日向如く 作:尾田栄~郎
日向分家の朝は早い。
「影分身の術!」
早朝。他の皆が起き出す前に影分身。
ボン!と音。白煙が立つ。
まもなくもう一人の俺ができあがった。
目の前に自分が居るのは不思議な感覚だな。
鏡ともちょっと違う感じ。
影分身に少し興味が湧いた。軽く実験してみよう。
まず手始めに分身の頬をつねってみる。
「痛い」
言ったのは分身。
細かな感覚のフィードバックはないのか。
次は左手を挙げろと念じてみる。
「……?」
分身はあまりピンときてないご様子。
こっちの意志で動いてる訳じゃないのか。
なるほど。
おもむろに柔拳をくらわしてみる。
「くらえ柔拳!」
「ちょ!おい待てなんだなんだ!」
避けられた。分身の癖に生意気!
ピリつく空気。二人の俺の視線が交錯する。
一拍おいて分身、「ホワァイ?」とジェスチャー。
俺、アンサー。
「出たな妖怪ドッペルゲンガー!退治してやる!」
「お前が出したんだろうが!」
俺だった。
「だいたい分身を化け物扱いするなよ。俺はお前だぞ」
俺だった。
しかし俺は食い下がる。
「キャラ付けだよ。キャラ付け。個人が二人もいたら混乱するだろ?だから俺が奇才で、お前が奇」
「もはや暴言だろ、奇キャラ。せめて鬼才と鬼にしろ」
「ぜいたくな子だね!」
「働きたくないなあその職場」
「お前の名前はネジ乙だ!」
「甲乙でコンビにするな。俺だけ罰ゲームになる」
「ナット!」
「セットだけども。凸凹コンビの様だけども。大体俺達だと凸凹コンビにならんだろ。凸凸だよ、ゴテゴテしてるよ」
「お前はボコボコだけどな」
「お前のせいだよ!」
一人芝居(?)はともかく本題。
この前、雲の忍との交戦で相手の点穴を見切る事ができなかった俺は、妥協案として影分身に頼った。
が、俺は日向。
柔拳を極めずして最強とは言えないものだ。
ネジは原作だと中忍試験以前から点穴を見切っていた。
それまでのネジの成長物語がどんな物だったか知らないが、おそらく俺の方が順調だろう。
ただし、その後のネジを考えるにそれは絶対条件。
ネジ生存ルート、つらいぜ。
でもそんなつらさも今日からは半分!
俺は一人じゃないからね!
いや、本当に半分なのだ。
俺はこれまで、午前中は父ヒザシのもと柔拳の修行を行い、午後は木の葉を駆ける白眼の妖精になるという日々をおくっていた。
しかし影分身がある今、俺は父の教えを請いながらシャバに繰り出す事が可能である。
そうして貯まった経験値は、術を解いた瞬間本体に蓄積されるのだ。
つまり修行の時間が倍!効率も倍!経験値も倍!もちろん住民への迷惑も倍!
伸び率も倍くらいにならないかなあ……?
「まあつまり、俺2号はさっさとどっか行けって話だろ?」
本体の話があまりに長くなりそうだったので、分身体にあたる俺2号は話を切り上げて行く事にした。
「自分で勝手に呼び名を変えたな!?名前はお前を作った人からの一番最初で一番大切なプレゼントなんだぞ!」
「毒親じゃん」
「行けば!?私なんてどうでも良くなったんでしょ!」
「そうだな。分身がお前の方だったらぶん殴ってる」
「いってらー」
「急に冷めるじゃん。じゃあな」
切り替えの早さだけは一流なんだよな、俺。まあ2号もだが。
そうそう。散々俺を化け物呼ばわりしていた町人の皆様だが、9か月も経てば里の心霊ゴシップ界隈での俺の人気も落ち着いた。
じゃあ今ではどう反応されるのか、飽きられた怪談の末路をお見せしよう。
まず町人A。
「朝からか。珍しいな……初めてじゃないか?」
次、町人B。
「チッ。まったく何なんだあれは。いいかげん目障りだぜ」
続けて町人C。
「そんなこと言ったら祟られるわよ。なんでも、あれはあの子供の生き霊なんですって」
再度登場、町人B。
「なに、あのガキか!……まったく忌々しいぜ、あの化け物……」
今ではこんな有様である。
落ち着いたというか、飽きられた?
毎日見るというだけで結構な扱いの差だ。
祟っちゃおうかな。
全員に柔拳を叩き込むとかかな。
というか今とんでもない流言を聞いた気がする。
化け物、ガキ……どうしよう、嫌な予感が……。
と、思っていたら。
いた。
家を出てから数時間。
冬の昼頃特有の軽い空気の中、そいつの居る場所だけは様子が違っていた。
男の子が暇そうにブランコにまたがっている。
それだけ。たったそれだけの光景なのに、そいつの周囲には言葉以上に感情を感じさせる邪気が漂っていた。
憎悪、羨望、孤独感……とにかく、俺の本能がやばいと告げているこの男の子こそナルトだった。
どうしよっかなあ……?
原作ネジの死因は、ナルトの仲間じゃなかった事。
つまり俺の人生において、ナルトの友人としての地位は必要不可欠である。
でもなんだろう。
心なしか恨みを買っている気がする。
いや、腐っててもしょうがない。
一か八か、やってみるか。
ケーススタディ、落ちこぼれ君と友達になる。
「どぅわぁあああ!!」
「!」
元いた家の屋根からブランコの前へ勢いよく落下する。
ポイントは受け身を取らない事。
バカっぽく、極めて無能になりきる。
「失敗した!落ちてしまった!俺はダメダメだァァァ」
そして同族アピール。敵意がないことも強調する。
「……?」
地面でバタバタする俺をじっと見つめるナルト。
「うおおおお!またやっちまった!俺はなんて上手くできない奴なんだぁぁうおうおうおいおいおい……」
……どうだ!?
「……!」
俺の様子に得心した風のナルト。
「ああー!!お前ってばそこら中走り回ってる変態!」
恨んではないらしい。
色々言いたい事もあるけどまあ及第。
「そういうお前は?」
「俺ってばナルト。うずまきナルトだってばよ!」
「ナルトか……良い名前だな」
意味は無い。なんとなく好感度あがるかなってだけ。
「?」
なるほど。思ったより頭良いなこいつ。
その時、ナルトの注意が俺から別の方へ向いた。
咄嗟に俺もその方を見る。
そこには遠目から俺達の事を話している人だかりがあった。
話の内容はだいたい以下の通り。
「ああ!おい見ろ、化け物とガキが一緒に居るぞ……」
「じゃああの妖怪は……ただの子供?子供だよねあれ」
「なんだよ、生き霊ってのはガセかよ」
「あの二人はどういう関係なのかしら?」
俺としては見慣れた光景だが、ナルトにとっては何か感じる物があったらしい。
ナルトはひょいとブランコから飛び降りると、人混みの方へ数歩駆けていき、言った。
「へへーん!わっかりやすい嘘に騙されてやんの!お前らさ!お前らさ!バーカ!」
笑うナルト。
人だかりは各々バツが悪そうに散っていった。
作品が始まる前から主人公は主人公なのだ。
なんというか、俺とは格が違った。
「なあナルト。腹が空かないか?」
この言葉は本心からの言葉だ。
生きる為にナルトを絆しに来てみれば、絆されたのは俺の方だったらしい。
「腹は空いたけど……なに?」
「勘が悪いな。メシだよメシ。一緒に食いに行こうぜ。俺達、友達だろ?」
「友達……!」
ナルトは目を輝かせた。
「俺さ!俺さ!ラーメン好き!お湯注いでからの三分間は嫌いだけど、めっちゃうまいカップラーメンがあるんだ!」
「一楽じゃないのか?」
「いちらくぅ?なに、それ」
「一楽はまだ知らないのか。よし、ついてこい。どんなカップ麺も目じゃない、この里で最高のラーメンを食わしてやる」
「最高のラーメン!?」
「ああ」
よだれを垂らしながらついてくるナルト。
まだ見ぬラーメンへの期待でいっぱいの様だ。
「そういやさ、お前ってばなんていうの?」
「日向ネジだ、ネジで良い」
「ネジ!俺ってばお前のこと好きだってばよ!」
「そういって貰えると助かるよ」
「へへへ……!最高のラーメンかぁ……!」
9か月間の木の葉一周弾丸ツアーは、俺にこの里の地理を叩き込んだ。
今の俺は火影よりも里の地理に詳しい自身がある。
ここから一楽なんて余裕だぜ。
しばらく歩いて行くとおなじみの「ラーメン一楽」という暖簾が見えてきた。
店に入ると、優しげなおっちゃんが毎度!と一言。
「あ、でも俺、あんましお金持ってない……」
「いいよ、奢るし」
「えーと。それじゃあ俺は……うーんと……」
注文を決めかねているナルトを軽く止める。
「オススメがあるんだ」
「うーん……じゃあそれで!」
まあ俺は初めて来たんだけどね。
気付いているのは頭を掻いてるおっちゃんくらい。
たしかナルトの味覚は……。
「おっちゃん。豚骨味噌チャーシュー麺、二つ」
「あいよ!」
調理しだすおっちゃんをわくわく顔で眺めるナルト。
まあそうか。
忌み子であるナルトを食わせてくれるラーメン店なんて、今の時期だとここしかない。
だからこそナルトはラーメン一楽の熱烈なファンに成長するし、ラーメンが人の手で作られるのを見るのは初めてだろう。
「はい!豚骨味噌チャーシュー麺一丁!」
ナルトと俺の前に丼が並べられる。
「うぉぉぉ……!」
「うぉぉぉ……!」
ラーメンにわかの俺でもわかる。
これは、旨い……!
こうして俺はナルトと友達になった。
ファーストコンタクトは大成功。
俺はナルトの人生で最初の友人になったのだ。
この間、俺の本体はヒナタ様と会っていたのだが、それはまた別のお話。
※注意、途中で視点が分身の方へ変わってます
日向ネジ、性質変化はどれ?(参考までに)
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火遁
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風遁
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雷遁
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土遁
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水遁