それは、突然の知らせだった。
「何ッ、王域の村々が襲われているだと!?」
「ハイ! 本日未明、突如として爵銀龍メル・ゼナが飛来し、各村を襲撃している模様! 既に被害が続出し、犠牲者も多数出ています! 今すぐ救援と討伐を要請するとの事です!」
王都周辺には小さな村が多数あり、各村で生活の基盤となる農作物や燃料の採掘を担っている。そこを何故かメル・ゼナが襲撃した。
理由は全く分からないが、放っておく訳にもいかない。
「……分かった! 頼むぞ、ザギ!」
「了解した!」
おう、是非とも前回までのヒモなお前のイメージを払拭してくれ!
「ルーチカ、ジェイ、お前たちも来い!」
「了解ッス!」「……承知しました」
「ガレアス提督は陣頭指揮をお願いします!」
「ウム、後ろは任せよ」
「はい! 王国騎士筆頭フィオレーネ、行って参ります!」
そして、俺たちは動き出す。
「いよいよ真面な初陣だ。頼むぞ、お前たち!」『サメェッ!』『シュゲキノシンジツ!』『………………』
もちろん、オトモたちも一緒だ。
さらに、今回はチームとして初の実戦となる。前回は撮影会だったからな。今度こそ見せて貰うぞ、メラグの実力とやらを。
さぁ、一狩り行こうか!
◆◆◆◆◆◆
――――――で、とりあえず最初に襲撃を受けた村に辿り着いたのだが、
「これは酷いな……」
完全に壊滅していた。生存者は1人も居ないし、無事な建物も1つとしてない。完璧に破壊し尽くされている。僅かに残った燃えカスが、元は一体何だったのかすら分からなかった。
「急ごう」
「良いのか……?」
「……時間が無い」
僅かな希望に縋れる程、騎士家業は暇じゃないのよ。ここで夢現になるよりかは、危急の村へ直進した方が、結果的には犠牲は少なくなる。命の天秤は、死者には適用されないのである。
という事で、道すがら目に入る“村だったナニカ”を無視して、現在進行形で火の手が上がっている農村を目指して突き進む。歯をギリギリと食いしばり、掌に血を滲ませながら。
そして、ようやく村へ到着した俺たちが見たのは、
『グヴヴゥゥ……』「かはっ……!」
何もかもが燃え盛る煉獄の中で、妙齢の女性を口に咥えて精気を啜る、メル・ゼナの姿であった。これまで多くの命を食らって来たからか、既に血氣活性状態になっている。
「……貴様ぁっ!」
『コァアアアッ!』
俺が怒り、向こうも怒る。
この村については、やはりフィオレーネさんの記憶の中にしかないが、新米時代にモンスターの暴走から守ろうとして守り切れず、大きな被害を出してしまった、因縁の場所だ。
そんな所で村人を蹂躙し、目の前で精気を啜るなど、フィオレーネさんじゃなくても怒るぞ、メル・ゼナよ。
だから、お前はここで逝け。今回は体調も万全……というか、逆に高揚しているので、以前のような不覚は取らないぞ。覚悟は良いか?
――――――俺は、出来てる!
『クヴォァアアッ!』
早速ブゥンと瞬間移動して来たか。相変わらず意味不明だな、その能力。
しかし、尻尾貫通二連撃は通じないぞ。最初は素直に避けて、2発目で滅・昇竜撃である。ガンガンと気持ちの良い音が鳴り響く。
『カァォオオオッ!』
次は龍属性のフカヒレウェーブか。ランダムに見えて実は「XX」みたいな軌道を描いているのは周知の事実。この攻撃の安全圏は右でも左も後ろでもない、お前の眼前だ。
「はぁああああっ!」
そして、がら空きの顔に滑り込みながら斬り上がり、次いで上からシールドバッシュを叩き込む。
『コァォォォ……!』
よし、ダウンしたな。メル・ゼナは細身だから、部位耐久値と気絶耐性が低い。だから、こうして何度か盾パンチを叩き込めば、割と早く気絶するのである。
「今だ、畳み掛け――――――」
『ゴリリリ!』『ヴォオオン!』
だが、一斉ラッシュを叩き込もうとした瞬間、ガランゴルムとルナガロンが現れ、ザギたちの行く手を阻む。メル・ゼナを助けに来たのではなく、纏わり付かれたキュリアにより暴走しているだけなのだろうが、こうもタイミングが良いと連携しているんじゃないかと思ってしまう。
ともかく、これで俺はメル・ゼナとタイマンで戦うしか無くなった。
『クォオオオッ!』
『………………!』『フカッ!』
……否、俺にはまだオトモたちが居る。気絶を脱したメル・ゼナが吐いた、地面を連続で爆破する龍属性ブレスを、ナッシュが護り番傘で防ぎ、その後ろからメラグが特大タル爆弾を投入する。
すぐさまメル・ゼナは追撃を仕掛けるが、ナッシュもメラグも素早く立ち退き、バチバチ爆弾コマと鉄蟲猟犬具の弾幕を置き土産として残していく。
とても初陣(前回を数えても2回目)とは思えない、素晴らしい連携攻撃だ。ベクターも上から信号を送って、鷹の目として大いに役立っている。最悪、俺が居なくても充分に戦える程のチームワークである。
どうだ、メル・ゼナ、俺を孤立させれば勝てると思うなよ!
『ギィヴヴヴヴヴァッ!』
業を煮やしたメル・ゼナが、憤怒の雄叫びを上げる。だから何だってんだぁっ!
「ファルコン・パァァァンチッ!」『グヴォオオッ!?』
それに合わせて、滅・昇竜撃で顎を撥ね上げてやんよぉ!
「せぁあああっ!」『グルルル……!』
さらに、怯んだ隙にジャストラッシュをぶち込む。よし、両前脚が破壊されたな。次はその喉ぶち壊して、2度と叫べぬようにしてやる!
――――――ドドドドドドドドッ!
「ぬっ!?」『………………!』『ワニィ!?』
また地震かよ。これもまたタイミングが良いな、メル・ゼナにとっては。
だけど、舐めるなよコラ。最高潮のこの俺が、地震如きで隙を晒すかぁ!
『ギィグヴヴヴッ!』
「てぁああああっ!」
メル・ゼナの尻尾突きを転がって躱し、その後の振り回しも風車で跳ね返す。お前の攻撃は完璧に見切ってるぜ、この野郎。もう諦めて、その命を散らせろ。
『………………』
……おい、何だ、その“何も分からぬ愚か者が”って顔は。
『クォォォォ……!』
そして、メル・ゼナは急に興醒めしたかのように飛翔し、そのまま何処かへと飛び去ってしまった。ガランゴルムとルナガロンもザギたちに撃退されている。
――――――とりあえず終わった、のか?
「いや……」
むしろ、ここからだな。
「生存者の救出に向かうぞ!」
「「「了解!」」」
◆◆◆◆◆◆
それからそれから。
「どうぞ、遠慮なく食べちゃって下さい、フィオレーネさん!」
事後処理を終わらせ、エルガドに戻って来た俺は、ジェイに滅茶苦茶うさ団子をご馳走されていた。どういう事なの?
「いやぁ、オレ、ガレアス提督に憧れて騎士になりましたけど、今回の1件でフィオレーネさんのファンになっちゃいましたよぉ!」
なるほど、ミーハーって奴か。だからって、うさ団子を50本も出すな。ヒノエさんやルーチカと一緒にするんじゃねぇよ。
「……だから、そう気を落とさないで下さい。ほら、せっかく貰った花束まで萎れちゃいますよ!」
「………………」
そう言われて、俺は団子の脇に目をやる。そこには、花束と呼ぶにはあまりにショボい、しかしどんな花束よりも重たい、3本の花があった。情熱よりも熱く、鮮血よりも赤い、綺麗な花だ。摘み取ってからも消える事のない甘い香りは、不思議と引き込まれるような魅力……というより、魔力がある。
このまだ名前も知らない花は、俺たちがメル・ゼナを撃退した村からの贈り物で、生き残りの女の子から貰った物である。
“たすけてくれて、ありがとう”
たどたどしくも、しっかりと意思の籠った感謝の言葉は、とても喜ばしく、同時に重たかった。フィオレーネさんなら分かるが、俺はそんな事をして貰えるような人間じゃないんだよ。
しかし、受け取ったからには大切にするし、今度こそは守り通してみせるさ。連絡用のフクズクを置いて来たしね。
「――――――そうだな。腹が減っては何とやらだし、ここは英気を養うとしよう」
「そう来なくっちゃ!」
何だかんだで良い子だねぇ、君も。普段の言動こそアレだけど、こういう気遣いも出来るし。別の機会があれば、今度は俺が奢ってあげよう。
ジェイのおかげで上手く切り替えられた俺は、出来立てのうさ団子を頬張った。
「……うぐっ!?」
だが、数本食べて、お茶を啜った所で、猛烈な腹痛に襲われ、椅子から転げ落ちてしまった。
「フィオレーネさん!?」「フィオレーネ!」
ジェイが抱き起し、チッチェ姫が駆け寄って来たが、それに応える余裕は全くない。何せ腹痛ばかりか、全身のありとあらゆる場所が痛み出し、呼吸する事さえままならなくなったからだ。
いや、おい、ちょっと待って。これだと俺、うさ団子で腹を下したか喉に詰まらせたせいで倒れたみたいじゃん。王国騎士筆頭が、そんな真似出来るかーい!
「かはっ……!」
しかし、俺の内なる願いも虚しく、フィオレーネさんの身体は、チッチェ姫の顔が真っ赤に染まる程の吐血を、断末魔の悲鳴として動かなくなり――――――、
そして、その日……俺は呆気なく死んだ。
◆ジェイ
新米の王国騎士にして、鍛えた肉体で全てを解決しようとする熱血馬鹿。考える事が苦手で、肉体の鍛錬を趣味とする、真正の体育会系である。
しかし、お調子者ではあるが何処か憎めない後輩タイプなので、そこまでウザくはない。暑苦しいけど。馬が合うのか、ウツシ教官と仲が良い模様だが、将来が心配で仕方ない。
武器としてはスラアクなどの大型近接武器を得意としており、盟勇として連れて行くとガンガン攻めてくれるが、何処ぞのドスファンゴ女と違って、適宜回復もしてくれる偉い子。
ちなみに、ガレアス提督に憧れているらしく、密かに髪型を揃えているようだが、初見さんは“「陽気な推薦組」の親戚じゃないの?”と思った人もそこそこ居るとか、居ないとか。