日向如く   作:尾田栄~郎

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第五話 正直、原作とか忘れてきてる

 その日、猿飛ヒルゼンは気分が良かった。

 今日はアカデミーの入学式。

 里の者たちを誰より愛する彼にとって、また里を治める三代目火影として、これから芽吹く忍たちが一堂に会す今日はその年で最も喜ばしい日。年中行事といえども毎年今日の感動は色あせる事はなく、むしろ年々強まるばかり。

 

 そして今日もまたアカデミーに併設された火影執務室からアカデミーへ列をなす新入生達を眺めていた。

 

 犬を連れているのは犬塚一族の子供、油女一族の子供は一人で歩いている。

 仲良く三人で歩いてくるのは猪鹿蝶の子供達だろう。

 

 今年の新入生は出来が良さそうだ。

 きっとあと二十年もすれば、皆上忍上位クラスへと成長している事だろう。

 

 そんな穏やかな想像も騒々しく扉を叩く音でかき消された。ただならぬ雰囲気。

 音の主はヒルゼンの許可も得ぬまま執務室の扉を開け、荒い呼吸でこう言った。

 

「火影様!火影岩が……また!」

 

 そういえば彼もこの世代だった。まったく末恐ろしい世代である。

 

「またナルトか!」

 

 

 

「やーい!やーい!お前らこんな事出来ねえだろ!バーカ!」

 

 四代目火影の顔岩の上でナルトは吠える。

 横に並ぶのは、化粧をした初代、白眼を開眼した二代目、モザイク加工してある三代目の顔岩。

 

「美術センス高くね?」

「うわ、ネジ!?」

「感心してる場合じゃないですって、ネジさん」

「ヒナタ!?」

 

 ナルトを挟むように立つ俺とヒナタ。

 その里中の反感を買う立地と作風……ナルトの犯行と踏んで駆け付けたが、時すでに遅し。

 ヒナタも同様らしいが、三つ並んだ悲惨な顔岩に制止する気力を失った様だ。

 

「里を巡回中の中忍二人を気絶させて火影岩にラクガキ……最近のナルトはやんちゃすぎ」

 

 言ったのはヒナタ。ナルトにはタメ口である。

 もう「ナルト君……」とか呼ぶ奴はいない。

 

「ナルトの悪戯がどれだけネジさんに迷惑かけてると思ってるの?」

「う……でも!でも!」

 

 どことなくナルトの声が沈む。

 

 原作で先にナルトの心情を明かされている俺からすれば当然の反応。

 修行生活で勘違いしていたが、確かにこいつはあのうずまきナルトなのだ。

 

 小言も消え失せていた時、白眼の端に大勢の忍を捉えた。

 ナルトとヒナタも察知して黙る。

 

「おい、そこで何をしている!お前等……」

「影分身の術!」「影分身の術!」「影分身の術!」

 

 即時逃げの体制をとる。

 情状酌量の余地はなさそうだし、なんなら現行犯だし。

 相手は十人だが、影分身の白煙が目くらましの代わりだ。

 

「影分身だ、逃げられるぞ!」「取り囲んで押さえろ!」

 

 駆け付けた中忍達が包囲陣形を固める前に、ナルトが白煙から飛び出した。

 総勢50人。

 

 ナルト達の攻撃はデタラメだが、中忍一人に対してナルト5人という人数差が何人かの逃亡を許した。

 

 それと同時に5人のヒナタが包囲網を抜ける。

 中忍達は動けない。残った分身ナルトに羽交い絞めにされている。

 

「ぐっ……くそ!」

 

 無論クナイ等を突き立てて脱出する事は可能だろう。

 しかしあの天才ネジですら本体を見破れない影分身、一介の中忍が見破れる訳もなければ、ナルトに手傷を負わせる危険性も判っている筈だ。

 

 だって九尾だぜ?子供だぜ?六歳だぜ?

 

 だがその子供、中忍如きにロックが解かれる様には仕込んでいない。

 

「詰みだ。諦めて見逃せ」

 

 俺10人、中忍それぞれの前に立つ。

 震える声で答えたのは中忍のリーダー。

 

「日向ネジ……一族異端の変態……っ!」

 

 どんな呼び方だよ。俺七歳よ?精神構造に問題が起きるよ?

 それはともかく。

 

「ふぅん。見逃してはくれないという事か」

 

 中忍は青ざめる。

 

「い、いや……そうは言っていない。なに、ここ子供のした事だ、なあ?俺達もこんな状態なんだ、もう身動きもとれない。完敗だよ……?だからほら、今回は……」

「思ったより軽いなお前。まあ一族異端の変態のした事だ。問答無用だ、大目に見ろ」

「ちょ――」

 

 叩き込むのは、十連一極集中のオリジナル技――!

 

「八卦掌"九曜"回天!」

 

 瞬間!炸裂する10の回天!中央の大回天と周囲九つの衛星回天が生じる遊星歯車的破壊現象!絶対防御は戦術的脅威へと昇華する――!

 

「次は11人で来るんだな……!」

 

 

 

――――――――卍――――――――

 

 

 

「いやー逃げた逃げた!ちょっぴりやばかったってばよ!」

「ナルトぉぉ~っ!ちょっぴりじゃないよ!私達まで共犯扱いになったじゃない!」

「いやいや。やばかったのは入学式の空気だろ。あの後みんな騒動に気づいてたし、平然と出席したお前らにお通夜みたいな雰囲気だったからな、マジで」

 

 アカデミーの入学式も終わり、打ち上げのラーメン一楽。

 

「はい、豚骨味噌チャーシュー、一丁!お嬢ちゃんは替え玉いるかい?」

「ありがとってばよ!」

「いえ、まだ大丈夫です」

「いやーいつもすみません本当に」

 

 食うのはナルトとヒナタ、俺はイルカポジション。いつもの光景だ。

 だってこいつらめっちゃ食うんだもん。

 特にヒナタ。あれだけ食べて太らないのは人体の神秘である。

 

「んめえ~!うまいってばよ!」

「おいしいです!」

「へっ!そう言ってくれると嬉しいね!」

「本当にいつもありがとうございます。今日だって火影岩にあんなことをしていたのに」

「良いんだよそれくらい。どんな事してたって腹すかした客には飯をだす!それが飯屋ってもんよ。それにあんたらのおかげでうちの知名度も上がってるしな!」

「知名度……?俺達のおかげ、ですか?」

「おうよ。なぁに、知らねえって事もねえだろ?あんたらが"三妖"なんて呼ばれて有名なのは」

「……」

 

 知らんが?いや知らんが?

 三妖なんてあったっけ?原作を読んだのも随分前だからな、忘れてるかもしれん。

 

「すみませんが、その三妖というのは?」

「……?なんだボウズ、謙遜なんかする年じゃねえや。"黒髪の妖姫"、"橙赤の鬼子"、"大妖怪卍白影"とくりゃあ"木の葉の三妖"よ」

「一人だけテイストが違う」

 

 ていうか全員ナルトっぽくない。

 解釈違いだ……おい神よ、これなんて二次創作?

 俺が絡むと原作からずれていく呪いでもかかっているのだろうか。

 俺は生き残れればそれで良いのだが……。

 

「なんでも、子供にしちゃあ戦闘能力が高いって評判でな……数年前木の葉にいたっていう、子供の皮を剥いで化けの皮にする白い妖怪とごっちゃになって、三人ともども妖怪扱いさ。おたくらの知名度もあって、うちは商売繁盛って事よ!」

「それ悪評では」

「いやいや、とくにお前さんなんかは『今木の葉で最も火影に近い子供』なんて言われて、二つ名に影が入ってるくらいだからな」

「そこ以外全部蔑称でしたよ?」

「まあ細かい事はいいじゃねえか」

 

 豪快に笑うおっちゃん。

 

「まあまあ!俺達も認められてきたって事だってばよ!」

「火影に近いなんて言われるのは良い事だと思いますよ?」

「悪名過ぎるけどな……あれ?もしかしてお前等知ってた?」

「そ、それは――」

 

 全力で目をそらす二人。

 あれ?知らなかったの俺だけ?諸悪の根源が仲間外れなんだけど?

 

「おっちゃん。お勘定して」

「ネジ!?」

「ネジさん!?」

 

 爆笑するおっちゃんだった。

 

 

 

 その夜、一人の少年は今日見た光景を思い出していた。

 

 自分と年の変わらない少年達が火影岩にあんなラクガキをして、集まってきた中忍を一網打尽にして逃げていった。しかも、そのまま何食わぬ顔でアカデミーの入学式に出た。

 衝撃。あんな子供がいる事は衝撃的だった。

 

 あいつらの名前は……確か、うずまきナルト、日向ヒナタ。

 

 夕食の席で父さんに聞いたら、片方は日向家の子供で、もう片方ははぐらかして教えてくれなかった。

 名門の子供、そして謎の子供……どっちにしろ父さんはあいつらの事を知っていた。

 

 どんな奴なんだろう。

 

 日頃の父さんは兄さんの話ばかりで、他は一族とか任務とか小難しい話ばかり。

 僕の事だって気にも留めないのに……それなのに、あいつらの事は知ってそうだった。

 

 特に、うずまきナルト。あいつは名門でもないくせに、どうして父さんは……。

 

 いいや、そんなの決まってる。強いからだ。優秀なんだ。たぶん、僕よりずっと。

 

 父さんは兄さんだけじゃなくて、優秀な忍に興味があるんだ。

 僕は、優秀じゃないと思われてるのかな……。

 

 いいや、そんなのおかしいじゃないか。

 僕だって父さんの子供なんだ、絶対に、あんな奴より劣ってるわけない!

 

 よし、明日……!

 

 

 

 その夜、別の少年もまた、今朝の事を思い返していた。

 

 突然ネジ君が飛び出して行って、そしたら火影岩の上であんな騒動が……。

 やはりあれはネジ君が起こした騒動なのでしょうか。

 

 確かにネジ君には黒い噂があります……妖怪だとか、妖怪を一匹飼っているとか、巷では色々言われています。三妖なんて呼ばれて、実力もあるのでしょう。

 

 いいえ、いいえいけません!根も葉もない噂を信じて同級生を疑うのは悪い事です!

 ネジ君は同級生全員に一目置かれ、クラスの友人にも評判が良い、優しくて良い人です!

 それだけは間違いありません!

 

 しかし……しかし本当に中忍を倒せる程実力があるかもしれないのは事実です。

 

 あの騒動には三妖の新入生が絡んでいるとも聞きますし……彼が絡んでいようといまいと、僕の実力が彼に負けているのも事実。

 

 やはり僕の忍道には、ネジ君、そして彼が率いる三妖を打倒することは必須です!

 

 そうと決まれば迷っている暇はありません。思い立ったら即・行・動!

 

 さしあたって明日……!今は勝てなくとも、実力を見極めてやります!

 

 

 

 次の日。

 

 俺の前にある少年が立ちふさがった。

 

「お前は……リー?」

「ネジ君!僕は君をライバルにすると決めました……!ライバルであるからには言葉は要りません。今すぐに、最初の決闘を申し込みます!」

 

 同刻、ナルトの前にも。

 

「お前ってば、誰だってばよ?急に果たし状なんか送ってきて、何がしたいんだってばよ?」

「そこに書いた通りだ。……うずまきナルト、僕と戦え!僕の名は、うちはサスケ!」

 

 二人の挑戦者の声が重なる。

 

「いざ尋常に勝負!」

 

 開幕のコングは今鳴った。

 

 

 

――――――――卍――――――――

 

 

 

「どうしてこうなった!?」

「こっちが聞きたいわ!解る様に説明しろ、ネジ!」

 

 怒鳴るヒアシ様。俺とヒナタ様は正座。

 久々の日向本家である。

 

「いやだから、リーに勝負を挑まれまして」

「ああ、それで?」

「気付いたら意識と体が飛んでました。リーの」

「三年前と全く同じではないか!バカかお前は!」

「すみません」

「そしてヒナタ!」

 

 ヒアシ様はヒナタ様を睨む。

 

「言え!お前は何をした!」

「はい……ええと、ナルトがサスケさんに勝負を挑まれまして」

「それで?」

「サスケさんを応援した他の女子と私とで口論になって、サスケさんが飛んだ事が原因で喧嘩に……」

「それで?」

「気付いたら何人か飛んでいました」

 

 やだ!この子達血の気が多いわ!

 

 てかサスケかよ!出てくんのはえーよ、台本読め!

 絶対飛んだ女子ってサクラとイノだし!

 

 ヒナタ様もなんで平然とぶっ飛ばしてんのかね。

 しつけがなってないよ、しつけが!

 

「どういう事だネジこら!!!」

「え俺すか!?」

「どう考えてもお前が原因だ!昔のヒナタはそんな子じゃなかったし、話の内容が生き写しすぎるわ!」

「そんな事は」

「あるだろ!どう聞いても!」

「生き写しなのは産まれつきです!」

「実父の知らん産まれつきがあるか!」

「待ってください!俺は修行しただけで、気性まで魔改造したつもりはありません!」

「魔改造という言葉が出てくるだけの事はしてるじゃないか!」

「しかし性格までは……!」

「本当に、心からそう言えるか?今のヒナタはお前の影響を受けていないと?」

「……」

 

 違ったかもしれねえ……。

 

 というか原作の姿は見る陰もないな。

 よし、ごまかしスマイル。

 

「へへっ!」

「呪印!」

「ダメだったングガアアア!!」

 

 俺の体は跳ねまわり、意識が朦朧とする。

 言語化できない頭痛に全身が支配される様だ。

 

「父様、ネジさんに何を!?」

「黙って見ていろ!これも分家の宿命……!」

「ネジさん!?気をしっかり、大丈夫ですか!?」

「ウゴゴ……きれいなお花畑が見える……ヒ、ヒザシが川の向こうから俺を呼んで……」

「気をしっかり!まだ生きてますその人!」

「湯気の向こうにヒナタ様の……おっほほ」

「何のイメージですか!?父様止めて!ネジさんがおかしくなっちゃう!」

「儂には結構大丈夫そうに見えるが……?」

「ネジさんに変な物見せないで!」

「儂のせいではないわ!」

 

 ふっと頭が軽くなる。ヒアシ様が印を解いたのだ。

 息も絶え絶え、起き上がる。

 

「呪印によって脳細胞が破壊される感覚……あぶない、どこかへトリップする所だった」

「既に怪しかったですよ!?」

「おかしい、他の者はあんな反応にならんのだが……」

 

 

 

「というわけで、本当すみませんでした!」

 

 半刻後、俺、ナルト、ヒザシの三人はサスケの家で頭を下げていた。

 ヒナタはヒアシ様と一緒にぶっ飛ばした女子の家を回っている。

 

 サスケの父――対面のうちはフガクは頭を掻いた。

 

「どうぞ頭を上げてください。子供のやった事ですし、うちの子から勝負を挑んだともなれば一方的に謝られるのも居心地が……。いやいや、こちらこそ申し訳ないです」

 

 フガクは頭を下げる。

 腰が低いというか、見かけによらず温厚な印象。

 一族のメンツの為か、それとも水面下のあの動きを隠すためか?

 邪推はよそう。せっかくの白眼が腹黒く染まっちまう。

 

「どうぞこれからも息子と仲良くしてやって下さい」

「どうもご迷惑をおかけしました。ネジにはきつく言っておきますので」

 

 親同士はそんな所で了解した。

 菓子折りも渡し、サスケの家を出た所でナルトを呼ぶ声に引き留められた。

 見ると家路とは反対方向の通りにボロボロのサスケが立っている。家の中で姿を見なかったので今日は会えない物と思っていたが、実情は違うらしい。

 ヒザシは気を利かせて俺達と別れ、俺とナルトはサスケの無言の案内に従って、着いたのはうちは一族の演習場だった。

 演習場の前でサスケが放ったのは意外な一言。

 

「ナルト……お前に修行をつけたのはネジだと聞いた。本当か?」

「ああ。そうだってばよ……?」

「ネジ、ナルトにした修行、この演習場でもできるか?」

 

 なるほどな。

 あの事件の前の純粋なサスケ。既に落ちていたか。

 

「うちはの演習場は広い。ナルトにした以上の修行ができる」

「だったらネジ、僕にも修業をつけてくれ!僕は……っ」

「わかってる。お兄さんみたくなりたいんだろ?」

「な、なんでそれを……?」

「昔里中をパトロールした事があってな……大抵の事は見てきたつもりだ」

「日向でそんな事……もしかして、ネジって三妖の!」

「そんな有名なのか、それ……」

 

 なんか複雑だな。お前も入れて四妖にしてやろうか。

 

「まあとにかく!今日からお前も俺たちの仲間だ。二人は兄弟弟子、これからは共に夢を抱く兄弟としてお互いを高めあう事!」

「おう!よろしくってばよ、サスケ!」

「ああ、ナルト!」

 

 二人は固く握手をした。

 この光景、原作でも見たかったな。

 

「さて!そうと決まれば行くってばよ!一楽!」

「おいナルト、何を勝手に……!」

「一楽ってなに?」

「おう!一楽ってのは、それはそれは旨いラーメン屋で……」

 

 ダメだ。こうなったらナルトは止められない。

 食費が増えるのか。子供が貰える小遣いなんてたかが知れてるんですが。

 働くかー。影分身使ってアルバイトとかか?子供にそんな事やらせてくれる店あるか?

 ネジ生存ルート、楽じゃない。

 

 

 

「うおお!ネジ君!僕のライバル!いつか君を超えて見せます――!」

 

 その頃。存在を忘れられていた挑戦者もまた夢を胸に決起したのだが、まあ何だ……スマン!

日向ネジ、性質変化はどれ?(参考までに)

  • 火遁
  • 風遁
  • 雷遁
  • 土遁
  • 水遁
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