殺人ヒーロー ジャック・ザ・リッパー 作:謎多き殺人鬼
私はまた夢を見ているのか明かりの着いていない月光のみの何処か古い様式の家……と言うより事務所の様な所にいた。
私は辺りを見渡すと扉が開けられ中に入って来た人がいてその人は何処かアーサーに似ており、その腕にはコートに包まれた何かを抱えていた。
その人は腕に抱えていた物を下ろすとコートを取り払うとそこには緋色に似た少女が眠る様に死んでいた。
彼は少女を丁寧に血を拭き取り、怪我の痕を包帯で巻いた後、拳を握りしめた。
「……全部僕のせいだ……問題を解決する事が最善だと思った……彼女を匿う間に、敵の姿を暴けば良いと……だけど……違ったんだ。大切なものはこの手で守らないと。自分の知らない所で傷つけられ、奪われてしまう」
彼は大事な人を奪われたのだと理解した。
そうでなければ此処まで死んだ少女を運ぶなどまずない。
私は何故かそんな彼をアーサーの面影に重ねて見てしまう。
「ジャック。僕は……奴等が憎い。人から平然と大切なものを奪っていく奴等が憎い!そんな奴等が善人の顔をしてのうのうと生きている事が許せない!……お前もそうだったんだろ?切り裂きジャック」
私は彼の言葉を聞いて驚くしかなかった。
周囲を見渡しても何処にも切り裂きジャックはいない……なら、彼は何と、誰と話していると言うのか。
「……思うわけないさ。罪には罰を。犯した罪に向き合い、罰を受けるべきだ」
彼が誰と話しているのか分からない……だけど彼の言葉は私に重くのし掛かる。
罪には罰を。
その言葉は私の過去に起こした殺人と襲撃事件の際に傷付けたヴィラン達を思い出しながら私はうつ向く。
「僕が迷っていたからローリィは死んだ。もっと早く、こうすべきだった……お前の言う通り、悪を……」
悪を成し、悪を制す。
それは彼が言わなくても分かる言葉。
毒を以て毒を制すと同じ様に悪を以て悪を制す。
私はどうするべきだろう……
「……僕はいつだって迷って、目を背けてきた。それも今日で終わりだ。僕はもう、逃げない」
彼の目には決意と憎悪の火が灯っていた。
私は理解していた……でも、目を背けた。
彼こそがアーサー・ヒューイット。
切り裂きジャックの再来だと。
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私は次に目を覚ますとそこは知らない天井……と言うより一度は知ってる天井だった。
此処は雄英の保健室の天井だと分かり、頭を押さえながら体を起こす。
「気がついたか?」
「……緋色?」
「そうだ。ヴィランに襲撃されたって聞いて驚いたよ。来てみれば服は血塗れだったし正直、重症なのかと疑ったぞ。花咲の二人も来てたがもう帰ってしまったし、僕も帰らせて貰うよ」
「緋色。その……私が血塗れだった理由……聞いた?」
「……聞いたさ。ヴィラン達を蹴散らしたんだろ。君の個性で。だが、正当防衛の筈だ。君もA組も危ない所だったんだ。そうでなければ抗議するつもりだった」
「するつもりだったって言う事は……」
「正当防衛さ。明らかなね。相澤先生は重症で13号先生は……落ち込んでるけどヴィラン側にも死人は出なかったから安心して欲しい」
私はそれを聞くと安堵する中、緋色の位置とは反対にアーサーがいるのを確認した。
あの時……アーサーの姿が見えかったからどうしたのか気になっていた。
「(アーサー。今まで何処に?)」
『お前に取り込まれかけてた。ハッキリ言えば……怒りに呑まれた勢いで俺の魂とお前の魂が混ざり合いあったって所だ。それでも人格が分かれてたが』
「(魂……?)」
『俺もお前にも魂つまり、人格がある。それが混ざり合い、別の人格になりかけたって所だ』
アーサーの言う事は全く理解出来ないけどかなり危険な状態だったのは間違いない。
私はもうどうしたら分からなくなりそうになっていると緋色が私の手に触れた。
「どうした?顔色が悪くなったぞ?」
「……大丈夫……大丈夫よ……きっと……」
私は不安の中、両手を見る。
何でだろう……もう血は無いのに……真っ赤に見える……
「ジル。最近、可笑しいぞ。何が君をそこまで怯えさせるんだ?」
「私は……殺人鬼何かじゃない……私は……!」
「ジル……君は……」
私は緋色を見ると悲しげに見てくる緋色を見てしまった。
勘づかれた?
そうなら私は緋色を殺さなきゃいけないの?
私が不安や恐怖に陥る中、緋色は私を抱き締めた。
「大丈夫だ……君に何があったかは知らない……だがもし、君がもう折れてしまいそうなら私が支える。僕は何があっても君の味方だ。君の恐怖、君の不安も僕の物だ。……本当に何でだろうな。君を一人にしておけない。誰も君の辛さを知らないなら……僕が知る。君が良ければね」
緋色の優しいその言葉に私は涙を流して泣き崩れた。
リカバリーガールがいるかもと思っていたけど今はいないのか足音一つ聞こえない空間の中、私はただ、泣き続けた。
~別視点side~
襲撃事件から数時間が経過し辺りが暗くなる頃、緋色は難しい顔をしながら校門へと歩いていた。
「(人を殺した……か。思っている以上に大変な事になっているな……)」
緋色はジルの異変に気付き、訳を聞くべく少しずつ紐解いて聞き出した事が連続強盗殺人事件の犯人はジルが殺したと聞き出した。
緋色はその事実に驚きながらもそれを周囲に知られない為に口をつぐみ、墓まで持っていく事を決めた。
もはやジルと緋色は事実上の共犯、秘密を共有した仲となった。
「(しかし……今のジルは不安定だ。殺人鬼の人格が表に出始めてる今、彼女の意思は……)」
「お嬢」
緋色はお嬢と呼ばれた方を見ると黒塗りの車と体格の良い男がいた。
「遅いですよお嬢……もう夜じゃないですか」
「ごめんごめん。少し友達が落ち込んでてね。慰めていたら遅くなったよ。じゃあ、帰ろうか」
緋色はそう言って、男が後部座席の扉を開けた車に乗り込むと男は扉を閉め、運転席に乗り込むと車を走らせた。
「それにしてもお友達が落ち込んでいるとは何が起きたのですか?」
「女同士の秘密だ。言わないよ」
「そうですか……しかし、雄英もしっかりして欲しいですね。ヴィランが侵入してきて襲い掛かってきたと電話が鳴った時は親父達がカチコミに行きかねない程の騒ぎになりましたよ」
「それは僕が直接、電話で止めただろ?本当に過保護で困るよ」
緋色はそう言って苦笑いしながら言うとすぐに難しい顔に戻り、ジルのこれからを考えた。
~side終了~
私は緋色に秘密を打ち明けた後、リカバリーガールから帰宅する許可がおりて家に帰った。
母さんにまた心配させてしまった事を思えば気が重くなる中、私は家の玄関の扉を開けた。
「ただいま……」
私がそう言いながら玄関を閉めようとした時、私は微かに普段なら絶対にしない筈の匂いを感じた。
「……鉄臭いの匂い……ッ!?母さん!!」
私は嫌な予感がした。
そんな予感なんて当たらないで欲しいとばかり考えてリビングに急いで来るとそこには血塗れで倒れている母さんがいた。
手には警棒を手にしている事から抵抗しようとしていたのが分かる。
身体には銃で撃たれた様な痕がハッキリと残っており、私は鞄なんて投げ捨てて血に触れる事も構わず母さんを抱き上げた。
「母さん!しっかりして!母さん!!」
「……ジル?」
「母さん!?」
「ジル……ごめんなさい……私……貴方の苦し……み……に気付け……なかった……」
「苦しみ?」
「……殺人を……してしまった……のでしょ……?」
私は驚いていると母さんは笑って私の頬を撫でた。
とても弱々しいその手を私は触れずにいられなかった。
「此処にね……急に誰かが押し掛けてきて……抵抗したけど撃たれて……」
「もう良い!早く……病院に……!!」
「ボヤけて……分からな……かったけど………声……は……女性で……その……人か……ら……貴方が……殺人犯……だと……言われて……貴方が最近、塞ぎ込んで……た……のは……それが理由……なんだって知って……私……気付いてあげられなくて……」
「母さん……!」
「ごめん……なさい……ジル……復讐に走ら……ないで……貴方は……ヒー……ローに……なるの……よ……殺人鬼……じゃない……誰に……でも慕われ……る……ヒーロー……に……」
母さんはそう言ってゆっくり静かに瞳を閉じると完全に力が抜けてしまい死んだ事が分かった。
分かりたくなくても……分かるしかなかった。
母さんは……死んだ。
「母さん……母さん……!」
『泣くなジル。酷な事だが……もう』
「お前に……何が分かるのよ!殺人鬼が母さんの死に対して!!」
『俺も母さんを殺された。だからお前の気持ちは分かる』
アーサーはそう言って女性を象ったカメオにそっと撫でた。
『母さんは警告の為に殺された。ある事件を父さんに追わせない為に。刺客を送り込まれて一人になった所を』
私はアーサーに言った事は暴言だった事に気付いてただ、落ち込むしかなかった私にアーサーは言う。
『辛くても向き合うしかない。お前の母親は何の為に殺されたのかは今は分からない。だが、このままで良いのかと思うのはお前自身だ』
「……良い訳がない。母さんを誰が殺したのかは分からない……一体何処の誰で何の為に殺したか……そんなのはどうでも良い……分かる事は一つだけ……母さんを殺した奴が許せない!!」
『罪には罰を。犯した罪に向き合い罰を受けるべきだ。だが、世の中にはその報いを受けない悪が山程いる。先代と俺。切り裂きジャックはそれが許せなかった。弱者を虐げる者。権力さえあれば思い通りになるなんて思ってる者。罪を犯しながら平然と暮らす者。そんな奴等が山程いてそいつらに振り回され続ける世界。そんなの許せるか?』
「答えなんてもう、知ってるでしょ?……この世界には悪党が多すぎる。間引きが必要ね」
『ジル。止めるつもりは無いが……それは茨の道だ。それ以上、進めばお前は悪党。つまりヴィランになる。それでも良いか?』
「私は何度も迷って、目を剃らして現実を見なかった。その結果が母さんの死なら……それが私への報いなら……それで構わない。私は……もう逃げない」
私は拳を血が出る程に強く握りしめ、決意を固める。
悪は私が裁く、その過程で必ず母さんを殺した人を……奴を見つけ出し、報いを受けさせてやる。
私は鏡の前に立つと自分の今の姿を見た。
雄英の制服に身を包んだ私。
かつてはヒーローになりたいと思った……今はもう……復讐の事しか頭にない……私は三つ編みを結んでいるリボンを取ってしまうと両目が紅くなる。
「行きましょう相棒……私達が」
「俺達が」
ジャック・ザ・リッパーだ