ゆっくり少しずつ、でももっと好きになる。いつまでもずっと、好きが冷めない。
そんな風になったのはもしかしたら、初めてかもしれない。
今までの人たちを貶しはしないけど――でもやっぱり、違うんだな。この恋は、いつもと違う。
だからこそ、少しだけ悔やんでしまう。これが最初の恋だったなら、と。
菖蒲は男の子に好かれて女の子に嫌われる、そんな子だと自分でも分かっている。軽く付き合いだして軽く別れるとか、尻も頭も軽いとか言われてきた。
もし菖蒲が、こうでなかったら。好きを大事にして、匡くんだけを見ていたなら。
こうも胸を疼かせずに済んでいるんだろうか。
菖蒲は菖蒲を好きな人が好き、頑張って菖蒲に告白してくれたんだから菖蒲だってその人を好きになろうと努力する。
それで上手くいかないのはもう仕方ない、お互い余計な時間を費やさない為に笑ってお別れする。
それが当然だと、思ってきた。
でも今は、そうなりたくないと思っている。
こんなにも人って、変わるものなんだな。
「いや、あんたは多分ずっとそうよ。生まれつきワガママ放題で、気紛れ起こしたってだけでしょ」
う。そりゃまあそうかもだけど、お姉言い過ぎ。て言うかワガママかどうかじゃなくて、菖蒲の恋の仕方が変わったって話なんだけど。
お姉もちーちゃんも、菖蒲とは全然違う。菖蒲みたいにいろんな人と付き合ったりしないし、一途にもほどがあるくらいに一直線。
いのたとちーちゃんなんて、付き合うまで結構かかってたり途中で色々トラブッたりしても、お互いしか見てなかったみたいだし。雛っちの事はまあ、うーん仕方ないか。あの頃の菖蒲だったら勇気を出した告白を袖になんか出来ないけど、いのたは逆の選択をした。雛っちの気持ちが分かってるからこそ保留せず、一息で介錯した。
まあどれが正しいかどうかはともかく、やり方はそれぞれなんだろうな。だからこそ羨ましいわけで。
匡くんと過ごした時間はまだ数年くらい、その中では付き合ってからの方が短い。バド部のマネージャーをしながら彼氏を何人も変えてきた菖蒲を、匡くんはどう見ていたんだろう。やっぱりちょっと退いたりしてたかな。
……あの性悪女が言わんとしてたのは、多分そこだ。あんたみたいなのより私の方がふさわしい、と。あれだって大概だと思うし、正直今でも嫌いだから考えたくもないけど。そもそもあいつ別に彼氏いるんじゃん、勘違いして損した。あの一件さえ無かったら、もっと話は簡単だったのに。
――ああ、全く。過去は戻らないんだから悩んだって仕方ないのに、どうしてこうも。
大学生になっても菖蒲は菖蒲、やっぱりモテる。そんなのはもう相手にしないとはいえ、道を塞いできて面倒だ。
昔の菖蒲は、こういうのを一人一人ちゃんと見ていた。告白されればその人のなかに何処かしら光る部分を見付けて付き合って、それが楽しかった。
でももう二度と、そんな事はするまい。匡くんがいるから、好きだから。
……にしても、やっぱり学部も合わせるべきだったかな。キャンパスで一緒にいる時間は短い、ちょっと寂しいし不安だ。好き同士なのに、好き同士だから。
縛るのも縛られるのも嫌いなくせして、一人でいるのが耐えられない。
ああ、もう。
「……って訳でさぁ」
「んー、青春だねえノロケだねぇ。そうやってあれこれ悩むのが楽しいとみた、菖蒲ちゃんそんな感じだし」
「そうかなぁそうかもなぁ」
いつものベンチで溢す愚痴は、いつもの相手に受け流される。大学に入ってから出来た新しい友達は、菖蒲の相談相手というかなんというか。ナンパから守ってもらったり講義の組み方教わったりで、いつのまにか親しくなってた。そういえば雛っちの時は菖蒲が強引に迫って友達になったっけ、懐かしい懐かしい。
詳しい素性は知らない、何回生かも聞いてない。先輩なのは間違いないけど、院生かなにかでもおかしくないか。大穴でここの学生じゃないけどウロウロしてる、とかもあるかな。まあ菖蒲と同じく女子大生なんだろう、多分。
「多分彼氏さんは気にしないと思うけどね、自分が何番目の彼氏だろうと。今の一番でありさえすれば良いのよ、それで十全。あと蛸足配線はダメよ、漏電して命取りになる」
「あー……うん、それは分かってる」
同時に何人も付き合うと血を見るからなぁ、そして周りからも叩かれる。それで栄明に逃げてきたんだし。今は関係ないけど。
どうも話を脱線させたがるんだよねこの人。そういう性癖があるんだろうか。
好い人なんだけど、その辺はちょっと対応が難しい。良いんだけどね、人それぞれだもん。
「今度の週末にでも、彼氏さん誘っておいて。こっちも何人か連れてくからさ、遊びながらあれこれ聞き出してみるよ」
いきなりこういう事言い出すのも、この人の癖だな。気紛れで気分屋、でも根は優しくて。菖蒲が知ってるのはそんな感じな人だという事、そしてもうひとつ。
「妹の親友の為だもん、私も少しは役に立たなくちゃね」
麦さんは、雛っちのお姉さんだということだ。