「何か「シェルレウス」に見えるねぇ?」
と、謎の飛竜を見上げたエンムが、ポツリと呟く。
「シェルレウスって……あの絶滅種か?」
モンハンには設定だけに存在する、所謂“裏設定”のようなモンスターが存在する。それらは資料集などで姿と名前、もしくは名前のみ確認でき、ゲーム本編には一切登場しない。ようするに“没モンスター”だからだ。
甲殻竜「シェルレウス」も、そんな存在だけのモンスターであり、確かリオス種の祖先で、既に環境の変化で絶滅している筈の種族である。
そんな太古の遺物が、謎の地下遺跡で生き残っていたとは、何とも浪漫があるが、今はそんな事を言っている場合ではない。これ、絶対に襲い掛かってくるだろ。完全に初見のモンスターに襲われる程、怖い物は無いんだけど。
一体どんな攻撃を仕掛けて来る……!?
『ジュルァッ!』
と、シェルレウスが吠え猛りながら突進してきた。足運びがクシャルダオラにそっくりだ。重厚かつ鈍間そうなイメージに反して、結構なスピードがある。ティガレックスと違い、牙竜種に近い形態で走れるからであろう。どうやら、前脚の肩関節の自由度はかなり高めのようである。
――――――って、言っとる場合かァーッ!
「うぉっ!」「ぬぅっ!」
俺は緊急回避で、エンムはガードで受け流す。ノックバックは無いようだが、予備動作が殆ど無い為、見極めが難しい。翼の脇を締めるのが予兆だと覚えておこう。
『バヴォォオオオオオッ!』
「うぬぉっ!」「ヤバッ!」
さらに、突進の終わりに片翼を軸にドリフトし、一気に反転したかと思うと、まるでテオ・テスカトルの如く爆炎を吐いてきた。ヤツカダキ希少種は併発する猛毒が厄介だったが、こちらは純粋に火力が高い。ガードしたエンムのノックバックが半端じゃなかった。ランスでアレじゃあ、片手剣だとガードを捲られるかもな。
つーか、本当にドス古龍に似た動きをするな、こいつ。流石にオオナズチの変態的な動きやメル・ゼナのアクロバティック・パワー・ファイトは無理だろうが。それと身体構造的に、ホバリングや飛翔は不可能かと思われる。ティガレックス同様、滑空ぐらいは出来るだろうけど。
しかし、飛行が苦手な分だけ地上戦を得意としているようで、さっきのほぼノーモーション突進といい翼ドリフトといい、不意の肉弾攻撃に注意しないと、強力な爆炎にやられてしまいそうだ。
『ヴァォォォ……!』
おっ、大きく振り被って?
『ジュルァッ!』
「はぁああん!」
翼で打つ攻撃ィッ!
ヤバい、体感的にブレイブバードぐらいの威力がある。やはり、あの翼の支骨はナルガクルガのように硬いようである。ドス古龍に近い骨格なら前脚を振るうのも楽だろうし、攻撃パターンとの相性が良いのだろう。
というか、痛いヤバい死ぬ!
『………………!』
「……ふぅ、助かったよ、メラグ」
本当に決める時は決めてくれるね、君は。
……さて、そろそろ反撃しないと、王国騎士筆頭の名折れだな。
『ジェルァヴォッ!』
「せぇい!」
『グルァッ!?』
再び翼で打つ攻撃を仕掛けてこようとしたので、滅・昇竜撃をぶち当ててやる。
「良い怯ませだよ!」
『ギャヴォッ!? ……ZZZzzz』
そして、仰け反らせた隙を突いて、エンムの突進攻撃と溜薙ぎ払いが炸裂。眠り状態へ追い込んだ。食らいやがれ、睡眠爆破G!
『――――――ジェルァヴォオオオオオオオオッ!』
「「………………ッ!」」
おっと、怒ったな。血行が早まったのか全身が朱色に染まり、甲殻の隙間や口端から炎が漏れ出す。
『グヴヴヴ……!』
「な、何だ……!?」
「何かヤバいぞ!」
さらに、翼の支骨の関節部が白熱化し、連結が緩み始める。これは、もしかして――――――、
『ジュラォッ!』
「うぉっ!」「何ィ!? ……ぐぅっ!」
嫌な予感がして緊急回避した瞬間、頭上を炎の鞭が通過し、エンムを大きく仰け反らせた。
否、鞭ではない。あれは……関節が熱で弛緩した翼の支骨だ。何となく形態変化しそうな気はしていたが、やっぱりか。あの炎を吹き出す状態になると翼の支骨が弛んで、鞭の如くしなるようにのである。
それにしても、何て射程なんだ。結構離れた位置から火石ころがしで起爆したのに、その場から全く動かず支骨を届かせるとは。蛇腹状の支骨に目が行きがちだが、その間に張られた翼膜の柔軟性も射程の長さに寄与している物と思われる。
「クソッ……熱い!」
その上、見た目通り火やられを付加する効果もあるようで、火耐性の低いエンムは削りダメージだけでもかなりの体力を減らしていた。
『バヴォオオオオオオッ!』
「「そぉいっ!」」
そして、この爆炎である。火力が高過ぎて炎が蒼くなってるんですけど。これ、火耐性がどうとかじゃなくて、食らったら即死するな。
『ジェルァッ!』
「尻尾に猛毒まであるのかよ!」
地表の大型モンスターを対象にした物であろう猛毒が尻尾の棘にあるらしく、起き上り様に放たれたテールスイングで猛毒状態にされてしまった。
いや、待て、この苦しさ……劇毒だよこれ! か、漢方薬ぅ~!
「フィオレーネ!」
「またしても助かった!」
くそぅ、さっきからエンムの粉塵の世話になりっぱなしだな。それで良いのか、王国筆頭騎士!
だが、ここからが見せ場だ。
「どうするよ、フィオレーネ」
「……私に良い考えがある。然るべきタイミングが来たら一気に仕掛けるから、攻める準備をしておいてくれ」
「何が見えたのかは分からないけど、了解だよ」
さぁ、行くぞシェルレウス!
「食らえ、泥玉ころがし!」
『ジェルァッ!?』
よし、怯んだな。弱点属性は水か。見た目は似ているが、リオス種とは微妙に違うようである。
ともかく、これで部位耐久値は大きく下がった筈。
『ジュルァォッ!』
「頼む、エンム!」
「任せといてよ!」
と、シェルレウスがMRベリオロスのような尻尾ビターンを仕掛けてきたので、エンムと前後を入れ替えて防いで貰う。こういう時にガード性能の強いランスは頼りになるな。しかも、叩き付けた後、間を置いてテールスイングまでしてきたし。これ、片手剣だとノックバックで防ぎ切れないぞ。
『ギャヴォオッ!』
さらに、シェルレウスが回る勢いで正面に向き直ったかと思うと、翼鞭を叩き付けようと振り被ってきた。
――――――今だッ!
「ハァアアアアアアアッ!」
『グギャヴォッ!?』
絶好のタイミングで繰り出した滅・昇竜撃が翼にヒットし、支骨をバラバラに打ち砕いた。
やはりな。こういう熱を伴う形態変化をする奴は肉質が柔らかくなる物なんだよ。何より蛇腹状の骨という、耐久性に難のある骨格に変化した時点で、強い衝撃を与えれば脆く崩れ去るのは必然である。
そして、翼が支骨ごと砕けてしまった以上、飛翔する事は最早不可能だ。攻撃力と引き換えに背負ってしまった、こうした構造的欠陥が過去の絶滅に繋がったのかもしれない。
何れにしろ、今がその時だ!
「一気に決めるぞ!」「了解!」
『グガァアアアッ!』
片翼を失い藻掻き苦しむシェルレウスを、俺たちは暴力的な手数で圧倒していく。殆ど嬲り殺しだが、これを逃すとこっちの体力とスタミナがヤバいので、このラッシュで決めてやる!
『……、ZZZzzz』
よぉし、睡眠状態に入った。最後の睡眠爆破と、罠嵌めを食らえ!
「「ドララララララララ!」」
『ギャヴォァアアアアアッ!?』
起爆によって残る片翼も壊れ、角や甲殻も砕け散り、最後は尻尾も断ち切られるシェルレウス。まさしくズタボロで、何故生きているのか分からないような有様だった。
『………………!』『ヨワミガミエル!』
さらに、捕獲ラインを超える程の瀕死に陥ったようである。ならば、この捕獲用麻酔玉で、
「「お眠り~!」」
『……、……、……ZZZzzz』
こうして、漸くシェルレウスの狩猟が終了し、同時に地下遺跡の王座が開いたのであった。
『……バギィ!』
「そっちの奥から、草の匂いが僅かにするってさ」
「城の抜け道か」
しかも、静かになったおかげか、城の奥に外へ繋がる抜け道も発見。外界への活路も見出す事が出来た。「草」と言うからには、溶岩洞の方ではないようだが、何時までもこんな地下に引き籠もっているよりはマシだし、脱出出来れば助けも呼べるので、さっさと外へ行こう。
「……今回は非常に助かったよ。ありがとう」
「嫌に素直だね」
「意地を張っても仕方ないさ」
助けられていたのは事実だしな。
……認めようじゃないか。お前が一流のハンターであり、下弦の壱だった頃のお前とは違うのだと。
「さぁ、帰ろう、エルガドへ」
「そうだね」
そして、俺たちは何処ぞの谷間に出た後、ベクターを飛ばして救助を要請し、数日振りにエルガドへと帰還したのであった。
「………………」
「どうかしたの?」
「……いや、何でもない」
――――――それにしても、あの谷間にあった、
まぁ、後はバハリたちの頑張り次第、結果次第だ。慌てず騒がず、久し振りにグッスリと眠ろう。エンム特製の眠剤で夢心地、ってね。
◆シェルレウス
太古の昔に絶滅した筈の飛竜種。クシャルダオラとリオス種を組み合わせたかのような姿をしており、口から吐く爆炎と尻尾の劇毒を武器に古代の魔境を生きていた。
翼の支骨が蛇腹状になっており、普段はナルガクルガの迅翼が如く硬いが、高熱を加えると弛緩し、鞭のようにしなるのが特徴。「烈火纏い」と呼ばれる状態になると解禁され、文字通り爆発的な攻撃力を発揮するが、熱による形態変化の例に漏れず肉質が軟化してしまう弱点があり、部位破壊されると翼自体が駄目になる為、大きく戦力がダウンする。そうした構造的な欠陥が、絶滅寸前に陥った一因かと思われるが、詳しい原因は不明。
また、現存する個体はヤツカダキ希少種やネルスキュラ希少種を従えており、彼女らに餌を追い込ませ、自らが止めを刺す代わりに、美味しい所は全てシェルレウスが持って行ってしまう。その上、戦いとなると見境が無くなるので、ヤツカダキ希少種たちはシェルレウスを確認すると、そそくさと逃げす。
ちなみに、今回捕獲された個体はダメージが大き過ぎたからか、エルガドへ運ばれると直ぐに死んでしまったが、卵を5個残していたので、1個はフィオレーネに功績として譲渡された。残りは研究用として王国預かりとなっている。