天命を感じもの凄く神様に感謝していた。何と言えば良いのか? 良く分からないが、私の了解を得て私に守護霊として憑く必要があったので、子孫の私と会話が出来たのは僥倖だったらしい。もちろん私は仏教徒なので、御先祖様は大切にする。結果こうなった…。

 

 ちょっと困った事になっていた。私にはずっと御先祖様が見えたし会話も出来た。そして御先祖様は守護霊様だから、私から一間(1.818m)位しか離れられない。理由は分からない、そう言うものらしい。私は生きているから、お風呂に入るしトイレも行く。結果…御先祖様と、全部一緒に行くことになる…一緒なんだからね! はあぁー色々と思うところは有ったが、この件はどうしようもないので、私は前向きに諦めた。私には隠すものが何もないので、御先祖様とはとても仲良くなった。最近では学校の図画工作の時間に給食の牛乳瓶の蓋で作ったオセロの駒で、囲碁を教えて貰っている。囲碁はとても面白い、縦でも、横でも、斜めでも良いから先に5個並べた方の勝ち。

 

 

 

 

 

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 私、藤崎あかりは今日も元気。最近は毎朝、御先祖様が起こしてくれるからとっても助かっている。絶対に寝過ごさないし寝坊しないのは嬉しいけど…寝起きに御先祖様のビジュアルはちょっと心臓に悪い。

 今日はペットのトロの散歩当番の日だった。私が玄関でトロの首輪から鎖を外そうとしたら、

 

『あかり、これは社畜か?』

『え? 犬だよ? 人間じゃないよ…あれ? 平安の社畜ってどういう意味?』

『家に来る災いや邪気を一身に受けるために、家の柱に生贄として死ぬまで繋ぐ家畜の事を示す言葉だ』

『そうだったの、平安の社畜ってそんな意味なの…ん? 現代の社畜と大体同じだね』

 

 平安時代の常識に驚く事も多いけど、概ね御先祖様とは上手くやっている。本物の囲碁もかなり覚えて来た、最近の日課は御先祖様と毎朝新聞の詰碁を解くこと。2個上の栞お姉ちゃんからは、

 

「あかりは、渋い趣味しているわねぇー」

 

 と、よく言われる。囲碁は理解できるように成ると、とても面白かった。ヒカルのお祖父さんが趣味にしているのも良く分かる。囲碁を本格的に始めて私は、本物の碁石と碁盤を使って見たくなって来た。ヒカルのお爺さんの家にお邪魔したいのだけど、ヒカルが捕まらない。クラスの男子とサッカーばかりしている。ヒカルのお爺さんの家に私が一人で遊びに行く分けにも行かないし…どうしよう? とか色々考えながら学校帰りに上中里駅周辺を歩いていたら、

 

『あかり、あそこの看板に書いてある紫水【碁会所】とは何ですか?』

 

御先祖様が話しかけて来た、私は…碁会所の存在を今思い出した。

 

『確かお金を払って碁を打つ場所だよ、ヒカルのお爺さんからそんな話聞いた気がする。このビルの7階か、行って見る?』

 

『是非、参りましょう』

 

 

 

 

 

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「あら、こんにちはどうぞ」

「こんにちはぁー」

 

 碁会所の中は、おじさんしか居なかった。受付は見た目20代前半の、綺麗系のお姉さんだったので、少し助かった気がした。

 

「お嬢さんは、ここ初めて?」

「初めてです、ここは碁が打てる場所ですよね?」

「打てるわよ、じゃーこれに名前書いて」

「あっはい」

「棋力はどれくらい?」

 

『御先祖様って確か大君の指南役で、生前はとても強かったのですよね? あってますよね?』

『あっています』

 

 私は碁盤と碁石に触って見たかっただけなので、始めから自分で打つ気がなかった。自信もなかったし…。碁会所の中は薄暗くて、何か雰囲気怖いし、男の人ばっかりだし…御先祖様の言葉を信じて、お姉さんの質問に私の知っている最高段位で元気よく答えた。

 

「アマチュア8段です」

「えっ? あまちゃあ8段! …ごめんなさい、凄いわね。えーと…」

 

 受付のお姉さんが驚いて、大きな声出して思いっきり噛んだ。その後あわてて詰碁の本を取りだして、付箋の挿んである最後の方のページを開いて聞いて来た。

 

「この問題解ける?」

 

『御先祖様お願いします』

「よゆー♪ 楽勝の助動詞です」

 

 私は、御先祖様が教えてくれた手順で本を指差した。

 

「こう、こう、こうです」

「即答! すごーい、本当に解け…」

「凄い!!」

 

 背後からいきなり声を掛けられて、ビックリして変な声を出してしまった。

 

「ぴゃぁ」

 

 

 

 

 

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 どうしてこうなったの? 私の廻りには何故か多くの観戦者がいる。

 私は背後からいきなり声を掛けてきた、同い年でおかっぱ頭が特徴の塔矢アキラ君と、一局打つ事になってしまった。…まあ、それは良い。席料もサービスしてもらえたし…ただ、1000年のブランクで腕が落ちたのか? 御先祖様が大苦戦している。小5男子とガッツリ四つに組む形に成っている…今のところ2勝2敗。

 大口叩いた私は恥ずかしくて仕方ない。…私は家に帰りたいのに、謎のスイッチが入った御先祖様と塔矢アキラ君が戦闘モードで、バチバチに殺り会っている。止まらない…ってか、だれか止めてお願い、プリーズ。

 

 私の廻りで暇人の大人たちが、御先祖様と塔矢アキラ君との対局をワラワラと観戦していた。ただ、石を置いているのは私だから、注目されていて非常に恥ずかしい。一応大人の人達なので、私に気を使ってさりげなく色々と励ましてくれるけど…その気遣いが私の羞恥心を余計に刺激する。

 

北島「凄いよ! あのお嬢ちゃん、アキラ先生と互角だ」

広瀬「互先でずっと紙一重、棋力に差がない。尋常じゃない」

久米「手付きは完全に素人だけど、アマチュア8段は伊達じゃない」

芦原「地力が半端ない、序盤の安定感はアキラ君より上手だ」

是枝「古風な打ち筋だが、崩れない、潰れない、強い!」

 

 恥ずかしいよぉー、御先祖様が自分で強いって言ったもん。あれ、塔矢君さっきからずっと考えているけど、どうしたの?

 

「藤崎さんが間違える事はないよね? ありません」

 

 あっ、御先祖様が中押しで勝った。

 

「ありがとう御座いました。ごめんなさい、もう遅いからこのまま帰っても良い?」

 

「片付けは僕がして置くよ、今日は遅くまで付き合ってくれてありがとう藤崎さん。僕は良くここにいるからまた来てよ。僕は藤崎さんと再戦したい」

 

「うん、またね」

 

 私は笑顔で塔矢アキラ君に小さく手を振りながら、小走りで碁会所を後にした。

 

『あのー御先祖様は本当に囲碁が強いの?』

『強い! 誤解をしているようだがあかり、あの者は本物の獅子だぞ』

『今日は無理だけど、囲碁の本買って現代の定石と棋譜とか勉強したら、塔矢アキラ君に完勝できる?』

『勝てる! 負ける気がしない』

 

 碁会所で、かかなくても良い恥をかいた気がする。御先祖様の棋力がまさかの、同い年の男子と同じ位だったとは…碁会所での、大人達の微妙な気遣いの言葉が耳から離れない。私のガラスのハートに傷が入った。「アマチュア8段」と言い放った私を、過去に戻ってぶん殴りたい。とにかく恥をかいて悔しかったから逆恨みパワー全開で、御先祖様と囲碁の勉強をして塔矢アキラ君にリベンジだ。

 

 そして…夜の8時過ぎに帰宅した私は、両親にしこたま怒られた。

 

「絶対に許さないぞ! 塔矢アキラ!」

 

 

 

 

 

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 あの屈辱の2敗から2ヶ月間、私と御先祖様は神保町の古本屋を回って買い貯めした大体3冊100円くらいの囲碁の本、その数なんと114冊で滅茶苦茶勉強した。嬉しい事に囲碁関係の本は人気が無いので、どこでも軒先に置かれ捨て値で滅茶苦茶安かった。書籍を見るたびに千年の時を経て囲碁はこんなにも洗練されたのか? と、御先祖様は感動していた。

 

 御先祖様は1000年以上前にお亡くなりに成っているので、睡眠の必要がない。肉体が無いので、過労も疲労もない完全なチートだ。だから私の睡眠中も御先祖様は、気合でポルターガイストを駆使して本を読んで囲碁の勉強をしていた。はやりの漫画風に言うと、御先祖様は近距離自立思考行動型のスタンドだった。私も定石を頑張って勉強した。お父さんに買って貰った卓上碁盤と碁石で、カッコイイ石の打ち方の練習もした。栞お姉ちゃんには、

 

「あかりは一体どこに向かっているの?」

 

 と、よく言われたが、お姉ちゃんは両親に、

 

「中学生にもなって暇さえあればファミコンしているお姉ちゃんより、ずっとましよ」

 

 と、言われていた。最近の私は完全に囲碁の魅力に取り付かれていた。

 そして…時は満ちた。

 

『明日から春休み。修行の成果を発揮する時が来たよ、御先祖様』

『そうか、麻呂に任せるが良い』

 

 上中里駅近辺に、最近白いスーツの変質者が出没する。何でも小学生の女の子にだけ声を掛けて、誘拐するらしい。春休み前に学校の集会とかホームルームで、危ないから一人で上中里駅周辺に行ったら駄目! 絶対に駄目! と何回も先生が言っていた。白い変質者のおかげで、この前行った碁会所【紫水】行け無くなったので、私は新しい碁会所を探さないといけなくなった。いい迷惑だ。

 

 上中銀座(カミナカギンザ)のたこ焼き屋の隣のビルの2階にある団碁虫と言う名の碁会所は、かなり大きくて猛者が集まることで有名だ。立ち読みした週刊碁にそう書いてあったから多分間違いない。

 碁会所の前で、深呼吸を…一つ…気合を入れる。

 

『ここに強者がおじゃるのか?』

『うん、いくよ』

 

 カランカランと古風な音を立てて私は店の中に入った。昔ながらの喫茶店のカウンター見たいな場所に、初老の人の良さそうなマスターが居た。

 

「いらっしゃいお嬢さん、お爺さんのお迎え?」

「違います、碁を打ちに来ました」

「碁が打てるの? 小さいのに凄いね、棋力はどれくらい?」

 

 私はこの言葉を待っていた。そして、あらかじめ用意していた台詞を大きな言葉で言った。

 

「棋力は院生1組1番! ここで一番強い人を紹介して下さい」

 

 私は嘘を付いていない、棋力を答えただけだ。実際に2カ月間真剣に囲碁の勉強をして、御先祖様の棋力は本物だと分かった。そして今の私には分かる、塔矢アキラ君も本当に強い人だった。だがしかし、それがどうした。私の打倒! 塔矢アキラ君の目標は変わらない。私は、ブレない! 退かない! 顧みない! だから私はここに、団碁虫【碁会所】に力試しを兼ねた修行に来た。

 

 碁会所の空気が変わった…好奇心に満ちたおじさん達の視線が、私に刺さる。視線を受けて…私の口角は静かに持ち上がった。さあ、私と御先祖様の棋力を確認するとしましょうか?

 

「それなら俺が相手をしよう」

 

 声のした方を見ると、【ゴゴゴゴッゴ】と強者の雰囲気を纏ったおじさんが手を上げていた。店内の空気がザワザワし始めた、「アマチュア本因坊の寅さんが動いた」とか聞こえて来た。

 

 打倒! 塔矢アキラ! に向けた私達の武者修行が始まった。

 

 

 

 

 

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 おかしい、絶対におかしい、何かが変だ…?

 

 御先祖様と二人三脚・一心同体で頑張ったのに…まあ正確に表現すると、二人二十六脚・二心同体になるけど…まあ、そんな事はどうでも良くて、今の私の石の打ち方は修行の成果で、誰が見てもTVのプロ棋士の様で格好良かった。パシッ・パシッと私が石を打つ音が、碁会所に小気味よく反響していた。

 

 アマチュア本因坊の寅さんには、中押しで二連勝した。その後に、アマチュア界最強の異名を持っていて学生タイトルをすべて取ったことが有る。と、初対面の私に自慢して来た門脇龍彦(かどわきたつひこ)と言う名の痛いお兄さんにも三連勝した。初対面の女子小学生に自慢話をする恥ずかしいお兄さんは、私に三連敗して完全に顔から生気が抜けていた。~● そう、ここまでは良かった。計画通りだった。

 

 私の計画では、肩慣らしも済んだこの辺りで、この前の行った紫水【碁会所】に電話して、塔矢アキラ君に団碁虫【碁会所】での再戦を申し込む予定だった。

 そう私は、塔矢アキラ君と再戦する予定だったのに…邪魔が入った。禿げ頭で売れない漫才師のような風貌の、初老のおじさんに挑戦された。

 

…【【ドドドドド】】…やばい…なんか…やばい…あれ?…えっ?…もの凄く強い人?…えぇーそこで手抜きするの?…それで凌げるの?…御先祖様が手抜きを咎めた…うそ…更に手を抜いて来た…南海?…御先祖様がツケた…ハネるヒクどっち?…えぇぇーずきゅぅーんとコスミツケ! もう無理ぃー私には読めない。

 

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外野「さすが一柳先生、小学生相手に手加減なし。そこに、シビれる! あこがれるゥ!」

 

 おいっ、周りのおじさん、シビれるんじゃない! あこがれるな!

 おかしい、絶対におかしい…。御先祖様が解説してくれなくなった…余裕がないんだ…解説がないと私の棋力では理解できない。私は石を並べるだけの、傀儡と化した。

 

「お嬢さんは誰の門下生だい?」

「師匠はいません、囲碁は独学です。本を沢山読みました。院生でもないです」

外野「「「「「「「「「「「ええぇ~!」」」」」」」」」」

 

 周りのおじさん達がどよめいて、うるさかった。

 ハゲの視線を感じて見上げると、ハゲの驚いた顔は愛嬌があって少し面白かった。

 

「お嬢さん、私はプロ棋士で棋聖のタイトルホルダーだが、分かるかな?」

「…………ええっ! 棋聖って平安の時代から続く、囲碁が一番強い人が持つ称号の棋聖ですか?」

「その通り」(#^.^#)

「そんな凄い人が、どうしてこんな所に居るのですか?」

「ここが私の経営する店だからだが…」

「えーと…すいません」

「良い、それよりお嬢さんには本当に師匠が居ないのかい?」

「本当にいません」

「驚いた、本当に驚いた。こんな事が起きる、だから囲碁は面白い。お嬢さん、私の門下生にならないかい? お嬢さんは、少し鍛えるだけでプロになれる」

「本当ですか? ありがとうございます。私の名前は藤崎あかり、11歳です。宜しくお願いします」

 

 こうして私は、一柳棋聖の弟子になりプロ棋士への道を歩み出してしまった。脳内で狂喜乱舞している御先祖様の言葉に従った結果だけど…良かったのかな? 常識的に考えれば子孫の繁栄を望んでも、不幸を望む御先祖様がいるわけ無いから多分大丈夫…と、思うけど…。

 そして私は、凄く悪い事を思い付いた。確か塔矢アキラ君は、

 

「僕はプロになるよ」(-“-)キリッ

 

 と、言っていた。私は囲碁関係の本を沢山読んだから、プロ試験の内容を知っている。…私が塔矢アキラ君の全勝合格を止めてやる! 何だろう? 何だか私、…ワクワクして来たぞ。くふふ

 

 

 

 

 

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「だぁーまぁーさぁーれぇーたぁー」<(`^´)>

 

 私、藤崎あかり小学6年生。悪い男に騙されて、来年の春から囲碁のプロ棋士。

 いなかったよ、塔矢アキラ君。…プロ試験…受けてなかったよ。私はお師匠様(一柳棋聖)に、囲碁を教えて貰いながら家族の説得でも世話になり、プロ試験受ける許可を得ていた。囲碁に掛かわる諸々の費用は、全額お師匠様が負担してくれた。更に、毎月お小遣いまで頂いていたから、プロ試験を受けるしかなかった。塔矢アキラ君がいないから、プロ試験受けません! とか言える筈が無かった。結果は、もちろん全勝合格です。

 

 どうするのよー? 今さらだけど、プロ試験に合格した後の事なんか何も考えてなかった。私が…来年の春からプロ?…本当に?…まぢでぇー…

 

 私が合格した日本棋院の正棋士採用試験に、【小学6年生12歳の美少女が、全勝合格!】と言う枕詞を付けると、飛んでもない快挙になる。新聞の全国紙とかブロック紙とか地方紙とかスポーツ新聞に、私の記事が掲載された。TVの取材も受けた…緊張し過ぎて何を話したか何も覚えていないけど、「一生懸命頑張ります」見たいな事を言ったと思う。

 

 お師匠様が合格祝いで、最新型のノートPC一式を買ってくれた。兄弟子様たち5人は共同で、本榧の高級碁盤と碁石を買ってくれた。お父さんが私の囲碁の勉強のために、ISDN回線を引いてくれた。お母さんは働き始める私のために、携帯電話を買ってくれた。栞お姉ちゃんは、スーパーガード羽根つき42㎝をくれた…お姉ちゃんのお勧めらしい。

 

 インターネットでネット碁【ワールド囲碁ネット】を、お師匠様の勧めで始めた。半角10文字までの名前が登録できるので名前は、(PRO)AKARIにした。うん、ぴったり10文字! 良い気分♥。ネット碁は、睡眠・飲食不要、過労・疲労なしのチートな御先祖様が毎日、文字通り不眠不休でポルターガイストを駆使して行っていた。私が気付いた時には、もの凄いレーティングのネット棋士が爆誕していた。

 

 いつの間にか世界中に(PRO)AKARIのファンが出来ていた。特に韓国で人気が高かった。お隣の国は若い棋士が多くて、インターネットの回線が速いらしいから当然の結果かな。私は、モテる! 倉木魔衣バリの美少女だから、メディア映えがする。私は、自分が男の人から見て十分可愛い事を自覚している。そのうち幼馴染のヒカルも、あかりちゃんの可愛さに気が付くと思う。

 

 週刊碁と言うタブロイド紙と、月間囲碁と言う雑誌に、私のネット碁で打った棋譜を掲載しても良いか? 日本棋院から問い合わせが来たのでOKを出したら、棋譜一枚に付き掲載料5000円だった。日本棋院からのお給料に、毎月まとめて振り込まれた。全国紙・ブロック紙・地方紙・他の各種新聞社も時々ネット碁の棋譜を掲載してくれた。掲載料の50%は、日本棋院に中抜きされた。…これが、大人の世界………。

 

 囲碁関係は御先祖様に丸投げして、私は普通に生きる事にした。

 色々と忙しい日々が続いたせいで、塔矢アキラ君の事とかどーでも良くなって来ていた。私…囲碁あんまり強くないし…私の囲碁熱は、徐々に冷め初めていた………。

 

 

 

 

 

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 (PRO)AKARIが、韓国の強い人にネット碁で勝ったらしい。ふーん、凄いなー御先祖様。熱しやすく冷めやすい女、あかりちゃんはかなり囲碁熱が冷めていた。強い人に勝ったと言われても、私には相手の強さがイマイチ理解できない。どうやら御先祖様は、メキメキと成長しているらしい。囲碁系ホームページの掲示板にそう書いてあった。

 

『あかり、人間は死ぬまで精進だぞ』

 

 御先祖様は私に良く言い聞かせてくれるが…人間は死んでからも精進すると、成長するのか? 知らなかった。来年の若獅子戦が楽しみだ! と、最近はネットでは噂になっているけど…若獅子戦ってなに? 後で兄弟子様に聞いてみよう。

 

 団碁虫【碁会所】で行われる定例の研究会に行ったら…居た…塔矢アキラ君が居た…ごめん、完全に忘れていたよ。私を見つけた塔矢君が笑顔で近寄ってきた…

 

「藤崎さん、プロ試験合格おめでとう。藤崎さんのネット碁の棋譜を色々取り寄せたけど、全部が凄く綺麗だったよ。残念だよ、何で対戦相手が僕じゃないんだろう?」

 

「塔矢君、ありがとうございます。私も塔矢君がプロ試験に居なくて残念でした。どうしてプロ試験受けなかったの?」

 

「えー…そのー…何か…やり残している気がして…溜まらなくなって…」(・_・)

 

「なにそれ、理由になってないじゃないですか! 私は、プロ試験で塔矢君と対戦するのを楽しみにしていたのですよ。上中里駅近辺に女子小学生を専門に狙う白い変質者が出没するせいで、紫水【碁会所】に行けなかったから」

 

「ええっ! そんな理由があったのか、そうか、藤崎さんは紫水【碁会所】に来たかったのに、白い変質者のせいで来られなかったのか!? そうなんだ、だったら藤崎さん。今から僕と一局打たない?」

 

「い・や・で・す! 訳の分からない理由でプロ試験を受けなかった人なんて、お・こ・と・わ・り・で・す! 私と打ちたいならプロになって下さい。そうすれば大手合いで対局できますよ」

 

「…分かった。僕は、先にプロになった藤崎さんを追いかけるよ。次の正棋士採用試験受けるよ」

 

「大丈夫だとは思いますけど、落ちないで下さいね。私が再戦を楽しみにしているのは本当ですから。それと私は良く団碁虫に居るから、塔矢君がプロに成ったら打ちに来ればいいよ」

 

「うん、ありがとう。藤崎さん」

 

「私、今から研究会だから。塔矢君、またねぇー」

 

「うん、また来るよ」(^^)/~~~

 

 私は笑顔で手を振った…笑顔で帰って行く塔矢君を見送りながら…私は心の中で、「ちょろい」とか思っていた。私の「またねぇー」には、「またね」以外の意味はない。だけど「またねぇー」に【笑顔で手を振る】をプラスするだけで、大抵の男の子は勘違いする。あいつ俺の事が好きなんじゃねぇ? と、勘違いして勝手に私に好意を持つ。私は、モテる! だから分かる、塔矢君の死活は私が取った。

 

 塔矢君がプロ試験受けなかったのを思い出したら、腹が立って来たから。私の笑顔は、塔矢君がプロになったらパワーアップした御先祖様でボコボコにした上に、私の気が済むまで弄【もてあそぶ】ための布石だった。

 

 

 

 

 

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 私、藤崎あかり1986年5月17日生まれ、O型12歳小6、もうすぐ中学生。

 

 今日は、1999年1月11日…今年は母親の実家にお年玉を貰いに行くのを止めた。お母さんは、有名私立お嬢様学校に推薦で進学が決まっている私を実家に連れて帰りたかったようだが、お仕事関係で新年の挨拶あるから無理。と、断った。

 今の私はお年玉もらえなくても平気だった。お金には全然困ってなかった。日本棋院からネット碁の雑誌等棋譜掲載料貰っていた。そして未だに、お師匠様から毎月お小遣いを頂いていた。師弟関係とはそう言うものらしい。私が将来弟子を持ったら、お師匠様にして貰った以上の事を弟子にすれば良いらしい。そうすれば囲碁界はずっと発展して行く。と言う中々素敵な教育をお師匠様から私は受けた。

 

『あれから一年か…一年って長い様で短いですよね? 夏休みと同じですね』

『少年老い易く学成り難し。あかり…人生は何かを成すには短すぎるし、何もしないと長すぎる』

 

 私の御先祖様の言葉には深みがある。

 …はぁ…御先祖様や大人の人達と話し過ぎた。どうしよう? 最近クラスメイトがみんな馬鹿に見える。

 

『そう言えば、御先祖様はどうして碁盤に封印されていたのですか?』

『ああっ、話せば長くなる。それはな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 ほんとーーーーーーーーーーーーーーーうに長い話だった。しかも9割以上が愚痴…二度とこの話題には触れないでおこう。私は心に誓った。御先祖様の話を簡単に纏めると…

 

 御先祖様が存命だった時に、囲碁が強い醜女(しこめ=もの凄いブス)がいて、彼女の名前は藤原佐為(ふじわらのさい)あまりにもブス過ぎて、白拍子(ググって下さい)になって男装して顔を隠して碁を打っていた。彼女の人生には囲碁しかなく碁が全てだった。毎日、毎日、囲碁を打つ。それ以外の事は本当に何もしない困った女性で、白拍子なのに化粧(白粉)もしていなかった。だから俗に言うマロ眉にする必要がなく、眉毛も剃っていなかったそうだ。小野小町が絶世の美女とされる時代の美的感覚だから…現代だと男装の麗人とかになるのな? 知らんけど…。

 

 囲碁が強いだけの醜女(藤原佐為)がある日、「大君の指南役は強者が務めるべきだ」とか言い出して、当代の大君の指南役だった御先祖様に挑戦して来たらしい。最初は相手にしなかった(したくなかった)けど…あまりにもしつこかったので、双方立会人を7人ずつ用意して御先祖様の家(私の母親の実家)で、勝負したそうだ。そしたら醜女は、碁筒に混じっていた黒石を自分のアゲハマにしたらしい。まあ、要するに反則。その事を自分が連れて来た立会人に指摘され、逆切れして御先祖様の家の牝馬を盗んで走り去ったそうだ。

 

 十五夜の夜に、盗んだ牝馬で走りだした醜女(藤原佐為)は、馬が操れずにそのまま川に落ちて馬と一緒に死んじゃったらしい。供養するために引き上げた彼女の唇は、溺死したせいで紫色に成っていた。で、その後…御先祖様が完全な逆恨みで醜女に祟られた。なんて迷惑な女だ…。

 

 陰陽師に頼んで醜女の怨霊を払って貰った後に、御先祖様は無事に天寿を全うしたけど…醜女の怨霊が、再び現れたりしないか? 子孫に害が及ばないか? それが心配で成仏できなかった。で、家守と成って家を守る事にした御先祖様が、家の周りを巡回していた時に、たまたま通りかかった碁盤を持った陰陽師に悪霊と間違われて、碁盤に封印されたらしい。平安の感覚では多分、碁盤=ゲームボーイくらいだったのかな? ここまで聞くのに4時間以上かかった…疲れた。

 

『そう言えば、御先祖様は何時からその容姿になったのですか?』

『あかり、くわぁっこいいだろ』

 

 

  /⌒ヽ

二( ^ω^)二⊃         /⌒ヽ ブーン

  |    /  /⌒ヽ ブーン  二( ^ω^)二⊃

 ( ヽノ 二( ^ω^)/⌒ヽブーン    /

  ノ>ノ   ⊂二二二( ^ω^)二⊃ ヽノ     /⌒ヽ ブーン

 レレ     ( ヽノ|    /   ノ>ノ  二二( ^ω^)二⊃

        ノ /⌒ヽ ブーン   レレ      |    /

   ⊂二二二( ^ω^)二⊃   /⌒ヽ ブーン ( ヽノ

        |    / レ  二( ^ω^)二⊃ ノ>ノ

         ( ヽノ      |    /   レレ

         ノ>ノ       ( ヽノ

     三  レレ        ノ>ノ

             三  レレ

 

 

『そーですねー』

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

1999年1月23日(土)

 私、藤崎あかりは日本棋院に押し切られて、したくないのにTVのお仕事をしていた。お昼の低視聴率バラエティで、しかもLIVE放送。

 嫌がる小6女子を働かせる大人は、ロリコンだぞ! 宮崎駿だぞ! 宮崎駿はロリコンだぞ!

 

 私は何故か? 本物の幽霊が出る事で有名なカビ臭い古い映画館で、女芸人さん達と近年最恐と噂のホラー映画を観せられた。最新作の【十怨】と言う作品だった。…が、映画を観た感想は単純に怖くないだった。女芸人二人は映画観賞中「キャーキャー」と煩く、堪忍して欲しかった。マナー違反だぞ! いや、本当にまぢで止めて。この後は三人で街ブラしながら、碁会所まで徒歩で行って私が指導碁を打つ予定だった。もうすぐLIVE放送が始まる時間だ…私は緊張してきた。

 

 商店街を歩いているとティッシュ配りのお姉さんが、女芸人さん達にティッシュを3個渡した。そして、私にだけティッシュを10個くれた…。えっ? あれ? 私はうっかり御先祖様の方を振り向いてしまった。

 

『多分見える人だ、あかり気にすることはない』

 

 私はコクコク頷いた…それにしても、御先祖様が見えていて、ティッシュを10個渡す、ティッシュ配りのお姉さん…確かに頭だけなら全部で10個あるけど…「プロだなー」私は、小声で呟いてしまった。やば、ピンマイク付いていた。その時、女芸人Aが、

 

A「藤崎プロ、美少女さんはチッシュたくさん貰えて良いですねぇー」

 

 ナイスだ、女芸人A。ちょっと噛んでいたけど助かった。私はエヘヘと笑って誤魔化した。その後、街ブラのお約束、のびーるトルコアイスも私だけ2個もらえた…女芸人Bが

 

B「本当に良いなぁー、美少女さんは色々サービスしてもらえて」

 

 「やだなー 違いますよぉー 多分さっきのティッシュ配りのお姉さんと同じ見える人ですよ」

 

A・B「「えっ!?」」

 

「ここら辺ですよ、見える人には見えますよ。映画館出た時からずっと一緒にいますよ」

 

 私は女芸人の横、御先祖様の居る辺りを指さしながら答えた。良く考えたら、別に隠す必要なんかない事に、私は気が付いていた。だって、見える人には見えるから。

 

B「やっやだなぁー 藤崎プロはノリ良いなぁー 芸人さん顔負けだよ」

A「そうそう、間も完璧じゃないですか」

 

 「いやいや、ボケじゃありません、本当の話ですよ。ほら、あそこの占い師さんも見えている様ですよ」

 

 私の指差した先の占い師さんは、誰が見ても異常な勢いでこちらを見てガクブルしていた。多分、震度6くらい。世の中には私が見えないだけで、見える人って結構いるなー。何故か理由はないけど嬉しくなって来た。

 

 「あの占い師さんにちょっと、見て貰いましょうよ」

 

A「まままってて、映画館でたこたから、いいいいるの?」

 

 やだ、私の中のSの血が騒ぐ…どうしよう? 口角が上がっちゃう♥ あかり、こまっちゃう♥

 

 「いますよ、今Aさんの首をキュッて、していますよ」

 

 私は、器用にトルコアイスを持ちながら雑巾を絞るポーズをした。そして、御先祖様にイタズラのお願いをした。《キュッ》

 

A「ぎぃぃぃややぁぁぁぁーーーーー」

 

 女芸人Aは、気絶しながら失禁した。…最悪な事に、白のワンピを着ていた。

 

「くふっくっふ…くふふ、くふふ♥」

 

 カメラが被写体に困って、口角を上げて楽しそうに笑いながらトルコアイスを食べる私をアップで写した。女芸人Bは頭を抱えて這いつくばり「ごめんなさい・ごめんなさい」と呟き続けていた。新年早々とんでもない放送事故が発生した。

 

 放送事故後、悪霊の祟りで番組の大手スポンサーの保険会社が倒産して、私の出た番組が打ち切りになった。多分ただの偶然。

 私にお詫びに来た制作会社の元番組スタッフさんの話だと、あのお昼のバラエティ番組は私に対して心霊プチドッキリを仕掛けていたらしい。本物の幽霊が出る事で有名な映画館で、私に最恐のホラー映画を見せて充分に怖がらせ、下準備を整えてから決行しドッキリを成功させる予定だったらしい。ところが私は、ドッキリを怖がらないところか、本物の見える子ちゃんだし…女芸人に悪霊が憑いて映像に映るしで、裏方さんは大変だったらしい。因みに女芸人Cは、あの出来事がショックで引退した。女芸人A・Bは後釜の新番組で除霊のため一緒に、四国八十八箇所を巡礼している最中だって。

 

 何が映っていたの? 気になるから、インターネットで私の出た番組を検索したら、色々な人の心霊系ホームページで特集されていた。女芸人Aの首が手型に凹むGIF動画や写真が沢山見つかった。私が楽しそうに微笑む映像もあった。うん、あかりちゃんは、カワイイ♥ それと女芸人Bに巻きつく歯の無い老婆のGIF動画も沢山見つかった…あれ?

 

『御先祖様、このご老人は誰ですか?』

『女芸人Bの守護霊の、牛さん享年98歳だ。両親から頂いた体を大切に最後まで使い切ったのが自慢だそうだ』

『それは、ご立派な方ですね。ところで、御先祖様。私に悪霊とか憑いてないですよね?』

『大丈夫だ、問題ない』

 

 

 

 

 

●○●○●

 

運命の日まで残りわずか! 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

1999年1月24日(日)

 

『サクラサク』

 

 私は両親と、私立桜ヶ丘女子学院の中等部に制服の採寸に来ていた。

 日本の三大お嬢様学校【清く・正しく・美しく】のキャッチフレーズで有名な、私立桜ヶ丘女子学院。私は、お師匠様の後援会のコネで推薦入学が出来た。しかも、文化特待生枠での入学だから学費も全額免除。

 

 京都生まれで肩書が大好きな母は、私の桜ヶ丘入学が決まって狂喜乱舞した…完全に地に足が付いていなかった。母の実家は、60年くらい前まで公家華族(貴族の事)だった。たしか堂上家族の分家で、爵位は子爵だった記憶が…お爺様は今でも薄い藍色の大礼服を持っているし…親族に霞会館の人もいるし…。京都は戦争で爆撃されなかったから、意外とそういう人が多い。

 

 私の母は学習院に落ちて学歴にコンプレックスがあり、周りの皮肉と親族と比べられるのが嫌で京都から逃げだした過去がある。と、本人が言っていたけど…母様、本当に学歴ブランド大好きだったんだね、ちょっと引く。

 

 今日は保護者同伴の学内見学会も兼ねていたので、母は嬉々として周りの親御さんに挨拶していた。学内の桜並木はまだ見頃ではなかったが、そこを歩く親御さんたちは全員桜満開の笑顔をしていた。まあ、実は私もかなりご機嫌だけどね。学内案内に着て行くためだけに、M○NCLERの凄くかわいいワンピと靴とバッグ買って貰えた。ハイブランドだぞ!

 

≪ 私立桜ヶ丘女子学院 ≫ キリスト教的価値観を基盤とし精神の育成に重きを置き、知識や技術、歴史、文化伝統と幅広く学問を追求し、広く世界への奉仕するため人材を育成しております。

 学生に人間存在をめぐる根源的問いかけ、人生の精神面における洞察力を深めることを促しています。神と人への愛を育て、世界を見渡せる広い視野を持ち社会に役立つ人間に育つよう教育しています。在学中は知性を磨くとともに、魂を成長させることが期待され、キリスト教精神によって究極の問題を追求でし、理性と信念を持って自らの道徳的価値観に・・・・・・・・・。

 

 学院案内と読みながら私は思った、…いいのかな?

 

「母様、私と母様…仏教徒だよね?」

「あかりさん、そういう細かい事は良いのよ。駄目なら神様が教えて下さるわ」

「良いのかな…?」

「良いのよ、それよりもうすぐ食堂よ、ビュッフェにケーキコーナー有るらしいわよ」

「本当ですか♥」

 

 ケーキは、大変おいしゅうございました。TPOに合わせて脳内思考も丁寧語にしていたけど、ケーキ食べたら何か色々と、どーでも良くなって来た。えーい、なるようになるが良い。推薦があっても、本当に合格するとは思っていなかったお嬢様学校。今は友達作りから始めよう。…取りあえず近くにいる子に声をかけて見た。

 

「ごきげんよう、始めまして。私は藤崎あかりと申します」

「ごきげんよう、私は矢野美帆と申します」

 

        ・

        ・

        ・

        ・

        ・

 

 うん、普通に疲れた…私はこの学校に今春から10年も通うの? やだなー。

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

 やっぱり、ジャージが1番! ジャージ最高! ジャージ無敵。あの何故か精神的に疲れる学内案内から帰宅した私は、ベッドでゴロゴロしていた。

 

 私立桜ヶ丘女子学院は、まぁー凄かった。本当にここは東京なの? 実は千葉の木更津市かずさ辺りじゃないの? と、思ってしまうくらい規模が大きかった。文科系の部活動専用の学舎には、囲碁部もあった。出欠確認用のめくるタイプの名札を確認していたら、院生と書かれた名札があった。…こんな所に院生が一人いた! 奈瀬明日美(なせあすみ)さん、年齢近いかな? 

 

 囲碁部は大きかった、初等部から学生(大学生の事)まで合わせて部員84名もいた。今日も部活動していたので、院生の先輩は何処ですか? と、訊ねて見たら基本的に土日は日本棋院で勉強していると、教えて貰えた。私は、外来でいきなりプロになったから院生の事は詳しく知らなかった。「もしかして藤崎あかりプロですか?」と、逆に訊ねられてビックリした。私は、自分が思っているより有名人なのかも知れない。

 

 今日の出来事を思い出している私の近くで、御先祖様がノートPCでネット碁を打っていた。私は前々から気になっていた事を、訊ねて見る事にした。

 

『御先祖様、死ぬ直前に走馬灯見るって話、本当?』

 

『見たような気もするが…昔過ぎて思い出せない』

 

『そうなんだぁ、じゃー幽霊って何?』

 

『もの凄く細かい雨粒の様なものが集まったものが霊魂で、不定型な水球のような形をしていて色がない。霊魂には天も地も無くて、常に曖昧な位置と速度を持って震動している。これが死後49日までの霊魂だな。普通は49日目にお迎えが来る。麻呂の様に強い意志と逝けず石【京都には今も現存する。逝けず石は家を守る結界だぞ】があると、家守りとして現世に留まる事もできる。後は、未練・妬み・嫉み等の負の感情が強いと、霊魂の震動が大きくてお迎え様が近づく事が出来ず成仏できない、これが悪霊化する。霊魂が震動すると波動・波長が発生する。あかりのよく見るアニメのATフィールドの様なものだ。幽霊は基本悪霊と思えば間違いない。人間の肉体は霊魂にとっては湯呑みたいな入れ物なので、守護する人間を依り代としている守護霊は安定する。波動・波長が合わないから悪霊を見る事が出来ない。同じ守護霊は、安定していて波長が近いから見える』

 

『普通に悪霊は見えないの? じゃあ、人に取り付いている悪霊は見えるのですか?』

 

『それも見えない、悪霊は人に取り憑いて体温を奪うだけで、普通は何もしない。体温を奪われ続ける人間は、確実に早死にする。例外的に悪霊が見える時は、こちらに悪意【波動】を向けて来た時と、取り憑こうと干渉して来た時ぐらいだ』

 

『なんで? 体温を奪うの?』

 

『霊魂が震動し続けるには温度が必要だからだ、必要な温度は周りから奪う。だから幽霊の出る場所は夏でも涼しい。人に憑くと簡単に温度が手に入る……………』

 

『成るほど、震動が弱くなると霊魂が減少して行き自然消滅したり、他の霊魂に吸収されたりするのですね。自然界から吸収できる温度は効率が悪すぎるから、だから人に憑くと。自我の崩壊を防ぐには、依り代が必要で…お札・龍道(ロンマツ)…』

 

        ・

        ・

        ・

        ・

        ・

 

私は、無駄に心霊関係に詳しくなった。

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

「走れあかり、じーちゃん家はすぐそこだ」

「もーだから真っ直ぐ帰ろうって言ったのにぃ」

 

 私は土砂降りの夕立の中、ランドセルを傘変わりにして走っていた。

 ヒカルがお爺さんの家の蔵で、売れそうなものを探すから付き合ってくれ…とか言うもんだから、付いて来たが…私は何のために呼ばれたんだろう? もしかして、荷物運び? ってか、ヒカルが勝手に蔵の中ゴソゴソしているけど、いいのかな…

 

「勝手にそんな事して良いの?」

「こないだの社会のテストでさー、8点しか取れなくて小遣い止められてんだ…おっ! これなんか良いんじゃないか?」

 

 ヒカルが見つけたのは、一目で分かる年代物の碁盤!

 

「それ凄く高いよ、本当に高いよ」

「そうかー? かなり古そうだけど…じーちゃんが昔使ってたのかな? 高値で売れるのか?」

「高いよ、勝手に持ち出したら駄目だよ」

「平気、平気。きっとじーちゃんも忘れてるよ。あれ、全然落ちないぞ、この汚れ」

「汚れてなんかいないよ、綺麗じゃない」

「これ、ここにシミ見たいなのが、あるだろ」

 

 …あれ? 私…目悪くなった? 薄暗くてシミ見えない。じーっと碁盤を注視する…

 

「やっぱり、そんなシミなんて…」

 

 ヒカルがいきなり立ち上がった

 

「誰だ! じーちゃんか? 出てこいよ」

 

 えっ? なに? 何が始まったの? 

『あかり、何かいる気を強く持って』

 えっ? えっ?

「えっえー ATフィールド全開!」

 

 …私は、御先祖様のおかげで何とかなった…干渉されなかった……取り憑かれなかった。

 ヒカルは駄目だった。霊障で気絶して、救急車で運ばれた。…ごめんヒカル、何とかしたいんだけど、御先祖様と相性がかなり悪い悪霊らしくて…波動が合わないから、御先祖様からは見えないし、干渉もできない。ヒカルの家に結界を張って龍道(ロンマツ)を弄れば祓えるけど、腕の良い陰陽師でも準備に3年近く掛かるらしい。

 

 幸いにしてヒカルはまだ若くて健康で成長期だから、少しくらい体温奪われても18歳くらいまでは寿命は縮まない。と、御先祖様が教えてくれた。準備にちょっと時間かかるけど、我慢していてね。私が全力で陰陽師を探すから! …お金も何とか出来る。あかりちゃんは、プロ棋士だ!

 

「ヒカルは、死なせない。私が護るから」

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

 じーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ヒカルを観察、変だ普通じゃない。何もない空間に話しかけたり、授業中にいきなり走り出してゲロを吐いたり。良い所を見せようと、近づいた私も貰いゲロ………変だ、全然普通じゃない。絶対に何か憑いている、困ったどうしよう? などと放課後に考えていたら、ヒカルが話しかけて来た。

 

「あかり、お前プロ棋士だったよな?」

「そうだけど、お小遣いならあげないよ」

「ばっばかやろー そんなんじゃないやい」

「じゃーなあに? また蔵ドロボウするの?」

「ちげーよ、ちょっと碁を打って見たいんだよ」

「えっ?」

 

 そっち系の人? 御先祖様と同じタイプ? 

 

「おいあかり、聞いてんのかよ」

「あっ、ごめんごめん。今から碁会所行く予定あるけど、ヒカルも一緒に来る?」

「行くよ」

 

 カランカランと音を立てながら団碁虫に入ると、塔矢アキラ君が居た。今日は研究会の日だから見学に来たのかな?

 

「藤崎さん、久しぶり。今日は研究会の見学に来たんだ」

「塔矢君こんにちは、良い所で逢ったよ。私のクラスメイトが碁を打ちたいって言うの。見学に来たところ悪いんだけど、一局相手して上げてよ」

「うん、良いよ。僕は塔矢アキラ、君は?」

「進藤ヒカル、よろしく」

「こちらこそ、よろしく。棋力はどれくらい?」

「良く分かんないけど、強いぜ」

「良くわからないのに、強いの?」

   ・

   ・

   ・

   ・

   ・

 

 ヒカルの事は塔矢君に任せて、私は研究会に集中した。プロの研究会は、誰が見ても草野球よりプロ野球が面白いのと同じ原理で面白い。団碁虫では、アマの研究会とかプロアマ合同の研究会とかプロだけの研究会とかが、定期的に行われている。小学生で時間に余裕のある私は、色々な研究会に参加している。おかげで今の私は御先祖様なしでも普通に強い、棋力が上がった。一時は囲碁熱が冷めかけたけど、碁は普通に趣味として楽しむ分には十分楽しい。何事も普通が一番。

 

 研究会を終えて、お父さんにお迎えのお願いの電話をした後に、私はヒカルが居ない事に気が付いた…そういう所だぞ。女の子を置いて帰っちゃダメでしょ。

 塔矢君が黙々と棋譜を並べていたので、何となく見学していたらピンッと来た。ああ成るほど、そう言う事ですか。

 

『あかり、気が付きましたか?』

『指導碁ですよね? わかります』

『おっ、今の一手は面白い、これは・・・・・・・・・・・』

 

「今の黒の一手は面白いですね、ふわっと浮いた微妙な一手。上を囲うか、真ん中を止めるか、横から迫るか、白の力量が試されていますね。塔矢君は指導碁が上手ですね」

 

「…違うんだ藤崎さん、僕が白だ」

 

「えっ相手は誰? もしかして、………ヒカル君?」

 

「ああ……… 藤崎さん、教えてくれ。進藤ヒカルは、彼は一体何者何だ」

 

「あかりぃー、迎えに来たぞー」

 

「ごめん、お父さん来ちゃった。この話はまた今度しようよ、またね塔矢君、おやすみなさい」

 

「おやすみ、藤崎さん…」

 

 憑いてるなーヒカルに、御先祖様と同じタイプの悪霊が憑いてるなー。それにしても何で? 碁盤に封印されていたんだろう? もしかして御先祖様と同じ理由? まさかね…。

 

 塔矢君の方はどうしよう、あの棋譜を見れば棋力が分かるけど、かなり強かった。相手の力量を量りながらジワジワと攻めていたし。どうやって誤魔化そう、クラスメイトだけど………あまり仲良くないから、良く知らない。これで良いかな? 面倒臭いから、これで通してしまおう。

 

「あかり、背中を流してくれないか」

「あっ、うん良いよ」

 

 私はお父さんとお風呂に入っていた。家のお風呂は結構大きいので、お父さんと入っても狭さを感じない。囲碁の研究会の時は帰りが遅くなるので、私は月の半分くらいはお父さんと一緒にお風呂に入っていた。

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

「なぁー良いだろ、あかり」

「よくありません、碁盤と碁石は高いんです! あげません」

「じゃー俺と碁で勝負して、俺が勝ったら使ってないやつ俺にくれよ」

「プロは賭け碁禁止です。ヒカル、いい加減にしないとお母さんに言うよ」

「ちぇッ なんだよケチ。もう良いよ」

「我がまま言わない。葉瀬中創立祭のたこやきチケット上げるから、これで我慢しなさい」

「なんだよこれ、………一応、貰っとく」

「わたし今度の日曜日もお仕事だから、一緒に行けないんだよ。ごめんね」

「はぁー 女と二人で一緒に行ったら皆の笑いものだろー 何言ってんだよ、あかり」

 

 はぁーは、私だよ。碁盤と碁石は本当に高いんだって、あげられる分けがないでしょ。そもそも私が勝負に勝ったら何が貰えるのよ、賭け事にもなってないじゃない。それとチケットの礼くらいは言ってよ…ヒカルはどうしてそんなに子供なのよ? もうすぐ中学生だよ。

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

「ヘイ ヘェーイ! なー先輩、あかりちゃんが遊びに来ましたよ」

 

 私立桜ヶ丘女子学院の中等部の先輩で、院生の奈瀬明日美(なせあすみ)のクラスに、私は入り浸っていた。院生に興味津々だった私は入学早々、奈瀬先輩に合いに行った。初対面の時、私を見た奈瀬先輩は、文字通り目が点になっていた。可愛いかった、なんかずるいぞ。

 

 碁打ちが仲良くなるには、一局打つだけで良い。私は素の実力で挑んで負けた…気持ち良いくらい相手にならなかった。その時は、適当なこと言って誤魔化した

 

「私は指導碁が、ありえないレベルで下手なのですよ。他人の分からないが、分からないから、指導碁に成らなくて。お師匠様や兄弟子様たちにも、指導碁の才能はゼロだと言われていますし、トホホって感じですよ」

 

「藤崎さん、これが天才の憂鬱なんですね。全力で挑んでくるアマチュア6~7段の人と戦っている感じでした。…ごめんなさい正直に言います、指導碁になっていません」

 

「ひどっ 傷つきました。バツとしてこれから私の指導碁の練習相手になって下さい」

 

「なにそれ、藤崎さんって面白いね。私の碁の勉強に付き合ってくれるんなら、良いよ。指導碁の練習相手引き受けるよ」

 

「本当ですか、嬉しいです。私のことはあかりって呼んで下さい。私は、なー先輩って呼びます」

 

「なー先輩………別に良いけど、あかりにはネーミングセンスもないわね」

 

「ぶーーー」

 

 と、まあこんな感じで仲良くなった。正直なところ奈瀬明日美(なせあすみ)先輩が普通にコミュニケーション能力のある人で助かった。囲碁界はコミュ障の見本市みたいな、イカれた世界だからちょっと不安だった。特に女流の人の化粧…あれは酷い、酷過ぎる、基本がなってない。オカメインコ見たいな…いや止めておこう。

 

 最悪な事に囲碁界では、プロ棋士どうしで付き合ったり結婚したりしている。プロ棋士だと一応“先生”とか呼ばれる。薄給のコミュ障なのにプライドばかり高くなった人達が巻き起こす、悲劇を通り超した喜劇の恋愛模様……先輩が普通の人で本当に助かった。なー先輩ありがとう。

 

 私と、なー先輩の日常は放課後に囲碁部で楽しく打ちながら、他愛のない会話をするものだった。お嬢様学校だけあって、部室に常備してあるお茶の葉は良い物揃いだった。アールグレイのミルクティに蜂蜜たっぷり、甘露・甘露。

 

「あーあ、院生やめちゃおっかなぁ」

 

「なんで、ですか?」

 

「あかりと碁を打っていると、囲碁に人生を賭けた凡人の自分と、天才との世界の違いを思い知らされるんだよねー」

 

「なー先輩、私は特別だから比べても意味ないですよ」

 

「自分で言っちゃうんだ、そう言うとこ凄いよね。囲碁は最強を目指すゲームなのに、私の目の前には絶対に越えられそうにない人が居て、それなのに囲碁にどうしようもなく惹かれる自分がいて、今打っている一局も楽しくてしかたない…私、普通じゃないな」

 

「なー先輩は、囲碁界の中では普通な方だと思いますよ」

 

「私はね、プロ試験で大きな挫折感を味わったんだよ。多分私は、プロにはなれなくて、囲碁でご飯を食べる事も難しくて…そんなの、自分で痛いほどわかっているのに、それでも、囲碁がこの上なく魅力的だから…院生を止められない」

 

「プロになりたいなら、女流特別採用棋士試験受ければ良いんじゃないですか? 15才から受験可能ですよ、お給料は5段以下だと正棋士の半分ぐらいですけど、5段になれば8割くらい貰えるらしいですよ。バイトしながら5段を目指している女流の人、沢山いますよ。なー先輩、プロに成るのは通過点ですよ、どの道を通っても良いと私は思いますよ」

 

「あかり、何かありがとう。救われたような気がする…別に、正棋士になれなくたっていい。なれないことはわかっている、それでも憧れだから、正棋士を目指し続けたい。ある種のモラトリアムだったよ。プロは通過点…そうだよね。私は囲碁が好き、止められない。女流特別採用棋士を目指すよ」

 

「頑張って下さい、微力ながら協力しますよ。なー先輩も一柳棋聖の一門に入ります? 紹介しますよ」

 

「普通に生きるのは難しいわ、当分院生で頑張るよ。それと、一柳棋聖の一門にも入りたいな」

 

「了解でぇーす。今からお師匠様ところに行きましょう」

 

「えっ今から?」

 

「今からです」

 

 奈瀬明日美(なせあすみ)先輩は、中学3年の義務教育最後の年に、自分の方向性を決める事が出来ずに揺れていた。将来をしっかりと考えていて、進みたい方向が決まっているのに、挫折して焦り、現実逃避して悔み、それでも前を見る強い人だった。

 

 〝私にプロは無理かも? どの方向に進めばいいの?〟

 〝プロになりたいの、正棋士が良いの〟

 

 なー先輩の悩みは分かった。私はプロに成りたいのなら、ウジウジ考えずに行動でしょ。と思ったので、思った事をそのまま言ったら、凄く感動された。

 私なんて塔矢アキラ君を苛めるのが、目的でプロ棋士に成ってしまったんだぞ。

 指導碁の練習と称して毎日全力で碁を打っていたら、私の棋力が上がって来た…。

 

「碁は二人で打つものなんだ」

 

 対戦の数だけ成長している相手も自分も、毎日微速ながら一歩づつ進んでいる。囲碁は楽しいな。なー先輩の気持ちが良く分かる。

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

 時は世紀末、1999年の夏休み。地球は核の炎に包まれなかった。私はクーラーがガンガンに効いた自分の部屋で、キンキンに冷えたコーラを飲みながら、学校の課題を熟していた。有名女学院に特待生で通っている私は、お仕事で学校休みがちだから…課題は特盛大サービスだった。隣では御先祖様が、ネット碁をしていた。ずっと毎日がエブリデイ、エブリタイム、囲碁していて飽きないのには感心する。

 

『あかり、この者の名は何と言うのでおじゃるか? 対局を申し込まれ、全勝だから受けたら恐ろしく強かった』

 

『えす えー あい…だから…… あっ! コレ人じゃないよ、人工知能だよ。スーパーAIの事だよ、中国のスパコンの囲碁ソフトが確か…絶倫αって名前で…えーと思い出せないけど、ネット碁やっているらしいから、多分それ』

 

『人工知能? スーパーAI?? スパコン・ソフトが絶倫???』

\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/アタシハダアレ?

 

『あーごめんなさい、ほらあれですよ、陰陽道で言う所の黄頭(とぅわんき)ですよ』

 

『とぅわんきぃー!! 驚いた、1000年も時が経てば黄頭が碁を打つのか…しかも、恐ろしく強かった』

 

『そうなんですか? 勝てました?』

 

『麻呂の中押し勝ちでおじゃる』

 

ヴィーン・ヴィーと、私のサイレントモードにしてある携帯が震動した。ディスプレイを見ると、緒方精次の文字が浮かんでいた。なんだろう?

 

「はい、藤崎あかりです」

「ちょっと訊きたい事がある」

「すいません、おじさんはちょっと…」

「藤崎、冗談はやめろ! お前はサイの知り合いか? そして俺はまだお兄さんだ」

 

 許さないぞ、塔矢アキラ君! 君のせいで白い変質者こと、緒方精次九段と知り合いになってしまったじゃないか! それにしても、何を言っているんだ。私にサイの知り合いなんか居るわけ無いでしょ、大丈夫か? サイが見たいなら動物園に行って下さい。それと私から見たら、緒方九段はおじさんです。

 

「違います。いま夏休みの宿題をしているので、電話切って良いですか?」

「まて、さっき……お前サイから勝負を申し込まれていただろ? しかも勝って………………」

 

 はっ? 何を…何を言っているの? サイが私に勝負を申し込んでくるわけないでしょ! 戦ったら100%私が死ぬでしょ。これは完全にアカンやつだ、いい大人が日中から泥酔している……恐ろしい事に私がサイと戦って勝つ幻覚見て電話を掛けて来た。………あれ? 静かになった…

 

「大丈夫…ですか?」

「藤崎、今からお前の家に行って良いか?」

「絶対にくるな!!」

 

 私は携帯の電源を切った。クーラーを効かせ過ぎたせいか、寒気と悪寒が走った。…なんか身の危険が…危ないから、今日は外出しない。

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

【ダイレクト三々!? (PRO)AKARIネット碁で魅せる。saiを粉砕! お前には何も上げない全部取る】…週刊『碁』の見出しが変だった。

 

 御先祖様がsaiにネット碁で勝利してから、とにかく携帯がよく鳴る。若手のプロ棋士達が大騒ぎして【藤崎あかりのダイレクト三々】とか勝手に命名した。しかもその呼び名がプロの間でも浸透して来ている。けれど、賛否両論! バブルの忌み子、名ばかり9段のお爺さん達が特に否定的だった。

 

 ネット碁の世界ではsaiより、【藤崎あかりのダイレクト三々】の話題で持ち切りだった。御先祖様が毎日のように、ネット碁でダイレクト三々を高段者相手に使用していたから、研究用の棋譜に事欠かない。と言うのも話題になる理由の一つだった。リアルタイムでは観戦者多すぎてサーバーが重くなりタイムラグが発生していた。ちょっと前までは五々の研究をしていたのに…御先祖様のその飽くなき探究心は何処から来るのだろう? まあ、アマチュア六段くらいの棋力しかない私には、ダイレクト三々はもの凄い悪手にしか見えないのですけどね…。

 

 アマチュア世界囲碁大会の出場者が、日本に集まって来ていた。その中の、中国の強い人が日本棋院で、藤崎あかりプロに逢いたい。と、駄々をこねた! それは良い、だーけーどぉー、私がタマタマ日本棋院いたから、と言う謎の理由で連れて来るな、いい迷惑だ。

 御先祖様が漢文出来たから、何とか筆談でコミュニケーション取れたけど、中国人の方が漢文に苦戦していたぞ。焦る彼は、見ていて少し面白かった。漢文は昔の東南アジアの公用語だぞ、もっと頑張れ、リ・リンシン。

 

 ちょっと時間に余裕があったので一局打って上げたら、リ・リンシンさんは御先祖様のダイレクト三々に中押しで負けたのに、滅茶苦茶喜んでいた。この出来事が大会出場者に知れ渡り、私はアマチュア世界囲碁大会の会場で四日間も指導碁を打つ破目になった。

 

 大会出場者のほぼ全員が、私のファンなのには驚いた。

 森下9段にお願いされたので、門下生で院生の和谷さんと一局打った。はっきり言って御先祖様の相手にはならなかった。それを何故か塔矢アキラ君が見ていた。次の日曜日がプロ試験の初日と言っていたので、一局打って上げた。御先祖様が異常に成長していたせいで、アキラ君も相手にならなかった。投了後にアキラ君が「僕はバカだ………もういい、寄り道だった」と、呟いた。その独り言が、何故か気になった…。

 まあとにかく、あかりちゃんは何処に行ってもモテモテ♥ だった。けど…私こんな所で何をやっているんだろ?

 

 大手合い公式戦・トーナメントで無敗のまま連勝記録を伸ばし続け、ネット碁でも大暴れしている藤崎あかりは、止められない! 最強女流正棋士の快進撃! 現状の女流特別採用棋士試験組では相手にならない、近い将来女流のタイトルを一人占めする。と噂された。

 御先祖様が連日連夜ネット碁で見せ付ける伸び続ける実力に、囲碁界がザワザワし始めた。それは良い、注目されるのは嫌いじゃない。だけど【saiを粉砕した女】こんな変な二つ名はいらない。勝手に変な二つ名を付けないで欲しい。

 

 よそ事を考えながら≪マコム全日本早碁トーナメント≫に臨んでいたら…【大ゲイマジマリのお腹にツケ】何コレ? 御先祖様はポルターガイストで私の体を動かせるから、碁の方はお任せしていた。そうしたら、また新手が出て来た。まったく理解できない、こんなの普通に白に受けられて…あたりして、下がられ…うん、白が整った良い形に…駄目ジャン! 御先祖様、何をしているの? 黒石重いよ…あれ? 壁が出来た…… あれれ? 形勢悪くない… なんで勝っているの? 理解不能…。

 

『あのー御先祖様、今の試合の解説お願いします』

『うむ、任せておけ。白は上辺から中央にかけての一団を大事に打つべきだったな…』

『ふむ、なるほど』

『ここはツギなら穏やかだったが、白はノビて頑張ったな…』

『あっそうか、なるほど』

   ・

   ・

   ・

 

 あかりちゃんは、碁が打てるから説明して貰えれば何となく理解できる…が、やっぱり【大ゲイマジマリのお腹にツケ】これは、悪手にしか見えなかった。

 若獅子戦・大手合いと私に連敗中の対戦相手だった倉田厚五段も、何が起こったのか? 何をされたのか? 理解できていない様子だった。ふむ、やっぱりプロの人が見ても【大ゲイマジマリのお腹にツケ】これは、悪手に見えるよね。まあ、それは置いておいて、

 

「倉田さん、私が勝ったから、お昼に約束通りうな重の特上奢ってね♥」

 

「藤崎あかり、…真の敗者とはッ! 開拓の心を忘れ! 困難に挑戦する事に無縁のところにいる者たちの事を言うんだッ! お前がどんなに強大で、俺がどんなにちっぽけでも、何度踏みつけられ奪われても、俺は立ち上がる! 俺は弱くない! 俺は倉田厚、諦めの悪い男! 約束は守る!!」(T_T)

 

「うな重一杯で大袈裟ですよぉー。泣かないで下さいよー私が苛めている見たいじゃないですか」

 

「ふじさきぃー、棋士はなぁーーー!! 誰でも、最強ってのを夢見るんだよぉー 囲碁が、囲碁が大好きなんだよぉ! お前は強すぎる、心が折れそうだ。俺が年下の女子を尊敬するとは思わなかった…!! 自分にとって本当に怖い奴は、下から来るんだ。それがお前だ藤崎」(T_T)

 

「男とか女とか、年上とか年下とか、そんなに大切なコト? 頑張ろうって思える目標ができたんなら、良かったじゃないです? だったらこんな所で、泣いてるヒマはないでしょ、取りあえずお昼に行きましょうよ」

 

 私はこの時TVカメラの存在を完全に忘れていた。録画だったし、こんなやり取りを放送するとは、夢にも思っていなかった。私の新手に成すすべなく敗北し、大号泣しながら魂の叫びを上げる倉田厚五段の様子が放送された結果、彼の株が爆上がりした。私は男性棋士にご飯をたかるのは控えめにして下さい。と、日本棋院からやんわりと注意された…。

 

「わたし悪くないもん」

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

「第14期NCC杯 囲碁トーナメント戦の聞き手ですか? 嫌です」(`^´)

 

「藤崎初段も囲碁界のことはよくご存じでしょう? 忙しいところ申し訳ないのですが…囲碁界の未来のために藤崎初段にお願いしたいのです。私達も出来る限りのサポートを行いますので、助けていただけませんか?」

 

「断る! 拙者、働きたくないでござる!!!」<(`^´)/ガシイッ

 

「………分かりました。本日は相談にのっていただき、ありがとうございました。急なお願いで、すみませんでした。また機会がありましたら、そのときはよろしくお願いします」

 

 日本棋院からの電話は、碌なものが無い。

 

 私は、働きたくないでござる!!! 

 絶対に働きたくないでござる!!! 

 義務であろうと働きたくないでござる!!!

 

 今の日本には、完全失業者が、働いていない人や仕事をしていない人が150万人以上いる。新聞にそう書いてあった。新卒の就職後3年以内に離職する割合が、高卒で約4割、大卒で約3割と言う現状だ。日本には仕事をしていない人が沢山いる。

 

 就職後早々に会社を辞める人、仕事を辞めてしまう人が4割近くもいる。大人たちが働かないのに、なぜ現役中学1年生のあかりちゃんが休日に仕事をしないといけないんだよ。

 私には、働かなくても養ってくれる親がいるんだぞ!!!

 

 ダンダンダンッ ダッツダ~♪

 あっ♥ ヒカルから電話だ。

 

「はい、あかりです」

「もしもし、あかり。俺だけど、ちょっと頼み事があるんだ」

「なあにヒカル、お小遣いも碁盤も碁石もあげないよ」

「ちげーよ! そうじゃねぇーよ12月の院生試験が受けたいんだよ」

「私プロだけど院生について詳しくないよ。あっそうだ、奈瀬明日美(なせあすみ)先輩が現役の院生だった。今日会う予定あるから。上中銀座のたこ焼き屋に4時に来られる? どうせヒカル金欠でしょ奢ってあげるよ」

「まじで、サンキューあかり。たこ焼き屋に4時だな、絶対に行くから」

 

 この後、なー先輩とヒカルと私3人で、たこ焼きを食べながら話し合った結果、申込み期限を過ぎた院生試験を受けるには、一柳棋聖の一門に入って推薦して貰うしか思い付かなかった。私達は全員中学生なんです、こんなもんです。

 

 団碁虫にヒカルを連れて行き棋力を計って見たら、結構強くなっていた。本当に偶然だけど、なー先輩とヒカルの対局を見ていたら、お師匠様も見学に来たのでダメ元でヒカルを紹介して見たら…弟子にしてくれた。そして何故か私が、第14期NCC杯 囲碁トーナメント戦の聞き手のお仕事を受ける事になった。やだなぁーTVのお仕事。

 

「お師匠様を経由して、私に仕事持って来るのは卑怯だと思う」

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

「先輩! 今! 見ていましたね!」

 

 オカルト研究部の部室内、窓の近くにいた黒髪ロングの女生徒の視線は、私が部室に入った時から御先祖様に向かっていた。幸いな事にオカ研には黒髪ロングの先輩一人しかいなかった、絶対に逃がさない。

 

「なっなにを言ってるのかなぁ?」

 

 私は、2年の学年章を付けた先輩の両腕を逃げられない様に掴みながら、顔を近づけた。そして、正面から先輩の目を見つめながら、

 

「嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! だ!! 暇だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 暇だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!!」

 

「………お、おちつ」

 

「先輩、嘘つくと祟りますよ」

 

「やめて………」((((;゚Д゚;;;)ノノ ヒェェェェー

 

「で、どうなんです?」

 

「見えています。ベクシンスキーの絵画みたいな、頭が9個もある悪霊が…」

 

「べくしんすきー………? まあ、いいや」

 

 やった、霊能力者一人確保成功! やだ、口角が上がっちゃう♥

 私の誠実な態度と、人並み外れたコミュニケーション能力おかげで先輩の懐柔に成功した。力ある本物の陰陽師探しの協力者を、オカ研に確保することに成功した。

 この時知り合ったオカ研の副部長、黒木美佐さんはこの後に色々あって、私と日本全国の心霊スポットを一緒に巡る羽目になる。

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

 あたし藤崎あかり、15才中3。性格は人よりちょっとオッチョコチョイ。ある時、玉穂(たまほ)の封印を解いて美少女妖狐になっちゃって、大瀬一族と戦うはめになって、不安たらたらって感じ。でもま、なんとかなるか…

 

『あのぉ~玉穂(たまほ)? ヒカルに憑いていた悪霊が見えないけど…何処にいったの?』

『うむ、離れたな。今は何も憑いていない』

『なんで?』

『我が思うにヒカルが精通したからだな、憑いていた悪霊は女性だったしのう』

『すいません、理解できません』

『精通したての若いオスは、毎日5・6回性処理するぞ。あかりは見たいのか?』

『…嫌です。えーと、話は変わるけど、玉穂(たまほ)は私から離れられたり…』

『しないのう』

『血の盟約って、かい…』

『解約できるわけないのう、ずっと一緒じゃのう、身も心も』

『ですよねー』

 

 どーすんのよコレ! 

 龍道(ロンマツ)を、私も御先祖様も弄れないし、腕の良い陰陽師なんていくら探しても現代にいなかったから、滅茶苦茶怪しい霊能力者に教えて貰った平安時代に悪い事して封印されたお狐様と、2年くらい前に血の盟約を結んじゃったじゃない。

 

 黒木美佐先輩から紹介された、私から150万円も取った滅茶苦茶怪しい霊能力者に、玉穂(たまほ)と盟約結んだ後にお礼を言いに行ったら…私の事を見て気絶した。本当に妖怪も見える本物の霊能力者だった。当時の私は、人を見た眼で判断して、先輩から紹介された人を滅茶苦茶怪しいとか思っていた事を、深く反省した。

 

 

 

 

 

●○●○●

 

 

 

 

 

 その日、私は夏休みの学校で、龍道(ロンマツ)を弄る練習をしていた。園芸部の温室、その一角で私が勝手に育てているサボテンに龍道を通して栄養を注いでいた。艶々と生命力が溢れるサボテンを眺めながら思った、『わたし凄いな、完璧に力を使える』………ここまで辿り着くには色々あった。本当に色々あった…

 

 岐阜県の山奥にある神社。高い階段を登った先にある神社の裏にある小さな祠、そこに玉穂(たまほ)は封印されていた…立ち並ぶ杉ばやしに、何重にも張り巡らされた注連縄。霊感のまったくない私にも、注連縄の中が神域でないことは一目で分かった。光りすら吸い込むような漆黒の空間…そう感じた…。ダメもとで祠に話しかけて見たら、驚く事に返事が帰って来た……。

 

『はーいで、ありんす』

「えっ? ありんす?」

 

 玉穂(たまほ)は話して見たら良い妖狐だった。私が玉穂の力を借り受けるには、血の盟約を結んで玉穂を封印されている祠から解放する必要があった。血の盟約を結ぶには、対価を払う必要があったが…五感の共有と言う私にはデメリット無い物だった。人化した玉穂(たまほ)は、絶世の美女だったし、血の盟約を結ぶと将来的に私の見た目が、人化した玉穂(たまほ)に似ると言う、むしろウエルカムな話だったので、血の盟約に挑んだら………まさかの、大失敗!!

 

 私と玉穂の魂が混じってしまった。私は魂が半妖狐になってしまった。気を付けていないと、思考が混じる。自分でもどっちが喋っているのか、分からない時が多々ある。

 

 それから黒木先輩と私と玉穂は、龍道を操る力を得るための糧にするため、日本全国の心霊スポットを巡った。玉穂が怨霊や、あやかしを沢山食べて、八尾の妖狐から九尾に成るのに2年ちょっと掛かった。

 

 九尾になった今の私が霊力を全て解放すると、霊感ゼロの人にも目視可能な九本のシッポが生える。鏡で確認したけど、なんか可愛いからお気に入り♥ キュートな耳も生える♥ ピンと長いヒゲも意外と可愛い、似合ってる♥ 九本のシッポは通常時は剣道の竹刀ぐらいの長さで、フサフサのモフモフだぞ。シッポは大きくなったり、伸びたり、硬くなったりして、私の意志で自由自在に動かせるから、攻防に使用出来て戦闘時とっても便利だ。

 

 私が初めて大瀬一族に逢ったのは1年ちょっと前だった、その時まだ八尾だった私は『力ある陰陽師いたのかよ!』と心の底から驚いた。場所は都内最恐最悪の高架下付近のあそこ、良くない者が集まる淀んだ場所。そこで玉穂と融合した八尾の妖狐な私が、お食事をしていたら、深夜に人間とバッタリ逢ってビックリ見たいな感じだった。だけど…いきなり、

 

「お前、チャトラを喰ったな」

 

 私は身に覚えが合ったので、影の中からまだ吸収しきっていない【ちゃとら】だった物を出して訊ねた。

 

「ちゃとら? もしかして、この雷ピカピカの大きいピカチュウの事か? 妾が倒したから、喰ろうたが問題があるのか?」

 

 大問題だった、百面の者とか言う悪い妖怪と戦うための、捕まえて戦力にする予定だったらしい………ポケモン? 見たいだな。

 私達は百面の者の討伐に、協力してくれと要請された。だが断った。理由は、私がヒカルに憑いた悪霊を払ってくれたら協力すると言ったのに、向こうが断ったからだ。

 

 大瀬一族がヒカルに憑いた悪霊を調査したところ、大きな術式行使して貴重な法具を使い潰さないと祓えないらしく、今の我々にはそんな時間も余力も無いとの事だった。なのに、私には自分たちの崇高な使命? を、手伝えと言う。協力と強制の違いも分からない馬鹿の相手はしたくなかったので、以後どこであっても完全に無視した。とても強力な狐憑きと勘違いされた私は、大瀬一族に目を付けられてしまった。

 

 大瀬一族は、九尾に成った玉穂を私から奪って戦力にしようと、何回も呪術戦を仕掛けて来た…そんな事、出来る訳ないでしょ! 玉穂はあかりちゃんだぞ。いい加減しつこいので、呪術を呪い付きで返してやった。

 お前らの知らない失伝した平安の知識を持つ妾を、あかりちゃんを甘く見るなよ! 楽しいおまけ付きで術を返してから、大瀬一族は静かになった。

 

 あれから一ヶ月ちょっとか…今まで本当に色々あったなぁー。

 私が学校で龍道(ロンマツ)を弄る練習をしながら、感慨に耽っていたら…ケダモノの鉾とか言う神具を持った少年に襲われた…また大瀬一族? 御先祖様と玉穂が『あの鉾は拙い』と警告を発したので、私は大声を上げて全力で逃げた。

 

「きゃー 変質者ですぅー 誰かぁー たーすーけーてー」

 

 日本の三大お嬢様学校【清く・正しく・美しく】のキャッチフレーズで有名な、私立桜ヶ丘女子学院の中で、刃物を振り回した長髪のカツラを被った少年は、桜ヶ丘の優秀な警備員に捕獲されて、鑑別所送りになった。そのまま少年院に行ってしまえ! 帰ってくるな! そして私は、TVや新聞に【藤崎あかり、女流棋聖・女流名人・女流本因坊。私立桜ヶ丘女子学院内で、ナイフを持った少年に襲われる】と報道されて、世事を騒がせた。

 

 まあ…なんだ…とにかく色々あったけど、修行の成果で悪霊だけを消滅させてヒカルの霊魂には傷を一つ付けない、そんなレベルの龍道のコントロールが出来るようになった気がするので、ヒカルに会いに行ったら行方不明になっていた。そして………ヒカルが帰って来たと思ったら悪霊はいなかった…私は、泣いても良いと思う。

 

 玉穂は、あの有名な九尾の玉藻前(たまものまえ)の娘だけど、平安基準でブスだったせいで母親に捨てられ、陰陽師に追い回され京都から追い出されたあげく、色々あって封印された。と、言う中々の過去を持っている。因みに三姉妹の三女で上に、白穂と水穂と言うお姉さんが居る。二人とも稲荷神社で神様しているそうだ、…まだ、生きているかな? 落ち着いたら一度逢いに行こうかな? その前におひい様に挨拶にいかないと…………。

 

 玉穂との出会いの時に、私に力を貸して下さいって言ったら玉穂が、

 

『主は、愛する男を助けるために、女を棄て…我と酷似した身姿に成れるのかの?』

『成れますよ』

『えっ即決…』

『いいですよ、血の盟約結びましょう』

『これが…真実の愛…見返りを求めない…』

 

 見たいな会話で、血の盟約に挑んで大失敗してしまった。もう後戻りできない、コーヒーと牛乳を混ぜるとコーヒー牛乳に成るけど。コーヒー牛乳をコーヒーと牛乳に分けるのは不可能に近い…。

 あー考えが足りなかった…もう良いや、あかりちゃん将来絶世の美人さん確定だから。

 今では私を一目見ようと、学校の正門に他校の男子が集まるし、大手芸能プロからスカウトが色々と来ているし…。芸能プロの人曰く、中学生とは思えない妖艶な色気が出ているらしい。

 

「15才にしてGカップのワガママボディーは、伊達じゃない!」

 

 ただねぇー困ったことに、同性にも怖いくらいモテるのよねぇー本当に…。学校で廊下を歩いていると、「あかりお姉さま、今日もお美しい」とか普通に聞こえて来る。同性から恋文を毎日もらうし…私の下駄箱はポストと化している。美人過ぎて日常生活に支障が出てきて、少し困っている。

 そして一番の問題は…

 

「私…同性好きかも♥ 小さい子、好き♥ やわらかくて美味しそう♥」

 

 

 

 

 

●○●○●

 

「けだものの鉾…多分、大瀬一族だな、今回は祓霊儀礼四式じゃなかった。アイツら直接あかりちゃんを、妾を狙ったな! 頭に来た、許さないぞ、目にもの見せてやる。戦争だ!」

 

●○●○●

 

 

 

 

 

 あたし藤崎あかり、15才中3。美少女妖狐♥ 食べたあやかしの能力を奪える普通の女の子。今の見た目は、バーコード頭のリーマン親父。半妖狐の私は化けられる、普通の人には見破れない。見破れる分けがない、写真や動画にも普通に化けた姿が写る。そんな私の事を追尾監視しているハイエースを、鎌鼬(かまいたち)の能力で華麗に七枚にスライス。道路に出来た赤い水溜りがちょっと怖い…。

 

 あれ? 荷室に人が乗っている気配なんて、まったくなかったんですけど…。まあ、殺っちゃったものは仕方ない、先に仕掛けて来たのは向こうだ。私が指をパチッと鳴らすと同時に放たれた狐火が、ハイエースから漏れ出たガソリンに引火した。東京駅前は立ち昇る黒煙と、人だった物が焼ける悪臭でパニックになった。

 

 まったく便利な世の中に成ったものよね、少しインターネットで調べれば情報なんていくらでも手に入るし、お金を使えば個人情報も簡単に手に入る。あんな奴ら集団に成らなければ、ちっとも怖くないから、大瀬一族を各個撃破と洒落込みますか。私は行動を開始した…

 

「私あかりちゃん、今名古屋駅にいるの」

「な…プッ」

 

 私は、大瀬一族を分家から一つ一つ潰して行く事にした。もちろん常識人のあかりちゃんは、来訪する前に一報を入れる事を忘れない。目的地付近をマップルで確認していたら、高速バスが私の降りる停留所に着いた。

 

「わたしあかりちゃん、今トヨタインターにいるの」

「まってくれ、話を…プッ」

 

 聞くわけ無いでしょー。

 

「わたしあかりちゃん,今おおきい中日新聞のところにいるの」

「たのむ! はな・・プッ」

 

 聞かないよー

 

「わたしあかりちゃん、今セガの吉牛にいるの美味しいの」

「dfghジョkpm;ンbjkvcgxsrtヅフィgkhcjgdhxsy…」

 

 効かないよぉー 陰陽道の田の木、陰陽寮うらつかの、準備不足で人柱も立ててない調伏咒文なんかが、妾に効くわけがないよねぇー

 

「わたしあかりちゃん、今割れ目池にいるの、もう見えるの」

「zxcvbんm、。・うぇrちゅいおp;lkmんbvcxsdrちゅいkmんbvcxs…」

 

 無駄無駄無駄無駄ァーーーッ 私はぁーッ 誰でも知っている超有名な九尾の子孫だぞ!

 

「わたしあかりちゃん、今家の前にいるの」

「たららたたらたたたんちたた・・・・・・・・・・」

 

 シマクラサーからの海人山王悪魔払い…沖縄中華系? いいですねぇー死を覚悟した完全捨身の呪術………いいねぇー。いたたっ、少し効いた。

 

『これが霊傷…………くふふ』

 

対価に何を差し出した? 九尾のあかりちゃんに、妾の痛覚に干渉するために、何を棄てた? あれは…三毬杖かな? 庭で木や竹を三叉に組んだものが燃えていた…天辺には、切り落としたばかりに見える血が滴る右腕と男性器があった。

 玄関の主柱につながれた三匹の社畜が、家を守ろうと必死に私に吠えて煩かった…

 

『「怨」』

 

 三匹の社畜が、爆竹を詰め込まれたカエルのように同時に爆ぜ、血の散華になった。

 

「くふふっ 綺麗…」

 

……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……

 

 天井から赤い雫が落ちる玄関

 

……ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ……

 

 血溜りが大きくなって行く中、陰湿で薄気味悪い音を立てながら…私は、

 

 玄関から入った…そこは土間で…右腕の無い初老の男性が絶命していた…。

 

「わたしあかりちゃん、今あなたの目の前にいるの」

 

 

 

 

 

※中日新聞のところ……中日新聞印刷(株)豊田工場。今はない大府市に引っ越した。

※割れ目池……実在します。地元では有名なパワースポット。バス釣りも出来るぞ。

●○●○●

 

 

 

 

 

「わたしあかりちゃん、今ルネス金沢にいるの。オレンジ色のタオルが使い放題なの」

 

 私はお盆に帰省するお父さんに同行して、石川県に来ていた。お母さんと栞お姉ちゃんは東京に残っている。栞お姉ちゃんが中3の春に突然、

 

「世のため、人のため、私は医者に成る!」

 

 と、言い出して鬼気迫る勢いで猛勉強を始めて、本当に超有名進学校の、バ・サール高等学校に合格した。有言実行、ちゃんと結果を出した栞お姉ちゃんに、父さんと母さんが感激して我が家はお姉ちゃんの夢を叶えるため、全力サポートする体制になった。私が遊んでいる今も栞お姉ちゃんは、医療系の授業料がもの凄く高い予備校で勉強している。

 

 栞お姉ちゃんの事は置いておいて、私はルネス金沢のプールを堪能していた。

 石川県民のソウルフードと言えば、【すしべん】肉うどんに揚げ物トッピングが通! そして羽咋といえばUFO【そうはちぼん】のコスモアイル羽咋で有名。コスモアイル羽咋と言えば、最近設置されたジョジョ石でも有名。私がお父さんと一緒に石川県にきた目的の一つがコレそして…。

 

 私の目的地は、眉丈山の中腹にある洞穴の中の祠。洞穴の入り口には野槌土蜘蛛(クモの妖怪)がいた。…私は霊力を解放する、キュートな耳とシッポとヒゲが具現化する。

 

『久しいな田辺丸』

『生きていたのか、玉穂』

『おひい様に、お逢いしたいのじゃがご壮健かのう?』

『ああ、通れ』

 

 祠の前で、正式な作法を持って柏手を打つ! 

 水母娘々(すいぼにゃんにゃん)中国の神様だけど日本でも祀られている。玉穂は京都から追いかけて来た陰陽師から助けてもらい、水母娘々様に200年ほど仕えていた過去がある。…玉穂は過去に神獣をしていた。 

 魂が融合している私は玉穂の記憶を見られるので、少し覗いてビックリした。玉穂は眉丈山を出た後に流れ付いた村の村民に請われて、岐阜の小村で鎮守神(一定区域の土地を守護するために祀られた神様)として祀られた。

 

 江戸時代に飢饉が続いた事があって、守護していた村が隣村と水利権を巡った争いが発生した。その時に、火起請(ひぎしょう)や、鉄火起請(てっかぎしょう)と言われる村同士の争いを解決するために神仏の前で行われる儀式に介入して、玉穂が守護する村を勝たせてしまった。長く続く飢饉の中、自分の守護する村を勝たせ続けた結果………隣村七つが飢餓で壊滅した。

 

 壊滅した村の出身者の中にとても優秀な陰陽師がおり、帰郷した彼が玉穂の行いを見抜いてしまった。家族・親族が死に絶えた陰陽師は怒り狂った。陰陽師の命と壊滅した七つの村の怨念を束ねた力を贄とした術で、玉穂は封印されてしまった。

 玉穂は昔、神様をしていたのか? などと考えていたら…気が付けば真っ白い空間に浮いていた。

 

《久しぶりに逢えて、嬉しい。元気そうで良かった。今日は何のよう?》

 

 言葉じゃない。イメージと言うか感覚が直接脳内に届いた。

 

『百面の者について、教えて欲しいのじゃ』

 

《寛永の大飢饉のときに、人々の恐怖心によって想像された魔王、それに餓死した人々の怨念が集まり形をなしたもの、今は沖縄の化外の地に封印されている、封印が解けると日本に大地震、大津波、大風、大雨などの、自然災害が発生する、封印が弱まって来ている。すでに天変地異の予兆が始まっている》

 

 淡々と頭の中に伝わってくるイメージと言うか映像と感覚……まずい……非常にまずい……。大瀬一族を倒すと日本が滅んじゃう。今後は向こうから仕掛けて来ても、殺さない様に気を付けよう。そしてなるべく早く和解しよう、少し位の妥協は甘受しよう。協力もする、もの凄く疲れるから本当は嫌だけど…超位術式の使用も辞さない。

 今の景気の悪い日本に、空前絶後の自然災害は非常にまずい、経済的に立ち直れなくなって、日本の経済が滅んじゃう。

 それにしても、飢饉で亡くなった人々の怨念の塊だから、百面の者だったのか…。

 

「・・・・と言うわけで、50mオーバーの津波とか大変な事になるんで、黒木先輩の霊能力者ネットワークを駆使して大瀬一族に、私が和解を希望していると伝えて下さい」

 

「話は聞かせて貰いました。このままだと、人類はノストラダムスの予言通り滅亡します!」

 

「な・・・・なんだってーーーーー!!」

 

「藤崎さん、日本に沢山ある原子力発電所は最大で30mの津波にしか対応していないの。50mの津波に襲われたら、大量の放射性物質が海に流出します。放射線でプランクトンが大量死して、食物連鎖が崩壊します。海産食料が死滅して世界規模の食糧危機が発生します。更に、年間90億tもの二酸化炭素を吸収していた海が、二酸化炭素を吸収しなくなり、地球温暖化どころか、大気の密度が変化して世界中で異常気象が発生します。食料生産に大きな影響が出て、世界規模の食糧危機を加速させます。そして一番恐ろしいのが、スーパーバグ(ウイルス)の出現・・・・・」

 

「それはないですよ! あんまりです! 先輩、今2001年ですよ」

 

「ノストラダムスは、1999年に人類が滅ぶとは言っていません」

 

「!! なんですって!!」

 

「私の推測が正しければ…未来は多重分岐している!」

 

「はっ? 先輩? 何を言っ…」

 

「そうか、わかったぞ! ヨハネの黙示録、子羊が七つの封印を開封する…第三の封印、黒い馬。飢饉をもたらす…」

   ・

   ・

   ・

 

 あー黒木先輩が暴走始めちゃった。これさえなければ、良い人なのに。お嬢様ミッション・スクール、オカ研の副部長は伊達じゃないな。先輩は学年トップ成績の才女で霊能力もあるから、話に妙な説得力があるから困る。

 

「人類、滅びないよね?」

 

 

 

 

 

※ルネス金沢……今はない倒産しました。

※ジョジョ石……実在します。

●○●○●

 

 

 

 

 

「あかり、俺と付き合ってくれ」

「えっ! やだよ。ヒカルは私の好みじゃないよ。ってか、私の事は姉弟子様って呼んでよ」

 

『『えェー』』

『なに?』

『…いえ、何でもありません』

 

「なっんでだよぉー」

「あたし塔矢アキラ君と付き合っているの…知らなかった?」【嘘だけど】

「……………そう、なんだ」

「うん♥ ヒカルは自分を知った方が良いよ、私がヒカルと付き合う? そんなオイシイ話があると何故思えるの? 妾がお前のような子供と…」

「えっ…」

 

 私は、ムカついたからマックでヒカルを振った。何でマックなのよ? センスの欠片も無いじゃない、そう言う所だぞ。ヒカルの顔が完全に死んでいた…断られるとか考えてなかったな、なんで男の子は自分に都合の良い妄想通りに事が運ぶと、思えるのだろう? 不思議…もっと客観的に自分を見られないの? はっきり言って子供だよ、自己中で自分の事しか考えてない。ヒカルが告白したあかりちゃんは、昔あなたの事が好きでした。そして今は、嫌いです。

 

 ヒカルは私を好きじゃない、私を見ていない…。何を見ているの? 私を誰の変わりにしようとしているの? 傷つくのが怖いの? 逃げるの? 何も言ってくれないから、何も分からない。理解し会えないなら、付き合えないし意味がない。どうして私を見ないの? 子供は嫌いなの。残酷だよ、ヒカルは子供過ぎる。私は聖職者じゃない、ヒカルのお母さんに成れない、ドラえもんでもない。ヒカルはいつ大人になるの?

 

 私達の周囲に重い空気が流れて嫌な沈黙が続く中で、私は普通にオレンジジュースを飲みながらテリヤキマックとポテトのSを、もぐもぐ食べた…そして、

 

「私、この後用事あるからもう行くね。さよならヒカル」

 

 

 

 

 

藤崎あかり、女流棋聖・女流名人・女流本因坊にして、

美少女妖狐の戦いはこれからだ! ふぉっくす♥ ふぉっくす♥

 

 

―完―

 

●○●○●

 

 

 




最後までご愛読ありがとうございました。

追記:評価付けてくれた方、ありがとうございました。
   誤字報告をして下さった方、ありがとうございました。


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