魔法少女まどか☆マギカ~After Ten Years of History~   作:イデスツッラ

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第5話「犯した罪 科せられた罰」chapter 4

――――――――――――――――――――――――――――――

 

数日後―――

 

「…」

 

「…場所、此処であってるんだよな?」

 

タツヤが白女を訪れたあの日から、数日が経った。

今日は学校が休みのため、少年はゆまに会う為に朝から外出している。

以前白女で貰った連絡先を頼りに、彼女の住んでいる場所を訪れていた。

 

しかし、訪れたのは良いのだが―――

 

「…なんというか」

 

「うん、こう…あれだな…」

 

タツヤには、目の前に広がる光景を表す言葉が見つからなかった。

なぜなら、そこに建っていたのは―――

 

「でけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!」

 

城のような巨大な豪邸であったから―――

 

「なんだよ此処、本当に家か?旅館とかそんなんじゃねーのか」

 

その家を囲んでいる壁は、少年の身長を優に超えている。

他の建物に比べ、2~3倍程の広さがあった。

 

「こ…此処にゆまさん住んでるのか…」

 

携帯のアプリなどを駆使し、少年は紙に書いてある住所に辿り着いた。

間違いなくか、ゆまの自宅に来ている筈なのだ。

つまり、この巨大な豪邸が彼女の住んでいる場所だということになる。

 

本当に彼女はお嬢様だったのかと、タツヤは呆気にとられた。

だが、あくまでも此処の住人は彼女の本当の親ではない。

 

彼女の本当の親は、もうこの世界にはいないのだ。

 

その事を考えると、タツヤはあまりその点には触れないようにしようと自分に言い聞かせる。

彼女も今の家族には大事にされていると言っていたから、と。

 

それに、今日はそんな事を聞きに来たわけではない。

今日少年は―――例の事件のことを、彼女に聞きに来たのだ。

 

そう、事件と魔法少女との関係のことを―――

 

「と、とにかく、玄関は何処なんだ…?」

 

タツヤは豪邸の周りをウロウロして入り口を探し出す。

少し歩くと、自分の家とは比較にならないくらい大きくて立派な門を見つけた。

 

目の前に立つと、本当に比べものにならない。

あえて共通点を挙げるとすれば、門の横にインターホンがあるくらいであった。

 

「うう、なんだか緊張してきたぞ…」

 

インターホン鳴らした時、プロレスラーみたいな番人が出てきたらどうしようとありもしない事を考えるタツヤ。

 

だが、苦労してここまで来たのだからと…少年は必死に勇気を振り絞る。

 

「よし、俺はインターホンを押すぞぉぉ!!」

 

ガチャ

 

「ん?」

 

しかし、タツヤが満を持してインターホンを押そうとした瞬間―――

 

「どちら様?」

 

―――屋敷の扉が開き、中から出てきた人物が少年に声を掛けてきた。

 

「ふぇ!?いいいいや、俺はけっして怪しいものでは…!!」

 

扉が突然開き中から住人が出てきたことに驚き、タツヤは慌てて壁に身を隠す。

中から出てきた人物がどんな人なのかを確認する余裕すら無かった。

 

少年の振り絞った勇気は、早くも何処かへ吹き飛んでしまったようだ。

 

「ああ、あなたは…」

 

「ふふ、もう来たのね」

 

「流石社長の息子さん、行動が早いわ」

 

「え?」

 

一瞬、タツヤは怖い人が出てきたのかと思ったが、声を聞く限りそうではないらしい。

そこに居たのは、どうやら女性のようであった。

 

そして、少年はこの声をどこかで聞いた覚えがあった。

女性もまた、少年の事を知っているような口ぶりである。

 

タツヤは壁から恐る恐る玄関を覗き込み、声の主を確認する。

 

「いらっしゃい」

 

「鹿目タツヤ君」

 

するとそこには、少年を出迎えてくれるように1人の若い女性が立っている。

 

そう、その女性は…ゆまの“育ての親”であり…母親の秘書でもある美国織莉子であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

美国家―――

 

「…」

 

「(何だ…この状況)」

 

「貴方は紅茶でいい?」

 

「あ、はい。お構いなく」

 

「(って違うだろ!!)」

 

織莉子に玄関で出迎えられたタツヤは、何故か庭園のような場所に来ていた。

 

その場所は家の敷地内であるにも関わらず、小さい家がもう1つ建つのではと思われるくらい広い。

周りの花壇には薔薇や植物が沢山植えられていて、鑑賞用のテーブルと椅子が中央に置いてある。

 

タツヤはその椅子に腰を下ろし、織莉子を待っていた。

 

「(俺はゆまさんに会いにきたはずなのに…)」

 

少年としては、ゆまか保護者の人が出てくると思っていたのだが、家から出てきたのは見覚えのある若い女性だったのだ。

 

そう、タツヤは彼女のことを知っている。

ゆまの魔獣退治に付き合い帰りが遅くなってしまった日、偶々鉢合わせてしまった母の隣に居たのが織莉子だ。

彼女が母の秘書であることまで、少年は把握している。

 

「はい、どうぞ」コトッ

 

「あ、ありがとうございます」

 

考えが纏らないタツヤに、織莉子は紅茶の入ったティーカップを渡してくる。

若干慌てながらも、特に気にすることなくただ受け取ってしまう。

 

この場所で住所は合っている筈だと、少年は頭を抱える。

 

「(とりあえず落ち着こう)」ゴク

 

とにかく、今の状況を整理しようとするタツヤ。

 

自分はゆまに会いに来た。

だが、家から出てきたのはゆまではなく母の秘書。

そして、彼女に家の敷地内に招かれる。因みにゆまはいない。

 

整理した結果、タツヤは訳が分からないという結論に至る。

 

一体、どういう状況なのだろう…と。

 

今の少年には、彼女がゆまの保護者であるという結論には至らないようだ。

流石に若すぎるので、無理もないのだが。

 

色々な考えを巡らせながら、タツヤはティーカップに口を付ける。

 

しかし―――

 

「(甘っ!!!!)」ガタッ

 

ティーカップに淹れられた紅茶を一口飲んだ瞬間、思わずその場で立ち上がるタツヤ。

 

紅茶が、あまりにも甘すぎたのだ。

 

一口飲んだだけなのに、甘さが口の中全体に広がり、何とも言えないような気だるさを感じる。

まるで、砂糖を直接口に放り込んだかのような気分であった。

こんなもの、とてもではないが飲めるような代物ではない。

 

そう…タツヤは、紅茶が入ったティーカップをテーブルに置く。

 

「美味しい?」

 

「え」

 

一方で、織莉子は少年の真正面に座り、満面の笑みで見ていた。

 

美味しいかどうかと聞かれても…タツヤは、返答に困ってしまう。

 

困って、しまうのだが…

 

「」ニコー

 

「(…なんだ、このプレッシャーは)」

 

織莉子は満面の笑みを一切崩すことなく、ただひたすらにタツヤを見つめ続けている。

少年の答を待っているようだ。

 

その笑顔が、タツヤにとって凄く怖かった。

よく分からない威圧感が、少年を責め立てている。

 

父である知久が怒った時でさえ、こんな風にはならないのに…と。

 

「お…美味しい、です」ゴクゴク

 

織莉子が出す謎の威圧感に気圧されてしまい、タツヤは紅茶に再び手を付ける。

とてもではないが、『甘すぎて飲めない』と言えるような雰囲気ではなかった。

 

しかし、その紅茶を飲み干そうと必死に努力はするのだが、中々上手くいかない。

あまりの甘さに、少年は吐き気がしてきてしまう。

 

「あら、そう?」

 

「味覚大丈夫?」

 

「」ブッ

 

少年が必死に紅茶を飲んでいる姿を見ながら、織莉子はある意味暴言になるような一言を吐く。

不思議な物を見るような、惚けた表情を浮かべながら…。

 

それを聞いた途端、タツヤは口に含んでいた紅茶を噴出してしまった。

 

「シロップ飲んでるようなものよ、それ?」

 

「あんた分かっててやったのかぁぁぁぁあああ!!!!????」

 

そして、相手が年上であることを忘れ、大声で叫ぶタツヤ。

 

彼女はワザとこんな物出したのかと、少年は驚き呆れる。

確かにシロップ飲んでいるような感覚だったと、心の中で突っ込んだ。

 

糖尿病にでもなるのではないかと思ったくらいだ、と。

 

「甘かったでしょ?」

 

「甘かったよ!!もうなんか開幕前のパ・リーグの優勝予想くらい甘かったよ!!!」

 

先程は口に出したくても出せなかった言葉を、再び大声で叫ぶタツヤ。

しかし、肝心の織莉子はというと表情一つ変えることなく、恐らく普通の味であろう紅茶を優雅に嗜んでいる。

 

この人は一体なんなんだと、仕事の上司である自分の母に心の中で訴える。

 

「…」ゼーゼー

 

叫び疲れたタツヤは、うな垂れるようにして椅子に座り直す。

 

まだゆまに会っていないのだが、すっかり意気消沈してしまっている状態であった。

 

「ふふ、ごめんなさい」クスクス

 

タツヤのそんな姿を見た織莉子は、堪え切れなかったかのように笑い始める。

その姿を見て、少年は遊ばれているような気がするのだった。

 

「どう、少しは緊張ほぐれたかしら?」

 

織莉子は手に持っていたティーカップをテーブルに置くと、笑みを浮かべながらタツヤに声を掛ける。

その笑顔は、今まで浮かべていた意地悪そうなものとは違い、優しそうな表情のようであった。

 

「ふぇ?」

 

「だって貴方、入り口で会った時から目に見えて緊張してるんだもの」クスクス

 

「」

 

思い出すようにクスクスと笑いながら、彼女は話を続ける。

 

そんなこと言われてしまうと、途端に先程までの自分が恥かしくなるタツヤ。

耳まで一気に真っ赤になっていくのが、自分でも分かるくらいであった。

 

そんなに緊張していたのかと、少年は穴があったら入りたい気持ちになる。

 

「それにしても、貴方本当に社長似なのね」

 

「雰囲気とか驚いてる姿とかがそっくり」

 

「…oh」

 

母に似ていると言われ、微妙な気持ちになるタツヤ。

 

果たして褒められているのかどうか…と。

 

因みに、彼自身ではどちらに似ているかなんて考えたこともなかった。

だが、母親似だとはよく言われているようだ。

 

ついでに言うと、知久からは『今のタツヤは子供の頃のタツヤからは想像もつかない』と言われたこともあるらしい。

 

それを聞いて、タツヤは何だか申し訳ない気持ちになる。

 

だが、それでも自分は母に似ているのだろうかと首を傾げる。

あんな人に自分が…と、タツヤは本人の前では決して口に出せないようなことを考えるのだった。

 

「それじゃあ、改めて自己紹介しておくわね」

 

「私は美国織莉子」

 

「宜しく、鹿目タツヤ君」

 

「は…はあ」

 

織莉子に改めて自己紹介を受け、タツヤはうろ覚えだった名前をはっきりと覚える。

改めて見ると、肩まで伸びた銀色の髪の毛に整った顔立ちと、彼女もかなりの美人である。

 

身長もかなり高く、170cm近くあるのではないかと錯覚してしまう。

この豪邸に住むのに相応しい、仁美とはまた違った『品』を持っているような女性だという印象を少年は受けた。

 

…同時に、腹が黒いなとも思った。

 

「あの…」

 

「何?」

 

「ゆまさんの保護者っていうのは…」

 

試しに、そんな事を聞いてみるタツヤ。

 

見たところ、この家には今彼女しかいない。

他に親御さんとかはいないのだろうかと、タツヤはキョロキョロと周りを見渡す。

 

「ああ」

 

「私よ」

 

「え!?」

 

返ってきた答を聞いて、タツヤは思わず声を上げる。

 

話の流れで大方予想は付いていたが、実際に聞くと驚いてしまう。

 

「身寄りのないあの子を引き取ったのは私」

 

「あの子と私は此処で2人で暮らしてるの」

 

勿論、詳しい事は少年には分からない。

 

だが、少年には仁美と大して変わらない年齢にしか見えない彼女がゆまを引き取ったという。

凄い行動力だと、少年は素直に思った。

 

「2人で…ですか?」

 

「ええ、私も昔両親を亡くしているから…」

 

苦笑いを浮かべながら、織莉子は話を続ける。

タツヤは彼女もまたゆまと同じなのかと、余計なこと聞いてしまったと少しだけ反省する。

 

同時に、こんな広い家に2人で住んでいて寂しくないのだろうかと疑問を抱いた。

 

「じゃあ美…」

 

「って、そうだそうだ」

 

「?」

 

彼女の事を呼ぼうとしたところで、タツヤは慌てて訂正する。

 

あることを、思い出したからだ。

 

「『織莉子』さんが、ゆまさんの親代わりということで?」

 

「親代わりっていうより、姉妹って感じだけどね」

 

確かに、年齢的な事を考えれば姉妹という言葉が相応しいだろう。

 

タツヤは此処に来るまでゆまの保護者の事を、年配の老夫婦みたいなものを想像していた。

見ず知らずの子供を引き取るなど、普通の夫婦には無理だろうと思ったからだ。

 

「それよりも今名前…」

 

そして、そこでタツヤが名前を言い直したことを不思議に思ったのか、織莉子は首を傾げながら尋ねる。

 

タツヤは彼女の事を苗字で呼びかけた後、咄嗟に名前で呼び直していたのだ。

 

「あ、やっぱりマズいですか?」

 

正直、タツヤにとってその事に深い理由は無かった。

ただ、この人に会ったらこうするようにと、ある人から言われていたのだ。

 

「なんか母さんが貴方のことは名前で呼べと」

 

「え…」

 

そのある人とは、少年の母…もとい彼女の上司である詢子のことだ。

 

何故そう言う事になったのか、説明しなければならない。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

それは、彼女とタツヤが会った日、少年が父に怒られていた時の家での事―――

 

『母さんの秘書さんって、初めて見た気がする」

 

ふと、タツヤがそんな事を呟く。

 

タツヤが家を出る時間と詢子が出る時間は微妙に異なる。

その為、少年は織莉子と面と向かって会った事はなかった。

 

『そうか?お前がまだ小さかった頃に何回か会ってると思うが』

 

『そうだっけ?』

 

しかし、実際はタツヤが幼かった時に何度か会った事があった。

 

詢子と織莉子は、彼女が学生の頃からの付き合いなのだ。

 

『まあ昔の話だからな』

 

『ふ~ん』

 

最も、タツヤはあまり覚えていないようだが…。

 

『美国さん…か』

 

『ああ、ついでに言っておくが』

 

『あいつの事を『美国さん』って呼ぶのは止めとけ』

 

そして、突然詢子は息子にそんな事を言い出した。

 

彼女の“呼び方”について、少年に一つ釘をさす

 

『え?なんで?』

 

タツヤが何故かと首を傾げる。

人の事を苗字で呼んで、何がいけないのかと。

 

しかし、詢子は―――

 

『大人の事情だ』

 

と、そう言うだけであった。

 

『大人のって…』

 

当然、そんな答で少年が納得する筈もなく母親に尚も問いかける。

 

『ま、お前が知る必要の無いことだよ』

 

『とにかく、あいつの事は下の名前で呼ぶことだな』

 

詢子は事情を説明することなく、息子の事を一蹴する。

 

詢子が、織莉子の呼び方に拘る理由。

その理由は勿論、彼女の家庭の問題にある。

 

彼女の父はかつて謀略により政界を追い出され、この世からも追い出された。

そして、織莉子もまた『美国議員の娘』、『美国さん』と蔑まれてきたのだ。

 

彼女の事を苗字で呼ばないのも、そういった過去を思い出させないようにという詢子なりの配慮だったのだ。

 

『えー、見ず知らずの人に向かっていきなりは抵抗が…』

 

『そんなことイチイチ気にしてたらモテないぞ~』

 

『なあ!!??』

 

『HA HA HA』

 

最も、少年にそんな事を説明しても意味が無いため、詢子は何も言わなかったのだが…。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「…というわけでして」

 

「社長がそんな事を…」

 

「いや、あれだったら普通に『美国さん』で」

 

経緯を織莉子に一通り説明したタツヤ。

いきなり名前で呼ぶなど、少年は慣れ慣れしいのではと心配していた。

何故苗字では駄目なのかを説明されていないタツヤには、少し抵抗があったのだ。。

 

「織莉子でいいわよ」ニコ

 

しかし、タツヤに向かって織莉子はそう微笑んでくる。

名前の呼び方で特に不快に感じている様子はなかった。

 

その姿を見て、タツヤも本人がこう言っているのだから良いのだろうかと考える。

結局、苗字が駄目な理由は分からず仕舞いだたが、別にいいか…と。

 

「え、あ…じゃあ、それで」

 

「ふふ、何だかあなた可愛いわね」クスクス

 

「はう…」ガーン

 

織莉子に笑われ、軽くショックを受けるタツヤ。

 

可愛いと言われても、男としてはあまり嬉しくはない。

大輔のように漢の中の漢を目指しているわけではないが、それでも微妙な気分であった。

 

「それじゃあ、そろそろ本題に移りましょう」

 

「あなた、うちに何か用なの?」

 

再度、織莉子はタツヤのティーカップに紅茶を注ぎ(今度は普通の紅茶)、そう尋ねてくる。

タツヤは、その言葉で忘れかけていた当初の目的を思い出す。

 

そう、ゆまに例の事件の事と魔法少女について聞くという目的を―――

 

「あ、え~と…」

 

しかし、いざ聞こうにもタツヤはどう切り出したら良いのかと迷ってしまう。

魔法少女のことが、他言無用な事は間違いない。

 

先日の白女での出来事のように、変な勘違いをされるのも御免であった。

 

「ゆまさんにちょっと用があって…」

 

「ゆまに?」

 

「はい」

 

タツヤはとりあえずはと、ゆまに会いに来た事を伝える。

彼女さえいれば、この状況も何とかなるだろう…と。

 

因みに、此処に来るまでの間、タツヤはゆまの事を見かけることはなかった。

 

「あの子、今出掛けてるのよ」

 

「え、そんな」

 

どうやら、ゆまは出掛けているようであった。

その事実を聞いたタツヤはせっかく此処まで来たのにと肩を落としてしまう。

 

待っていれば帰ってくるだろうかと、淡い期待を抱くも…それまでこの状況をどう切り抜ければいいのかと、途方に暮れてしまう。

 

「ゆまに何の用なの?」

 

「ふぇ!?い、いや…ちょっと話を聞こうと思って」

 

この状況で誰もが思いつくような質問を織莉子にされ、タツヤは慌てふためく。

なんとかやり過ごそうとするのだが、いかんせん口が上手く回らない。

 

それでも、少年は魔法少女の事だけは口に出すまいと努力していた。

 

しかし、次の瞬間―――その努力が全て無駄であったことを少年は知る

 

「魔法少女の?」

 

「はい、そうで…」

 

「って、え?何で知ってるんですか?」

 

彼女の口から『魔法少女』という言葉が出てきたからだ。

 

一瞬、少年は訳が分からなくなった。

どうして彼女が魔法少女の事について知っているのか、理解できなかったのだ。

 

「知りたい?」

 

「これが答えよ」コト

 

そう言って、織莉子は指にはめてあった指輪を外しテーブルに置く。

 

パァァアア

 

すると、その指輪は光を放ち始める。

 

そして…その指輪は―――真っ白な卵型の宝石に変化したのだ

 

「ソ、ソウルジェム」

 

「っていうことは織莉子さんも魔法少女?」

 

色は違えど、それは前にゆまが見せてくれた物と殆ど同じ形をしている。

 

ソウルジェム―――それは、魔法少女であることの証

 

少し考えれば分かる事だった。

タツヤはすっかり忘れていたが…以前、キュゥべえが言っていたのだ。

 

魔法少女は、後もう1人いると―――

 

美国織莉子、彼女がキュゥべえの言う最後の魔法少女であった。

 

「少女って言える年齢はとうに過ぎてるわ」

 

「それに、暁美さんと違って私はもう現役からは退いてるから…」

 

そう自嘲気味に笑ってみせる織莉子。

 

魔獣との戦いは、想像を絶するものだ。

そんな戦いを長年続けていたら、とてもじゃないが身が持たないだろう。

だから、大人になって現役を引退してしまうのは仕方ない事なのかもしれない。

 

彼女の話を聞いて、そんな事を考えるタツヤ。

同時に、そんな中で未だに魔獣と戦い続けるほむらの事を純粋に凄いと思った。

 

「まあ、まだ魔法は使えるから」

 

「あなたがうちに来るって事は分かっていたんだけど」

 

「え?何で…?」

 

タツヤは不思議に思っていた。

彼女は、まるで自分が玄関に居た事が分かっていたかのような様子だったと。

 

あそこには監視カメラのような物は設置されていない。

一体どういう事なのかと、少年は首を傾げた。

 

しかし、その答は直ぐに彼女の口から導き出される。

 

「私『未来予知』ができるの」

 

「…うぇ!?」

 

次の織莉子の言葉がタツヤの脳内に駆け巡るまで、若干の時間を要した。

それくらい衝撃的な発言だったのだ。

 

未来予知、文字通り未来が見えるということである。

 

20XX年に地球が滅ぶとか、そんなオカルト的な物ではない。

魔法という言葉に裏打ちされた、正真正銘の予知能力。

 

彼女は、その能力を持っている。

だから、少年が此処に来ることを予め知ることができた。

 

「まあ、今はあまり使ってないんだけどね」

 

「なんと…」

 

魔法であるとはいえ、そんな能力がこの世に存在しているのかと、タツヤは驚く。

予知能力なんて力、使う人が使えば億万長者にだってなれるようなとんでもない能力だと。

 

これから起きる出来事を予め把握し、打開策を打ち、先回りをすることが出来る。

それこそ、1人の人間の人生観を180°変えてしまうような…そんな力だと、少年はこの時思った。

 

「(正確には誰かが家に訪れるって分かっただけで…)」

 

「(あなたが来るとまでは分からなかったんだけど)」

 

心の中でペロッと舌を出す織莉子。

彼女が予知を使って把握していたことは、誰かが自宅を訪ねてくるという事だけであった。

 

タツヤが来ることは、先日の白女でのやり取りで既に知っていた。

 

それよりも、織莉子には気になる事が一つあった。

 

「(それにしても…相変わらずこの子の未来が見えない)」

 

そう、それは彼女の『能力』が少年には効かないということ―――

 

「(見ようとしても…靄が掛かってるというか…)」

 

「(まるで…何かに妨害されてるよう…)」

 

彼女の能力『未来予知』を持ってしても、この少年の『未来』を見る事が出来ない。

普通なら、そんなことはあり得ない事であった。

 

そう、彼は“普通”ではない―――

 

織莉子もまた、ほむらやゆまとは違う観点で彼の中に眠る“何か”に気付いていたのだ。

 

「ん?どうかしました?」

 

自分の事をじっと見つめる織莉子に違和感を覚えるタツヤ。

 

自分は何かしただろうかと、彼女に問いかける。

 

「い…いえ、何でもないわ」

 

「?」

 

織莉子の返答に、タツヤは疑念を抱く。

 

カンの良い少年には、彼女の一連の動きが酷く奇妙に見えたようだ。

 

「そんな便利な能力じゃないわよ、予知なんて」

 

「むしろ、不都合の方が多いくらい…」

 

「(…そんなものなのかな)」

 

話を変えようと、織莉子は自分の能力について語る。

その整った顔には、自嘲気味な笑みを浮かべていた。

 

傍から見れば、予知能力なんてものは夢のような力だ。

だが、実際に手に入れると色々と大変があるようだ。

 

「で、魔法少女の何が知りたいのかしら?」

 

「私で答えられる事なら答えてあげるけど?」

 

「え?でも…」

 

織莉子の申し出は、少年には素直に嬉しかった。

ほむらの時のように首をつっ込むなと言われるのではと、内心ヒヤヒヤしていたのだ。

 

本当に良いのだろうかと、タツヤは尚も躊躇する。

 

「遠慮はいらないのよ?」

 

「だ…だったら」

 

だが、織莉子の言葉にタツヤは腹を括る。

彼女も昔魔法少女として戦っていたのなら、例の事件について知っているだろう。

 

ゆまが何時帰ってくるか分からないこの状況では、彼女に尋ねるのが一番であった。

 

「これなんですけど…」パサァ

 

タツヤは自らの鞄から、プリントを複数枚取り出しテーブルに広げる。

 

それは、少年が予め自分なりに纏めておいた例の事件の資料。

 

図書館の資料に加えて、自分で調べた時に気になった部分を印刷してファイルに閉じたものだ。

 

「!!」

 

資料を全て出し終えると、タツヤが織莉子の顔を覗いてみる。

すると、彼女はとても驚いているような表情を浮かべていた。

 

やはり、この人は何かを知っているのかと、その表情を見て確認するタツヤ。

 

「これって…」

 

「この事件について聞きたいと思って」

 

数年前に見滝原で起きた行方不明事件。

女の子達が複数年間に渡って行方不明になったという奇妙な事件。

その女の子達は警察による捜索のかいもなく、未だに行方不明のままとなっている。

 

確かな確証があるわけではない。それでも、この事件にほむらが関わっている。

 

そして、以前のキュゥべえの言葉。

 

これらを照らし合わせてみても、少年にはこの事件に魔法少女が関わっているとしか思えなかったのだ。

 

「あの、この行方不明になった人達のこと…知ってますか?」

 

「…ええ、よく知ってるわ」

 

紅茶を飲み、一呼吸置いてから話し始める織莉子。

やはり、彼女はこの人達のことを知っているのかと、タツヤは思わず息を呑む。

 

「あなたは勘が良いわね」

 

「それじゃあ…」

 

「ええ、そうよ」

 

「この子達は、私達と同じ魔法少女よ」

 

織莉子はタツヤの言葉を肯定するように大きく頷く。

 

あの事件に関わった少女達、彼女達は『魔法少女』であったと―――

 

「やっぱり」

 

織莉子の言葉で少年は確信する、自分の考えが間違っていなかったことを…。

そして、恭介の友人であるさやかもまた…魔法少女だったのだと。

 

しかし、その事実が判明した時…

タツヤは喜びと同時に、1つの不安を心の中に抱いていた。

 

どうして、この人達は行方不明になったのだろう。

そんな、不安を―――

 

 

いや…

 

少年は、本当は彼女達がどうなったかなんて大方想像が付いていたのだ。

 

恐らく彼女達は、魔獣との戦いの中で…。

 

だが、その事を口にする事が…タツヤには出来なかった。

もし肯定されでもしたらと思うと…少年は、怖かったのだ。

 

「…」

 

「織莉子さん?」

 

織莉子は話を終えた後、視線を落としそのまま黙り込んでしまった。

どうしたのかと思い、タツヤは織莉子の顔を覗き込む。

 

すると、彼女はテーブルに広げた資料の一点を見つめていた。

 

「…キリカ」ボソッ

 

その状態で、織莉子がポツリと小さく呟く。

そして…それは、行方不明になった魔法少女の名前。

 

織莉子の視線の先にあったのは、『呉キリカ』に関する記事だった。

 

「え?キリカって…」

 

「呉キリカ、私の一番の親友」

 

織莉子さんが若干顔を曇らせながら、そう呟く。

 

「…親友」

 

親友、それは友達の中でも特に親しい人に対して使われる言葉。

タツヤで言えば、恐らく大輔を指すのだろう。

 

だが、彼女にとって『親友』という言葉は、少年の使う『親友』とは次元が違う。

それは普通の言葉よりも何十倍も重く―――数え切れない程の想いが込められていたのだ。

 

「ええ…」

 

すると織莉子はゆっくりと立ち上がり、そのまま室内へと姿を消す。

突然どうしたのかと少年は思ったが、暫くすると本のような物を抱えて戻ってきた。

 

「はい、これ」

 

「これって…?」

 

「そこに写ってるのがゆまと私と、キリカよ」

 

彼女が持ってきたのは、1冊のアルバムであった。

織莉子はアルバムから1枚の写真を取り出し、タツヤに差し出してくる。

 

そこに移っていたのは、2人の少女と1人の幼い女の子。

 

雰囲気と見た目でそれが誰なのかは、直ぐに分かった。

幼い女の子がゆまで、少女の1人が織莉子。

そして多分もう1人、織莉子に寄り添うように移っているのが…呉キリカだ。

 

「私がまだ魔法少女として戦っていた頃、私達はコンビを組んでいたの」

 

織莉子は再び椅子に座り、ゆっくり昔を思い出すように語り始める。

 

魔法少女だった頃の…彼女達との思い出を―――

 

「私が魔法でサポートして、キリカが魔獣を倒す」

 

「自分で言うのもあれだけど、良いコンビだったと思ってるわ」

 

「へぇ…」

 

少年には呉キリカがどんな人物だったかは分からなかった。

だが…それでも、織莉子にとって彼女がどれくらい大切な人物だったかが、タツヤには痛い程伝わっていた。

 

今の彼女は、優しい表情をして、同時に寂しそうであった―――

 

織莉子にとって呉キリカは、かけがえの無い親友だったのだろう、と。

 

「それに、佐倉杏子さん」

 

織莉子は続けて別の少女についても話し始める。

 

「この子は、ゆまに戦い方を教えてくれた師匠であって」

 

「彼女のお姉さん的存在だった人よ」

 

「ゆまさんの?」

 

佐倉杏子、彼女は織莉子よりもゆまに関係する人物だった。

その事を知らなかったタツヤには、その事に驚く。

 

師匠であるという事と、ゆまがその頃から魔法少女だったという事に。

 

「最初ゆまは、この子の家に引き取られたのよ」

 

「彼女のお父さん、牧師さんだったから」

 

佐倉杏子は教会の娘だということは記事にも載っていた為、少年も分かっていた。

 

だが、ゆまが初めは彼女の家に居たという事は初耳であった。

彼女はタツヤにそんな事を一言も言っていなかったからだ。

 

何故、そこから織莉子の家に引き取られたのかと、少年は首を傾げる。

 

「でも…」

 

「…」

 

織莉子が少し言いかけたところで、少年はその答えに辿り着く。

 

記事に載っていたのだ。

彼女の家族は…彼女が行方不明になった時、既に―――

 

「ゆまが居ないところでこれ以上は、ね?」

 

「…はい」

 

―――亡くなっていたのだ

 

詳しく調べると、佐倉杏子が行方不明となるより少し前、ご家族が遺体となって発見されたそうだ。

遺体の状態から見て他者による犯行だが、犯人どころか犯行に使用したとされる凶器すら見つからなかったそうだ。

その他にも、色々と不可解な点が多く事件の捜査は難航を極めた。

 

一部では家族の中で唯一生き残り、行方不明となっていた佐倉杏子による犯行だったのではとまで噂されていた。

 

だが、此処に来てこの話を聞いて、その見解は間違いだとタツヤは感じる。

 

それは、あくまで憶測でしかない。

だが、何となく分かる。佐倉杏子のご家族は…魔獣によって―――

 

タツヤは思う。

ゆまの守りたかった物―――それは、彼女の家族だったのでは…と

 

そして、仮にそうだったとしたら…それは、悲しすぎると―――

 

「美樹さやかさんについてはよく分からないけど」

 

「巴マミさんは、暁美さんと佐倉さんの先輩にあたる人よ」

 

「学生としても、魔法少女としても・・・ね」

 

先輩―――

タツヤは、ほむらの家に訪れた時に彼女が話していた事を思い出す。

 

『気が弱いくせに、変に強がるところがあって』

 

『凄く、寂しがり屋な人だったけど』

 

『それでも、あの人は立派な先輩だったわ』

 

懐かしそうに語るほむらの姿を、タツヤは今でも覚えている。

恐らく、あの話が巴マミの事だったのだろうと。

 

飾ってあった写真の人物が、その人だったのだろう。

 

「…」

 

さやかも含めて、彼女達にとって大切な人だったのだと、彼女の話を聞いて…その事を再確認するタツヤ。

そして、それと同時に…この記事に載ってる人達の事を考えて、更に胸を委託する。

 

「あの…この人達が行方不明になったのって…」

 

先程のとおり、タツヤは自分の考えが肯定される事が怖くてたまらなかった。

だが、織莉子の話を聞いて…少年は尚更、聞かずにはいられなかったのだ。

 

彼女達が―――どうなってしまったのかを

 

「…」

 

「やっぱり…その」

 

「…」

 

そして、織莉子の沈黙が、この少年の考えが正解だったことを物語る。

彼女達は…行方不明になったのではない。

 

この記事に載っている少女達は―――もう、既にこの世にはいないのだと…

 

「…そっか」

 

分かっているつもりだった。

だが、タツヤはいざそれが真実だと暗に言われてしまうと、ショックを隠しきれなかった。

心にぽっかりと大穴が開いてしまったかのような…そんな気分になるタツヤ。

 

この少年自身、彼女達のことは良く知らない。会ったことなんて、勿論ない。

だが、少年は何となく理解出来てしまうのだ。

 

さやかが居なくなった後の、恭介や仁美の気持ちが…

 

呉キリカが居なくなった後の、織莉子の気持ちが…

 

佐倉杏子が居なくなった後の、ゆまの気持ちが…

 

巴マミが居なくなった後の、暁美の気持ちが…

 

それはもう…心が苦しくなって、息ができなくなりそうな程に―――

 

「…なんで、みんな魔法少女になったんですかね」

 

「あんな…得体の知れない生き物なんかのために…」

 

タツヤは、納得が出来なかった。

どうして皆、あんな珍獣の良く分からない目的のために魔法少女になったのだろう、と。

少年には、理解できなかった…どうしても。

 

「…叶えたい願いがあったからよ」

 

少年の疑問に、織莉子が静かに答える。

それは、以前キュゥべえも言っていたこと。

叶えたい願いがあったから、彼女達は魔法少女になったのだ…と。

 

「…っ!!でも、それって本当に命を掛けてまで叶えたい事だったんですか!!」

 

それでも、納得ができなかった。

どんな願いだったとしても、願った本人が死んでしまったら意味が無い。

命を掛けてまで願いたい事なんて、本当にあるのかと少年は考えずにはいられなかった。

 

だが、そんなタツヤに織莉子は…

 

「そうよ」

 

はっきりと―――そう応える

それが当たり前のように、至極当然のように―――彼女は言い切った。

 

「!!」

 

今の織莉子に…笑顔はない。

その言葉が冗談ではなく、本当の気持ちである事は彼女の表情を見れば分かる。

 

「半端な気持ちでアレと契約した子なんて…多分、1人もいないわ」

 

「例え、自分の命を代償にしてでも…叶えたい願いがあったから」

 

「彼女達は魔法少女になったのよ」

 

織莉子が真剣な眼差しで話を続ける。

その眼光からは力強さを感じ、また言葉一つ一つに凄く重みがあるようであった。

 

命を代償にしてまで――――叶えたい願い

 

言葉を聞いても、タツヤはイマイチ想像ができなかった。

そんな事…考えた事も無いのだから。

 

当然だろう。

少年自身が自分の生活の中で、そんな状況になるまで追い込まれたことがないのだから。

 

当たり前のような日常を、当たり前のように生きていく。

 

当たり前のことを―――当たり前だと思える幸福

 

それが、どれくらい幸せなことかが…タツヤには、まだ分かっていなかった。

 

「織莉子さんも…?」

 

タツヤは、色々な考えを頭の中で巡らせながら…そんなことを呟く。

 

彼女はどうだったのだろう。

やはり、自分の命を代償にしてまで叶えたい願いがあったから、魔法少女になったのだろうか…と。

 

「私は…」

 

「そうしないと…自分を保てなかったから」ボソッ

 

「…え?」

 

俯きながら織莉子は話す。

その声はあまりにも小さく、タツヤは上手く聞き取れなかった。

 

「私の願いは…叶っているのかどうか…」

 

「未だに分からないのよ」

 

「それってどういう…?」

 

今の彼女は、先程よりも雰囲気が暗く声のトーンも低い。

しかし、織莉子の言葉が…タツヤにはイマイチ理解出来なかった。

 

願いが叶ったかどうか分からない。

 

どんな事を願えば、そんな事になるのかが…少年は分からなかったのだ。

願いを叶えたから、魔法少女になってしまったのではないのか…と。

 

「ごめんなさい、意味が分からないわよね」

 

「え、いや…」

 

「とにかく、みんな自分の意思で契約したのよ」

 

「断じてあのインキュベーターのためなんかじゃないわ」

 

再び顔を上げ、その真剣な眼差しを少年に向けてくる織莉子。

結局彼女の願い事について、タツヤは分からないままであった。

 

だが、織莉子の話を聞いて、彼は少しだけ安心する。

 

この記事に載っている少女達、そして織莉子、更にはゆまやほむらが、キュゥべえに唆されたのではないと、知ることができたから。

 

自分の意思で、この道を歩むことを決めたのだと…理解することができたから。

 

「…そう、ですか」

 

「あなたもアレの言う事を真に受けては駄目よ?」

 

アレ、タツヤは直ぐにあの珍獣の事だと察する。

 

ほむらといい、織莉子といいキュゥべえは魔法少女になった少女達にあまり好かれていないようだ。

 

ある意味、当然だが。

 

「あ、はい。それは勿…」

 

勿論です、タツヤはそう応えようとした。

 

しかし、そこでふと“ある事”が頭の中を過り…少年は口を閉じる。

 

「…」

 

「…どうなんですかね」

 

「え?」

 

タツヤは、思い出していたのだ。

 

「たまに、思うんです」

 

「あいつの言ってる事、割と的を得てるんじゃないかって…」

 

以前、キュゥべえに言われた言葉を…あの、夜の出来事を―――――

 

「…何か言われたの?」

 

「ええ、まあ…」

 

「自分達が魔法少女を扱うのと、人間が家畜を扱うのは同じ事だって…」

 

キュゥべえは…インキュベーターがタツヤに言った言葉。

 

人間が動物など『家畜』に何の引け目も感じない事と同じで、自分達も『魔法少女』に何かあったとしても特に何も感じない。

 

自分達にとって、魔法少女は、消耗品でしかない―――

 

「…」

 

「あなたは、それが正しい意見だと認めてしまうの?」

 

タツヤが黙ってしまうと、織莉子はゆっくりとした口調で語りかける。

 

織莉子は、その鋭い視線を真っ直ぐ少年へと向ける。

少年は、その視線がまるで自分の心を見透かされているような気がして、思わず視線を逸らしてしまう。

 

「そ、そうじゃないですっ!!」

 

「そうじゃ…ないですけど…」

 

アレが言っていることが正論だなんて、タツヤだって思いたくなかった。

 

だが、それでもタツヤはその事を胸を張っていう事が出来なかったのだ。

 

「それを言われた時」

 

「俺はそんなの間違いだって…胸を張って言えなかったんです」

 

ふざけるなと、その時少年は思った。

だが、それと同時に彼は自分があの言葉を否定する資格が無いと感じてしまったのだ。

 

動物達が自分達の食卓に並ぶ過程に、自分は興味を持ったことなど無い…と。

 

「実際そういう動物達のこととか考えたことないし…」

 

「何だかんだで、結局は人も自分達の事を特別扱いしていて…」

 

「命を平等には見てないんじゃないかって」

 

「そう、ちょっとだけ思っちゃったんです」

 

インキュベーターの言葉を否定するということは、つまり自分達は家畜として扱われる事は嫌だと言っている事になる。

 

そして、それは―――

 

自分達は動物とは違う、自分達は特別なのだ。

人間が上で動物が下、動物は人間の為に犠牲になってもいいが、人間はそのような存在ではない。

 

そのような傲慢な考えに繋がってしまうのではないかと、少年は思ってしまったのだ。

 

命というものは、すべからく平等であると、よく人は言う。

人は本当に命を平等に見ているのかと、タツヤは考えてしまったのだ。

 

「…」

 

「貴方は優しいわね」

 

話を黙って聞いていた織莉子は、そう言って笑顔を浮かべる。

 

しかし、その言葉にタツヤは表情を曇らせる。

 

優しいとか、そんな事ではないとタツヤは心の中で否定する。

ただ、自分が理知的に物事を考えられず考え方が極端なのだと。

 

「ゆまが言ってた通り」

 

「えぇ!?」

 

突然、織莉子の口からゆまの名前が出てきたことに、タツヤは驚き声を上げる。

 

彼女は、自分のことを織莉子に話でもしていたのかと。

 

「ふふ、最近のあの子は貴方の話ばかりしているわ」

 

「よほど気に入られたのね」

 

「(まじかよ…)」

 

本人の居ないところで何を話しているのかと、タツヤは少しだけムッとする。

もっとも、それが彼女の好意からだという事はまだ幼いタツヤには分からなかった。

 

少年も特別悪い気はしないのだが、知らないところで自分の話をされる事は…いささか、恥かしかったのだ。

 

今度彼女に会ったら文句を言ってやろうと、タツヤは静かに誓ったのだった。

 

「…」

 

「人間はちゃんと命を平等に見てると思うわ」

 

「…え」

 

すると、織莉子が呟く。

それは、タツヤが先程話していた内容に対しての、織莉子なりの答であった―――

 

「確かに自分達と動物の間に、若干の優劣は付けているけど」

 

「でも人間は…」

 

「その分だけ、ちゃんと感謝の気持ちを持っている」

 

一言ごとに訴えかけるように、ゆっくり話を続ける織莉子。

 

タツヤはそれを、ただ黙って聞いている。

目の前にあるティーカップに入った紅茶は、もうすっかり冷め切っていた。

 

「だって、人間は」

 

「自分以外の何かのために、涙を流すことができる生き物なんだから」

 

「…」

 

人間は、誰かに感謝の気持ちを言葉にして伝えられる生き物だと、織莉子は言う。

そして、自分のためではなく、他人のために流せる涙を持っているのだと。

 

涙は―――『感情』があるから流せる

 

『感情』を持たないインキュベーターには、恐らく逆立ちしても流せないもの。

 

あの珍獣が…その事をどう思っているのか分からない。

だがもし、涙を流せない人が居れば…その人物は恐らく『可哀想』な人なのだろう。

 

「人間は自分達の生活のために家畜を養ってはいるけど」

 

「でもそれは、あの生き物がやってることとは違う」

 

「人間は、少なからず知っているもの…」

 

「自分達の命が、沢山の命によって繋がれたものなんだということを」

 

あくまでもあの珍獣のやり方と人間のやり方は違うのだと、織莉子は主張する。

 

沢山の命によって繋がっている――――

 

この言葉は、いなくなった魔法少女の事も恐らく指しているのだろう。

彼女達が居たから、今の自分がいる。

織莉子は、そう暗に示しているようであった。

 

「だから、自然と出てくるのよ」

 

「『いただきます』とか『ご馳走様』とか」

 

「『ありがとう』っていう感謝の言葉が…ね」

 

いただきます

 

ごちそうさま

 

動物のことで深く考えたことがない人間でも、ほぼ毎日のように言っている言葉。

その言葉は、食事を作ってくれた人間に対してだけでなく、家畜の動物やそれを育ててきた人物

そして、この食事に関わった全ての存在に捧げる言葉なのだと、織莉子は続けた。

 

「…」

 

「だから、私はあいつらと人間がやっていることが同じだなんて思わないし」

 

「あいつらが私達を扱うみたいに、人間が動物の命を無下に扱っているとも思わない」

 

「そうなんですかね…」

 

織莉子の言いたいことは、タツヤでも何となく分かる。

 

人間には奴等が持っていない『感情』という大切なものがある。

感情があるから、人は自分を支えてくれる全てのものに感謝の気持ちを抱くことが出来る。

だから、インキュベーターのように自分以外を無下には扱ったりはしないだろうと、織莉子は伝えたかったのだ。

 

その言葉で、そうなのかと納得するタツヤ。

しかし…同時に、そんな単純に考えられないと嘆く自分も心の中にはいた。

 

織莉子が自分のために話をしてくれたのにと、

こんな時に限って、どうしようもないくらい優柔不断になる自分にタツヤは腹が立ちそうになる。

 

「世の中には欲が深くて、自分の利益の為にしか動かない人間も確かにいるけど」

 

「でも人間は、それがいけないことだと相手を嗜めることができる」

 

「他人を…他の生き物を思いやることが出来る」

 

少年がまだ悩んでいることを察したのか、更に話を続ける織莉子。

 

人間は間違いを正すことが出来る、誰かの為に行動することが出来る。

 

そう語尾を強くして、彼女は話す。

 

「その気になれば、他人のために…」

 

「命を懸けることだってできるんだから」

 

誰かのために―――命を掛ける

 

強い口調で―――

 

何かを思い出すように―――

 

寂しそうな表情で―――

 

織莉子は言う。

 

「…」

 

「あの生き物は、それが無意味なことだと言うんでしょうけどね」

 

「織莉子さん…」

 

魔法少女も同じなのだろうかと、タツヤは思う。

あの珍獣に何と言われようと、彼女達は自分にとって大切な『何か』のために、命を掛けているのだろうかと。

 

だが…それでも、死んでしまえば意味がないのではと、少年は迷ってしまう。

 

生きてさえいれば、そこからいくらでも可能性を広げることが出来る。

 

そう―――戦いの中で、生き残りさえすれば…その先に、きっと…

 

「…なーんて」

 

「本当のことを言うと、今までの話・・・私もはっきりと断言はできないの」

 

タツヤに向けて、そう少しおどけてみせる織莉子。

紅茶が冷めてしまったと呟いて、少年のティーカップに紅茶を淹れ直す。

これも、彼女なりの気の使い方なのだろう。

 

まともに話したのは今日が初めてなのに、一生懸命相談に乗ってくれる彼女はタツヤにとってみれば本当に有難い存在であった。

 

自分もこんな風に誰かの為を思って行動できて、誰かの役に立てるような人間になりたいと、この時のタツヤは強く思うのだった。

 

「でも、人間にはそういう感情が」

 

「『愛』があるんだって思いたいじゃない?」

 

「あ、愛…ですか」

 

そうタツヤがしみじみ感じていた矢先に、突然織莉子が話を切り出す。

 

普通の人からすれば、恥ずかしいと思うような台詞を彼女は口にした。

 

「そうよ、人間は色々な『愛』を持ってるの」

 

「異性に捧げる愛は勿論、親友や家族、色々な物に捧げる愛はある」

 

「それこそ無限に広がっていくくらいに…」

 

「無限に・・・」

 

胸に手を当て、目を瞑り優しい声で織莉子は話す。

まるで、その言葉が自分にとってかけがえのない物であるかのように―――

 

「ふふ、少しロマンチスト過ぎたかしら?」

 

「い…いや、そんな事は…」

 

無限の愛―――

 

その言葉を、織莉子は何の躊躇もなく使う。

まるで、以前から使っていたかのように…その姿に何の違和感もない。

 

一方のタツヤはそれを良い言葉だと思いながらも、何とも背中が痒くなりそうな感覚に襲われる。

 

「でも、実際愛が無限にあったとしても」

 

「伝えられる愛は、無限ではない」

 

「人間の命は、無限じゃないから」

 

尚も、織莉子は続ける。

 

「伝えられる愛は…有限なのよ」

 

「愛は無限であって有限」

 

「愛は無限に有限」

 

その言葉に、底の見えない…深い“闇”を見え隠れさせながら―――

 

「愛は、無限で…有限…」

 

その事に気付かないタツヤでは、到底恥かしくて言えない台詞を次々と声に出す織莉子。

彼女に対して、少年は意味が分からず言葉の意味を模索する。

 

無限だけど、有限。有限だけど…無限…。

いくら考えても、タツヤには彼女の言っている事が分からなかった。

 

愛なんて言葉の事、タツヤは考えたことなかったのだ。

 

「ごめんなさい。わけが分からない上に、全然関係ない話をして」

 

「いえ、そんなことは…」

 

確かに、上手く意味を汲み取ることは出来なかった。

だが、それでも大切な話なのだという事はタツヤでも分かった。

 

愛は無限に有限―――

 

その言葉を頭の中で反芻させ、必死に考えを巡らせる。

自分も…もう少し大人になれば、この話の意味を理解することが出来るのだろうかと。

大人になり…誰かを好きになって、その人に無限の愛を…と。

 

「(…はぅ)」

 

しかし、そこまで考えて、タツヤは物凄く恥かしくなってしまう。

顔が赤くなり、もうこの事を考えるのは止めようと静かに誓った。

 

タツヤは赤くなった顔を誤魔化すように、織莉子が再度淹れてくれた暖かい紅茶を一気に飲み干した。

 

「あなたは、この記事に載ってる魔法少女達がどうなったかが知りたいのよね?」

 

「え?あ…はい…」

 

そんな中、織莉子が再び資料に目を通しながら話し始める。

 

行方不明になった女の子達がどうなったのか、それはタツヤが一番知りたかった事だ。

既に半分以上答が出てしまっているが、他にも何故そんな結果になってしまったのかが気になる点であった。

 

魔獣との戦いで敗れたのか…。

 

あるいは、もっと別の何かなのか…。

 

「…」

 

「今、ゆまが居る場所に行けば…多分、分かると思うわ」

 

「ゆ、ゆまさんがいる場所…?」

 

織莉子は、何故か少し言いづらそうに表情を歪めながら答える。

 

ゆまが出掛けた場所、そこに答があると。

 

彼女がいる場所に人には見せられない物があるのだろうかと、タツヤは首を傾げる。

 

「それって何処にあるんですか?」

 

タツヤは少し前のめりになりながら、その場所を尋ねる。

 

「…ちょっと待ってて」

 

すると、織莉子はそう言って…何故かゆっくりと目を閉じる。

暫くそうしていると、徐に右腕を上げ…手のひらを空に向けた。

 

その一部始終を見て、一体何をしているのかと…タツヤが疑問を抱いた

次の瞬間――――

 

パァァアアア

 

「ん?うわっなんか出てきた」

 

何もない空間から、突然光り輝くものが現れたのだ。

 

「な、なんだ…これ」

 

「水晶?」

 

それは、サッカーボール程の大きさの水晶玉であった。

綺麗な模様が刻まれた半透明の水晶越で、その先の景色がうっすらと見えている。

 

少年は、そんな魔法で作られたらしい水晶に目を見開く。

 

「それがゆまの居る場所まで案内してくれるわ」

 

右腕を下ろし、その水晶玉をタツヤに差し出す織莉子。

 

少年は織莉子の言葉を聞いて、その事に驚く。

しかし、目の前で起きている現象のインパクトがあまりに強く、その場で固まる事しか出来なかった。

 

「あの…これ浮いてるんですけど」

 

少年の言う通り、水晶玉は彼の目の前でぷかぷかと浮いていた。

いや、正確にはこの物体は現れた時からずっと宙を浮いていたのだ。

 

渡される時も、ただこの水晶玉がタツヤの近くへと移動してきただけ。

一体どんな仕組みなのかと疑問を抱くが、直ぐに魔法だからと答を導き出す。

 

魔法…その言葉だけで最早なんでもありだと、タツヤは思わずにはいられなかった。

 

「大丈夫、他の人には見えないようになってるから」

 

「(ほんと何でもありだなぁ)」

 

魔法の非現実さ加減と、その便利さに・・・俺は改めて脱帽してしまうのだった。

 

「タツヤ君」

 

「あ、はい」

 

気の抜けたことを少年が考えていると、突然織莉子に名前を呼ばれる。

織莉子は先程までとは違い、真剣な表情をしていた。

 

その雰囲気に気圧されたタツヤは、直ぐに背筋を伸ばし織莉子に対峙する。

 

「その様子だと、多分貴方はまだ魔法少女のことを完全には理解出来ていない」

 

「え?」

 

突然そのような事を言われ、タツヤは思わず声を上げる。

 

魔法少女を理解出来ていない。

その言葉がどんな事を指すのか、今のタツヤには分からない。

 

「そして、今からその場所に行けば…魔法少女のことをもっと知ることになる」

 

「きっと、優しい貴方はそれを辛いことだと認識するでしょう」

 

「…」

 

織莉子の含みのあるような言葉を、タツヤはただ黙って聞き続ける。

 

そう、少年には魔法少女の事で…まだ知らないことがある。

 

タツヤも…そろそろ彼女達の秘密に触れなければならない。

心の奥底から感じる…よくわからない胸騒ぎを、タツヤはその時感じていた。

 

「でも、深く考えないでね…貴方が悪いわけじゃないんだから」

 

「は…はい」

 

織莉子は真剣な表情を崩し、笑顔を浮かべる。

少年の表情を見て、心配をしてくれたようだ。

 

この話にどんな意味があるのか、その答はその場所に行けば分かる。

そう理解した少年は、彼女のいう場所に行くことを決める。

 

「それと、もう1つ」

 

「これは…私の個人的なお願いなんだけど」

 

勿体ぶる様にして、織莉子は話す。

先程とは違い、その雰囲気は非常に緩いものだ。

 

タツヤは、一体なんだと彼女の言葉を待つ。

 

「ゆまと仲良くしてあげてね」

 

「ふぇ?」

 

そのお願いとは、魔法少女のことではなく―――ゆまの事についてだ

 

「あの子、普段は強がってはいるけど…本当は寂しがり屋な子だから」

 

「佐倉さんが居なくなってから、あの子は中々立ち直ることができなかったの」

 

「だから、どうかあの子の友達でいてあげて」

 

「あの子にはきっと、貴方みたいな人が必要だと思うから」

 

織莉子が、ゆまさんの悲痛な想いを打ち明ける。

 

タツヤ自身も、あの人の気持ちや性格が何となくだが分かっていた。

家族の話をした時のゆまは、とても冷たく…そして悲しい表情をしていた。

 

『大切な人を、守りたかったから…かな…』

 

あの時のゆまもまた、寂しそうな表情をしていたのだ。

 

大切な人、それはきっと佐倉杏子の事で間違いない。

彼女を守ることが出来なかったゆまの悲しみは、相当なものだった筈だ。

 

直ぐに立ち直れという方が、無理があるだろう。

 

「…」

 

「こんなんで良ければ、喜んで」

 

タツヤは、苦笑いを浮かべながらそう答える。

 

そんな事を言われなくても、自分は彼女の友達でいた…と。

 

彼女には、色々助けられた。むしろ、少年から友達になって欲しいくらいだった。

 

こんな自分が、あんな凄い人の役に立てるなら―――

 

それは、とっても嬉しいなって…素直に思うから。

 

「ふふ、ありがとう」

 

織莉子は、少年の返事を聞いて満面の笑みを浮かべる。

心からほっとしたような表情を浮かべて、凄く嬉しそうであった。

 

こういう表情を見ると、彼女もまた魔法を使える人間である前に…1人の普通の人間なのだと痛感する。

 

心のある、感情のある、『愛』のある人間なのだと―――

 

「なんだったら、彼女にしても良いのよ?」

 

「はあっ!!??」

 

だが、そんな感傷に浸っていられるのも、束の間―――

 

「あら、不服?あの子結構可愛いと思うけど?」

 

「いいいいいいい、いや!!そういうことじゃなくて!!だから、その~・・・あれでですねぇ」アタフタ

 

織莉子の突然の提案に、脳内の許容範囲を超えオーバーフローを起こすタツヤ。

 

確かに、ゆまは同年代では美人の類だろう。恐らく、かなりの優良物件だ。

しかし、つい最近まで小学生だった少年には少し過激すぎる話だったようだ。

 

「ふふふ、貴方本当に可愛いわね」

 

「冗談よ、冗談」

 

「あ…う…うぇ…」

 

そんな少年に対し、織莉子がまた意地悪い笑みを浮かべて此方を見ていた。

 

中学生相手に、本気でそんな事言う筈ないだろうと。

 

「女の子と付き合うなら、もうちょっと大人にならないとね」クスクス

 

「」

 

タツヤは、織莉子のその微笑みを恨めしそうに見つめる。

 

彼女は…普通の人間ではない。もの凄く、腹の黒い人間だと。

 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―

 

「あの、ありがとうございました」

 

彼女との会話もほどほどに、タツヤは次の目的地に向かう為、家を出る支度をして再び玄関にいた。

隣には、相変わらず水晶玉がぷかぷかと浮いている。

 

色々と話し込んでしまったせいか、着いた頃はお昼過ぎだったが、もう直ぐ夕方になってしまう時間帯であった。

 

どうやら、今日もタツヤは遅くなりそうだ。

父には連絡しておかないとと、少年は時間を確認するのだった。

 

「また、何かあったら来なさい」

 

「…はい」

 

玄関先には織莉子も出迎えに来ており、少年は別れの挨拶を済ませる。

 

結局、彼女に色々と遊ばれた少年だったが、同時に沢山の話を聞かせてもらった。

タツヤは自分にはまだまだ知らないことがあるのだと、織莉子には感謝していた。

 

しかし、キュゥべえの言葉は…まだ頭に残っている。

織莉子の話を聞いただけで、安易にそれが間違いだと言う事は出来なかった。

 

それでも…タツヤは、いつか必ず自分なりの答えを出そうと心に誓っていた。

 

少年がそんな事を考えているうちに、隣で浮いていた水晶玉が、彼を道を案内するように移動を始める。

タツヤは改めて織莉子に別れを告げ、その水晶玉を追いかけるのだった。

 

「…行ったわね」

 

彼の背中を見送った織莉子は、一先ず安堵の表情を浮かべる。

 

「あの子は、私達にとっての『希望』になってくれるのかしら」

 

織莉子でも『未来』が見えない少年。

 

その事だけで分かる。この少年は―――普通ではないと

 

彼女はそんなタツヤの背中に、何を見ようとしているのか。

 

「それとも…」

 

それは、今は彼女しか分からない―――

 

 

ヒュー…

 

「…それにしても、嫌な風邪が吹くわね」

 

タツヤが居なくなったその場には、何故か奇妙な風が吹いている。

 

何処か生暖かく気持ちの悪い…まるで、大切な物を奪っていってしまいそうな…

 

そんな風だ。

 

「…何も起きないといいんだけど」

 

外の雰囲気に違和感を覚えながらも、織莉子は家へと戻っていくのであった。

 

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