また君と、今度はずっと 〜If you can Cross to tomorrow〜   作:Simca Ⅴ

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 今回はやや短めで申し訳ありません。
 しかし、#08だけで16000文字近くあるので、皐月賞から先のシーンをこのように分割することにしました。

 ちなみに。
 ここでのダイワメジャーはpixivで活動されているドドバトさんが投稿されている作品(思えば※2ページ目)に登場するデザインをイメージしています。
 (公式がお出ししてきたらまた変えるかもしれませんが……)

※2024年2月22日追記……何が起きたか、誰か説明してくれ。俺は今、冷静さを欠こうとしている……。(ノーリーズン実装おめでとう!)


#09『クロススキッパー、皐月賞を見に行く(破壊神と出会う)

 JR武蔵野線。

 この線は旅客区間のみで府中本町から西船橋までを半円を描くような形で繋いでおり、西船橋からは京葉線に接続されている。

 しかし、この線はとても混雑が激しい路線としても知られている*1

 しかも、この沿線には少なくとも3つのウマ娘レース場があるため、それらで重賞やG1などが開催される日はより混雑具合が増す。

 その3つのレース場というのは、まず1つは旅客路線の起点駅である府中本町の近くにある東京レース場。

 2つ目は埼玉の南浦和を最寄駅とする浦和レース場。

 そして3つ目は千葉の船橋法典を最寄駅とする中山レース場である。

 この内、東京と中山は中央G1が開催されるレース場であるため、特に今日のような日は臨時列車が増便されるほどである。

 

 その臨時列車の一本に乗ったクロススキッパーや射手園たちは幸いにして始発から座ることができたのだが、間も無く車内は混み合って行く。

 始発駅である府中本町から船橋法典までは乗り換えなしで行ける分楽ではあるが、それでも所要時間は1時間超掛かる。

 

 なおフレアカルマが途中の南浦和で反射的に降りてしまいそうになるという些細なアクシデントこそ発生したものの、一行は無事に船橋法典駅に着いた。

 すると、そこには様々なウマ娘グッズが所狭しと並んでいる光景を目にすることができるだろう。

 だが、レースの日ともなれば人混みの凄さも段違いである。

 ……初めてウマ娘競技をレース場で生で見ようとしても、この光景に思わず怖気付いて逃げ出してしまう者も少なくない*2

 船橋法典から専用地下道をひたすら歩いて10分すると、中山レース場への入り口、別名「法典門」へと辿り着くことになる。

 法典門の入場ゲートから中へ入るためには……G1開催日は混雑することが主催のURAにもわかっているので、QRコード付きの前売り券や指定席券、入場券が必要になる。

 もちろん4人はこのために優先指定席券を矢萩から渡されているので、難なくゲートを越えていく。

 

『間も無く第6レースのパドックが始まります。出走予定のウマ娘は集合してください』

 

 場内にそんなアナウンスが流れた。

 ちなみに、スキッパーたちが中山レース場に着いた頃には第5レースが終わったばかりであり、第6レースの出走時刻は12時35分に控えていた*3

 


 

「はぁ〜……電車の中もレース場(ここ)もすっごい混み具合……」

 

 前述した通りJR武蔵野線は常に混雑する路線だ。故にそこだけは慣れていたフレアカルマだったが、指定席に座った途端に目を回しそうになっていた。

 マヤノトップガンはフレアカルマを気遣った。

 

「カルマちゃん大丈夫?」

「うーん……こんな混み具合、さきたま杯や浦和記念*4をやる時ですら見たことないぃ……」

 

 流石は中央のレース場恐るべし。

 こんな凄い所で親友でありスキッパーの従姉───クロスクロウは走っていたのか。しかも勝ってみせた。感心すると同時に人混みの洗礼を受けて若干の恐怖を覚えたフレアカルマであった。

 

「……船橋の方が私は好きだなー」

 

 マヤノはそんなことを呟く。

 船橋法典から船橋レース場までは、京葉線直通の南船橋行きに乗れば20分も掛からない所にある。

 帰りは射手園(イルちゃん)と一緒にららぽーと船橋に寄って行こうかな、とマヤノは密かに考えていた。

 

 同じ頃、その射手園トレーナーとクロススキッパーの2人は、腹ごしらえのためにフードコートを訪れていた。

 

「凄く混んでますね……」

「本当だね」

 

 あまりの人混みに少し疲れた射手園だったが、手元にあった呼び出しブザーが鳴った。

 

「……あ。ラーメン出来たみたい。取りに行くよ」

「あ、大丈夫ですよ射手園さん。僕が行きますから」

 

 クロススキッパーがクロスクロウの皐月賞を見に来たのは4年も前の話だが、あの時もこんなに混んでいただろうか? それがあまり思い出せない。

 フードコートのお店は何処もかしこも長蛇の列で、注文するだけで精一杯だった。

 ちなみに、2人のお昼はラーメンに決まったらしい。

 注文する時は射手園が行ってお金を払ってきたが、今出来上がったらしい2人前のラーメンをクロススキッパーが取りに行く。

 

 余談だが、射手園とクロススキッパーの接客をしていた店員さんは射手園のことをクロススキッパーの弟だと勘違いしている様子だった。

 長蛇の列になっていたラーメン屋さんから注文の品を受け取ると、射手園が確保していた席にラーメンを持って行き、2人揃って「いただきます」をしてラーメンを啜り始める。

 

「おいしいですね」

「うん。あとでマヤちゃんと宮松さんにも何か買っていってあげないと……って、あれ?」

「どうしまし……って?」

「「あっ」」

 

 ゆっくりと昼食を食べ始めた2人は、そこで知り合い()()に遭遇した。

 1人は、黒っぽい鹿毛の前髪に白いメッシュが入ってて、もう1人は栗毛で前髪に白いメッシュが目立つが髪の所々が茶色く染まっているウマ娘。

 

「スペちゃんとメジャーちゃん!?」

「あれ、チーム[セントーリ]のトレーナーさん?と……ホッパーちゃん!?」

「スキッパー!?」

「「え? 何故ここに?」」

「皐月賞を見に、その……来年のレースの参考に、って。トレーナーさんが指定席を用意してくれて」

「あぁ〜……なるほど」

「……って、メジャーちゃん、結局チーム[スピカ]に入ったの?」

「まぁ、うん。……結局そうした。あははは……」

「スピカの2人がここにいるってことは……あ!」

「射手園さん?」

「え? ……へへん、わかります? そう、タニノ先輩を応援しに来たんだよ!」

「そう、そうなんです! ギムレットさんが皐月賞に出るので私たちも応援に来たんです!」

「しかも、タニノ先輩の初G1! これを見逃したくなくてトレーナーさんに無理言って連れて来てもらったんだ!」

 

 実を言えば、ダイワメジャーは憧れの先輩の初G1の舞台を生で見ようと朝早くから中山レース場に来ていて、しかも、ついさっきタニノギムレットの控室に赴いて応援してきたばかりである。

 

 と、そこに、()()()()()()()も現れる。

 

「ねーちゃんたちもギムレットさんのレースを見にきたの!?」

「バカねウオッカ。じゃないとここにいないでしょ?」

「んだとー?」

「あーぁ、2人とも喧嘩するなって」

 

 彼女たちに声をかけてきたのは、メッシュの入った前髪で片目が隠れたボーイッシュな鹿毛のウマ娘。

 その鹿毛のウマ娘は「ウオッカ」と言うらしく、そんな彼女にツッコミを入れたのは、ダイワメジャーに何処か似たツインテールの栗毛のウマ娘。

 そのツッコミにムキになるウオッカと睨み合う栗毛ツインテールのウマ娘。そんな2人の間にダイワメジャーが仲裁に入った。

 

「もしかしてその子が?」

「そうさ。自己紹介、できるよな?」

「うん! アタシ、ダイワスカーレットって言います! 姉がお世話になってます」

 

 そう礼儀正しくお辞儀をするダイワメジャーの妹、その名をダイワスカーレットというらしい。

 

「ふんっ。良い子ぶりやがって」

「ぁによー?」

「まぁまぁ。この子はウオッカ。タニノギムレット先輩がうちのチームにいるってのを妹が喋ったらしくてな……」

「ギムレットさんの生レース、どうしてもどうしても見たくて……!」

「そっ……か」

 

 まだ小学生高学年ぐらいの背丈しかないウオッカに目線を合わせたクロススキッパー。

 そんなウオッカの目がキラキラしていたことにどこか懐かしさを覚えた。

 その光景を見ていたスペシャルウィークは、4年前のことをつい思い出していた。

 

(……そうだ。ホッパーちゃんも4年前、中山(ここ)で皐月賞を見に来ていたんだったっけ)

 

 自分は、直接は幼き日のクロススキッパー=ホッパーの姿をここでは見ていない。

 けれども、あの地下バ道で顔を合わせた時のクロスクロウは従妹が自分のレースを実際に見にきてくれたのを、とても喜んでいたのはよく覚えている。

 

「……メジャーちゃんもホッパーちゃんも。いつかこの大舞台に立てるように。ね?」

「……うん!」

「はい先輩!」

 

 あの時のクロスクロウの背中を追いかけてクロススキッパーはここまで来た。

 ダイワメジャーとウオッカも、タニノギムレットに憧れてやって来た。

 

 スペシャルウィークは密かに新たな目標が出来た。それは、

 

(いつかこの子たちの皐月賞を。実際に見に行って応援してあげたい。そのために私も頑張らなきゃ)

 

 彼女たちの先輩として。

 皐月賞だけに限らずG1の大舞台に立てるように。

 自分が出来るだけのことをやってあげたい。背中を押してあげたい。

 密かにスペシャルウィークはそう心に誓った。

 


 

『間も無く、第11レースのパドックが始まります』

 

 時間はあっという間に過ぎ、皐月賞の出走30分前。

 中山レース場のメインスタンドは大混雑。パドックを直接見てから戻って来ようにもそれだけで疲れてしまうほどの盛況ぶりだった。

 そのため、メインレースのパドックはスタンド前モニターに中継で映し出されていた。

 

『6枠11番、タニノギムレット!』

『前走のシンザン記念は好走での一着。今回も爆発的な末脚が炸裂するのか、初の中距離走への参戦にパドックは盛り上がっています!』

 

「仕上がりはこの上ない! 灼熱の煉獄炎(ヘルフレイム)を纏い、未来永劫、消えぬ跡を焼き付けてやろう!」

「タニノギムレットぉー! 中距離でも通用するところを見せてくれ!」

「───そうだ、その呼び声を高めろ。ワタシの存在を証明するがの如く……! ハーッハッハッハ!!!」

 

 観客たちからの声援に答えて豪快に笑い声を上げるタニノギムレット。

 シンザン記念に続き、皐月賞でも彼女は一番人気になっていた。

 

「刮目せよ、観衆よ! 世界よ震えろ! 鮮烈な輝きにより冠が焼き払われるか否か! 狂乱の舞台、その中央に立ち示すのは───このタニノギムレット(ワタシ)だ!」

「「「おおぉぉぉぉぉっ!!」」」

 

 勝利への決意を宿したタニノギムレットの宣言にパドックの観客たちのボルテージは最高潮に達する。

 

 だが、それは同じ皐月賞(レース)に出走する他のウマ娘たちも同じ思いだ。

 「この戦い負けられない!」

 

 そうしてパドックを温め切ったタニノギムレットは地下バ道を行くが、その途中。

 

「ギムレットさん!」

「ん?」

 

 そう声をかけてきたのは、チームのトレーナーである沖野と、チームの後輩であるダイワメジャー───らと一緒にいた、幼いウマ娘。

 

「2000mも、ズバッとキメるの見せてください!」

「……ククク、フーッハッハッハッハッ! あぁ、しっかりとワタシの走りをその目に焼き付けろ!」

「ギムレット。緊張してないよな?」

「まさか! トレーナー。『皐月賞』とて、俺の大いなるシナリオの通過点に過ぎんことはお前も知ってるはず。今更心乱れる事などあるはずないだろう?」

「まぁ、そりゃそうだな。聞くだけ野暮だったか」

「とはいえ、決して容易な戦いではない。むしろこれまでで一番厳しい戦場だ……!」

「あれだけパドックで派手にアピールしたんだ。他の連中に絶対マークされるのは当然だ。だが───」

「───わかってる。どんなに囲まれようとワタシは蹴破ってみせる。故にワタシは踊る! 我が破壊を、この(とき)()く強者たちに示してやろう。それが俺の、ワタシの美学だ!」

「その意気だ!」

「では行くぞ」

 

 幼いウマ娘からの応援と、トレーナーからの激励にタニノギムレットはターフへと向かう。

 つい雰囲気に流されてしまったダイワメジャーは慌ててタニノギムレットに背中越しながら声援を送った。

 

「あ、せ、先輩! あなたの豪脚、しっかりとみんなに見せつけてください!」

 

 そのダイワメジャーの声掛けに、タニノギムレットは無言で拳を作った右手を上げて応じた。

 


 

 地下バ道から関係者専用通路を通って、沖野たちは特別観覧席に着いた。

 

 それより階下の観客席では、昼食を食べ終えて観客に揉まれながらも席に戻ってきた射手園とクロススキッパー。

 それにクレープを頬張りながら今か今かとメインレースの出走を待つマヤノとカルマの姿が見えた。

 

 〜♪

 

 間も無く、皐月賞のファンファーレが響き、中山レース場の内回り2000mコースのスタート付近に設置されたゲートにウマ娘たちが集まってきていた。

 

『最も速いウマ娘が勝つという皐月賞。風を感じるウマ娘たち、最も長い2分が幕を開けようとしています。3番人気はこの娘、モノポライザー。2番人気はローマンエンパイア。威風堂々とスタートを待つのは本日の1番人気タニノギムレット。只今、18番のチアズシュタルクがゲートに収まりまして───』

 

 18人のウマ娘たちがゲートに収まった次の瞬間、ガチャンッという音と共にゲートが開いた。

 

『───スタートしました! 好スタートを切ったのはタニノギムレット、まずポーンと出ました』

 

(よし、出だしはまずまずだ)

 

『しかし先行争いは内側の各ウマ娘、メジロマイヤーがまず行きます。メジロマイヤー《blur:5》、果敢に行きました! 2番手、外からダイタクフラッグ、シゲルゴットハンド。内にバランスオブゲーム、4番手。タイガーカフェが上がっていきます。ホーマンウイナー、そしてマイネルリバティーが先行集団を形成。その後ろのメガスターダムが追走してアドマイヤドン。さらに外からゼンノカルナックが続いて第1コーナー曲がっていきました』

 

 実はタニノギムレットが破壊衝動に駆られてゲートを破壊しないかデビュー時は不安を抱えた沖野トレーナーだったが、そんな仕草もなく上々の滑り出しでスタートを切ったタニノギムレットの姿を見て安堵する。

 だが、勝負は始まったばかりだ。

 

『タニノギムレット、後方へ下がった! 失策、それとも作戦か?』

『これはきっと狙い通りでしょう。彼女には驚異的な末脚があります』

『モノポライザーと12、3番手で並んで行ってますタニノギムレット』

 

 後方に注目がいく中、間も無く先頭集団が1コーナーに差し掛かった。

 

『1コーナーを回っていって依然先頭はメジロマイヤー、1バ身のリード、2番手にダイタクフラッグが位置取って第2コーナーへ、半バ身差まで詰めてまいりました。2人の競り合いは続いています』

『しかし程なく3番手にバランスオブゲーム、外を回ってタイガーカフェが続いて向こう正面に入っています。2バ身差でシゲルゴットハンド、さらに外からマイネルリバティーが行きました。内にメガスターダム、この集団も固まって、2バ身後ろにアドマイヤドン』

(くっ。まだだ……! まだ抑えろ(ワタシ)!)

 

 前に出たい衝動と内心で格闘するタニノギムレット。

 そんなことは本人しか知らず、レースはあっという間に中盤に差し掛かる。

 

『向正面中間を通過。ホーマンウイナーと、さらにその後ろにノーリーズンが続いています。1000mは1分を着る形になりました。ここから後半戦。ゼンノカルナック、チアズシュタルクここまでが集団で、2バ身後ろにモノポライザー。ここに居ましたタニノギムレット! サスガと並んで残り800m切りました。あとはヤマノブリザードが終始外を回って後方から3番手。そしてローマンエンパイアはまだ最後方の位置、3コーナー回っていきます。さらにファストタテヤマ、3コーナー回っていきまして、さぁ前頭はメジロマイヤーダイタクフラッグが並びかけて、タイガーカフェ3番手。内にバランスオブゲーム、外からジリジリとシゲルゴットハンドが上がってきて第4コーナーカーブ!』

 

 このレースを見ていたクロススキッパーは思った。

 ここまで来てタニノギムレットと先頭集団までの差は10バ身近くある。果たしてこんな状態で勝てるのか。

 

「行けー! 行けー、ギムレットさん!!」

「頑張れー!!」

 

 特別観覧席にいたウオッカとダイワスカーレットの応援にも自然と熱が入る。

 レースはいよいよ終盤戦へと入っていく。

 

『そしてバ群は一団になって第4コーナー回ってきました。大外にタニノギムレット、モノポライザー、回ってきている! 直線コース入りました、先頭はダイタクフラッグに変わりましたが、2番手からノーリーズン! ノーリーズンが抜けてくる!』

「がんばれ!」

「行けギムレット!!」

「行け追い込め!」

「差せ! 差し返せ!!」

 

 直線コースに入るとラストスパート。観客たちの歓声と怒号が飛び交う。

 

『残り200を切ってノーリーズン、タイガーカフェ、そして追い込んできたサスガ、大外からはタニノギムレットが現在4番手だがちょっと苦しいか! さぁ先頭はノーリーズン、ノーリーズン1着!!』

「「「あぁー!」」」

『ノーリーズンやりました、15番人気からの下剋上! 先行集団で粘っていたタイガーカフェを2着に、大外から追い込んできたタニノギムレットを3着に抑え、皐月賞の栄冠を手にしました!』

「あー……負けちゃった……」

「もー……でもすごかったね、ノーリーズン」

「まぁな……はぁー……」

 

 特別観覧席からレースの一部始終を見ていたダイワスカーレットとウオッカは結果に驚愕しつつも、ダスカは勝者のノーリーズンを讃えるが、ウオッカは疲れた様子で思わず溜め息を漏らしてしまった。

 

「ノーリーズン!!」

「よく頑張ったぞー!!」

 

 最初は感嘆の声が響いていた観客席だったが、徐々に勝者であるノーリーズンを讃える声と拍手が巻き起こる。

 激戦を制したノーリーズンというウマ娘はクタクタでターフの上に横たわってしまった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……か、勝った……!」

「ふぅ……ふぅ……はぁ……は、ハハハッ、ものの見事にやられた」

「タニノ……ギムレット」

「ほら立て。勝者たるもの堂々としろ」

 

 悔しさを滲ませながらもカラッとした笑顔でタニノギムレットはノーリーズンに手を差し伸べて立たせた。

 そして、ノーリーズンの右手を持ち、天に掲げさせた。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

「「「ワァァァァァーッ!」」」

 

 そしてギムレットの雄叫びと共に、観客たちは歓声を上げた。

 

「ククッ……いいぞ……熱が、波となってこの身に伝わってくる……!」

「……ふはっ……やっぱり、あんたにはかなわねぇよ……

 

 皐月賞を勝ったノーリーズン。

 しかし、敗北しても尚強者としての矜持を失わず、むしろこの場を支配しているタニノギムレットの姿を見て、小さく呟いたその言葉は、観客の歓声に掻き消されて誰の耳にも入ることはなかった。

 

「……すごい人だ」

「……そうだね」

 

 そして、観客席から皐月賞の一部始終を見て、今まさに行なわれたタニノギムレットとノーリーズンの間で交わされたやり取りを見て、クロススキッパーとマヤノトップガンは感心すると共に、いつかG1という舞台で輝く自分たちの姿を思い浮かべつつ、ただただ拍手を送る他なかった。

 

「……フレアカルマさん」

「何?」

「……僕も、ここであんな風に輝けるかな?」

「何を言ってるの? ……()()()()()()()()。ね?」

「……はい!」

 


 

 それから間も無く、タニノギムレットは地下バ道に引き上げていった。

 ウイニングライブの着替えのために選手控室へ向かおうとしたところ、

 

「あの! タニノギムレットさん! 今少しだけお時間よろしいでしょうか!?」

「取材か……フッ、丁度良い」

「あぁ、待ってください」

 

 タニノギムレットにレース後のインタビューを敢行した記者が1人。

 ギムレットはお構いなしに取材に応じようとしたが、迎えに来た沖野が割って入った。

 

「すみません。インタビューは私を通していただけませんか?」

「トレーナー。別に構わんぞ。俺は示すぞ」

「……そうだな」

 

 タニノギムレットが何を言わんとしているのか、沖野は分かっていた。

 というより、ずっと前からタニノギムレットが目指していた目標を聞かされていて、ついにそれを明かす日が来た。

 

「ありがとうございます。えぇ、皐月賞は惜しかったですが良い走りでした。次走はやはり日本ダービーでしょうか? 是非、意気込みを───」

 

 その記者の質問を遮ってギムレットは答えた。

 

「───次走は日本ダービーではない」

「え!?」

「ワタシの次走は、NHKマイルカップだ」

「な、なんと!? それではこれからダービーを離脱してマイル路線に集中されるんですね?」

「それも否。俺は『次走が日本ダービーではない』と言っただけだ。今こそ高らかに告げよう! ワタシは───NHKマイルカップと日本ダービーを制覇する!!」

 


 

 その翌日。

 各社のウマ娘新聞には、

 〈タニノギムレット、次の目標はMCローテ達成か!?〉と。それに類する題名の記事が店頭に並ぶことになったのは言うまでもないことだったが、

 

「うーん……皐月賞の後にMCローテか……」

「どうでしょうか?」

「いや、今はそれを考える余裕ないだろ……」

 

 タニノギムレットが皐月賞で見せた走りにすっかり魅せられたクロススキッパーは翌日、タニノギムレットの特集記事を購買部で買ってきて、目を輝かせながら矢萩とフレアカルマの元に持ってきた。

 ただ、この矢萩の反応はクロススキッパーも予想はしていた。

 

「そう……ですよね……」

「皐月賞の結果次第ではNHKマイルカップか日本ダービーに。スキッパーちゃんが出たいなら出したいけど……」

「無理をさせたくないし、俺ならオススメはしないな」

「……」

 

 衝動的で浅はかな思い付きだったことは重々承知していた。だが、何故かクロススキッパーは落ち込んでしまう。

 それを見て矢萩は溜め息を吐きながらフォローした。

 

「そう落ち込むなよ。思い付きは悪くないし、昨日の皐月賞はお前さんのレースへのやる気を出す良い刺激になったみたいで安心してるんだよ、俺たちは」

「でも……最初からMCローテを目指すつもりなら皐月賞は……」

「出すのはリスキー……ですよねチーフ」

「さっきも言ったが、無理をさせたくない。両方に出すならローテの感覚が短くなりすぎるし、一番の問題はお前が()()()()()()()()()()()()()()()()()を俺たちがまだ分かっていないことだ。無論、お前自身もな」

「確かに……」

「ただ、さっきも言ったが()()まだ無理ってだけの話だ。ここからの鍛え方次第でMCローテを熟せるかもしれない。それまでは我慢だ」

「……わかりました」

「まぁ、落ち込むなよ。お前さんの飲み込みの良さなら目指せない事はない。一緒に頑張ろうぜ」

「……はい」

 

 クロススキッパーには、この矢萩の言葉は慰めのようにしか聞こえなかった。

 

 だが、矢萩は()()()()()()()()

 それは矢萩自身とフレアカルマが理解していた。

 

(……ホントにこいつは、見た目によらず凄いウマ娘だよ)

 

 とんでもない逸材を指導する羽目になったな、というプレッシャーを矢萩は感じていた。

 それをクロススキッパーは知らない。

 

(チーフがあぁ言っていたのは……本心よね。だって、スキッパーちゃん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これは数時間後にスキッパーは気付くことになるが、ピッチ/ストライド走行の切り替えが比較的上手いフレアカルマの走り方を、クロススキッパーは()()()()体得してしまっていた。

 

「あぁ、そうだ。スキッパー。実はお前のメイクデビューのプランについてなんだが……」

 

 おっといけない。

 矢萩はクロススキッパーにジュニア期のプランのことを話さねばと思い出し、それを口にした。

 

 それは、フレアカルマとクロススキッパーが中山レース場に出掛けている間に、チーム[ライジェル]のみんなと矢萩、そこにチーム[セントーリ]のメンバーたちまで加わって話し合い、練り上げたプランだった───。

 


 

 ───そのプランについては、チーム[ライジェル]・チーム[セントーリ]間でのみ共有する秘密となる。

 

 ただ一つ、この時点で明かせるのは。

 

『小倉レース場今日の第6レース、メイクデビュー。9人のウマ娘たちが挑みます……』

 

 8月の北九州、福岡の小倉レース場。

 キンキンに冷えたスポーツドリンク、ミネラル補給用の麦茶や塩分不足対処用の塩キャンディ、濡れタオルと乾いたタオルなどなど、夏装備を万全に整えて……。

 

『ゲートイン完了、出走の準備が整いました』

 

 暫しの静寂の後、ゲートが「ガチャンッ」と音を立てて開き、

 

『スタートしました───』

 

 ───そこで先陣を切ったのは、夏の日差しで黄金のように輝く、尾花栗毛が美しいウマ娘だった。

*1
参考資料:ゆっくり鉄道博物館様投稿の「武蔵野線はなぜ混んでるのに10両編成にならないのか」より

*2
筆者「」(ギクッ

*3

*4
両方とも浦和開催の重賞で、長きに渡ってG2(Jpn2)の地位にあった。なお、2024年よりさきたま杯がJpn1に格上げされたため、このストーリーにおいてはさきたま杯はG1という扱いとします。




 「俺たちの戦いはこれからだ!」ENDになってしまって申し訳ないのですが、この次にメジロパーマーのシニア3年目の天皇賞・春の回が来ます。

 ……本来なら、クロススキッパーのジュニア期のローテとかをお出しするつもりでしたが、諸事情でまた今度になりました。ごめんなさい。

 それにレース実況で2名ほど名前がピー音を被せられてる状態になってますが……ストーリーでこの2人をどう絡ませるべきか分からなくなったので、迷った末にこうするしかありませんでした。

 そして、ここだけの話。ウマ娘でダイワメジャーを登場させたのは元々、本当に軽いノリだった。そのはずでした。
 しかし、ダイワスカーレットの姉=ダイワメジャー説も捨て難く……それでこうなりました。

 でも、小学校高学年でランドセル背負ったロリのウオスカ見たくない?

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