アオのハコAnotherDays   作:扇町グロシア

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アオのハコ#250+11 「前哨戦」

 全く、人をブン回してくれるよ。こないだあかりに色々相談された時も思ったけど、俺は人に偉そうに言えるような人間じゃない。まあそんなの見りゃ分かるだろうけど、それでも頼ってくれるんだからこっちも真剣にならないと。 

 でも、だけど。人の古傷に触れるような事は言わないでほしいんだけどな、晴人。

 借り物の部屋で一人溜め息を吐き、改めて考えてみる。俺はどうするのが最善だったのか、何を言うべきだったのか。

 ――分かるもんか、そんなもの。

 今の俺も、まだまだ半人前も良いところなんだから。

 

 

 突然鳴ったインターホンに出てみれば、聞きなれた声。

「……俺、晴人にここに住んでるって言ったっけ」

「いや、聞いてきました。向こうの家は知ってるんで、ご家族に」

 なんだその行動力は。そしてなぜ何も連絡もせず押し掛けてくる。LINEとかあるだろ、訪ねてくるならさ。俺が留守だったらどうするつもりだったんだろう。たまたま部屋にいたから良かったようなものの、空振りしてる可能性もあったぞ。

 一応礼節として出してやった茶を一息に空け、晴人は落ち着くまもなく本題に入った。即ち、雛との事について。

 正直晴人が雛に熱をあげてるのは知ってる、そして俺に聞きに来た理由も。

 雛に一番近かったのが俺だから、って事だろう。

 誤解も色々あるしそれを一つ一つ正していかないといけないけど、今は晴人の話を聞くのが先か。

 真剣になってる後輩には、先輩として真剣に向かい合わなくては。

 

 ………………

 ………… 

 ……

 まあ、でも。噺はやはり逸れたり曲がったり要領を得ないまま広がっているわけで。晴人って、わりかし話が下手だから。

「で俺が一年の時、文化祭だったかで聞いたんですよ。猪股くんは去年蝶野さんとキスしてた、って」

 ――それは……それは。一年だった時の事、か。

 文化祭の白雪姫で、急遽王子の代役をやらされて。終わり際に落ちてきた薬玉から雛を庇った、あの瞬間。

「いや、それは……勘違いってか見間違いだよ。変な噂になりたくないしちゃんと否定した筈なんだけど、な」

 あれを一年経って持ち出すとか、どんな執念だよ。それを覚えてる晴人も晴人だけどさ。……そういや二年の時の文化祭って言えば、色々トラブルはあったな。藤木先輩、あのあと学校辞めたらしい。もしかして俺を閉じ込めるだけじゃ飽きたらず、あちこちで余計なこと吹聴してたのかもしれない。

 恨みは買ってるんだな、俺。

「雛が俺を好きになってくれたのは、光栄だと思う。でも俺はあの頃も今もずっと、千夏先輩が好きだ」

 告白されて揺らいだのは事実だ、でもそれはほんの僅か。俺の気持ちは変わらない、変われない。

 だから付き合うとかそんなのはあり得なくて、――雛を傷付けるのを覚悟して答えを出した。

 それが最善かどうかなんて、今でも分からない。

 雛が他の誰かを好きになったなら、俺は友達として全力で支える。

 でも、なあ……。雛は別に晴人を好きでもないんだよなぁ……。そこをどうしたもんか。

 苔の一念なんて今は通用しないし、下手に荒れて修羅場にしたくもない。

 だが諦めろと軽く言うのもまたよくない気がする。堂々巡り、打つ手も上げる手もない。

「あ……二人は前に付き合ってたとかじゃないんすね」

「そこはハッキリ否定するぞ、雛にも悪いからな。気軽にそういう事言うの、よくないと思うんだ」

 晴人は不躾で態度が悪い、でもまっすぐだ。スゴく不器用で失礼だけど、悪いやつではない。雛と噛み合うかっていうと、また別の話だけど。

 応援して良いもんかどうなのか迷う、人を惑わせないでほしいんだけど。

 

 

『――で、守屋マネに言われたんです。ジェネリックに手を出した、とか。そりゃ麦さんには色々話聞いて貰ってますけど……』

 なんてブツクサ言いつつ遠慮なしに飲んで食って帰りやがった晴人、その後片付けを終えたのがつい今さっき。結局本題には入ってないというか愚痴っただけというか、ただ誰かに吐き出したかったようだ。良いけどね、俺は別に。

 しかしジェネリック雛か、散々な言い方だなそれは。まあ確かに雛の姉ちゃんって雰囲気とか雛の上位互換っぽいけど、そんな言い方は失礼だろうに。

 俺はあの人、なんか苦手だ。雛も『お姉ちゃんはめんどくさいから、あんまり相手しなくて良いよ』って言ってたっけ。まあ向こうも俺をあんまり好意的に見てくれてないと言うか、興味無さそうだったし良いんだけど。

「千夏先輩にはこういうの、相談しない方が良いよな……」

 晴人とも雛とも面識があるとはいえ距離がある間柄だ、色々聞かされても困る筈。まあ、こっちはこっちで抱え込もう。

 とりあえず俺がするべきは、自分のやるべき事をちゃんとやること。後輩の世話も大事だけど、俺だって忙しい。

 大学生って思ったより大変なんだ、去年の千夏先輩はよく俺と遊んだりしてられたもんだよ。やっぱり出来が違うのかな。

 さて、そろそろだな。

 スマホを取り出して俺は少しだけ身構える。向こうは今早朝、寝起きの千夏先輩からコールが来る時間。朝の身支度前の短い時間、俺たちは語り合う。いつものように、いつも通りに。

 今日は何を話してくれるかな、千夏先輩は。

 

 

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