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全てを嘘にするため酒を飲む。
君の太陽のきらめき、暖かな体温全てを嘘にするために酒を飲む。
「なに?じっとこっち見て、イヒヒヒヒ、変態」
君が与えてくれた自信、君が与えてくれた喜び、全てを嘘にするために酒を飲む。
「貴女の書く絵が大好き、その、絵画には詳しくないけど才能を感じる、見ていて暖かい気持ちになれるの、それって素晴らしい事だわ」
君と描いた夢、君が教えてくれたこの世の素晴らしさ、全てを嘘にするために酒を飲む。
「私、この港町が大好きなの、貴女も小さかっただろうけど、前の戦争の時を覚えているでしょう?この町がまた戦争でめちゃくちゃになるなんて絶対に許せない。魔法の才能があるんだって、私。故郷のために戦いたいのよ。大丈夫、絶対帰ってくるから、そうしたら二人で家を買いましょう?海の見える場所で暖炉の上には貴女の書いた絵を飾るの、そうして貴女は一日中絵を書いていて、私はきっと戻ってくる頃には沢山恩給が出るだろうから貴女の絵のモデルになったり、貴女の為に料理を作ったりして一日を過ごすの」
君の言葉を嘘にするため私は酒を飲む。
「必ず帰ってくる、絶対に生きて帰ってくるから」
私は酒を飲む、君への愛を嘘にするため酒に飲む、君が愛してくれた私の全てを嘘にするため酒を飲む、君の居ない人生を嘘にするため酒を飲む。酒を飲むただただ飲み続ける。そうしていれば君の為に輝いていたこの世の全ては私の眼前から消え失せてくれるだろうから。
酒を飲む、私はただただ酒を飲む。
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冬が近い、庭仕事に出るのに上着が必要になって来た。ケニーは冬の訪れとともに鋭さが増した様に見える太陽を見上げ、そんな事を思う。あの酷く寒々しい戦場に居た時と比べればなんと穏やかで優しい冬であろうか、きっとこれなら大して着こまずとも魔法を工夫して使えば十分に耐えられる、だけれどマダムとアンナを心配させてしまうだろうから、やはり上着を買った方がいいのだろう。
「ケニー、そろそろ約束の時間じゃあないの?」
玄関口からマダムが出てきてそう、ケニーに声をかけた。サラサラとした毛皮の上からカーディガンを羽織っていて、とても暖かそうだ。そんな姿を見るたびにケニーは自身の内側に暖かな気持ちが広がるのを感じる、いつか言葉にしてマダムに伝えよう、今のままの自分自身ではきっと十分にこの思いを伝える事が出来ない、自身の不自由さを思う時とはまた違った感覚でケニーそう考えた。それは酷く暖かな感覚だった。
スラックスのポケットから懐中時計を取り出す、誰かと約束するような習慣が出来てからケニーは常に時計を持ち歩く様にしていた。待たされるというのはきっと悲しい事だ、まだ戦時中に軍に居た時、故郷に妻と子供を待たせていると言っていた同じ隊の男はいつも申し訳なさそうにしていた。誰かに悲しい思いをさせる事、特にアンナやマダム相手のそれを考えれば時計を持ち歩くぐらいは何の問題もない。
マダムの言葉に時計を確認する、確かにそうだアンナとした約束の一時間前。汗を流し着替えたあと、車で出かける事を考えれば丁度いい頃合いだろう。ケニーはマダムに声を掛ける、今日の夕飯はアンナと共に食べるので必要ない事、アンナ曰く新しく出来たレストランで何か持って帰れる様なものがあれば持って帰るかどうかの確認、それに加えて町に降りるので何か必要なものはあるかどうかの確認。
「大丈夫よ、ケニー。折角の二人で出かけてくるんだから、何も気にせず楽しんでらっしゃい」
ただマダムは楽しそうに微笑んで、それに一礼を返した後ケニーは庭仕事の道具を片付けるため納屋へと向かった。
美しいものを美しいと褒めるにはどうしたらいいのだろうか?
準備を整えマダムに挨拶した後、マダムの車に乗りケニーは運転しながら過去の出来事に思いを馳せる、自然と右手が頬に伸びアンナが切った傷痕を指で撫でた。あの農園での事だ、アンナはケニーの言葉に服が汚れるのも構わず膝から崩れ落ち泣き続けた。ただただ謝罪の言葉を繰り返すアンナにケニーはどうする事も出来なかったが、涙を流す姿すら美しいアンナにケニーはたまらず問いかけたのだ。
「美しいものを美しいと褒めるにはどんな言葉で語りかければいいのだろうか?」
酷くきょとんとした顔でアンナが泣き止んで、そんな表情も美しいと感じたのをケニーはよく覚えていて、そして思い出す度にマダムの暖かそうな姿と同じぐらい柔らかで暖かな気持ちなるのをアンナにだけは話していた。
「できれば、謝らないでほしい。私には貴女の涙を止められる様な言葉が言えないから」
それでもだけれど、と謝ろうとするアンナにケニーから提案したのだ。もしどうしても難しいというのなら、美しいものを美しいと表現するように、名前も知らぬ花に感じたもの言葉に出来る様に私に言葉を教えてはくれないだろうか?と、この町は美しいものが沢山あるし、きっと今まで私が不自由だったから言葉にしたり、大切に出来なかっただけで上手に関わる事が出来た筈の美しいものが世界には沢山あるのだろうから、と。
ケニーは二週間に一度マダムと契約した仕事が終わるとアンナと一緒に過ごすようになっていた。
そう言う訳であるから、ケニーは上手く言葉に出来ない多くの感じた事をアンナには伝えていた。マダムの暖かそうな姿について、アンナは美しいということ、夏と秋では海に反射する日差しの、美しさの全く違って見えるという事、薔薇という花はとても美しいのだという事。
沢山伝える度にアンナは一つずつケニーに言葉や表現やこんな風に言い表すと良いのだということを教えてくれた。そうして一つずつこの世界の良いものについてケニーは繋がっていった。とても、とても幸福な時間だった。
ガタガタとした石畳に差し掛かる、アンナのお店のすぐ近くまで近づいている。あの角を曲がればきっと彼女はお店の外に立ちケニーの事を待っていて、ケニーはそれが凄く楽しみで。
今日はどんな風に彼女の美しさを伝えようか、美しいものはきっとケニーには関係なく美しいのだ、だけれどその美しさを表現出来る事、伝えられるということはきっと美しいものは美しいのだという事実と同じぐらい重要なのだ。
角を曲がる、アンナの姿が遠くに見えてくる、ケニーは今日アンナに普通の食事というものを教えてもらう約束をしていた、車をアンナのお店の前に止めて歩いて彼女とレストランまで向かうのだ。
アンナの姿が徐々にハッキリと見えてくる。
夕暮れに立つ彼女は今日も美しかった。