魔法少女まどか☆マギカ~After Ten Years of History~   作:イデスツッラ

2 / 23
第1話「あれから10年...」 chapter 2

「あ、あの~何か・・・?」

 

目を逸らしていたタツヤだが、少女の様子を見て思わず首を傾げる。

この人は一体どうしたのだろう、と疑問に思ったのだ。

 

少女は尚もタツヤが地面に描いた落書きを見つめている。

 

「・・・いえ、何でもないわ。ごめんなさい、困らせたみたいね」

 

「い、いや、そんな事は・・・」

 

タツヤが再度声をかけると、少女はようやく反応する。

先程とは違い、表情は少しだけ穏やかになっていた。

 

その表情は神秘的な印象を持ち、思わずタツヤが見とれてしまう程綺麗だった。

容姿は…タツヤと同じくらいの年齢に見えるが、何故か風貌以上に大人びた印象を受ける

 

それもそうだろう、“彼女”の場合…容姿は若いままだが、実際は少年よりもずっと年上なのだから…

 

「あなた、それ見滝原の制服よね?」

 

「は、はい・・・今日入学しました」

 

タツヤがボーっと彼女を眺めていると、今度は彼女の方から声を掛ける。

 

「そう・・・」

 

「あの、お姉さんも見滝原の?」

 

自分の制服を見て、直ぐにそれだと分かるのかとタツヤは少し驚く。

 

彼女も見滝原の生徒なのだろうか―――

 

そう疑問に感じたタツヤは恐る恐る彼女に問いかける。

 

「…ええ、卒業生よ」

 

「あ、卒業生だったんですか。てっきり先輩なのかと…」

 

少年から見ても、彼女はタツヤと同い年か…あるいは少し年上のように見える。

その容姿のせいもあってか、彼は彼女のことを生徒なのだと勘違いしていた。

 

言われてみると仮に彼女が生徒なのだとしたら、今の時間制服を着ていないのは可笑しい。

今の彼女は、綺麗な紫色のワンピースを着ている。

 

彼女が生徒で無いことは、考えれば直ぐ分かる事ではあった。

 

「…そう見える?」

 

「え?ま、まぁ…そう、ですね」

 

彼女の言葉に、タツヤは少し戸惑いながら頷く。

 

「そう…」

 

「…?」

 

だが、タツヤのその言葉を聞いて少女は少しだけ顔を曇らせる。

 

その姿を見て若く見られた事が嫌だったんだろうか、とタツヤは首を傾げる。

自分の母親や和子だったら、若く見られた方が喜ぶのに…と、少年は心の中で思った。

 

「絵、上手いのね」

 

「へっ!?」

 

少女は地面の落書きに視線を向けながら話す。

 

その事に驚いたのか、タツヤは不意打ちを食らったかのように言葉にならない声を挙げてしまった。

隠してやり過ごす筈だった事がバレたと顔を紅潮させ、その場であたふたと慌てるタツヤ。

 

「…ねえ、もう少しよく見せてもらえない?」

 

「ふぇ!?」

 

しかし、タツヤの動揺を知ってか知らずか、少女はその絵をもっと見せてほしいと願い出る。

 

追い打ちを受けた形になったタツヤは、目を見開き…再び彼女にその驚いた表情を向けた。

 

「で、でも…」

 

「お願い」

 

「は、はぁ・・・別に、いいですよ」

 

 

少女に頼み込まれたタツヤは、隠していた体をどかし地面に描いた『まどか』を見せる。

 

自分にとって重要なものだが、他人から見ればただの落書きに過ぎない筈…それなのに、何故彼女はこんなものを見たがるのだろう。

 

そう少年は疑問に感じる。

 

だがそれと同時に、少年は何故か彼女の願いを断ってはいけないような…そんな感覚に囚われていた。

 

「有難う」

 

タツヤが体をどけると、少女は丘から下り…そのまま少年の隣まで移動する。

そして、そのまま彼女は目の前に描かれた『まどか』をじっと見つめ始めた。

 

『まどか』を見るその少女の表情は―――寂しげで…何処か切ない

 

まるで、懐かしいものでも見ているかのようだった。

 

「は、はは、何か恥ずかしいですね。中学生なのに地面に落書きなんて」

 

恥ずかしさのせいか、彼女の表情の変化に気付かないタツヤは、愛想笑いを浮かべながら話し始める。

 

今日初めて会った“筈”の彼女に対し…自虐的な言葉を並べた。

 

「そんなことないわ」

 

しかし、少女は淡々とした口調でそう呟く。

 

その視線は、『まどか』に向けられたままだったが…彼に向けられたその言葉は、凄く優しい声色だった。

 

「まどか・・・」

 

彼女はそっと地面に書いた文字を読み上げる。

 

先程の表情と同様…その声は懐かしそうで、そして寂しそうであった―――

 

「この絵、誰かは分らないんです」

 

「でも、小さい頃から知っていて、何故か凄く懐かしい気がして…」

 

「ずっと傍にいてくれていたような…そんな気がするんです」

 

気付くと少年は、その少女に『まどか』について話していた。

 

普段は話しても誰も信じてくれないだろうと、他人に『まどか』の話は滅多にしない。

両親にだって、近頃は殆ど話す事はなかった。

 

だがタツヤは、その人には話してもいいか…と何故か思ったのだ。

 

「そう…」

 

その少女はタツヤの話をただ黙って聞き続ける。

 

人によっては「この人は大丈夫だろうか?」思われるような妄想に近い話を、彼女は一言一言しっかりと聞き取るように耳を傾ける。

 

その姿は、小さな子供の話を母親が聞いているかのようであった。

 

「きっといるわ」

 

「え?」

 

そして、少女はタツヤの話を最後まで聞いた上で…そっと呟く。

 

「あなたがそう思うなら」

 

 

「…思い続けてくれているのなら」

 

 

「この子はきっと何処かにいると思うわ」

 

少年の話を肯定する言葉を、彼女は送る。

 

タツヤに優しく微笑みかけながら、『まどか』は何処かに必ず居ると彼女は言い切った。

 

「(え、ちょ…この人…俺の、話を…信じて…)」

 

タツヤは彼女の言葉に驚きを隠せずにいた。

 

今まで両親ですらまともに信じてくれなかった自分の話を、彼女が信じてくれた事に…。

 

それだけじゃない。

彼女は自分の話した『まどか』が何処かに必ず居ると、そう言った。

 

その事がタツヤは嬉しくもあり、不思議でもあった。

 

彼女は『まどか』に会ったことがあるのだろうか、と思ってしまうくらいに―――

 

「(…あれ?)」

 

そこで、タツヤはある違和感を覚える―――

 

「(この感覚…覚えがある…?)」

 

今この少女に感じたもの、それをタツヤは以前にも感じた事があるような気がしていた。

 

いや、今だけではない。

『まどか』について話した時も、タツヤはこの少女に妙な親近感を感じていた。

 

綺麗で長い黒髪に…赤いリボンを付けたこの少女に…。

 

「(…え?)」

 

そう、赤いリボンを付けた―――

 

「(ま、まさか…)」

 

この少女に―――

 

「そ、それってどういう…」

 

タツヤは自分の中である結論を見出すも、まだ自信が持てず…言葉には出来ない。

 

しかし、それでも彼女の言葉が気になった事に変わりはなく、彼女に詰め寄ろうとする。

 

「…!?」バッ

 

しかし、タツヤが彼女に近付こうとした時、少女は一瞬険しい表情をしてある方向に振り向く。

 

どうしたのかと、タツヤもその方向に視線を向けた。

しかし、その方向には誰も居ない。

 

「(あれ…?)」

 

だが、タツヤはその視線の先にある…とある物体に目を付ける。

 

その物体は、一匹の白い生き物のようで…真っ赤なその瞳をこちらに向けていた。

タツヤはその生き物のような物体と、ふと目が合ってしまう。

 

「白い・・・・・猫?」

 

その生き物はタツヤの言う通り、猫のようにも見える。

しかし、猫にしては耳が長く…何か大きい輪のようなものを付けていた。

 

一瞬ぬいぐるみなのではとも思ったが、その眼は可愛らしくくりくりと動いており…生きているように見える。

 

タツヤはその生き物が一体何者なのか、不思議でならなかった。

 

「え・・・!?」

 

タツヤがその生き物について一言呟くと、少女は驚いたように視線を戻す。

 

「あなた…あれが見えるの…?」

 

「へ?」

 

少女は、まるでタツヤが見えてはいけないものを見ているかのような言葉を述べる。

その言葉の意味が、タツヤには理解出来なかった。

 

2人の視線の先に居る白い生き物、それが一体何だというのか…タツヤは不思議でならなかった。

 

「…」キュイ

 

「…」

 

その後、その白い生き物はじっと少女の事を見つめ…少女もその白い生き物に横目で視線を送る。

 

「…」キュイキュイ

 

「……」

 

 

「…ん?」

 

少女と生き物は目と目で会話をするように、それぞれで視線を送り続ける。

 

その異様とも言える光景に、タツヤは首を傾げ…眉間に皺を寄せる。

一体何をしているのだろう…と、少年は疑問に思うことしか出来なかった。

 

「…ごめんなさい」

 

「私、もう行かなきゃいけないの」

 

「え!?」

 

そして、少女はその生き物から視線を外すと、自分はもう此処にはいられないと言い始める。

 

その言葉はタツヤにとってあまりにも突然過ぎて、少年は驚くことしか出来ない。

 

「ま、待って下さい!!あなたに聞きたいことが・・・!!」

 

だが、それでも少年は彼女に詰め寄り、彼女にある事を聞こうとする。

 

タツヤは本能で感じていたのだ。

自分の考えが正しければ…この人は、

 

あの時の―――

 

フゥ…

 

「!?」

 

しかし、タツヤが言葉を言い終わる前に、少女は傍から離れていってしまう。

 

いつの間に移動したのか、少女は再び丘の上に立ち…タツヤへと視線を向ける。

彼女の表情は、やはり…何処か寂し気であった。

そして―――

 

「ごめんなさい」

 

「…でも」

 

少女は、少年にある言葉を贈る―――

 

「やっぱり、そっくりよ」

 

「その絵、『まどか』にね…」ファサァ・・

 

少年にとって、“懐かしい言葉”を―――

 

「!? ま、まって・・・!!」ダッ

 

タツヤは彼女を呼び止めよう丘の上に駆け上る。

 

その“懐かしい言葉”の真意を確かめようとして―――

 

フ…

 

「え!?」

 

だが、タツヤが丘の上まで駆け上がると、彼女は忽然と姿を消す。

 

辺りを見回しても既に彼女の気配はなく、タツヤは彼女の姿を完全に見失ってしまう。

 

あまりに一瞬の出来事過ぎて、タツヤの頭は思考が追い付かなかった。

 

「いや、それよりも…」

 

だが、そのような状況の中で少年は必死に考えを巡らせる。

 

「あの人…やっぱりあの時の…」

 

そして、自分の中である結論を出した―――

 

『まろかーまろかー』

 

タツヤの中である記憶が蘇る…

それは、幼い頃今日のように地面に『まどか』の絵を描いていた頃の事だ。

 

幼い少年は、無邪気に絵を描いていると…ある少女に出会う。

その少女はゆっくりと少年に近付き、優しく微笑みながら…こう言ったのだ。

 

『そうだね、そっくりだよ』

 

と――――

 

「子供の頃・・・一度だけ会った・・・」

 

幼い頃の記憶の為、断片的なものしか思い出せない。

 

しかし、その時言われた言葉…そして、その時の彼女の特徴…それだけは何故か鮮明に覚えていた。

彼女の特徴…それは―――

 

黒い綺麗な長い髪に…赤いリボンを付けた…

 

 

――――ズキッ

 

「痛っ・・・!!」

 

 

しかし、そこまで思考を巡らせたところで…少年を激しい痛みが襲う。

 

頭が割れるような痛みが突如として起こり、タツヤを苦しめた。

 

「・・・ぅ。そういえば、名前・・・聞いてなかったな」

 

しかし、頭痛は直ぐに治まり…タツヤは再びあの少女のことを思い出す。

 

結局、名前すら聞くことが出来なかった。

また、会えるだろうか…と、タツヤは淡い期待を胸に抱く。

 

「…帰るか」

 

少女の事で時間を忘れてしまっていた為、空は気付かぬ内に暗くなってきている。

空の色を見て我に返ったのか、タツヤは家族の待つ自宅へと帰ることにした。

 

だが、道中も…彼女の事が、タツヤの頭から離れることはなかった―――

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「それじゃあ、タツヤの中学入学を祝って…」

 

「「カンパーイ」」

 

「うおっしゃー!!!!今日は飲むぞー!!!」

 

夜―――

鹿目家では朝食の時言っていた通り、タツヤの中学校入学祝いが行われていた。

 

朝知久が作った料理を温め、更には詢子の為にと酒と肴を用意している。

その様子は子供の入学祝には少し豪華すぎるようにも見えた。

 

それだけ、知久達が今日という日を楽しみにしていたということだろう。

最も、詢子はただ酒を飲みたいだけのようにも見えるのだが…。

 

「・・・・・・・」

 

しかし、一方で主役である筈のタツヤは…何処か浮かない顔をしている。

 

両親2人と違って、そのテンションは低く…当の集約が一番場違いであるようにも見えた。

 

「どうしんだい、タツヤ。あんまり嬉しそうじゃないね?」

 

「・・・あ、いや…そんなことないよ父さん」

 

タツヤのその姿を、知久は不思議に思う。

 

「そう?学校から帰ってきてからずっと難しい顔をしているよ」

 

「ひょっとして学校で何かあったかい?」

 

知久の言う通り、タツヤは自宅に帰ってきてからというもの…ずっと何か考え事をしている。

両親が何を話しかけても、曖昧な返事ばかりを返し…心此処にあらずであった。

 

中学校で何か嫌な事でもあったのではないかと、知久は父として彼の事を心配する。

 

「そんな事ないって。あ、ああ腹減ったー!!いただきまーす」

 

しかし、実際はそうではない。

家に帰ってきた後も、タツヤの頭の中は夕方の河川敷での出来事で一杯になっていたのだ。

 

少年は…考える。

河川敷であったあの女性――――彼女は子供の頃に出会った、あの女性なのではないかと

 

『やっぱり、そっくりよ』

 

夕方のあの言葉から考えて、彼女があの時の女性であることはほぼ間違いないだろう。

 

だが、そうだと思うと同時に…タツヤの中ではある疑念が生まれていた。

 

「…いくらなんでも若過ぎないか?」

 

そう、タツヤの頭を悩ませていた原因…それは、彼女の容姿だった。

なぜなら、少年が彼女に会ったのはもう10年も前の話なのだ

 

タツヤも今年で13歳になる。

必然的に彼女もそれ相応の年になっている筈だ。

仮に当時その女性が学生だったとしたら、最低でも20代にはなっているだろう。

 

しかし、彼女の外見はどう見てもタツヤと大して変わらない。

 

確かに、世の中には年を重ねても外見が変わらない人はいる。

だが、彼女の場合…それとはまた違った印象を受けていたのだ。

 

まるで、年齢を一切とっていないような…

なんにせよ、彼女の事をもっと知りたい…そして、聞きたいことがある。

 

そう、タツヤは考える。

 

「もう1度、あそこに行けば…」

 

とにかく、もう1度あの河川敷に行ってみようとタツヤは心に決める。

 

考えているより、もう一度彼女に会って…直接聞いたほうが早いと、彼は考えた。

 

「『まどか』のことも聞いてみないとな・・・」

 

彼女は『まどか』について絶対何かを知っている。

分らないことは多いが、それだけは確かだと少年は考える。

 

長年自分の中で存在し続けてきた『まどか』―――

その正体が分るかもしれない。

 

そんな期待にタツヤは胸を膨らませる。

 

「さて、そろそろ料理をいただくとしますか」

 

自分の中で夕方の事に決着を付けたタツヤは、料理に手を伸ばそうとする。

 

「なぁに、ひどりでぶづぶづ言っでんのよぉ~」ガバッ

 

「うおわ!?」

 

しかし、次の瞬間―――

タツヤの母である詢子が、後ろから彼に覆い被さる。

 

その手に…ビール瓶を握りながら…

 

「きょおぉはあんらのためのぱ~りぃなのよ~」

 

「もっろたのしみならいよぉ~」ウェヒヒヒ

 

「うわっ酒くせっ!!飲み過ぎだろ!!」

 

詢子は酒癖が悪い、とにかく悪い。

酔っ払うとそれが赤の他人だろうが家族だろうが、所構わず誰かに絡んでくる。

 

自分の会社の飲み会で大暴れしたという話をタツヤ達が聞いたのも一度や二度ではなかった。

 

「こんらのまらまら序の口よぉ~」

 

「ほら~あんらものみなさい~」グイッ

 

詢子はそう言って、持っている瓶を口に運びぐびぐびとビールを飲む。

 

そして、あろうことかまだ中身のあるその瓶を、タツヤへと差し出した。

 

「飲むか!!俺はまだ未成年だ!!」

 

「らいじょうぶらいじょうぶ~ばれなきゃいいのよぉ~」ギャハハ

 

「何言ってんだあんた!?」

 

自分の息子に法を犯せという母もまた珍しい。

 

「あによ~あらしの酒がのめないっていうのかバカヤロー」

 

「うぅ・・・と、父さーん」

 

「あはは、頑張れ~タツヤ」

 

お酒のせいで真っ赤になった顔をタツヤに近付けてくる詢子。

タツヤは自らの父に助けを求めるも、知久は何故か笑って見ているだけであった。

 

2人の微笑ましい(?)やり取りを、遠くからただただ眺めているだけであった。

 

「ング・・・ぷはっ、たくよ~どいつもこいつも~」

 

「もっとテキパキじごとしろっつんだよ~」ヒック

 

タツヤに絡んできたと思いきや、今度は全く関係ない会社での愚痴を言い始める。

仕事が遅い、指示してやらないと何も出来ない、外面ばかり気にしている

 

などなど、詢子は息子の肩を抱きながらそんな発言ばかりを繰り返した。

タツヤは「こうなったら長いんだ」と言うかのように、大きく溜息を付く。

 

息子に渡そうとしていたビールは、結局詢子が全て飲み干してしまった。

 

「うおい、なかざわ~。でめ~いつまでおなぢちゅういされればぎがすむんだおら~」

 

「いづまでもじんじんじゃねぇんだぞ~」グイグイ

 

「ええい、離せ!! そして俺はなかざわじゃねぇ!!」

 

とうとう詢子は自分の息子を社員と勘違いし始め、タツヤの襟元を掴み説教を始める。

 

タツヤはそんな母親を必死に引き剥がそうとするが、中々離れない。

詢子も学生時代は弓道部で慣らしていたせいか、一般女性よりも力が強い。

 

中学生になったばかりのタツヤでは、酒が入って力の加減が出来ない詢子を引き剥がす事は出来なかった。

 

「(ていうか、確か俺の入学祝いだよな・・・)」

 

「おおう、なかざわ~はやくつぎのさけもってこい~」

 

「もう、なんでもいいや・・・」

 

タツヤはとうとう諦め、詢子にお酌しながら彼女の愚痴を永遠と聞き続ける。

 

その後も、タツヤの中学校入学祝いのパーティーの時間は酔っ払いの介護に費やされるのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「飲みすぎた・・・」オェ

 

「自業自得だ」

 

あの後、詢子は思う存分騒いだ挙句…ソファーで大きないびきをかいて眠ってしまった。

 

そして、パーティーがひと段落付き、タツヤ達が後片付けをしている頃に彼女は目を覚ます。

眠ったせいか酔いが覚めたらしく、テンションはいつも通りに戻っていた。

しかし、起きた詢子の顔は真っ青になっており…節々が痛いとでも言うように、身体を引きずっている。

他にも、吐き気を催すなど…明らかに調子がいつも通りではない。

 

それは、完全に二日酔いの症状であった。

 

「み、水…」

 

「…ったく、ほら」

 

タツヤは先程とは違う意味でソファーで寝込んでいる母に水の入ったコップを渡す。

 

「悪いね…」ング

 

「…なんかすげー疲れた」ハァ

 

詢子は渡された水を一気に飲み干すと、そのまま再度眠りに付く。

その様子を確認し、タツヤも近くに腰を下ろすとふぅと溜息を付いた。

 

タツヤの中学校入学祝いだというのに、結局本人が一番働いたような気がする。

彼が溜息を付きたくなる気持ちも、分らなくはなかった。

 

「はは、お疲れ様タツヤ」

 

タツヤがソファーに寄り掛かっていると、残飯の後始末をしていた知久が近付いてくる。

 

ミルクの入ったコップを渡し、自らの息子に労いの言葉を掛けた。

 

「全くだ、誰かさんが俺に全部押し付けたが為にこんなことに」

 

「は、はは・・・まぁそう言わないでよ

 

「ママもきっとタツヤと喋りたかったんだろうし」

 

知久はそう言って苦笑いを浮かべる。

 

確かに、詢子はもう何か月も前から仕事に休みをいれていた。

それだけ、タツヤの晴れ舞台である今日という日を楽しみにしていたという事だろう。

 

いつもよりテンションが上がってしまっても、仕方がないのかもしれない。

最も、後半は完全に会社の愚痴になってしまっていたが…

 

「うぅ、駄目だ・・・気持ち悪い・・・」

 

そこで眠りに付いていた詢子が、再び呻き声を上げ始める。

 

彼女の顔はますます青くなり、更には手を口に当て…今にも食べた物を戻してしまいそうになる。

 

「大丈夫、ママ?二日酔いの薬飲んでおく?」

 

「おぇ・・・うん、その方がいいかも・・・」ウップ

 

流石にマズいと感じたのか、滅多なことでは弱音を吐かない詢子が薬を求める。

 

いくら今日がめでたい日だとしても、明日は平日だ。

流石の詢子も、明日は会社を休むわけにはいかないのだろう。

 

「あれ?まいったな・・・薬切らしちゃってるよ…」

 

しかし、詢子が普段からあまり薬を飲まないせいか…知久が取り出した救急箱の中には、酔い止めの薬が無かった。

 

「タツヤ、悪いんだけどちょっと買ってきてくれないかな?」

 

「えぇ~」

 

父にお使いを頼まれ、露骨に嫌そうな声を出すタツヤ。

 

最早、自分の入学祝いは関係なくなっていると…少年は今日何回目かの溜息を付いた。

確かに、後片付けや酔いつぶれた人間の世話は、パーティーの主役がやる仕事ではない。

 

「わかったよ。じゃあちょっと近くのドラッグストアまで行ってくる」

 

しかし、タツヤは「しょうがないな」と一言呟くとゆっくりと立ち上がる。

 

なんだかんだ言っても、タツヤも母の事が心配なのだろう。

 

「何だか悪いね・・・タツヤ」

 

「いいから、母さんは俺が戻ってくるまで大人しく寝てなさい」

 

「おぅ・・・了解・・・」オエ

 

詢子は余程体調が悪いのか、タツヤの言葉を大人しく聞きそのままソファーに横になる。

 

タツヤは父から財布の入ったポーチを受け取ると、外出するため部屋着に上着を羽織る。

外出する準備を整えると、タツヤは玄関に行き靴を履いた。

 

「じゃあ、行ってくるから。母さんを見ててよ」

 

「分かった。タツヤも気をつけるんだよ」

 

「はぁ~い」

 

知久に返事をして、タツヤは玄関を出る。

 

そして、少年はそのまま近くのドラッグストアに向かって駆けていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ありがとうございましたー」

 

「全く、世話の掛かる…」

 

15分程経った後だろうか

 

タツヤは近くのドラッグストアで薬を購入し、店を出る。

途中、酔い止めの薬がどこにあるのか分らず店員に聞く事になったが、そこまで時間が掛かることは無かった。

 

「ふぅ~、4月になったとはいえ、まだまだ寒いな・・・」

 

再びタツヤが外に出ると、彼の顔に冷たい風が当たる。

 

入学シーズンのこの季節、夜の気温はまだまだ低く…上着を着ていてもまだ肌寒く感じる。

本格的に暖かくなるのは、もう少し先になるだろう

 

「こんなに寒くても、桜は綺麗に咲くんだな」

 

タツヤが歩く道中には、春という季節を尊重する桜の木が並んでいる。

 

桜はこの肌寒い気温の中でも満開に咲いており、夜の見滝原を綺麗に彩っている。

その様子は、何処か儚げで…神秘的な美しさを醸し出していた。

 

「よし、早く帰ろ」

 

今日は色々なことがあったせいか、正直もう眠い。

帰ったら暖かいお風呂で体を温めて、早く寝てしまおう。

 

そんな事を思いながら、タツヤは白い息を吐きながら足早に帰り道を歩く。

 

「って、あれ?」

 

しかし――――

店から出て少し歩いた時だった。

 

タツヤが目の前の住宅街で、奇妙な現象を目の当たりにしたのは…

 

「…霧?」

 

そう、帰り道の先に…妙な霧が発生していたのだ

 

余程濃い霧なのか…タツヤが目を細めるも、中の様子を確認することが出来ない。

辺りを見渡してみると、霧は住宅街を全て覆いつくしていた。

 

「来るときはこんな霧出てなかったぞ…?」

 

寒いせいだろうか・…とタツヤは首を傾げる。

しかし、いくら寒いとはいえ…霧が発生する程気温は低くはない。

 

目の前の現象を不思議に思い、タツヤは帰り道を進むことが出来ず…その場で途方に暮れてしまう。

 

そして、そんな時だった―――

 

 

――――――――――ズキッ

 

 

「痛っ!!」

 

タツヤが夕方の時と同じように、激しい頭痛に襲われたのは―――

 

「やばい、こりゃ本格的に風邪かも…」

 

タツヤは自分を襲う頭痛に顔を歪め、頭を手で支える。

 

とにかく、今日は早く帰ろう…そんな事を考えながら、少年は再び目の前の霧に視線を向けた。

 

「まぁ、家までは一本道だしこの中を突っ切れば大丈夫だろ」

 

いつまでもこんな所にはいられないと、タツヤは家に帰るために霧の中に入ろうとする。

 

だが―――

 

 

――…め――

 

「ふぇ?」

 

――それに近づいたら…!!!!!――

 

「え、今声が聞」

 

 

ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!

 

「え!?うわあ!?」

 

 

次の瞬間――――――――霧の中から突風が吹き荒れ…タツヤを襲う

 

タツヤは突風に耐えきれず、その霧に吸い込まれるように中に引きずられていく。

 

そして、途中脳内に聞こえた“不思議な声”とは裏腹に、その霧の中に巻き込まれていくのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…ん、んぅう…」

 

突然吹かれた突風によって、タツヤは気を失っていた。

 

「あれ?此処は…」

 

そして、気が付いた頃にはタツヤは既に霧の中にいた。

まだ自分は霧の中に入っていなかった筈なのにと、タツヤは不思議に思う。

 

少年は、まだ気付いていなかったのだ。

自分がこの霧に飲み込まれてしまったということに…

 

「霧が…」

 

タツヤは立ち上がり、周りの状況を確認する。

 

辺り一面には先ほどの霧に覆われており、数メートル先すらもまともに見ることが出来ない。

自分が今どこにいるのかすらも分からない、そんな状態であった。

 

「…にしても何だ、この霧…」

 

「う、気持ち悪い…」

 

タツヤは霧の中の不気味な雰囲気に、一種の嫌悪感を覚える。

中に入ってみて初めて分かるが、その霧は自然に出来たにしては…あまりに不自然であった。

 

少年の視線の先には霧で何も見えないというより、そもそも何もないように見える。

まるで、その霧は街を覆っているというより、タツヤ1人を囲っているようであった。

 

「そう言えば、さっきの声」

 

そんな違和感を感じる雰囲気の中で、タツヤはふと先程聞こえた声の事を思い出す。

 

この霧の中に入ってしまう前に聞こえた声…

その声は、脳に直接呼びかけるような不思議な声で―――

 

「この霧に近づくなって」

 

霧に近付くタツヤを、呼び止めるように―――

 

 

ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛

 

「…!?」

 

「な、なんだ!?」

 

刹那―――

タツヤの周りで呻き声のようなものが聞こえる。

 

恐ろしい程に「悪意」に満ち満ちた…この世のものとは思えない怒号が辺り一面に木霊した。

 

「ウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

「なっ…!!!」

 

 

そして、少年は声を失う。

 

目の前に見たこともない…巨大な化け物が現れた事によって―――

 

「う…嘘…だろ…なんだよ…こいつ…」

 

巨大な化け物は…人の姿をしており、その身体をマントのようなもので覆い隠している。

顔と思われる箇所には目や鼻がなく、代わりに壊れた液晶画面のような映像が顔面に映し出されている。

 

その化け物姿は、明らかに常軌を逸した“異常”そのものであった―――

 

 

「ア゛ー・・・ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」

 

 

化け物はゆらゆらと動きながら…タツヤに近付いていく。

 

 

グオォン!!  ドゴッ!!!!

 

そして次の瞬間、そのマントの中から触手みたいなものが飛び出てくる。

触手は真っ直ぐタツヤへと向かい、そのまま彼に襲い掛かろうとする。

 

「いっ!?う、うわあ!?」ドサッ!!

 

タツヤはとっさの判断で横に跳び、触手を辛うじて避ける。

 

「いたた…、どうなってんだよ…」

 

しかし、横に飛んだ拍子に体制を崩し…尻餅を付いてしまう。

 

隣を見ると触手は地面に突き刺さっており、道路のコンクリートは粉々に砕いている。

 

こんなものをまともに喰らってしまったら、人の身体などひとたまりもないだろう。

 

「お…おい、今明らかに俺を狙って…」

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」ビュン!

 

 

「わぁっ!!」ザッ!!

 

 

タツヤが言葉を言い終える前に、化け物は再び触手を彼に向けて伸ばす。

身体を無理矢理動かす事で、タツヤはその触手をなんとか回避する。

 

そう…少年の言っている事は間違いではなかった。

この巨大な化け物の標的は、タツヤ自身だったのだから…

 

「は、はは…冗談きついぜ…」

 

 

そう言って、タツヤは頭を抱えながら…ふらふらと立ち上がる。

しかし、目の前の光景に少年の足は震え、まともに言う事を聞いてくれない状態であった。

 

逃げたくても逃げられない現状を目の当たりにして、少年は懇願する

 

夢なら覚めてくれと…

 

――――――――――ズキッ

 

だが―――

 

そんなタツヤの願いとは裏腹に…

 

まるで、夢ではないのだと宣告するかのように…タツヤの頭を割れるような痛みが襲う。

 

「っ痛…!!」

 

「な…また…!!」

 

「こんな時に…クソッ」

 

タツヤは自分を襲う痛みに顔を歪め、頭を抱えながら膝を付く。

 

 

――――――――ズキッ――――――ズキッ―――――ズキッ

 

その痛みは、まるでこの化け物に反応しているかのように…どんどん酷くなっていく。

 

「が…あ…!!!」

 

「あ、頭が…割れそうだ…!!」

 

あまりの激しい痛みに、少年は目も開けていられない。

 

背中には嫌な汗をかき…化け物に向けていた視線も、思わず反らしてしまった。

 

「ウ゛ッァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」ビュゥゥウン‼

 

だが、タツヤが見せたその一瞬の隙を…この化け物は見逃さなかった。

 

「…!!」

 

「し、しまっ」

 

 

 

 

 

ドゴッ!!!!ガン!!!

 

「が…は…っ」ゴファッ!!!

 

 

べチャ…

 

 

 

頭痛に気を取られていたタツヤは、化け物の攻撃をまともに受けてしまう。

触手は少年の身体をいとも容易く貫き、そのまま少年を地面へと叩きつける。

 

そして、地面に叩きつけられたタツヤは傷口と口から大量の血を吐きだし、その場を鮮血に染める。

 

 

「あ…が…ぁ…」

 

 

気の遠くなるような痛みが、少年を襲う。

 

体の中の骨という骨全てが砕かれたような…そんな感覚が少年を襲う。

 

「ごふっごふっ」

 

「…はぁ…はぁ…」

 

本当に骨が折れているらしく、タツヤは指一本すら動かせずにいた。

 

 

「ア゛ア゛ア゛…ア゛ア゛…」

 

 

そんな絶望的な状況の中で、化け物はタツヤへと近づいてくる。

どうやら、少年にとどめを刺すつもりでいるらしい。

 

その事が分かりながらも、タツヤは体を動かす事が出来ない。

あまりの痛みに、意識も遠のいくほどであった。

 

 

 

 

「(…俺…死ぬのかな…)」

 

遠のいていく意識の中で、少年は想いを巡らせる。

 

「(こんな化け物に…殺されるのか…)」

 

自分は、此処で死んでしまうのかと―――

 

まだ…やり残した事、やりたい事が山ほどあるというのに―――

 

まだ…自分の親の半分も生きてないというのに―――

 

これが、自分の歩む道なのか…

 

これが…自分の『運命』なのか、と――――

 

 

――――ピシ…――――

 

 

まだ…『まどか』の事も、あの赤リボンの女性の事も…何も分かっていないというのに―――

 

様々な想いが、走馬灯のようにタツヤの中を駆け巡る。

 

 

「(嫌だ…)」

 

 

まだ、死にたくない。

 

そんな『運命』に、従いたくはない。

 

少年は…そう、心の中で懇願する―――

 

 

―――――ピシ・・・ピシピシ――――

 

 

その時だった―――

 

 

―――――ビキッ!!!――――

 

 

少年の中で、ある変化が起こったのは―――

 

 

「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

タツヤが全てを拒絶するように…雄叫びを挙げる。

 

その声は。霧によって作られたこの世界全体に響き渡り、大地を震わせる。

 

バァァァァバアアアアアアアアアアアアアア‼‼

 

更に、雄叫びを挙げる少年に反応するように―――

 

タツヤの周りを…不思議な光が覆う。

 

その光は、化け物がタツヤへ向けた触手を全て弾き飛ばす。

 

まるで、タツヤを守るように…

 

「ア゛…?」

 

そして、タツヤを覆ていた謎の光は…彼から離れ、目の前にいる化け物へと近づく。

 

「ア゛ア゛、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!」

 

バシュゥゥゥゥゥゥン…

 

その光が化け物に触れた瞬間――――化け物は突如として苦しみ始める。

 

そして、化け物は一瞬にしてこの世から消え去るように…消滅してしまうのだった。

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

化け物を消し去った当の本人はというと、その状況に直ぐには気付かずにいた。

 

息を切らし、身体を襲う痛みに耐えながら…目の前の状況を確認する。

 

 

「あ…れ…?」

 

そこでようやく、タツヤは目の前の化け物が消えてしまた事に気付く。

 

なんで…どうして…と、ボロボロになった身体を引きずりながら少年は疑問に思う。

 

この少年は…まだ気付いていなかったのだ。

自分が、目の前の化け物を消し去ってしまったという事に…

 

自分には、不思議な力があるという事に―――

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・助かった…」

 

一先ず、最悪の事態だけは避けられたのかと…タツヤは少しだけ安堵する。

 

だが、その安堵も長くは続かない―――

 

 

「ア゛ア゛…ア゛ア゛ア゛…」

 

「ア゛ア゛「ア゛ア゛…ア゛ア゛ア゛…」…ア゛ア゛ア゛…」「ア゛「ア゛ア゛…ア゛ア゛ア゛…ア゛」

 

 

「!?」

 

「なっ…‼‼」

 

タツヤの後方から…化け物が、複数出現する。

 

「まじかよ…はは…」

 

先程と同じ化け物が、今度は自分に群がるように複数現れる。

 

そんなあまりに絶望的な状況の中で、少年は恐怖を通り越して…笑みさえ浮かべてしまう。

最早、化け物に受けた傷の痛みさえ感じなくなるほどに、少年の心は…沈んでいく。

 

『絶望』という―――底なしの暗闇の中へと…

 

「…神、様」ボソ

 

それでも、タツヤは暗闇の中から必死に手を伸ばす。

 

暗闇へと堕ちても…ほんの少しだけ見える小さな光を掴もうと…

 

『救済』という…『絶望』から『希望』へと導く、その光を――――

 

 

――――――――――――――――ビュン、グサ

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!!!!」バシュゥゥン…

 

「…え?」

 

タツヤの意識が完全に消える前の事だった。

 

何処からともなく紫色に輝く矢が現れ、そのまま化け物の一体を貫く。

 

そして、身体を貫かれた化け物は…タツヤの前から消滅してしまう。

 

 

「消えなさい」

 

 

ビュン、ビュン、ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュン

 

 

「ア゛ア゛ァァァァァ!!!!!!」「ア゛ア゛゛ア゛ァ!!!!!!」「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!!!!」

 

 

何処からか…声が聞こえてくる。

その声とほぼ同時に、化け物達に向け…矢の雨が降り注いだ。

 

全ての化け物は、その矢の嵐によって次々と消滅していった。

 

「…ハァ…ハァ…だ、誰…?」

 

 

タツヤは再び意識が薄れていく中、声の主を確かめようと声の聞こえた方角へと視線を向けた。

 

声の主は、一歩ずつ少年へと近付き…その姿を露わにする。

 

 

「…」

 

「…え、あな、た…」

 

しかし、そこに立っていたのは―――

 

「夕…方…の…」

 

 

そう、タツヤの前に現れたのは――――――――夕方会ったあの少女であった

 

夕方タツヤと会った時とは違う服装で、背中に黒い羽を生やして…

その女性はタツヤの目の前に立っていたのだ。

 

そして、タツヤの意識は…そこで途絶える――――――

 

 

 

 

 

 

「大丈夫」

 

 

「あなたは、私が守る」

 

 

「絶対、守るから」

 

 

少女は少年を地面にそっと寝かせ、化け物達へと立ち向かう。

 

この少年を…守る為に―――

 

最愛の友人の面影を残した、この少年を――――

 

友人が残した“本当の奇跡”である、この少年を―――

 

 

この少女と、少年との再会が…この見滝原に新たな物語を紡ぐ事になる。

その事を…この2人は、まだ知らない。

 

 

第1話「あれから10年...」  fin

 

 





【次回予告】


「知ってるか、と聞かれれば…」



「…知ってるわ」



「まどかは…」



「まどかは、私の友達よ」



 第2話「わたしの、最高の友達」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。