――――――王域観測拠点「エルガド」。
「そうか、ガランゴルムが……」
ようやく戻って来た俺たちからの報告を、神妙な面持ちで聞き入るガレアス提督。如何にも司令官ですって感じが堪らんとです。
「領域を侵したアンジャナフと、王域を離れたガランゴルム……それに、赫い結晶か……分からん事ばかりだな」
そうですよねぇ。
特にあのアンジャナフ。どう考えても身体能力が高過ぎる。幾ら歴戦の個体とは言え、体捌きならいざ知らず、あの攻撃力は常軌を逸しているだろう。
もしかしたら、あの赫い結晶と関りが有るのかもしれない。
「いやいや、そうでも無いですよ~?」
すると、達成感の有る顔をしたバハリが現れた。ムカつく面だなぁ。
「……くれぐれも背後から刺したりしないでくれよ?」
「善処いたします」
「そんな政治家みたいな事を言われてもねぇ!?」
ならば、それ相応の勤務態度を取り給え。さもなくば処刑する。
「……この人たち、仲が悪過ぎませんか、ガレアス提督?」
「まぁ、馬が合わんだろうからな。とは言え、本当に嫌悪しいる訳ではあるまいよ。少なくともバハリはな」
フィオレーネさんは、とは言わないんですね、提督。
まぁ、俺としても彼を目の敵にしている訳ではない。単にムカつくからぶん殴りたいだけである。殺しはしないから安心しろ。
「――――――で、話を戻すけど、良いかい?」
と、バハリが人差し指を上げた。その指切り落として、二度と提案出来ないようにしてやろうか。
「……ああ、続けてくれ」
とは言え、いい加減に話を進めないと提督に怒られそうなので、一先ず我慢しておく。それでそれで?
「先ず、あの赫い結晶に付いてだが……」
「……(ゴクリ)」
「全然分かりません!」
「よし、よく分かった」
「待て、落ち着け、冗談だ」
マジで殺したろか貴様。
「……早く続けろ」
「まったく、じゃじゃ馬なんだからよぉ~。……とりあえず言える事は、ありゃあ元々は“別の生き物”だった、って所かな」
「別の生き物?」
「そそ。結晶を構成しているのは、生物由来の物質だ。おそらく、死後に結晶化した物だろうねぇ。僅かだが、臓器や牙の痕跡が残っているし、たぶん元は軟体系の生き物だったんだな。で、あのアンジャナフは、それを間違えて呑み込んでしまったと」
「それがあの強さに関係していると?」
「流石にそこまでは。しかし、可能性も有るだろうねぇ。あれは謂わば、滋養の無い強壮剤だ。端的に言うと、最高にハイって奴に成る、ヤバい薬みたいな物だね。ぶっちゃけ、毒と言っても差し支えないよ。余程体力に自信の有る奴じゃなきゃ、たちまち寿命が削られちまう」
「………………」
なるほど、強過ぎるドーピング剤って事か。道理で消化も摩耗もしてなかった訳だよ。わざわざ毒を吸収してやる筋合いは無いからな。
「問題は、何時どのタイミングで呑み込んだか、だな」
状態が良かった事を鑑みるに、つい最近の話だろう。それが縄張り侵入に繋がったのか、あるいは別の要因が有るのか。
「その事なんだけどねぇ、あのガランゴルムの体内から、似たような物質が見付かったんだよ。……正確には、液化した物だけどね」
「液化した物? それはつまり――――――」
「完全に毒物だねぇ。あのガランゴルムは、毒に侵されて狂暴化していたのさ。ただ、それが何に由来しているのかまでは分からない。せめて、生物だった頃のサンプルが無いと、何ともなぁ……」
……話を纏めよう。
ガランゴルムもアンジャナフも共通の毒に侵され暴走しており、それは赫い結晶がまだ生き物だった頃に持っていた体内物質だった。
ただし、生体サンプルが無いから、その生物が何なのかまでは分からない、と。
――――――これもしかして、あの赫い結晶が、キュリアの死体だったりするのか?
だが、そうなると何故に結晶化するまでメル・ゼナの下に還らず、道すがらで死んでいたのか。大きさからして複数体が一纏めになって変化したようだし。
結局分からない事ばかりだな。
……というか、この時点だと、あの生物はまだ「キュリア」とすら呼ばれていない段階なので、あまり下手な事は言わない方が良さそう。“お前、何でそんな事知ってるんだ”って話になるからね。
ここは素直に、バハリの頑張りに期待しよう、そうしよう。べ、別に、コミュ障が露呈するのが嫌だとか、そんなんじゃ無いんだからね!
「……では、その毒素について、早急に調査せねばならぬな」
静かに話を聞いていたガレアス提督が、重々しく言葉を吐く。
確かにそうなんだけど……帰って来て早々さっそく仕事かぁ。
「いやー、流石に少し休ませた方が良いんでないですかい? 帰還したばかりだし。身体に働き詰めは良くないよー」
バハリの言葉に従う訳じゃないけど、流石に俺もそう思うわ。船上じゃあ、お風呂に入れないんだよぉ!
「た、大変です! 緊急クエストが発生しましたぁ!」
「どうしたのですか、チッチェ姫様?」
「ああっ、頭を下げないで! わたくし、ここではただの受付嬢なんですから! ……じゃなくて! 城塞高地で、狂暴化したルナガロンが発見されました! 周囲のモンスターを手当たり次第に殺戮しており、このままでは生態系が崩壊しかねないとの事です!」
お風呂ぉおおおおおおおおおおおっ!
◆◆◆◆◆◆
消えては、結び
還るべきはいずこ……
◆◆◆◆◆◆
さぁさぁ、やって来ちゃいましたよ、城塞高地。
お風呂も洗濯も出来ず、歯磨きさえしていない、大分汚い状態で来てしまいましたぜ、とっつぁん!
しかも、非常に間の悪い事に、移動の最中に月に1度の物が来てしまった。フィオレーネさん、結構重い
「そんな怖い顔して、何を怒ってるんだ?」
お前、それを女子に聞くか?
「……ザギさん。女性には月に1度、体長が悪くなる日が来るのです。男性には無いから、今一想像し難いでしょうが――――――風邪と貧血が同時に襲い掛かって来るものだと思って下さい」
すると、後ろからオブラートにフォローを入れる、1人の女性が。クールビューティー(笑)な女騎士、ルーチカである。彼女は生粋のガンナーであり、ヘビィボウガンの使い手だ。
――――――前々から思ってたけど、俺たちのコンビって射程が短過ぎるのよね。どっちも片手剣だし。だから、1人くらいは遠距離支援役が欲しいと思っていたのよ。
まぁ、彼女の場合は戦闘になるとトリガーハッピーになってしまうので、どちらかと言うと俺たちが支援して、移動放題としてガンガン攻めて貰う方が良いんだろうけど。王国騎士の装備は生存性を重視しているから、多少無理をしても大丈夫だろうし。
……つーか、何の話をしてたんだっけ?
「えっ、そうなのか? メラルはそんな事全然無かったから、知らなかったよ」
「「………………」」
それ、聞いちゃって良かったんだろうか。
月1の物が来ないって事は、つまり――――――いや、よそう。それは俺の管轄外だ。あくまで将来的に困るのはザギだから、俺には何の関係も無い。精々励み給え。
いやいや、頑張らなきゃイカンのは俺か。どうするよ、この重過ぎる下腹部。歩くだけで吐きそうなんだけど。俺の時はこんなに辛く無かったぞー。
「……ともかく、今日のフィオレーネさんは戦えません。我々だけで頑張りましょう」
「いや、私も行く」
何かキャンプに置いて行かれそうな流れだったので、全力でお断りした。せっかく来たんだから、狩りには参加したいよー。ぼっちは嫌なんじゃーい。
「ですが……」
「私には友愛のスキルが有る。逃げ回りながら、回復や支援に徹するさ。……頼むぞ、「ナッシュ」!」『シャークッ!』
という事で、俺はオトモガルク(名前は「ナッシュ」)の背に揺られて、後方保護者面である。頑張ってねー。
「――――――では、早速向かいましょうかぁ!」
出たな、豹変ルーチカ。現実で見ると、よりスイッチが入った感があるな。普通に怖い。
「分かった。油断せずに行こう。行くぞ、ナベシマ、ナベリウス」『頑張るみゃー!』『ヴォン!』
しかし、ザギは動じない。もっとずっと濃ゆい奴らに囲まれて育って来ただろうからな。特にウツシ教官。
ま、仲間意識が有るなら、それに越した事は無いだろう。ルーチカも平時の冷静な状態では寂しがってたからね。孤独は何より辛い物よ。
「……で、ルナガロンの居場所は何処かな?」
「どうやら、「エリア9」の“凍て付きの洞窟”に居るようだな。今は休憩中らしい」
「なら、早く行きましょう! そして、寝込みに奇襲を仕掛けて、そのまま叩き伏せるのよ!」
最高にハイって奴になってますね、ルーチカさん。もしかして、赫い結晶とか食べませんでした?
『グヴォオオオオオオオッ!』
「ぬっ!?」「ゴシャハギか!」
だが、森林地帯と寒冷地帯の境目である「エリア5」の広場で、ゴシャハギに出遭ってしまった。操竜して連れて行くか?
「あっはぁああああああん♪ けちょんけちょんで撃ち殺してあげるわぁ!」
おい、ブルファンゴ女ァ!
ヘビィは操竜し難いんだから、先ずはザギに行かせろよ!
『コォオオッ!』「はぁん♪」
その上、ブレスを真面に食らって氷属性やられになってるし。単細胞過ぎるだろ。
ア、アヤメさんとか、呼べませんかねぇ!?
あの人、確かライトボウガン使いだから、絶対に役に立つって!
「まったく、少しは落ち着いて……ん?」
と、その時。
――――――ォォォオオオ……ッ!
地鳴りの物とは違う、禍々しい雄叫びが響き渡り、
「はぁああああっ!」
『グヴォオオオッ!?』
黒紫の靄を纏った、ゴア・マガラ一式の双剣使いが、崖の上から飛び降りて来た。まさかのゆうた装備である。それも大剣を双剣として持つという、規格外のナイスガイだ。ヤバ過ぎるだろ。
『ガヴォオオオッ!』
「フッ!」
怒れるゴシャハギの咆哮が轟くも、ゴアの人は朧翔けで回避。そのまま背後に回り込み、集中込みの高速溜め斬りを決め、それを起点にズババァっと重々しい鬼人空舞に繋げた。
『グルヴォッ!』
「はぁああっ!」
『グォワァッ!?』
そして、反撃の氷刃ダブル一文字斬りをガードタックルで跳ね返し、続く薙ぎ払いを翔蟲も使わずに頭上を越えて後ろを取って、大剣を叩き付ける勢いで地面を捲り上げ、何とゴシャハギの巨体を宙に浮かべた。
「おらぁああああっ!」『グヴォオオオッ!?』
さらに、そこから螺旋斬に繋げて、エリアの端っこまで吹っ飛ばし、ダウンを取る。化け物か、この男。
「………………」
『グヴヴヴ……』
しかし、更なる追撃まではせず、逃げるゴシャハギを見送った。優しい人なのかな?
まぁ、よく分からんが、
「……済まない助かったよ」
「別に問題ない。むしろ、出しゃばって悪かったよ」
お礼を言ったら謙遜された。これはゆうたじゃありませんね。見た目だけで判断しちゃ駄目よ、ホント。
「君、もしかして、だけど――――――」
「……ボクは行く。還るべき場所へ」
ザギが何か言い掛けたものの、ゆうた装備の人は答える事無く、足早に立ち去ってしまった。結局、彼は何だったんだろうねぇ?
ともかく、操竜チャンスは逃したが、道中の邪魔者は消えた。いざ行かん、ルナガロンの下へ。
◆ゴシャハギ
どう見てもナマハゲな大型の牙獣種。別名はそのまんまな「雪鬼獣」。異名は「荒切りの凶猛」。
ベースはアシラ骨格であるが、鬼面と体格のデカさのせいで、かなりの威圧感がある。所謂“大食らい”の捕食者であり、極寒の地で体温を保つ為、広い範囲を彷徨いながら、獲物を探している。
体内に冷却器官があるのは他の氷属性モンスターと同じだが、こいつの場合は両腕が自由な為、氷ブレスを自分の腕に吹き掛ける事で「氷の包丁」や「氷の鈍器」を生成する事が可能である。明確な“道具”を作り、利用している事からも、本種の知能の高さが窺えるだろう。
ちなみに、結構喧しい唸り声を上げながら歩くので、騒音で餌場を荒らされる事が絶対に許せないヨツミワドウと仲良く喧嘩している姿が、時たま見掛けられる。