黄金の樹年代記~ある家に伝わる家系史あるいは妄想に満ちた偽史 作:フォン・セテム
オーディン教の聖職者たるヨハン・フォン・ゴールデンバウムの人となりは、周囲の人間が感動してしまうほど慈悲深い為人であった。
兄ヨハンは弟ルドルフの才能を認め、慈善活動を率先して行いオーディン教への帰依で聖職者をめざし、ゴールデンバウム家の伝統にくみさず軍務につかずに弟ルドルフを盛り立ててゆった。
非常に対照的な兄弟が連邦末期の醜悪な世相とは別にゲルマニア民族共同体国家たるプロキオン星系において麗しい兄弟愛を育んだことは現在ではあまり知られていない。
ヨハンは地元プロキオン星系の精神的支柱であるオーディン教の聖職者を志し弟ルドルフの行動を祝福し続けた。プロキオン星系の名家にして西暦時代以来の名門軍人家系ゴールデンバウム家の正道は弟ルドルフがつき、兄ヨハンは弟ルドルフの才能を見出し積極的に後押しし連邦中央での軍務を薦める。
ヨハン・フォン・ゴールデンバウムは心清らかで優しい性格であった。弟ルドルフの苛烈なまでの一本気と冷徹な知性とは違い弱者への慈悲深い眼差しと高潔な生活態度は「プロキオンの聖者」と称され名家ゴールデンバウム家を支える麗しき兄弟と言われていた。
兄弟が幼き日に弟ルドルフが年長の少年に因縁を付けられ喧嘩に発展した。その少年を痛めつけた弟ルドルフに対し兄ヨハンは叱りつけ、少年の両親のもとへルドルフを連れて行き謝罪させる。
その後ヨハンはルドルフに対し今まで見たことのないくらいの剣幕でルドルフの行動を断罪したという。
後の「ルドルフ大帝回想録」にはこの時の兄ヨハンは本当に恐ろしく、自分の行いが正義にもとる行いだったと思い知らされたと記述している。
兄ヨハンは無用な暴力を戒め、弱者(精神的に未熟な弱者も含め)への慈愛の心をもった心優しい人間に育った。
弟ルドルフは始祖パウル・フォン・シュヴァンガウの軍人精神に傾倒しゴールデンバウム家の伝統にのっとり軍人を目指すが、兄ヨハンはそんな弟ルドルフを危ういものとみて弟の暴走を堰き止めるには何かと考え、軍人ではなくオーディン教の聖職者を目指した。
ルドルフはヨハンの心を理解し自らの役目を銀河連邦中央での軍務と任じ兄と共にゴールデンバウム家の正義と高潔さを実践してゆく。
もともとプロキオン星系での名家ゴールデンバウム家の御曹司にして慈悲深き聖者と見なされていたヨハンは長ずるにオーディン教会の教皇に選出される。
弟ルドルフも連邦中央での軍務において功績を挙げ出世していく。
かように麗しき兄弟に現実という悪魔の所業は過酷な運命を押しつけることになる。