アオのハコAnotherDays   作:扇町グロシア

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アオのハコ#250+7 「大丈夫?」

 私は何がしたいのか、面と向かって聞かれたらちょっと困る。

 いやまあ、困ってる暇もそんなにないんだけどさ。

「んー……どうしよう」

 もっと早くから進路を考えておくべきだったんだ、今さら言っても仕方ないけどさ。

 進路希望調査を前にして、私は天井を仰ぐ。さて、どうしたら良いんだろうか。何も決めてないどころか何も考えた事もない、まあ世間様的にはこのまま一旦大学進んでモラトリアムするのが普通なんだろうけど、それはそれで流されっぱなしだなぁ。それに今からだと進学対策も何もしてないから、かなりランク低いとこしか無理そうだ。

 どうしたもんだろうなぁ。

 私の世界はずっと曖昧でふわふわしていて、なんとなく過ぎていた。バドは好きだけど全然上達しない、でもまあ別に悔やみはしない。お兄ちゃんみたいにはなれない、そんなの分かってる分かってる。あんな公式バランスブレイカーみたいな全能力カンスト廃スキルホルダーと張り合おうとするほど、私は自信家じゃない。

 それにバドで上に行こうという気もあんまりない、だから公式戦では勝てた試しがないけど凹むこともそこまでない。

 特に目標もないけど破綻もない、そんな人生だ。勉強も遊びもほどほどで、勝たないから負けない。

 ――でも皆は、そうじゃないんだよね。大喜先輩も晴人も、頑張ってる訳で。遮二無二夢を追う人たちを見ているくせに、どうも自分の糧に出来ない。

「私は、何がしたいのかな」

 小さな呟きは、部屋の空気に解けていく。

 

 

 栄明に入ってもう二年が過ぎ、早いもので三年生。その間に何か成し遂げたか、考えても思い当たらない。

 小学校以来だった晴人と再会したり、大喜先輩を好きになりかけたり一年生の時はそれなりに波乱があったけど、二年生になるとあんまりそういうのも無くなって。後輩の面倒を見たり見られたり、頑張ったり頑張らなかったり。

 今さら朝練始めたって遅いのに、何やってんだかな私はさ。遅い遅い、もっと前から励んでるならともかく。

 残りの時間で、何かやり遂げないといけないな。そうでもしないと三年間が無駄になってしまう気がする。

 そこいくと雛先輩は凄い人なんだよなぁ……、なんたって高校日本一の座に輝いた人だもの。そしてそれでは満足せず、世界進出を果たした。その内オリンピックにも出るだろうな、いずれ国民栄誉賞とか貰ったりして。せっかくだしサインでも貰っておけばよかった、家宝にしても余りある価値になるかも。

 それに私なんかにも優しい人だ、……だから晴人に懸想されてたんだろうけど。優しくて美人で優秀、って大変だよねみんなに好かれるから。私はその逆だから何事もなく生きていけてますよ実際。

 しかし雛先輩がいなかったら私、大喜先輩へ無謀な突撃してたかもしれない。自分の気持ちに急いで名前を付けて歪な箱に入れなくて良い、そう言って貰えて良かった。憧れてはいた、好ましい人だと思っていた。でもそれは、世間でいう恋では無いとしっかり認識できたから。

 でも、だけど。もしそうなってたら良くも悪くも、今みたいにはなってない気がする。玉砕爆砕大自爆を経て、結構変わってたんだろうな私はさ。でもそんな度胸は出てないかな、悶々と悩むだけでもおかしくない。鹿野先輩も鹿野先輩で凄い人だからなぁ、ちょいちょい雑誌とかに出てたっけ。あの人と真っ向からやりあって勝てるとは思えない、四つに組むどころか真っ二つにされそう。さすがに分が無いにも程がある、挑まなくて良かった。

 過ぎたことを気にしたって意味無いから一々悩みたくもないのに、思考は空転するばかり。

 重症だな、これは。悩んで時間を潰すのが目的になりつつある、こういうのは良くないぞ。

 

 

 思えば昔からこうだ、時間が足りなくなってからウジウジして。こんなだから上手くいかないというか、上手くいくと反動が来そうで怖いというか。もっと器用に立ち回れればいいのに。

 ――いや、そんな他人事みたく考えるのがそもそも良くないな。

「相談、してみよう……かな。大喜先輩に」

 知らない仲じゃ無いんだし、私が進路の事で悩んでると言ったら快く力になってくれそうな人だ。ちょっと好きになりかけてた事はこの際置いておいて、今度お兄ちゃんの所へ練習に来たら、その時にでも……。

「いや、いやいや。いやいやいやいや、そうじゃないでしょ私」

 やるならすぐだ、動きながら考えろ。慎重さとかそういうのを足踏みする口実にしてたら、結局一歩も動けないままだ。

 打つ手も挙げる手も無くたって、歩く足はあるものだ。とにかく進め、進めばその分前に行く。

 前に聞いてそのままだった連絡先をタップしながら、心の中の不安を踏み潰す。人間恥じゃ死なない、それで死ぬならいっそ死ね。

 私の一歩は、ここから始まる。折れて曲がって石だらけの道でも、何処かへと繋がってはいるさ。

 私はなにがしたいのか、なにが出来るのか。とりあえず進みながら考えよう、なにせ人生100年時代だ。まだまだ先は長いんだもの、どうにかなるさ。

 




あかりちゃんがなんかボンクラ化しつつありますね。
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