アオのハコAnotherDays   作:扇町グロシア

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アオのハコ#250+4 「呼ばれざる者」

 ――負けが見えていたって、止まるわけにいかない。

 いずれはどうにかなる、と信じているから。あかりは色々言うけど、きっと想いは通じてくれる。俺が雛先輩を好きなのは事実で、そしてそれは決して変わらない。折れず曲がらず、が俺だから。

 ……と思うんだけど、実際上手く行く気がしてこない。嫌われてはいないと思うんだけど、好きになってくれるかどうかは分からないと言うかなんというか。前に告白しようとしたら即座に袖にされたし。

 それはそれとして、だ。

 なぜ俺は、知らない女の人と喫茶店なんかにいるんだろうか。

 どうも話がわからないというか、何が起きてるか呑み込めないんだけど。

 

 

「……あれ、雛先輩か?」

 滞りなく入学式と始業式を終え、部活が出来ない都合上昼前には学校を出た俺。なんとなく帰る気がしなくてふらふらしていた所、見覚えのある後ろ姿を見つけたのが今さっき。あの特徴的な赤い髪、この辺じゃ雛先輩以外にはいない。……と思うんだけど……。

 確か卒業から一月くらいは海外にいる筈だけど、もうこっちに帰ってきてるんだろうか。せっかくだし声でもかけてみようか、でもなんか雰囲気違うな、なんて考えつつ尾行するかのように俺は少し後ろを着いていく――と。

 雛先輩はふと立ち止まりそして。

「ん。なんか用かな?」

 クルリと一瞬のうちに身体を半回転させ向き直ったのだ。そして気が付いた、違和感の正体に。

 これは――違うぞ。似てはいる、似てるけど違う。この人、雛先輩じゃない。明らかにもっと大人だ、そんな感じ。

「あ、……すいません雛せんぱ……学校の先輩かと思って……」

 謝って立ち去ろうとした俺はでも、肩を捕まれてその場に留められてしまう。

「ん。んー……ん?きみ、栄明の子だよねその制服。んー……」

 赤い髪を揺らしてなにやら考え込むこと、数秒か数十秒か。生きた心地がしない時間が過ぎた後、徐にその口が開く。

「よし、ちょっとお姉さんに付き合いなさい」

 

 

 ……思い返しても何だか分からん。なんで俺が逆ナンされたみたいになってんだ。

 それに、それにだ。

「でそろそろ聞くけど、晴人くんや。私と間違えたって先輩さん、どんな人なのかな? もしかして、好きな人?」

「え、あその……」

 なんだろう、この遠慮のなさは。西田先輩でもここまで一気に踏み込んでこないぞ。

 さっきから凄い勢いでグイグイ来てて、なんか若干退きそうになる。奢ってくれるのは嬉しいけど、いやそれはそれでなんか借りを作ってるみたいで不穏な気もするかな。

 しかし、だ。顔立ちが雛先輩に多少似ているせいか、別にそこまで不快には思わない。むしろ相談相手になってほしいくらいだ、いや会ったばかりの人にして良い話題ではない気もするけどさ。

 考えたら、雛先輩に関して相談できる相手って今はあかりしかいないんだよな。まさか大喜先輩には出来ないし、兄貴に言うのも嫌だし。そもそも俺、友達いないからなぁ。中学までの友達はすっかり疎遠になってるし栄明で友達作ってないから。そんな暇なかったし、作り方も知らないんだよ俺は。

 いっそ学外の誰かに話聞いてもらうとか、そんなのも有りかもしれない。

「あーまあ……はい」

 好きな人です、と小さく応えたつもりだったけどそれに対する反応はかなり大きかった。

「おっとぉ、そかそか。んでどの辺が? 顔とかスタイルとか性格とか、色々あるけど」

 あの人の好きなところ、か。――そうだ、な。それは――。

「真っ直ぐなとこ……です。俺と違って、すごい人で……いつも前だけ見据えて頑張れる人……です」

 俺は怒りや焦りでしか動けない、弱い人間だ。

 でも雛先輩は違う、弱さも何もかも呑み尽くしてそれでも自分を貫く。努力する天才は煌めく稲光のように、ただ鮮烈に駆け抜ける。

 あの輝きに俺は、ずっとずっと焼かれているんだ。

「ふー……ん。なるほどねぇ、さすがさすが。――っと」

 ニヤニヤしていたその顔が、不意に強張る。何事かと視線の先、ウインドウの方を見やるとそこには。

「――!?」

 眼を見開いた、雛先輩の顔があった。

 なんでここに先輩が、と考える暇すらない。なにしろ雛先輩は、赤い稲妻のように店内へと駆け込んできたのだ。

 そして息を整える間もなくテーブルへと一撃うち下ろし、赤毛の姉さんを睨み付ける。

「なんで晴人とお姉ちゃんが一緒にいるわけ?」

 ……お姉ちゃん。お姉ちゃん、お姉ちゃん……?

 え、お姉ちゃんってそれはまさか。

 まさか、まさか。

「そういや名乗ってなかったね。蝶野姉妹のミソッカスの方こと蝶野家長女、蝶野麦です宜しくさん」

 ヘラヘラと垂れ流される衝撃的な一言に、俺は思わず天井を仰いだ。 

 何がどうなってるんだろう、これは一体。

 雛先輩にお姉さんがいて、俺はその人に雛先輩が好きだと相談して。

 これは……これは。どういうことだろう、これは。

 俺の人生はこんな風に、漫画みたいだっただろうか。どうもおかしい、なにかが違う。

 なにやら言い争う雛先輩姉妹の声を遠くに聞きながら、俺はテーブルへと軟着陸していった。




麦姉ちゃんは原作にも出ております、オリキャラじゃないのよ。
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