殺人ヒーロー ジャック・ザ・リッパー 作:謎多き殺人鬼
私はフォールン・救火の率いるアズエル教会を調査する為に人目を避けつつ教団員を追い、その教会があるとされる位置まで来るとそこには何の変哲も無さそうな大きめな礼拝堂が一つだけあった。
「(此処がアズエル教会?)」
『そうらしいな。どうする?一度入ってみるか?』
「(大丈夫なの?私はヒーローじゃない。下手な事をしたら雄英や父さん達に迷惑を掛けるわ)」
『制服着てねぇんだから大丈夫だ。それにさっき入っていった信者らしい奴がいたが奴等の服装を見た限り、どんなご身分でも歓迎らしい。別に悪さをするつもりも無いんだ。だったら堂々と入らせて貰おうぜ』
「(本当に大丈夫なのかしら……?)」
私はアーサーの言葉に不安を抱きつつも、教会へ近づくとドアノブに手を伸ばして扉を開けた。
中には信者らしき人々がおり、静かに座って何かを待っている素振りだ。
私は取り敢えず席を探して歩いていると視線に笑顔で手招きしている丸眼鏡の少し質素な服装をした女性がいた。
隣が空いているのが分かり、綺麗な人なのにもう少し着飾らないのかな、なんて思いながら私は遠慮なく座らせて貰った。
「ありがとうございます。助かりました」
「良いのよ。貴方、若いわね。学校は良いのかしら?」
「はい。少しの間だけ……休んでいるんです」
「……訳ありなのね」
女性は悲しげな表情を見せるけど私は不安にさせまいと無理矢理に笑顔を作ってみせた。
私の胸にポッカリと穴が空いた様な感覚……もう二度と会えない母さんの事を思うと悲しくなる。
「えぇ……そんな感じです。貴方は?この時間です。仕事をしていてもおかしくなさそうですが?」
「私は今は働いていないの……肺を患っていてね。薬が無かったら咳も止まらないし、呼吸もまともに出来ないの。それに……この前、私の夫が捕まったの。私の為にヴィランになってお金を奪ってくるなんて事をしていたの。……どうしようもない人だった。でも、良い所もあるのよ。私の為に辛い気持ちを隠して私を励ましてくれるの。それに捕まったと言ったけどあの人は自首をしたそうなの。自分からじゃなかったけど最後に狙った雄英の子に救けられたんだって話してたわ」
「(それって……)」
『おいおい、なんて偶然だ。あのヴィランの妻かよ』
本当に驚かせる偶然だった。
偶然、入ったこの教会で偶然、あの時のヴィランの奥さんに会う。
世間は思っている程、狭いのだと認識させられるわね。
「夫がヴィランだからと周りから冷たい視線や嫌がらせはあるけど夫が勇気を出して自首をしたのに私が逃げる訳にはいかない。私は……この教会で祈りながら帰ってくるのを待ってるつもりよ」
「そうですか……」
彼女は顛末を言い終えたのを私は確認すると私もお返しにと何故、休んでいるのかを答える事にした。
「私は……母さんが殺されたんです。父さんと帰ってきた時には……死んでいました。葬儀や火葬で暫く、休む事になりまして……引き込もっていました。ですがやはり、気分を変えて前に進む為に一度、外に出て此処に行き着きました。入ったのは……興味です」
嘘は言っていない。
言いたくない所は省いて説明しただけ、私が自首を促したその雄英生と思わせず、そしてアーサーの事も隠す為に所々を抜いた。
彼女は疑わなかったらしく悲しげな表情を見せた。
「辛かったわよね……貴方のお母さんが殺されてしまうなんて」
「……母さんが殺されてから私は分からなくなってしまったんです。この悲しみを、怒りはどう向けるべきか。私は母さんを殺したヴィランが許せない。でも、だからと言って殺したい程なんて思ってもいない。私は……」
「怒っても良いの。悲しんで良いの。貴方は憎しみに囚われず、自分が正しいと思える判断が出来るのならきっと、大丈夫」
私はその言葉に心の何処か引っ掛かりを感じていた何かが取れた様な気がした。
「貴方は強い人ですね……」
「そんな事はないわ。現に私は此処に来たから」
「それってどういう意味で?」
私はその言葉に疑問を持ち、聞いたが奥からフォールン・救火が現れ、女性は人差し指を立てて静かにと言う仕草を取った。
「皆様。お待たせしました。これより祈りの時間とさせて頂きます」
「(祈りの時間?……意外と普通なのね)」
私は宗教でもよくある様な事に首を傾げているとフォールン・救火は続ける。
「この祈りの時間によって今回の救済される方が決まり、その方は現世の枷から解放され、神聖な炎によって救われるでしょう」
「(救済される方?現世の枷?それに神聖な炎?……何だろう……急に胡散臭くなってきたわね)」
『新興宗教なんてそんなものだ。具体的に何されるか言ってないな……奴等の言う救済とは何か……気になるよな?』
アーサーの言葉に私は軽く頷くと聖歌が流れ、信者達は一斉に下を向いて目を閉じ、両手を合わせると祈りを捧げ始めた。
私もそれに習いつつ薄目を開けて周りの様子を伺うと聖歌はフォールンが聖歌を歌っており、その声は天にも届きそうな程の歌声だ。
だが、周りの教団員達は祈っていない。
寧ろ、何か……選別してる様子だ。
うつ向きながらで尚且つ薄目で見てるからよく見えないけど教団員は祈りを捧げていた男の人に話し掛けると連れて行き、奥にある重厚な扉を開けてそのまま中に入ってしまうと再び閉じられてしまった。
『怪しい扉だなジル。何でこの状況で連れていったのやら』
「(分からない。けど……この教団はおかしい)」
私はアズエル教会が何かおかしいと確信した時、聖歌は終わり、信徒達は祈りを止めて頭を上げ始めており、私もそれに合わせる。
「皆様。今回の救済すべき方が決まりました。かの方は救済の炎に当てられ、浄化され、天に召されるでしょう。選ばれなかった方々は気を落とさないで下さい。貴方方も必ず……救われますから」
フォールン・救火はそう言って天使の様に微笑むと他の信者達はありがたい物でも見た様に歓喜している。
隣にいる女性も同じで笑顔で祈る手を止めない……言わば狂信者とでも言うべき姿だった。
「(取り敢えず内部事情は知れた。次はどうするの?)」
『決まってる。あの扉の奥に何があるかだ。まぁ、今は踏み込むつもりはないがな。しかし……まさか、麻薬を扱ってないだろうな?』
「(嘘よね?此処は神の家なのよ?)」
『神の家だからって犯罪が無い訳ではないからな。ほら、気を見て此処から出るぞ』
私はアーサーの助言に従い信徒達が礼拝堂から立ち去り始めたのを見計らって私も外に出ようとしたけど誰かに肩を掴まれた。
「お待ち下さい。綺麗な青い瞳の方」
私はその言葉を聞いて緊張が走った。
『落ち着け、万が一の時は俺が助けてやる』
アーサーのその言葉を聞いて私は一呼吸すると意を決して反転して笑顔でそこにいるであろうフォールン・救火の方へ振り向いた。
「何でしょうか?」
「貴方は……初めての方ですね?」
「そうですが分かるのですか?」
「はい。信徒の方々のお顔を私は覚えているので貴方を見た時に初めての方だとお見受けしました」
フォールン・救火は笑顔でそう言ってくるけど私は内心、ヒヤッとした。
流石に初めて来た人なんて言ってもすぐに分かる者ではないと思う。
「あの……それでご用件は?」
「……貴方は……此処へ何をしに参られましたか?」
「……参られましたかと言われても此処に興味があったので」
「それは随分昔に聞かせて貰った言い訳ですね。……アーサー・ヒューイットさん」
「ッ!?。……誰の事を言ってますか?」
まさかアーサーの名前を言ってくるなんて……でも、何でアーサーの事を知ってるの?
『……ジル。少し身体を貸せ』
「(どうするの?)」
『俺の予想通りなら……知り合いだ』
私はどうせ言っても聞かないと分かっているので素直にアーサーに身体を貸すとアーサーはニヤリと笑って見せ、フォールン・救火を見つめる。
「まさか……お前とまた会う事になるとはな……ザフカ・エル・ビナー」
「やはり貴方でしたか。大変お久し振りですね。だいたい……100年程ですか?」
「そんなもんだろうな」
嘘……アーサーは19世紀の殺人鬼。
当然、アーサーの知り合いなんて尽く死んでる筈……なのに此処にいるフォールン・救火もといザフカ・エル・ビナーはアーサーの知り合いとして此処にいる。
「今度は何をするつもりだ?麻薬か?遺体強奪か?」
「いいえ……そんな物では人は救えないともう分かっています。人を救う方法……それは私の手で救済する事です」
「……テメェ……あの時に言っていた救いとやらをやるつもりか……!!」
『救い?』
「(過去にこいつは医療用麻薬を使って洗脳し、金を巻き上げる広告塔の様な奴だった。俺はその裏で操っていた奴は殺したが証拠隠滅のつもりなのか火事を起こされて……麻薬に犯された信徒達は自ら炎に飛び込んで死んだ。その時にこいつは狂って自らの手で救いを与える……つまり、殺せば良かったと言ったんだ)」
『……それは……とても深い考えね……悪い意味で』
私は目の前の天使と思えた人物が悪魔の様な考えを持っている事に寒気を感じるとフォールン・救火の笑顔はまるで悪魔の様な物だった。
「人には寿命があります。いずれ来る死には抗えない。そこに貴賤はありません。ならば……社会の差別に苦しみ、治せない病で苦しみ、居場所を失って孤独に、全てに絶望した方々に救済し、痛みも病も差別すら無い楽園へと導くのです」
「あの時の男は?どうするつもりだ?救済の炎……まさか」
「救済の炎。それは火で身体を焼いて……楽園に導くのです」
フォールン・救火のその言葉に私はアーサーから無理矢理に主導権を奪うと睨み付けた。。
「そんな非道な事は許されない!どんな理由でも人殺しをする事は間違っているわ!!」
「おや?……成る程。ふふ、まるで人格が二つある様に思えますね?アーサーさん」
フォールン・救火は笑っている……私とアーサー、二人の人格がある事に確信を突く言葉に私は冷や汗をかいてしまう。
「もう一人の貴方さん。捕まえるつもりなら無駄ですよ。そして周りをよく確認しましたか?此処はヒーロー事務所が建ち並ぶ中心地……騒ぎを起こしたりすれば捕まるのは貴方方。私を訴えてもこの地域のヒーロー達とは良い関係を得させて頂いています。そう……例え証拠はあっても私は捕まえられません」
フォールン・救火はそう言ってのけ、私はその言葉に怒りを抱いた。
状況が悪いなら仕方ない……怒られるのは目に見えてるけど、父さん達に相談しよう。
でも……ヒーローと癒着しているなんて思わなかった。
人殺しを容認する新興宗教と腐敗したヒーロー達……最悪で卑劣な関係を持つこいつらはとても許せない!
『冷静になれよジル』
「(でも!!)」
『俺は諦めたなんて言ってないぞ?策を練り直せば良い……そうだろ?ほら、変われ』
アーサーはそう言って私からまた主導権を取るとまた笑みを浮かべた。
「アーサーさん。私は昔も今も変わりませんよ。死がもたらすのは……救いだと言う事を」
「……なら、俺が否定してやるよ。それが俺の役目だ。待っていろよザフカ……今回はジルの案件だ。必ずお前を牢屋にぶち込んでやるつもりだぞ?」
「ジルさんと言うのですね。楽しみですね。またのご来訪を……お待ちしておりますよ。お二人さん」
フォールン・救火はそう言って出口は彼方だとばかりに手を礼拝堂の扉に向け、アーサーは扉に向かって真っ直ぐと歩いていく。
その時のアーサーの表情はとても……悲しげだった。
それにしても……あの人は待ってるならどうして此処に来たのか……死ぬつもりで来たのではないと良いけど……