No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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 今回初めてやったから知らなかったけど、最新話を途中挿入してもトップページにはあくまで目次の一番下の話が掲載されるんだなあ、と。

 見逃した人も居るかもなのでこっちでもリンクを張って置きます。

~↓幕間:スペシャルウィークの1日↓~
https://syosetu.org/novel/292399/11.html


第25話

「私は祭司ナーダ、コーバックスの異端者だ。 ナーダ達のアノマリーによくぞ来た」

 オルガの予想通り、彼は自らをそう名乗った。オルガの目の前に立つナーダと名乗るコーバックス。

 無機質な金属の身体だが、ゆったりとした身振り手振りも合わせて会話する彼の仕草には人間味を感じさせる。

 彼がオルガを呼び出しここに招いた張本人と見て間違いない。

「ここがナーダ達の家だ。 なかなかのものだろう? そこにいるポーロが自分で設計したものだ」

 名を呼ばれたポーロの方を向くと、どこか得意げに胸を張るゲックの姿。 キリトが言っていた通り、この施設は彼が作ったものらしく素晴らしい工学センスを持ち合わせているようだ。 技術畑のキリトと中が良さそうなのも頷けるというものだ。

「センチネルも、コーバックスの追っ手も来ない完璧な場所だ。 ナーダはここで時が過ぎゆくのを観察している」

「……? あの、ナーダさんはお尋ね者なんですか?」

 同族からも追われているという彼の弁にタカキが尋ねると、ナーダは頭を垂れる。

「――――ナーダはコーバックスプライムの影で目覚めた。 なぜこんなことになったのか、なぜ孤独なのか分からなかった……今では異端となった。 コンバージェンスはナーダの目を見ていない」

「?」

 どこか遠くを見つめるような仕草をするナーダの、抽象的に思える会話にオルガは首を傾げる。 そんな彼に肘で脇を小突くビスケットが小声で補足説明をしてくれる。

「コーバックスって言う種族の主体は精神にあって、所謂集合意識から生まれて常に繋がれているんだ。 言ってみれば身体はその端末で、それらを『エンティティ』って呼ぶらしいんだよ」

 ビスケット達はオルガ達よりも早くこの世界を訪れ、貿易船団として鉄華団を運営していた。 片言ではあるがある程度主な三種族の言葉にも精通するようになった為か、彼らの歴史的背景にも触れる機会が多かったのだという。

「そう言うことか。 じゃあ異端っていうのは……」

「どうも彼らコーバックスは『アトラス』って言う神を信じてるらしいですけど、彼の生まれからしてその考えに従うことが出来なかったのかも知れません」

「異端扱いを受けたコミュニティからつまはじき。 普通のコーバックスも集合意識からリンクを切られてしまうらしい……さぞかし心細いだろうな」

 タカキの口にした『アトラス』と言う名前も耳に新しいが、それよりもキリトの影のある面持ちがオルガには気になった。 彼も孤独になった苦い記憶を思い出しているのだろう、間近に居たオルガにはそれがよく分かる。

(しっかしまあ、機械と繋がれた意識っていうと()()を思い出しちまうな)

 種の起源も違えば集合意識でもないのだが、オルガの脳裏にはガンダム00の世界で相対した、『イノベイド』と呼ばれる人造人間達をふと思い出した。

 ヴェーダというコンピューターと精神をリンクさせ、その主体をコンピューター上に移すことが出来る彼らは、いつどこでも機械の演算を意のままに利用出来る他、クローニングした複数の肉体を端末としていっぺんに操る事さえ出来る。

 それにより量産されたモビルスーツに一斉に乗り込み、肉体をも使い捨てにした特攻兵器として迫られ、ソレスタルビーイングの面々と共にやっかいな思いをした経験がつい蘇ってしまう。

 

 話はそれたがナーダは言葉を続けた。

「……だがもう孤独ではない、友達のポーロが一緒だ。 他にも大勢の友達が尋ねてきてくれる。 ささやかな集合体だがナーダは幸せだ」

 孤独を癒やす友達に囲まれた集合体、鉄華団という家族の絆を重んじるオルガにもなんとなく理解は出来る。 ナーダという彼もまた、絆を何より大事にする男なのだ。 会って間もないそんな彼に、オルガは少しばかり親近感を覚えた。

「そっか……アルテミスって奴を気にかけていたのもそう言う訳か」

「知り合いではないのか?」

 ナーダの問い掛けに改めてオルガは答えた。

「当てもなく宇宙を彷徨ってる時に、それとなく何度か無線を受け取ったことがある。 その、そいつが乗ってただろう宇宙船もな……だが本人には会ったことはねぇな」

 オルガは幾度と受け取った無線のやりとりと、墜落船の側のビーコンから拝借した機材の存在をナーダに打ち明ける。すると彼はほんの少し天井を仰ぎ見ると、こう切り出した。

「ナーダも()()は知らない。 反復行動についてもナーダの思考が及ぶ所ではない……そのエンティティは行方不明だったのだ」

「……本当はね、ここに来るのは貴方達ではなく友人アルテミスのはずでした」

「そう言う、話か……」

 オルガは左手でヘルメットのバイザーを覆い隠し、ため息をつく。 薄々そんな予感はしていたが、やはり彼らはアルテミスなる人物を探していたらしい。 そこにたまたま自分が彼の人物の無線を拾い、IDを取得し今に至ったという訳だ。 まるでその人物の導きのような一連のやりとりに、過度な干渉と束縛を嫌うオルガは何処となく窮屈な思いを禁じ得ない。

「極めて異例な事態だ。 センチネルはナーダ達のアノマリーを見失ったが、アノマリーが誰かを見失うことはあり得ないことだ」

「探せば友達はどこにでもいますよォ。 色んな形で色んな大きさで、色んな場所にねェ……それがどうしてこうなったのやら……でも、何だって起きる可能性は有るんですねェ。 それが宇宙ってもんですからねェ」

 ナーダとポーロは類を見ない出来事だと口にはするが、それでいてどことなくドライというか、むしろ達観に近いような印象を受ける。オルガからすれば、この2人はどこか掴みどころがない気分だった。

(向こう側で会えるって言う俺達の言い分も、他人から見たらこう見えるのかもな……)

(オルガ、勝手に殺しちゃダメだよ)

 ビスケットから注意を受け、どうやら自然と考えが漏れていた事実に気付き、慌てて口をつぐむオルガ。

「まあ、いずれアルテミスは見つけますよ。 必ずねェ。 いつだってどこかに信号が、どこかに痕跡があるんです……」

「……そっか」

 ナーダとポーロのしみじみとした語り口に、オルガは何とも言えない気持ちになる。

 このような言い回しからして、恐らく彼らはこれまでに多くの自分達のようなトラベラーを受け入れ、見送ってきたのだろう。 そして今回のアルテミスとやらも、また同じように彼らによって見送られるのかもしれない。

 それを果たしてすんなりと受け入れるべきなのか、それとも……。 オルガはふとそう考えてしまったが、すぐに頭を振った。

 

 アルテミスというトラベラーがどんな人物かは知らないし、会ったことも無い人物への気遣いなどしようも無い。 しかし、目の前の二人が友人と呼ぶ存在を探し続けるその姿が、自身が三日月を探している姿と重ねてみてしまう。

 オルガは意を決した。

「俺達に、何かしてやれることはねぇか?」

 その言葉に、この場に居た全員がオルガを注視した。

「正直な話、会ったことも無いアルテミスって奴のことは分からねえ。ただ、アンタらみたいに探してるヤツがいるなら……手伝ってやりたくなってな」

 それはオルガにとって素直な想いだった。

 ナーダとポーロは一瞬だけ目配せすると、再びオルガに向き直り、にこやかな笑みを浮かべた。 表情のないコーバックスのナーダも、どことなく嬉しそうな気配を感じる。 それはビスケット達も同じだった。

「そう言うと思ったよ、オルガ」

「お前って奴は……相変わらずお人好しなんだな」

「そこが団長らしいって言うか……ええ、俺達で良ければ協力しますよ」

 オルガと付き合いのある面々に、彼のお人好しな提案に反対する者はいなかった。

「感謝する。 エンティティ・オルガ、それとその友人達――――」

「鉄華団。 今度こそ散らさない、鉄の華だ」

 オルガは右手を差し出すと、ナーダも意図を察し同じく右手を差し出した。 そしてその手を互いに強く握りしめる。 冷たい機械の手だが、その手の力の入れようにはしっかりとした温かみのような感情があった。

「必要な時はいつでもここに戻ってくるがいい。 トラベラーのエンティティよ、いつでも歓迎しよう」

「ああ、よろしく頼む。 それじゃあそろそろアイツらと合流する……その前に」

 お互いに手を離すと、オルガはその場を離れると見せかけてナーダとポーロに告げた。

「二人はこの男を知ってるか?」

 オルガはホログラフを展開する。 それは相棒である三日月の写真だった。 ナーダとポーロは首を傾げつつ答える。

「残念ながら、彼の姿を見たことはありませんねェ」

「ナーダのデータログにも彼の記録はない。 このアノマリーに出入りした履歴もない」

「そう、か……」

 オルガは肩を落とした。 駄目元ではあったものの、キリトみたいに人間の行き来があるとなれば少しは期待してしまうだけにため息を禁じ得なかった。

(仕方ねぇか。 そもそもこの世界での地球人種なんか少数派だろうしな、見てたら印象に残るだろうからな)

 ナーダとポーロが知らない以上、少なくともここいらで三日月を知る者が居る可能性は居ないとみていい。

「まァ、きっとそのミカヅキと言う彼もまたどこかで会えますよォ」

「エンティティ・オルガ、旅を急いではならない。 自ら道を切り開く自由は、事の地道な積み重ねに支えられるのだから」

「サンキュ……ああそうだ、最後にもう一つ」

 女子組の仲間と合流すると見せかけ随分と引き延ばすオルガだが、正真正銘これが最後の質問だ。

「さっき言ってた()()って、何だ?」

 その質問にナーダとポーロはすんなりと応えてくれた。

「エンティティ・オルガ。 トラベラーには皆イテレーションIDなる番号が割り振られている」

「分かりやすく言えば識別番号ですよォ。 あなたの番号は、ふむ……『2394829084924924924G』ですねェ」

 随分桁数が多いんだな、と思うと同時にキリト達の次に出会った宇宙人アリアドネも、自分を見るなりそんな番号で呼んでいたことをふと思い出した。

(あれは俺の識別番号だったのか)

「オルガ、そろそろ行こうぜ……それじゃあナーダ、ポーロ、ちょっとオルガ達を見送ってくるよ」

「「良き旅を、オルガ・イツカ」」

 キリトに押される形で、ナーダとポーロの別れの挨拶を背に受けながら、オルガ達は部屋を出て廊下へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 廊下を出てすぐの、オルガ達が上ってきたスロープの丁度すぐ近くにある、十字路に足を進めた辺りで一同は立ち止まる。

「アルテミスだっけ、あんま安請け合いはするなよ? この広い宇宙じゃ、遭難者の数だって天文学的な数字なんだぜ?」

「んなことは良いんだ。 それよりも……何だよ見送ってくるって、水くせぇぞ? 俺達の元に来ねぇのか?」

「あー、深い意味は無いんだ」

 少し困ったような、寂しいことを言うなよと言わんばかりにオルガは目線を送ってみるが、対するキリトは気まずそうに頬を掻くと、十字路の向こう側……ナーダの居るベランダ付きの部屋の反対側を指差した。

 その奥にはコンピューターに立ち並ぶ部屋が見え、アリアドネの案内を受けているみほやテイオー達が目を輝かしている姿が見受けられる。

「俺は技術畑だからさ、単純に研究施設が充実してるここが一番都合良いんだ。 それに心配しなくっても……」

 キリトは目の前でウィンドウを展開、それを手早く指をあてがって操作すると、オルガのスーツにデータが送信される。

「このスペースアノマリーの入り口を呼び出すコードだ。 これがあれば大抵の宇宙空間でここの入り口を呼び出せる。 使ってくれ」

「おお、そんな物があるのか……じゃあ、代わりに俺は基地の位置情報を送るぜ。 これでいつでもこっちの基地に来れるだろ」

「助かる」

 将来的に楽に基地を行き来出来るようにと、テレポートモジュールのテクノロジー自体は既に持ち合わせている。 なんやかんやあって設置は見送っていたが、キリトがいつでも基地に来られるようになるなら、早い内に実装しなければならない。

 そう考えていると、向こうの方からこっちを見つけたテイオーが駆け寄ってきた。

 

「ダンチョー! もう話し合いは終わった!?」

「おう! そっちはどうだ? 収穫はあったか?」

「にっしっし♪」

 テイオーはインベントリから何かを取り出した――――トリガーとグリップのついたそれはマルチツール。 なのだが、壊れた自身のツールと同じ丸みのあるオレンジ色の本体が、角張った赤を基調としたオートマチック拳銃型のツールに変わっていた。 後部にはテールエンドとグリップ下部を二本の枝で繋いだような形のストックが装備されている。 紛れもない新品のマルチツールだ。

「修理を依頼したらついでにアップグレードしてくれたんだよ♪ 僕達の持ち帰った新機能のテストも兼ねてタダで良いってね♪」

「……『高機能マインレーザー』って奴か?」

 オルガは、アルテミスの乗っていた墜落船の側のビーコンから、彼のIDと共にマインレーザーのテクノロジーを回収していたことを思い出した。 テイオー曰く彼女の持つマルチツールには、その技術を実装したと思われるパーツが追加されている。

 テイオーは嬉しそうな顔のまま、新しいマルチツールを自慢する。 そんな姿を見ていると自身のツールもいじって欲しいと思うと同時に、テイオーと同様に著しくツールを破損してしまっていたことを思い出す。

「俺も修理してくれたりしねぇかな?」

 オルガもそうしたいと願うが、一転してテイオーは身を震わせ申し訳なさそうな顔をする。

 あー……それなんだけど、丁度ボクのを修理した段階で部品を切らしたって言ってた」

「何だよ……」

 オルガは落胆する。 テイオーは両手を合わせてすまなそうにする。

「ごめんねダンチョー、ボクもツール貸してあげたいけど……ラウラとの訓練に使うから、ね?」

 テイオーのその言葉に、オルガはハッとする。 訓練とは? 彼女の口から出た単語に引っ掛かりを覚えた。

 テイオーは、先程までの無邪気さから一転、真剣な表情を浮かべる。

 

「ボクもね、いざという時に闘ったりサバイバルできるように鍛えて貰いたいんだ。 正直皆手探り状態かも知れないけど、ラウラって軍人でしょ? せめて足を引っ張らないように、どこでも生き抜く力を持って出来ることも増やしたいんだよ」

「でも、だからって武器を手にするって言うことは……つまり!

 ビスケットが焦ったような口調で話に割り込んでくる。 が、それをオルガは手で制し、真剣な面持ちでテイオーの顔を見る。

「……命のやりとりを了承するって事なんだぞ、テイオー。 覚悟の上で言ってるんだろうな?」

 オルガの問いに、テイオーはしばしの沈黙の後に無言で、しかし頭を垂れて力強く首肯した。

「正直怖いよ。 死ぬのは怖いし、いきなり撃てと言われたって、相手の命を奪うことなんて出来ないかも知れない」

「じゃあ!」

「でもね、それ以上に無力なのは嫌なんだよ」

 テイオーは、真っ直ぐな瞳を向けてくる。 オルガはその視線を受け止めつつ、彼女の次の言葉を待つ。

 彼女もまた、オルガの目を逸らさず見つめ返す。 それは決意の表れであり、オルガはテイオーから確かに強い意志を感じ取る。

「火山の星で猛獣に襲われた時も、極寒の星で凍死しそうになった時も、ボクは助けてもらってばかりだったよ……まるで何度も骨折して、頑張る仲間達をただ見ているしか無かった時みたいにさ」

 テイオーは、己の不甲斐なさを噛み締めるように話す。 その言葉にオルガ達は言葉を挟まず耳を傾けていた。

 特にオルガにとってもテイオーがどんな気持ちだったのか、痛いほど理解出来た。

 テイオーが骨折した時の彼女の挫折と復活、そしてこの世界に来てからの命の危機を必死で乗り越えた記憶は、オルガも間近で見ていたから。

 周りがそうは思わなくともテイオーはずっと、自分は足を引っ張っているだけだと自身を責めていたのだ。

「反対する理由は分かるよ……でも言うことは聞けない。 これはボクが一生懸命考えて決めたことなんだ。 お願いダンチョー、ボクにも鉄華団を支えさせて」

「……オルガ」

 ビスケットが心配そうな声を上げる。 しかしオルガは、そんな彼の肩に手を置いて制した。

「答えは一緒だ、手放しで賛成することは出来ねぇ……」

 オルガは一度そこで言葉を切る。 テイオーを見据え、その目に一切の揺らぎが無いことを改めて確認すると、 再び口を開く。

「……だけどな、自分なりに考えて出した答えを俺には無碍に出来ねぇ」

 オルガはフッと笑みを浮かべて言った。 その表情には、どこか吹っ切れたものを感じる。

「そうだろ? お前等」

 他の仲間達にも改めて問い掛ける。 周りに居るビスケットにタカキ、キリトと……そして、背後に居る女性陣達へ。

「テ、テイオーさぁん……!!」

「! す、スペちゃん! それに皆!」

 テイオーは後ろから抱き着いて来たスペシャルウィークに驚く。 彼女は同情や悲しみではなく、感激に泣いているようだった。 他のメンバーは生暖かい視線を送っていたり、テイオーの覚悟を受け止めるように真剣な面持ちで居る者もいた。

「はあ……ったく、こんな廊下の真ん中で陣取って何話してるかと思ったら……」

「テイオーさんが、グスっそこまで、そこまで思い詰めていたなんて……私、知らなくって……二度も命の危険に晒されて……!!」

「スペちゃん……キャル……」

「なのにそれでも立ち向かって行こうとするなんて……私、感激しちゃって……!!」

 スペシャルウィークは涙を拭いながら、テイオーに熱い抱擁を続ける。 テイオーは困ったように笑いながらも、彼女の頭を優しく撫でた。 スペは目を潤ませながらテイオーから身を離し、テイオーがこちらを振り返るのを待ってから告げた。

「テイオーさん! 私も一緒に頑張ります! やり方は違うかも知れませんけど、一緒に鉄華団(家族)を守りましょう!」

 テイオーはその言葉を聞いて、嬉しさのあまり自身までもらい泣きしそうになった。

 だが、それを堪えると、精一杯の笑顔を皆に向ける。 それは、今までの彼女が浮かべてきたどの表情よりも晴れやかなものだった。

「テイオー、話は聞かせてもらった」

 そこに不敵に笑みを浮かべるラウラが一歩前に出て、テイオーに語りかけた。

「オルガ団長も認めたその覚悟は本物のようだな……良いだろう、訓練に付き合おう」

「ホント!?」

 テイオーが喜びの声を上げる。 対してラウラは笑みを浮かべるその口の端を更につり上げる。 何処となくサディスティックな雰囲気さえ感じさせた。

「私の訓練は公平だが厳しいぞ。 モノになるまでの間は教官と訓令兵の関係だ……分かったら返事に"サー"をつけろ!

「! サ、サー「声が小さい!」サー! イエッサー!」

 ラウラの檄にテイオーは反射的に背筋を伸ばして敬礼した。 作法として身につけているみほ達と違いぎこちない動きだが、テイオーなりに真面目にやろうとしているのは伝わってくる。

「……お手柔らかに、などとは言わさんぞ?」

「あ、あははははは……「笑ってごまかすな! テイオー二等兵!」サ、サー!」

 どうやら早速上下関係の植え付けにかかっているようだ。 ラウラは確かに厳しいが、彼女の言うように公平には違いない。 少なくとも自身のCGS時代の一軍連中のように、憂さ晴らしで折檻するような馬鹿な真似はしないだろう。

 そんな彼女の様子を微笑ましく見ていたキリトが女性陣に声をかける。

「話を遮って悪いけど……あんた等、ペコリーヌはどうした? それにアスナも」

 その瞬間、女性陣が一斉に真顔になった。 あれだけ騒いでいた女性陣達が一様に口を閉ざし、沈黙が周囲の空気を支配する。

「お……おい、どうしたんだよお前等……って言うかおい、スペ。 その腹は一体何だ?」

「はっ!!」

 オルガはつい目にとまった、スペシャルウィークの下腹部を指差すと、彼女は慌てて下腹部を手で覆って隠そうとする……隠せていないが。

 白と明るいパープル基調の勝負服の意匠を組んだ、しかし宇宙服らしく厚手の生地で出来ているエクソスーツ。

 そのスーツの下腹部が、蛙の腹のように膨らんでいることに今になって気がついた。

 先程までの和やかな空気はどこへやら、オルガの指摘によって更に冷え込んだ場の雰囲気に一同は口をつぐむ。

「ど、どうしたんですか皆さん?」

「そうだよ……別に責めたりしてるわけじゃ無いのに。 何かあったの?」

 一体何があったのか、聞きに回っていたタカキとビスケットもしどろもどろに問い掛けると、みほが一言。

「……ついてきて」

 そう言って女性陣は一斉に踵を返し、十字路の右側へ歩いて行く。

 口を閉ざしたまま歩いて行く彼女達の姿にオルガ達は互いに顔を見合わせるが、一先ずは後に続くことにした。

 

 そして、後についていった先の光景を見てオルガ達は絶句する。

 通路の先は下りのスロープからなる細い廊下で、抜けた先には広々とした踊り場があった。

 様々な機材をはじめ、壁に掛けられた絨毯に食材のようなモノをあぶるグリルなど生活感に溢れるブースが存在するのだが……そこでは信じられない場面が繰り広げられていた。

「やるわねペコリーヌ! 見ない内に料理スキル上がったんじゃない!?」

「アスナちゃんこそ! 鉄華団の皆に振る舞った腕はまだまだここからですよ~!」

 あろう事か、何処からともなく持ち出した調理器具を使って料理勝負を行っていたのだ。 空中を舞う肉や野菜にめがけて包丁を繰り出し切り刻み、それを鍋に入れたり串に刺してグリルに設置したり、その間に他の食材を切り刻んだりした味を付けたりなど、マルチタスクをスムーズかつ手早くこなしていく。

 そしてこれら一連の行為を幾多も重ねてきた事の証明か、彼女らの目の前にはテーブルに置かれた和洋中の入り乱れる満漢全席が繰り広げられていた。

「う、うぷ……もう、入らない……」

「お、お若い方……随分と張り切っておりますな……こちらはすっかり胃袋が満たされてしまいました、よ……」

 そしてその周りには散乱する空の食器と共に、アスナと一緒に鉄華団の女性達を案内してくれたアリアドネを始め、緑の目に触手の生えた赤い頭部の宇宙人や、目玉が大きかったりグレムリンに似た顔立ちの二人組の宇宙人、植物のような宇宙人など様々な人種が横たわっていた。 皆一様に、スペシャルウィークのように下腹部に当たる部分が大きく膨れている。

「ア、アリアドネ……『アレス』……それに『ジェミニ』『ヘスペロス』……『ヘリオス』まで……何だこれは、たまげたなあ……」

 全員顔見知りなのだろう、床に転がる宇宙人らの姿を見て彼らの名と思わしき名前を、引きつった笑いを浮かべつつ呟いた後に膝から崩れ落ちるはキリトだった。

「も、もういいお前達……私はすっかり満足した、ぞ……」

「なんの『クロノス』さん! 勝負はまだこれからですよ!」

「期待して待っててください! もっともっと素晴らしい料理の芸術を披露して見せます! とりゃあああああああ!!!!」

「ば、爆発するのは芸術だけで良い……!! 私の腹まで、爆発、するぞ……うぷっ!!」

 そして『クロノス』と呼ばれた、下唇が縦にも割れた緑の肌の小太りな宇宙人が、アスナとペコリーヌに大量の料理を押し付けられ、今にも卒倒しそうになっている。

 

「……スペ、これは一体どういう事なんだ?」

「うひぃっ!」

 目先で繰り広げられる異様な光景に、オルガは自身でも驚くぐらい冷静に、しかしドスの効いた声でスペシャルウィークを問いただした。 思わず背筋をピンと伸ばし悲鳴を上げるスペシャルウィークだが、しばし目線を泳がせた後気まずそうに語り始めた。

「……その、ペコリーヌさんってあそこのアスナさんとよく料理の話してたって言ってましたね」

「ええ、今回もまた話し込んでたわ。 そこで倒れてるクロノスって言うグルメの宇宙人も交えてね」

 キャルが説明を補足する。

「キャルさんをさし置いて3人で話し合ってる内に、グルメの人に対してどれだけ美味しい料理を振る舞えるかって料理対決を始めたんです……そうしてる内に私も美味しそうな匂いにつられちゃって、つい」

「周りで倒れてる連中もその煽りを受けた訳か……で、そんな食材どこにあった?」

「ぺ、ペコリーヌさんの持ち込んだ食材です!!」

 身を震わせるスペシャルウィークの額からは嫌な汗が流れ出している。 持ち込んだ食材と言うが、鉄華団の食材は量子化技術によって成されるスーツの豊富なインベントリにしまい込まれ、それらはメンバーの二人によって管理されている。

 一人は調理担当のペコリーヌ、もう一人は――――

「もう一つ質問良いか? お 前 の 手 持 ち の 食 材 は ど う な っ た ? 

「……お、オルガさんのような勘の良い団長さんは嫌いですうううううううううううう!!!!!!

 スペシャルウィーク、号泣。

 

 

 

 

 

 

「なぁにやってんだあああああああああああああッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 山積みになった大量の料理は、他のスペースアノマリーの住人も交えた親睦会という名の宴会で全て食べきられ、腹部を膨れ上がらせたトラベラー達の死屍累々となったそうな。

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