また君と、今度はずっと 〜If you can Cross to tomorrow〜 作:Simca Ⅴ
6月某日土曜日。チーム[ライジェル]のチームルーム。
……チーム[ライジェル]と言いつつ、チーム[セントーリ]も出入りしているこの部屋で。
午前授業が終わり、午後からのトレーニングに臨むところにいたチーム[ライジェル]のクロススキッパーと、チーム[セントーリ]のマヤノトップガンは……。
「あぁ〜……動きたくない〜……」
「ですね〜……」
着替えて体操服姿になった2人だが、ジャージは上を着ておらず、エアコンの効いた部屋でチームルームのテーブルに2人揃って突っ伏していた。
そんな時、ドアが開き、
「あぁ! 全くお前らはぁ……」
「あ、トレーナーさん」
「お邪魔してまーす」
「お邪魔してますじゃねぇよ、マヤノちゃん、君さぁ……」
一応チーム違うんだし、チーム[セントーリ]も人が増えてチームルームも与えられたのに、未だに
「ぶーぶー! 良いじゃん。矢萩トレーナーのとこ、部屋のエアコンの効きが良いんだしぃ」
「気持ちはわかるが、お前ら午後からトレーニングだろ。飯は食ったのか?」
「食堂でランチを」
「イルちゃんからのお弁当食べ終わっちゃった」
「なら早く行くぞ。ほら早く」
最近、この2人の特性が似ていることに気付いた矢萩は、マヤノが「イルちゃん」と呼んでる彼女の
「えー? やだよぉー。もうちょっとゆっくりしようよー」
だが、このマヤノトップガン、彼女の愛しのトレーナー以外と接する時は我が儘少女と化す。
射手園くんのチームに最近入ったスイープトウショウほど酷くないにしても、曲者ウマ娘というカテゴリーがあるなら同じグループかもしれない。
「むー? 矢萩トレーナー何か失礼なこと考えてない?」
「おめーはベタゾイトかっちゅうの」
「ベタゾイト*1? ……何それ、マヤ、分かんない」
「あー、まぁ……「お前心が読めるのか?」みたいな。気にするな。スラングみたいなものだ」
「ふーん……?」
(あっぶねー。んなマニアックなネタ普通は通じないのに俺も何言ってんだか……)と矢萩は自身の少々軽率な行動を心の中で嗜めた。
「……」
すると、ふとクロススキッパーは疑問に思っていたことを矢萩に尋ねることにした。
「……そういえばトレーナーさん」
「何だ?」
「中央トレセン学園のチームって、大抵が恒星の名前ですよね? 樫本トレーナーのチーム[ファースト]は例外としても」
「お?……まぁ、そうだな」
「で、[リギル]や[プロクシマ]、[ベテルギウス]などはアラビア語やラテン語の発音が主ですよね?*2」
「まぁ、そうだな」
「でも、[セントーリ]と[ライジェル]は英語読みですよね。しかも、どちらも
「あー。……そこに気付くとは。さすがトレッキー」
「トレッキー?*3」
「……薄々気付いてましたけど、トレーナーも
「???」
「まぁな」
マヤノトップガンには理解できない単語や言語がクロススキッパーと矢萩の間で飛び交っていた。
……スルーしよう。と、マヤノがそう決めた矢先だった。
「でも、[セントーリ]はバビロン5ですよね?」
クロススキッパーの視線とその言葉は明らかにマヤノに向けられたものだった。
マヤノは矢萩の方を一瞬向くが、スキッパーの質問の矛先は明らかにマヤノに向いていることを矢萩が視線で伝えた。
スキッパーに向き直ったマヤノは、目の前の栗毛のウマ娘が目を輝かせていたことに若干引いた。
そういえば、マヤノは射手園が自分たちのチームに「セントーリ」と名付けた由来を聞いたことがない。なので、慌ててこう答えた。
「ま、マヤ、知らないよぉ!」
「そ、そうですか……」
しかし、矢萩はそんなスキッパーの海外SFドラマの知識の幅広さに感心を寄せていた*5。
その上で、矢萩はこう言った。
「まぁ、確かにバビロン5には「セントーリ」って星や種族が登場するよな」
「で、ですよね!」
「でもな、その名前を俺が射手園くんに提案したのは偶然なんだよ」
「「偶然?」」
「あぁ。……多分、マヤノなら分かる知識かもしれないが」
「え?」
「マヤノ。セントーラスエンジンって知ってるか?」
「セントーラスエンジン……ぁ。あぁ! マヤ知ってるかも!」
「セントーラスエンジン、ですか?」
「マヤね、お父さんが持ってた飛行機の模型について教えてもらったことがあるの。確か……テンペスト、だったかなぁ? そんな名前の機体にそのエンジンが使われていたんだ!*6」
「そう、まさにそれだ。セントーラス。その名前はケンタウルス座に因んでるものだ」
「ケンタウルスというと、ギリシャ神話に出てくるウマ娘の狩人の名前ですよね?」
「そう、ヘラクレスに恋をしたあの悲劇の狩人ケンタウルスさ*7。一度は
「それなら普通に[ケンタウリ]のままでも良かったんじゃ……?」
「じゃぁ、「ケンタ」って言われたら、2人は何を思い浮かべる?」
「ケンタ?」
「えっと……」
「「……」」
そうして2人が真っ先に思いついたのは、ケン○ッキーフライドチキンである。
「KFC?」
「まぁ、そうなるよな、それで「ケンタ
「「……?」」
改めて矢萩に言われたことを連想してみる二人。すると。
《いらっしゃいませ……ケン○ッキーでバイトする私》
「「プフッ……!?」」
2人が思い浮かべたのは、KFCに入店したら、応対してくれた店員さんがダイイチルビーだった、という光景だった。
「な、言っただろ?」
「た、確かに言われたらそうかもしれないですけど……!」
「や、矢萩トレーナー、そ、それは……あははははっ!!」
「だから[セントーリ]って名前を提案したんだ。KFCへは簡単に結びつかない分、少しはおしゃれだろ」
「な、なるほど……!」
笑いを堪えつつも、チーム名の決定に紆余曲折あったことを理解する二人。
「じゃぁ、[ライジェル]はやっぱり……?」
「まぁ、そっちは確かにスタートレックから持ってきた。だが、実用上の問題の解決も兼ねてる」
「「実用上の問題?」」
そう言われても二人はパッと来なかった。
そこで、矢萩はホワイトボードに文字を書き出した。
大きく、Rigelと。
「これは僕たちのチームの名前?」
何を今更、という顔をするスキッパーに対して、矢萩はお構いなしにその下にもうひと単語追記する。
それは、Rigilだった。
「じゃぁ、これは何と読む?」
「リギル?」
「……あぁー! チーム[リギル]だ!?」
「そう。本来、Rigelの綴りなら「リゲル」と読むだろう? でも、既に東条トレーナーの率いるチーム名が[リギル]だ。「リゲル」と「リギル」。日本語では発音を取り違えやすくてややっこしい。だが、このチームルームを使い始めたときはうちも色々あったんでな……だから元々この部屋で使っていたものと極力流用できるように、ここでスタトレ知識を使った、というわけさ」
尤も、単にRigelを英語読みの[ライジェル]にしただけだが。と矢萩は続けた。
「「へー……」」
「そんなことがあったんだね」
スキッパーは知らないが、マヤノはチーム[ライジェル]が生まれた経緯を見て聞いて知ってる。
チーム[セントーリ]結成時からいる、(デビュー前とはいえ)もはや古参メンバーの一人になってるマヤノにとって、[
思えば、その時からチームの表札は変わっていない。
とそこへ、ドアをノックする音がして、部屋にやってきたのは。
「……マヤノちゃん、スキッパー、時間なんだけど?」
ひょっこりと顔を出したのは、チーム[ライジェル]のサブトレーナーであるフレアカルマだった。
「あ、ご、ごめんなさい! すぐに行きます!」
「マヤも! ごめんねフレアさん!」
矢萩が部屋に入ってきた時とは打って変わって慌てて席を立ち、ジャージの上着を2人とも片手に引っ掴んでチームルームを後にするマヤノとスキッパー。
2人が部屋の外へ出たのを見計らってから、フレアカルマはチーフトレーナーである矢萩をジトーッとした目で見ていた。
「……何だよ? どうした?」
「……別に。でも、さっきの話」
「……まさか聞いてたか? どこから?」
「ケンタ売りがどうとか」
「わー、シーッ、シーッ! それ、絶対にダイイチルビーには言うなよ!?」
「手遅れですよ?」
「はぁ!?」
フレアカルマはドアから顔を引っ込めた。
……代わりに現れたのは。
「……矢萩さん?」
声に抑揚がなく、顔が引き攣ってるダイイチルビーが代わりに姿を現し……。
「ま、待て待て待て、あくまで例えで言っただけで……!」
「完全なるイメ損です。あの2人がもし私を見て笑うようでしたら……」
ゴクリッ。
一体どんな目に遭うかと身構える矢萩。
するとダイイチルビーは、
「……そのケン○ッキーフライドチキンとやらを私にも食べさせなさい」
「……へ? それだけ?」
「えぇ……華麗なる一族による買収を検討するにはまず味を知らねばならぬのです!」
そう言ってダイイチルビーは机にその華奢な両手をバンッと叩きつけた。
後日。
華麗なる一族による日本ケン○ッキー・フライド・チキンの実質買収が行なわれたとか、行なわれなかったとか……?
筆者の性癖というかIPの根源を今更、
怒られたら消します。
※2024年5月21日追記……まさか本当に日本のK○Cが買収されるとは思って無かった……。