とある夏のひと時。
口調とか解釈とか自信ゼロなので、荒くても許してください。
八月の日差しは、肌に刺さる。
「ふえぇぇ……あ、暑い……」
日除けの麦わら帽子に、変装目的のサングラス。
日焼け止めも塗って準備万全だった道明寺歌鈴だったが、真夏の東京は想像以上の厳しさだった。
「せっかくのオフだから散歩でもと思ったんだけど……暑いよぉ」
都会のビル街は歌鈴の地元奈良より暑い。
同じ事務所のアイドルである高森藍子に憧れて散歩に出た歌鈴だったが、流石にこの暑さには参っていた。
歌鈴は手に持ったビニール袋に目をやる。
「一応目的は果たしたし……潔く女子寮に帰ろう」
猛暑には勝てなかった。
服の下では汗もかいている。
歌鈴は「しかたない」と自分に言い聞かせながら、帰路につくのだった。
◆
そして女子寮の歌鈴の部屋にたどり着く。
エアコンを切っていた部屋は、既に蒸し蒸しとしていた。
節電を意識した事を、歌鈴は少しだけ後悔する。
麦わら帽子とサングラスを外して、部屋の奥へいく。
「エアコン、早く効いてぇ」
そんな事をごちりながら、とりあえずリモコンを操作する。
だがすぐには冷えてくれない。
神に祈ったところで、文明の利器は己のペースを守り続けるのだ。
ふと、歌鈴が時計を見ると、針は十一時を示していた。
「いい時間に帰れた、のかな?」
ちょうどお腹の虫も鳴き始めている。
歌鈴は今日買ってきた物が入っているビニール袋に目をやると「よし」と呟いて、中身を取り出し始めた。
「今更だけど……ちゃんと全部揃ってるよね?」
スマホに書かれたメモと、ビニール袋の中身を照らし合わせる。
いつもの歌鈴なら、ここでうっかり何かを忘れていたりするのだが……
「よかったぁ、全部ある」
幸いにも今日は問題無しだったようだ。
「よーし、お昼ご飯作るぞー」
ただの昼飯作りなのに、腹に気合いを入れる歌鈴。
これがドジを警戒し過ぎた物の姿である。
「あかりちゃんに教えてもらったレシピを開いて〜」
スマホにSNSの画面を出す。
そこには後輩アイドルである辻野あかりから教えてもらったレシピが書かれていた。
「まずは材料を全部みじん切りにする」
歌鈴は買ってきた野菜を取り出す。
きゅうり、茄子、茗荷、大葉だ。
「きゅうりと茄子を切って……」
部屋に備え付けの台所で、歌鈴は包丁を握る。
ゆっくりゆっくり、細心の注意を払い過ぎながら、野菜を切っていく。
刃物を持っている時にドジは避けたいのだ。
「で、できた!」
数分後、まな板の上にはぶつ切りにされた野菜類が並んでいた。
「ふっふっふ〜、ここまできたら私のもの〜」
上機嫌な様子で、歌鈴は棚からある物を取り出す。
「今日の秘密兵器。100均で買ってきたぶ◯ぶ◯チョッパー!」
所謂みじん切り器である。
歌鈴はそれの蓋を開けて、ぶつ切りにしたきゅうりを入れた。
あとは持ち手を引っ張るだけである。
「これならドジな私でも簡単にみじん切りができます」
鼻歌歌いながら、歌鈴はみじん切り器で野菜細かくしていく。
ものの数秒で、四種の野菜は粉々のみじん切りと化した。
「えっと、次は……容器に入れて」
用意してあったタッパーに刻んだ野菜を投入する。
「かごめ昆布入れる」
レシピを教えてくれたあかり曰く「粘り気がポイントんご」らしい。
「あっ! 調味料作ってなかったぁ!」
大慌てで歌鈴は冷蔵庫を開ける。
取り出すのは醤油と味醂。日本料理の基本だ。
「耐熱ボウルにお醤油と味醂を入れてぇ」
大さじで1と2入れる。
あとは電子レンジで加熱すれば、味醂アルコールは吹き飛んでしまう。
「レンジでチンってなってたら、調味料を野菜に入れてぇ……」
タッパーの蓋を閉め、冷蔵庫に入れる。
「一時間なじませれば、あかりちゃん直伝『山形のだし』完成!」
となれば、完成するまで暇になってしまう。
歌鈴は洗い物をさっさと終えると、ベッドの上に沈み込んだ。
「はふぅ」
なんて事のない静寂が耳に入ってくる。
歌鈴は一人自室の中を見つめていた。
「……色々あったなぁ」
奈良県から上京してきて、初めての夏。
時間こそそれ程経ってはいないが、歌鈴に色々回想させるには十分な濃度があった。
プロデューサーにアイドルとしてスカウトされた事。
アイドルとしてデビューし、色んな仲間できた事。
ライブをした事。
生活も変わって、服が増えて……歌鈴自身が変化を感じずにはいられない事など。
ドジは中々治らなくて、周りにも迷惑をかけてしまっている。
だけどそれを受け入れてくれる人達が、今の歌鈴の周りにはいるのだ。
「プロデューサーさんに藍子ちゃんに……良い人がいっぱいだなぁ」
アイドル活動は大変な事も多い。
だけど、それが気にならなくなる程、楽しい事も多いのだ。
明日に思いを馳せて、明日が楽しみになる歌鈴。
それもきっと、仲間やプロデューサーが彼女を受け入れてくれたおかげだろう。
歌鈴はカバンの中から一枚の紙を取り出す。
次の新曲の歌詞だ。
「頑張らなきゃ」
大切な人達を笑顔にするためにも。
明日を良くするためにも。
歌鈴は歌詞を読み込んで、次のライブに備える。
歌詞を読んで、軽く歌っているうちに、時計の針は十二時を指していた。
ちょうど歌鈴のお腹も、大きく声を鳴らし始めている。
「もう出来たよね?」
歌鈴は冷蔵庫を開けて、タッパーを取り出す。
中身を少し味見。
「うん! 美味しく出来た!」
ならば次は主食の調理だ。
「たしかまだあったよね?」
食料棚を探る歌鈴。
数分もしない内に、お目当ての物は見つかった。
「あった! お母さんが送ってくれたそうめん」
桐箱に入った、いかにも高そうなそうめん。
地元奈良県の名産品、三輪そうめんだ。
「お鍋にお湯を沸かして〜」
ガスコンロで火をかけてしばらく待つ。
すると徐々に、ぐつぐつと鍋の中沸騰してきた。
それを確認した歌鈴は、桐箱からそうめんを二束取り出して、鍋に入れた。
「一分ちょっとで出来上がる早さも、そうめんの魅力だよね〜」
歌鈴言う通り、一分ほどでそうめんは茹で上がった。
網に移して、湯切りする。
「ボウルに氷水を作って〜」
網ごとそうめんを投入する。
まだまだ熱いが、歌鈴は頑張ってそうめんをかき混ぜて冷やす。
「あつっ!? うぅ、負けそう」
途中何度か挫けかかる。
だが氷の冷たさが、すぐにそうめんを完成させてくれた。
「できたー!」
あとは器に盛り付けて、水割りしためんつゆをかける。
そして本日のメインイベント。
「この山形のだしを……そぉい!」
そうめんの上に派手にぶっかける。
これにて完成。
「山形のだしのぶっかけそうめん! できました〜」
キンキンに冷えた、夏の風物詩の爆誕である。
「それじゃあ、いただきます」
テーブルに移動して、いざ実食。
ツルツルと心地良い音が、部屋に鳴る。
「ん〜。美味しい」
きゅうりと茄子。瓜科の爽やかさに加えて、茗荷と大葉の清涼感。
夏の不快な暑さを吹き飛ばすには十分な力を持っている。
そこに力を乗算するのはそうめん。
日本の夏を彩る爽やかな麺が、山形のだしを更に進化させる。
「あかりちゃんに後でお礼言わなきゃ」
奈良と山形のコンビネーションで、夏を乗り切る素敵メニューが完成した。
食欲が落ちがちな真夏でも、これなら食べられる。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
清涼感溢れるメニューを食べて、歌鈴は身も心も満たされていた。
エアコンも効き始めている。
涼しい風も相まって、歌鈴は蕩けるようにテーブルに突っ伏した。
「あぁ……夏だぁ」
ついつい蕩けた声が漏れる。きっと実家なら家族に注意されるだろうが、一人暮らしの今は気楽なものだ。
たまにホームシックになる事もあるが、それが今日でも明日でも、きっと乗り越えられる。
「明日はなにするんだろうな〜」
自室で涼をとりながら、歌鈴の東京での夏が過ぎていった。