黄金の樹年代記~ある家に伝わる家系史あるいは妄想に満ちた偽史 作:フォン・セテム
プロキオン星系の名家ゴールデンバウム家において軍事的才能に優れたヘルマン・ヴィルヘルム・フォン・ゴールデンバウムの次男ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは幼少期、ゴールデンバウム家の始祖たるパウル・フォン・シュヴァンガウの回想録を愛読していた。
ルドルフは始祖パウルの軍人的精神と民族共同体への忠誠は現在の銀河連邦の時代にこそ必要とされると考えていた。
兄のヨハン・フォン・ゴールデンバウムも末世の世に必要なのは道徳と規律であり、かつ絶対者への帰依であると考え宗教的道徳の復活こそ時代への処方箋だと考えオーディン教の活動を推し進めてゆく。
一方連邦の他の構成邦は欲望にまみれた企業専制主義による弱肉強食の様相だ。道徳は嘲笑され、欲望の命じるままあらゆるレベルで悪行がなされつつあった。利益のために大企業による非人道的な行いは連邦全体に行き渡り末世の様相を得ていた。
その様な時代にルドルフ・フォン・ゴールデンバウム自身どのような振る舞いをすべきか深く思考してゆく。兄ヨハンの宗教的道徳の重視とは別にルドルフは軍隊的規律を重視してゆく。
ルドルフの考えの基盤はパウル・フォン・シュヴァンガウの回想録に書いてあった、少なくともルドルフはそう思った。
欲望を絶対的な価値とする退廃と非道は地球統一政府の時代にも現行の銀河連邦の腐敗という悪徳に対しても、元少年兵パウルのゲルマニア民族共同体への帰依と軍隊的規律こそ処方箋だと考えるのは自明の理だったろう。
ゴールデンバウム家秘伝の文書は後の大帝と言われたルドルフに多大な影響を与えた。
このような古い価値観は逆に現状にままならなさを感じた人間には福音にも似た印象を与えるのはいつの時代でも同じことだ。
ルドルフは一族秘伝の文書を読み込みこのままではいけないという危機感を抱きつつも、一族の隆盛のため連邦中央での軍務を重ねていった。だが腐敗した連邦軍上層部との軋轢はルドルフとゴールデンバウム家の倫理に対する挑戦でありルドルフ自身も容認できない出来事が起き行動をおこさねばならない事態に追い込まれた。
しかし現状では、連邦末期の腐敗は、利権を持つ大企業とそれに癒着した政界により一般市民の生存にも影響を与え救世主を求めるほどに悪化する。道徳の退廃、良心の欠如、物質的欲望の無軌道、経済状況の悪化による極端な格差、経済的勝者の下劣な振る舞いなどの悪徳を繰り返してゆく。
その様な無軌道は中央のみならず故郷プロキオン星系とゴールデンバウム家にとって矜恃を傷付けられ、かつ生存の危機をも脅かされることにまで発展する。
後に言われるルドルフ革命はここから始まってゆくことになる。