日向如く   作:尾田栄~郎

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第十一話 けだし木の葉崩し崩し

 大蛇丸出現の一報から四日後、これを事実と認めた三代目火影はすぐさま中忍試験に関わる忍達を招集し緊急対策会議を開いた。手配書(ビンゴ・ブック)での危険度はS級とされ、木の葉への侵入を許した時点で戒厳令が発令される本来のおじさん(大蛇丸)対策マニュアルからかなり鈍化した対応であったのは、おじさん自身が中忍試験の続行を要求したからである。曰く「サスケくんの体が欲しいの。もうちょっとサスケくんが頑張ってる所を見てウズいていたいの」と。これがただの生理的に気持ち悪い話ならおじさんは国際犯罪者ではなく国際変質者として扱われるべきだろう。物理的に血生臭い話だから戒厳令が出るのである。誰かこいつを呪印呪印しろ。

 

 事実確認の為死の森に入り、実際に大蛇丸の要求を聞いたみたらしアンコは発言する。

 

「大蛇丸は中忍試験を中止すれば木の葉を潰すと言っています。私は伝言役として生かされましたが、演習場内で奴と交戦した暗部4名はそれを報告する通信の最後に死亡を確認。おそらく奴は本気でしょう。……というか、なんで暗部の仕事がこんなに早いのかしら?いつも地中に引きこもってる根が水を得たようね、ダンゾウ」

 

 ダンゾウ――木の葉の()ブラックボックスこと暗部養成所"根"の取締役は答える。

 

「中忍試験は重要な国家事業の一つ。我々"根"も警備部隊を編成し試験に貢献する旨は猿飛にも伝わっておる。まあ所詮我々は裏方、()()()()()()()は知らなくても業務を遂行できたろうがな」

「答えになってないわね。私は何故演習場()()に暗部がいたのかを聞いているのよ」

 

 ダンゾウを鋭く睨むアンコを三代目が制止する。

 

「今はそこを論じる場ではない。結果的に彼ら暗部の犠牲が大蛇丸の早期発見に繋がったのは事実じゃ。それより気掛かりなのは大蛇丸の目的。奴は儂の弟子でありながら、里に離反し見なくなって久しい抜け忍じゃ。呪印を施されたうちはサスケの事も心配じゃが、いくら奴でもまだ13歳の少年欲しさに長年訪れなんだ里に戻ってくるとは思いたくな……思えん。どうじゃ、お主はどう考える?」

 

 話を振られ、一般下忍の俺は答える。

 

「なんで俺がここにいるのか判りません」

 

 錚々(そうそう)たる顔ぶれの中、俺にこの嫌がらせを仕掛けたダンゾウだけが一笑した。

 

 

 

――――――――卍――――――――

 

 

 

「大蛇丸と交戦した儂の"根"の暗部達の緊急通信から、戦闘に巻き込まれた下忍の存在が判明した。しかもその下忍は暗部達も死んだ戦いから単独で生還し、そのうえで演習を続行。わずか50分で二次試験を突破した。大蛇丸の手中から逃れる片手間で、歴代最速記録を4時間47分も塗り替える快挙を成したのだ。――お前だ、日向ネジ」

 

 と、いう事になってるらしい。この男(ダンゾウ)の脳内では。確かに大蛇丸とは戦ったし、逃げおおせたし、試験を続けたし、巻物集めたし、50分でクリアしたし、疑いようのない快挙だし、思い返せばダンゾウの言ってる事は9割がた事実だけれど、それでも俺を巻き込まないでほしい。たぶんこの状況は俺が悪いけど俺を巻き込まないでほしい。俺が悪い状況に俺を巻き込まないでほしい。

 

「俺またなんかやっちゃいました?」

「やり過ぎたな。満場一致でこの場にお前を呼ぶことが決まった」

 

 史上初めてダンゾウがツッコミにまわった。嫌がらせとか言っちゃってごめんね。でも俺がここに呼ばれた要因ほとんど偶然なんだわ、逃げられたのも50分でクリアできたのもあの時俺を口寄せしたテンテンの功績なんだわ、だから一般下忍枠はテンテンに譲りたいんだわ、俺が一般なのかは一端置いといてそうしてほしいんだわ。

 

「わー!」

「とぼけるな。儂や猿飛にそれが通じると思うのか?不甲斐ない日向の当主と我々は違う。それが影の器量という物だ。わかるだろう"白影"?」

 

 ……だからって一介の下忍に大蛇丸の目的が解ってたまるか!流されそうになったけど流石におかしいだろ。確かに派手に生きてきたし里の上層部もさぞ俺を問題視している事だろうとは思っていたが、まるっきり特別視の域じゃねえか。13歳に国の頭2人と大蛇丸が首ったけ?そんな国は滅ぼされるべきだ。間違いない。

 ……待てよ。もしかして俺、この場において最強なのでは?緊急会議で里の表裏両方の最高権力が俺の味方してくれるんだぞ?俺は今、実質この里を手中に収めたんじゃないか?それはつまり、ここで的確に舵を取れば国が俺を社会的な平穏に導いてくれるという事。平穏……月並みだが悪くない報酬じゃないか。喉から八卦六十四掌が出るほど欲しいじゃないか!

 

「くくく、ふふ……良かろう。この天才日向ネジ、謹んで答えよう」

「せめてもう少し畏まれ」

 

 さあて、転生者の特権(ネタバレ)の時間だ。

 

「わざわざ中忍試験中に来て続行を要求してきたのが気になります。呪印を施すだけなら試験に固執する必要はない。そして"木の葉を潰す"という言葉――もし俺が木の葉を潰すなら、各国の要人や忍に紛れて木の葉崩しの戦力を紛れ込ませられるこの機会を逃す事はしない。観客が大量に来るトーナメント式三次試験。そこには目的である木の葉の中心人物も、人質として申し分ない各国の大名連中もいる。肉壁や脅しの材料に事欠かない立地、加えて市街地に巨大な口寄せ獣でも放てば木の葉の戦力は分散せざるを得ない。木の葉崩しはそこに成りましょう」

 

 場が凍り付く。ダンゾウが「卑劣な」と漏らす。お前に言われたくはない。三代目も苦々しげに言った。

 

「やはり中忍試験は中止、いや無観客での進行とするしかないか……」

()()()()()()()()()()()()()()()()。――この作戦は三次試験会場が天王山。そこには火影様や各下忍チームを指導する上忍、そして俺の弟子達もいる。ここが最も堅牢で勝利に直結する難関だ。ここを抑えるには、相手も相応の戦力を出す必要がある」

「まさか……来るのか?」

「はい。間違いなく大蛇丸はここに来ます。つまりこの勝負、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――逆を言えば、これ以外に大蛇丸討伐の道はありません。あわよくば捕獲して脳から情報を抜き取り、(シメ)て死体換金所にでも持っていけば国富の足しにもなりましょう」

 

 再度場が凍り付く。ダンゾウが「卑劣な」と笑い、三代目が顔を歪ませる。

 

「ネジ、お主……なんというかその、殺伐としすぎておらんか?」

「やだなあ、家庭の事情ですよ」

「日向がおかしくなったのはお主の代からじゃが?」

「ぐうの音も出ない。ぐう」

「息の根からやかましい……」

 

 べ、別にそうすればサスケが里抜けなくなるとか穢土転生の術を盗めるとか考えてないんだからね!ただ生き延びたいだけなんだからね!人生ハードモードなんだから!

 

 結局ネタばらしの効果は絶大で、俺の提案した流れで大蛇丸に対処する事が決定。話された内容は他言無用として解散となった。俺は試験クリア後早々に三代目の召集で仲間とはぐれたので、何か上手い言い訳を考えようとした束の間背後の暗闇から何者かに肩を掴まれた。お化けかと思ったらお化けより怖いダンゾウだった。

 

「日向ネジよ。作戦立案とそこまでの誘導の手腕、見事だった。やはりお前は儂の想像を超える逸材だ。試験中お前に遣わした暗部達から大蛇丸確認の報告が来た時も驚いたが、お前が暗部達をそこまで誘導しなければ事はより大きくなっていたやも知れん。根の一小隊を消費したが、英断だった。お前には根への加入後相応のポストを用意しておこう」

 

 ……そんな意図はないが。

 

「それはそうとダンゾウ()、対大蛇丸戦が俺の案でいくと決まった以上、御身にも戦場に出向いて頂きたい。その旨一考の程、お願いします」

「ほう……儂すらも利用するか、ネジよ?」

「そんなつもりは。ただ大蛇丸との戦闘で自ら"根"を率いて前線に立つ姿を印象付ければ、以後ダンゾウ様の権威も高まる……そう思うだけです」

「ククク。お前、その年で国を動かす気か!素晴らしい……ふはははは!」

 

 そんな大それた事じゃねーよ。不確定要素共々ここで処分できれば好都合、できなくても内部から指揮系統を乗っ取る。それだけだ。……だいぶ大それてるな?

 

 

 

――――――――卍――――――――

 

 

 

「アンタ、今度は何やらかしたの?」

 

 待機所に戻ると、紅潮したテンテンが出迎えてくれた。一瞬困惑したが、後ろで休んでる緑を見る限りさっきまで組手をしていた様子。よく見れば色気より熱気のある顔である。もう二次試験も終わりだというのに修行に励むとは、彼らの師匠はきっと素晴らしい忍に違いない。何を隠そうその半分は俺だ。半人前という意味ではなく。

 

「俺がいつも何かやらかしてると思うな。ちょっと俺の成績が良かったもんで今後の出世コースの相談をしただけだ」

「で?何やらかしたの?」

「今限りなく事実に近い事を言ったが?」

「つまり嘘じゃん。まあアンタの事だから私達を巻き込みたくないとか考えてるんでしょうけど、無駄よ?古今東西アンタが絡んで縺れなかった話を聞いた事が無いわ。班員なら尚更ね。諦めなさい」

「元も子も血も涙もない事いうな」

「滅相もない」

「上手い事いうな。……解った、降参。丁度お前の手を借りたかった。二次選考も終わりだ、場所を変えて話そう」

「場所を変えてって……アンタ聞いてないの?これからすぐ三次()()よ?」

「え?」

 

 そんな時に組手してたの? 


第三次試験予選

 

 本来予定されていないが、二次試験通過者を三次試験が日程通り進む様に減らす為臨時で設けられる試験。今回の通過者は下を参照。

 

 ガイ班(俺、リー、テンテン)

 紅班(ヒナタ、キバ、シノ)

 カカシ班(ナルト、サスケ、サクラ)

 アスマ班(いの、シカマル、チョウジ)

 砂三人衆(我愛羅、テマリ、カンクロウ) 以上15名

 

 この中で一対一形式の実戦を行い勝者は決勝戦へと進出する。ルールは一切なし。一方が死ぬか降参するまで戦う。

 塔地下の演習場内に設置された電光掲示板が一回戦ごとに対戦カードを表示し、対戦者は試験官の指示に従って「はじめ」の合図で戦闘に移行する。

 

 ※サスケは大蛇丸に呪印を施されているのを考慮し、異常があればカカシが止めに入る事になっている。裏事情だから俺が動けないのが辛い。下手をすると俺と大蛇丸の関係を疑われてしまう。気持ち悪い。


 132名から15名という大幅な受験者削減の裏には1チーム1対で良い巻物を平気な顔で10対とか集めて来る俺の弟子共の存在が大きい。俺が頭を抱えた時のフレーズから、これは後に"馬鹿垂れ夜行の蛮行"と語り継がれる事になるが、蛇足である。

 個人的にはアスマ班の通過は意外だった。どうやって巻物を揃えたのかシカマルに聞いてみた所「なんか気を失った下忍の山を調べたら出てきたっすよ」との事で、いやぁ何者かに倒されたまま無造作に山積みにされるなんて哀れな人々もいる物だ。俺は全く心当たりがない。明らかシカマルの声が上ずっていたのが不思議でならない。

 とは言っても、今年の合格者を俺の弟子達だけにする目標は達成しつつある。ここまで勝ち進んだ木の葉の下忍達、その半数は俺が鍛えた忍だ。残りの有象無象は簡単に蹴散らす事ができるだろう。おおむね順調、問題があるとすれば――そう思った時、電光掲示板が第一試合を表示する。

 

 第一試合。


ガアラ vs ハルノ・サクラ


 ――この世界の神、殺意高いんだよな。

 

「やめておけサクラ、死ぬ」「うん。あいつは強いってばよ」「サクラさん、らぶ」

 

 それぞれ誰の反応かはご想像にお任せしよう。しかし言葉を発さなかった受験者達もまた、これから始まる勝負の過酷さを直感していた。俺や俺の弟子達、風の三人衆。ここは既に下忍レベルの戦力が生きる空間ではない。サクラも「大丈夫。わかってるわ」と漏らし、覚悟の表情を浮かべた。

 

「棄権します」

 

 許せ、サクラェ!お前は原作改変の犠牲になったのだ!

 

 第二試合。


カンクロウ vs ヒュウガ・ネジ


「まさかこんな所でお前と戦えるとはな、カンクロウ……昔からお前だけは潰すと決めていた」

「……なんの事じゃん?」

 

 演習場の中央で俺達は向かい合う。俺の本気の圧を感じたカンクロウは、背負っていた身の丈の七割程の忍具を巻き布ごと地面に立て、応戦の姿勢を取った。

 

「お前……日向ネジとかいったっけ。一つ確認したいんだが、俺とお前は初対面じゃん。因縁も恨まれる筋合いもないじゃん」

「お前からはなくても、俺にはある。カンクロウ。俺は昔から、それこそ生を受けた時からお前が嫌いだった。大した術も技もなく、影も薄く、活躍もない。顔のペイントが無ければ誰もお前の事を認識できないし、お得意の傀儡の術も、術者が希少だからこそ一流になる程度の腕前。実力も個性も派手さもないお前がのうのうと生きて、何故俺が死ぬか考えたことはあるか?お前が風影の息子であり、我愛羅の兄であるからだ。お前は結局、周囲の血縁にむしゃぶりついてうまい汁を吸っているだけなんだよ。どんな出番も活躍も、全て神の悪戯と知れ!」

「お前なに言ってるじゃん怖いじゃん!?」

「積年の、逆恨みだ!」

 

 俺は全力を込めて()()を殴りつけた。白毫のチャクラを用いた俊足から放たれる全霊の一撃、戦闘を傀儡に一任するカンクロウに対応できる筈はなく巻き布の中に隠れていた()()は演習場の壁へと吹き飛んだ。一拍おいて、カンクロウに扮していた傀儡「烏」が崩れる。

 

「こんな小細工は通じない。目が良いんでね」

 

 第三試合。


テマリ vs ヤマナカ・イノ


 

「なんだ、もう終わりかい?」

 

 試合開始から2分後の事である。いのはボロ雑巾の様な姿で演習場に転がっていた。テマリの風遁を使った猛攻、搦め手に秀でた感知タイプの忍である山中一族には厳しい相手なのは解っていたが、そこはやはりいのらしい抵抗を見た名勝負だった。

 

 ……それだけかって?原作でもテマリ戦は全カットだったし、それだけでしょ。

 

 第四試合。


ナラ・シカマル vs テンテン


「あんな試合の後なんて、やりづらいんだけどなァ……」

 

 ぼやくテンテンに「めんどくせえ」とシカマル。これはまた面白い組合せになった。口寄せ等の時空間忍術で遠距離を得意とするテンテンと影術を用いて敵の捕縛や操作をして中距離戦を仕掛けるシカマル。互いにミスマッチな術の戦いである。原作では巻物から忍具を口寄せするだけだったテンテンだが、俺とガイ先生の修行の経験から体術に走る事も容易に想像がつく他、原作通りの戦法を用いてシカマルの影術が経由できる影の数が増え不利を招く事もあるだろう。シカマルの200のIQが炸裂する可能性もある。

 

 不意にテンテンがクナイを投げた。起爆札と煙玉が付いた仕込みクナイである。煙に包まれた場内でテンテンが勝負をかける。

 

「"口寄せ・蟲毒の術"!」

 

 煙を払い、巨大な百足(むかで)が、蟷螂(かまきり)が、蟒蛇(うわばみ)が、熊が、(ひる)が躍り出る。明らかに死の森で見た面々だ。気持ち悪かったのでよく憶えている。片っ端から口寄せ契約結んでたのか……なんだろう一番気持ち悪いのはそれをやったテ……やめておこう。

 

「くっ……"影真似の術"!」

「甘い!"大岩連弾(たいがんれんだん)"!」

 

 襲い来る蟲毒をすんでの所で止めたシカマルに、上空に跳びあがったテンテンが畳みかける。巻物から乱射されたのはシカマルよりも大きな岩。しかもその全てに起爆札が貼ってある。岩と爆発の二重攻撃、シカマルにこれを受ける術はないだろう。勝敗は決した。

 

 「せっかくのIQも爆発には形無しね」とは、後日テンテンが言った事である。

 酷いゴリ押しを見た。

 

 第五試合。


ウズマキ・ナルト vs イヌヅカ・キバ


 残りの面子から必ず起こるとは思っていたが……まさか弟子同士の戦いが、しかも原作通りのカードで実現するとは思わなかった。直近まで修行をつけていたのはキバ、しかしナルトは俺の手を離れたとはいえ甘えた修行をする奴ではない。逆にサクラに教える側となった事で成長したとも考えられる。何より二人は同じく近距離戦タイプ、激戦は必至だ。というか、むしろ俺としては散々勝手に問題を起こすナルトよりも忠犬であるキバの方に勝ってほしかったりする。灸をすえてやれ、キバ。

 

「よォよォナルト。巷じゃあ結構ワルぶってるらしいが、それで本当に火影になれんのか?お前がならねぇなら、この犬塚キバ様が成ってやってもいいんだぜ?」

「お前、俺と火影の名を取り合ったら負け犬になんぜ?……覚悟は出来てんだろうなァ!!」

「お前だけが特別と思うな!この世代はみんなお前達めがけて頑張ってんだよ!行くぞ赤丸!"擬獣忍法(ぎじゅうにんぽう)"!」「"擬人忍法(ワンワン)"!」

 

 "牙通牙(がつうが)"が決まる。犬塚一族の秘伝忍術は、忍と忍犬が一時的に運動能力の上がった人型四足歩行の形態に変化し、回転をきかせた高速体術を行う。忍犬と忍、互いに横回転の一撃を放つのが"牙通牙"だ。ナルトの体はハリケーンに巻き込まれ縦横無尽に宙を舞う。

 

「どうだナルト!これがネジさんに叩き込まれた回転の極意、降参するなら今の内だぜ!」

「降参は、しねェ!火影は譲らねェ!」

 

 一瞬の攻防。勢いのまま地面に叩きつけられたのは――キバ。会場がどよめく。

 馬鹿な、ナルトはキバの回転に圧倒されていた筈だ。キバの回転は俺の回天と同速。回転する本人の視界が奪われ、嗅覚を頼りにするしかない程のスピードで、ナルトは手も足も出ない筈……!?

 

「俺ってば、ネジの回天を誰よりも見てんだ!チャクラが無くても、回転で打撃技は吸収されちまう。でもな!チャクラがねーなら、回転に合わせて投げ技は入る!俺にただの体術は効かねェ!」

「ふん……じゃあ次で決めるぜ!赤丸!ダイナミック・マーキング!」

 

 投げ飛ばされた方のキバが赤丸に戻りナルトに放尿した。ふざけているのではない。れっきとした放尿(ダイナミック・マーキング)という技だ……多分。横で「あの犬畜生が!」とか淑女らしからぬ暴言を吐く人がいるけど無視する。怖いんじゃない、今更の伏線回収なんて噛みつかれるだけだ。

 

 キバと赤犬は態勢を立て直すと、今度は二人で一匹の大狼に変化した。"人獣混合変化・双頭狼"――俺が修行で導いた、現状最高火力の形態。この状態で放つ技の破壊力は他に比類する物がない。それだけに俺の修行では一日一発までが限界だった。いわば諸刃の剣であり、この一撃が大一番だ。

 

「"牙狼牙(がろうが)"!」

「"影分身の術"!」

 

 風切り音が会場を揺らす。凄まじい回転は大狼に真空刃を纏わせ、周囲に沸いたナルトの分身を一掃する。もちろんナルトに付けた匂いを追っているに過ぎない為、目くらましに意味はない。猛進する風の塊は以後も続く分身体を蹴散らし蹴散らし、ついにナルトを捉える。文字通り、必殺の構図。ナルトの体は今に細切れになり鮮血を噴き出す……否、噴き出したのは深紅に燃えるチャクラ。それはまさしく"橙赤の鬼子"の形相であった。

 

「――――!!」

 

 この時のナルトの声は筆舌に尽くしがたい。狐とナルトとが一体に咆哮したような声である。俺はナルトが何故町民達に忌み嫌われていたかを目撃した気分だった。ナルトが行ったのは平凡な蹴り。よほどのバケモノでもなければ、それで大狼を打ち天井に叩きつける等という芸当は適わない。ナルトはそれだけバケモノじみていた。ナルトの意識があって尚、妖狐と大狼の間には絶対の差が存在していた。

 

 第六試合。


ヒュウガ・ネジ vs アブラメ・シノ


「え!?俺二回目なんですけど!?ちょっとレフェリー!!」

「固い事いうなってばよ!がんばれー!」

 

 応援するナルトに、空気は冷たい。キバは殊更に大事には至らなかったらしいが、その場の全員はさっき見たナルトと今のナルトの差に身構えている。運営側も審判の隣にいたダンゾウがナルトを見たまま「やれ」と言っただけ。冷たいし雑。

 かくして対面するシノと俺、しかし俺はシノの事を全く憶えていないのだった。

 

「日向ネジ、お前が俺の事を知らないのも無理はない。なぜなら、お前はいつも騒動の中心を生き、俺は忍らしく日々を狡猾に過ごしてきたからだ」

「えっと……なんか恨まれてる?」

「俺はお前を羨ましいとは思わない。なぜなら目立つという行為は忍にとって不利益でしかなく、人からの注目だけで成立する人間像はそうでない者よりも脆弱になるからだ」

「羨んでるかは聞いてない」

「……始めよう」

 

 なんかやり辛ぇなこいつ。とりあえず見た目が気持ち悪いって事が解ったわ。いや見た目っていうか中身っていうか、こいつチャクラを食べる虫を体内に寄生させてやがる。白眼で見ると表現を規制した方が良いレベル。集合体恐怖症と虫嫌いと男嫌いはトリプルでアウトって感じだ。すげぇ触りたくない。

 

「"八卦空連掌"!」*1

 

 最近ご無沙汰の何と八卦掌、もとい南斗八卦掌。全弾命中だが虫に食いつくされた。気持ち悪い。

 

「虫が暴れている……しかし攻撃にはなっていない。なぜなら、経絡系の負担から内臓の損傷を引き起こす柔拳は、体内の虫にチャクラを食いつくさせることで無力化できるからだ。行くぞ」

 

 シノの体中に虫が這い出てくる。迎撃とも攻撃とも取れない虫の盾を展開し、こちらへ跳んだ。日向ネジ初めての敵前逃亡の瞬間である。

 

「来るな来るな気持ち悪い!ぎゃああああ!!ああああああ」

 

 八卦空連掌、千本、その他全ての忍具を使ったが虫には効果が薄く、柔拳の様にチャクラ主体の攻撃を当ててしまうと虫の動きが機敏になる。起爆札が起爆用チャクラを吸われて機能しなかった時は泣くかと思った。しかしもっと泣きたくなる展開はその直後に待っていた。つまり捕まった。

 喉元をがっしりと掴まれ、虫が次から次へとチャクラを吸いに来る。全身の点穴からチャクラを放出して直接肌に触れないようにしているが、これがなくなったらなんて考えたくもない。この状況じゃチャクラコントロールが難しい柔拳は使えないしジリ貧だ。白毫のチャクラまで吸われたらいよいよ状況を返す手立てがなくなる。万事休す……集中力が途切れチャクラのコーティングが剥がれそうになった時、俺は無意識に千本を掴んだ。そうだ俺は天才(アミバ)

 

「俺は天才だァ~!」

 

 手にした千本をシノの首に突き立てる。仮死状態のツボ。どっかで発作起こしてるうちはの声が聞こえるが被害者二名で俺の勝ちだ。

 その時、虫が術者の手を離れた。

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

 第七試合。


ロック・リー vs ウチハ・サスケ


 さっきは酷い目にあった。シノの押さえがなくなって回天できなければ割と真面目に死ぬ所だった。

 しかし師匠としては休んでもいられない。リーは厳密には弟子ではないものの、俺が鍛えた努力の天才とうちはの天才との勝負は是が非でも見たいからだ。木の葉流体術の禁術"八門遁甲"を六門まで開けるリー、写輪眼を使いこなし大蛇丸にすら気に入られるサスケ。両雄遜色なく、どちらが勝つか判らない。

 

 先に動いたのはサスケ。一目で体術の練度で劣ると判断し、"火遁・鳳仙火の術"で陽動をかける。しかしリー、蹴りの風圧だけで炎をかき消し距離を詰める。火遁と体術による読みあいと攻防戦はしばらく続き、戦況の膠着は免れないかに思われた。

 

「"木の葉旋風!"」「火遁――ッ!」

 

 にわかに覚えた呪印の痛み。それはサスケの意識に死角を作るには十分だった。死角――死を呼ぶ角度を。サスケは大きく蹴り上げられ、背中を取られた。木の葉流体術"影舞葉"である。そしてそこから"八門遁甲"――体内のリミッターをチャクラで外し、限界を超えたパワーで生み出される超高速体術こそ"蓮華"。平たく言えば、必殺技である。

 

「"表蓮華"!」

 

 相手をがっちりと固定して衝撃の逃げ場を無くし、回転を加えて撃ち落ろす。威力は地面の高度に比例して飛躍的に高まり、落下の破壊力は相手の頭部に凝縮される。この究極の殺人術に一つだけ難点を上げるとするならば、殺せなかった時に一転窮地に立たされる事だろう。はたしてそれは起こった。

 

「"火遁・業火球の術"!」

 

 地面に激突する直前。二人は炎に包まれ、リーだけが弾かれた。火傷を負い"八門遁甲"の反動で体の自由がきかない筈のリーだが、まだ闘志は衰えていない。

 

「くっ――流石だ。まさか業火球をクッションに反撃されるなんて……!」

「見た所、あの技は諸刃の剣。相手を捕縛した状態では自身もダメージを受けてしまう。故に術者は地面寸前で退避しなくてはならない。――そんな所か?何にせよお前のその体では試合続行は不可能だ。俺もこれ以上、お前に譲歩できる余裕はない。降参しろ」

「嫌です。僕は木の葉の碧き野獣!努力で天才を屠る野生の(ゆう)!ロック・リーです!」

 

 リーはニヤリと笑い忽然と姿を消した。"八門遁甲"の二番目"休門"を開いた超回復である。復活した超スピードを体に慣らし、続く切り札に備えているのだ。第一"開門"、第二"休門"に続く"生門""傷門""社門""景門"を用いた技の内、リーが有する物は二つ。これほど入念な慣らしが必要な物は一つだ。俺に対するとっておきの技で、見た事はない。曰くガイ先生の奥義の一つ"夕象(せきぞう)"を元にした技。打撃と同時に次々と門を開ける事によって強引に超加速を実現した高速連続体術。その名を――

 

「"晨鶏(しんけい)"」

 

 瞬間、サスケが消える。次いで衝撃波と五回分の打撃音が俺を撃つ頃には、サスケは既に意識を失った状態で壁に埋められていた。

 

 第八試合。


アキミチ・チョウジ vs ヒュウガ・ヒナタ


 リーの手当、サスケの緊急搬送の後、原型を忘れた演習場の中心には対極的な二人の姿があった。一方は気の小さい巨漢、もう一方は気の強い可憐な少女である。両方とんでもない詐欺士だ。

 巨漢が雄叫びを上げる。

 

「行くよ!"三部倍化の術"――"肉弾ローラー"!」

 

 秋道一族の秘術を両腕と上体に使い、肉団子ではなく肉巻きの様態で転がるチョウジ。恐らくは攻撃先を点から面へと変えた彼なりの改良なのだろうが、相手が悪かった。ヒナタ様の柔拳、その極意は"絶対反射"。ヒナタ様は相手の受け流しに特化した柔拳を使いながら、確実に相手の体力を削る戦闘スタイルをとる。柔拳特有の内臓負担そのものを相手の肺や心臓に重点化して武器としている。相手の攻撃は蓄積される致命傷に反転して相手を蝕むのだ。

 

「"八卦六十四掌"!」

 

 え?絶対反射は?

 倒れるチョウジ……は別にいいんだけど、勝者はヒナタ様……も別にいいんだけど、なんだこの肩透かし感?

 

「あの、ヒナタ様?どうかなさりました?」

「なんでもありません。ナルトは下品な犬野郎相手に負けそうになるし、サスケは負けちゃうし、男連中の容体が気になるだけです。戦闘中は見に行ってあげられませんから。それだけです」

 

 本当?それ不甲斐ない男連中に対する怒りとかも含まれてない?そんでチョウジにやつあたってない?

 

 

 

―――――――卍――――――――

 

 

 

 長い五日間が終わり、久々の白庵で食う飯は旨い。何より造血丸がかけ放題だ。

 

「それで?首尾よくいけそうですか?」

 

 食卓を囲む百は何気なくそう聞いてくるが、意味する所はこの生活の残り時間の確認でしかない。俺の中忍試験が首尾よくいくという事は、俺が暗部になるという事なのだから。

 

「上々。ただし一か月後もそうとは言い切れないな。俺の眼でも未来は見えない。――なあ百。例えば一か月後、木の葉が戦場になったとして……俺は生き残れると思うか?」

「さて、どうでしょうね?でもそんな時が来るのなら、ぜひお供したい物です」

 

 

 

―――――――卍――――――――

 

 

 

 予選通過者は日向ネジ、うずまきナルト、日向ヒナタ、テンテン、テマリ、ロックリー、砂漠の我愛羅、以上7名。決戦は一か月後、第三次試験トーナメント会場。

*1
第二話参照。人力チャクラ散弾銃。




 ちなみに予選の対戦カードは実際にクジ引いて決めました。
 コメント、評価、ここすき等して頂けると泣いて喜びます。

日向ネジ、性質変化はどれ?(参考までに)

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  • 風遁
  • 雷遁
  • 土遁
  • 水遁
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