殺人ヒーロー ジャック・ザ・リッパー 作:謎多き殺人鬼
死闘を演じてグリーン・メイスンの本拠地から脱出した私は町外れの薄い霧に包まれ、月光を照らす夜道を歩いていた時、後ろに気配を感じて足を止めた。
「……来たわね」
私はそう呟いて振り向くとそこには息を切らした出久がそこにいた。
「ジル……!」
「来ると思っていたわ。私達はまだ決着を着けてない。覚悟が出来たなのなら構えなさい」
「待ってよ。僕は……!」
「出久。貴方は何なの?」
私のその問いに出久は何処か思い詰めた表情を見せた……彼もきっと何処か迷いを抱いてるのかもしれない。
「貴方はヒーロー?それとも単なる偽善者?」
「違う!!僕は……ヒーローだよ。望んでヒーローになろうとしてるんだよ!!」
「だったら前の質問に答えなさい。捕まえたヴィランが裁かれずに釈放されたら?」
「……また捕まえるよ。何度も罪を犯すなら何度でも」
この質問はエッジショットも似た様な事を言ってたわね……なら。
「証拠が集まらなくて、逃げられて、捕まらないまま何度も犯罪を犯されたら?」
「諦めないで追うよ。エンデヴァーの様に諦めずに最後の最後まで!」
あら、オールマイトファンの貴方がエンデヴァーの事を口にするとは思わなかった。
でも、確かに彼の行いは綾乃を救う一因になっていたかもしれない……私の手さえ取らなかったら。
「なら、この二つが上手くいかなくて泣き寝入りするしかなくなった被害者や遺族に弁明するの?」
「何度でも頭を下げる!!それで最後まで諦めないって言い続ける!!僕は……ヒーローになりたい……どんな人達でも助けられるオールマイト……他のヒーロー達の様になりたい!!だから僕は……君を救けたい!!」
「……質問に関係の無い事は言わないで」
「何度拒絶しても僕は君を闇から引っ張り上げる!!僕はもう……君に血で手を汚させたくない!!優しい君のままでいて欲しいんだ!!だからジル!もう止めよう!!」
「関係無い事を言うなって言ったわよ?」
私がそう短く威圧的に言うけど喋る事は止めても私と対峙する姿勢と強い意思を持つ瞳の輝きは変わらなかった。
出久……貴方は見ない内に強くなったのね。
最初に出会った頃は気弱で……情けなくて……いつも勝己に虐められていた中学のあの頃と比べてもその変化は大きい。
もう情けない姿は無く……虐められていた気弱な姿も無く……そこにいるのは本当の意味で決意を秘めたヒーローの姿そのものだった。
「なら、私の復讐は正当ではないの?身勝手に奪われて……なのに誰も犯人を捕まえてくれなくて……そいつは裁かれないでのうのうとしてたのに」
「復讐なんて果たしても誰も喜ばないよ!きっとジャスティスも君のお母さんもそんな事を望んでいない!君の言う悪は殺すんじゃなくて捕まえて正さないと!今じゃなくても……いつかきっと正義は成される!相手が悪人だから殺すのは……間違ってるよ!!」
「そうね。悪を殺す事は悪よ。それは間違いじゃないわ。出久……貴方が正しいわ。どんな理由でも人を殺す事は最低な行為よ。相手の生命を奪い、未来を奪い、想いを踏みにじる。そんな事はあってはいけない……あってはならないのよ」
私はそう言って拳を握りしめた後、私は自分が貫く決意を込めて出久に言う。
「悪は全て裁かれるべきよ。自分の成した罪を償う為に法に裁かれないといけない。だけど、世の中には平気で悪を成す輩がいる。そんな悪人が裁かれず、逃げ隠れして平気な顔で暮らしてるの。法の目を逃れた悪は、誰が裁くの?隠れている悪は、誰が暴くの?警察?ヴィジランテ?それともヒーロー?」
「僕達だよ。警察も、ヒーローも。それが駄目なら僕が暴いて、法の裁きに掛ける」
出久……貴方も言う様になったわね……でも。
「出久……残念だけど違うわ。法の裁きになんて、誰も掛けられないのよ。だけど……法に縛られない
「それでも!それでも人を殺す事は許されないよ……僕は君は正しい人間だって信じていたのに!!僕が君を此処で止めるよ!殺人犯、霧先ジル!無駄な抵抗は止めて捕まってくれ!!」
出久はそう言って身構える姿に私は微笑んだ。
とても勇ましく、オールマイトにも負けないその輝きと力強さに私はとても嬉しく思えた。
「(アーサー。貴方にも見せたかったわ)」
そう……彼はとても真っ直ぐで、眩しくて、素晴らしいのよ!
私とは反対の道に進んだ彼のその姿に敬意を称さないといけないわね。
私は個性でナイフを生み出して手にすると私も身構えた。
「来なさいよ出久!!貴方の正義が、決意が本物なら、私に勝てる筈よ!私を止めて見せなさい!貴方の手で悪を捕まえて見せなさい!悪は正され、正義が成されると証明してよ!!」
「言われなくてもそのつもりだよ!!」
私達は同時に駆け出すと出久は拳と蹴りを振るい、私はナイフを振るう。
何度かの戦闘の最中、私は出久に問う。
「出久!貴方の言う正義がこの世にあるなら!どんな悪人でも裁く事が出来る筈よ!だけど現実はどう?母さんも父さんも……緋色も殺された!その元凶、グリーン・メイスンはさっきまで罪に問われなかった!殺すしか無いの!殺して止めるしかないの!!悪人を一人でも生かしておけばこの先、百人が苦しむ事になるのよ!!」
私はそう言って一歩引いてから地面を蹴って出久に飛び込んで切り掛かる。
「悪は殺す!悪人は私が裁く!!。悪を成す人間がいなくなれば世界に残るのは善人だけよ!誰もが幸せで、争いの無い、善なる世界になる筈よ!」
私がそう言い終わった時、出久は私のナイフを持つ腕を掴んで力一杯に押さえ付けようとしてくる。
「でも、そこに君はいないじゃないか!!」
「それでも良い!!」
私はそう言って一瞬の隙を突いて出久を蹴り飛ばすと出久はすぐさま体勢を整えて身構える。
「そんな事!そんな事って……!間違ってる!!」
出久はそう叫んで私の元に飛び込んで来た。
「誰かが幸せになる為に、誰かが犠牲になるなんて……そんなの間違ってるよ!!」
体育祭でオールマイトから聞いたシャーロット・ピースレイの言葉だった。
きっと……出久はその言葉を覚えていたのね……
私は出久の猛突をあしらうと連想で何度もナイフを振るい、出久はそれを躱す。
「今じゃない!世界はそう簡単には変わらないよ!だけど、自分が悪である事を認めちゃいけないんだよ!悪を以って悪を制する道を選んじゃいけないんだ!僕達は耐えないといけない。苦しまないといけない!大切な者が奪われるかもしれない!」
私が次にナイフを振るうとまたナイフを振るう腕を止められてしまった。
「それでも、復讐は次の復讐を生むだけ。復讐の連鎖は、止めないといけないんだ!!」
「私は守れなかったのよ!!いつもいつも奪われた……苦しんで、耐えて、それでも奪われた!もう……私には何も残ってない……だからせめて、誰かが奪われない様にこの命を使う」
「どうして、君は……そこまで……!」
私はまた蹴り飛ばすと出久にナイフの刃先を向けて対峙し、出久も負けじと身構え続ける。
次で決まる……
その予感は出久にも感じている筈。
「出久!!私達の目指す所は同じ筈よ!!」
「でも……!手段は全く違う!!」
「貴方は私の選ばなかった選択をした!貴方の目指す正義が本物なら、私の様な悪は全て捕まり、裁かれ、正される筈よ!!私は
「ジィィルゥゥゥ!!!」
私達は同時に飛び出すと私は突き出された拳を避けようとした時、黒い紐の様な何かが私を拘束しようとしてきてそれを咄嗟に避けると出久が必殺技を放とうとしてきていた。
「
その必殺技は間違いなくオールマイトの必殺技だった。
でも、私が過去に受けたオールマイトの技と比べれば対象出来ない訳ではなかった。
私は出久が放つ前に一気に離れて使用と同時に素早く接近し直すと強い蹴りを入れて飛ばした。
流石の出久もまともに外したのは予想外だったのかまともに防御も出来ずに受けてしまい、立てずにいる。
「出久。残念だわ」
「ジル!!」
出久は立ち上がろうとするけど全く立ち上がれずにいる。
普段ならそんな事にはならないと思うけど恐らく、グリーン・メイスンとの戦闘に続いて私とも戦ったから疲労がピークになったのだと思った。
何しろ数だけは多いし、私に追い付くのに何れだけ急いできたのかと考えれば無理も無い。
「出久。貴方の負けよ。大人しく引き下がりなさい」
「まだだ……僕は……君を止めないといけない!これ以上……悲しみを増やす訳にはいかないから……!此処で止めないと君はまた人を殺してしまうから……!」
「あら、そう……なら、早く撃てば?必殺技をね」
私はそう言って隙だらけな状態でそう言った。
「止めたいなら撃ちなさい。出来るでしょ?ほら……早くしてよ?」
「うぅ……出来るよ……絶対に君を……止める……!!」
出久はそう言って必殺技を出そうとし、私はそれを阻止もしないで見つめていた。
彼にはもう撃つ気力は無い。
撃てたとしてもそれがまともな威力で出る事も無い。
出久は……既に詰んでるのよ。
「うおぉぉぉぉッ!!」
出久は必殺技を撃とうとした時、そのまま身体が地面に倒れてしまい、荒い息を吐いた。
「はぁ…はぁ……ジル!僕は……それでも!それでも僕は……!」
「……そうね。出久。それで良いのよ」
私はそう言って倒れた出久の所へ言くと頭を優しく撫でた。
「無理なんてしなくても良い。いつかきっと、犯罪も争いも無い世界が、悪人のいない世界がきっと出来る。他の誰かじゃない。私が作るわ。何年、何十年掛かるか分からないけど、悪党どもは残らず殺して回るわ。悪には容赦はしないわ」
私はそう言いながら出久に少しだけ過去の私の笑顔を見せてあげた。
出久は驚いた表情を見せるのに私はいつもの出久だと思えた。
「そうして最後に、この世界に悪が私しかいなくなったら。私を捕まえるのは……出久。貴方かもしれないわね」
「ジル……!」
「全く……貴方はきっと慌てて来たんでしょ?連絡はしといてあげるからゆっくり寝ていなさい。あと、皆によろしくって伝えておいてね」
「待って……!待ってよ……!!」
「さよなら……出久」
私がそう言い終えると出久は気を失ってしまい、私は出久を抱き抱えると近くにあったベンチに寝かせておいた。
「本当に……さようなら……きっとまた会う時は……ヒーローとヴィランの立場よ」
私はそう言ってから近くの公衆電話を使って一番信頼出来る雄英に電話した後、闇に紛れる様にその場から早足に去る。
これからも私は悪を裁く……それは絶対に覆らない。
だから必ず、私の目指す理想を叶えて見せる。
そこに出久達、ヒーローが立ちはだかっても必ず。
でも、もし……捕まえてくれるのが出久なら……私としては本望かもしれない。