魔法少女まどか☆マギカ~After Ten Years of History~ 作:イデスツッラ
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放課後―――
「…ここか」
放課後、タツヤは隣町の風見野にある私立校の校門前に立っていた。
隣町なだけあって見滝原中学から白女まではそれなりに時間が掛かる。
HRが終わった後、部活を休んで此処まで来たのだが、着いた頃にはすっかり夕方になっていた。
「なーんか場違いな気がするんだよなぁ」
タツヤは校門前に立ち、中の様子を確かめる。
放課後ということもあり、下校しようとしている生徒とやたらとすれ違う。
以前も説明したとおり、白女はお嬢様学校だ。
すれ違う生徒達も少年の学校の女子とは比べものにならないくらい、品のある人物ばかりである。
そんな中で、一人制服の違う男子が紛れているとなると、嫌でも注目の的にされてしまう。
その後、タツヤは校門前に居た警備員に学生証を提示し、許可を得てから白女の敷地内に入る。
少年が事情を話すと、警備員は特に問題にすることなく通行を許可した。
そこまで厳重に警備しているわけではないようだ。
もっとも、校内にいる生徒達の色物を見るような視線は彼には息苦しかったようだ。
「さて…と」
そんな白女の生徒達の視線を掻い潜りながら、タツヤは敷地内を移動する。
ゆまはまだ校内にいるのだろうかと、少年は校門前付近を探す。
緑色の髪の毛にポニーテールなんて姿、目立つ筈だと腹を括っていた。
しかし、その後も校門前を中心にゆまを探してみるが、一向に見つけることができず…学校から出てくる様子もなかった。
もう帰ってしまったのだろうかと、少年は途方に暮れてしまう。
「ちょっとあなた!!」
「我が校で何をしてますの?」
「ふぇ」
そんな時だった。
ゆまを探しながらウロウロ歩き回っていると、突然誰かに呼び止められる。
少年が声が聞こえた方角に視線を向けると、ふんわりとした金髪の巻き髪に碧眼と、いかにもお嬢様という容姿をしている人物が眉間に皺を寄せて立っていた。
「その制服、あなた見滝原の生徒ね」
「うちの学校に何か御用かしら?」
「え~と~」
突然のことで、タツヤは回答に困ってしまう。
入園の許可を取っているのだから、別に怪しい者ではない。
しかし、タツヤは何故か悪い事をしている気分になる。
私立の女子高に男子がいれば、怪しまれるのは当然なのかもしれない。
それよりも、まずこの女性は誰なのだろうと少年は首を傾げた。
「…こほん、失礼しました」
「私(わたくし)、この学校で生徒会長をしている者です」
「以後、お見知り置きを」
「は…はぁ」
巻き髪を手で書き上げながら挨拶する彼女。
自分は白女の生徒会長であると、彼女は言う。
その言葉を聞いて、少年は目を丸くする。
自分の中の生徒会長のイメージとはだいぶ違うと、色々な意味で驚いていた。
流石、お嬢様学校であると。
「それと、私の後ろに居るのが副会長ですわ」
「…よろしく」
「よ、よろしくお願いします」ペコリ
生徒会長の後ろから、今度は眼鏡を掛けた黒髪の女性が姿を現す。
見るからに目を引く風貌の会長と違って、此方は少し地味な印象を受けた。
言葉数も少なく、紹介されるまで後ろにいることに気付かなかった。
恐らく、会長が派手過ぎるのが原因だろう。
「挨拶も済んだことですし、話を戻しましょう」
「あなた、我が校で何をしていますの?」
「一応、此処は女子高ですのよ?」
「あ、あはは…それは…」
会長が鋭い視線をタツヤに向けてくる。
その雰囲気に気圧されて、少年は思わず苦笑いしてしまった。
あまり自分の周りにはいないタイプの人物であった為、流石のタツヤも戸惑っていたのだ。
「まさか、何かいかがわしいことを…」
「いやいや!!違いますよ!!」
突拍子も無いことを会長が言い始めた為、タツヤは慌てて否定する。
急に何を言い出すのだと、思わず声を荒らげた。
やはり、このような場所に他校の男子生徒がいると、そういう目で見られるのだろう。
「その、人を探してまして…此処の生徒の筈なんですけど…」
タツヤは、このまま変質者扱いされるわけにもいかないと事情を話す。
特に怪しい事をしている訳ではない。
訳を話せば分かってくれるだろう、と。
「あら、そうでしたの?」キョトン
「だったらそうと早く言いなさいな」
「(いや、言う前に絡んできたのアンタだろ…)」
事情を説明すると、会長は一瞬間の抜けた表情をした後、呆れたように溜息を付く。
確かに、自分がいつまでも言い淀んでいたのは悪い。
だが、この納得できない感じは何なのだろうと少年も心の中で溜息を付いた。
「それで、どなたをお探しに?」
「私、役職柄顔は広いほうですので」
「あなたの探している人を知っているかもしれませんわ」
人の心境など気にも止めず、彼女は自信満々に言ってのける。
確かに、生徒会長なら色々知っているだろう。
ゆまの現在の居場所までは知っているとは思えないが、何らかの情報は聞けるかもしれない。
「はあ、だったら」
タツヤはいまいち釈然としなかったが、一応と彼女に問いかける。
「『千歳ゆま』って人なんですけど」
「 ! ? 」
ゆまの名前を出すと、彼女は何故か目を見開き…息を呑む。
理由は分からないが、驚いている様子だった。
ゆまのことを知っているようだが、何処か様子が可笑しいと感じるタツヤ。
「千歳『様』…と…!!」
「ん?」
一瞬―――タツヤの動きが固まる
いや、動きどころか…思考すら止まったような気がした。
「…あ」カァー
「ゴ、ゴホン!!ち…千歳さんを探しているのですね?」
彼女は、慌てて取り繕うかのように咳払いする。
先程の自信に溢れていた姿とは打って変わり、顔を林檎のように紅くさせ口をパクパクさせる。
タツヤは自分の耳を疑った。
今彼女は、確かに千歳『様』と言っていたのだ。
『様』とは、一体どういうことだと少年は混乱する。
「今、千歳『様』って…」
「探しているのですね!!」
「…はい」
ワケガワカラナイヨ、とタツヤは呆れたように言葉を返す。
少年は、お嬢様は相手のことを敬意を込めて『様』付けで呼ぶのだと、無理矢理納得してみる。
流石お嬢様だ、自分達凡人とは考え方からして違う…と。
「申し訳ありません」
「彼女とは学年が違いますので…」
「そ、そうですか」
やはり、流石の生徒会長でも生徒の居場所までは分からないようだ。
仕方ないと、タツヤはこの場を離れようとする。
居場所が分からない以上、このままこの場所に居ても意味がない。
更には、この生徒会長にゆまの事で何か聞かれては…色々不味いと、タツヤは考えた。
「ところで」
「はい?」
「失礼ですが、千歳さんとは…どういうご関係で?」
しかし、その行動は…少し遅かったようだ。
「え?ど、どういうって…」
「お答えになって」ズイ
「え、え~と…」
彼女は問い詰めてくるようにジリジリとタツヤとの距離を縮めてくる。
何故かは分からないが、鬼気迫るような表情を浮かべてタツヤを睨んでいた。
どんな関係と言われてもと、タツヤは返答に困る。
彼女は、どう考えても一般人だ。
魔法少女がどうとかなんて、話せる筈がない―――と
「人に言えるようなものじゃ…」ボソ
「なぁ!!!!!!」
「…あっ」
その時、タツヤは以前ゆまが犯したミスを自分も犯した事に気付く。
人には言えない。
それは確かにそうなのだが、その言い回しでは勘違いをしても無理はないだろう。
「け、汚らわしい!!!」
「いや、今のはそういう意味で言ったんじゃ…!!」
「“私の”千歳様がこんな冴えない殿方となんて…!!!」
「んんぅ!?」
彼女は色々勘違いしていると、タツヤは頭を抱える。
そもそも勘違いなのかどうかすらも、この少年には分からなくなっていた。
色々言いたいことはあったが、これ以上タツヤは言葉に出したくなかった。
この人と、これ以上関わりたくない…と。
「私には一向に振り向いてくださらないのに!!こんな何処ぞの馬の骨なんかと!!」
「そうですわ…この者を亡き者にすれば、きっと私にも…」
「ちょっと待てぇぇええ!!!!」
「そういう意味じゃないって言ってるだろ!!!!」
彼女が色々と危ない発言をし始めた為、少年は大急ぎで止めに入る。
お嬢様とは皆こうなのかと、頭が痛くなる思いだった。
とにかく、これ以上は身の危険を感じると…タツヤは何とか誤解だけでも解こうとする。
「…え?」
「ゆ…千歳さんとは、ただの知り合いです」
「…タダノ、シリアイ?」
「」コクコク
「…」
「…それくらい、最初から分かってましたわ」キリ
「(いや手遅れだ)」
今更そんなことを胸を張って言っても、説得力の欠片も無いとタツヤは呆れる。
本当に彼女は此処の生徒会長なのかと、疑いの視線を向けた。
生徒会長としては、あまりに発言が可笑しいのだから無理もない。
「それにしても」
「随分と慕ってるんですね~、あの人のこと」
もう彼女とは関わらない方がいいと、本脳が訴えてくるのを感じるタツヤ。
だが、少年はゆまと会長の関係が気になってしまい、うっかりと口を滑らしてしまう。
「当然ですわ!!」ズイズイ
「うおっ!?」
そして、その言葉を聞いた瞬間、彼女は高速移動でもしたのかと思うようなスピードで少年へと近寄ってくる。
「彼女は私の…そう“おトモダチ”なんですから!!」
「(おおう)」
彼女はそう高らかに宣言する。
顔に手を当て…頬を赤らめさせ、身体を無駄にクネクネさせながら…。
その様子を見て『友達』という言葉は、こういう風に言うものだったかとタツヤは違和感を覚えた。
「そう、あれは私が生徒会の仕事で帰りが遅くなった時のことでしたわ…」
「(語り始めちゃったよ…)」
彼女はタツヤが聞いていないにも関わらず、自らとゆまの関係について語り出す。
直ぐにでもゆまを探したいタツヤには、正直それは勘弁して欲しかった。
しかし、放置するわけにもいかず…結局少年は、彼女の話を聞く羽目となる。
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それは、今から半年程前の話。
彼女が生徒会長になったばかりの頃の事だ。
『ねえねえ、君可愛いね。俺と遊ばない?』
彼女は生徒会の仕事で帰りが遅くなり、夜道を1人で歩いていた。
そこで、1人の中年男性に声を掛けられる。
男性の姿は年齢の割に若作りで、言葉遣いも何処となく軽いものだった。
そう、『チャラチャラしている』という言葉が良く似合うような人物であった。
『…申し訳ありませんが、急いでますので』
彼女はそんな男性に視線を合わせる事なく、彼の目の前を素通りしようとする。
その姿は、
貴方など眼中にない
暗にそう示しているかのようであった。
『いいじゃん。恥かしがらないでさ』ガシ
しかし、逃がすまいと男性は彼女のか細い腕を掴む。
『は、離してください!!』
『強がっちゃって可愛いねぇ、俺好みだよ』
彼女の物言いにも関わらず、男性は彼女に言い寄ろうとする。
必死に彼女も腕を振りほどこうとする。
だが…やはりそこは女性と男性、力では彼女の方が分が悪かった。
『ショ…ショウさん、この子白女の生徒っすよ。流石にマズいっすよ』
『うるせぇ!!それくらいじゃないと俺に釣り合わないんだよ!!』
『なあ、いいだろ?良いところ連れてってやるからさ?』
彼の傍に居た舎弟のような男性が、やり過ぎだと止めに入る。
しかし、彼はその静止も聞かず彼女に尚も言い寄ろうとする。
若い男性ならまだしも、彼のような中年男性では…確かにやり過ぎの部類だろう。
『いい加減にしてください。汚らわしい!!』パシッ
『痛っ』
怒りに震えた彼女は掴まれていないもう片方の腕で、男性の顔に平手打ちする。
突然の不意打ちに、男性は思わず掴んでいた腕を離してしまう。
彼女はその隙に男性の下を離れる。
『こ…このような事をして、女性がご一緒すると思っているのですか!!』
『恥を知りなさい!!このケダモノ!!!』
彼女はその男性を蔑んだような目で見下し、凄い勢いで罵声を浴びせる。
腕力では負けていても、口では彼女の方が一枚も二枚も上手のようだ。
『…おい、糞アマ!!女のくせに調子乗ってんじゃねえぞ!!!』
『(ビクッ)』
『女が男に逆らうんじゃねぇよ!!股開くことしか脳のねえ餓鬼を生む機械がよ!!!』
しかし、彼女の罵倒が男性には許せなかった。
まるで狂ったかのように声を荒らげ、彼女に対峙する。
その様子は…明らかに常軌を逸していた。
『な…なんて言い草…、あなたは人間の屑です!!!』
『うるせぇよ。女のくせに…ちょっと教育が必要だな』チャキ
『ひっそんな…刃物を…!!』ビクッ
男性はその完全にイってしまっている目で彼女を睨め付ける。
そして、その懐から刃渡り10cm程のサバイバルナイフを取り出し…彼女に向ける。
『だ、駄目ですってショウさん…』アワワ…
近くに居る舎弟が本当にマズイと男性を静止する。
しかし、言葉とは裏腹に舎弟は男性から離れていく。
『巻き込まれたくない』という自己防衛本能が働いたのだろう。
誰だって、自分の安全が一番なのだから…。
『うるせぇ!!もう限界だ、女が俺を馬鹿にするんじゃねぇ!!』ダダッ
そうしている内に、男性は彼女に向かって走り出す。
『きゃあああああ、どなたか』
一方で彼女は自らに向けられた殺意に怯え、身体が動かなくなってしまう。
この場から逃げ出したいという気持ちとは裏腹に、足は一歩も動こうとしなかった。
彼女は悲鳴を上げた助けを呼ぶもなす術なく、男性が近づいてくるのをただ眺めるだけだった。
ダキッ、シュン!!
『あああ…って』
『あら?』
しかし、男性が目の前まで近づき…彼女がもう駄目だと思った
『あ?』
『大丈夫?』
彼女は、自分の身体が突然宙に浮く感覚に陥る。
気付けば、目の前まで近づいていた男性とは一定の距離を置いていた。
彼女は何が何だか分からず、間抜けな声を漏らす。
とりあえず、自分は助かったようだと把握するのが精一杯であった。
『あ…あの…』
『(私…この人に抱きかかえられて…)』
少しして、彼女は気付く。
自分が見知らぬ誰かに抱きかかえられ、男性の下から離れたという事を。
その見知らぬ誰かに、自分は助けられたという事を。
しかも、その誰かとは―――
『怪我ない?』
『は、はい…』
自分と同じ白女の制服に身を包み、自分と大して背丈も変わらない…
緑髪のポニーテールが可愛らしい女の子であったことを―――
『そう、良かった』ニコ
クルッ
『ちょっと、女の子に刃物向けちゃ駄目って学校で習わなかったの?おじさん』
少女は、彼女をゆっくり地面に下ろすと男性へと視線を移す。
そして、あまり緊張感の無いような声色で男性に注意する。
女の子相手に危ない事をするな、と…
『おz…うるせぇ!!!何だでめぇ!!』
男性もまた何が何だか分からなかったが、それよりも女性に物言いされた事に腹を立てる。
彼にとって、女性に見下される事が何よりも許せない事なのだ。
もっとも、少女は別に彼を見下しているわけではないのだが…。
『女の子には優しくしないと、モテないよ?』
『俺がモテないだと…ふざけんなぁぁぁああ!!!』ダダダダ!!
少女の一言で完全にキレた男性は、再びナイフを振り上げながら走り出す。
そのまま一心不乱に少女に襲い掛かってきた。
『よっと』ヒラリ
しかし、少女は凶器を持つ男性に憶する事もなく、ナイフを間一髪で避ける。
間一髪のように見えるが、その避け方には余裕があり…男性は完全に遊ばれていた。
『女のくせに!!女のくせにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』ブン
『俺のことを馬鹿にするなぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!』ガァァァ
完全に我を忘れた男性は、ただただがむしゃらにナイフを振り回す。
自分の目の前に少女はいなかったが、そんな事はお構いなしと暴れまわっていた。
その眼は…既に常軌を逸しており、正気の沙汰ではなくなっていた。
もはや、まともな判断能力さえ…無くなってしまっていた。
『…もう』ヒラ、シュン
『しょうがない、な!!』ゲシッ
『痛っ!!』カラン
『(な…このお譲ちゃん、ショウさんが持ってるナイフを蹴り落しやがった…)』
見かねた少女はナイフを避ける事を止め、男性に向かってその細くて長い足を振り上げる。
そして、そのまま男性の持つナイフを蹴り落とす。
一般人からすれば、恐ろしい程の運動神経と度胸である。
『よっと』ガシッ
『がはっ!!』
少女は怯んだ隙を逃さず、男性に一気に近付く。
そして、少女は男性に飛び乗り自らの足で彼の首を締め上げた。
男性は必死に振り解こうとするが、苦しさのあまり上手く対処することが出来ない。
もっとも、上手く動けたとしても現状を打破することは厳しいだろう。
『ちょっとの間…』クルッ、ヒョイ
『眠ってて!!!!』ドン!!!
『がっ!!!』
少女はそのまま反動を付けて、男性を地面に叩きつける。
顔から地面に落下した男性は呻き声を上げた後にピクリとも動かなくなってしまう。
どうやら、気絶してしまったようだ。
『(ま…まあ…)』
『(どんな運動神経してんだ…このお譲ちゃん)』
傍から見ていた舎弟と生徒会長は、その光景をただ茫然と眺めているだけであった。
因みに、少女は制服を着ているため下は勿論スカートである。
だが、少女は下にスパッツを履いていたので中身が見える事はなかった。
『こっちは毎日のように化物と戦ってるんだから』
『ナイフの一つや二つ、全然怖くないって…』クルッ
そう、少女は人間では到底勝ち目のない化け物と毎晩戦っている。
大抵の戦闘スキルは身に着けているのだ。
こんな中年の男性を相手するなど、赤子を捻るようなものであった。
『…』キゼツ
『…ちょっとやりすぎたかな?』
勿論、しっかりと手加減はしたつもりだ。
あまり、生身の人間を相手にすることが少ないため加減が効かなかったようだ。
『お嬢ちゃん、すまねぇ』
『ん?あなたは?』
『この人の連れだ。悪いことしちまったな』
そこで、そこまで見ているだけであった舎弟が少女に近付いて来る。
『ほんとだよ、下手したら犯罪だよ?』
『ああ…』
『昔は、こうじゃなかったんだ…』
少女に窘められると、男性はそれが分かっていたかのように大きく頷く。
そして、未だ気絶している男性を見つめながら静かに語り始めた。
『この人が人気No.1ホストだった頃は、女にも困らず・・・むしろ、女に貢がせる毎日だった』
この男性の、『栄光』と―――
『でも、それも長くは続かなくて』
『年を取るにつれて、ホストとしての人気も若い奴らに取られちまった』
『挫折』を―――
『挙句の果てには客の女に騙されて、逆に密がされる始末さ』
『それでもショウさん…過去の栄光を忘れられないで』
『こんなことを…』
人間、運動にしろルックスにしろ輝いていた時期というものは誰しも存在する。
しかし、それは永遠と続くものではない。
人は衰える生き物なのだ。
勿論、自らの老いというものを受け入れ、人として更に輝ける人間も沢山居る。
しかし、彼のように『老い(それ)』を受け入れる事が出来ず、過去の輝きを追い求める者も少なくない。
彼の姿は、そんな人間の末路といったところだろう。
『あなた大丈夫?』
『あ…はい』
『(あ…この娘、聞いてなかった)』
最も、そんな話…この少女は興味のカケラも無いのだが…。
『ごめんね。怖いものみせちゃって』
「い…いえ、大丈夫です」
少女は、未だに立ち上がれない彼女に優しく声を掛ける。
彼女はオドオドしながら、少女に応答する。
自分と年齢が大して変わらないであろう少女が、目の前で男性を撃退したのだ。
驚くなという方が無理があるだろう。
『ん?』ズイ
『はひ!?』
しかし、そんな彼女の事などお構いなしに、少女は顔を近づけさせる。
2人の距離は一気に縮まり、目と鼻の先くらいの距離で2人は見つめあう。
『あなた、どっかで見たことあるような…』
『あ…あの、顔が近いです…』
『あ、思い出した!!うちの学校の生徒会長さんだ!!』
顔を真っ赤にしている彼女に対して、少女はあっけからんとしている。
そして、少女はポンと手を叩き彼女が自分の学校の生徒会長である事を思い出す。
彼女の容姿はかなり派手なので忘れる方が珍しいのだが、それがある意味その少女の“らしさ”なのかもしれない。
『え!?あ、あなた、ひょっとして白女の生徒…?』
『うん、私千歳ゆま。宜しく、生徒会長さん』
そう、この少女『千歳ゆま』の―――
『千歳…ゆま…』
『(とてもお強くて…)』
『(そして、綺麗な方…)』ボー
彼女は、ゆまに見とれていた。
男性を1人で撃退してしまう程の運動神経。
更には、女性から見ても美しいと思ってしまう端正な顔立ちと均衡の取れたスタイル。
彼女には、そんなゆまがまるで女神のように見えた。
『あ、膝擦り剥いてるよ。生徒会長さん』
『え?あ…ああ、恐らく先程転んだ時に…』
ゆまに指摘されると彼女は慌ててゆまから視線を逸らし、自らの膝を確認する。
すると、膝には傷が付いており、わずかながら血が滲んでいた。
男性から逃げ出した時に転んでしまい、その時に付いたものだろう。
『お気になさらず、この程度でしたら…』
怪我自体は大したものではない。
応急処置をすれば、家まで帰る事はやぶさかではないだろう。
お嬢様なだけあって、普段はあまりこういった怪我に慣れておらず彼女自身動揺していたが、ゆまがいる手前彼女はそう強がって見せた。
『駄目だよ、後でばい菌とか入っちゃったら大変だし』
しかし、ゆまは彼女の言葉を良しとしなかった。
今この場でちゃんと治療した方が良い。
ゆまはそう真剣な面持ちで彼女に伝える。
『え?い…いや、確かにそうですが…』
それはそうなのだが、と彼女は困ってしまう。
通常、女子高生ならば絆創膏の1つや2つ持っていそうなものだが、彼女は何分“お嬢様”だ。
そんなものを常備している筈がない。
『でも…そうだな、う~ん』
ゆまはどうしようかと、1人腕を組んで考える。
治療道具を持っていないのは彼女も同じだった。
『あ、あの…』
どうするにも、現状ではどうする事も出来ない筈だと…彼女は首を傾げる。
こうしている内に家に帰った方が良いのでは…と。
『ねぇ、生徒会長さん』
『目、瞑ってて?』
しかし、少し考えた末…ゆまはそんな事を言い始める。
『えぇ!?い…いきなりそのような…!!』アタフタ
『いいから』スイ
『は…はひ』
突然何を言いだすのかと、彼女は顔を紅潮させながら慌てふためく。
そんな彼女を落ち着かせるように、目の前にひとさし指を伸ばすゆま。
彼女の表情は真っ赤なままだったが、ゆまのその行為によって落ち着きを取り戻す。
生徒会長はゆまの言う通り、大人しく目を瞑った。
『あなたも』
『ええ!?』
そして、ゆまは何故か近くに居た舎弟に対しても目を閉じるよう指示する。
『早く!!』
『は、はい!!』
『・・・』ドキドキ
2人の目を閉じさせ、ゆまは何やら準備に入る。
ゆまが一体何をしようとしているのか、彼女達には見当も付かなかった。
彼女はドキドキしながら、ゆまの事を待つ。何故か顔をゆまに向けて傾けながら…。
パァァァアア
『うん、いいよ目を開けても』
『は、はい』
ゆまの一言で、彼女は目を開ける。
何か光を発したような気がしたが、目を閉じていた彼女には何が起きたのかは分らなかった。
『…え?』
しかし、彼女は目を開けた後…自らの身体の変化に驚く事になる―――
『あ…そんな、傷が…』
そう、彼女の膝の傷が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
まるで、怪我など最初からしていなかったかのように…。
『(あ、ショウさんの傷も…)』
『な、何をしましたの?』
彼女は目を丸くしてゆまに問いかける。
自分は確かに怪我をしていた、それが突然治るなどありえる筈がない。
一体何が起きたのか、と―――
『ん~、そうだな…』
ゆまは勿体ぶるかのように、考える仕草を取る。
しかし、少しした後…ゆまは笑顔で言った。
『魔法を掛けたんだよ』ニコ
『魔法』という普通の人間では、到底信じられそうにない言葉を―――
『は?』
『あはは、なーんてね』
当然、彼女も少女の言葉を理解することが出来ず…間抜けな声を漏らす。
その事を最初から分っていたのか、ゆまは直ぐにおどけて見せた。
そう、魔法の力なんて信じる人間は数少ない。
しかし、その力は実在する。
彼女を助けたのも、元々はゆまの魔力あっての事なのだから…。
『え?あ…あの』
だが…その事を、この生徒会長が理解することは恐らくないのだろう。
『あ、私もう行かなきゃ』
『え、そんなもう少し…』
『ごめんね。ちょっと用事があって』
ゆまの言う通り、彼女にはやるべき事があった。
実は言うと、ゆまはそのやるべきことの為に移動している最中に、彼女を見つけたのだ。
彼女を助ける事が出来たのも、ある意味運が良かったと言える。
『(今日はそこのおじさんのせいで瘴気が濃いからなぁ…)』
ゆまのやるべき事…それは『魔獣退治』
彼女達『魔法少女』の使命である。
特に、魔獣は『瘴気』という人々の負のエネルギーによって作られる空間から生み出される。
そして、その空間は人々の負のエネルギーが多ければ多い程…濃くなっていくのだ。
『瘴気』が濃くなれば、生み出される魔獣もより強くなっていく。
今日はこの男性が負のエネルギーをばら撒いているため、魔獣退治も一苦労だとゆまは溜息を付く。
『あ、あの…このお礼はいつか必ず…!!』
『えー、いいよ別に』キニシナイデ
ゆまは彼女の申し出をやんわりと断る。
別に例が欲しくて助けたわけではない。
当たり前の事をしたまでだ…と。
『いいえ。それでは私の気持ちが治まりません!!』
しかし、そういうわけにはいかないと彼女もゆまに詰め寄る。
生徒会長であるというプライドが、一方的に助けられたという現状を良しとしなかったようだ。
彼女も、中々めんどくさい性格である。
『んー、じゃあさ』
彼女に詰め寄られ、うーんと考え込むゆま。
しかし、少しすると―――
『お友達になろ?生徒会長さん』
そんな事を、笑顔で言い出す。
『…え?』
あまりに予想していなかった発言に、彼女もキョトンとしてしまう。
それはそうだろう。
お礼に友達になってくれなんて事を言う人は、そうは居ない。
『駄目?』
ゆまはその首を可愛らしく傾け、返答を待つ。
少女は、割と真剣であった。
『だ、駄目なんて…そんな!!喜んでお受けしますわ!!』
『ほんと?やったー!!』
彼女の答を聞いて、子供のように飛び跳ねて喜ぶゆま。
友達が増えた(?)事を心底喜んでいるようであった。
『じゃあ、学校でも仲良くしてねっ』
『生徒会長さん』ニコ
そして、ゆまは彼女に向けてとびっきりの笑顔を向ける。
『』ズキューーーン
そう、その笑顔が彼女にとって、ある意味“トドメ”となる事を…この時のゆまは知らなかったのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…あの時の笑顔は、まこと天使のようでしたわ」ウットリ
「(長いなぁ…)」タイイクズワリ
「それからというもの、私と千歳様は…」
「(まだ続くのかぁ…)」
生徒会長はすっかり自分の世界に入り込んでしまっていた。
今でも、自分とゆまさんとのことを永遠と語り続けている。
あまりにも長いせいか、タツヤは途中からは地べたに腰を下ろして聞いていた。
因みに、校内の生徒達は殆ど帰ってしまっている。
「君」
「うわっ!?」
タツヤが会長の話を手持ち無沙汰にしながら聞いていると、突然人の顔が少年の視界に入ってくる。
完全に油断していたタツヤは、驚きのあまりそのまま後ろに倒れてしまった。
視界に現れたのは、今の今まで口を閉じていた副会長であった。
この人は今まで何処にいたのだと、少年は気配すら感じなかった彼女に対し驚きの表情を浮かべる。
「会長はこうなると止まらない」
「会長に構わず、早急に他を当たった方が良いだろう」
「え?でも…」
副会長は表情を変えずに、淡々と話す。
タツヤは果たしてこの人放置していいのかと、疑問を抱く。
色々と不味いのではと、少年は首を傾げた。
「千歳様のことを色々調べまして…」
「身長164m、3サイズは上からバスト82、ウエスト53、ヒップ83…」
「…な?」
「…はい」
しかし、直ぐにタツヤは気付く事になる。
既に、色々手遅れである…と。
タツヤは今まで彼女に対して、使いたくなかった言葉がある。
それは、少年が必死に誤魔化し言わないようにと我慢してきた言葉。
だが、もう限界であった。タツヤは、彼女に対し心の中で呟いた。
この人、変態だ…と。
「此処の生徒を探すなら、職員室に行ってみると良い」
「職員室はこの先のつき辺りを左に行くとある」
「あ、ありがとうございます」
副会長はそう言って職員室への行き方をタツヤに教える。
居場所は分からなくても、連絡先くらいなら教えてくれるかもしれないと。
この物静かな雰囲気や冷静な物言いをする姿を見ると、彼女はまさに生徒会役員であった。
「あの綺麗な緑色の長い髪をいつか私は…うふふふふふふ」クネクネクネ
「早く行った方がいい」
「…はい」
何故この変態が会長で、彼女が副会長なのだろう。
完全に両極端にいる二人を見て、そんな事を思うタツヤ。
案外、その方が上手くバランス取れるのかと、少年は無理に納得する。た
そして、今はそんな事よりも早く職員室に行こうと視線を校舎へと向ける。
タツヤは案内してくれた副会長に軽く会釈し、足早に職員室に向かうのだった。
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「ここかな…?」
副会長の言うとおり道を進むと、タツヤは一つだけ明かりの付いている教室を見つける。
恐らく、そこが職員室だろう。
職員室へは近くにある職員用の玄関から入ればいい。
先程副会長にそう教わったタツヤは、玄関で来客者用のスリッパに履き替え、職員室までの廊下を歩く。
「あ…あの人先生かな?」
その途中で、タツヤは此処の教師らしき人の背中を見かける。
声を掛けてみようと、彼はその人物に近付いた。
「あの、すいません」
「はい、何?」
「って、あなた…見滝原の生徒…?」
「何か用かしら?」
振り返ったその人物は若めの先生で、先程の副会長同様眼鏡を掛けている。
少しキツめの表情で対応されたタツヤだが、それくらいで怯んではいられないと言葉を続けた。
「あの、人を探してるんですけど」
「千歳ゆまさんって、此処の生徒なんですよね?」
「千歳…」ピク
「あの問題児か…」ボソッ
「え?」
彼女はゆまの名前を聞いた途端、表情を歪ませる。
小さくぼやくように呟いたが、タツヤには上手く聞き取れなかった。
しかし、その表情一つでタツヤは彼女がゆまにどんな感情を抱いているのかを何となく理解する。
生徒会長の件といい、ゆまは学校でどんな生活送っているんだろうと、少年は彼女の事が少し心配になった。
「何でもないわ」
「千歳さんならもう帰ったわよ」
「えぇ!?本当っすか!?」
「本当よ、今日は早退したわ」
タツヤはどうりで見掛けない筈だと、彼女の話を聞いて驚く。
彼が此処に来た頃には、彼女は既に学校を後にしていたという事だ。
その事実を知った少年は、目の前に他人が居るにも関わらず大きく溜息を付く。
そして、何故早退なのかと同時に疑問を抱いた。
ゆまの事だから、体調不良という事ではないだろう。
何か重要な理由…例えば魔獣退治に行ったなどの訳があるのかと少年は推測する。
「全く、あの娘はいつもいつも…そんなに私の授業がつまらないっていうの…」ブツブツ
しかし、彼女のつぶやきを聞く限り…そのような理由ではなかったようだ。
呆れたタツヤは、授業にはちゃんと出ようよと再度溜息を付く。
「あのー…?」
「何?」
「千歳さんの連絡先とかって教えてもらえないですかね?」
このまま帰ったのでは、何をしに来たのか分からない。
タツヤは何とか連絡先だけでも聞こうと、ゆまのことでブツブツ呟いている彼女に尋ねてみる。
副会長は頼めば教えてくれると言っていたが、本当に大丈夫なのかと少年は不安に思う。
「…ごめんなさい、それは出来ないわ」
「あなた、一応部外者だし」
予想通りと言うべきか、生徒のプライベートがという理由で断わられてしまうタツヤ。
確かに彼女から見れば、少年は部外者だ。
部外者に自分の生徒の情報を提供するほど、今の学校は緩くない。
そこがお嬢様学校である白女なら尚更だ。
「そこをなんとか…!!」
「そう言われてもねぇ」
「うぅ…」
タツヤも何とか食い下がろうとするが、彼女に軽くあしらわれてしまう。
今更別の方法を探す訳にもいかない。
このままでは本当に無駄骨に終わってしまう。
「き…君!!」
「え?」
そう、タツヤが途方に暮れている時だった―――
「か…鹿目という子は君かねっ?」
「え、はい…そうですけど、あなたは?」
突然、何処からともなく現れた年配の老人が―――タツヤの名前を呼ぶ
そして少年は、この老人に見覚えがあった。
「どうしたんですか理事長。そんなに慌てて?」
「え、理事長…!?」
そう、この老人はこの高校の理事長である。
白女系列の学校全てにおいての代表者であり、テレビにもよく出演している有名人だ。
国の議員として活躍し、次の総理大臣最有力候補と言われている。
政治やそういったものに疎いタツヤでも名前だけは聞いた事があった。
何故、そんな人物が自分の事を知っているのかとタツヤは混乱する。
「君!!早くこの子に彼女の連絡先を教えてあげるんだ!!」
「えっ!?し、しかし…」
「私が良いと言っているんだ、は…早くしたまえ!!!」
「は…はい!!!!」
理事長は彼女に向けて、もの凄い形相で捲くし立てる。
そして、言われた彼女は血相を変えて職員室に戻っていった。
その様子を見ていた当事者であるタツヤは、驚きを隠せずにいた。
自分の話を聞いていた事に対しては勿論、どうしてわざわざこんな事を…と頭を悩ませる。
勿論タツヤとしては有難い限りなのだが、如何せん気味が悪かった。
「…お待たせ、これに千歳さんの連絡先が乗ってるわ」
「えっと…あの…ありがとう、ございます…」
少しすると、彼女が戻りタツヤに書類のような物を渡す。
確認してみると、そこにはゆまが住んでいる場所の住所が記載されてあった。
此処に行けば、タツヤはゆまに会えるだろう。
「さあさあ!!用事は済んだだろう?早く帰りなさい!!」
「え?な、何で…」
タツヤに書類が渡ると、今度は少年にその凄い形相を向ける理事長。
何故、そんなに焦っているのだとタツヤは更に混乱する。
今の理事長は、テレビで見る時とは全く印象が違っていた。
画面越しで見る彼は、とても温厚な人物だったのだ。
「頼むから早く帰っとくれ!!!!!」
「は、はい!!!」
結局、理事長に追い出される形となったタツヤは、小走りで校門前まで戻る。
「(なんなんだよ…もう)」
タツヤは色々と振り回される結果となった為か、非常にぐったりした様子で帰路に着く。
もう暫くお嬢様学校には行きたくないと、少年は心に誓っていた。
だが、結果としてはゆまの住んでいる場所を知ることが出来た。
次の休みにでも行ってみようと、タツヤは足早に自宅へと向かう。
例の事件のことで、彼女の知っていることを教えてもらおう。
そんな思惑を胸に抱きながら―――
「ゼェゼェ…」
一方の理事長はタツヤの背中が見えなくなると、その場で安堵の表情を浮かべる。
「あの、理事長?」
「な、何をしとる。早く仕事に戻らないか」
「は…はあ」
そして、戸惑う白女の教師相手に、再び鋭い言葉を浴びせた。
しかし、その姿はどちらかと言うと…動揺を悟られまいと必死に強がっているように見える。
その姿に上司としての威厳は、全く感じられなかった。
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そして、理事長室―――
「これで良かったのかね?」
理事長室に戻った老人は、再び顔を青くさせる。
吹き出る汗を高そうなハンカチで拭きながら、ある人物に声を掛けた
「ええ、上出来ですわ」
「少々、強引すぎでしたけど」
その人物は、セミロングの綺麗な白い髪に誰もが二度見してしまう美しい顔立ちを併せ持った。
“元”生徒会長―――
「そ…それは君が…!!」
「先生?」
「ひっ…!!」
抗議しようとした彼を、彼女はたった一言で制する。
そして、彼女は老人…白女の理事長にゆっくりと近付いていく。
その端正な顔立ちに、満面の笑顔を作って―――
「先生、もう直ぐ選挙だそうですね…」
彼女はかつて、この老人に自らの高校生活を狂わされた。
そして、自らの父親を政界から追放し貶めたのも…この老人だったのだ。
表では親交を深めているように見えて、裏では彼女の父を妬み…その地位を我が物にしようと謀略を尽していた。
そして、今やこの老人は政界の頂点に手が届こうとしている。
「ひ、ひぃぃぃ、勘弁してくれぇ美国君!!!!」
しかし、その事を彼女に見透かされ…この通り利用されているのである。
「ふふっせっかく今まで必死に築いてきた政界での地位、此処で崩したくはないですものね」
「…物事は穏便に済ませましょう?」
「 次 期 総 理 大 臣 様 」ニコォ
「う、うぅ」
老人は、彼女に…美国織莉子に逆らう事が出来なかった。
父親を自らの地位の為に追い出したというのに、その事を娘に利用されている姿は…
非常に、滑稽に見えた。