また君と、今度はずっと 〜If you can Cross to tomorrow〜   作:Simca Ⅴ

24 / 58
 今回は前後編を連続投下致します。
 元々はこれと後編は1話にまとまっていたんですが、会社の同僚と話していたら、
 「文量からしてこれは半分にしたほうがいいかもしれん」ということになり、
 ちょっと悩みましたが、このような形にしました。

 何とか今年の有馬記念が始まる前に前後編完成出来て良かった……。

※なお、後編は明日(2022年12月14日)の21時に投下いたします。


#??A面『英雄譚② 二つの有馬記念・前編』※2022年12月22日修正

 ハグロミッシーレの駄々こね事件の翌日。

 特に何のこともなく、馬も牧場スタッフたちも、いつものルーティーンをこなしていた。

 

 そのまま、お昼休みの時間になり、

 

『お父ちゃん。メイクデビューした時の話を聞かせて!』

『まだ今日はお仕事があるだろう?』

 

 昨日の寝物語の続きをせがんでくる息子のハグロミッシーレに対して父のホッパーはそう言って宥めた。

 

『えー。でもでもー』

『?』

 

 息子に話の続きをせがまれていたホッパーだったが、突然、息子がいるのとは別の方向に顔を向けた。それも、耳をピンと張っている。

 

『お父ちゃん、どうしたの?』

『ん?いやそのな。……!』

 

 やはり聞き間違いではなかった、とホッパーは気付く。

 

『え、どこへ行くの?』

『声がしてな……付いて来てもいいぞ』

『ん?うん』

 

 何事かと思ったハグロミッシーレ。ホッパーが足を向けた先へ一緒に付いていくことにすると、辿り着いたのは、厩務員用の宿舎だった。

 窓からホッパーは自分が聞き取った「声」の正体に気付く。

 

『あぁ、やっぱりなぁ』

 

 ホッパーが聞き取った微かな声の正体。それは、テレビの音声だった。

 

【さぁ今週もこの時間がやって参りました、『あのレースを振り返ってみよう!KEIBA FANS!!』です! 細井さん】

【はい!】

【ズバリ今週のお題は!?】

【そうですねぇ、やはり開催まで二ヶ月を切った有馬記念でしょうか!】

【おぉ、やっぱり! 細井さんも有馬記念、気になりますよね! 細井さんはやはり、ご自身も出走された2006年を推しますか?】

【あのレースも良かったですけど、個人的には、1999年の有馬も捨てがたいですね】

【届いたお便りには、『オグリキャップが勝利を飾った1990年の引退レース』や、『1984年の三強対決』をリクエストする声もありました】

【シンボリルドルフとミスターシービー、オグリキャップの人気はやはり不動ですね。……でも、敢えて私はメジロシクローヌを推したいですね!】

【おぉ、やはりご自身が騎乗されていましたから愛馬が一番ですよね!】

【当然です!……ただ、結果は○着でしたけども。それでもあのレースは最高でした!】

 

『メジロシクローヌって……セイランおばちゃんのこと!?』

『あー、うん、そうなんだけど……メッシ』

『え?何?』

『ラン……セイランさんの前で、「おばちゃん」呼びは禁止な』

『え、何で?』

『女性ってのは歳を気にする生き物だからだよ……せめて「おねえさん」な?』

『? え、あ、うん。わからないけど、わかったよ』

 

 いや、どっちだよ。

 

 なお、ホッパーは当のセイランことメジロシクローヌを一度茶化すつもりで「叔母さん」と呼んだら、めっちゃキレられたことを思い出していた。

 

『え?ということは、あの人がセイランおばちゃ……じゃなくて、おねえさんに乗ってたジョッキー?の人なの?』

『そう。ホソイさん』

『いいなぁ、僕にも乗って欲しいー』

『あぁ、残念。引退しちゃったから無理』

『えー……』

 

 明らかにテンションが下がって不貞腐れたような顔を見せるハグロミッシーレ。

 その様子に、「やれやれ」と思ったホッパー。

 時計を見ればまだ休み時間は1時間も残ってることに気づいたので、

 

『……じゃぁ、代わりに物語を聞かせてあげよう。題して「二つの有馬記念」』

『二つのアリマキネン?』

『有馬記念。これから二ヶ月ぐらい後に行なわれる大レースの名前。毎年、中山という場所で行なわれるG1のレースだよ』

『お父ちゃんも出たことあるの?勝ったことはあるの?』

『それを今話したらつまらないだろう? ただ、俺のお父ちゃん、つまり、君のおじいちゃんは出れなかったことを一生後悔してた、ってことは先に言っておくよ』

『おじいちゃんも出たかったレースなの?』

『そうさ。G1を走れる栄誉に与ったごく一部の馬が走れる夢の舞台』

 

【1999年の有馬記念というと、黄金世代大激突ですね!!】

【そう、グラスワンダー、キングヘイロー、スペシャルウィーク、セイウンスカイ、そしてエルコンドルパサー。この5頭が同じレースに揃った唯一のレースです】

【懐かしいなぁ。でも、一つ残念ですよね】

【そうですよね。黄金世代はこの5頭だけでは完成しないんです。本当は()()()、そう、視聴者の方々もお気付きの通り、クロスクロウが出走できなかったのが今でも惜しまれていますね】

 

 テレビの中の司会者二人が語る1999年の有馬記念。

 そのレース模様のリプレイが始まろうとしている時、ホッパーはハグロミッシーレことメッシにこう言った。

 

『そうだな……レースを見ながら、俺が聞いた話を語ろう。その話を語ってくれたのは、俺の育ての親。もう一人の「お父さん」から聞いた話なんだ───』

 


 

 ───1999年12月26日。千葉県船橋市にある中山競馬場。

 この日、最終レースとして控えていたのは第11R、有馬記念だった。

 

 その顔ぶれたるや、錚々たる面々だった。

 

 第44回有馬記念(G1)

 芝右2500m / 天候 : 晴 / 芝 : 良

(枠番)(馬番)(馬名)(騎手名)

1 1ナリタトップロード 渡部邦彦

2 2スエヒロコマンダー五崎佳輝

2 3スペシャルウィーク生沿健司

3 4ユーセイトップラン末永幹雄

3 5ステイゴールド熊澤茂史

4 6セイウンスカイ縦峰則大

4 7グラスワンダー窓馬 一

5 8ダイワオーシュウ芹澤潤壱

5 9キングヘイロー福延悠一

6 10ツルマルツヨシ富士田真司

6 11テイエムオペラオー和多龍次

7 12エルコンドルパサー海老奈仁義

7 13ファレノプシス奥分幸蔵

8 14サイレンススズカ拓 勇鷹

8 15メジロブライト川内博史

 

【さぁ、年末の中山で争われる夢のグランプリ・第44回有馬記念。出走の時刻が刻一刻と近付いて来ていますが、今年の有馬記念はとんでもない顔ぶれが揃いましたね】

【えぇ、そうですね。一番人気は怪物グラスワンダー、二番人気は日本総大将スペシャルウィーク、ですが、なんと三番人気に、凱旋門賞での引退を撤回して再び日本のターフの上に帰って来てくれたエルコンドルパサーがいます!】

【今回が本当の引退レースだと陣営側が発表していますが、気合いの入り用がまた一段と違う気がしますね】

【えぇ、今回、エルコンドルパサーは最初で最後、情熱の赤と黄色のメンコを付けての出走です】

 

『スペちゃーん!』

『エルちゃん!え、どうしたの、そのメンコは?』

『ふっふっふー、これはエルの秘密兵器なのです! これを付ければ元気100倍勇気100倍気合い100倍!!負ける気がしないのデース!!』

 

【返し馬の途中ですが、スペシャルウィークとエルコンドルパサーが顔を合わせていますね】

【お互いを牽制し合っているんでしょうか。いや違った。これは……ハグでしょうか?】

 

 エルコンドルパサーとスペシャルウィークが互いに頭や鼻を擦り寄せてる仕草を、解説は「ハグをしているようだ」と述べていた。

 

『そんな親しげにハグなんてしちゃっていいのかなー? 引退しづらくなっちゃうんじゃない?』

『Oh,Heyウンス!まさか、こんなところで一緒に走れるだなんて思ってもみませんでした!』

『……確かにそうだね*1。うーん……折角有馬に出てきたのに、強敵登場とは戦いづらくてしょうがないや』

『ふっふっふっ、このマスクに誓いました! 今日はエルの引退レース! 凱旋門みたいな無様は晒しませんヨ!!』

『ふーん……やっぱり、勝つつもりでいるんだ?』

『当然デース!!』

 

【セイウンスカイとエルコンドルパサー、睨み合ってますね? 初対面のはずですが】

【とは言えませんよ? 同じ美浦トレセン所属ですから、併せ馬もしているかと。でも、こんな大舞台で対面するのは確かに初めてですからね。火花が散ってるようにも見えます……!】

 

『何だ何だ?もう勝った気でいるのか?』

『キングくん。君も走るんだね?』

『当然! ここで勝たなきゃ、スプリンターズ・ステークスをわざわざ蹴ってまでやって来た意味がないんだから!』

 

【今度はスペシャルウィークとキングヘイローが対面してますね】

【前走のマイルCSは惜しくも()()でしたが、次走として予定していたスプリンターズ・ステークスを蹴って*2、この有馬の地にやって来ましたキングヘイロー。果たして初のG1制覇はここで成るのか!】

【キングヘイローのG1初勝利、エルコンドルパサーの本当の引退レース、怪物グラスワンダーの春秋グランプリ制覇、セイウンスカイの菊花賞以来のG1勝利に、スペシャルウィークの史上初秋古馬三冠制覇……結果がどれであれ、今年の有馬記念は競馬史に残る偉大な一戦となるはずです】

【歴史的瞬間を見ようと詰めかけている観客も多いことでしょう、そのせいか、たった今、スペシャルウィークが一番人気に上がって来ました!】

 

 そのアナウンスを聞いた途端、返し馬の最中にいたスペシャルウィークに、他馬たちの視線が一挙に集まる。

 

『……あなたがスペシャルウィークね?』

『えっとその……そうですけどあなたは?』

『私はファレノプシス。牝馬二冠を制した私を差し置いて一番人気だなんてね……』

『そりゃ、スペ先輩はダービー馬になった上に、秋古馬三冠に王手かけてるんですからね。期待が集まるのは当然ってもんですよ』

『えっと……?』

 

 睨んでくる牝馬と自分の間に割って入る栗毛の馬。それも、二頭。

 

『あ! 申し遅れました、僕、テイエムオペラオーって言います』

 

 そう答えた栗毛の馬の片方はまるでラクダのような顔をしたのんびりな印象を醸し出している。

 

 その二頭を目にしたセイウンスカイが寄ってきた。

 

『お? もしや君たちが今年の三冠路線の子達だね?』

『あ! セイウンスカイ先輩! 先輩には絶対負けませんから!』

『おーおー、威勢が良いね。もしかしなくても、君が今年の菊花賞馬だね?』

『はい! ナリタトップロードって言います!』

『……へー、君が?』

『え?あの、何か?』

『いやその別に……ただ、想像していた馬と違っただけさ』

『???』

『気にしないで』

 

【ここで騎手が騎乗します】

 

『え?あれれ、ユタカさん?』

「あぁ、ごめんな、スペ。今日は……」

「スペくん、今日は僕が乗るよ、良いかい?」

『イキゾイさん? え、うん。いいけど……』

 

 申し訳なさそうにスペシャルウィークを撫でつつ、後輩であり新進気鋭のライバルである生沿健司に騎乗を託すベテラン、拓勇鷹。

 勇鷹が向かった先にいたのは、

 

『あ!スズカさん!?』

『スペちゃん、久しぶり』

 

 昨年の天皇賞・秋で故障、しかし、スペの兄貴分(クロスクロウ)に命を救われ、復帰戦を差し逃げで勝利し、そのままG1の舞台へと舞い戻ってきた″異次元の逃亡者″サイレンススズカがそこにいた。

 

【天皇賞・秋、ジャパンカップとスペシャルウィークに騎乗した拓騎手ですが、今日の有馬記念ではサイレンススズカの手綱を握ります】

【前走のマイルCSでは1分31秒9で逃げ切り、二着馬エアジハードに約4馬身を付けて快勝。ファンの人気に応える形でラストランをこの大舞台にと狙いを定めてやってまいりました。拓とサイレンススズカ号の気迫が解説席へも伝わってきます……!】

【しかし、気迫の面ではこのコンビも恐らく負けていません、宝塚記念でスペシャルウィークを破ったグラスワンダーに窓葉が騎乗します】

 

『スズカ先輩。今日はよろしくお願いします』

『君は……?』

『……覚えていなんですか? 去年の毎日王冠で……』

『うーん……あぁ。思い出した。クロスくんのお友達のグラスくんだね!』

『そう、グラスワンダーです。今日はあの時みたいには行きませんから』

『クロスくんか……あれ?彼は今日いないの?』

 

 そのサイレンススズカの問いは……ある意味地雷だった。

 観客は知る由もないが、馬たちの間では場の空気が一気に凍りついた。

 事情を理解していないのは、彼らとは特に親しくない馬か、もしくは凍りつかせたことに気付いていない本人───即ちサイレンススズカのみだった。

 

『……れないんです……』

『? 今何て?』

彼もう、走れないんです!!

「おぉっと、どうどうっ、どうしたグラス?」

 

 グラスワンダーの叫ぶような嘶きに騎手の窓葉も、遅れて近くで見ていた観客も異変に気付く。

 

『走れないって……、どういうこと?』

 

 事情を飲み込めていないサイレンススズカも、ショックを受けた様子で尋ねた。

 

『……クロ、引退しちゃったんです』

 

 グラスワンダーはポツポツとそう答えた。

 

『クロスクロウが? 引退……?』

『……最後にボクが会った時、彼はこう言ってました。「走ると胸や喉が痛くなるんだ……」って……ヨーロッパから帰ってきたら有馬記念で一緒に走ろうって約束したのに……!』

 

 そのグラスワンダーの嘶きは、悲しみと、行き場のない怒りで震えていた。

 

『だから先輩……ボク、このレース。絶対負けない。負けるわけにはいかない。例え足を壊そうとも全力で……!』

『……わかったよ。君がそのつもりなら私も全力で行く』

 

【グラスワンダーとサイレンススズカ、お互いに睨み合っていましたね……】

【気迫がここまで伝わって来そうでした……】

【それにしても、グラスワンダーに、キングヘイローに、エルコンドルパサーに、セイウンスカイに、スペシャルウィーク。1998年のクラシック期で激戦を繰り広げて沸かせた同期がこのレースに出揃いましたが、非常に惜しいのは、やはりクロスクロウがここにいないことですかね……】

【そうですね……イギリスG1のキングジョージ6世&クイーンエリザベス・ステークスを日本馬として初制覇した彼の走りを再び日本で見たかったファンは多かったはず。イギリスを走った後はエルコンドルパサーと共に凱旋門賞へ行く予定でしたが……】

【そのエルコンドルパサーも、凱旋門賞ではモンジュー(Montjeu)に差し切られて敗北。ジャパンカップではスペシャルウィークがそのモンジューを破りました。日本総大将の意地をここで再び示せるか、スペシャルウィーク】

【間も無く第44回有馬記念、開始時刻です。各馬ゲート入りします】

 

 ゲート入りを前にして、ジョッキーたちも次々と自分の愛馬に騎乗する。

 そこに気性の荒い馬が一頭。

 

『……おい、栗毛』

『……何ですか?』

 

 グラスワンダーが尋ねられて顔を向けた先には、強面で、いかにも「誰か殺したことがある」と言わんばかりのガラの悪い黒い馬がいた。

 

『確かあなたはステイゴールド先輩?』

『そうだ栗毛。お前はグラスワンダーとかいったな? さっき言ったことはマジなのか?』

『……さっき言ったことというのは?』

『トボケるんじゃない。クロスクロウのやつが引退したとか聞こえたぞ』

『……』

 

 それを尋ねられたグラスワンダーの表情はみるみる内に曇っていく。

 そんな時だ。

 

『……ハーッハッハッハ!

 

 どこからか笑い声のような嘶きが聞こえた。

 ステイゴールドもグラスワンダーも、ビックリして、その他の馬たちも何事かとその声の出所に目を向けると、

 

『『『『『『『え?』』』』』』』Σ(゜д゜;)

 

 先ほどまでラクダのような大人しい顔をしていたはずの栗毛の馬が突然に高笑いを始めて、スペもグラスも黄金世代は驚愕、ステイゴールドも口をポカンとし、サイレンススズカも『ウソでしょ……?』と口から漏らす。

 よく見ると、そのテイエムオペラオー号には既にジョッキーが騎乗していた。

 

『ハッハッハッハ! いやぁ、みんな、今日も盛り上げていこうじゃないか!』

『ちょ、キャラ変わりすぎ……』

『何だこいつ』

『まぁまぁ、ツルマルツヨシさん、ステイゴールド先輩、今日はよろしく頼むよ! 何せ、この舞台こそ僕のG1二勝目に相応しい……何より、リュージを馬鹿にする奴らを見返してやるんだ。正々堂々、ここを勝ち上がってみせる!』

『……舐めた口利くな小僧。てめぇなんざ潰してやるよ』

『勝つつもり? それは僕だって同じなんだから……!』

 

 挑発として受け取ったステイゴールド、キングと同じくG1未勝利ながらここまでやってきたツルマルツヨシは闘志を燃やす。

 すると、それを見ていたファレノプシスが達観したかのようにこんなことを呟いた。

 

『……No one want to be defeated.ね』

 

 その呟きに近くにいたスペシャルウィークが気付いて意味を尋ねようとすると、

 

『え? それは……?』

『私が好きな歌の歌詞。意味は、「敗北したい奴なんていない」。……スペシャルウィークさん。私だってあなたたちに勝つつもりで行くわ。誰だってそう』

 

 それを近くで聞いていたセイウンスカイ。

 どこかで聞いた覚えのある歌詞だなぁ、何だったっけ?と考えてボーッとしていたら、いつの間にかファンファーレも聞き逃して、気付いたらゲートに入っていた。

 

【おや、4()()6()()セイウンスカイ。今日はあっさりとゲート入りしましたね】

【きっとボーッとしていたんじゃないですかね?】

8()()1()4()()サイレンススズカ、7()()1()2()()エルコンドルパサーもゲートに入ります】

 

『Hey!スズカ先輩!今日はよろしくお願いしマース!』

『あなたはえっと……』

 

 声を掛けられたスズカが頭をフル回転させて思い出そうとする……の、だが……。

 

『……ごめんなさい。誰だったっけ?』

『ズコー……』

『……やっぱ、そのメンコを付けちゃうと君だとわからなくなるんじゃないかな、エルコンドルパサー……』

 

5()()9()()キングヘイロー、ゲートに収まりました】

【何やら溜め息を吐いたように見えましたが、気のせいですかね】

【2枠3番スペシャルウィーク、4枠7番グラスワンダー、最後に()()()()()()7()()1()3()()ファレノプシス、ゲートに収まりまして……】

 

 ゲートが開き、15頭の馬たちが一斉にターフへと駆け出していった!

 

【冬空の澄んだ空気のもと、第44回有馬記念、各馬一斉にスタートしました! 綺麗なスタートです!】

【期待通りの結果を出せるか、一番人気スペシャルウィークは現在七番手。やはり逃げを打った、14番サイレンススズカ! その後ろにセイウンスカイ。早くも第4コーナーカーブに入ります】

【サイレンススズカ、快調に飛ばしています。二番手の位置にセイウンスカイ、セイウンスカイから大きく離れて三番手にテイエムオペラオー、その内側にエルコンドルパサー、それに続くはキングヘイロー】

【一周目の直線に入るキングヘイロー、今回は先行策で行く。しかし、先行策を選んだのは他にもいましたね、スペシャルウィーク、キングヘイローのすぐ後ろから様子を伺っています。ナリタトップロードも続いています】

【外から行ったのはツルマルツヨシ、その内にファレノプシス、少し前に出ました】

【大混戦です、先行勢と差し、追い込み勢の馬群がほぼ団子状態です】

【1コーナーから2コーナーに入り……只今1000mの通過タイム出ました、58秒45!】

【やはりハイペースですね。先頭はサイレンススズカとセイウンスカイの争い。メジロブライトとグラスワンダー、現在九番手と十番手。後ろから五番手にいるぞ、ステイゴールド】

『……あ。なんの歌詞か思い出した……』

 

 Beat it……。

 

【おっと、第2から第3コーナーに差し掛かったところでセイウンスカイが失速!?】

【どうしたことでしょう、おっと、サイレンススズカも脚が鈍り始めてきたか】

【やはりマイラーに長距離が厳しかったか……いや、そうでもない、上がっていきます、上がっていきますサイレンススズカ!?】

 

 スタンドからは歓声が響めきや悲鳴に変わる。

 

〔やめろー!〕

〔無茶すんなー!〕

 

 そんな声が上がるのは、観客たちはあの「沈黙の日曜日」を思い出さずにはおれないからだった。

 サイレンススズカ、第4コーナーに差し掛かったところで骨折……人馬共に命を落としかねないところを、そんな悲劇を食い止められたのは、クロスクロウと騎手の生沿がいたお陰。

 今日は生沿はいる。スペシャルウィークの背中に!

 でも、クロスクロウはいない。

 

「行けるかスズカ?」

『うん、ユタカさん!行こう!』

 

【ま、間も無く第4コーナーから直線! 依然として先頭はサイレンススズカ! 二番手に……スペシャルウィーク来た、スペシャルウィーク来た! 中山の直線は短いぞ! 二番手争いはグラスワンダーとスペシャルウィークとテイエムオペラオーの鍔迫り合い、先頭のサイレンススズカからは3馬身も離れてるが……いや、なんと大外からセイウンスカイが飛んできた!?さらにその後ろからキングヘイローとエルコンドルパサーが続く!?

 

 一旦は失速したはずのセイウンスカイが大外から飛んでくるとは誰も思っていなかっただろう。

 

【後方、ファレノプシスとナリタトップロードもギアを上げ始める! ステイゴールドも追い込みを掛ける! メジロブライトも踏み込むが一歩遅い!? 残り100m、サイレンススズカも苦しいが粘る粘る!!先頭七頭が激しい競り合いだ!!そのままもつれたままゴールを駆け抜けた───】

 


 

 ───そして、肝心の勝者は。

七頭が接戦を繰り広げてのゴール、1着から5着はおろか、6着と7着もまだ確定していません! なんてレースだ、こんな有馬記念は初めて見た!!

 

 テレビから流れるレース音声を聞きつつ映像を眺めるホッパーとメッシ。

 メッシは「結局誰が勝ったの!?」と結果を知りたくて待ちくたびれて興奮気味だった。

 

【おや、拓勇鷹騎乗のサイレンススズカ、ウイニングランを始めてしまいましたが、まだ早いですよ!?】

 

 スタンドからはスズカが無事に完走した喜びと同時に、騒然とした困惑が広がっていた。

 そんな中で勝利を確信した勇鷹騎手がウイニングランを始めようとして解説席から空かさずツッコミが飛ぶ。

 それを見て誰もがサイレンススズカが有馬を勝利した、そう思っただろう。

 

 ……ところがだ!

 

【えーと……あぁ、確定!確定しました!! 7着、テイエムオペラオー。サイレンススズカは……6着、え、6着はサイレンススズカだぁ!?

『『『『えぇぇぇぇぇぇーっ!!!??』』』』

 

 しかも勇鷹騎手のウイニングランで誰もがサイレンススズカの勝利を確信した矢先の結果に、まるでドリフのコントのようなズッコケが観客席で起きた。

 映像からは七頭がほぼ同時にゴールしたように見えた、つまり、どの馬が勝っていてもおかしくなかっただけに、観客からは驚きの声が響いた。

 

【4着と5着も確定! 4着は……エルコンドルパサーだ! 5着、キングヘイロー!】

 

 そのアナウンスと共に馬券を投げてしまう観客、響めきと同時に拍手も。

 

【1着、2着、3着は……今確定しました!1着、セイウンスカイ! セイウンスカイだ!! 菊花賞から実に1年1ヶ月と18日ぶりのG1勝利! セイウンスカイ復活!セイウンスカイ復活!!

 

 スタンドの響めきは、一気に拍手喝采と歓声に置き換わっていた。

 

【2着と3着は……同着!? スペシャルウィークとグラスワンダーが2着同着だ!?

 

 その驚きの解説のコールに、年末の中山のスタンドの観客たちは困惑しながらも皆歓声と拍手を送った。

 

『……というわけさ』

『な、なんで、セイウンスカイが勝ったの?』

『彼の渾名は「トリックスター」。その名の通り、一旦失速したように見せかけて周りを油断させて、最後の最後で頂点に滑り込むテクニックを見せたんだ』

『それでお父ちゃんの「お父さん」とグラスさんを破ったってこと?』

『それだけじゃない。セイウンスカイさんはあの時期、本人が言うには「燃え尽き症候群」に陥ってたらしい』

『燃え尽き症候群?』

『これは競走馬である以上は誰にでも起こりうることさ。気になる馬がいたり、ライバルがいたり……レースでの経験で得られるものは多い。でも、目標を見失ったり、ライバルが突然いなくなってやる気を削がれたり……これはセイウンスカイさんだけでなく、君のおじいちゃんやセイランおねえさんも経験したことがあるらしい』

『セイランおねえさんが?』

『……詳しいことはまた教えてやるが、あの人の前で「2005年の凱旋門賞」の話題は出さないようにすること。言ったらどうなるかわからん』

『う、うん……』

『さて。セイウンスカイさんは菊花賞を勝ってから燃え尽き症候群に陥っていた。その原因だけど、どうも、君のおじいちゃんが関わっていたらしい』

『え? 何で?』

『君のおじいちゃんはな、菊花賞ではなく、天皇賞・秋を走ったんだ。サイレンススズカさんを故障から救うために』

『どうして? おじいちゃんはどうしてスズカさんが故障するって分かっていたの?』

『うーん……お父ちゃんも直接聞いたけど、「何となくわかっていた」と言ってた。君のおじいちゃんはとても勘が鋭かった。それ故の弊害だったんだろうね。スカイさんは皐月賞でおじいちゃんに、ダービーで俺のお父さんに負けてから、菊花賞でのリベンジに燃えていたのに、いざ出走した時にライバル視していた(ヒト)がいなかったらどうなるかな?』

『うーん……わかんないや』

『そう。スカイさんもそうなってしまったんだ。おじいちゃん、つまり、クロスクロウとの直接対決が出来ないこと。それが原因でレースで走る意義や意味を見失ってしまった。そんな最中におじいちゃんが故障して引退した。グラスさんもお父さんたちもその現実を中々受け入れられなかった。そんな中で、スカイさんは一足早く、迷いを振り切って()()()()()。彼が教えてくれるのは、レースを勝つつもりなら、迷いを持ち込むな、ということさ』

 

【いやぁ、やはり1999年の有馬記念は一味違いましたね】

【そうですね。最後の最後まで勝負の行方が分からない七頭の叩き合い……どの馬が勝利してもおかしくないドラマでした。そのドラマを再現したかのように、その7年後の有馬記念も凄かったですよね】

【当然ですよ。2006年の有馬記念。ディープインパクトの引退レースでしたが、ここになんとイギリスから参戦したクロスクロウ産駒のオロールクロアットに、同年の天皇賞・秋とマイルCSを制して最優秀短距離馬に選出されたダイワメジャー、2006年の二冠馬メイショウサムソンと、日本ダービーを親娘で制覇し、秋華賞と桜花賞を勝って牝馬二冠も手にしたブエナビスタ、前年の凱旋門賞を日本馬として初勝利したダート王のシムーンカルマ、そのシムーンカルマには競り負けたものの、同年に雪辱を果たして凱旋門賞を勝利した上にレコードまで記録した、牝馬として初の七冠馬になったメジロシクローヌと、そのメジロシクローヌの終生のライバルと言えたスイープトウショウ。さらに、2005年のティアラ三冠を達成したノイジースズカ、そして、当時は初めてG1を八冠を果たしたマイル王者のクロススキッパー……騎手として、生涯最高のレースを挙げろと言われたら、凱旋門賞以外にはこれしかないですよ!】

 興奮気味で饒舌に細井は2006年の有馬記念を語った。

 相手役の男性はちょっと引いてた。

【……あ、あははは、私ったら、興奮してついつい……】

【あ、ははは……細井さん騎乗のメジロシクローヌは○着でしたけども、まさかここまで熱を入れて解説までされるとは】

【もちろん、負けて悔しいレースでもありました。けど、平凡以下の騎手だった私をあんな大舞台に連れ出してくれたメジロシクローヌ……あの子に私は感謝してもしきれないです。シムーンカルマが凱旋門賞を勝った時、調教師の河嶋さんは「足を向けて寝られない」って言ってましたけど、私にとってのメジロシクローヌはそんな存在です】

【はははは……さて、ここでリクエストのあった2006年、第51回有馬記念の模様を振り返って行こうと思います───】

 

後編へ続く。

*1
実はセイウンスカイとエルコンドルパサーは直接対決したことが史実ではない

*2
スプリンターズステークスは1990年のG1昇格後から1999年まで12月開催だった




 ぶっちゃけるとこの前編(前半と言うべきか)部分だけだったら、11月中には完成していたんです。
 しかし、後々投稿する後編(後半)ではこれよりもさらにわちゃわちゃやってることとか、
 「どうせならあの馬出しちゃえ」「この馬も出しちゃえ」「あ、この馬にはこんなキャラ付けで行こう」とか色々やってたこととかで時間かかりまくってました。
 なお、後編は実際のレース映像と実況を見て聞いて文章に起こしながらストーリーに組み込んでいましたが、
 この前半は1999年の有馬記念……ではなく、アプリ版で「ウマ娘プリティーダービー」をプレイした際、偶然にも黄金世代五人が有馬記念に全員揃ったレースが出来ていたので、それを録画・録音して、それをこの前半にアウトプットしました。

※2022年12月22日追記……ノイジースズカですが、ちょっと修正しました。有馬記念は引退レースではなくなりました。

なお、私、セイウンスカイは持っておりません(血涙)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。