老獣人と帰還兵   作:来海杏

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大体酔って書いてるので誤字脱字報告助かってます。




 

 眼前、頭を下げた女にただクイントは、何するにしても先ずは頭を上げてくれよ、そう声を掛けた。

 

 

なんとも、美人が自分に頭を下げる等と言うのはクイントにとっては酷く苦痛であった。女性に縁のある人生では無かったしその人生の殆どはそもそも海の上だ、急に頭を下げられても狼狽えてしまう。

 

「この街の顔役であるヒエラ・ジンネマンに会いたいのだ」

 

 眼前の美人は要望をただ強く伝えて頭を下げ続ける、だがそれに合わせてクイントは酷く醒めた様な気持ちになるのを感じた。

 

 

 

ジンネマンはこの街の船乗りや港湾労働者達の顔役で、幾つか前の戦時中に船乗り達や地元住民を強力にまとめ上げ、軍との交渉に臨んで名を挙げた人間だ。彼のおかげでこの国の船乗り達は強制的に船を接収されたり無理に動員される事も無く今まで過ごしていけたのだと、クイントは父から何度も聞かされて居た。

 

 

「ようよう、ねえさん、会える訳が無いだろ?アンタが言ってるジンネマンが俺の考えてるジンネマンが一緒の人間だってんならよぅ?その人は海を跨いで商売してる大商会の頭取だぜ??」

 

 

 そもそも現役の船乗りであるジンネマンが今この街に居るかも分からないし、相手は港と港、人と人を繋いで船問屋で荒稼ぎしてる船乗り達の王様みたいな相手なのだ、眼前の女に限らずクイントもとてもでは無いが気軽に会える様な相手ではない。

 

 

「頼む、頼むよ、どうにか会う事は出来ないのか?」

 

 

ジンネマンの名前にどうにもクイントは冷静になっており、とりあえず顔を上げてくれと言い、続けた。ジンネマンは船問屋とは言っているがもう半分マフィアの様なものなのだ、違法な荷物や薬物を扱う訳では無いが、商売敵や元々いたマフィア達も海の上へと攫われてサメの餌にされたし、地元住民に強烈に支持されたジンネマンには軍部も易々と手は出せない。

 

 

「まぁつまりムリってこと」

 

 

眼前の美人がどの様な素性であれとてもでは無いが会わせる方法になど思いつかない。

 

「それよりさ、アンタらの方こそなんでこんな事になってんだい?」

 

船倉に置かれた安物の寝台の上、老獣人のスースーと言う寝息だけが聞こえて来る。

 

 

「それは、その」

 

 

「言い辛いのならまぁ、先ずはあれだな、とりあえず、自己紹介から始めましょうや」

 

 

俺の名前はクイント、俺達何日も旅してて全然話もしなかったろ?そいでアンタは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…いや、気不味いなぁ、気まずいのよ」

 

 

 小さくクイントが呟く、声が届かなかったのだろう、酷く憔悴しきった様子でキエラが俯いている。

 

 

 そうだ、この妙に緊張感のある女はキエラと言うらしい、クイントの自己紹介にキエラは自分の名前を話しただけで酷く重々しく黙り込んだ、そうして沈黙ばかりが続くものだからもう、クイントとしては生来の話好きが顔を出してしまう。

 

 

 

 どうだろう?クイントは考える、兎に角沢山あれやこれやを取り留めも無く考え始める。

 

 

 

 前の戦争中、同じ船に乗っていた連中にはお前は心底話好きだなと言われた。しようが無い、考えた端から口に出る性質なのだ、船を繰っている時はまだ集中出来るのだがこんな風にぼーっと出来る状況になってしまうとどうにもポンポンと頭の中が回りだしてしまう。

 

 

そうだそうだしようがない、話好きと言う訳では無いのだ、いや、話好きか?俺は、どうにもそう言うものとは違う気がする。

 

 

 実家の近所の人らなんてもう凄かった、あれやこれやでガーガーガーガーと、海鳥種の獣人はそう言うものなんだと呆れたような、何処か楽しそうな様子で父は言っていた。あれこそが話好きと言うものだ、散々話してまだ話す、放って置いたらきっと三日は話し続けて倒れるだろうな。

 

 

 

 

 

 だめだ、先ずはちゃんと話しを聞くんだ。

 

 

クイントは腹を括った、しかし何と話しかけたものか。

 

 

 

 

 クイントが見るからに訳ありな連中を乗せたのは今回が初めてではない、だが、見るからに訳ありな連中に自分から話し掛けようとするのは今回が初めてだった、それにそもそも女と言うものとの話し方がクイントにはさっぱり分からない。

 

クイントの村では海鳥種の鳥獣人が人口の殆どであったから、クイントが話すより二十倍は女の方が話し掛けて来た、老若問わずみんながそんな様子なので当然女との話し方など覚える筈も無く、クイントには羽毛が生えてようが羽毛が生えて無かろうが女と言うものがさっぱり分からないのだ。

 

 

 

 ダメだ、さっぱり思いつかない、埒が明かないんだからもう思いっきり喋っちまおう。

 

 

そう思い立ち、クイントは話し始めた、形容するなら思いっきり話し始めた。

 

 

 

 

「…あのよ、どうしてそう重たそうな様子をしちゃうのよぉ?いや、俺だってアンタにばっちり力を貸してやれるとは思ってないぜ?それでもよ、なんてーの?話してみたら生まれるもんはあんじゃないの?」

 

 

「いや分かるよ?わかる、俺だって前の戦争じゃ水兵やってたんだからそ今がきっとそこそこ危険な状況だってのは分かるぜ?だけどこんな状況で病院に言ったり、警察に助けを求めたり出来ないから俺んとこ来たんだろ?」

 

 

 

 クイントの頭に先程の医者の言葉がよぎる。水兵のお前は知らないだろうがなぁ、あれは北の機械化兵だ、気を付けろよクイント。

 

 

世話になってるんだか世話してるんだか分からなくなる様なアル中だが流石熟練の船医だ、大した仕事をしていなかったクイントでも機械化兵は聞いたことがある、戦時中に大暴れした新兵器らしいがまさかクイントの船に乗せるとは。

 

 

 

ダメだ、また思考がズレた。

 

 

 

 まぁ良いか、クイントはまた話し始める。

 

 

 

「犯罪か?アンタら犯罪でもやってこっちに流れて来たのか?銀行強盗か?そんでそのおばあさんがすっげぇ魔法使いで首領だ!んで仲間割れだ!あの妙に迫力のある暗い男が金を独り占めしようとしたんだろ!!」

 

 

 

 クイントは一呼吸か、多くとも二呼吸でここまで話した。酷く驚いた顔でキエラがクイントの方を見ている、べらべらとクイントの喋ったこの時の一連でキエラは鳥獣人がここまで饒舌に喋れるのかと驚いていたのだ、まさか酷く硬そうで妙な質感のある嘴からここまでつらつら言葉が出て来るとは。

 

 

 

 

おまけになんだ、キエラの頭の中に徐々に冷静さが戻ってくる。

 

 

 

なんだコイツべらべらと、微妙に腹が立つな。

 

 

 

 キエラは北の商家の末っ子に生まれた、性根としては素行不良で口より手が出るタイプの人間である。

 

とりあえず何だか腹が立ったのでキエラは立ちあがりクイントの太ももを蹴った。

 

 

 

「急にうるせぇよ、なんだオメェ」

 

 

 

 キエラとしてはそこまで強く蹴った訳では無いのだが、クイントは大袈裟に倒れ込んだ、キエラは長くケニーと過ごして居て忘れていたが彼女は機械化兵である、重さも力も人よりは工業機械や車に近いのだ、手加減しても生まれつき軽い種族である鳥獣人を吹き飛ばすには充分であった。

 

 

「えっ!えええーーっっ!?蹴った?ちょ、ちょっと!助けたよね俺?そこのおばあさんさぁ!」

 

 

鳥獣人の骨格故か、妙なシナを作りながらクイントはキエラを指さし叫ぶ。

 

 

「ウルセェッッんだよオメェ!怪我人の横でベラベラベラベラ喋りやがって、テメェ嘴溶接すんぞコラ!おまけに誰が銀行強盗だ、誰が銀行強盗ヅラしてるってんだ!?こんな美人捕まえて好き勝手言いやがってこの野郎!こっちはなぁ!!」

 

 

 

キエラが急に黙り込み腕を組む。

 

 

 急に黙ってどうしたのだろうか?普通なら何か察する所もあるかもしれないが、クイントは口からそのまま思考が飛び出た。

 

 

 

「……こっちは、なんなんだよ?」

 

 

 

「……平和の為に必死にやってんだよ」

 

 

そのまま難しい顔をして唸りながらキエラは腕を組んだまま首を傾げた、ぶつぶつとクイントを無視して目を瞑りながら何かを呟いている。どうすっかなぁ、もういいかなぁ、そんな調子で唸りながら考え事をして。

 

 

 

「よし、やめた!めんどくせェ!」

 

 

 

 

 何か振り切れた様子でそう声を上げた。

 

 

 

「お、考え決まったか?」

 

 

 キエラがクイントの方をみる、クイントはいつの間にか起き上がり胡坐をかいて船倉に座っている。

 

 

 

「おう洗いざらい話すから協力してくれ」

 

 

キエラの中にもう迷いは無い。

 

 

 そうだ、キエラは必死に悩んだが目の前の男のまぁベラベラと話す事、キエラは必死に及ばぬ頭で考えていた自分が馬鹿らしくなってきていた。自分の手で解決が出来ないこの状況、無理なものは無理。どれだけ必死にやろうがどうしようも無い、こんなものは自分の出来る持ち回りでも無ければ自分の才能が及ぶ範囲でも無い。

 

 

 

 キエラの眼前、胡坐をかいた鳥獣人の男、確かクイントだったか?楽しそうに頬杖をつきながらこちらを見ている顔を見て何となくキエラの眉間に皺が寄った。

 

 

 

もう一度蹴り飛ばしてやろうかコイツ、キエラはうっすらと湧いてきたその考えを何とか我慢した。

 

 

 

味方にするには嫌ってほど頼りなさそうであるが、まぁ誰も味方が居ない状況よりはマシだろう。今から一応の上官である鬼人種の男に連絡しようか?しかし組織は今テロリストどもを追いかけるのに必死になっている、ケニーの救出になど人員は割いてくれないだろうし、そもそもそういう約束でケニーは協力を取り付けたのだ、ただの兵士であるキエラがわめいた所で、そう言う話だから、その一言で全て片付けられるだろう。

 

 

そしてケニーは拷問されて死ぬ。

 

 

 

キエラはその様子を想像するだけで身体の中のギアが上がって行くの感じた。

 

 

そうだ、キエラの中にもう迷いは無い。

 

 

 

 

 

「アンタが言う暗い男な、仲間割れだろって言ったけど違うんだよ」

 

 

「ほうほう、するってぇとどうしたんだ??」

 

 

ニンマリとキエラが微笑んだ。

 

 

 「色々と交渉事んために会いに行ったらよぉ、まぁこっちにも事情はあんだけど襲撃受けてジンネマンの手下に拉致されたんだ」

 

 

 

キエラが軽い調子でそう言うとクイントは驚き頬杖からずり落ちた。

 

 

 

「…いや、あの、アンタら一体、ナニモンなんだよ?」

 

 

 驚愕した顔のクイントにどんどんと気持ちが晴れて来た気がする、居場所だ、ケニーの居場所さえ分かれば無理矢理襲撃して奪還、後はコイツの船で逃げりゃあ良いんだ。

 

 

クイントの問い掛けに答える様に、キエラは再度唸り始めた。

 

 

ナニモンって、さぁ?強いて言うならぁ、なんだ?

 

 

 

 

 

 

「老獣人と帰還兵、って所か?」

 

 

 

 

 

 

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