また君と、今度はずっと 〜If you can Cross to tomorrow〜 作:Simca Ⅴ
ネタバレ注意(今更)
臼井寿彦調教師引退をきっかけに本誌は、クロススキッパーについてのインタビューを試みた。
大屋敷「クロススキッパーがデビューする前の様子ですか? そうですねぇ……《あのような馬は後にも先にもいないだろう》って当時は思うほどでしたので、すごく印象に残っていますよ」
2001年当時、クロススキッパーがいた臼井厩舎で調教助手をしていた
レポーター「何でも、育成牧場には行かずに直接臼井厩舎にやってきたとか聞きましたが?」
大屋敷「えぇ、本当です。自分も最初は驚きましたよ。何せ、臼井厩舎にはかつて宮崎雄馬氏がクロスクロウを預けていた過去がありましたが、その娘さんが臼井さんを頼ってクロススキッパーを預けに来た時、《育成牧場を通さずにいきなり栗東の調教厩舎に預けるなんて本当にいいのか?》と。最初、私は思っていました。しかし、臼井さんはクロススキッパーが生まれてからも度々、クロススキッパーが生まれ育った日高大洋牧場へと顔を出しては、育成調教もしていたらしく、《育成牧場でやるべきことはほぼほぼ終わってる。なら、その余っている時間を栗東の厩舎での調教に充てた方がいい》と、臼井さんは判断していました」
レポーター「臼井厩舎や、主戦を務めた生沿健司騎手、柴畑由臣騎手らが口を揃えて《(クロススキッパーは)頭の良い馬だった》と述べていたことも関係しているんでしょうか?」
大屋敷「実際にはそんなもんじゃ済まなかったですね」
レポーター「というと?」
大屋敷「何というか。後々、“競馬界の革命児”とか言われてるクロススキッパーですが、その片鱗はデビューする前の、下手すれば(白井厩舎に)入厩した1歳半ぐらいから見せてましたよ。例えばですが、人間ってこういう風に会話したり、文字を書いたり出来ますよね?」
レポーター「え、えぇ、まぁ、そうですね」
大屋敷「それを馬が出来てしまったら?」
レポーター「え、そんなまさか」
大屋敷「実は出来てしまったんですよね、これが……」
そう言って大屋敷氏が見せたのは、一冊のノート。所々、汚れや折り目がついている年季の入ったものだったが、そこで、あるページを開いてみせると、そこには、
レポーター「《へいそう しば 1500m みんなで》……?」
お世辞にも、きれいとは言えず、判読するのがやっと。
幼稚園児が書いたような字だが、
大屋敷「信じられないかもしれないですが、これを書いたのがクロススキッパーなんです」
レポーター「え、……えぇっ!? そ、それは本当なんですか!?」
大屋敷「嘘じゃないですよー。実際に私たちの目の前でクロススキッパーがノートにこれを書き殴ったんですから」
驚愕するレポーターと、苦笑いしながら事実を述べる大屋敷。
レポーターが渡されたノートのページをペラペラめくると、「あ、い、う、え、お」を誰かが練習していた形跡がしっかりと残っていた。
最初は先程のような拙く判読が困難な字だったのが、練習を繰り返すうちに最後にはしっかりとした字になっていた。
大屋敷「先ほど言ったように、クロススキッパーは《賢い馬》というだけでは済まず、ほぼほぼ、まるで中に人間が入っているような、不思議な馬でした」
インタビュー「ということはつまり、普通なら暴れそうな馴致や、馬装や蹄鉄も?」
大屋敷「えぇ。ゲート訓練も含めて一発で全部出来てしまいました。最初見た時は、遅生まれ故の成長の遅れなどで体格をみんな気にしていましたが、先ほども述べた持ち前の並外れた賢さに加えて、馴致も馬装も嫌がらず、騎手や調教師の言うことを素直に聞くし、人懐っこいし、しかも、競馬を理解している。その上、一度練習を始めれば、体調が悪い時を除けば毎度毎度本気で取り組むし、最初期は同年代がいないことから年上の馬たちを併走相手にせざるを得なくなりましたが、それでも臆しない。それどころか、同期も年上も年下も関係なく、分け隔てなく接する姿は、まるでクロススキッパーを中心に一つのチームが出来上がってるように感じたほどです」
レポーター「チーム、ですか?」
大屋敷「そう表現するのが適切かどうかはわかりませんが、少なくともクロススキッパーが介在すると、いつの間にかあの馬が中心になった輪が出来上がっていました。周りの馬たちも、クロススキッパーのことは一目置いていたようで、特に、クロススキッパーが入厩した次の年に
レポーター「噂では、クロススキッパーとハグロ牧場が《癖馬の教習所》みたいに言われてますが、やはりその時のような?」
大屋敷「えぇ、まぁ、すごいんですよ、あの馬。例えば、気性の荒いドリームジャーニーやオルフェーヴルなんかもハグロ牧場で放牧されていた影響なのか、放牧から戻ってきたらしばらく大人しくなったり、オルフェーヴルなんて、最初の凱旋門賞を負けた後に、
レポーター「なるほど。
大屋敷「うーん……その噂の真偽を明確には出来ませんが、クロススキッパーが影響を与えたことは否定できない気はしますね。というのも、クロススキッパーが入厩してから、例えば、ある馬が自身の体に異変を感じたら、それを近くにいる厩務員や調教師、騎手に伝えるために腕を引っ張ったり嘶いたりすることが増えたような気がします」
レポーター「アストンマーチャンとか、ハグロフォルゴーレなどですか?」
大屋敷「アローキャリーやデュランダル、ネオユニヴァースなんかもそうですね。特にマーチャンとアローキャリーなんて、異変を知らせてくれなかったら今頃亡くなっていたかもしれないレベルでした」*1
レポーター「なるほど……」
大屋敷「とはいえ、未だに故障する競走馬や、それによって亡くなる競走馬もいます。この点でクロススキッパーがどこまでお役に立てたかはわかりません。ただ、クロススキッパーは私たちに大切なことを教えてくれました」
レポーター「例えば?」
大屋敷「教えてもらったことが多すぎて全部答えられるかはわかりませんが、まずクロススキッパーは、《馬にも感情と知能と個性がある》ってことを、我々調教師や騎手に改めて教えてくれました」
レポーター「なるほど……
大屋敷「えぇ、そうです。あとは、馬主さんとクロススキッパーの絆も強かったですね。クロススキッパーにとって、馬主の……特に初代の《宮崎美鶴さんのためにレースを走って勝つ!》って、そんなバイタリティがあの馬の競争本能を高めていた感じでした」
レポーター「これは質問してよろしいかわかりませんが、そこまで絆が深かったのなら、何故途中でクロススキッパーの馬主が代わっていたのでしょうか? 確か二代目馬主は……」
大屋敷「えぇ。黒松義隆氏ですね」
レポーター「ハグロ牧場のオーナーの方ですが、確か、宮崎美鶴さんの継父にあたる人でもありますよね」
大屋敷「そもそも宮崎雄馬氏が早川牧場を買収したことで関わりを持ったと聞いていますが……詳しいことまではわかりません。ただ、書類の名義上は一時期美鶴さんから黒松氏に移ったものの、美鶴さんが成人して就職して、改めて正式な馬主資格を持ってからはまた彼女がクロススキッパーの馬主さんになりました」*2
レポーター「そのような経緯があったのですね……」
大屋敷「えぇ、でも、書類上の名義が変わっても、クロススキッパーと美鶴さんの関係性は変わりませんでした。仲睦まじくて、まるで姉弟のような関係を思わせました」
レポーター「姉弟、ですか?」
大屋敷「えぇ。だから皐月賞の一件で美鶴さんが一時叩かれていたのは我々からしても気の毒に思えましたよ。あれほど馬主と所有馬が家族のような間柄なのは珍しいことですからね」
レポーター「そうですね……本日はありがとうございました」
なお、2018年にアニメ『ウマ娘プリティーダービー』が放送された際に、この記事がネット掲示板などに再び上がり話題になるのはまた別の話。
今作に望むものは?
-
コメディ!
-
シリアス……!
-
スポ根!
-
哀愁……
-
ハッピーエンド!
-
曇らせ、鬱展開……
-
その他(コメント欄か活動報告へ)