卵の運搬というか蟹三昧のクエストをクリアして、エルガドに帰還した次の日の事。
「実は、まだ依頼クエストが残っててね……」
バツが悪そうに、ザギが頬を掻いた。
「あのなぁ……」
依頼ってのは、熟す事に意味があるの。頼まれると断れない性格なのは何となく分かるけど、消化も出来ないのにポンポン安請け合いするんじゃねぇよ。
つーか、後どれくらい残ってるんだよ、依頼クエスト。
「――――――えーっと、こんな感じで……」
そう言って、依頼クエストのリストアップを見せて来るザギ。変な所は細かいんだな。偶に居るよ、そういうタイプの人間。
「どれどれ?」
……で、試しに目を通して見た訳だが、
●「上質な竜の卵2個の納品」
●「ガランゴルムが付着物を付ける瞬間の撮影」
●「ウミウシボウズの写真を撮影」
●「特撰キノコ×2の納品」
●「絶品タケノコ1個の納品」
●「飴色のコーパル2個の納品」
●「ネオゴッドカブト2匹の納品」
●「悠久燃石炭3個の納品」
●「ビスマス七光石3個の納品」
●「アシストのオトモとMRクエストを3回達成」
●「コレクトのオトモとMRクエストを3回達成」
●「ボマーのオトモとMRクエストを3回達成」
●「ファイトのオトモとMRクエストを3回達成」
●「オトモ3匹のスキル記憶力を8にする」
●「城塞高地でオルギィ8頭の討伐」
いやいやいや、こいつサボり過ぎだろ。オトモアイルー系は仕方ないとして、特産品の納品くらいはしておけ。絶対怒ってるだろ、依頼者たち。またサブキャン解放してないし。
――――――というか、ちょっと待て。“上質な竜の卵”って、マスターランクですらないのもあるんだが!?
これ絶対に向こうも忘れてるだろ。この依頼は諦めよう。面倒臭いし。
とりあえず、城塞高地でサブキャンプを開きつつ、ガランゴルムの雄姿を撮影するか。メル・ゼナの動向調査も兼ねられるし。
「では、城塞高地に向かうとしよう。特産品は自分で行け」
「はい……」
「……しかし、ただ向かうというのも芸が無いな。オトモを雇おう」
そう言えば俺、オトモアイルー雇ってないから、この機会に1匹行っとく?
「そういう事なら、丁度イオリくんが遊びに来てるから、見繕って貰おうか」
「おお、それは有難い」
エルガドのオトモ広場雇用窓口にはアイルーのナギが出張しているが、まさか元締めであるイオリくんが来ているとはな。有難くお世話になるとしよう。彼の眼力なら間違いはあるまい。
「あ、ザギさん、お久し振りですね!」
「うん、久し振り。背、伸びたかい?」
「……子供扱いしないで下さいよー! あっ、フィオレーネさんもどうも」
「ああ、里では世話になったな。……ところで、ちょっとオトモを雇いたいのだが、ボマー系のアイルーは居ないだろうか?」
という事で、オトモ広場に行ったら、丁度ナギとイオリくんがお話していたので、雇用するオトモアイルーについて相談してみる。
「ええ、居ますよ! とても良い子がね! おーい!」『………………』
そして、出て来たのは、青白い毛に蒼い髪の生えた、ツキノの色違いのような容姿をした雌のアイルーだった。儚い雪の結晶を思わせる冷たくも美しい雰囲気に加え、何処ぞの黒竜の如く真紅の瞳が非常にミステリアスである。
『………………』
――――――で、何も喋ってくれないんですが。貴女のお名前なんてーの?
「ああ、その子は喋れないんですよ」
「そうなのか」
なら仕方ない……で済ませて良いのか?
背中を預ける相棒が何も言ってくれないってのは、どうなのかしら?
「だけど、実力は折り紙付きですよ! 是非とも、その子にも広い世界を見せてあげて下さい!」
「フム……」
何か問題児を押し付けられたような気がしなくも無いが、戦いの場で役に立ってくれるなら、別に喋れなくても良いか。“怪我をしたから”とか“生まれつき”だとか言わない辺り、おそらく心因性の物だろう。
ならば、イオリくんの言う通り、オトモとして広い世界を一緒に出歩いて、心を開いてくれるのを待つ方が、この子の為かもしれない。
それで、結局この子の名前は何なのかね?
「「メラグ」ちゃんです。星にちなんだ名前なんですよ!」
「そうか、分かった。では、これから宜しく頼む、メラグ」
『………………』
一応、頷いてはくれるのね。あくまで喋れないだけで、感情まで死んだりはしていないらしい。これなら、変に心配しなくても大丈夫そうだな。こういう手合いは、あんまり構い過ぎても良くないからね。
「それでは行こうか、ザギ」
「了解した」
そんなこんなで、俺たちは依頼サイドクエストを消化する為、城塞高地へ向かうのであった。
◆◆◆◆◆◆
さてさて、割と久々に来ましたよ、城塞高地。相も変わらずゴーストタウンって感じだねぇ。何か化けて出て来そう……と言いたい所だが、本当に化け物が現れるから困る。
しかし、今回の目的はオルギィの駆除とガランゴルムの撮影会。決して無理をする必要は無い。
……でもなぁ、撮るのは俺なんだよねぇ。
しかも、この依頼はガランゴルムの形態変化を撮影する事。
つまり、相手が怒るまで刺激して、その様を写真に収めるのだ。これ以上の煽りがあるだろうか。縦しんば撮影に成功しても、生きて戻れないような気がする。
「大丈夫、貴女は死にません! オレが守るっス!」
「ところでザギ、やっぱり今回も私が撮影なのか?」
「アレェーッ!? しっかりきっぱり無視されたぁ!?」
煩いなぁ、お前は。
この煩い奴はジェイくん。前にもチラッと紹介した、ルーチカの隣に居た赤髪の新米騎士である。若干チャラいというか、何処となく砕けないダイヤモンド野郎と雰囲気が似ている。お調子者な所が特にね。
此度は写真撮影が主体なので、突っ込んでばかりのドスファンゴ・ルーチカではなく、そこそこ色々と立ち回れるジェイに手伝って貰う事にしたのだ。
……頼むぞ、ジェイ。このクエストの可否は半分くらい、お前の撮影技術に掛かっている。失敗したら許さんからな。
「任せて下さいッス! オレこう見えて、結構撮るの上手いんですよ!」
へぇ、それは知らなかった。記憶の中のフィオレーネさんも知らないみたいだけど、本人が言うのだから、そうなのだろう。気にしたら負けである。
「では、行こうか。メラグたちも」『シャークッ!』『ヨカレトオモッテ!』『………………』
うーん、こうして見ると、ナッシュ(オトモガルク)にベクター(フクズク)とメラグ(オトモアイルー)って、名前が完全にバリアンだな。じゃあ、俺はドン・サウザンドか?
名前的に黒幕っぽいのはザギの方なんだけど……。
――――――って、アホな事を言ってないで、写真撮りに行くぞ。ついでにキャンプも解放だ。
『ギャンギャン!』『プギャーッ!』『ワッショイワッショイ!』
一先ず、狡狗竜「オルギィ」をサクサクと狩る。コイツに関しては、特筆すべき事は無い。親玉の居ない狗竜系の小型モンスターなんぞ、ただの素材よ。邪魔だから、死ねぇっ!
これでサブキャンプの解放はOK。前に探索した感じ、1ヶ所くらいしか無さそうだから、この依頼は完遂だな。
「よし、次はガランゴルムだな」
だが、それが1番の問題である。属性纏い状態になったガランゴルムの腕を撮れって。我らがエルガドの事ながら、頭がおかしいんじゃなかろうか。何でハンターに戦場カメラマンをさせるんだよ。
しかし、やらねばならない。大翔蟲を貰う為だ。ザギがな!
「見付けた」
おっと、早速発見。今回の個体はキュリアに襲われていないのか、呑気にお昼寝していらっしゃる。
だが、暴れて貰わないと剛纏化をしないから、可哀想だが叩き起こす事になる。このマシマシな爆弾で、目覚めよ、ゴリラ!
『ケェエエエエエエン!』
ボールの棒のような雄叫びを上げて、覚醒するガランゴルム。寝ている最中に爆破されたからか、即行で怒り狂い、腕に属性を纏い始める。
しかし、俺の立ち位置では上手く撮れそうもない。というか、ちょっと滅・昇竜撃の打ち方をミスって自爆しちゃった。テヘペロ♪
という事で、頼むぞジェイ!
「任せて下さイBAIMAAAAAAAAN!?」『プスプス』
ランゴスタァアアアアアッ!
『ジャギィッ!』「ありがとうございます!」
麻痺で動けぬまま殴り飛ばされる、哀れな男、ジェイ。ウツシ教官と馬が合う時点で嫌な予感はしていたが、お前もか。永久に眠れ、豚野郎。
仕方ない、ヘイトをこっちに向けて、今度は俺が……いや、待て。
「ザギ、こいつの纏った部分を壊せ! 最初からやり直しだ!」
「そんなぁ……」
そんなもバナナもあるか。元はと言えば、サボっていたお前が悪いんだよ!
「殺すつもりは無いが、とりあえす死ねぇ!」「語彙が死んでる!?」
『ラォオゥ!? ……オンドリャアアアアッ!』
自分でもよく分からない事を言いながら、ザギと共にガランゴルムの腕を集中攻撃し、遂に次なるシャッターチャンスを掴み取る。
えっと、カメラカメラカメラ! 早くしろ、俺のポーチ型四次元ポケット!
「よし! ハイ、チーズ!」
カシャっとな!
『サウザァアアアアアア!』
「ボクドラエェモォオン!」
「えっ、ボクドラエモン?」
しまった、写真は撮れたが、そのままぶん殴られたせいで意味不明な事を叫んでしまった。
クソッ、頑張れ、俺!
俺はやれば出来る子なんだ!
どんなに殴られても、長男でも無いけど、我慢は出来る!
自分を褒めろ、鼓舞していけ!
……つーか、よく考えると俺の犠牲は無駄じゃなかったし、写真が撮れたのなら
「さらばだ、ガランゴルム!」
『トキィイイイイイイイイ!』
「デスヨネェエエエエエッ!」
まぁ、散々コケにされたガランゴルムが許してくれる訳も無く、もう1度殴り飛ばされる形で、俺たちはキャンプに戻る破目になったのであった。
……もう2度とやらねぇ!
◆オルギィ
「狡狗竜」の別名を持つ、狗竜系の小型モンスター。
弱った獲物を集団で襲ったり、死体を漁ったりと、所謂「
ゴブリンのような容姿に違わず悪戯好きで、見た目はアレだが無垢で大人しいガランゴルムに喧嘩を売っては、ボコボコに返り討ちにされるという、本当に狡猾なのか怪しい場面も多々見受けられるが、気にしたら負けだろう。
ちなみに、“設定だけは存在する”みたいな状態になったドスジャギィと違い、オルギィにはそれらしいドス個体が最初から存在しない。今更考えるのも面倒だったんだろうか?