黄金の樹年代記~ある家に伝わる家系史あるいは妄想に満ちた偽史 作:フォン・セテム
ゴールデンバウム家による銀河帝国成立時における西暦時代の歴史についての理解について記したいと思う。
13日戦争とシリウス戦役、銀河連邦成立に至る統一戦争により史料などは散逸や消失し、ゴールデンバウム王朝銀河帝国成立時には千年以上も前の歴史的事実は正確に伝わっていなかった。
故に口伝えに伝承された挿話や伝えられた各種回想録などによる主観的な史観での「歴史的事実」で理解されていた。
ゴールデンバウム王朝第三代皇帝リヒャルト1世による大規模な学術的調査事業「人類史の改めての夜明け」での地球自治領での発掘作業(自治領政府の協力による正規の調査と、それ以外の非正規な調査)によりある程度の史料は集まったとされる。
件の調査事業により西暦時代の史料、技術、思想、芸術、民衆の文化など発足された帝国学芸省に蓄積された。
その後の学問的成果は緩やかではあるが、着々とアーカイブ化され政治的影響のない情報は公開されてゆく。
例を挙げれば旧王朝において盛んに享受された西暦時代の古典音楽などリヒャルト帝の趣味により大々的に復活し、復古的な古典音楽をものす作曲家を多数生み出すことになる。ルドルフ大帝以来の宮廷音楽家アルフレット・フォン・ティールマンなどの作曲家を端緒とし数々の音楽家を輩出することになった。
そのような中でフォン・シュヴァンガウ家伝来のパウル・フォン・シュヴァンガウの回想録は、ゴールデンバウム王家の秘伝の文書と位置づけられ、一般の臣民には閲覧出来ない秘史とされていく。
リヒャルト帝の御代はまだ開明的だったが、次代のオトフリート1世帝の御代において先帝の発掘事業の成果をゴールデンバウム王家の独占事項として秘匿することになった。
このような情報統制により一般的な西暦時代への理解は制限されることになっていった。
故に一般への歴史的事実へのアクセスは、なにがしかの主観的なバイアスのかかった挿話や逸話による理解によるより他ならぬ状況であった事を了解していだきたい。
と同時にゴールデンバウム王家における歴史認識もオトフリート1世帝の御意にそい学問的正確さを故意に緩め理解されていたことも併せてご理解いただきたく思う。
本書の寄って立つところはこのような不確実な事実理解による主観的な「史観」を旧王朝はどのように持っていたかを著すことが目的であることを理解していただきたい。
あくまで本書は学問的正確さではなくゴールデンバウム家において西暦時代の歴史的事実をいかに理解し表象していたかを精神史として著述した。誤解のないようにしていただいたくおもう。
(ラーテナウ学芸尚書による注釈
この章が初版において欠落していたことをここに明記しておく。いかなる意図があったかは解らぬが、ゼーフェルト前学芸尚書閣下の失脚はこの章の欠落が原因であったとも思われる。)