思いがけず入った予定に、スケジュールを組み直しながら歩いていく。
遊園地、か。思えば引退する前の――ダブルデート、以来になるんだな。そういうのに縁があるんだろうか、俺は。
あの日言った「また来よう」が叶うのはうれしい、でもそれが俺からでなくまたも守屋さんから……というか今回は守屋さんの友達から来た話なのがちょっとだけ気にはなる。俺はやっぱり、なんでも及び腰なんだな。
くれたのは同じ大学の先輩らしいけど、どうも俺はまだ会った事がない人っぽい。守屋さんは誰とでもすぐ仲良くなれる、大学生になってもそれは変わってない。
きっと好い人なんだろうな、会った時お礼言おう。
貰ったチケットを仕舞った財布をポケットに感じつつ、家路を辿りながらそんな事を思う。
――と。
見慣れた背中を発見し、俺はほんの少しだけ速度を上げた。
「おかえり、咲季ねえちゃん」
小さく声だけかけて、そのまま追い越して真っ直ぐに歩いていく。咲季は多分、俺を見てもいない。わざわざ話すことも無い、帰り道が被っているだけ。
なんとなく前読んだ、「スタンドバイミー」のラストを思い出す。『わたしたちはうなづきあい、ハーイと挨拶を交わす、それだけの仲となった』のシーン。大冒険を終えすっかり冷めきって、皆がそれぞれ知らない大人になる少し前だ。……あれ友情の尊さじゃなく脆さが主題だよなぁ、絶対。
今の俺と咲季は、特に接点の無いご近所さん。昔仲が良かった幼馴染み、それだけ。家族ぐるみの付き合いは続いていても、関係が変わったり進んだりはしない。家族みたいな、家族のような、そんな距離のまま平行線。
ああやって咲季ねえちゃんと呼ぶのも、それを心に刻むため。
俺はもう、咲季を好きにならない。咲季の為に強くならない、咲季の駆け込み寺にはならない。
俺が好きなのは、守屋さんだから。
大学生になって、皆色々と変わっていく。
大喜は千夏先輩のマンションを借りる形で移り住んで一人暮らし、プロを目指して猛進しながら学業も一応は。別々の進路だから助ける訳にはいかないが、まあ大喜だからなんとかやってるんだろ。
蝶野さんは海外も視野にいれて突き進む、我らが栄明のスターズオブスターズオブスターズは卒業したって輝き続けている。誰が呼んだか、赤毛の美しい女。
三人で自転車で駆け回った頃が嘘のように、すっかり道は離れていった。各々健闘を祈る、とね。
島崎さんは西田元部長と付き合いだして、晴人は晴人で蝶野さんを追い掛けてる。やっぱり忙しくしているようで、あまり連絡は取れてないけど。
そして俺の生活は、まあそこまで大きく変わりはしない。弟妹もすぐに大きくなったりはしない、まだまだ手がかかって手がかかって。
いつものように、いつもと変わらず。当たり前の時間は、賑やかに過ぎていく。
もしかしたら、もしかしたら。この日々に、守屋さんが加わる時が来るんだろうか。
まあ、いつになるやら。
さてしかし、日曜はどうなるかな。俺と守屋さん、あと友達さんも誰か連れてくるらしい。まさしくこの前の再現だな、なんだか不思議だ。
あの時もチケットをくれたのは、守屋さんだった。もしあそこで一緒に行こうと言えなかったら俺は、……俺は。
「今もきっと、うじうじしてんだろうな……」
高砂くんと別れたと聞いて喜んでしまった、そんな自分が恥ずかしくて仕方なかった。僅かでも可能性があると思ってしまった、思い上がった自分自身が酷く矮小に感じられて。
俺は大喜のように真っ直ぐじゃない、あそこまで強く生きられない。
でも、それでも。
自分が行くべき道を、手探りでもいいから進もう。軌道修正を繰り返していけば、結果的には直進になる。俺の「匡」は、そういう意味でもあるのだから。
尊敬し愛する人と、これから続く道を歩いていきたい。それは俺の願いで、夢だ。
まあ、それはそれとして。俺は色々と不器用だし色恋沙汰は不慣れだから、なんでも守屋さんに頼ってる面はあるんだよな。昭和の世代じゃあるまいし男はいつもリードしてないと、なんてバカは言わないけどさ。
どうも気を遣われてる感じもしたりする、具体的になにをと聞かれると困るが。
守屋さんはいつもキラキラしてて、目が眩んでしまいそうになる。そのせいで何か足元がふらついてるのかも……って。
「こういうとこだよな、俺は」
気になるなら聞けばいいんだ、それが一番。話し合うしか分かり合う方法はないんだから、素直に言おう。守屋さんの事が好きだから、気を遣うような部分があるなら教えてほしいと。
そういうのも含めて、日曜日に話してみるか。
さてま、とりあえず。今日はもう、休むとしよう。
いつものように守屋さんへお休みを送り、メガネを置いて横たわる。明日明日、また明日。今日と明日を積み重ねて、一歩一歩歩いていく。俺の、俺たちの未来まで。
何歩かかるか、いつまでかかるか。それは分からないけど、一生かけて足跡を刻んでいく。
目指すは幸せ、そのために。