「どう思う、フィオレーネ?」
どう思うと言われましても。
「ドワーフが居たら、こんな城も造れるかな、と思う」
「ドワーフって何さ?」
「ナグリ村の土竜族みたいな連中だよ」
「ふーん。まぁ、言われてみると、確かに……」
そう見えるよな、これは。
一体何をどうやればそんなに掘り進められるのかというレベルの広大な空間に聳える、塔と見紛う程に高々とした城。こちらも壁を削って造った物らしく、それこそ壁に埋まった「角笛城」みたいな様相である。
さらに、城の周囲には無数の民家が迷路の如く入り組んで建ち並び、9枚の城壁が同心円状に区画分けしていた。もちろん、材質は城と同じ。実に煌びやかで、目に毒な地下都市だ。
「ま、誰も居ないようだけどね」
しかし、栄枯盛衰、兵どもが夢の跡。何処の誰が建てたのかは知らないが、住人が居なくなって久しい、廃墟のようだった。未だに煌めいているからこそ、余計に物悲しい。
「ただ、何かは居るんだろうな」
だが、それはあくまで人の話。ヤツカダキ亜種が逃げ込んでいる以上、ここはもう魔窟なのだろう。
「行くか」
「そうだね」
ただ、このまま見ていても仕方ない。先に進もう。
「……こうして見ると、死体だらけだな」
「糸だらけでもあるね」
街に侵入してみて分かった事だが、道の至る所に新旧様々なモンスターの骨が散らばっており、そこら中に蜘蛛の糸が張り廻らされていた。その上、建物の中には糸で巻かれたナニカが吊るされている。風化も見られないし、明らかに古代の物ではない。
「これはネルスキュラの巣だね」
「だろうな」
ヤツカダキは蜘蛛で言えば徘徊性の種族なので、ここまで大規模な巣を造るとなると、該当するのはネルスキュラだけである。
しかし、ここにはネルスキュラも棲み付いているのか。まさに鋏角種のバーゲンセールだな。最悪、群れに襲われそう。凄く帰りたい。実写版みたいになりそうだもん。
『フカァ……!』『………………』『バギィ……!』
オトモたちも周囲を警戒している。これだけ蜘蛛の巣が張ってあると、何処から現れるのか見当も付かない。ネルスキュラは毒針を持っているから、気を付けないと。
『………………!』
と、メラグが動いた。元は大衆食堂に使われていたであろう建物の看板目掛けて跳躍し、キツい一撃を叩き込む。
『ピキャァッ!』
すると、人間の赤子くらいのサイズの、蜘蛛のようなモンスターが落ちて来た。4本の脚を持つ鋏角種……間違いない、ネルスキュラの幼体だ。
『ピキィッ!』『キキキキ!』『ケキャー!』『ピキョキョキョ!』『カチカチカチ!』『キリリ!』
「「いっぱい出て来たぁ!」」『フカヒレーッ!?』『バキャーッ!?』『………………』
しかも、巣の出入り口だったようで、後続の幼体が物凄い数で溢れ返って来た。怖い、キモい、多過ぎィッ!
おいおい、これじゃあ、マジで実写版と同じ展開になるんじゃないか!?
腹に卵を植え付けられるとか、そんなホラーは嫌じゃーっ!
『キョケァーッ!』
「「来るなよ!?」」
さっきの一撃が刺激になったのか、壊れた巣穴や地面から、数えるのも面倒な群れが続々と出現しており、まるで津波の如く押し寄せて来ている。だから気持ち悪いって!
流石に卵は産み付けられないだろうが、そういう問題ではない。普通に寄って集られた末に食い殺される。やってくれたなぁ、メラグぅ!
『………………』
おう、目を逸らしやがって。喋れないからって、誤魔化せると思うなよ。
まぁ、今はいい。ともかく、この大群をどうするか、だ。あまりに数が多くて、正面切って撃退するのは不可能に近い。かと言って、毒煙玉や昏睡玉を投げても焼き石に水だし……あれ、これ詰んでね?
「どうしたら良いかな、フィオレーネ?」
「少しは自分で――――――」
『クァァァ……』
「――――――ぬっ! あれは……」
「さっきのヤツカダキ亜種だね」
おっと、丁度良い所に先程の弱ったヤツカダキ亜種が。こいつに押し付けて遣り過ごそう。相変わらずハゼヒバキを侍らせているし、頭数では負けていまい。
という事で頑張れ、ヤツカダキ亜種。さっきの敵は今の
『クァアアアアアッ!』『ハゼッ!』『ヒバキ!』
『ピキ!』『キィー!』『キュラ!』『スキュ!』
そして、ヤツカダキ亜種とネルスキュラ(幼体)の戦いが始まった。ハゼヒバキが文字通り自爆しながらネルスキュラの侵攻に対抗しているが、如何せん相手の数が多過ぎる。あっという間に纏わり付かれてしまった。
『ゴォオオオオオッ!』
『『『プキャー!』』』
だが、そこは鋏角種でも最強格の大型モンスター。折り畳み式の長い首を伸ばし、グルリと回しながら火炎放射で薙ぎ払う。
『キェエエエァアアッ!』
『『『ギョェーッ!?』』』
さらに、分散しているハゼヒバキへ的確に糸を繋げ、爪と灯腹を打ち合わせて火花を作り、導火線の要領でハゼヒバキを爆破して、ネルスキュラの大海原に次々と風穴を開けていき、そこへ更なる火炎放射を吐き掛け、周囲の生き残り諸共、根こそぎ炎上させていく。辺りはすっかり火の海である。
いやぁ、凄い火力だな。あれだけ居たネルスキュラが殆ど居なくなったぞ。まるでバーニングゴジラとデストロイアの中間体が戦っているみたいだ。もしくはソルジャーレギオンに襲われるガメラ。
その上、あれだけダメージを与えたのに、これ程までアグレッシブに動けるとはな。実はかなりHPが高いのかもしれない。
それにしても、ネルスキュラって火が弱点だっけ?
あくまで被ってるゲリョスの皮が熱に弱いだけで、本体は雷が弱点だったような気がする。見た所、どの個体も皮膜を纏っていないし、一瞬で爆破炎上する程のダメージは受けない筈じゃあ……?
ま、まぁ、幼体って事で耐久力が無かっただけ、という可能性も――――――、
と、その時。
『……クァアアアッ!?』
突如、百貨店のような廃墟を崩壊させ、巨大な節足が飛び出して、ヤツカダキ亜種を撥ね飛ばした。
『クギャアアアアッ!』
そして、地面を陥没させつつ、大型モンスターが出現する。
無垢を纏った4本の節足と鎌のような前脚、提灯を思わせる大きな腹に折り畳み式の首、それから鋏角を携えた鬼か悪魔の如き凶相。間違いなく、ヤツカダキ系統のモンスターだろう。
しかし、唯でさえ大きいヤツカダキ亜種に輪を掛けた巨躯を持ち、何より纏っている糸無垢が紫色である。確実に原種でもなければ既存の亜種でもない。
『キュラララ!』
さらに、その背後には、同じような紫の糸を纏った、成体のネルスキュラが。さっきの幼体たちの親玉であろう。色合いのせいで、何時も以上に毒々しい見た目をしている。
何なんだ、この如何にも「毒です!」という組み合わせは!?
『クァォッ!』『キュァッ!?』
だが、俺たちの疑問など知った事かと言わんばかりに、展開は急に進んでいく。
謎のヤツカダキっぽいモンスターが子蜘蛛(こいつも紫)でバンジーガムをしたかと思うと、自分が寄るのではなく、ヤツカダキ亜種を己に引き寄せ、更には鎌脚の一閃で斃してしまった。
「これは……!」
「ヤバいねぇ~」
幾ら弱っていたとは言え、まさかヤツカダキ亜種を一撃で殺すとは。とんでもないパワーの持ち主に違いない。
通常種よりも強い亜種よりも更に強いとなると……もしかして、こいつは――――――、
『キェアアアアアアッ!』『クキキキッ!』
そして、今まで確認されていなかった、ヤツカダキの希少種と思しきモンスターが、ネルスキュラ(こちらも希少種?)と共に襲い掛かって来た。
◆ヤツカダキ希少種
鋏角種の大型モンスター、ヤツカダキの希少種。
過去にカムラの里周辺で1度だけ目撃された珍しい存在で、当初はこの個体を亜種認定しようかという動きもあったが、それ以降は全く発見する事が出来ず、しかも情報を上げたのが、今は「奈落村」と呼ばれる盗賊の巣窟に居付いていた、無免許の受付嬢だった為、取り下げられた。現在、目撃者は誰も生きておらず、詳細は不明。
ただし、猛毒を染み込ませた糸を纏う事だけは分かっており、未確認のネルスキュラらしきモンスターとは共生関係にあるらしい。