殺人ヒーロー ジャック・ザ・リッパー 作:謎多き殺人鬼
~別視点side~
死穢八斎會の若頭、治崎 廻ことオーバーホールは苛立っていた。
計画遂行の為の準備をしていた矢先に獅子皇会の神速 緋色が抗争を仕掛けて来て死穢八斎會の各地の縄張りは荒れたり、奪われてしまう始末だった。
人材の質は負けていないが物量で勝る獅子皇会が相手では部が悪い。
だから抗争を避けてきたつもりだったが獅子皇会の会長、神速 英一郎を意識不明に追い詰めたと言う"言い掛かり"を言われた"一方的な宣戦布告"だった。
「あの小娘め……!」
「恐らくは……獅子皇会を含めて俺達は嵌められたと思いやす。個性消失弾の作成に投資した物好きのあの組織……」
「グリーン・メイスンか?」
若頭補佐の玄野 針ことクロノスタシスと話していたオーバーホールは思い返すとグリーン・メイスンと接触したのはグリーン・メイスンの使者と名乗る者が屋敷に来た事から始まった。
最初はロンドンの都市伝説めいた組織名や緑の外衣と無機質な仮面の姿に不審に思いつつも何処から聞いてきたのか個性消失弾に投資をしたいと持ち掛けてきた。
オーバーホールは投資は歓迎しても訳の分からない輩を信用するつもりはなく個性で分解してしまおうかと考えたが使者がアタッシュケースを前に出して大金を見せてきた。
それも三つ、しかも前金として簡単に置いたのだ。
計画遂行の為には多額の資金が必要であり、オールフォーワンが亡き後、覇権争いに勝つ為にもグリーン・メイスンの話に乗り、最初の見返りとして未完成品の個性消失弾を融通したのだ。
最初は名を挙げつつあるヴィラン連合を傘下にして資金と戦力増強を考えていたがそれを取り止めていた。
「どちらが勝っても損は無く……寧ろ、どちらが倒れてもグリーン・メイスンがやりやすくなると言う事か」
「奴等の思惑にこれ以上乗れば計画どころか組も潰されます!!抗争の件は兎も角、奴等とは手切れをしましょう!!」
「手切れを出来たとしてもその先だ。これが陰謀か知らないが獅子皇会が本気で俺達を潰しに掛かってきている。どちらにしても……詰みだ」
オーバーホールはそう言って獅子皇会をどう退けるか或いはどうやって計画を守るかと思考を廻らせているとそこは死穢八斎會の組員が慌てた様子でやって来た。
「すみませんオーバーホール!壊理が逃げ出しました!!」
その言葉を聞いたオーバーホールは静かな怒りを見せた。
~side終了~
私は服装変えてと顔をフルフェイスのマスクで隠した綾乃と共に抗争が繰り広げられている東京近郊に足を運ぶとそこはまるで戦場の様に荒れ果て、一通りも無く、血の跡が残っている道路もあった。
「酷い……」
「これが私達が天然記念物扱いしてた極道達の争いの跡ですか……怖いですね。巻きこまれたら一溜りもありませんよ」
夜でなくても指名手配の私が平然と歩ける位に一通りの無い道を歩くけど……。
「何よそのマスク?」
「うーん……趣味です。カッコいいですよね?」
綾乃が何処かキラキラした視線を向けてくる姿に意外だと思いつつ適当に頷く。
綾乃は万が一に私と行動している姿を見られても良い様に自身の服装を変えた……でも、そのフルフェイスのマスクを着けるのは逆に目立つと思っていると小さな何かにぶつかった。
「ん?子供?」
私にぶつかったのは角を片方生やした小さな女の子で、腕や足に包帯を巻いている痛々しい姿をしていた。
それに怯えた表情も見せている。
「ジャック様」
「……ねぇ、どうしたの?その包帯はどんな理由で巻いてるのかな?」
只事ではない……私はそう判断して声を掛けてみたけど人見知りなのかはっきり言ってくれない。
「どうしましょうか……?」
「そうね……」
「駄目じゃないか。人に迷惑をかけちゃあ」
私はその声を聞いて視線を向けるとそこには嘴の様なマスクをした男が女の子を見下ろしていた。
「すみませんね。うちの娘が。帰るぞ、エリ」
「あ……あぁ……!」
男は女の子ことエリに帰る様に促している……そして女の子は怯えている……包帯を巻いた怪我……これは……。
「すみません。貴方が保護者ですか?」
「そうですが……貴方は?」
「いえ……通りすがりです。しかし、この女の子……エリちゃんの包帯ですが。明らかに不自然ですね……何をしたらこうなるんですか?」
「遊び盛りでしてね。怪我が多いんですよ。困った物です」
そう言う言い訳がとても多いの……子供を虐待して目立つ傷を作る様な親がね。
見て分かる位に異常な怪我……事故で受けた傷って言った方が信憑性はある。
点定的な言い訳だけどこの男……私が誰だか知ってても穏便に済ませたがってる。
「へぇ……遊びですか。どんな遊びで?」
「追い駆けっこですよ。それで階段から転げ落ちてしまってね」
「それにしては痣とかないですね。それに……この傷は切傷。明らかに何かで切った様な傷よ。お父さん?」
「……あくまでも家の関係ですよ。殺人鬼さん。あんまり……関わらないで頂きたいものですね」
男は明らかに苛立ちと殺気を見せ、私は綾乃にエリちゃんを預けていつでも戦闘が出来る状態でいた時、私の肩に誰かが触れた。
「すみません。少し伺ってもよろしいですか?」
「……ヒーロー?それに……」
「ジル……!?」
そこにはヒーローと出久がいて私達が今から何をしようとしていたのか悟って来たのかまたは、このエリちゃんを見て来たのか知らないけど取り敢えずこれで下手な戦闘は出来なくなった。
「何ですか?」
「いえ、何処か険悪な雰囲気になってましたので喧嘩かと?」
「違いますよ。この女がうちの娘にしつこくてね……それで揉めてたんですよ。お連れの方は何をしてるんだか」
こいつ、私達のせいにして来やがった。
でも、明らかに女の子の身体の傷がおかしい事に嫌でも気付く筈……どうするヒーロー?
「その素敵なマスクは八斎會の方ですね!ここら辺じゃ有名ですよね!」
「えぇ。マスクはお気になさらず……汚れに敏感でして」
八斎會……!!
こいつ、死穢八斎會のヤクザって事ね。
こいつが緋色を……緋色のお父さんを狙った奴等の一人なら此処で!
「すみません!うちの連れが!もう揉めませんので許してくれませんか?」
「ちょっと……!」
「分かってます……しかし、今ではありません」
綾乃の言葉に私は納得出来ない気持ちを押さえながら男を睨み付けているとヒーローはにこやかに首を横に振った。
「残念ですが個人的に貴方方に事情聴取しなければいけませんので。帰らないで下さいね」
「そうですか……」
綾乃の軽く舌打ちする音を私は聞いた後、男はヒーローと出久を追及するつもりなのか逆に質問してきた。
「お二人とも初めて見るヒーローだ。新人ですか?随分、若い」
「そうです!まだ新人なんで緊張しちゃって!さ!相棒。彼女達に話を聞こうじゃないか!」
「何処の事務所所属なんです?」
「学生ですよ!所属だなんて烏滸がましいくらいのピヨッ子でして……職場体験で色々と回らせてもらってるんです」
このヒーローは学生だったのね。
見てない顔……つまり、私の元先輩。
成る程ね……先輩はこの男が何者か知っているけど手は出さない。
それは学生としてもそうだけど世話になっている事務所から何かしら事前に教えられている事があるって事も考えられる。
例えば……この子の事とかね。
「学生さん。なら、この子の状態を見てどう思う?明らかに……虐待だよね?」
「それは……」
「あの!」
先輩が何か言おうとした出久が切り出してきた。
「娘さん。怯えてますけど?」
「叱りつけた後なので」
「いやぁでも。遊び盛りって感じの包帯じゃないですよね……」
私は何故、出久が急にそんな事を切り出したのかと疑問に思っていると私の服を女の子が強く握っていた。
怯えて、涙を流して、誰かに助けを求めている姿……私はその姿を出久が見たからなのか事情なんて省みずに男に問い質したのだ。
「よく転ぶんですよ」
「さっきから聞いてれば……お前。ふざけてるの?どう見てもこの子はお前を見て怯えている!普通じゃないでしょ!!」
今度は綾乃が男を問い質し始めた。
助けを求めていたエリちゃんと過去の自分と重ねたのかマスク越しでも分かるくらいに怒りを露にしている。
「その人の言う通り……こんな小さな子が声も出さずに震えて怯えるって普通じゃないと思うんですけど?」
「人の家庭に自分達の普通を押し付けないで下さいよ」
「性格は様々だよね」
追及する出久に男はシラを切り、先輩はまるで一刻も早くその場から去りたいと言いたい様に出久に追及を止めさせようとしている……普通なら出久の様に追及を仕掛けてもおかしくないのに。
何かある。
私達はもしかしたらとんでもないヒントに廻りあったかもしれないわね。
「この子に何をしてるんですか?」
「……ふう。全くヒーローは人の機微に敏感ですね。それに貴方方にも。分かりました。恥ずかしい話です。実は最近、エリについて悩んでまして……何を言っても反抗ばかりで」
「子育て……ですか?大変ですね……」
「えぇ……難解ですよ。子供は。自分が何者かになる、なれると本気で思ってる」
男がそう言って手袋を脱ぎ掛けた時、エリちゃんが男の元へ駆け出してしまった。
「何だ……もう駄々は済んだのか?」
男のその言葉にエリちゃんは頷くと出久が追い掛けようとした所を私は止めた。
あの男……なんて殺意を見せてくれるのかしら。
明らかに多くの修羅場を潜り抜けてきた猛者……下手な事をしたら無事じゃ済まない。
でも、一言だけ言ってやるわ。
「必ずよ。必ずお前が何をしようとしているのか暴いてやるわ。八斎會!」
「……何の事か分かりやせんね」
男はそう言ってエリちゃんを連れて言って路地の闇に消えてしまうと私は先輩と出久の方へ視線を向けた。
「それで?何がしたかったの?」
「何の事か分からないね。ジャック」
「やっぱり気付いてた……まぁ、ヒーローを目指すなら指名手配犯の顔くらい覚えるわね。先輩?」
「残念だけど今の君に先輩と呼ばれたくないな。此処で君を捕まえても良いんだよ?」
「でも、騒ぎは極力起こしたくない……そうでしょ?貴方達が世話になっている事務所で何をしようとしているのか知らない。でも、私は行動を止めないからね。それと出久」
「なに……?」
「……良い判断だったわよ。あの場で追及一つせずにそそくさと行ってしまってたら……貴方達の計画は水の泡だったのかもね」
私はそう言って笑って見せると出久は綾乃の方に視線を向けた。
「この人が君の協力者なの?」
「オールマイトの件は関わってない方のね。最初に言っておくけど撃った私のもう一人の仲間は……酷く後悔してるからあまり責めないであげて。私がモタモタしてたせいだから」
私はオールマイトの事を思い出して暗い気持ちになる中、出久の心の真意は分からない……もしかしたら憎んでるかもしれないし、憎んでないかもしれない。
私は協力者が複数いると言うヒントをあげてしまったけど別に支障はない。
「やっぱり……君の仲間が……」
「君達は……何をしたのか分かってて言っているのか?オールマイトを……平和の象徴を壊した!平和の象徴がいなくなった事で平然と抗争を起こして!皆を苦しめる輩が増えたんだよ!!例え正義の為でも悪い方向に進んでは意味は無いんだ!!」
「そうね……私達のせいよ。それは揺るぎない事実よ先輩。だからそれに見合った報いを……受ける事になる覚悟をしてる」
私の言葉に先輩は何も言わず、ただ苦しげな表情で私達を見ていたけど私は綾乃と一緒に立ち去ろうとする。
「ジル!!」
「出久。そろそろ答えを聞かせてね。私の言った事。ちゃんと返せるかどうかをね」
私はそれだけを言うと綾乃と一緒にその場から去って行った。
~別視点side~
暫くして出久と通形はヒーロー、サー・ナイトアイの元へやって来ていた。
「すみません!事故りました!まさか殺人鬼、切り裂きジャックと治崎が接触するとは」
「いや、これは私の失態。事前にお前達を見ていればふせげた……いや、ジャックがいた時点で駄目だったと思うが対策は出来た」
「取り敢えず無事で良かったよ!下手に動いて怪しまれたら危なかったかも」
「ジルは兎も角、そんな恐ろしい感じには……」
「先日、強盗団が逃走中に人を巻き込むトラック事故を起こした。巻き込まれたのは治崎ら八斎會。だが死傷者はゼロだった。」
サー・ナイトアイのその説明に出久は不審に思わず疑問の表情を浮かべるとサーナイトはそれを見越して更に説明する。
「強盗団の連中は激痛を感じ、気を失ったが何故か傷一つ無く、どころか持病のリマウチや虫歯など綺麗に治っていたそうだ。治崎の個性だと思われるが結果的に怪我人ゼロのヴィラン逮捕となった為、特に罪には問われなかった」
「でも、奪われたお金だけは綺麗に燃えて無くなっちゃったんだって。警察は事件性無しって結論を出したけどどう考えても怪しいって事でナイトアイ事務所は本格マークを始めたの。何を考えてるか分からないけどやる時はやる奴ってこと」
サー・ナイトアイのサイドキックであるバブルガールの補足の説明が終わると通形が手を挙げた。
「あ、そうだ!サー!!怪我の功名と言うか……新しい情報を得ましたよね!治崎には娘がいます!」
「娘……?」
「エリちゃんと呼ばれてました。手足に包帯が巻かれていました……とても怯えていた。何も分からないけど助けを求めていた……!どうにか保護してあげられていたら……」
「傲慢な考えをするんじゃない」
「そんな……」
サー・ナイトアイの冷たい言葉が出久に突き刺さった。
「事を急いては仕損じる。現在、此方も他事務所にチームアップを要請中だ。焦って追えば益々逃げられる。救けたい時に救けられる程に貴様は特別じゃない。まず相手が何をしたいのか予測し、分析を重ねた上で万全の準備を整えねばならない。志だけで救けられる程、世の中甘くない。現に切り裂きジャックの行き当たりばったりのその後を考えない行動によって世の中は大きく荒れ果てた」
だが、更に人によってはその後に起こる影響を全く考えない行き当たりばったりの無責任な殺人鬼とも捉えられる。
ヒーロー達は
そして平和の象徴であるオールマイトを意図せず撃った共犯者が平和にトドメを刺したのだ。
サー・ナイトアイは出久だけでなく、この場にいないジルにすらその甘さを指摘したのだ。
「真に賢しいヴィランは闇に潜む。時間を掛けねばならない時もあると心得ろ。決してジャックが正しいと思わずにだ。今日の所は二人共事務所に戻っていろ。バブル、行くぞ」
「あ、はい!」
出久の胸に大きな痼を残して初日のインターンは終わった。
これから起きるのは何なのか分からない闇の中を出久は歩くしかなかった。
その姿と会話を撮っていた綾乃の小型のドローンが飛んでいた事にも気付かずに。