目指す先にあったのは、いつも先輩方の背中だった。私より先を行く皆を、えっちらおっちらと追いかけていく。
どうして皆進むのが怖くないのか、疲れたり嫌になったりしないのか不思議だった。
どうにか進んでいくうちに皆の背中は少しずつ離れていく、行く先はそれぞれ違うようだ。そして気が付けば目の前には誰もいなくなって、それでも私は歩みを止めない。後ろから感じる視線、それに応える為に。
こんな私の背中にも誰かが着いてきてくれるなら、命の限り突き進もう。
右へ進めば断崖絶壁かもしれない、左へ進めば不慮の事故に遭うかもしれない。それでも脚に絡み付くそんな不安を踏み潰し、顔を上げて胸を張る。私が私である為にも、進まなければ。
例え何処かで倒れても、きっと無駄にはならない。まだ顔も知らない何処かの誰かの為に、道を切り開くんだ。
一歩一歩、また一歩。荒野を行く私は、それでもまだ笑えている。
大丈夫、だって私だもの。
「あー……ちょっと寝てた、か」
まだ住み慣れない部屋のテーブルに突っ伏していた身体を僅かに揺らし、私は伸びを一つ。
スポーツ留学をサポートする、と言ったってまだ若輩者の身で何ができるかわかりもしない。受け入れ先の選定、入学入部手続き、奨学金獲得支援に渡航前後のケアまでするべき事はとても多い。そしてそれは、個人ではどうにもならない。そもそもたった一年でスポーツ留学エージェントになれる訳ではない、今はこちらのやり方に馴れてネットワークに触れたりスポーツマネジメントを学んでいかないと。
そして留学経験を活かしてスポーツ留学事業を支援する会社へと入り、ゆくゆくは独立起業だ。
……うーん、道は険しいぞ私。人生かけて挑む大仕事なのに、まだまだ出口の影も見えない。
――大喜くんに逢いたい、な。
「いや、何考えてんの私は」
まだ一ヶ月にもならないのに、もうホームシックか。まったく、らしくないな。いやまあ通話もするしLINEもあるんだけどね、時間と回数をちゃんと決めた上で節度を持ってやっております。お互い不器用だから、手を抜いてどうにか誤魔化すとかができない性分だ。全力でないと何も出来ない欠陥人間かもしれないけど、ね。
大喜くんは大喜くんで夢を追っているんだ、支えることはあっても足手まといになるわけにいかない。
一緒にいないだけで、結局は今までと変わらない。私たちはきっと、それで大丈夫。……多分そうだと思うんだけどなぁ、少なくとも大喜くんとの事は。
他の細かい事は絶対抜けてる、雑把だもん私。こないだも夢佳から、『引っ越すとか留学するとか、せめて一言くらい話してから行けや! お前そういうとこだぞ!』って怒りの鬼電来たし。いやまあ悪気はないのよ、本気で忘れてただけで。一応花恋とか渚たちには言った記憶があるけど、ホントの所はどうなんだろう。なんかあったらそれこそ大喜くんに対応してもらえば良いか、うん。大喜くんには頼りっぱなしだし次の春に帰ったら、世話かけさせたお詫びとお礼をしよう。そう、お礼をね。……ふふり。
いやまあ、それはそれとして。
次逢った時に少しでも格好がつくように、頑張っていかないと。大喜くんだって成長するんだから、私が足踏みしてなんかいられない。
先輩の意地を見せろ、やってやれ私。
あれこれと益体もない事を考えていると、もう時間はかなり過ぎている。やれやれ、頭が動く手が止まるのが私の悪い癖だな。逆に手足を動かしてると頭が止まるから、迷惑ばかりかけてきたし。
いつまでも微睡んではいられない、独り暮らしは誰もなにもしてくれないのだから。場所は変われど生活のリズムは同じ、日も陰った空をカーテンの向こうへと追いやって明かりを灯す。
もう暫くはこうやって一人の生活だ、自堕落にならないように意識してシャンとしよう。
今回は一年の期限付き生活だから、家族とは合流しなかった。それで甘えてしまっては元も子も無い、自活していけないようで他人の世話なんか焼けるものか。しっかり頑張っていこう、先を見据えて。
大学生になってようやく見出だした将来への道は、まだまだ長い。もっと真面目に進路を考えておくべきだったかもしれない、でもそうなると大喜くんとどうなっていたか分からない。自分のバスケよりもエージェントになる事を優先してたら、朝練より勉強してただろうし。そんな私に大喜くんが憧れてくれたか、……好きになってくれていたか。あんまり考えたくない「もしも」だな、これは。
まあ只の空想、済んだ事だ忘れよう。それより真っ直ぐに前だけ見て進むんだ、そうすれば迷ったって迷子になった気はしないもの。顔を上げればそれが前だ、簡単で良い。悪い頭を使うより、ただただ歩け。
アオい三日月が昇る空を見上げ、目の前の果てない大地を踏みしめる。怯みはしない、すぐ側に大喜くんを感じているから。私たち二人揃えば、この世に敵なんかない。例え折れようが負けようが挫けるものか、最後に大きく笑ってやればそれでハッピーエンドだ。
進め、進め、私よ進め。