魔法少女まどか☆マギカ~After Ten Years of History~   作:イデスツッラ

12 / 23
キュゥべえによって魔法少女システムの概要を聞かされたタツヤは、ゆまの過去を知り彼女への認識を改めることに。
一方、ほむらは仕事場のレパ マチュカで立花夫婦に言われた事がきっかけで、仲間がいない寂しさを再認識する。 休日にタツヤに会うとほむらは昔のことを思い出し彼にある事を忠告しつつも、不思議な力を持つタツヤが平和に暮らせるよう『まどか』に願った。
その日の夜、上条家の中学入学お祝いパーティーにお呼ばれしたタツヤは恭介の幼馴染・美樹さやかの存在を知る。 その後、恭介からお祝いの演奏をプレゼントされるが、不思議な感覚に囚われた後、突然頭痛に襲われてしまい演奏は中止になってしまう。
翌日、タツヤは和子に昔ほむらが関わったとされる見滝原での行方不明事件のことを聞かされるのだった。

そして、その頃ほむらはというと…。


第5話「犯した罪 科せられた罰」chapter 1

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

夕方、見滝原中学――――

 

「あ~…つっかれたー!!!」

 

「ああ」

 

補習が終わったタツヤと大輔は、校門を出て帰路に着こうとしていた。

学校にはまだ生徒達が残っているが、もうすぐ下校時間のためかそこまで人数は多く無い。

殆どの生徒が、それぞれの家へと帰ろうとしている状況だ。

 

「もう日も沈みかけだぜ、部活にも出られなかったしよー」

 

「…そうだな」

 

部活動が終わる時間も、とうに過ぎている。

もっとも、今日は補習があるからと2人共休みを貰っていたわけだが。

 

「なんだよノリわりぃな~、どうした?」

 

「ちょっと、な…」

 

大輔の話に、ただただ相槌だけをうつタツヤ。

正直、彼の言っていることなど、少年はまともに聞いてなどいなかった。

補習の後に和子から聞いた話が頭に引っかかっていたのだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「その子達が行方不明になった事件全てに関わっていたのが、暁美さんなのよ」

 

「…え?」

 

「な…なんでそれに暁美さんが…?」

 

「その事件って、暁美さんが私の生徒だった頃から高校に進学するまでの数年間で起きたものだったんだけど…」

 

「その子達が行方不明になる直前まで一緒にいたっていうのが…」

 

「暁美さんだったそうよ」

 

「暁美さん、その子達と親しかったみたいだから」

 

「で、でも…それくらいじゃ、あの人がその事件に関わったなんて…」

 

「私もそう思いたかったわ。警察も最初はそうだったみたいだし」

 

「でも…行方不明になった子全員が、居なくなる直前に暁美さんに会っているとなると…流石にね」

 

「他に手掛かりもないし…警察も動かざるをえなかったのよ」

 

「そんな…」

 

「でも結局、警察が暁美さんから話を聞いても、何の進展も無かったんだけどね」

 

「…」

 

「その事件があった後、暁美さんは高校を中退したって聞いていたから…どうしているのかなって心配してたんだけど…」

 

「タツヤ君から暁美さんが元気だったって聞けて、ちょっとホッとしたわ」

 

「そう、ですか」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

和子の話で暁美ほむらという魔法少女の人物像が見えてきた。

まず、高校を中退していたということ。魔法少女としての使命がある以上、それはある意味仕方ない事なのかもしれない。

 

しかし、タツヤはそれよりも気になる事があった。

それは、女の子達が次々と姿を消したっていう…行方不明事件。

 

その事件の事が、タツヤはどうも気になっていた。その事件にほむらが関わっていると言われたからだ。

ほむらと親しい人達が、ほむらと会った後に居なくなる。

それも、『女の子』が…だ。

 

その事を考えると、どうしても少年の頭には“あの事”が過ってしまう。

 

そう、『魔法少女』の事が―――

 

「…」

 

「タツヤ~?」

 

「ん、あ…悪い」

 

「ったく、聞いてなかったのかよ」

 

あまり、考えたくない。

だが、その女の子達が仮に魔法少女だったとすると…行方不明とはどういうことだろう。

 

タツヤは様々な事を思い浮かべるが、魔法少女に関して“嫌な予感”を拭いきることが出来なかった。

 

とにかく、タツヤはその事件のことをもう少し詳しく知りたいと考える。

だが…。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「和子さん、その事件のことって」

 

「ごめんなさい。これ以上はちょっと…」

 

「私自身も…他人事ってわけじゃないから」

 

「あ…その、ごめんなさい」

 

「うううん、いいのよ気にしなくて」

 

「その事件の事が気になるなら、図書館に行ってみたらどう?」

 

「多分、昔の新聞記事のデータとかが保存してある筈だから」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

和子は、行方不明になった女の子の中に自分の生徒もいるって言っていた。

今でも彼女達の事を引きずっているのかもしれないと、これ以上詮索することを止めるタツヤ。

 

そうなると、和子が言っていたように図書館に行くべきかと少年は考える。

市の図書館であれば、夜まで開いている。

今から向かっても、事件の事を調べる時間は充分にあるだろう。

 

「ところでさ、腹減らね?」

 

「親父がさー、新しいラーメン開発したから試食してみて欲しいんだってさ」

 

「これからどうよ?」

 

大輔はタツヤにこれからご飯を食べに行こうと話しかける。

 

「…」

 

しかし、今のタツヤにその言葉は届いていなかった。

彼の頭の中は、今からその図書館に行くかどうかという考えのみであった。

 

知久が帰りを待っているかもしれない。

それでも、やはり少年はその事件の事が気になて仕方がなかった。

 

「おい、タツヤ…?」

 

「悪い、大輔。今日はパス」

 

「へ?」

 

「用事思い出した。先帰っててくれ」

 

「え?どうしたいきなり?」

 

大輔が慌てた素振りを見せているが、タツヤはそんなことなど構わず続ける。

悪いとは思っていたが、今の少年に大輔に付き合う余裕など無かった。

 

「ごめん!!この埋め合わせは後で必ずするから!!」ダッ

 

「あ、おい!!タツヤァ!!??」

 

大輔の制止を聞くことなく、タツヤは帰り道とは逆方向の図書館に向かって走り出す。

まだ閉館時間に余裕があるとはいえ、何があるか分からない。

 

とにかく急がなければと、少年は走り続ける。

 

何か、とても嫌な予感がする。

そう感じたタツヤは、この嫌な予感が当たらなければいいと少しだけ不安になった。

彼女達魔法少女の事で、自分が知らないことがまだあるのではないか…と。

 

タツヤはそんな思いを胸に抱きながら、市の図書館に向かうのであった。

 

「…一体何なんだ、最近のあいつ?」

 

「…仕方ない、帰るか」

 

大輔はタツヤの奇妙な行動に首を傾げつつも、結局そのまま帰路に着く。

 

「…」タッタッタ…

 

そして少年は、尚も走り続ける。

 

「…」ジー

 

その姿を、遠くの高台から…ジッと見つめている者がいた。

 

「…やれやれ」ピョコ

 

人でも、動物でもない白い“それ”は悪態を付きながら高台を降りる。

そして、そのまま“それ”は走っていく少年を追い掛けていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

見滝原市内、図書館―――

 

「え~と…」

 

大輔と別れてから数十分後、タツヤは市内の図書館にいた。

和子から聞いた事件について調べようと思った少年だったが、何処に行けばいいのか分からず、館内をうろうろしている。

 

見滝原市の図書館は、商店街や駅とは少し離れた人気の少ない場所に建っている。

その分敷地が広く、市内でも1~2位を争うほどの巨大な施設である。

設備も最新の物が用意されており、本や資料もよほどマイナーなものでない限り揃っている。

 

「君、何か探し物?」

 

「えっ!?は、はい…」

 

そうやって少年が館内を巡回していると、本の整理をしていた司書に声を掛けられる。

 

タツヤは、ちょうどいいと彼女に資料が何処にあるのか聞こうと考える。

 

「あの、昔の新聞のデータとか保管してる所って何処ですか?」

 

「ああ、それだったら地下にあるわよ」

 

「ありがとうございます」

 

地下にあったのかと、少年は目を見開いた。

 

タツヤは彼女から地下に向かうエレベーターの場所や、過去のデータの検索方法を教えてもらう。

周りには調べ物や勉強している人がまだ居た為、少年はなるべく小さな声で礼を言った。

 

「閉館時間もあるから、探し物なら手短にね」

 

「はい」

 

彼女はそう言って再び自分の仕事に戻っていく。

確かに、時間はあまり残されてはいなかった。

 

早く地下に行って用事を済ませた方が良さそうだと、タツヤは彼女に軽く会釈をして足早に地下に向かった。

 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

 

「ここか…」

 

エレベーターを使い地下に降りると、巨大な本棚のような機械がいくつも並んだ部屋に辿り着く。

 

司書が言うには、過去の新聞やそのデータなどは膨大な量になる為、地下を丸ごと使って保管している。

 

特定の記事を調べるには、この部屋にあるタッチパネルを使って機械を操作しなければならない。

そうすれば、その記事のデータと紙媒体で保存してある新聞の記事が出てくるという仕組みだ。

 

「え~と、検索ワードは…」

 

「あ…出てきた」

 

タツヤは機械の前にあったタッチパネルを操作し、資料を探し始める。

今知っている情報を検索ワードとして入力し、記事のデータを呼び出す。

 

『見滝原市』『行方不明』『女子中学生』

 

複数のワードを入力し、膨大なデータから情報を絞っていく。

すると、そのワードにヒットした記事が複数タッチパネルに表示された。

 

「年月は…一番古いので、ちょうど10年前か」

 

その記事の中で一番古いものに分類されている記事を呼び出してみる。

 

記事の題名は―――

 

『見滝原市内で行方不明の女子中学生、未だ発見されず』

 

「『見滝原警察は○月△日より行方不明となっている…』」

 

タツヤは、表示された記事の内容を読み上げる。

 

「…え?」

 

しかし、その内容を見て―――タツヤは思わず声を漏らし、目を見開く。

その記事の続きには、こう書かれていたのだ。

 

「『美樹さやかさんについての情報提供を再度求めた』」

 

美樹さやか、と―――

少年はその名前に聞き覚えがあったのだ。

 

そう、それは――――

 

『僕とさやかは…ただの幼馴染、さ』

 

『彼女が、遠くに行ってしまったから、かな』

 

「…まさか」

 

タツヤの脳内で再生されるのは、昨日の恭介の言葉。

そして、今でも脳裏に焼き付いている―――恭介の悲しそうな表情であった。

 

今更になって、少年は恭介の言葉の真意を理解する。

居なくなったということは―――つまり、そういうことだったのだ。

 

「『美樹さやかさんは○月△日、友達の家に行くと言って自宅を出て以来、行方が分からなくなっている』」

 

「『家族は既に警察に捜索届を出しており、情報提供を呼びかけている』」

 

タッチパネルを再度操作し、『美樹さやか』という検索ワードを追加する。

新たに表示された記事の中に、美樹さやかという人物が行方不明になった時のものを見つけた。

 

その後も、いくつか記事を呼び出し内容を確認するが、美樹さやかという人物が発見されたという内容の記事は一つも見つからなかった。

 

そして――――

 

「『△月□日、美樹さやかさんの行方は未だに分かっておらず』」

 

「『警察はこれ以上の捜索は困難であると判断し、家族の合意の下、美樹さやかさんの捜索を打ち切ることを発表した』」

 

美樹さやか関連の記事の中で一番新しいものに目を通すと、それは捜索を断念するという内容の記事だった。

それは、最初の記事が出てから約1年後のものだ。

警察も必死に捜索したと、操作を打ち切ることに対しての無念さを綴ったような内容が書かれていた。

 

「恭介さん…」

 

その記事に目を通しながら、少年は恭介のことを考える。

 

今でも、『美樹さやか』から貰ったCDを宝物のように大切に閉まっていた恭介。

恭介にとって、彼女の存在がどれだけ大きかったか…それは、中学生のタツヤでも分かった。

 

そんな人物が突然いなくなり、そのまま行方不明になってしまった。

恭介は、その事をどう思ったのだろう…と。

 

今でこそ、あれだけ落ち着いている。

昨日、彼女の事を話していた恭介は、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。

あの表情の奥には―――どれだけの悲しみが詰まっていたのだろうか。

 

どれだけの苦しみを―――抱えていたのだろうか

 

そう考えると、タツヤは自分のことのように胸が苦しくなった。

 

「…他の類似してる記事は」

 

タツヤは、彼女以外の行方不明事件の記事にも目を通し始める。

 

「みんな、似たような状況で行方不明になってる」

 

「そして、今でも行方不明のまま…」

 

どの記事も似たような内容で、全ての少女が行方不明になっている。

 

警察の懸命な捜査も全て無駄に終わっていた。

 

「巴マミ」

 

「佐倉杏子」

 

「そして、呉キリカ…か」

 

タツヤは行方不明になった人達の名前を確認する。

一通り目を通してみたが、事件が起きた年月がバラバラとなっており、統一性があるとは思えなかった。

 

だが、タツヤはなんとなくこれらの事件が繋がっているような予感がしていた。

 

その予感は恐らく、この事件にほむらが関わっているからだろう。

 

流石に、記事の中にほむらの名前は載っていなかった。

記者も未成年だったほむらのプライベートを考慮したのだろう。

 

結局、何の情報も出てこなかったのだから…。

 

「…」

 

ガサ…

 

「っ!?誰だ?」

 

記事を整理していると、少年は後ろから何やら気配を感じ取る。

 

この部屋に他に人間ははいない。

気になったタツヤは気配を感じた方向へと視線を向けてみる。

 

「やあ」ピョコ

 

そして、その視線の先に現れたのは―――あの白い珍獣だった。

 

その珍獣は何食わぬ顔をして、タツヤから近付いてくる。

 

「お、お前…なんで此処に」

 

「前に言ったじゃないか、君をしばらく観察するって」

 

「だから付いてきたんだよ」

 

「相変わらず嫌味ったらしいな、お前…」

 

何を当たり前のことを聞いているとでも言いたいかのように、キュゥべえは振舞う。

 

君に付いてきた。

つまり、タツヤの気付かないところで珍獣は見ていたということになる。

相変わらず良い趣味しているなと、少年は珍獣を蔑むように見下ろした。。

 

「まあ、いいや。むしろちょうど良い」

 

「お前に聞きたいことがある」

 

この一連の事件に関して、タツヤの頭の中ではずっと一つの事がちらついていた。

 

それは―――魔法少女の存在。

 

和子が言うように、この事件にほむらが絡んでいるのだとしたら…魔法少女が関わっているという可能性を否定できなかった。

 

そして、魔法少女のことならこの珍獣が一番よく知っている筈だと、少年は考える。

この珍獣なら、この事件のことを何か知っているかもしれない…と。

 

そう、思ったのだが…。

 

「無理だね」

 

「は!?」

 

タツヤが疑問をぶつける前に、キュゥべえは回答を拒否する。

一瞬…この少年が何を言っているのか理解できず、少年は呆気に取られる。

 

「君が何を聞こうとしてるのか、大体想像は付くよ」

 

「悪いけど僕にも守秘義務がある」

 

「契約対象じゃない君に教えることはできないよ」

 

まるでタツヤの考えを読んでいるかのように、キュゥべえは言う。

いつもは自分からペラペラ話すのに、こんな時に限って何なのだと少年は怒りを覚える。

 

コイツは絶対、自分に都合の悪いことは聞かれるまで答えないってタイプだろう…と。

 

「この珍獣め…」ギリ

 

「…」キュップイ

 

少年が珍獣を睨みつけるも、怯む様子は無い。

つくづく嫌味な奴だと、タツヤは思う。

 

どうすることもできない少年は、キュゥべえの態度に拳を震わせた。

 

「まあ、でも」

 

しかし、そんなタツヤを見て…この珍獣が独り言を呟くようにポツリと言葉を漏らす。

 

「大体は、君の想像通りだと思うよ」

 

「…!!」

 

キュゥべえが何気なく発した言葉に、タツヤは衝撃を受ける。

慌てて珍獣に視線を向けてみるが、相変わらず涼しい顔をしていた。

 

今の言葉―――

仮に、タツヤの考えていることがそのままキュゥべえに読まれているのだとすれば―――

 

やはり、この事件で行方不明になっている少女達は―――

 

「僕が言えるのはここまでだ」

 

「後は、自分で調べることだね」

 

「…」

 

それだけ言い残して、キュゥべえは地下室の入り口へと歩みを進める。

タツヤが瞬きをした瞬間、姿を消すのだった。

 

再び、部屋にはタツヤ一人が取り残される。

しかし、此処に保存してある記事はあらかた調べてしまっていた。

 

これ以上は、特に情報を得られそうに無い。

 

「おーい、君ー」

 

「あ、はい」

 

タツヤが途方に暮れていると、地下に来る時に使ったエレベーターが開く。

中からは、先程少年が世話になった司書が出てきた。

 

「もう直ぐ閉館時間よ。そろそろ終わりにしてね」

 

「あ…すいません」

 

司書はエレベーターから降りると、閉館時間を知らせる。

ふと、部屋の時計を確認すると…タツヤが地下に来てから大分時間が経っていた。

調べものに夢中になっていたせいか、時間を忘れてしまっていたようだ。

 

「じ…じゃあ、この記事のデータだけコピー取らせて貰ってもいいですか?」

 

「え?ええ、それは構わないけど…」

 

「お願いします」

 

司書に自分が調べた資料のコピーを依頼し、帰る支度をする。

とりあえず今回の事件の資料だけを持ち帰り、後のことは家で調べようとタツヤは考える。

 

知久も帰りが遅いと心配しているだろう、詢子はまだ仕事かもしれないが。

とにかく、夕食までには間に合わせるためタツヤは帰る支度をする。

 

その後、司書からコピーしてもらった資料のメモリーを受け取り、少年は閉館時間ギリギリに図書館を出る。

 

「…」

 

図書館から出た時、キュゥべえが建物の上からタツヤを眺めていた。

しかし、その時の少年は…まだ気付いていなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

鹿目家、リビング――――

 

「はあ~生き返るっ!!」

 

夜も更け、空が綺麗な星達で埋め尽くされていた頃―――

鹿目家のリビングでは、仕事から帰ってきた詢子がバスローブ姿でビールを一気飲みしていた。

ビールを美味そうに喉を鳴らしながら飲み干す彼女の姿は、若い頃から変わっていない。

変わったとすれば、多少貫禄が付いたという事くらいだ。

 

「はは。はい、おつまみ」

 

その姿をキッチンで見ていた知久は、詢子にサラダを渡す。

ドレッシングは彼女の好きなお酒に合うよう味付けしてあり、カロリーも抑えた知久の特別性だ。

 

「ああ、悪い。ところでタツヤは?」

 

詢子が帰ってくる頃には、既にタツヤはリビングには居なかった。

彼女の仕事が遅くなり、息子よりも帰りが遅くなるのはいつものことだ。

しかし、いつもだったら自分が帰ってくるとリビングにやって来る筈の息子が、今日は来ていない。

そのことが詢子は少し気になっていた。

 

「いるよ。ついさっき帰ってきたばかりだけどね」

 

「うわっ、またあいつ随分遅かったんだな…」

 

実際、タツヤが帰ってきたのは詢子が仕事から帰ってくる1時間程前のことだ。

前回知久に怒られた時よりはマシだったが、それでも学校の下校時間を考えると相当遅い。

 

詢子は「何してんだ」と、自分の息子の行動に溜息を付いた。

 

「うん、理由を聞いたら図書館に行ってたって言ってたよ」

 

「図書館?またなんで」

 

「さあ、分からない。何か調べ物でもしていたのかもね」

 

「今も、『調べ物がある』とか言って部屋に篭っちゃってるよ」

 

タツヤは自宅に帰ってきた後、恭介宅に泊まった時の衣服などを洗濯機に放り込んだ。

その後、夕食を済ませ自分の部屋に閉じ篭っていた。

恐らく母が帰ってきていることに気付いていないのだろうと、知久は苦笑いを浮かべながら応える。

 

「ふ~ん、宿題でもあるのかね」

 

「ん~どうだろう」ハハハ

 

学業に一生懸命になってくれているのだとしたら、親としては喜ばしいことだ。

今日も、成績が悪いという理由で和子の補習を受けてきた筈なのだから…。

 

だが、タツヤの性格を考えると、恐らくそれはないとこの両親は微妙な心境で考える。

せめて人並みには…と、両親は願っているのだがそれは中々難しそうだ。

 

「しっかし、最近のアイツはどうもやんちゃが過ぎるというかなんというか…」

 

真っ直ぐなのは良いが、もう少し後先考えて…と、詢子は悪態をつこうとする。

しかし、彼女は途中まで言って…口を閉じた。

 

「誰に似たんだろうね」ニッコリ

 

「…」

 

自らの発言が、ブーメランとなって自分に返ってくることを彼女は分かってい。

 

そう、自分の息子が『誰』に似ているのかくらい…彼女は分かっているのだから。

 

その後、夫の指摘を振り払うように、お酒を飲むことに終始する詢子であった。

 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

 

「ん~…」カタカタ

 

図書館から帰ってきた後、タツヤは夕食を足早に済ませ、自分の部屋でPCと格闘していた。

 

インターネットで事件のことや行方不明になった人について調べる。

 

「やっぱり、これ以上目ぼしい情報はない、か…」

 

かれこれ数時間部屋に篭って調べているが、図書館で入手したもの以上の情報は見つかっていない。

 

強いて上げるなら、『巴マミ』がアイドル候補生だったらしいということくらいだ。

アイドルとしてデビューする直前に、行方不明になったと記事には書いてあった。

 

なんともやり切れない話だと、少年は調べながらに思った。

 

「…」

 

「お前はいつまでここにいるんだよ」

 

「別にいいじゃないか」

 

「ったく…」

 

PCの画面を睨め付けている内に、いつの間にかこの珍獣が部屋に入ってきていた。

今は部屋の窓際に居座り、相変わらずの涼しい顔でタツヤのことを眺めている。

 

図書館から出た時は、既にいなかった筈なのに―――

そんなに自分のことを監視して一体何になるのかと、タツヤは悪態を付く。

 

「そんなに彼女達のことが気になるのかい?」

 

「君は彼女達と何の接点もないのに」

 

タツヤの言葉を軽く受け流し、黙って眺めているだけだったキュゥべえがそこで口を開く。

 

その言葉には、何を必死になっているのだというニュアンスが含まれていた。

 

恐らく、必死にキーボードを叩いているタツヤのことを不思議に思ったのだろう。

 

もっとも、今のタツヤにとって…それは嫌味でしかなかった。

 

「悪いかよ」

 

「人間はいつもそうだ。自分に利益があるわけでもないのに、他人の生死を気にかける」

 

心底不思議そうに、キュゥべえは首を傾げる。

 

この珍獣に、人間の常識など通用しない。

そんな事は…タツヤも薄々気付いてはいた。

しかし、それもここまで来てしまうと、流石に呆れてしまう。

 

「この地球には今現在約70億人の人間が存在していて」

 

「今でも6秒毎に人は10人ずつ増え続けているのに」

 

「どうして、たかだか数人の生死を気にする必要があるんだい?」

 

人間の生き死にを、まるで算数の計算問題かのように言い表すキュゥべえ。

 

そんな単純な話ではないと、タツヤは下唇を噛む。

失った分を補えるだけ増えているのだから問題ないとか、そんな簡単な事ではない。

 

人の命は、そんなに軽くない。

死んだ人の家族や友人にとって――――その人の代わりなんていないんだから。

 

「お前、同じ事をお前らの目的の為に戦ってきた魔法少女の前で言えるのか・・・」

 

キュゥべえの言葉は、仮にも人間に近付き魔法少女になって戦ってくれと頼んでいる者のものとは思えなかった。

それは、まるで他人事のようであった。

 

タツヤは、心底不思議に思う。

この珍獣は…人が死ぬことに対して何も感じないのだろうか…と。

仮に、魔法少女が死んでしまったとしても…この珍獣は―――

 

「君は、いまいち理解できていないようだね」

 

「は?」

 

タツヤの思考を遮るように、キュゥべえが言葉を返す。

それこそ図書館の時と同様、タツヤの考えを読んでいるかのように…。

 

「前に僕は言ったはずだよ」

 

「僕達は君達を家畜のように扱っても構わないと思ってる」

 

「仮に、君達は家畜に引け目を感じたりするかい?」

 

「なっ…!!」

 

そして、タツヤは珍獣あまりの言い分に―――言葉を失う

 

――魔法少女達が死んだとしても、自分達は何とも思わない

 

そう、キュゥべえは暗に示したのだ。

何の迷いのなく…

 

何の躊躇もなく…。

 

普段と何ら変わることのない、涼しい顔をして―――

 

「よく考えてごらん」

 

「君達の繁殖の為に養殖されている牛や鶏達は、他の野生動物達に比べて圧倒的な繁栄を得ている」

 

「それはなぜか」

 

「簡単な話だ。君達人間が自身の為に彼等を生存競争から保護しているからさ」

 

それは、淡々と…ただただ淡々と…

 

キュゥべえ―――インキュベーターは言葉を繋いでいく。

 

世界の仕組みが、どういうものなのか…ということを―――

 

「何が言いたい」

 

「僕達が魔法少女を扱うことと、君達が家畜を扱うことは同じだということだよ」

 

タツヤに向けて…当たり前のことだと言うように、インキュベーターは言い切った。

 

お前達は自分達にとって―――家畜のような存在であると…

 

お前達は―――消耗品であると

 

タツヤは、自分のこの珍獣に対する認識が甘かったことを痛感する。

 

確かにインキュベーターは以前、学校で同じような事を言っていた。

 

でも、まさか人間を…魔法少女達を、そのように見ているなどこの少年は夢にも思わなかったのだ。

 

タツヤは既に怒りの沸点を通り越し過ぎて、ただ唖然とするだけとなっていた。

 

「このっ!」グイッ

 

「違うのかい?」

 

「っ‼‼」

 

何か言い返そうと、タツヤはインキュベーターに掴み掛かる。

 

だが…何故か言葉が出てこない。

 

そう―――少年は納得してしまっていたのだ…

 

この珍獣の言葉に、心の何処かで―――

 

ふと、少年は思う。

 

自分は…今まで考えたことがあったのだろうか。

 

普段、自分達の食卓に並ぶ食材がどうやって作られているのか。

どうやって―――自分達の食卓に上ってきているのか。

 

鶏肉や豚肉を食べていて、元となった鶏や豚のことを考えたことがあっただろうか。

 

タツヤは、インキュベーターの言葉を真っ向から否定することが出来なかった。

 

「まあ、そうは言っても僕達は君達をそこまで下劣には扱ったりはしない」

 

「ただ、僕達に君達人間の考え方を理解する必要なんてないということさ」

 

同じだと言うのだろうか―――人間が家畜を扱うことと、インキュベーターが人間を扱うことが

 

タツヤには、分からなかった。

いくら考えても―――答えが出てこなかった。

 

「お前には分からないだろうよ」

 

「人の…気持ちなんて」

 

言いたいことは、山ほどあった筈。

だが今のタツヤには、それだけ言うのが精一杯だった。

 

人間には、他人のことを想える『感情』があるのだと、タツヤは苦し紛れに呟いた。

 

「『人の感情』…か」

 

「悪いけど、僕達インキュベーターにとって」

 

「その『感情』は精神疾患の一つでしかないんだ」

 

「僕達に君の言う『感情』なんて無いんだよ」

 

それでも、インキュベーターは涼しい顔をしてタツヤの言葉を受け流す。

 

自分達は、感情がない。

 

その言葉を踏まえれば、今までの珍獣の言動にも合点がいく。

人間とインキュベーターでは、元々の創りからして違うのだと。

だから、平気でこんなことが言えるのだろう。

 

「もっとも、その『感情』が僕達にもあったら、わざわざこんな星に来ることもなかっただろうけどね」

 

「…もういい、出て行け」

 

「僕達は…」

 

「出て行けって言ってるだろ!!!」

 

尚も続けようとするキュゥべえを、大声を出して遮るタツヤ。

 

この少年には、この珍獣の言葉は既に聞いてはいられなかったのだ。

 

タツヤには…もう、キュゥべえが何を言っているのかが理解できなかった。

いや、正確には…理解しようとする程の気力が今の少年には残されていなかったのだ。

 

それ程までに、タツヤは混乱しており、考える力すらも失っていた。

自分でも分かる程に、思考が停止していたのだ。

 

「…」ハァ・・ハァ・・

 

「…分かった」ピョン

 

タツヤの顔を見て一つ溜息を付くと、キュゥべえは大人しく部屋を出て行こうとする。

 

「…」

 

しかし、窓際まで歩くとキュゥべえは足を止めた。

 

「…これは、僕のただの独り言だ」

 

そのまま外を眺めながら、珍獣は語り出す。

 

それは、まるで誰かに語り掛けているかのような口調だったが…キュゥべぇはあくまでも“独り言”だと続ける。

 

「彼女達は、君が思っている程…不幸だったわけじゃない」

 

「僕が知る限り、彼女達は後悔なんてしていなかった」

 

それは―――“居なくなった”魔法少女達のこと

 

「…彼女達の最期は、実に美しかったと思うよ」

 

この珍獣から似つかわしくないような言葉が発せられる。

 

―――美しかった―――

 

その言葉の意味が、タツヤには分からなかった。

 

いや、分かりたくなかったのだ。

 

キュゥべえは言った。彼女達の“最期”は、と…

それは、彼女達がもうこの世界にいないことを意味する。

 

それなのに、最期の姿がどうだったかなど…タツヤは理解したくなかったのだ。

 

「…」

 

タツヤは、キュゥべえの言葉を無視するかのように無言を続ける。

 

その視線が、珍獣の方へと向く事は無かった。

 

「…桜が綺麗だね」

 

それでも、キュゥべえは続ける。

タツヤの部屋の窓からは、季節柄か綺麗に咲き誇っている桜の木が見える。

珍獣は、そんな桜の木を見つめながら静かに続けた。

 

「桜の花は、散り際が一番美しいものだという話だ」

 

「魔法少女達は、まるで…この桜のようだね」

 

感慨深げな表情を浮かべながら話すキュゥべえ。

 

感情を持たない筈のこの珍獣が、このような表情を浮かべることは珍しい。

その姿はまるで、“彼女達”との思い出を懐かしんでいるかのようであった。

 

「もし、魔法少女(かのじょ)達の事をもっと知りたいのなら…」

 

「知っている人達に、聞いてみるのが一番じゃないかな」

 

そう、誰かに語り掛けるようにキュゥべえは呟く。

 

独り言とこの珍獣はしてはいるが、それは魔法少女の事で思い悩む少年に向けてのメッセージのように聞こえた。

 

「じゃあ、僕は行くね」

 

「また、会いに来るよ」

 

「鹿目タツヤ」

 

キュゥべえは最後までタツヤに振り向くことなく、部屋を出ていく。

 

その後、珍獣が居なくなった部屋は…タツヤだけが残り、妙に静かであった。

 

「…くそっ!!」ドンッ

 

そのせいだろうか。

今更になって、少年は怒りがこみ上げてくるのを感じた。

八つ当たりするように、拳を机に叩き付ける。

 

この怒りは、恐らくあの珍獣に対してのものではないのだろう。

あの珍獣に…キュゥべえに何を言われても反論できなかった…自分に対してだ。

 

キュゥべえの言葉に納得してしまい、自分の答えが出せなかった事がこの少年にとって…もの凄く、情けなかったのだ。

 

キュゥべえの言っていることが正しいなんて思いたくない。

だが、そうは言っても今あの珍獣に何かを言い返せる自信もない。

 

自分がつくづく弱くて馬鹿な人間であると痛感してしまい、そんな自分が嫌になるタツヤであった。

 

結局、その後は事件についての情報収集も捗らず、無意味な時間を過ごしてしまう。

調べている間もずっと…タツヤはキュゥべえの言葉が、頭から離れなかった。

 

「う~ん」

 

一方で、そんなタツヤに言葉を浴びせた珍獣は何故か首を傾げる。

 

「また余計な事を彼に話してしまったね」

 

「どうしてだろう。僕らしくもない」

 

自らが窓際でタツヤに言った言葉、それは本来ならば言うつもりの無かった言葉である。

何故あんな事を言ってしまったのだろうと、キュゥべえは自分自身に疑問を感じていた。

 

あの少年に、同情でもしてしまったのだろうか―――

 

そう考えるも、直ぐにそんな筈はないとキュゥべえは首を横に振る。

自分は人間に同情するような“感情”など持ち合わせていないのだから―――

 

「…不思議だ」

 

珍獣のその言葉だけが、夜の見滝原に木霊するのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

見滝原中学―――

 

「よーし、50メートルのタイム計るぞー」

 

心地よい春風が吹く中、生徒達は外で体育の授業中だ。

 

まだまだ着始めたばかりの真っ白な体操服に身を包み、1年生達は体育の基本とも言える50メートル走を行っていた。

 

「よーい」

 

ドン!!

 

「うぉぉぉおおおお!!!!!見滝原の荒波とは俺のことだぁぁぁぁあああ!!!」ダダダダダ

 

体育になると、人が変わったかのようにやる気を出す体育会系の子供が、恐らく何処の学校にもいるだろう。

 

タツヤの友人である板垣大輔も、その1人だ。

 

普段の授業中では、ほぼ夢の中で過ごしている彼だが体育になると途端に目を輝かせる。

彼もまた所謂『体育会系』の子供なのだ。

 

カチ

 

「…板垣、5秒9」

 

「「「えぇぇぇぇえええ!!!!????」」」

 

そして、それ相応…いやそれ以上というべき身体能力を、彼は持ち合わせていた。

 

「嘘だろ!?なんで中1で6秒台切れるんだよ!?」

 

「中学1年の平均って、たしか7秒9くらいじゃ…」

 

「あいつ本当に日本人か?実はジャマイカ人とかだろ」

 

「というより人間なのか?」

 

周りの子供達が、一斉に騒ぎ出す。

 

それもその筈だろう。

彼の出したタイムは、中学1年生の平均を大幅に上回っているのだから。

 

「ふっ、学校のグラウンドは…もう俺の庭みたいなものさ」

 

「馬鹿だけど」

 

「馬鹿だな」

 

「ああ、どうしようもなく馬鹿だ」

 

「ああ、人間じゃなくて馬鹿そのものだったのか」

 

「なんだとぉぉぉおおおお!!!!!!!!」

 

『体育会系』の子供とは、文字通り体育系に特化した子供の事を指す。

そして、そのような子供は大抵の場合…頭脳の部分が弱かったりする。

 

その事は、彼も例外ではない。

むしろ、彼ほどその事が顕著に現されている子供はそういないのだろう。

 

やはり、板垣大輔という少年は『体育会系』なのだろう。

 

「…」

 

そんな大輔の事を、タツヤは木陰でただ眺めているだけであった。

 

気付けば…図書館であの事件を調べてから数日が経過していた。

タツヤは、あの日以来何をやるにも集中出来ない日々を送っている。

あの珍獣の言葉が、未だに頭から離れないでいたのだ。

 

「(とにかく、今は事件のことと…魔法少女のことを調べよう)」

 

いつまでも、キュゥべえのことでウジウジと悩んでいてもしょうがない。

雑念を振り払うようにここ数日、タツヤは例の事件について調べている。

 

だが、あれから色々な媒体を使って調べているが、目ぼしい情報は得られていない。

やはり、表に出ているものだけでは、これ以上の情報収集は無理なのだろうか。

 

そう、タツヤは調査に行き詰まりを感じていた。

 

「(くそっ一体どうしたら…)」

 

新聞記事や公式の資料で魔法少女のことが調べられるわけがない。

これ以上の事は、やはり関係している人物に話を聞くしかないのだろう。

 

『もし、魔法少女(かのじょ)達の事をもっと知りたいのなら…』

 

『知っている人達に、聞いてみるのが一番じゃないかな』

 

先日、キュゥべえが言っていたように―――

 

「(…あいつの言う事を聞くのは癪だけど)」

 

タツヤにとって、あの珍獣の思惑どおりに行くことは些か抵抗があった。

しかし、だからといってこのままでは調査が進まないことは目に見えている。

 

此処は自分の下らない自尊心など捨てて、彼奴の言う通りにしようとタツヤは思い至る。

しかし…

 

「(暁美さんには、流石に聞けないよな)」

 

和子の話が本当ならば、彼女はこの事件がきっかけで学校を辞めた事になる。

その事を考えると、タツヤはほむらの古傷を抉ることになるのではと悩む。

 

彼女に事情を聞く事は、なんとなく気が引けていた。

 

「(ゆまさんに聞けば、何か知ってるかな)」

 

同じ魔法少女でほむらとも交流があるゆまなら、聞けば何か教えてくれるかもしれない。

彼女はほむらほど魔法少女の秘密とやらにも厳しい人間でもない。

 

あの事件と魔法少女が関わっているのかどうか、行方不明になった人達はどうなったのか。

彼女なら、知っているかもしれない。

 

しかし、ここで一つ大きな問題があることにタツヤは気が付く。

 

「(よく考えたら俺、あの人の連絡先とか知らないや)」

 

そう…肝心のゆまの連絡先や、居場所などをタツヤは全く知らなかった。

聞く機会なんて無かったのだから、ある意味当然なのだが…。

 

こんな事なら、前会ったときに連絡先くらい交換しておくべきだったと少年は悔やむ。

 

しかし、悔やんでなどいられない。

タツヤは自らが知っている彼女の情報を最大限に生かし、なんとかして打開策を見出そうとする。

 

「おーい、タツヤー次お前だぞー」

 

「あ…ああ、今いく」

 

「(白女、か)」

 

そこでふと、彼女が先日白女の制服を着ていたことを思い出す。

 

白女に行けば、彼女に会えるのかもしれない。

 

「(…行ってみるか)」

 

どのみちこれ以上は八方塞がりである。

そう考えたタツヤは、放課後に白女に行くことを決める。

 

目標が出来たからなのか、それ以降の授業だけは集中して取り組むことができたようであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。