また君と、今度はずっと 〜If you can Cross to tomorrow〜   作:Simca Ⅴ

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#13『こんにちは、栗東トレーニングセンター』

 ちょっとした寄り道で盛岡に来て、アグネスデジタル先輩の活躍を見聞きして、それから再び。今度は同じ馬運車にデジタル先輩と臼井さん他、何人かが加わって、盛岡から南下。

 道中、福島、宇都宮、高崎、軽井沢なんかを経由しつつ、馬運車で揺られながら、時々サービスエリアに止まって休んで、また走って。

 気付いたら、琵琶湖が見えて、ついにやってきました、滋賀県の栗東トレーニングセンター。

 

 アニメ『ウマ娘プリティーダービー』では、スペシャルウィークやサイレンススズカたちが入居していた「栗東寮」の元ネタ。……今更思うけど、あっちの世界だと滋賀の栗東はどうなってんだろ? 牧場があるのか、それとも中央トレセン学園の分校があるのか。……結局その謎は明かされないまま飛行機事故に巻き込まれてこの世界に来てしまったけれども、何でいまさらそんなどうでもいいことが気になるのか……?

 

「クロススキッパー、長旅ご苦労様。疲れただろ?」

「厩舎に預けたら今日は休もうな?」

 

 そっか、僕疲れてるのか。

 だから余計なことを考えてしまうのか。

 

 ただし、盛岡から休みを入れつつ来たためか、時計を見ればもう火曜日(10月9日)の午後1時。

 まだ日は高いが、調教の時間は夏だと午前5時から9時で、春と秋は午前6時から10時だという。なので、調教を終えたらしきお馬さんたちも既に馬房に戻っていた。

 栗東トレセンにはいくつかの厩舎がある。それらは調教師さんの苗字(「佐藤」や「加藤」など苗字が多い場合には「佐藤(正)」とか「佐藤(吉)」とか、名前から()付けで一文字追加されることもある)が厩舎の名前として付けられていて、平家建ての建物として幾つもが連なっている。

 その内の一つ、「臼井厩舎」の建物の中に入ると馬一頭それぞれに専用の馬房が用意されており、まるで昔多かった長屋を彷彿とさせた。

 

『スキッパーくん、こっち、こっち』

 

 厩務員さんに手綱を引かれたデジタル先輩について行く形で、僕は馬房に辿り着いた。

 さすがに僕が来ることを想定してか、馬房はかなり綺麗に片付いていた。

 ……でも、やっぱり何か寂しい感じがするなぁ。

 

 と、そこへ、真桐さんといってたっけ。僕を馬運車で運んできた運転手兼厩務員の人と目が合った。

 

「な、何だよぅ?」

 

 真桐さんのポケットには、携帯ラジオが見えた。

 僕は嘶いて、彼のポケットを鼻でグリグリ。

 すると、

 

「真桐さん、スキッパーくん、ラジオを欲しがってるんじゃないの?」

「はぁ? んな馬鹿な」

 

 もう一人の厩務員である武藤さんが指摘すると、真桐さんは「馬がラジオを欲しがるなんて」と信じられない顔をする。

 ……でも、何もなくて退屈なんだよー。ラジオぐらい貰って良いでしょ? ね? ね?

 

 すると、誰だかわからないけど、明らかに日本人じゃない、ヨーロッパ系の人が顔を覗かせてきた。

 

Ce s-a întâmplat?(どうしたの?)

 

 ……驚いた。これはルーマニア語だ。

 前世で興味本位に趣味で習ったことがここで役に立つなんて。

 厩務員さんたちが何を言われたのかわからずに困惑してる時、僕は真桐さんが携帯ラジオをしまったポケットを鼻で指した。

 二人は、「え? 分かるの?」と言いたげな表情を浮かべていると、もう一人の男性が現れた。

 この人は日本人のようだ。

 

「ディミトリ。一体どうした?」

Asta vreau să întreb(今まさにそれを尋ねようとしていたところだ)

 

 ルーマニア人の男性はディミトリというらしい。

 そのディミトリの言ってたルーマニア語を男性は翻訳して厩務員たちに伝えると、真桐さんと武藤さんは口々に言った。

 

「スキッパーが何故かラジオを欲しがってて」

「でも、馬にラジオなんて扱えるかどうか……」

「……Asta vreau să întreb.(やらせてみよう)

 

 そうディミトリが言ったことを男性が伝えると、武藤さんと真桐さんは怪訝な顔をしていたが、渋々、真桐さんはポケットに入っていた携帯ラジオを取り出した。

 

 えっと、確か、このツマミを動かすと……。

 

「えっ、電源を入れたぞ……?」

 

 で、このツマミを動かして、79.5と……。

 ……あれ? 何も流れてこないぞ?*1

 

「79.5って……スキッパーは今、Nack5を掛けようとした?」

「いやぁ、まさか……」

 

 そもそもNack5なんて教えたことすらないのに……。

 武藤と真桐は解せないといった顔をしていた。

 

 一方でディミトリは何かを察したらしく、一旦、スキッパーからラジオを引ったくる。

 スキッパーは嘶き、周りは一瞬の出来事に驚く暇もなく。

 しかしディミトリはあるラジオ局に周波数を繋ぎ直した。76.5MHz*2である。

 すると早速音楽が流れてきて……。

 

 ……え、何この曲! 僕の好きな曲じゃないか!

 

Boom boom boom boom, Shoot you like a bambar】「ブモブモ、ブモブモ、ヒヒンヒヒン♪」

Boom boom boom boom, At your order】「ブモブモ、ブモブモ、ヒンヒンヒン♪」

Boom boom boom boom, Pushing all the buttons】「ブモブモ、ブモブモ、ヒヒンヒンヒン♪」

More time】「ブルルッ、ブモブモッ!♪」

 

「おい……嘘だろ……」

「ブンブンダラー聞いてご機嫌になったぞ」

「しかも歌ってる馬なんて始めて見た……」

uimit(ビックリだ)……」

 

 この時、ラジオから流れてきたのはバブル期の日本のディスコを沸かせた名曲の一つ、KING KONG&D.JUNGLE GIRLSの「Boom Boom Dollar(ブンブンダラー)」であり、クロススキッパーはその曲にノリノリで鳴き声を乗せてくる。

 

 こうして関係者四人は、まさかの大型新人の登場(奇行)に、驚きを隠せなかった。

 

*1
79.5MHzは関東圏だとFM Nack5が入るのだが、ここは滋賀なので関西圏。よって、電波は遠すぎて入ってこない

*2
関西圏ではFM COCOLOが入ってる




 ラジオ局はあまり詳しくないです。
 それに競馬のレースと異なり番組表とかも見つからないので、実際にFM COCOLOで「Boom Boom Dollar」が流れていたかどうかは定かではありません。
 が、クロススキッパーがリズムを取りやすい曲としてピックアップさせていただきました。

※2023年8月8日追記……お伝えしてます通り、諸事情により、申し訳ないのですが、今回の投稿で一旦止めることになりそうです。理由は活動報告をご覧いただければ幸いです。

今作に望むものは?

  • コメディ!
  • シリアス……!
  • スポ根!
  • 哀愁……
  • ハッピーエンド!
  • 曇らせ、鬱展開……
  • その他(コメント欄か活動報告へ)
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