ザギがエルガドに着いてから、早1週間。
ロアルドロスやクルルヤックにアケノシルムの狩猟など、毎日のようにクエストに勤しみ、マスターランクの洗礼を見事な腕前でクリアして来た訳だが――――――。
「流石ですね、ザギさん! これからも宜しくお願いしますね!」
クエストカウンターで元気溌剌と笑顔を振り撒く、この小さな眼鏡っ子は、受付嬢のチッチェ姫。
そう、俺たちが属する王国のお姫様自らが、受付嬢として働いているのである。それも女王陛下や家臣たちの反対を押し切り、猛勉強の末に合格して。コネも裏口入学も無く、就任初日に断髪するなど、そのアグレッシブでエネルギッシュな姿は、日々激務に追われる拠点の構成員たちを元気にしてくれている。かく言う俺もその1人だ。
「えっと、君が受付嬢なのかい?」
「はい、チッチェと申します!」
「えっ、ちっちぇ? 確かに色々と小さいけど……あいた!?」
「このバカモン!」
なので、デレカシーもクソもない、この
忙しさもあって、今までは俺がクエストを直接ザギに持って来ていたのだが、まさか真面な顔合わせで、こんな馬鹿をやらかすとはな。どういう環境で育ったら、こうなるんだ……。
「申し訳ありません、姫様」
「いや、あの、別に気にしてませんし、何故にアメを握らせて来るんですか?」
「あっ……」
しまった、ついアメちゃんをあげちゃった。ヨモギちゃんは思わず撫でたくなる可愛さだけど、チッチェ姫はアメをご馳走したくなるプリティーさがあるのよねー。
「そっちも子ども扱いしてるじゃん」
喧しい、この阿保。
……いやいや、落ち着こう。落ち着いて、素数を数えるんだ。まだブチ切れる時ではない。後で教育は必要だろうがな。少しは常識を覚えろ、この田吾作が。
「少し宜しいかな?」
と、特命騎士の筆頭であるセルバジーナが近付いて来た。セフィロスみたいな顔立ちのこの人は、カムラの里との連絡役であり、向こうに置いて来たラパーチェから情報を受け取って、それをエルガドに報告する任務がある。
つまり、彼がやって来たという事は、カムラの里で何かしらの問題が起こった、という事である。
「……はい、はい……ええっ、そうなんですか!?」
「ええ、間違いありません。既にラパーチェたちも動いていますが、人手が足りません。至急、増援を頼みたいとの事です」
ちょっとちょっと、2人だけで何話してんのさー。俺らも混ぜてよー。
「ザギさん、フィオレーネ、緊急クエストです!」
……ほーら、やっぱり厄介事だよ。
だが、逆に言えば昇格のチャンスでもある。カムラの猛き焔くんには、是非とも気焔万丈して貰おう。それで、内容の程は如何に?
「「大社跡」にて、ビシュテンゴ亜種が複数体確認されました! お2人には、これらを狩猟して貰いたいのです!」
「増援って事かい?」
「はい! 現地でも既に対処しているようですが、如何せん数が多い上に、リーダー格の個体が狡賢くて、ほとほと困っているそうです! ですので、是非とも猛き炎の力を借りたいと、フゲン様が仰っていたとか!」
「なるほど……」
頼られて嬉しいのは分かるけど、たぶん向こうが期待してるのは、強さというより、お前のその泥臭い兵法だと思うぞ。まさに毒を以て毒を制す、だ。
「それじゃあ、一丁里帰りしますか」
「了解した。ついでに、顔見せもして来ると良い。積もる話もあるだろうからな」
そういう事になった。
それじゃあ、カムラの里にレッツゴー!
◆◆◆◆◆◆
契機は覚え無き所より出でて
愚なる行いが、さらなる愚を呼び
生ぜしが過なる災いとなったとしても
大いなる愚の円環を成すそれは
宴のように見えるものであろう
◆◆◆◆◆◆
――――――で、爆速で大社跡にやって来た訳だけど、
『ホワッキャァアアアアッ!』
「「えぇ……」」
何、このハイテンションな烏天狗猿?
ビシュテンゴは「天狗獣」の別名通り、天狗……というか烏天狗に似た中型の牙獣種で、青と白の毛皮で覆われた猿に、鳥の嘴と翼、先端が団扇状の長い尻尾を付け足した、何とも不思議な姿をしており、ケチャワチャ系統と同じく飛行する事が出来る。
また、その長い尻尾は非常に器用であり、物を掴んだり、身体を支えたりする事も可能で、第3の手として生活や戦闘に活かしている。
しかし、最大の特徴は何と言っても、懐に忍ばせた馬鹿デカい柿で、大好物でもあるこれらを、獲物目掛けてぶん投げてくる。この柿は袋の中で熟成され、様々な効能を有しており、毒・麻痺・閃光など、意味不明な効果を発揮する為、狩猟の際には最大限の警戒を持たなければならない。
それに対して、「緋天狗獣」とも呼ばれる亜種は、緋色の毛並みを持つ攻撃的な外見で、柿ではなく発火性の強い松ぼっくりを投擲して来るのだという。
ちなみに、悪戯好きで人里にも顔を出しに来る原種と違い、亜種は乾燥地帯の奥地でひっそりと暮らしている事が多い為、俺――――――というか、フィオレーネさんも又聞きした情報しか無い。
ただし、大人しいかと言われるとまた別らしく、1度“玩具”と見做した相手には悪戯では済まない苛烈な攻撃を加え、その様をゲラゲラと嘲笑うのだという。彼らの起こした騒動により、山火事が発生する事も少なくないのだとか。ある意味、原種以上に傍迷惑な、悪質なサディストと言えよう。
そんな性悪野郎が、目の前で「ホワォホワォ!」とダンシングしている。何というか……腹の立つ動きだ。
「「えい」」
『ホギャアアッ!?』
ザギもそう思ったのか、まさかの2人同時に閃光玉を使ってしまった。勿体無い……。
『ヒィイハハァアアアアアッ!』
おっと、怒ったか。流石に出合い頭に目晦ましされればね。同情の余地は見当たらないけど。
『ゴバァアアアアアッ!』
「ドワォ!?」
とか何とか言ってたら、緋天狗獣が口から火を噴いて来た。お前、牙獣種の分際で火炎放射すんのかよ!?
だけど、これで松ぼっくりが発火する理由が分かった。幾ら燃え易いとは言っても、火種が無ければ発火はしないからな。だからって飛竜種ばりに火を噴くなよ。
『ホォワイ、ホォワイ、ナゼニフォワイ!』
「「危なっ!」」
さらに、例の松ぼっくりをブンブン投擲。その上、一部をベイブレードのように転がしてきた。おかしいだろ、色々と。デカいし、独楽になるし。どうやって繁殖してるんだ、この松ぼっくり?
『ホワチャアアッ!』
「「DAKARAーッ!」」
だが、そんな疑問に嘲笑う道化が答える筈もなく、手持ちの松ぼっくりを全部出す勢いでばら撒いた後、スピンしながら突っ込んできて、一斉に爆発させた。そんな事をしてるから、山火事が起きるんだよ!
「「いい加減にしろ!」」
『ハギャアアアアンッ!?』
むろん、何時までも好きにはさせない。シビレ罠で拘束して、大タル爆弾Gで爆破し返しつつ、ジャストラッシュでボコボコにする。
『ウギギギ――――――「バルス!」ハァアアアイッ!?』
シビレ罠から抜け出したら、すかさずバルス。一瞬だけ動きを止めた。
「落ちろカトンボ」『ホワァアアアォッ!?』
そして、今度は暴れられる前に落とし穴で嵌め殺す。ついでに雷毛コロガシで雷やられを誘発し、スタンを取ってから再度ジャストラッシュを決めて、毒&麻痺にした上で爆破属性ダメージも与えた。
『キェエエ!』「ファルコン・パンチ!」『ギョェエエエエッ!?』
さらに、ようやく穴から脱出したビシュテンゴ亜種を、滅・昇竜撃で再度気絶させる。
「弱っているぞ」
「そりゃあ、あんだけボコればね」
その後、弱りが見えたので、2個目のシビレ罠で再拘束し、さっさと捕獲してやった。
うーん、何という罠ゲー。火力不足になり易い片手剣らしいと言えばそれまでだけど、悪辣で知られるビシュテンゴ亜種も、猛き炎の姑息な手腕には勝てなかったか。これ、古龍と戦う時に苦労するかもなー。
まぁ、それはそれとして、
「任務は完了だ。少し羽を伸ばして来ると良い」
「恩に着るよ」
せっかく里帰りしたのだから、少しくらいゆっくりして貰わんとね。
この後、ザギと里で食道楽を楽しみ過ぎて、危うくリバースし掛けたのだが、それはまた別のお話。
◆ビシュテンゴ亜種
天狗獣「ビシュテンゴ」の亜種。「緋天狗獣(「あけてんぐじゅう」と読む)」の別名通り、暖色系の毛並みを持つ。異名は「嘲笑う道化」。
原種は馬鹿デカい柿を武器にしていたが、こちらは発火性の強い松ぼっくりをぶん投げてくる。更には口から火炎放射まで出す、非常に危険な生物である。その攻撃性は悪戯では済まされない苛烈なもので、しばしば山火事すら引き起こす。
ちなみに、乾燥地帯に適応しているようで、本来なら大社跡のような湿度の高い場所には現れないらしい。