「……暫くいないんなら、事前にそう言っておけよ。友達だろうが」
ナツのマンションから出て、溜め息を一つ。
人が遥々訪ねて来たのにいないのはまだ良いんだよ、良くないけど。
問題はただ出掛けてるとかじゃなく、留学なんか行きやがったって事だ。私になんの断りもなく、全くあんにゃろめ。こんなことなら連絡無しで押し掛けるんじゃなかったな、空振りさせられたわ。
「まあでも、最初にそれやったの夢佳だよね?」
「うっせぇメガネ割るぞ」
失礼な宗介にチョップ一閃、本当の事でも言って良いことと悪いことがある。
そりゃなにも言わず栄明から消えたのは私だ。親の離婚を口実に、ただナツやバスケから逃げ出した。これ以上惨めになりたくない、これ以上失望されたくない。そんな身勝手な気持ちで、なにもかもブチ壊した。アンタが抜けてチームがガタガタになったと渚に怒られたし、皆には合わせる顔がなかった。どの面下げて、ってなもんだ。
けどとっくに仲直りしただろ、少なくともナツとは。……したよな……うん確かに。お陰様でバスケに復帰して決着もつけたし、遺恨はもう無いんじゃないかなーって思うんだけどさ。それに根に持つような頭があんのか、あのぽややん人間に。正直私よりバカだぞあれ、脳みそ固形燃料だもん。
……うーん、やっぱりまだ色々拗れてるかな……。次会ったら今度こそ腹割って話そう。て言うか後で鬼メッセしてやる、私のネチっこさ舐めんなよ。伊達や酔狂で針生や西田にイヤミ大臣とか言われてないんだぞ、アイツら私が地獄耳だって知らないから言いたい放題言いやがってからに、いずれ100倍にして返してやる。
……それはそれとして、まだ先の話として。
さてそうなるとどうするかな、今日は。あのジャガイモ小僧と話してても仕方ないし挨拶だけして切り上げたけど、すること無さすぎる。
「宗介、暇だどっか連れてけ」
「ざっくり言うね」
苦笑なんかしやがる失礼メガネにもう一発、今度は空手チョップ。いやまあ空手チョップはチョップっていうか張り手の変形だけどさ、力道山は元力士であって空手家じゃないからな。
それはともかく、だ。
私が雑把なのは知っての通りだろうが、そこそこ長い付き合いなんだから。いや今更この程度じゃ怯まないってわかってるからこそ、平気で殴る私も私で相当か。仕方ないだろ、こいつ頑丈だし私の事大好きだし。だから絶対に私に愛想を尽かしたりしない、なんて甘えた考えになるくらいには気安い間柄になって久しい。
どんなに強い絆だっていつかは冷めるし、好きは最強の感情だけど永遠ではない。それを間近で見てきたくせに、私と来たら学ばないものだな。
願わくば、そんな日は来ないでほしいけど。
御近所さんらしきチャラついた野郎を一瞥しつつ階下へ降り、宗介と共に歩き出す。まずは何か食べて、それから考えよう。ナツにタカる気だったから手持ちは心もとない、まあ宗介に出させれば済むし良いか。こちとらバイト掛け持ちの苦学生だ、家でかいんだから奢ってくれ。
「んー……どうするかなぁ」
「まあノンビリしてようよ」
こうやって二人並ぶ時間は結構好きだ、昔のギラついてた私だったら想像もしなかったろうなこんなの。宗介を好きな私と、私を好きな宗介。どっちも信じられないけど、事実なんだよ――本当に。
人間にはふと立ち止まって考える時間が必要だ、とは言う。でも考えすぎてもロクな事はない。無い頭を搾れば尚更、だ。
余計なノイズが増えるだけで、生産性が無いったら。バカは悩んだ挙げ句に最悪の決断をするって言うけど、本当にそうだ。
もし私があの時折れなかったら、と何度も悔やんだ。でもその度に、私は思い直す。
栄明を出て彩昌へ来なければ、宗介には逢えなかった。何だかんだあっても、私はこいつが好き……だから。彩昌に来て良かった、と感じるくらいに。たまにウザいけど、あとたまに着いていけなくなるけど。このタッパまで育った目付き悪い女にツインテールとかさせようとすんなよ、そして実際見て退くなよ。自分でもキツいんだから。
そして同じチームにいたら、ナツと本気で戦うことはなかった。インターハイでは不本意な結果になってしまったけど、ウインターカップでは完全燃焼させてもらえた。戦って戦って、真っ白な灰も残らなくなるまで戦って。勝ちも負けもどうでも良い程に、一切合財なにもかも燃やし尽くせた。
別に私は自分の逃げ癖を正当化したりする気はない、ただ――今この瞬間は無下に切り捨てるほど悪いわけでもない。
少なくとも今の私は、自分を哀れもうという気はない。バスケを一回やめた事さえ、糧になったと信じられる。ブランクが付いたのはマイナスになっても、そこから反動をつけての巻き返しが出来た分結果は良くなった筈。
折れて曲がって大脱線、それでもまあ道自体はまだある。呑気に歩いていくさ、このバカと手を取り合って。
それこそ、ナツのように。
「愛してるぞー変態メガネ」
「はいはい、俺もだよ」