モンスターハンター:サンライズ・ブレイカー   作:ディヴァ子

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夜も遅いカラ、お眠リ~♪


悪夢の交響曲第7番「異世界より」

「お帰りなさい、フィオレーネ!」

 

 エルガドに帰還すると、チッチェ姫が満面の笑みで出迎えてくれた。

 

「はい、只今戻りました……」

「……どうかしたんですか? 浮かない顔をして」

「いえ、気になる事がありまして……」

 

 しかし、俺の顔は浮かない。当然だろう。俺の与り知らぬ所で“昏睡玉”なる謎アイテムが開発され、エルガド中に流布されていたのだから。これで出来損ないのポンコツならバハリの失敗作として片付けられそうだが、効果も覿面ときた。

 これは妖しい。事案である。正直、オロミドロ亜種の調査よりも、気になって仕方がなかった。どうせ後はバハリたちの仕事だし。

 だからこそ、確かめようと思う。昏睡玉の開発者とやらを。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「何? 昏睡玉の開発者を紹介して欲しいと?」

 

 という事で、騎士たちの睡眠の質に悩んでいた、特命騎士筆頭のセルバジーナさんにお尋ねしてみた。彼ならば何か知っているに違いない。

 

「……というか、知らなかったのですか?」

「ああ、全く以て知らなんな」

「えぇ、王国騎士筆頭なのに……」

「むしろ、報連相を徹底してほしい物なのだが」

「はぁ……まぁ、確かにそうですね……」

 

 納得行かんって顔してんな、この野郎。

 だが、ここで引き下がっては、それこそ筆頭騎士の名折れ。エルガド№2の立場を大いに利用させて貰うとも。

 

「昏睡玉の開発者は、「エンピール・M・トーマス」という研究者です。特に化学方面に秀でていて、蒸気機関にも詳しい、バハリ殿と並ぶ天才ですよ。ついでに凄腕のハンターでもあります」

「“トーマス”ねぇ……」

 

 機関車(トーマス)に睡眠属性……何だろう、嫌な予感しかしない。

 嫌な予感がする理由は分かっている。死の淵を彷徨っている時に見た、“あの夢”が原因だ。

 ここではない、何時かの世界。

 令和の日本によく似た、様々な漫画のキャラクターたちが現実の物として混在している、何処ぞの平行世界。

 そこには「鬼滅の刃」の登場人物も“転生者”として存在していて、上弦の陸や弐の生まれ変わりと出会い、突如として現れたモンハン世界の侵略者「ミラボレアス」を退ける為に共闘する、という荒唐無稽な内容である。

 しかし、夢とは思えないリアルを感じたし、もしかしたら魂だけが向こうに逝っていたのではないか、と今は思っている。

 だから、気になるのだ。

 

 エンピール・M・トーマス。

 

 こいつの正体は、もしや――――――、

 

「……それで、そのトーマスとやらは何処に居るんだ?」

「居住区の端っこで診療所を開いていますよ。不眠や悪夢に悩む騎士が世話になっています」

「そうか……」

 

 居場所は分かった。ならば、こちらも相応の準備をして挑むとしよう。彼が俺の思う奴だとしたら、初見殺しを仕掛けて来るだろうから、事前準備が欠かせない。

 

「宜しければ、案内致しましょうか?」

「よろしく頼むよ」

 

 そういう事になった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 ――――――で、騎士団員たちの居住区域をてくてくてふてふ歩く事、暫し。

 

「ここがそう……「トーマス診療所」です」

「診療所というより駅舎だな、これは……」

 

 ネコ式蒸気機関車&トロッコの最終点……つまりは駅舎と一体化する形で、診療所(それ)はあった。見た目が完全にナップフォード駅のミニチュア版なので、ますますトーマス味が掛かっている。

 この駅舎の、丁度裏手にある「トーマス診療所」に、俺はやって来ている。

 

「それでは、私はこれから任務があるので、これにて失礼」

「ああ、有難う」

 

 セルバジーナはここまで。これから先は、俺と“奴”との、2人きりの会話タイムである。

 

「失礼する」

『いらっしゃいませニャ~。受け付けはこちらですニャ~』

 

 とりあえず、先ずは戸口を叩いて、お邪魔しまーす。

 

「おや、これは珍しいお客さんが来ましたねぇ~」

 

 扉を潜り、フルフル装備の受付メラルー(アイルーに非ず)に通された先の、寒色系で纏められた診察室に、そいつは居た。

 ヤギのように横長の瞳と雪よりも白い肌を持つ、セミロングの男。一見すると女にも思える端正な美顔で、うっとりとした表情が似合いそうな、柔らかな雰囲気を纏っている。

 服装はバギィ一式で、若干黒味が強い。重ね着でもしているのだろう。それでも汗1つ掻いていない所を見るに、寒がりなのかもしれない。

 ……毛先と瞳の色が逆転しているなど、若干の違いはあるが、間違いなかろう。

 

「おい、こんな所で何をしているんだ、下弦の壱。何が目的なのか教えて貰おうか、下弦の壱。というか、きちんと自己紹介をしろ、下弦の壱」

「下弦の壱って連呼しないで貰えます?」

 

 うるせぇ。何処からどう見なくても、お前は下弦の壱「魘夢(えんむ)」なんだよ。

 上弦の鬼たちが転生する世界と繋がりがあるのなら、下弦の鬼がハンターをやっている世界があってもおかしくない。夢に見た風景が、そう物語っている。

 そもそも、俺自体が転生憑依者だからね。今更よ今更。

 

「というか、当然やって来て、どうしたんですか、一体? お疲れなら、睡眠導入剤を処方しますよ」

 

 この野郎、惚けやがって。そっちがその気なら、こっちも手段は選ばんぞ。

 

「黙れ下弦の壱。大人しく話さないと、上弦の陸と弐を呼び込むぞ」

「ゑっ!? 居るの!? ……あっ!」

 

 ほーれ、やっぱり上弦の鬼がトラウマになってるじゃねぇか。名前を出せば、絶対に反応すると思ったよ。無残様は使わない。逆に悦ばれるから。

 さぁ、言い逃れは出来ないぞ、トーマス!

 

「えい!」

「うぉ!?」

 

 こ、この野郎、昏睡玉を人間に向けて使いやがった!

 ね、眠く……、

 

「――――――ハァッ!」

 

 ならなぁーいッ!

 そう来るだろうと思って、睡眠耐性を付けておいたからなぁ!

 おら、往生せいやぁ!

 

「“お眠り~”♪」

「あっ……!」

 

 こ、このセリフはぁ~ん♪

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『そ~らを自由に飛びたいわ~♪』

『もう、とんでるのじゃ~♪』

『とっても大嫌い、鳴女もん~♪』

 

 姑獲鳥と朱紗丸と零余子が、空を自由に飛んでらっしゃる。

 ……うん、これは夢だなッ!

 

「フンッ!」

 

 という事で自刃タイム!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「――――――ハッ!」

「まったく、危ない事をするなぁ~」

 

 夢から覚めると、何故かトーマス野郎に取り押さえられていた。

 しかも、俺は自分の喉に剣を突き刺す寸前。彼が止めなければ、今頃はつまらねぇ死に方をしていたに違いない。伊之助に叱られちゃう!

 

「俺はもう、「鬼」じゃないんだよ。人間でもないけどね。だから、血鬼術なんて便利な物は使えない。今の俺に出来るのは、薬学と声色で眠りに誘う事ぐらいだよ」

 

 すると、無限列車マンが何か言い始めた。

 

「……信用出来ると思うか?」

 

 一先ず刃を納めなければ話にならないので、納刀しつつ耳栓を付けてから、対話に臨む。これなら言葉で惑わす事は出来ない。視線に関してはグラサンを掛けておけば大丈夫だろう。

 

「ガチガチだねぇ。だけど、今の俺に君をどうこうする気はないよ。これでも、エルガドの一員だからねぇ」

「………………」

「まぁ、信用してくれなくていいよ。俺は俺のしたい事をするだけだから」

 

 ……何か遣り辛いなぁ、こいつ。生まれ変わって、頭のネジでも外れたか?

 

「とりあえず、話だけは聞いてやる。判断はそれからだ。さぁ、洗い浚い話せ。さもないと滅・昇竜撃を食らわせる」

「高圧的な物言い。ま、別に構わないさ。それじゃあ、何から話そうかねぇ~?」

 

 そして、元下弦の壱で今は鬼でも人間でもない誰かさんが、滔々と語り出した。この世界における、己の半生を……。




◆エンピール・M・トーマス

 ある日、突然エルガドにやって来た、流離いの科学者。化学や薬学に精通しており、特に睡眠薬の調合が非常に上手い。その腕をセルバジーナに買われ、エルガド付きのカウンセラーとして滞在する事となる。人の寝顔を見るのが趣味。エルガドの皆からは「エンム」と綽名され、親しまれている。
 また、一流のハンターでもあり、バギィ装備に身を包み、何処かで拾ったバギィをオトモンにして居る。診療所の受付嬢兼オトモを務めるメラルーの名前は「ピエン」。
 ちなみに、彼は「鬼」でも「人間」でもなく、少々特殊な竜人族である。
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