また君と、今度はずっと 〜If you can Cross to tomorrow〜 作:Simca Ⅴ
何故、クロススキッパーは歴史を変えちゃったのに開き直ったのか。
そこには、ちょっとした前世での「トラウマ」があったりする。
2002年2月17日。
『ほら行くぞ、スキッパー、ついてこーい!』
『はい、先輩!!』
今日は日曜日。しかも、中央のダートマイルG1、フェブラリーステークスの日だ。
時刻は午前9時。今頃デジタル先輩は東京に着いてる頃だろう。
同じ頃、僕は栗東トレセンでダイタクヤマト先輩と併走中。
……いやぁ、まさか、僕が好きになった馬が現役で、しかも、ここで出会えるなんて思っていなかった。
1990年代の中央G1で大暴れした爆逃げコンビの一角、ダイタクヘリオス、その息子がダイタクヤマトさんだ。
……大声じゃ言えないけど、前世で人間だった頃、『ウマ娘プリティーダービー』を意識して、実はダイタクヤマトをウマ娘化してみたことがある。
日本を出発する前にパソコンにスキャンしたけど、ネットに投稿する前にアレが起きちまったからなぁ……あぁ、もう。やめだやめ。後悔ばっかりしても仕方ない。今は馬畜生ながらこうしてこの世界で生きていけてるんだから、いつまでも引き摺るのはやめよう。
思えば、去年の11月に偶然、香港スプリントに向けての練習をしているダイタクヤマトさんを見かけたのが始まりだった。
厩舎が違うから一歩間違えば、きっと会えなかったと思う。
あの時、ダイタクヤマトさんの併走相手が体調不良になって……その時、僕が『やります!』って感じで嘶いた。
最初は『誰だこのチビ』とか言われたけど、いくら悪態を吐かれても一緒に走りたい。その意思だけは曲げなかった。
そしたらまぁ……デジタル先輩の時もそうだったけど、素人とベテランの力量差を見せつけられた。
でも、自分が前世で気になっていた馬だもん。一緒に走りたくて仕方なかった。
それ以来、何だかヤマト先輩に気に入られてしまい、度々併走してくれることもあった。
もちろん、同じ厩舎のデジタル先輩と走ることのほうが多かったけど、二
そしたら。11月末のこと。
『……おい、スキッパー。この栗毛は誰だ?』
『ひ、ヒィ……』
『お、落ち着いてください、先輩……』
実はアグネスデジタル先輩も同じ香港で同じ日に開催される香港カップ(芝2000m)に出走するための練習をしていて、この日は僕とデジタル先輩が併走することに。
しかし、そこに同じく香港スプリントのための調整を行なっていたダイタクヤマト先輩と出会して。
デジタル先輩と僕が親しげに話していたら、それを見ていたヤマト先輩がデジタル先輩に突っかかりに行って、この状態。
まさか「僕のために争わないでー」状態が本当に起きるなんて思っていなかった。
あぁ、しかも、ダイタクヤマト先輩は栗東でもかなりの年上故に、デジタル先輩もすっかりビビり散らかしてる……あれまぁ……。
なお、
『おい、五月蝿ぇぞ!!!』
『『『!?』』』
「どうどう。落ち着け、デュランダル」
ちょっと! 一体誰がここを
栗東トレセンでも一、二を争う喧嘩っ早い性格のデュランダル先輩まで、僕らの騒ぎを聞きつけてやってきてしまった……。
『引っ込んでろ』
『じゃかしぃ! 何言い争ってんだ、ここはコースだろうが、ごちゃごちゃ言わずにさっさと……って、あ? スキッパーじゃねぇか!?』
『デュランダル先輩……』
『なんだ? こいつらにいじめられたか? ……アウッ!?』
と、そこにやってきたもう一頭の馬が軽くデュランダル先輩にタックルした。
『おいアマ、てめぇ、何しやがる!』
『何しやがるはこっちのセリフでしょ。スキッパーくん大丈夫? お兄さんたちにいじめられてない?』
『『『『……え?』』』』
そうして僕以外の四頭は顔を合わせて……。
『……スキッパー。これどういうこと?』
……致し方ない。
僕は胃がキリキリしてる幻肢痛のような痛みを覚えつつも、腹を括って全部を一から説明した。
まずはお互いの自己紹介。
次に、僕がそれぞれに併走をお願いしていたことがあって、今日はたまたまスケジュールの都合が付いたデジタル先輩と一緒に走るつもりでいたこと。
そこにヤマト先輩、デュランダル先輩にアローキャリー先輩まで集まってのご覧の有様だよぉになってしまったことなどを順序立てて全部説明した。
すると。
『はぁ……んなことがあったのか。先輩、不躾なこと言って悪かったぜ』
『こちらこそ。デジタルくん、俺が悪かったよ。スキッパーと併走してるのが羨ましくて』
『い、いいえ、ボクこそ申し訳ないです』
『わ、私こそ……勘違いでタックルしてごめんね、デュランダルくん』
『い、いや、俺こそ悪かった。こんな成りしてるもんだから、舐められたら負けって思ってるんで、ついな』
そうして四頭はそれぞれ謝って和解していたのだが。
「さっきまでこいつら喧嘩してなかったか?」
「見間違いじゃない。デジタルは萎縮してたし」
「デュランダルとダイタクヤマトがお互いにキレ散らかしていたな」
「ついでに、デュランダルにアローキャリーがタックル、と」
「……それをスキッパーが
「「「「「?????」」」」」
五頭の背中に跨っている騎手や調教助手の人たちは、自分たちの目の前で起きた一連の出来事について、一部想像を交えながらも信じられないという顔で結論を下していた。
『なぁ、だったら、
『『『賛成!』』』
『え?』
『スキッパー、やるだろ?』
『実際のレースがどんな感じかキミに見せてあげるよ?』
『私も次のG1に向けて練習したいし。ついでよついで』
「ちょ、お前たち?」
「どうしたんだ?」
騎手や調教助手の人たちの戸惑いの声が聞こえてくるけど……ははっ。面白いじゃないか。
『先輩、よろしくお願いします!!』
『じゃぁ、距離どうする?』
『1200mは?』
『マイルはどうかしら? 1600mで』
『スキッパーの体力はそこまで持つのかな?』
『あ、あの、先輩!』
今度は走行距離について議論を交わす四頭。
そこにクロススキッパーが割って入ってこう言った。
『僕、多分付いていけないかもしれない。けど、それでもいい。皆さんのレース、この目でしっかり焼き付けますから!』
そう言われた四頭。
でも、彼ら彼女らは気付いていた。クロススキッパーの目の奥に燃える炎のような情熱を。
『……よし、そこまで言うなら。1500mで走ろう』
『『『賛成!』』』
『うん、僕頑張ります! ……あ。その前に……』
「お、おいおい、スキッパー、
近くでタイムを計測しようとしていたディミトリさんに近寄って、僕は鼻先を向けた。
僕はボールペンかマジックと紙を貸して欲しいことをディミトリさんにジェスチャーで示した。
すると彼は理解してくれたらしく、彼がノートのページを広げて、僕の口にマジックを咥えさせてくれた。
そうして僕は、
《へいそう しば 1500m みんなで》
と、字はまだまだ汚いが、簡単な文章を書いてみせた。
「併走、芝、距離1500mを、この場にいる5頭でやりたい、ってことか?」
僕の背中に跨っている生沿さんが、僕の書いた汚い字から、僕の言いたいことを読み取って解釈してくれた。
すると、他の人たちは一斉に頭を抱えたり天を仰いだりしていた。
「……おいおい、ホントにこいつ馬かよ……?」
「字を書く馬なんて初めて見た……」
「つーか、人の言葉を理解できてるのは何となく分かっちゃいたが、識字率まであるなんて……」
字はお世辞にも綺麗とは言えないけれど、必要な情報は何とか伝えられた。
とはいえ、主戦騎手がいないなどのハンデはいくらかある。
香港に向けて練習を積んでいたデジタル先輩とヤマト先輩の背には、それぞれ主戦騎手の四井さんと江戸さんが乗っていて、阪神JFの最終調整をしていたアローキャリーさんには主戦騎手に抜擢されるかも、と言われてる海老名さんがいる。
問題は僕とデュランダル先輩だ。
いつもなら生沿さんにはデュランダル先輩に乗ってもらうけれど、それは生沿さんがデュランダル先輩の御し方を理解しているから。
でも今日は違う。
デュランダル先輩の背には今、彼の坂田厩舎の調教助手さんが乗ってる。
生沿さんは僕の背中の上。うーん……これは果たして、デュランダル先輩が本領を発揮できるかどうか……。
すると。
「オオヤサン、ウスイサン、イキゾイサン、ワタシガ、乗ッテモ?」
実際のレースの再現をどうするか頭を悩ませていたら、ディミトリさんが僕に乗るって言い出した。
「ディミトリ? 行けるのか?」
「ハイ、マカシテクダサイ」
ディミトリさんは自信満々にそう答えてみせた。
渋々だけど、僕の背中に乗ってる生沿さんが降りて、ディミトリさんにバトンタッチした。
すると、調教助手の大屋敷さんが念を押すようにこう言った。
「いいか。無茶させるな?」
「ワカッテイマス」
片言で大屋敷さんの忠告に応じたディミトリさんが僕の背中に乗った。
一方で、僕の背中から降りた生沿さんは、デュランダル先輩に騎乗。
うんうん、良い感じ。
そうして1500mのスタート地点までパカパカと移動し。
「よーい……スタート!」
さて、結果だけを言うと、僕は大差を付けられたドンケツだった。
けれど、凄くいい経験をさせてもらった。
後ろからなるべく
中盤までは僕のすぐ前にいたデュランダル先輩。
彼は終盤の300mになると追い込みで加速して行って、あっという間に、ヤマト先輩に迫っていった。
そのヤマト先輩は序盤から先行のアローキャリー先輩とデジタル先輩と競り合っていたけど、デジタル先輩に差し切られてしまった。
アローキャリー先輩も善戦していたけど、他の
この模擬レースもどきの勝者はデジタル先輩だった。
2着にヤマト先輩。
うーん……さすがは世界に挑むベテラン。
デュランダル先輩やアローキャリー先輩たちも頑張ったけど、まだまだこの二
けれども。
この模擬レースもどき。
僕にとっても、これに一緒に出てくれた他のみんなにとっても、良い経験になったと思う。
何せ、まず新馬戦で
次に、
そして、12月の運命の瞬間。
香港カップではデジタル先輩が勝利し、香港スプリントでは
これによって、ダイタクヤマト先輩は、来年も半年ながら現役続行を宣言して、高松宮記念へのリベンジと安田記念で現役最後の勝利を飾る!と大々的に宣言していた。
歴史が変わってしまった?
それでもいい。
そもそも僕や兄弟たちが生まれなかった世界から
なら、少しでも良い方向へ進んでほしい。
僕の願いはただそれだけだ。
なお、ウマ娘のダイタクヤマトは、こんな感じです。
【挿絵表示】
(トレセン学園制服ver)
【挿絵表示】
(勝負服Ver)
この後は軽いネタバレになります。
読みたくない方は、ブラウザバックをオススメします。
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後年。
ダイタクヤマトの所有権は2009年に黒松義隆へと移り、余生をハグロ牧場で過ごした。
その後、2021年にYouTubeにて「ハグロ牧場チャンネル」が開設されると、アイルトンシンボリと共に数十年ぶりに往年のファンたちに元気な姿を見せた。
2023年9月8日、老衰による心臓発作で亡くなる。享年29歳。
ハグロ牧場ではこの約半年前にアイルトンシンボリも亡くなっているため、その後を追ったかのように逝ってしまったという。
※実は予約投稿しようとしたけど、設定をミスって10時ちょうどの投稿になったなんて今更言えない……
今作に望むものは?
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コメディ!
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シリアス……!
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スポ根!
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哀愁……
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ハッピーエンド!
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曇らせ、鬱展開……
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