「はてさて、何が出るのやら」
ジャンボ村から暫く行った場所にある狩場「水没林」にて、俺――――――エンピール・M・トーマスはポツリと呟いた。
今回の任務は、居る筈のないキュリアが「未知の樹海」周辺に花を咲かせているかもしれないので、その調査及び処理を目的としている。
キュリアとは、様々な生物の精気を吸い取る寄生虫であり、存在するだけで様々な災厄を呼び込む化け物。「鬼」と同じだな。一応は人間側である以上、放って置く事は出来ない。査定に響くから。
「流石のエンムでも、やはり不安はあるのかい?」
「ロンディーネ……」
と、今回バディを組んだロンディーネが声を掛けてきた。王国騎士団最強の実力を持つ、自称:世界を股に掛ける交易商だ。そんな女騎士様を呼び捨てにするのはどうかと思うが、本人が良いと言っているのだから、ここは肖らせて貰う。カムラの里に滞在していた時からの付き合いだし、お互いに遠慮してやる筋合いも無い。
「そりゃあね。キュリアと言えば、カムラの里を脅かした
「……確かにな。いやぁ、野暮な事を聞いたね。それでも、君が狩場に不安を抱えて出掛けるなんて、早々ないからな。やはり気にはなるよ」
「そうかい。まぁ、仕事はするよ。それが俺の役割だからね」
今の俺はエルガド在住の「トーマス診療所」の医院長。それ以上でもそれ以下でもない。だから不安があろうが無かろうが、キッチリと仕事はするさ。
「――――――それに、捜索願も出されてる事だし」
「そうだな……」
そう、実は「水没林」へ訪れる前に、ジャンボ村のギルドから捜索願を出されているのである。依頼主はモガ村の受付嬢。彼女の弟が狩りへ出掛けたまま帰って来ないそうだ。よくある話と言えばそれまでだが、タイミングがタイミングなので、捨て置く訳にはいかないだろう。
「彼は生きているかな?」
「さぁねぇ。でもまぁ、最悪の場合でも遺品くらいは拾ってやろう」
聞く所によれば、その弟くんは相当な実力者のようだし、まだ生きている可能性もある。同時に死んでいる確率も、また高い。それだけ「未知の樹海」は危険地帯なのである。
「……ああ」
喉に引っ掛かる物がありそうな顔をしているが、ロンディーネも理解は出来ているのだろう。そうだよ、それで良い。優しいだけじゃあ世界は回らないんだよ。
「それにしても、相変わらず暑いな、ここは」
「そんな格好しているからだと思うよ?」
「それに関しては、貴殿に言われたくはないのだが」
失敬な。この素晴らしいファッションが分からないのか?
「酷い言い草だよねぇ、エンプーサにヘケト?」
『バギィッ!』『けろっぴ!』
う~ん、可愛いねぇ、俺のオトモたちは。
ちなみに、ヘケトは最近ロンディーネから買い取ったネムリガスガエル(♀)ね。かなり人懐こい個体みたいで、指示が無ければガスを出さないし、何なら撫で回しても怒らない。教育が行き届いているのだろう。
「可愛さなら、ワタシの「キュウコン」も負けていないぞ!」『キュンキュン!』
対抗すんなや。それに俺はモフモフよりスベスベかザラザラなのよ。ともかく、奥へ進もう。
『ゴリリリリ……?』
「あ、ガランゴルムだ」
「姉上が見たという個体以外も進出していたのか……」
エリア10と8の間にある小道で、ガランゴルムに遭遇した。この個体はキュリアに襲われていないのか、敵愾心は見受けられず、襲って来る気配も無い。まだキュリアの影響が少ない、という事か?
『カニキチサンペイ!』
「今度はショウグンギザミか」
「こいつも本来はここに居ない種族だが、大分繁殖しているようだな」
ダイミョウザザミも居るらしいし、もう訳が分からないよ。ルドロス一族の立つ瀬がないじゃないか。
『カガチチチッ!』
「
「何だか興奮しているようだな?」
しかし、次いで見掛けたトビカガチは何処か様子がおかしかった。彼らは本来臆病な性格であり、新大陸の個体よりも地上性が強くなっているとは言え、わざわざハンターの前に出て来るような奴らではない。全身が傷だらけだし、余程の事があったのだろう。
問題は、それが何なのかだ。もしもキュリアが原因だとしたら、調べる必要がある。
『コァアアアアアアッ!』
さらに、出会って早々に帯電状態となり、襲ってきた。全身の毛を逆立たせ、青白い光を迸らせながら、モモンガの如く飛び掛かってくる。
「……エンム、来るぞ!」
「見れば分かるよ!」
という事で、狩猟開始である。ロンディーネは【王国騎士太刀ブレイブ】を、俺は【グレイトアズール改】を構えた。……何でスラアクじゃなくて太刀なのかは聞かんでおこう。
『ギャヴヴヴヴゥッ!』
「ヌンッ! セェイ!」
『グギャッ!?』
トビカガチの鋭い一撃を盾で受け、カウンターで十文字に斬り返してやる。思わぬ反撃に、トビカガチは着地と同時に引っ繰り返った。
「ハッ! せぇいっ! てぁっ!」
すかざずそこへロンディーネが太刀を振るう。流石は英雄王セイハクの太刀振る舞いの師匠、素晴らしい動きだ。これでまだ本気じゃないというのだから、凄いとしか言い様がない。だったら一番得意なスラアク使えって話だが、森林地帯の調査という事で小回りを優先したのだろう。スラアクは威力こそ高いが、デカくて邪魔だしね。
「そらっ!」
「食らえ!」
『ギィィィィッ!?』
そして、俺のシールドタックルで再度怯ませた後、ロンディーネが兜割りを決め、トビカガチはあっという間に瀕死へ陥った。
「フム、やはり変だな……」
だが、それを喜ぶ気にはなれない。幾ら何でも弱過ぎる。戦いが始まる前から弱っていた証拠である。それも傷を負ってからそんなに経っていない。
つまり、今の「水没林」にはトビカガチに深手を負わせるような奴が居て、割と近くに潜んでいる可能性が高いという事だ。藪を突いて出て来るのは、一体何なのか……?
と、その時。
『バヴォオオァッ!』『グギャッ!?』
突然、巨大な何かが目の前のトビカガチを掻っ攫った。何事かと見てみれば、
『グルルル……バヴォオァアアアヴヴゥゥン!』
「アンジャナフ……にしては、デカ過ぎない!?」
「しかも、あの傷……姉上が言っていた、特異個体のようだな!」
そこに居たのは、フィオレーネたちが「砂原」で逃したという、特異なアンジャナフであった。
◆水没林
元は水源豊かな土地だったが、最近は環境が変わり、陸地が多くなった。それでも湿度が高い事に変わりは無く、ロアルドロスやジュラトドスなどの水棲系のモンスターが多く棲息している。地理的には「未知の樹海」の端っこであり、同じく樹海の端に当たる「原生林」とは似通った環境を持つ。
ここ最近、キュリアの目撃例があり、ハンターやモンスターが忽然と姿を消すなど、不可解な事件が多発しているようだが……?