とある村。
「やぁ、カルメンちゃん」
「こんにちは! おねーさん、きてくれたんだ!」
「ああ。漸く暇が出来たからな。それに、私は約束を破るような悪い大人ではないよ」
「そーなのかー」
「そーなのだー」
キャッキャと喜ぶカルメンちゃんに、俺はお礼の花束を渡しつつ、一緒に遊ぶ事にした。場所は前回貰った花が咲き乱れる、紅の園。踏み締める度に赫い花粉が舞い、甘い香りが漂う。まさにこの世の天国。生きながらにして常世に居るようである。
わーいわーい、楽しいな~♪
「たのしかったねー、おねーちゃん」
「ああ。偶には、こうして童心に還るのも良い」
「どうしんってなにー? ぎるどのひと?」
「……「同心」ではないかな。ようは思いっ切り遊ぶのは楽しいって事だよ」
「いつもはおもいきりあそべないの?」
「大人は忙しいのさ」
「そうなんだ。だけど、わたしも
「成れるさ。良く食べ、良く遊び、良く寝れば、直ぐにでもね」
何時かと言わず、一晩寝たら成ってるかもよ。君は良い子だからね。
「それじゃあ、また遊ぼう」
「うん、また
という事で、俺とカルメンちゃんは手を振り合い、再会の約束と共にお別れをして、
「……いつか、
◆◆◆◆◆◆
「……んん」
そして、俺は目を覚ました。
そう、これは夢。エンムに只で貰った睡眠薬により見ていた、夢の時間だ。本当なら直ぐにでも夢見の通りにしたい所だが、現実はそうもいかない。夢でも語ったように、俺は忙しいのである。
さぁ、今日も今日とて頑張ろう。今頃はバハリが何かしらの調査結果を示しているに違いない。
――――――って事で、騎士団指揮所へGO!
「やぁ、フィオレーネ! 昨日はエンムのおかげで良く眠れたみたいだねぇ!」
「報連相はしっかしりろ」
「ぐわばぁああああっ!」
とりあえず、報連相の出来ない馬鹿を殴り飛ばしてから、会議の席に着く。と言っても、椅子は無いので立ったまま、テーブルを囲むのだが。メンバーはガレアス提督、ザギ、俺、バハリ、タドリ氏の5人。何で薬師のタドリ氏まで混じっているのかは、始まってみないと分からない。
「フム、エンムにはもう会ったのだな」
「はい、お陰様で」
「どう思った?」
「変な奴だな、としか。一先ず様子見しつつ関わって行こうかと思います」
「そうか、ならば良い」
「はい、ガレアス提督」
そうか、ガレアス提督も知ってるのか。まぁ、当然だわな。当然だけど……俺だけ仲間外れなの止めろ。
「それで、あのオロミドロ亜種については何が分かったんだ、バハリ? まさか、またキュリアが関わっているのか?」
「いや、今回の一件にキュリアはおそらく関係ない。特有の嚙み痕がなかったからね。ただ、見慣れぬ嚙み痕と新たな毒が見付かった」
「新たな毒だと?」
「そうだね。それに関しては、タドリさんから聞いてくれ」
ここでタドリ氏にバトンタッチか。毒と言えば薬、薬と言えばタドリ氏って訳か。キュリアの毒を浄化する薬も彼のおかげで出来たんだもんな。凄いよ、CV社長。
「では、失礼して。……先日捕獲したオロミドロ亜種には、鋏角種特有の刺し傷が複数と、見た事のない成分の毒が発見されました。それも混合毒です」
「鋏角種……」
毒のある鋏角種と言えばネルスキュラが当て嵌まる……が、“見た事のない毒”という事は、別種なのだろう。そうなるとヤツカダキ系統になるのだが、奴らは毒ではなく糸と爆炎で獲物を仕留める。その上、複数の刺し傷となると、最早想像が付かない。一体どんなモンスターなのだろうか?
「流石にどんなモンスターなのかは分かりませんが、あの後、溶岩洞でヤツカダキ亜種を目撃した、という報告も入っています。それがキュリアによる物なのかは不明ですが、生態系に大きな変化が起きているのかもしれません。だので、是非とも調査をお願いしたいのですが」
えーっ、また溶岩洞に行くの~?
「……分かりました」
しかし、NOと言えないのが王国騎士筆頭の悲しい所。あんな魔境に訪れるなんて死ぬ程嫌だが、生態系に大きな変化が起きているとなれば、放っておく訳にもいくまい。
「では、ザギも一緒に――――――」
「悪いが、彼には別の調査をして貰う事になっている」
「ゑ?」
さらに、今回はザギが一緒に居てくれないという。帰って良いかな?
「安心しろ、代わりの相方は用意している。プロのハンターだ」
「提督……!」
流石は提督、用意が良いね!
「……で、そのハンターというのはどなたですか?」
まさかのヘルブラザーズか!?
「エンムだよ。彼もまた、カムラの里周辺に詳しい。睡眠属性の使い手でもあるし、事故も起き難いだろう。この機会に交流を深めたまえ」
「は、はぁ……」
1つ豆知識。俺が「はぁ」と返事をしている時は、理解はしたけど納得はしていないって事です。
うぇー、マジかよ。よりによって、あの変態野郎とコンビを組むとか、あり得ないんですけど。
だが、状態異常で行動を封じてくれるが嬉しいのも事実だし、寝起き爆破が気持ち良いのは周知の事。仕方ないから、組んでやるとしますかー。
「では、準備が整い次第、溶岩洞に向かいます」
「そうしてくれ。健闘を祈る」
そして、俺は会議を抜け出し、出発の準備に入った。残ったメンバーに加えてチッチェ姫も参じて話し合いが続いているが、呼び止められないという事は、居残る必要は無いのだろう。
……決して蚊帳の外にされたのが寂しい訳ではない。断じてな。
さてはて、エンピール・M・トーマス様の実力とやら、たっぷりと伺わせて貰いましょうか?
◆ヤツカダキ亜種
妃蜘蛛「ヤツカダキ」の亜種。別名は「熾妃蜘蛛」。
所謂「鋏角種」の1体で、体内に爆発性のガスを溜め込んでおり、原種のように火も吹くが、どちらかというと爆破をメインに戦うのが特徴。着火は灯腹や爪の火花を利用している。幼体は「ハゼヒバキ」と言い、こちらも爆発する。糸を伝って子供を爆ぜさせる様は、見ていて唖然とする。
通常種以上に珍しい存在で、基本的に人前に現れるようなモンスターではない。オロミドロ亜種といい、溶岩洞で一体何が起こっているのだろうか……?