【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
8月19日(金)夏休み27日目
今日は昨日と一転して晴れていた。そして湿度が高く蒸し暑かった。こんな日こそ、那須の避暑地で過ごしたいものだ。もう何もやる気が起きない。課題を開く気もしない。
バンッ!と勢いよく、部屋のドアが開いた。
英梨々が立っていて、左手を腰に当ててポーズをとっている。大きなサングラスをかけて、そのサングラスにもう片方の手でクイッとした。
「倫也!さぁ上野行くわよ!」
「上野?パンダ?」
「パンダも悪くないけど、上野と言えば」
「ああ、美術館か」
「それもあるけど、上野と言えば上野駅よ」
「はっ?でもって、その恰好なんだよ」
「見りゃわかるでしょーよ」
「ミニスカポリスか?」
「あんたって、ときどきオヤジよね・・・今時、ミニスカポリスなんて古典でしか扱わないわよ。だいたい生地の質感が違うでしょ」
「なんだろ。プラレールの衣装だよな」
「・・・まぁそうね」
「で、その車掌さんコスプレがどうした?」
「ふふふっ、倫也。甘いわね。これがコスプレに見えて?」
「コスプレ以外の何物でもないよねぇ!?」
「さぁいくわよ」
「ああ、上野だっけ・・・」
下に降りると玄関に大きなキャリーバックが置いてある。どんだけ荷物あるんだよ。うちの前に澤村家の黒い高級車が止まっていた。
「いらないって言ってるのに、きかないのよね」
「いらないってどういうこと?」
「タクシーで行くっていったのよ」
「荷物大きいし電車じゃ、しんどいか」
「もう・・・」
英梨々が車の方に近づくと運転席から女性が出てきた。澤村家の新しいメイドさんでメイド長をしている、執事の細川さんの後任だ。黒いスーツを着て髪を後ろに束ねている。できる女性の印象で年齢は30歳前後だろうか。眉目秀麗と言った感じで男装の麗人を思わせる。しかも巨乳。これはもう完璧にスペンサーおじさんの趣味だな。枯れ専うけの良さそうな細川さんとは対照的で、英梨々と相性が悪そうなのもわかる。
名前は海部(かいふ)さん。英梨々が何やらやりとりしながら顔が赤くなって興奮してきている。そんなに拒絶しなくても、相手にも予定と仕事があるだろうに。
「どうした?」
「倫也も何かいってやってよ」
「こんにちは」
「こんにちは、安芸さん」
「ちょっと、人の彼氏をなれなれしく呼ばないでよ」
「馴れ馴れしくはないだろ・・・というか、英梨々はややこしくなるから少し黙っとれ」
「なによ。倫也どっちの味方なのよ」
俺は英梨々を無視して、とりあえず海部さんと会話を進める。上野で手続きもあるらしいので送るそうだ。ならしょうがない。
とりあえず、英梨々を車に押しこんで、荷物をトランクにしまって出発した。
・・・そして、海部さんはエンストをした。
「すみません。不慣れなもので」
「下手よね」
「英梨々そういうなよ。もしかしてマニュアル車は普段乗られていませんでしたか?」
「はい。すみません」
そう、この高級車はマニュアル車なのだ。この車は細川さんの趣味を兼ねている。乗り心地抜群の車だと思っていたが、申し訳ないが海部さんが運転していると車酔いをしそうだった。また、エンストをしている。
「すみません」
「謝ってすむなら、警察いらないわよ。いてててっ。ちょっと倫也なにすんのよ!」
俺は英梨々のほっぺたをつねった。いくらなんでも失礼だ。だいたいなんでもかんでも噛みつきすぎ。このやりとりを見て、海部さんがやっとクスッと笑った。
上野駅に着いた。駐車場から駅まで少し歩く。もう英梨々は大人しくなっていた。ここで駄々こねてもめんどうなだけと悟ったのだろう。海部さんは窓口で手続きを済ませた。というか、俺たちはどこへ行くのだろう?
係員が1人付き、ホームへと案内された。見慣れない緑色の新しい車両が止まっている。先頭車両は流線形でガラス面が大きい。英梨々はそこに乗り込んだ。
「海部さん、これはなんですか」
「今日、英梨々お嬢様は一日車掌をされます」
「そのためのコスプレですか」
「コスプレではありません。これは本物です」
「いやいや・・・まぁいいや」
海部さんは大きなストロボのついたカメラを構えた。他にも撮り鉄や鉄道ファンが集まっている。取材クルーも来ていた。係員から合図あると、英梨々は安全確認をしてから笛を吹いた。それから元気よく笑顔で、
「出発進行~!!」と言った。
カメラが一斉にシャッターを押した。なんだこの茶番・・・とか、俺は冷めた目で思ったが、けっこうな盛り上がりをみせている。
出発進行を指示したのに車両は出発せず、車両から降りてきた英梨々は撮影に気持ちよく応じている。こうなると英梨々のコスプレもなかなか様になってきて、よく似合っていた。帽子をとってツインテールを見せると、これがまた写真映えするのでフラッシュが一斉にたかれていた。
何名かの他の乗客が乗りこみ、俺もキャリーバックを持って乗り込んだ。中はいままでの電車の車両のイメージとは大幅に違っていた。俺は係員に案内されて、一番後方の車両に案内された。そこは、まるまる一両が寝台車両に改装された豪華な部屋になっていた。
「まじっすか?」
「はい。まもなくお連れの方もいらっしゃると思いますので、ここでお待ちください」
頭を下げて係員が出ていくと、俺は広い車両に一人残された。
それからしばらくして、英梨々が撮影スタッフを連れて、この部屋に入ってきた。俺は横の方にどいて、撮影の邪魔をしないようにする。
風呂やリビング、ベッドなどの撮影も終わり、撮影スタッフがお礼をいって、降りていった。そこまで海部さんが見届けて、「では、お嬢様を頼みます」と言って頭を下げた。「俺、どこにいくのでしょうか・・・?」と聞いたら、笑っていた。
扉が閉まり電車が出発した。上野発だから、たぶん北だろう。そしてこれが寝台車である以上は北海道あたりまでいくのかもしれない。
「疲れたわね」
「お疲れ。って、お前どこのタレントだよ」
「たまたまよ。この新型寝台車の一日車掌をパパがもらってきたの。撮影が盛り上がったのはまぁ、成り行きね」
「なんかすげぇんだが・・・」
英梨々はあたりをキョロキョロ見回して、「そうね」と何事もないかのように言った。
この寝台車両。内装はオシャレな和風であり、木でできている。部屋の中の写真だけ見せられても、それが電車の中だとは誰も思わないだろう。ベッドは二つで、清潔な白いシーツが部屋によく合っていた。お風呂も備えつけてあって総ヒノキ作りである。天窓もあり眺めに申し分はない。さらに、後方が開いて外にでることができる。柵があるが、線路を走っていくのを見ることができた。
一番後ろでこうやって眺めていると、海賊の車に追いかけられそうである。なかなかできない体験だった。
「他もなかなかすごいのよ。食堂車も豪華だし、展望車両もあるけど、ここがあるから関係ないかしらね。あとね、先頭車両も行けるのよ。あたし車掌だし」
「いくいく」
「じゃ、案内するわよ」
俺は英梨々についていく。俺たちの寝台車両の隣が車掌室。そこを通って食堂車だ。二階がレストラン、一階が厨房と通路になっている。その先は、寝台車が続き1つの車両に3部屋の扉があった。途中にトイレやロビー、自販機コーナーなどもある。
先頭車両とその後ろが展望車になっていて、ほとんどがガラス張りになり、青い座席も窓の方を向いていてオシャレなデザインだ。床は絨毯になっていた。まだ真新しいのでフカフカで土足のまま歩くのは気が引けた。
何組かの上品な乗客がいて、英梨々をみると「一緒に記念撮影をお願いします」と言ってきた。俺がカメラやスマホで写真を撮ってあげる。英梨々をアイドルか何かと間違えているのだろう。さしずめ俺はマネージャと思われているらしい。英梨々がコスプレをしていなければ、一応カップルに見えるみたいなんだけどな・・・
先頭車両にもう一つの車掌室があり、その先は二階建てになり、一階が運転席で、二階からは外が望める。俺と英梨々はそこに座って、窓から外を見ていた。視点が高いので眺望がいい。まだまだ都心だったが、もう少し田舎になって高い建物がなくなってくるとさらに見晴らしが良くなると思う。
「なかなかいいわね」
「そうだな。日頃できない体験をしている気がするよ」
「来てよかったでしょ」
「ああ。もう少し事前に教えてくれてもいいと思うが?」
「別にいいじゃない。知らない方が面白いこともあるわよ」
「まぁいいけどな。で、英梨々は今日ずっとその恰好で働くのか?」
「もうおしまいよ。あの撮影で役目は終わりなの」
「そっか。お疲れ」
「ありがと」
電車に揺られながらコンクリートの街並みを眺めていた。夕焼けが見たいがまだまだ日が沈みそうにないので、一度自分達の部屋に戻る。すれ違った乗客とまた撮影に応じていた。
部屋に戻ると英梨々は服を脱いで着替え始めた。俺は窓の外を見ていた。窓から見える景色は普通の電車でも変わらないはずだが、なんだか良い景色を見ているような気分になるのは不思議だ。
英梨々は白いワンピースに着替えていた。胸元にはラピスラズリの猫のブローチがついている。
「まだ、夕食には早いわよね」
時刻は16時を過ぎたころだ。なんというか・・・やることがない。テレビとブルーレイが用意されているが、まだつける気がしなかった。
「お茶でも飲みに行きましょうか」
「そうだな」
食堂車に移動すると何人かの乗客もいた。俺と英梨々はケーキセットを頼んだ。英梨々がイチゴのミルフィーユで、俺がモンブラン。ケーキを適当に2人で分けて食べる。コーヒーも香りが高く美味しかった。外の景色に田園などの風景がちらほらと混じるようになった。それにしても、いけどもいけども家が建っていて、人類はよく増えたものだ。
「鉄道ファンの子ならわからないけど、若いあたし達にはいささか退屈ね」
「だんだん慣れてくるしな。でも、俺はけっこう楽しいけど」
「そう?なら良かった」
英梨々が微笑む。ゆっくりとした時間、綺麗な景色、美味しいコーヒーとケーキ。その上、可愛い彼女が目の前にいる。不服を述べたら神様も怒るだろう。オタクメディアから遠ざければ、英梨々は飛び切り上品なお嬢様にもなれるのだ。
部屋に戻って、俺は何度も風呂場を見に行く。ヒノキ作りで匂いがいいのだ。もう入ってしまいたいが、お湯の量も限界があるだろし、そうなんどもはいるものではないだろう。食事が終わった後に入りたい。
「そんなに気になるなら、入ってくればいいじゃない」
「まぁそうなんだがな・・・」
「別にお湯なんてなくなりはしないわよ」
「いや、でもやっぱり気になるだろ・・・」
風呂釜はそこまで大きくないのだ。やはり水が貴重だと思われる。英梨々はベッドの上に横たわり、備え付けの雑誌を読んでいた。観光案内のものが多い。俺はこの鉄道について書いてある本を読んだ。
「倫也。ツインベッドでがっかりでしょ?」
「いや?なんでだ?」
「だって、ツインベッドじゃできないじゃない」
「何が?」
「えっち」
わざと言っている、「えっち」の発音がいやらしい。そりゃ、意識するけど、別にツインベッドでもできるだろうに。牽制してきているのか。
「う~ん。今のセリフもう一度」
「えっち。・・・って、あんたねぇ・・・」
「いやいや、お前がふってきた話題だからな」
「お泊りデートはその度に考えちゃうのよね」
「そりゃ、そうだろうな・・・」
「夏コミュの時は忙しいし、疲れてしまってそれどころじゃなかったけど」
「けっこう優先度は高いと思うけどな・・・」
「そんなのあたしに言わないでよ。肝心なところでヘタレるあんたが悪いんでしょ」
「そうだな」
「今日はゆっくりだし、夜も長いし、ちゃんとご飯食べれば、できると思ったのに」
「思ったのになんだよ」
「ツインベッドじゃできないじゃない」
「わざとだろ」
英梨々がおかしそうに笑っている。しかしまぁ、どうなんだろう。ダブルベッドならできるのか?この環境はロマンチックだとは思うけれど、なんか監視されているような気がしなくもない。カメラはないが。カーテンが閉まるとはいえ、ガラス面が多いからだろうか。
雑誌を読みながらのんびりと過ごし、窓の外が暗くなってきたので、また先頭車両まで移動して夕日を見つけに行った。だいぶ景観が変わってきた。一面に田園風景などが広がっているし、遠くに山脈も見えた。俺らは左側をみて夕日を探したが、太陽はすでに山の中に隠れていた。ただ、真っ赤な夕焼けが田園を染めて綺麗で、英梨々はスマホで写真を撮っていた。
そこで夜まで待てずにキスをした。
※ ※ ※
夕食の時間になり俺と英梨々は食堂車に移動した。豪華な造りの高級なレストランだ。
「あらやだ。美味しいわね」
「ん?どういうこと?」
おすすめのコースを頼んだ。英梨々は魚で、俺は肉をメインにした。酒は飲めないが、マスカットの炭酸ジュースがあったのでそれを飲んでいる。シャンパングラスにはいっていて雰囲気が出る。
俺はずっと美味しく食べていたが、英梨々は半信半疑で食べていた。パンフレットには☆付きレストランの方が監修をしていることが謳われていた。普通の人なら期待しそうなものだが、英梨々によると違った。
「食堂車の食事って温め直しが多いから、そこまで質は高くないのよね。お寿司なんかはパックにできているものをお皿に盛り直したりするし、冷凍食品も多用するし」
「へぇー。俺、食堂車初めてだけど、これ旨いぞ?」
「美味しいわよね」
英梨々はメインの白身魚をナイフとフォークを上手に使って食べる。その食事マナーにおかしい所はなく、育ちの良さがうかがえる。一方で俺としては箸が欲しいぐらいだ。
「あのね、フォークとナイフを持ったままのテーブルマナーってあるじゃない?」
「ああ、フォークの背にご飯のせてたべるやつだろ?」
「あれ、間違ってるのよ。ナイフなんて、切り終わったら、テーブルに置けばいいのよ。で、右手にフォークもって食べれば」
「そうなの?」
「何かで、日本独特のマナーに発展したのよね。特に年配の方なんて、そうやって食べるわよね。ずっとナイフをもったまま」
「じゃあ、俺もそうしよ」
メインの肉を適当な大きさにカットしたらナイフを置いて、俺はフォーク一本で食べた。確かに食べやすい。
英梨々はギャルソンを呼び、料理がおいしいことを褒めた。俺にはそんな上目線なことはできない。
「昔に比べて、各段と調理方法が進歩しているわよね?」
「はい。一番の理由は火を使わなくなったことです。以前は火を使っても弱火まででしたので、料理できるものが限られていました」
「それで?」
「今はぜんぶ電気で作っておりますので、普通の厨房と変わらないのです」
「ああ、なるほど。ほんと、美味しかったわ。シェフによろしく伝えておいて」
「かしこまりました」
ギャルソンが下がっていった。俺としては英梨々が大人と対等に話をしていることに驚いた。
「なんかすげぇな」
「何がよ」
「いや、会話の内容がさ。普通はおいしいって伝えるぐらいだろ」
「そう?でも、意見なんてたくさん言った方がいいのよ。悪い所は遠慮なくダメ出ししたほうが改善できるじゃないの」
「そりゃ、そうだがな」
「でもほんと、各段の進歩よね」
「そっか。良かったな」
俺としては正直そこまでわからない。だいたい鹿肉が本来どんな味なのか知らないのだ。「まぁ、こういう味なのかな?」という感想しかできない。ややこしいメニューもよくわかない。お茶碗にご飯を盛って、その上に肉をのせてガツガツ食べたかった。
デザートは選べた。ここまで食事が進むと、お腹が膨れてしまってデザートを食べられなくなる人もいる。そういう人はソルベを少量食べるといいらしい。俺らみたいに若くてまだ食べられる人は、ケーキとフルーツの盛り合わせが選べた。飲物はアイスティーにした。
運ばれてきたデザートは綺麗に装飾された皿に盛り付けてあって、いわゆるインスタ映えしそうだった。細いチョコレートや飴細工で彩られている。
英梨々はデザートナイフで適当にケーキをカットしてから、フォークを持ち替えて食べ始めた。俺もマネをする。フルーツはどれも鮮度もよく甘い。何もいれないアイスティーがよく合う。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「いやいや、英梨々。これは美味しかったよ。夜景も綺麗だしな」
「そうね。期待以上だったわ」
「食器も凝ってるよな」
「それ、車内の売店で買えるわよ」
「そうなの?」
「ちゃんと銘入りの逸品物なのよね。風合いがあったでしょ」
「いい食器だなぁと思ったけど、そうなんだ・・・」
「手抜きがないのね。食事はほんと驚きだったわ」
「ほんとに期待してなかったんだな・・・」
窓からは見える景色はすっかり夕闇に沈んでいて、所々、民家の明かりが見えるだけになっていた。ずいぶんとゆっくりと食事をしたようだ。
いい気分で部屋に戻る。
次は風呂だな。総ヒノキ風呂で豪華なのだ。外をみることもできる。来た時から楽しみにしていた。風呂を楽しみにするとか、俺ってけっこうジジ臭いだろうか。
「倫也、先でいいわよ」
「えっ、そう?お前先でもいいぞ」
「別に譲らなくていいわよ。あと、そういう時は『一緒に入らないか。ハァハァ』って言うべきでしょ」
「おう・・・そうだな。余裕なくてごめん」
「余裕の問題ないのかしら?」
「じゃ、そういうわけで、俺からいってくるわ」
「誘わないのね」
やれやれ、英梨々のボケを無視して、俺は風呂場に向かった。
ヒノキ風呂は香りもよく気持ちがよかった。
前振りもあったし、英梨々がもしかして水着でも着て入ってくるかと心配したが自重したようだ。
パジャマは浴衣だ。すべて新品なのがわかる。
「出たぞ~」
「は~い」 英梨々はベッドでスマホをいじっている。
「風呂に蓋ないぞ」
「は~い」
「早くしないと冷めるぞ」
「は~い」
「返事はいいから早くはいれ」
「は~い」
俺はペットボトルの水を飲む。英梨々はベッドから動く気配がない。
「おい」
「もう、うるさいわね。あんたパパじゃないだから」
「じゃあ、もう好きにしろよ」
俺はベッドに倒れ込んだ。フカフカの良いベッドだった。俺は少しの間、目を瞑った。静かにしていると、車両の走る音が聴こえてきて、電車が揺れているのが分かった。ヒノキの香りがまだ鼻に残っている気がする。アクビを1つした。
21時を回っている。寝るにはまだまだ早いが、窓の外の暗さを見ていたせいか、いつもより眠い。
少しの間うとうとしていたようだ。部屋は薄暗くなっている。起き上がってみたが英梨々はベッドにいない。風呂に入っているのだろう。立ち上がって、バスルームの前を通ると、ドライヤーの音がする。
俺はそのまま、後方のドアから外に出てみた。線路は数メートル先から闇に飲まれて消えていく。民家もだいぶ少なくなってきて、遠くの景色はほとんど何も見えない。南の夜空が見えて射手座が正面にあった。アルタイルは見えるが夏の大三角形は全部見えない。
夜風が心地よく吹いている。
「なに物思いにふけているのよ」
「おっ、出たか」
「いい湯だったわね」
「ああ、やっぱりヒノキ風呂はテンションあがるよな」
「うん、そうね」
英梨々も出てきて欄干につかまった。夜風で金色髪が後ろになびいていく。シャンプーの香りがあたりに漂う。
「何か見えるのかしら?」
「星座ぐらいだな」
「何座?」
「射手座」
「アイオリア」
「アイオロスの方だよ」
「どれ」
「あの辺」
「ぜんぜんわかんないわね」
「あれが頭で、あの辺が足」
「ふーん。倫也には馬人間にみえるの?」
「馬人間って・・・ケンタウロスな。ケイローン」
「ケイローン?」
「射手座の神様の名前」
「倫也、そんなスマホみながら無理しなくていいわよ」
「見てないだろ・・・」
「ふーん」
俺は英梨々の後ろに立って、抱きしめた。髪がたなびいて邪魔なので、英梨々は髪をまとめ着ている浴衣の中にしまった。浴衣白地に青い格子模様で清潔感のあるシンプルなデザインだ。
ただ英梨々はきっちりとは着ていなくて、どこか着崩している。サイズがでかいのかもしれない。左の肩が見えそうだった。そのせいでうなじのラインが綺麗で艶めかしい。
俺は後ろのから首元にキスをした。細い首は、暗い夜には白く光って妖しくみえた。
「んっ・・・」と英梨々が、少しえっちぃ声を漏らした。
「もう、倫也、そういうのはダメ」
俺はこっそり抱きしめていた手を上にして、胸に当てた。英梨々は何も文句を言わない。柔らかい。そして、こいつは・・・
「寝るときは下着つけないんだっけか」
「そうよ。でも下はちゃんと履いてるわよ?」
「下まで履かなかったら変態だろ」
「でも、本来の浴衣は履かないのよね」
「さぁ・・・」
それから、するすると浴衣の隙間から右手を英梨々の胸に滑り込ませた。生のおっぱいが右手に触れる。
「倫也?調子に・・・あんっ」
俺は我慢できずに、すべすべの肌と柔らかさを手のひらで堪能しつつ、指でつまんでしまった。それは小さな突起で、やっぱり思ったよりもずっと柔らかった。
ガブッ
と音が聴こえてきそうというか、「がぶっ」と英梨々が発音して、俺に右腕を軽く噛んだ。俺は諦めて右手を撤退させた。
それでも、英梨々を抱きしめたまま、射手座にかかる薄い雲をぼんやりと眺めていた。
(了)
R17,5ぐらいで書きたい。