日向如く 作:尾田栄~郎
寅の刻、ほとんどの里の者達がまだ夢を見ている時間に儂は起きる。旧大戦で得た時間感覚は儂が三代目となり実戦や任務から退いた今なお消えてはくれぬ。中忍試験の当日でもそれは変わらん。或いはただの老いかも知れんが、カカシの様に旧大戦に囚われた者を見ると言い訳をする気も失せてしまう。三代目三代目と儂を慕う里の者達を想えばこそ、その様な思いの機微さえ悟られてはならぬというのが火影の定めなのやもしれん。――その様な泣き言もこの年まで考えた事はなかったのだが。かくして儂はいつも通りの思考を踏み、いつも通りの朝を迎える。しかし起き抜けに誤算だったのは、ここが我が屋敷でない事を忘れていた事と、家主――隣で寝ていた日向ネジの目が覚めてしまった事じゃった。
「すまないネジ。起こしてしまったかの?」
こんな早朝に起きる若者も珍しい。そう思っての事じゃが、対するネジは飄々と顔を洗い朝食の支度に入りながら「とんでもない」と返しよった。いつも通りの老成した口ぶりじゃ。
「朝はいつも早いんです。義弟の生まれは少々特殊でね、昔はもっと早く起きていて俺が起きる頃には平然とお腹を鳴らしている様な奴でした。お互い帳尻を合わせて、今の生活習慣にしてるんですよ。……そうだ朝食くらい一緒にどうです?昨日遅くまで
いちいち触れづらい所に突っ込むのぉ
「お主に術を教えるのはこれで
「変態ではなく天才です。酷いな、木の葉の術を全て修めた"プロフェッサー"たる貴方だからこそ頼めた事なのに。あの時は切羽詰まっていて、ああ言うのが精一杯でしたよ。術についてはまぁ……本で読んだという事で。大中小どれにします?」
「お主はいつも儂の使わん術ばかり教わりたがるからのぉ……大中小とは?」
「造血丸の量です」
「……ゼロで」
「小ですね、解りました」
造血丸料理、初めて食べたがなかなかに美味だったの。忍やめて料理人とかになっても大成するのぉ彼奴。と言っても、今日これからの三次試験に出場し、果ては火影を狙う男にそれは酷という物か。……"日向の変態"が火影になったら、この里は"変態の木の葉隠れ"とか呼ばれてしまうんだろうか。変態が木の葉で何を隠すんだろうのぉ。ナニじゃのぉ。嫌じゃのぉ。せめて後5年は影の座を守り、大蛇丸の収拾もつけたいが……そう言ってもう何年になるか。
「ヒルゼン……ついにあの日だな」
火影用の観戦席に座った儂にダンゾウが話しかける。あの日とは試験当日というより、日向ネジの言った木の葉崩しの日という意味じゃろう。答えに困る儂を尻目に、ダンゾウは暗部の者に椅子を設けさせた。儂の隣で試合を観戦するつもりか?儂が言うのもなんじゃが、あのダンゾウにしては珍しい。
「目当ては日向ネジかの?」
「ああ。ここにくる大半は奴を見に来ているも同然だ。儂もな。……それに奴の言った事が現実に起こるのなら、儂も参戦せざるを得まい」
「そうか……なあダンゾウ。儂は正直、今の儂の地位に疑問を感じておる」
「……!」
「本当の事を言うとな、ダンゾウ。儂は少し怖かった。老いた儂一人で大蛇丸に勝るのか、里を守れるのか不安じゃった。しかしお前が来てくれるというなら儂は安心じゃ!安心して新世代の忍達を眺める事ができる……お前と共にな!」
「……」
しばらくして会場の門が開く。日向ネジのいる第一試合を見に大勢の観衆がなだれ込み会場はほとんど満席。vip席にも日向本家と百が並んで座っておる。彼奴もなかなかやりおるわい。暫くして合同開催の風の国・四代目風影もお見えになった。
「ようこそ木の葉へ。遠路はるばるお疲れじゃろう」
「いえ……今回はこちらで良かった。まだお若いとはいえ火影様にはちとキツい道程でしょう。早く五代目をお決めになった方が……そちらの方は?」
そちらの方というのは仏頂面のダンゾウの事だ。
「これはダンゾウ。儂の古い戦友じゃ。不愛想なのは許してやってくだされ。では、そろそろ始めますかの」
風影殿が腰を据えたのを見て、儂は全体に届く様に声を張る。
「えー皆様!この度は木の葉隠れ中忍選抜試験にお集まり頂き、誠に有難うございます!これより予選を通過した七名の『本選』試合を始めたいと思います!どうぞ最後までご覧下さい!」
三代目のアナウンスが終わる。ついに俺、日向ネジの晴れ舞台だ。俺は百やテンテンが配置についてる事を確認し、朝食の不足分の造血丸を咥えた。
基本ルールは予選と同じ。つまり一切なし。降参か戦闘不能まで戦い続ける鬼畜ゲー。
トーナメントの形式になってはいるが、勝敗は合否に関係ない。そもそも木の葉崩しで有耶無耶になる試験だから、試合はもちろん実戦での功績も評価対象に加わり難易度が跳ね上がってる。まあ俺の弟子達ならいけるっしょ。
受験者が奇数だから一人だけ一回戦で二試合する男がいる。もちろん俺。クソ。しかもナルト我愛羅の連戦。どうせダンゾウのせい。
「ついに……ついについについに!この時が来たってばよ……ネジ」
闘技場の中心で不敵に笑うナルト。この一か月十分な修行を終え成長した様子だ。原作通りなら"三忍"の一角である自来也と出会い(ちなみに変態である)、九尾チャクラを断片的に使う事を会得している筈だ。チャクラという物は、ただまき散らすより意のままに操った方が強い。即ち、今のナルトはキバを倒した時よりも強いという事だ。しかし俺も負ける気はない。
「緊張、興奮、不安、期待……様々な思いが調和したイイ顏をする様になったなナルト。弟子の成長が嬉しい限りだが、かといって勝ちを譲る程甘くはないぜ」
ナルトは何も言わず、戦闘態勢をとる。俺は全力で地面を打った。死の森で見せた地盤崩しである。牽制の手裏剣を額あてで受け、次の行動に――
「"口寄せ・屋台崩しの術"!――いけ!蝦蟇親分!」
「"回天"!」
ナルトが親分と呼んだ巨大蝦蟇の大ドス。闘技場のざっと半分を占める圧倒的なサイズ感はそれだけで脅威だ。一振りにかかる巨大な風圧はまさに台風の如く。小台風の回天は流されるしかない。地面すら蝦蟇の質量と闘技場の基盤に封殺され陽動もできない。ドスは続けざまに二撃、三撃と俺を追い詰める。その度に会場の壁を削り、岩を砕き、俺を弾いて、的確に追い詰めていく。ナルトも本気、俺が食らうのも時間の問題だ。最後のドスの大上段からの一撃。運命を悟った俺は、回天を止めた。
うねる風、揺れる一体の空気、鎧袖一触の超剣圧。襲い来る死の一撃を、俺は
時が、止まる。この時の観衆の思いは、次の三代目の言葉に集約される。
「……真剣白刃取りだと!!?」
次に俺を襲ったのは、動き出した観客達による大喝采だった。
「ネジィィィ!!」
ナルトの呼号もこの賞賛の嵐に勝てはしない。しかし聞こえたとしても今の俺にはこのナルトの呼号までもが俺を讃える言葉に思えただろう。既に策は講じてあるからだ。
ナルトの前に俺2号が立ちふさがる。蝦蟇の攻撃に頼っていたナルトだ。分身の瞬間を見れた筈がない。蝦蟇の攻撃の邪魔にならない場所――それは下方向の視野の狭い蝦蟇の上しかないからだ。俺はナルトの上を取り、一本を取った。
「"
掌でチャクラを点穴にねじ込み術を封じる"八卦六十四掌"はナルトに効かない。ナルトの持つ九尾チャクラに封じた点穴をこじ開けられてしまうからだ。ゆえに"針"。チャクラと共に千本で点穴を壊す事によって、九尾チャクラを流出させる穴を全身に開けるのだ。医療忍者でもないナルトがこの穴を修復する事は不可能。いかに多量な九尾チャクラといえども、まき散らすだけなら脅威ではない!
蝦蟇も消えた。よろよろと立ち上がるナルトには、もはや万に一つも勝機はない。
「今回"は"、俺の勝ちだナルト。引き下がれ……!」
「うるせぇ!俺は火影になるんだ、俺は諦めねェ――!」
瞬間、ナルトの中で膨大なチャクラが動いた。もう遅い。チャクラを噴出しながら跳びかかるナルトに正拳が飛ぶ。ナルトは拳の勢いのまま壁にぶつかって沈黙。気絶の直前、笑って言った……気がした。
「負けんなよ?」
勝者、日向ネジ。俺は師匠としての貫禄を守ったのである。会場はまた喝采に包まれた。今度は俺ではなく、この試合に臨んだ両雄への喝采である。
……遠くの方で「ナルトに千本を立てるなァ!」と泡拭いて倒れてる怪我人が目につくが。
試合も終わり、連戦に備えて気を引き締めた時である。待機所から砂の塊が落下した。それは落下というよりは降下、いや投下に近い。まさに爆弾のように落ちてきた砂がぱっくりと割れ、現れた人の顔が修羅の形相で俺を見る。
「日向ネジ……!いますぐ、オレと!オレと戦えェ――!」
それはまさしく我を愛する修羅。我愛羅だった。
我愛羅の操る砂が俺に迫る。こうなった我愛羅を止める事は無理だと判断した審判が遅まきながら試合を宣言した。俺も迎撃の態勢を取るが、砂の攻撃は俺に届く前に霧散してしまった。見ると我愛羅はそれどころではなく取り乱している様子である。
「ウ……ウガ、か、母さん……わかってるよ、全部、全部母さんのだ……そう、ウン……」
母さんとは、彼の実母の事だ。彼を産んで死んだ。彼は意識の中で母の亡霊に憑かれているのだ。そして彼が
"会話"を終えた我愛羅。今度こそ砂の攻撃がくる。我愛羅は確実に俺を殺すつもりだ。一度砂に捕まれば対象をぐちゃぐちゃに擦り潰す"砂縛柩"の餌食になって俺は死ぬ。砂を使うキャラで彼ほど強い奴は他にそういないだろう。ただしこの世界、最強の属性が木だったりするので、あまりあてにならないが。
まあ、それも俺を捕まえられたらの話。
「"木の葉旋風"!」
俺は我愛羅の後ろに回りこみ蹴りを入れる。我愛羅が飛んだ先で追撃、その先も。追撃が途切れる事はない。俺がリーの様な体術を使うのは不自然に思われるかもしれないが、俺はリーの手合いを何千回と受けてきた男。体術においてもリーに次ぐプライドがある。それに我愛羅に柔拳は相性が悪い。体表を覆う"砂の鎧"は柔拳を無効化する。叩き込むべきは剥した後だ。
「"砂縛柩"」
なすがままだった我愛羅は一転予想外に動いた。砂を使い自分を包んだのである。俺に剥された鎧の欠片は我愛羅のチャクラを多く含む。チャクラを含む砂ほど速い術の性質上、鎧の欠片を混ぜ込んだ砂は高速化し従者を捉えたのである。
砂に巻き込まれぬ様俺が手を引くのを見計らって、更に多くの砂が我愛羅を取り囲む。これは……まずい。
「"木の葉大旋風"!」
俺の全力の蹴り。しかし我愛羅を卵の殻の様に覆った砂はそれを通さないどころか一部を棘の様に変化させ迎撃に転じる。こうなってしまえば後がない。我愛羅の"絶対防御"の完成である。俺の"回天"もそう讃えられるが、我愛羅のそれは格が違う。砂の殻は内包する岩石の組成によって際限なく硬化する。この固さは鋼鉄や岩盤、およそ人の触れる何にも例え難く、この世界特有の何かとしか言い表せない。相手になるのは
俺は卵から距離を取り、会場の壁にチャクラで張り付く。この術は助走がなければ成立せず、白毫と併用することで、或いは俺の最大火力となる。術の名は――
「"千鳥"!」
構える俺の手にバチバチと鳴くプラズマが宿る。最高に圧縮された雷チャクラの形、ナルトを読んだ者は誰でも――読んでない者でさえその格好良さに心打たれるカカシ唯一のオリジナル技、それが"千鳥"だ!何を隠そう俺は頑張ってエア千鳥を練習していた勢なので心が躍る!初めて思う、NARUTO世界に転生して良かった!
さて諸君!NARUTOの読者なら絶賛ツッコんでいるだろう「お前は眼の
ご存じの通り千鳥は写輪眼を併用して初めて技足りえる技だ。原作では写輪眼を持つカカシとサスケしか、もちろん三代目も"実戦では"使えない。その極意はチャクラによる肉体の大活性!肉体の限界を超えたバネは最強の突き技"千鳥"を産む!しかしその直線的な動きは常に反撃のリスクが伴い、それを見切るのが写輪眼だ。
では最強技"千鳥"は写輪眼でなければ使えないのか?答えはノー!
写輪眼は相手の反撃を動体視力で見切る「後の先」的対処療法。対し白眼には写輪眼以上の洞察眼がある。相手の動きを先読みし「後の先」ならぬ「先の先」で反撃を完封する事が出来るなら写輪眼など不要!そしてこの
しかし、これは初めての実戦。
巻物から出したのは『断刀・首斬り包丁』。かの
「"偽典・雷切り包丁"!」
刀が啼く。砂の殻へと閃光が走る。
「グアアアアアアアア!!」
我愛羅の悲痛な叫び。俺の背はある断刀は七分殻を貫通し、手にはしっかりと我愛羅を捉えた感触がある。致命傷ではないが、俺の勝ちだ。
「"砂縛柩"」
我愛羅のチャクラが変わった。俺は咄嗟に断刀を
「――――――――!」
彼は守鶴。風によって投下された兵器の名である。
「そろそろやるか」という言葉について前世の俺は考えた事すらなかったが、今では最も嫌いな部類の言葉だ。「そろそろ」とはある時期になった事を示し「やるか」は何かを行う宣言。つまりこの言葉は「機は熟した」と言い換えられる。俺に言わせれば、この言葉は決定的に間違っている。機が熟す事を待つのは常に機を逃した者達だ。今日よりも明日、今ではなくいつか、そんな甘い妄想に取りつかれた者の自己欺瞞に過ぎない。人生は有限だ。故に、明日は今日より死んでいる。今日が良いなら明日は悪いし、今日が悪いなら明日はもっと悪くなる。好機は常に今しかない。反対に「今やらなくて良い事」は「いつでもやらなくて良い事」だし、それは明確に「やらなくて良い事」だ。だから「そろそろやるか」なんて言葉で始まる物事は、きっとロクな事がない。
例えば、木の葉崩しがそうだった様に。
「そろそろやるか」
異形化した我愛羅、釘付けになる観衆、三代目……会場の混乱は
火影の観戦席で爆発。同時に音忍によって結界が張られ、影達は完全に孤立する。観客席では客の避難誘導と出現した音忍達との戦闘が始まった。こっちはまだ戦闘中だってのに、せっかちな風影……いや、風影に変装した
「余裕って顔だね?」
突然の背後からの攻撃。カブトだ。躱したが返しの柔拳は当たらない。向かいの
「君は
……白眼に視線って存在したんだ。
カブト達は武器を構えたままにじり寄る。前にはカブト、後ろには人柱力。両者油断無しとくれば、どう足掻こうと敗北は必至。これが原作ネジなら、一人嘆息でもして諦めただろう。だが、生憎と俺は寂しがり屋だ。
「"牙狼牙"!」
「"回天"!」
「"口寄せ・リー"!」
仲間が窮地に駆けつけ、敵を薙ぎ倒す。それはさながら主人公の如く。
「ナルトが倒れたっつーんならよぉ……このキバ様が頑張らねぇ訳にはいかねぇーよなあ!?」
「弱い犬程よく吠えるってね……ネジさん、指示を」
「ネジ君!カブトさんには逃げられた借りがあります!任せて下さい!」
「リー、それを言うなら私もね。……ネジ?アンタ何笑ってんの?」
いいや、なんでもないさ。ただ、偶にはご都合主義も悪くない。
「砂の奴らはキバと赤丸で十分!残りでカブトを叩け!指揮はヒナタ!俺は我愛羅をやる!ーー散!」
その場の全員が戦闘に入る。俺はその全てを託し自我を無くした人柱力に向き直る。さて、ここからが正念場――
「随分楽しそうですね義兄さん。まるで戦争の首謀者だ」
「なんで俺って奴ぁここぞって時に横やりを入れられるんだろうな。あモブだからか。……よう百、
「僕は視野が狭い物で。まあ
「取るなよ?俺の首。……悪かったから氷遁を脅しに使うな、寒気が走るってそういう事じゃないから」
「やだなあ、ここぞっていうシリアスな雰囲気作りですよ。凍て殺しますよ?」
「前半と後半の温度差が凄い。てかギャグだろ。ギャグギャグしい雰囲気作りに見せかけて寒い空気を作るという二段構成の冗談を即座に行える才能に脱帽だよ」
「まだ服を脱ぐんですか?冷えません?」
「なんなら言葉遊び分も併せて裸になってやろうか」
「いてこましますよ。さて……僕はあの砂の怪物みたいのを相手すれば良いんですね?」
「話しが早くて助かる。今は動いてないが、あれは厄介だ」
「違いますよ、義兄さん。
百が印を結ぶと我愛羅を侵食していた砂が凍りつく。いや正しくは砂に付いていた氷を再度凍らせただけだ。凝りから檻へ。氷を変えただけだ。
「"
百の手には氷の刀。その薄氷の一振りは鋭きこと霊を斬り強きこと霧雪を砕く。砂など砂の跡形もなく。
「ウガアアアアアア!!」
体を砕かれ砂の化身は姿を消す。後には衰弱しきった我愛羅だけだ。百はいつから仕込んでいたのか判らないが、俺と合流した時には既にいつでもこれが出来たのだろう。百、恐ろしい
さて、これで大方の仕事は消化した。後は大きなのが一つ。俺は百に対カブト戦に合流する様言ってから、テンテンを口寄せして
全く、戦力は足りてるでしょうに――百はぼやいてから我愛羅の方に歩み寄る。我愛羅は虚無を写した瞳で百を見上げた。
「やあ。人の手柄を横取りする趣味はなくてね――まあそんなのはどうでもいいや。……我愛羅くん。君に、大切な人はいますか?」
火影達の戦いは拮抗していた。敵は大蛇丸一匹に対しこちらは三代目とダンゾウの2人。数の上では木の葉有利。しかしいくら三代目がプロフェッサーと言えど、ダンゾウが忍界の闇を見てきた忍と言えど、三代目が得意の口寄せ・
火影の観戦席の上、先程から影という水準の戦いが繰り広げられている屋根に大きな紋様が浮かび上がる。屋根を覆う大文字の行書でーー『変態』と。
大蛇丸は気付いた。これは単なる文字ではない。時空間忍術のマーキングだ。ここに転移してくる者はおそらく――
「"北斗八卦・爆殺六十四掌"!」
完全な不意打ちの筈だが大蛇丸も速い。軸をずらされた事で掌の多くは内臓に効くただの打撃だ。決め手に欠ける。大蛇丸はダンゾウの追撃も振り切った。
「随分とナメた登場をしてくれるわね、ネジ君」
「俺をネジ君と呼ぶな気持ち悪い。仲間の不手際だ」
"飛雷神の術"、マーキングした場所に瞬間移動する二代目火影考案の時空間忍術の一種だが、テンテンのは不完全だ。一ヶ月で修得できる術ではない事は重々承知だったが、流石のテンテン、計画で使えるまでには物にしてくれた。つまり俺をここに飛ばす位には。……マーキングはなんとかしてほしかった。
「"口寄せ・穢土転生"!」
連携を構えた三人に大蛇丸は切り札をきる。死者を
「初代様、二代目様……!?」
初代火影、二代目火影……しかし彼らは死者。手心は冒涜に同じ。俺は迷わず大蛇丸に向かう。ダンゾウも速い。
「ヒルゼン!お二方は儂が相手する、お前は奴を!」
初代も二代目も忍としての技量は生前に大きく劣る。ダンゾウなら持ち堪えられるだろうが長時間は厳しい。相手に不足無し。白毫を短期間で使い切る出力が望ましい。
俺と三代目の連撃が入る。
しかし。
しかし。
しかし。
崩しきれない……っ!?
俺と三代目は一ヶ月練った。連携を、連撃を、大蛇丸だけを想定して。それが、それでも通じないなんて事があるのか……!?押しても、押しきれない。掴んでも、掴みきれない。踏み込んでも、踏み込みきれない。間一髪で生じる均衡に全ての流れが飲まれていく。その空白が全てを飲み込んでいく。まるで蛇の様に、大蛇丸の様に。
「"幻術・黒暗行の術"」
空白が闇に変わる。原作で一度しか使われなかった初代火影の幻術。白眼の全視界が黒く染まり、俺は文字通り不覚にも隙を生じてしまった。
右肩から鳩尾に大きく痛み。なつかしき袈裟切りの感触。俺は前のめりに倒れた。
「ネジ……!?」
三代目の声。この暗闇の中で戦っているらしい。幸いにして傷は浅い。"創造再生"ですぐにでも復帰できる。だが……白毫のチャクラが残り少ない。もし取り逃がせば大蛇丸に白毫の事を知られてしまう。俺はその後どうなる?しかしこの傷では充分に戦えない。死亡は必至……使うべきか!?使わざるべきか!?
「何をしている!?使え!!」
「使うな!!」
闇からのダンゾウの声に三代目の声が重なった。
「大蛇丸、これで最後じゃ!"封印術・
闇が晴れる。そこでは三人に影分身した三代目が、敵を一人ずつ捕まえていた。
「まさか三代目……やったのか!?あの術を!?」
「さすがの白影……見た通りじゃ」
屍鬼封尽は命を代償に敵を封印する術……召喚された『死神』が術者と被術者の魂を食らう事で実質的に差し違える術だ。つまり三代目は……死ぬ。
「何をした、ヒルゼン!?」
「くっ……この死に損ないが!放せ!」
旧友の言葉も、愛弟子の侮蔑も、三代目は意に介さない。ただ、己に残された時間で言葉を紡ぐ。
「ダンゾウ……儂は行くよ」
「ヒルゼン!何を言っている!?」
「聞けダンゾウ!ネジは……昔のお主によく似ておる」
「……!!」
死に際に暴言……だと!?
「ダンゾウ……儂らはどうしてこうなったんじゃろうな?儂とお前。一つ違えば火影はお前の方だったかもしれん。ダンゾウ、儂は火影じゃ……里を守り死ぬのもまた定め。しかし火影の本懐とはそこではない」
「……」
「育むのじゃ。里を育て、守る……火影にとって最も重要なのはそこだ。お前は里を守るばかり。儂は愛するばかりだったが……儂もお前もとうに老いた。次はお前が育てろ……里を……未来を……」
大蛇丸が叫ぶ。しかし消え入る様な三代目の声はそれよりずっと強く聞こえる。
「木の葉舞う所に火は燃ゆる……火の影は里を照らし、また……木の葉は芽吹く」
初代が倒れ、二代目が倒れ、三代目もそれに続く……立っているのは、息の上がった大蛇丸だけになる。
「はっ!三代目の老いぼれが!!私を封印するには至らなかったようね!!」
「違うな、大蛇丸……お前は既に死んだ。忍としてな」
大蛇丸の両腕が爛れていく。魂を部分的に抜かれた症状だ。忍術を失った証でもある。その事に気付いた大蛇丸はにわかに判断を下した。
撤退!撤退!
戦場は既に終局している。音忍や大蛇丸を追える者は少ない。白毫チャクラの消えかけた俺は戦力にならないし、ダンゾウもまた同じ様な物だ。
……ここまでしても運命は変えられないのか。これじゃ原作と変わらない、イタチの時から何も変わっていない。あの日、やるだけやると決めたのに。
なにが転生者だ。俺は、無力じゃないか……!
「おっちゃん。一杯、いいかな」
その夜。気づけば俺は一楽を訪れていた。本来ならば店終いの時間だったが、おっちゃんは何も言わず通してくれた。
「ネジ……実ぁもう店終いにしようかと思ってた所でよ、残念だが豚骨味噌チャーシューしか出せねぇ。ま、だからなんだ……お代はいらねぇ」
「……」
おっちゃんの不器用すぎる優しさが今だけは嬉しい。
三代目の居ない木の葉など静かなものだ。俺は無心のままおっちゃんの作業風景を眺める事に徹した。そうして出来上がったラーメンの前で手を合した頃、もう一人の客が入ってきた。その客は俺と同じ息苦しさを抱えた表情をして、ペケ印の付いた顔に一層皺を寄せてから俺と同じものを注文した。ダンゾウだった。
「何してんすか」
「お前を見つけてな……この様な店は初めてだったので、いささか迷ったが」
「本当に何してんすか」
「ヒルゼンの事は……気負うな」
「……政敵が居なくなって満足ですか、ダンゾウ様」
「そう、かもしれんな」
「……」
「ヒルゼンは古い馴染みでな。火影の座を取り合った仲だ。火影になり、里を守り、里の為に死ぬ……儂の夢だった物は全て奴に先を越されてしまった。奴は儂に説教まで残したというのに」
「……俺は、根に入る身です。もし何か相談があれば」
「入ってくれるのか……?」
ダンゾウが弱体化してる……だと!?あかん、60年来の執着対象を目の前で失ってなんかフワフワしてる!原作で疾風伝まで動かなかったのってそういう事かよ!?
「だ、ダンゾウ様しっかり。立場があります」
「フン。儂も心は殺してきた……筈だったが」
「……」
「なあネジ。儂は、ヒルゼンの様になれると思うか?」
「……おそらくは無理です。しかし、三代目だけが火影の理想型ではない。ダンゾウ様はダンゾウ様なりに模索していくしかないのだと思います。一つ違えば火影だったと、三代目も言っていました」
「ラーメンか……ヒルゼンの言った通りだ。一度くらい誘いに乗ってやれば良かった」
これにて毎日更新は終了となります(書き溜めた分が尽きた)。
次回もぼちぼち更新していくのでごゆるりとお待ちください。
感想、ここすき等して頂けると個人的に助かります。
日向ネジ、性質変化はどれ?(参考までに)
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火遁
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風遁
-
雷遁
-
土遁
-
水遁