誘に導かれしモノは
疾風に攫われ、その風が闇の化身と知る
贄は避けられぬ闇に覆われしまま
生果てるまで吸い尽くされ
給仕は只管に主への緑酒を捧げ続ける
贅を尽くし満を持して、闇は月光の下、姿を現す……!
◆◆◆◆◆◆
大地震から立ち直り、逃げ出したルナガロンを追った俺たちは、
「見付けた!」「今度は逃がさない!」「ぶちのめすわよ!」
『ヴォオオオオオオン!』
谷間の底道という狭過ぎるにも程がある「エリア6」でセカンド・コンタクトを果たした。先程と同様、ルナガロンが接敵と同時に氷衣状態に移行する。俺たちを完全に敵と見做したのだろう。それもかなり嫌な類として。罠に嵌めて袋叩きにして来るもんね。
しかし、既に嵌めた後である為、さっきよりも素早く抜け出すだろう。モンスターには耐性って物があるからな。使えば使う程に克服され、最後はガチンコバトルをするしかなくなるのが、モンハンというゲームである。
だが、ここはゲームの舞台ではなく現実の狩場、負ければ死ぬコロシアムだ。さっきはお互いに運良く死ななかったが、今回はそうもいくまい。俺たちは何処までもルナガロンを追って行くし、ルナガロンもそれを本能的に分かっている。
だからこそ、決着を付けよう。
『クォオオオオッ!』
先制攻撃はルナガロン。冷気を放ちながら高速で駆け巡り、こちらを翻弄しつつ氷属性やられをばら撒こうとする。ゴキブリみたいにカサカサ動くなや。
「ハッ!」「次は無いわ!」
しかし、軌道自体は直線的なので、ザギもルーチカもあっさりと避けた。俺もナッシュの頑張りでどうにか被弾せずに済んでいる。頼むから、そろそろ効いてくれ、俺の痛み止め~!
『グヴォオオオオッ!』
だが、ルナガロンはどうにも止まらない~♪
高速移動の後、身を翻しながら宙へ躍り出たと思ったら、上から氷のガスをカーテンの如く降らせてきて、着地と同時に鈎爪を貫手のように突き出し、それさえ避けられ背後を取られたと認識した途端、何と回し蹴りで2人を薙ぎ払い、最後に5連爪の大技を繰り出して来た。
流石は王域三公、さっきまでの負け犬っぷりが嘘のようである。牙竜種唯一の“二足歩行形態”は伊達じゃないな。バランスは悪いが、前脚の自由度が上がり、蹴り技も放てるなど、技のレパートリーは牙竜種随一であろう。
「くっ……!」
チッ、ルーチカがまた氷属性やられになったな。
ヘビィボウガンは攻撃力こそあるけど、棒立ちに近い状態だからな。必然的に被弾率は高いし、ランス系統のような防御力も無いから力尽きる可能性も大きくなる。
なので、敵の攻撃を先読みして、的確なタイミングで動かねばならないのだが……ルーチカにとってルナガロンは初見も同然なので、読める訳が無い。今は必死に身体で覚えている最中だろう。
だが、安心しろ。今解除してやるからな。離れた場所でウチケシの実を食べるだけの簡単なお仕事です。
『グルルル……クォオオオオッ!』「うぉっ!?」
クソッ、流石にそう上手くは行かないか。やっぱり、モンスターにも分かるんだろうね。誰が1番弱っているのかを。チクショウ、月に1度の物さえ来なければなぁ……。
「させん! バルス!」『キャイン!?』
しかし、そこでザギの閃光玉が投入され、ルナガロンの動きを止める。やっぱり頼りになるねぇ、彼。
『グヴォオオオオッ!』
ただ、牙竜種や牙獣種は目が眩むと暴れ出すので、一時の攻撃キャンセルを加味しても、追撃の機会が潰され易いのは結構痛い。罠に嵌めてやりたいが、こうもルンルナガロ~ンされちゃあな。
「お座り!」『ガヴォッ!?』
だが、ザギは翔蟲で宙へ舞い上がりながら、暴れるルナガロンの攻撃の隙間を絶妙に縫って、直接下に落とし穴を打ち込むという、とんでもない神業を成した。そんな真似、ゲームでも出来ねぇよ……。
「今だ、今度こそ仕留めるぞ!」「イエッサーッ!」「……流石だ、猛き焔!」
そして、動きが止まればこっちの物。俺も頑張って参加し、ルナガロンの体力を一気に捕獲ラインまで持って行く。
『獲物に弱りが見えるみゃー!』
「ハァッ! トゥッ!」
食らえ、捕獲用麻酔玉、ニレンダァッ!
『……ッ、……zzzZZZZZ』
よしよし、何とか捕獲出来たな。たぶん本人も暴れたくて暴れてた訳じゃないだろうから、鎮静化した上で逃してやろう。
「おっほぅ、素晴スィー!」
と、隠れて見ていたらしい、バハリが運搬部隊を引き連れて現れた。
「少しくらい待てないのか」
せめて、捕獲成功の信号弾が見えるまでは待っておけよ。
「君たちの腕前は信用してるよ~? だけど、家宝をただ寝て待つってのもね。それに……」
「それに?」
「何処かの誰かさんが辛そうだったからね。報連相は大事だよ、フィオレーネ?」
「………………」
こいつに真面な事を言われるとは。
しかし、彼の言い分は正しいので、今回ばかりは黙っておく。事実、此度の狩場で俺は完全な足手纏いだったからね。ルーチカよりは冷静だった自信はあるけど。
「……任せる」
正直、もうキツい。立っているだけで貧血を起こす程度にはヤバいです。早く帰って、お風呂入って寝なきゃ……。
――――――ゾクリ。
「………………!?」
唐突に、嫌な予感がした。
時刻はもう夜。紅い月が爛々と輝く、城塞高地の夜見なる姿が顕現する時間だ。
さらに、予感に従い見上げれば、蚊柱の如く低空を舞い踊る、奇怪な生物の群れが。フルフル亜種の幼体に金魚の鰭を思わせる翅が生えた、異形の生命体――――――キュリアの大群である。
奴らが居るという事はつまり、
「バハリ! 調査は中断だ!」
「えっ、何で!?」
「中断だ! 今すぐ引き上げろ!」「……あれは!」「まさか……!」
ザギとルーチカも気が付いたか。
そう、使い魔たるキュリアが渦を巻いているという事は、
「強い憎悪を感じる……上だ!」
『カォオオオオオオォォ……!』
やはり来たか、爵銀龍「メル・ゼナ」!
典型的なドス古龍の骨格を持つ、イヴェルカーナ型の大型古龍で、全身が光沢を帯びた白銀の甲殻で覆われ、角や爪などの突起物は黒み掛かった金色に染まっている。全体的に華奢で鋭角なデザインであり、血を被ったような真紅に染まる首元の体毛や翼膜も合わさって、見る者に高貴ではあるが狂気染みた印象も与える、独特な雰囲気を纏っている。
何と言うか、ドラキュラがドラゴンの形を成したかのような古龍である。実際、「ドラキュラ」は「龍の息子」って意味だしね。実に厨二心を擽るデザインだ。とてもカッコいい。
だが、見惚れている場合ではない。現れた場所、タイミング共に最悪だ。バハリたちも急いではいるが、如何せん時間が足りない。逃げ切るのは不可能だろう。
これはもう、身体の具合がどうこうなんて、言ってられんな。
「んんっ……バハリたちを頼む!」「フィオレーネ!?」「フィオレーネさん!?」
俺は持ち込んでいた鬼人薬G、硬化薬G、強走薬を一気にがぶ飲みして、ステータスを爆上げした。絶対に健康には良くないけど、事ここに至っては仕方ないだろう。体験版で何度もぶっ殺された身としては、ドーピングも無しに挑んで勝てる気はしない。
そもそも、体調不良で弱った獲物を見逃す程、メル・ゼナは高潔ではないだろう。彼は城塞高地の支配者であり、闇の化身なのだから。
『クァォオォォ……』
と、メル・ゼナが捕獲されたルナガロンに、無数のキュリアを差し向けた。やはり、そっちから行くよな!
「ハァアアアアアッ!」
『カァオオオオオッ!』
このままではバハリたちが巻き添えになるので、俺は囮を覚悟で誰よりも先にメル・ゼナに挑んだ。ザギもルーチカも狩りで疲弊しているし、ここは俺が身体を張るしかないだろう。
なぁに、死ぬ気は更々無い。バハリたちが避難する時間を稼ぐだけだ。数て交えたら、直ぐに俺も撤退する。
それに俺だけは、今回が初見ではない。さっきも言ったが、体験版で何度も何度も挑戦している、謂わば好敵手である。行動パターンも予備動作も、ほぼ把握している。「血氣活性状態」に移行さえさせなければ、充分に生き残れるだろう。
『コァアアアアッ!』
おっと、さっそく尻尾の貫通攻撃か。多段ヒットが痛い上に“劫血やられ”になってしまう技だが、形態変化前は1回しかして来ないし、何と言っても直線的なので、回避に徹すれば問題なく躱せる。
『ギキキキキ……「ファルコン・パァンチッ!」コァァッ!?』
続く翼爪の打ち付け攻撃も、滅・昇竜撃でカウンターし、ついでに顎も打ち上げてやる。
どうだ、この野郎。お前の攻撃は、完璧に見切ってるんだよ!
『コァアアアアアアアン!』
キュリア塊の3連弾なんぞ、無駄無駄無駄ァッ!
『キュリリリリ……カォオオッ!』「風車ァッ!」
尻尾の2回転薙ぎ払いはもっと無駄ァッ!
『ギィグヴヴヴヴヴゥッ!』
おーっと、怒り状態になったか。ザギやルーチカが必死にキュリアを追い払ってるんだから、頼むから早く逃げてくれ、バハリさんよぉ!
『クォルルルルルル……!』
おやおや、翼で地面を叩き割る技か。だけど、タイミングさえ合えば、バクステだけで充分だぜ。
『コカカカカカッ!』
次は……また尻尾貫通撃か。また滅・昇竜撃してやんよ!
――――――グラグラグラグラグラッ!
「なっ!?」
このタイミングで、また地震だと!?
マズい、体勢が崩れて――――――、
「……がはっ!?」
しまった、腹を抉られた。力が吸い取られて、意識が……!
『………………』
しかし、メル・ゼナはそれ以上の追撃は成さず、何故かメインキャンプのある方角を数舜だけ見据えると、そのまま何処かへと飛び去って行った。
助かった、のか?
「ぐふぅっ……!」
いや、これは全然助かってない。劫血やられこそ解除されたけど、それ以前に腹を突き破られてるし、出血多量で普通に死にそうだ。
「フィオレーネ!」「フィオレーネさん!」「おい、早く搬送しろ! ここじゃどうにもならん!」
薄れ行く意識の中で、皆が慌てているのが見える。ああ、これはマジでマズいかも。
「あ……」
そして、船に運び込まれた所で、俺は完全に意識を失った。
◆メル・ゼナ
「王域三公」の一柱にして、頂点に立つ古龍種。別名は「爵銀龍」で、「朱に染むる夜宴」の異名を持つ。
所謂「ドス古龍」に属する種族であり、特に氷龍「イヴェルカーナ」とシルエットがそっくりで、近縁種の可能性が高い。全身が名前取りに白銀の甲殻で覆われ、血に染まったかのような真紅の体毛と翼膜を持つ。その姿は、まさにドラゴン型の吸血鬼。
城塞高地を中心とした広い縄張りを持つ強大な古龍で、高いプライドと残虐性を併せ持った、魔王と呼ぶに相応しい性格をしている。華奢に見合わぬ怪力を誇り、翼の一撃で地面を抉ったり、振るう攻撃に衝撃波が発生する等、掠るだけでも危険だが、「劫血やられ」という、こちらにメリットが殆どない「狂竜化」染みた絡め手も使ってくる、厄介な存在。ただし後隙も多いので、慣れれば結構戦い易い。
噛生虫「キュリア」という赤いフルフルベビーに翅を生やした見た目の気色悪い生物と共生しており、彼らを使い魔の如くモンスターに差し向け精気を集めさせる代わりに、自らの力も分け与える、ウィンウィンな関係を結んでいるが、これはつい50年前に手に入れたばかりの物であり、本来の宿主は別に居るようだが……?