魔法少女まどか☆マギカ~After Ten Years of History~   作:イデスツッラ

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第3話「それぞれが歩んだ、それぞれの道」chapter 2

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

そして、舞台はゆま達のいる瘴気内へと戻る。

 

そこでは、ゆまと魔獣の戦いが続けられていた。

人型の魔獣はその身体に白装束のようなもの羽織り、自分の手や足を隠している。

 

―――芸術の魔獣 呪いの性質は『美欲』―――

 

「ウア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

 

魔獣は自分に向かってくるゆまに対して雄叫びを上げ、勢いよく彼女へ襲い掛かる。

 

白装束のマントの下から、巨大な手を出現させ、ゆまへと振り降ろす。

そのまま魔獣は、彼女を押しつぶそうとする。

 

「よっと」ヒョイッ

 

しかし、ゆまはその場から飛び上がり、その攻撃を紙一重でかわす。

 

「遅いよ」ダッ

 

そして、魔獣が振り下ろした腕の上に着地すると、そのまま腕を渡り魔獣の顔の部分へと一気に到達する。

 

「じゃあ…」

 

「お返し!!!」ブンッ!!

 

ドギャッ!!

 

ゆまは、魔獣の首から上を弾き飛ばすように、その手に持つ大きなハンマーでスイングする。

 

彼女の攻撃は、手を伸ばしたままで身動きが取れない魔獣に綺麗に当たった。

 

「ア゛ァア゛ァ…」ズザァァァアア、ドンッ

 

攻撃をまともに受けた魔獣は、顔が跳ね上がり斜め後ろへと豪快に吹き飛ぶ。

 

後ろの建物に激突し、破壊された建物の瓦礫に埋もれてしまった。

魔獣は、そのまま動かなくなってしまう。

 

「すげぇ…」

 

その一部始終を目撃したタツヤは、思わず感嘆の声を挙げる。

 

自分が恐れていた化物相手に臆することなく立ち向かう彼女が、少年は純粋に凄いと思ったのだ。

同時に、女の子に戦わせている自分が何処か情けなくも思えた

 

「ゆまはベテランだからね」

 

「あれくらいは当然だよ」

 

少年の言葉に反応するように、彼の肩に乗っているキュゥべえが声を発する。

 

タツヤはいつまでも自分の肩に乗っている珍獣に煩わしさを感じながらも、その言葉に耳を傾ける。

この光景が当然とは、自分が足を踏み入れた場所はとんでもないところだと再認識するのだった。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

ガッシャァァァァアアン!!!!

 

と、そこで瓦礫の山に埋もれていた魔獣は、その瓦礫を吹き飛ばし再び姿を現す。

 

そして、ゆまに視線を向け彼女を真っ直ぐ睨みながら立ち上がる。

 

「うげっ倒したんじゃ…?」

 

「ア゛ア゛ア!!!」ブンブン

 

瓦礫から出てきた魔獣は、タツヤが思ったよりもダメージを受けていなかった。

 

むしろ、先程よりも動きが活発になっているように見える。

 

「まぁ、アレで倒せたら苦労しないんだけどねぇ」

 

ゆまは魔獣の復帰は予想通りと言うように、既に戦闘態勢をとっている。

 

このような状況でも、彼女に油断している様子はない。

再び魔獣と対峙するゆま。張り詰めた空気が、タツヤ達にも伝わってくるようだった。

 

「ウウウア゛ア゛ア゛…」

 

魔獣はゆまに襲いかかることなく、その場で巨大な手を2本出現させる。

 

そして、その両手を地面に下ろし…魔獣は四足歩行の状態になった。

 

「ウ゛ウ゛ウ゛…」

 

魔獣はその場で不気味な呻き声を上げ続ける。

一向に、ゆまに向けて攻めてくる様子はない。

 

その姿はまるで、その身体に力を溜め込んでいるようであった。

 

そして―――

 

「ア゛ァア゛ァア゛ァア゛ァァァァァ!!!!」

 

バァァァァァアアアアア!!!!!!!

 

次の瞬間、魔獣はその口からゆまへ向けてビーム砲のようなもの放つ。

 

「いっ!?」

 

ビーム砲は真っ直ぐゆまへと向かってくる。

 

その攻撃は見たタツヤは、自分に向かってくる訳ではないのに、咄嗟に身体を守るような体制をとる。

 

「はあっ!!」ブン!!

 

ギュイン、ドーン

 

だが、ゆまはその攻撃に瞬時に反応し、手に持つハンマーを振り下ろす。

 

ハンマーは魔獣の撃ったレーザー砲に直撃し、そのレーザーを打ち消してしまう。

 

「うわ…」

 

レーザーの流れ弾が直撃した家の光景を見て、タツヤは思わず絶句する。

 

その建物は、直撃した部分からドロドロに溶けており…原型を留めてはいなかった。

あんな攻撃をまともに受けてしまえば、人間1人など跡形もないだろう。

 

「アレくらいの攻撃なら、ゆまの作った結界の中にいる僕達は平気だよ」

 

「うぇ、本当かよ」

 

「本当さ、ゆまもそう言っていただろう?」

 

キュゥべえは何も心配はいらないと、タツヤに言う。

 

確かに、ゆまも少年にそう話していた。

だが、それでもやはりタツヤは反射的に身を守ろうとしてしまう。

 

自分を襲ってきた魔獣とは、攻撃の仕方がずいぶん違うなと少年は思う。

確かにあの時は、あんな巨大な腕は出さなかったし、レーザー砲を撃つことも無かった。

 

やはりキュゥべえの言ったとおり、姿形は似ていても魔獣によって違うものなのだと、タツヤは思った。

 

「ア゛ァア゛ァア゛ァア゛ア゛ァア゛ァア゛ァア゛ア゛ァア゛ァア゛ァア゛」

 

バンッ!!バンッ!!ババンッ!!!

 

タツヤがそんな事を考えている内に、魔獣は攻撃を繰り返す。

 

レーザー砲を一発だけではなく、がむしゃらに何発、何十発と連射する。

その攻撃は、ゆまだけでなく彼女の周りの建物も破壊していった。

 

「えいっ!!」ブンブン!!

 

ゆまは魔獣の攻撃全てを打ち返そうとはせず、自分に当たりそうなもののみを防いでいく。

 

ハンマーで自分に向かってくるレーザーを悉く弾き飛ばしていった。

 

ドン!!ドン!!ドドン!!

 

「おわっ!!!」

 

彼女が打ち返さなかった流れ弾は、尚も周りの建物を破壊していく。

そして、その攻撃はタツヤのいる場所にも此方にも飛んでくる。

 

ゆまが作った結界のおかげでタツヤ達に直接当たることは無かったが、少年にとっては何とも心臓に悪い光景だった。

 

「ゆま、相手の魔獣は遠距離攻撃を主体としてるみたいだ」

 

「物理攻撃じゃ不利だよ」

 

タツヤと同じく結界で身を守っていたキュゥべえは少年の肩から降り、ゆまに声を掛ける。

確かに、あんなに弾幕が凄かったら、ゆまは迂闊には近付けないだろう。

 

ゆまが持っているハンマーでは、相性が悪いのかもしれない。

 

「じゃあ、こっちも…!!」

 

だが、ゆまはそんな事を言われても焦るような素振りを見せない。

その顔にはまだ幾分かの余裕が見られる。

 

彼女はその場で身体を捻ると、その状態でハンマーを構える。

 

「いけぇ!!」

 

―――波動撃―――

 

ブオォォォン!!!

 

そのまま、ハンマーを思いっきりスイングする。

 

すると、そのハンマーは津波のような衝撃派を作り出す。

その衝撃派は、地面を這って進み魔獣へと向かっていく。

 

ズザァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

 

その衝撃波は前へ進むにつれて、徐々にスピードと大きさを増していく。

 

魔獣はその衝撃波を打ち消そうと砲撃を続けるが、その全てをその衝撃波はかき消していった。

 

ドォォォォォォォオオオオオオン

 

「ウ゛ア゛ァア゛ァア゛ァ…」

 

衝撃波はそのままヒットすると、その魔獣にかなりのダメージを与える。

 

魔獣の身体を支えていた巨大な手の片方が、その衝撃波によって消し飛んでしまう。

バランスを保てなくなった魔獣は、その場に崩れ落ちた。

 

「おぉ、化物が崩れ落ちたぞ!!」

 

タツヤは興奮しながら、声を荒げる。

 

ゆまと魔獣が戦っている光景は、少年にとって見れば三流アクション映画なんかよりも何倍も迫力があった。

 

「ゆまの衝撃波攻撃は強力だからね」

 

「まあ、あれくらい当然だよ」

 

興奮気味の少年とは対照的に、隣にいる珍獣は冷静だった。

 

あくまでも当然であると言い切り、目の前でどんな事が起きようとも決して動じることはなかった。

 

「よっと」ヒョイ

 

「え」

 

そんなキュゥべえの態度が気に入らなかったのか、タツヤはキュゥべえの両耳を掴み、そのまま持ち上げる。

 

「な、何をするんだい?」

 

「すましてねーでお前も戦ってこいっ!!!」ガッ!!ブンッ!!

 

「ちょ」キュプーイ、ゴン!!

 

そして、少年はキュゥべえはゆまが戦っている方向へと思いっきり投げつけた。

 

だが、キュゥべえはゆま達の場所に到達することなく目の前の結界にぶつかる。

珍獣は、そのままズルズルと下に落ちていく。

 

その光景を見て、タツヤは少しだけ気が晴れたような気がした。

 

「たぁ!!」ブン!!

 

「ア゛…ア゛ァア゛ァ…」

 

タツヤとキュゥべえがそんなやりとりをしている間も、ゆまは魔獣と戦い続けていた。

 

いつの間にか魔獣は身体のあちこちが破損し、今にも倒れそうになっている。

魔獣との戦いは、ゆまの優勢で進んでいた。

 

「おい、お前のせいで良い所を見逃したじゃねーか」

 

「それは、僕のせいなのかい…?」ムク・・

 

タツヤは珍獣にゆまの戦いを見逃したと文句を言う。

こんなやりとりが出来るということは、ある意味タツヤもこの状況に慣れてきたということだろう。

 

しかしタツヤは、今はこの珍獣の相手をしている場合じゃないと、再びゆま達に視線を向ける。

 

「これで」

 

「おしまい!!」

 

ドゴン!!!

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!!!」

 

ゆまはトドメを刺そうと、魔獣の目の前でハンマーを振り下ろす。

 

ボロボロになった魔獣に彼女の攻撃を防ぐ術はなく、そのまま地面にめり込むように崩れ落ちていった。

 

サァァァアアア…

 

魔獣はそのまま動かなくなると、身体は砂のようになり崩れ去っていく。

そして、魔獣は彼女達の前から消滅した。

 

「や、やった…」

 

タツヤは、彼女が本当に化け物を倒してしまったことへの驚き。

そして、ようやく終わったのだという安心感で胸の中がいっぱいになる。

 

そう、これで…ようやく終わったのだと――――――

 

「終わっt」

 

「まだだよ」

 

だが―――

 

「えっ?」

 

戦いは、まだ終わってはいなかった。

 

「ウ゛ア゛ア゛…ア゛ァア゛…」

 

「ウ゛ア゛ア゛「ア゛アァ…ア゛アァア゛…」…ウ゛ア゛ア゛アァ…」「ア゛「ア゛ア゛…ア゛ア゛ァア゛…」ア゛ァ「ア゛アァ…ア゛アァア゛…」…ウ゛ア゛ア゛アァ…」「ア゛「ア゛ア゛…ア゛ア゛ァア゛…」ア゛ァ」

 

「うげっ!?」

 

タツヤが少しだけ安心した、その時――――

 

消えた魔獣の後ろから、同じような姿をした魔獣が何体も出現した。

 

その光景は、タツヤが魔獣に襲われたあの時と全く同じ様であった。

 

「また、増えやがった」

 

現れた魔獣の群れは、ざっと見ただけでも10匹は超えているだろうか。

 

タツヤは、その数を見て勘弁してくれと心の中で溜息を付く。

彼が戦っているわけではないが、あの数全てを相手にしなければならないと思うと、そう考えずにはいられなかった。

 

「一体じゃないとは思っていたけど…」

 

「ちょっと多いなぁ」ハァ・・

 

この数は予想外だったのか、ゆまも思わず溜息をつく。

 

「おかしいな…この瘴気の規模で、これだけの魔獣がいる筈ないんだけど…」

 

珍しくキュゥべえも首を傾げるようにして呟く。

 

確かに、此処に入る前この珍獣は「大したことない」と話していた。

だが、予想は外れ…この場所には魔獣が集まってきているようであった。

 

「ウ゛ア゛ア゛「ア゛アァァア゛…」…ウ゛ア゛ア゛アァ…」…ア゛ア゛ァア゛…」ア゛ァ「ア゛ァア゛…」…ウ゛゛アァ…」「ア゛「ア゛ア゛ァア゛…」ア゛ァ」

 

魔獣の群れは、どんどんタツヤ達の方角へと迫ってくる。

 

その光景を見る限り、魔獣達は完全に彼等を標的としている。

1匹で駄目なら複数で襲えば、とでも言うかのように…

 

「ゆ、ゆまさん」

 

「大丈夫だって」

 

タツヤの言葉に対して、ゆまは未だに余裕の表情を崩さない。

その言葉にも慌てている様子は見られなかった。

 

しかし、だからといって…彼女に油断があるようにも見えなかった。

そのことが、タツヤを再び安心させるのだった。

 

「ちょっと魔力使うけど…」

 

「纏めて倒しちゃうから!!」ブンッ

 

ゆまはそう力強く宣言すると同時に、ハンマーを振り上げる。

彼女は自らの魔力を、武器であるハンマーに集中させ始める。

 

すると、そのハンマーが突然光り輝き…エネルギーのようなものが溜まっていく。

 

「せーのっ」

 

「それっ!!」

 

ドゴォォォォン!!!!

 

ゆまは自らの魔力を貯めたハンマーを力いっぱい振り下ろす。

 

そのハンマーは、魔獣ではなく真下の地面を思いっきり叩きつけた。

地面は彼女の攻撃によって、大きくひび割れてしまう。

 

ガ…ガガガ…

 

「おわっ!!??」

 

そして、突然地面が揺れ始め、タツヤは体制を崩す。

 

倒れまいと少年が踏ん張っていると、攻撃によってひび割れた場所から、魔獣の群れに向かって地面のひび割れが広がり始めた。

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!」

 

「ア゛ァア゛ァア゛ァア゛ァア゛ァ!!!!!」

 

「ウ゛ァァァアアア゛ァア゛ァア゛ァア゛ァア゛ァァァァアアア!!!!!!!!!」

 

地面の揺れは激しさを増し、ひび割れの規模はどんどん大きくなっていく。

 

そのひび割れは、やがて巨大な地割れとなって魔獣達を襲う。

 

前方にいた魔獣の群れは、その地割れに次々と飲み込まれていくのだった。

 

「今度こそ…やったか?」

 

「たぶん、ね」

 

魔獣の群れは、地割れによって出来た巨大な穴に一体残らず飲み込まれていく。

全ての魔獣は、彼女によって倒された。

 

ゆまは、ふぅと息を吐き額の汗を拭う。

あれだけの数を相手に怯むことなく、あっという間に倒してしまう彼女を見て、タツヤはただただ感心するばかりだった。

 

「ゆま、あれじゃあグリーフシードを回収出来ないよ」

 

「しょうがないよ、場合が場合だし」

 

「はあ、やれやれ…」

 

ゆまとキュゥべえはタツヤに視線を向けながら、話を続ける。

 

キュゥべえにいたっては、彼の事を見て溜息を付いていた。

 

「(何なんだよ一体…)」

 

その光景を見て、タツヤはわけもわからず首を傾げる。

 

「(てか、ぐりーふしーどってなんだ?)」

 

「ガ…」

 

「…え?」

 

しかし、そんなことを考えていると…タツヤは不思議な声を聴く。

 

「ガァァァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!」

 

ドゴォォォォン!!!!

 

「いっ!!??」

 

タツヤが何かうめき声のようなものを聞いたと感じた、その時――――。

 

地割れによって生まれた裂け目――――その場所から、今まで以上に巨大な化物が現れる。

 

「なんだよ…あれ…魔獣、か…?」

 

その化物は地割れの裂け目から上半身のみを出し、同じくらい巨大な両手でその身体を支えている。

化物は飲み込まれた魔獣達と殆ど同じ姿をしている。だが、その大きさが他の魔獣とは桁違いであった。

 

恐らく、先程の魔獣の数倍はあるだろう。

 

「うわ…嘘、でしょ」

 

「変異魔獣じゃん…」

 

流石のゆまも、かなり驚いている様子であった。

 

その巨大な魔獣を見上げながら、目を見開き声を上げる。

 

「へ、変異魔獣…?」

 

タツヤは彼女の言葉が気になりつつも、その魔獣に怯え後ずさりする。

普通の魔獣でさえ、タツヤとはかなり体格差があった。

それなのに、あんなデカい化物どうやって倒せばいいのかと…と、少年は困惑する。

 

「まさか、こんな瘴気の中に変異魔獣が存在するわけないよっ」

 

タツヤの隣に居たキュゥべえもまた、似たような反応をする。

この珍獣にしては珍しく、かなり焦っているような口ぶりだった。

 

「おい珍獣!!全然大したことなくねぇじゃねーか!!」

 

タツヤは両耳を掴んで持ち上げ、キュゥべえに抗議する。

 

話が違うじゃないかと、この珍獣に説明を求めた

 

「僕だって分からないよ。こんな魔獣、滅多に現れないんだからっ」

 

しかし、キュゥべえも混乱しているような声を上げ説明に要領を得ない。

いざという時にアテにならない珍獣だな、と少年は軽く溜息を付く。

 

だが、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

「ガァァアア!!」ブン!!

 

その巨大な魔獣は片方の腕を振り上げ、ゆまに向けて振り下ろす。

 

彼女を押しつぶそうと、魔獣の片腕は物凄いスピードでゆまの頭上を襲った。

 

カギンッ!!

 

グググ…バァン!!

 

「きゃあっ!!」ドゴン!!

 

ゆまは魔獣の攻撃を何とかハンマーで防ぐも、その反動で後ろに吹き飛ばされてしまう。

 

そのまま彼女は後ろの建物に衝突し、先程の魔獣のように瓦礫の山に埋もれてしまった。

 

「ゆまさん!!」

 

「いたた…参ったね、こりゃ」

 

一部始終を見ていたタツヤが、慌てて彼女に声を掛ける。

幸いゆまは無事であったが、その身体にはちらほらと傷痕が見られる。

 

彼女は余裕だというような口ぶりだが、先程までの戦いで少なからずダメージを受けていたのだろう。

 

「ゆ、ゆまさん大丈夫ですか?」

 

「へへ、コレ位余裕だって」

 

タツヤが心配するような声を上げるも、ゆまは余裕の笑顔を崩さない。

 

服に付着した土埃を手でパンパンと取り払い、足下のハンマーを拾い上げる。

そして、彼女はハンマーを両手で掴むと、自らの眼前に持ってきて再び祈るように目を閉じる。

 

―――継続活性―――

 

すると突然、ゆまの身体が光り輝いた。

それと同時に、彼女の身体の傷も消えていく。

 

それは女性の身体を治した時とは違い、時間を掛けて少しずつ傷を癒しているように見えた。

 

これも、恐らく治癒魔法の一種なのだろう。

 

「(う~ん、でもどうしよっかな…)」

 

「(アレ倒すには、生半可な攻撃魔法じゃ駄目だろうし…)」

 

ゆまは考える。どうやったら、この魔獣を倒せるだろうか…と。

少年が見てる手前、見栄を張りはしたが、この魔獣が強敵であることは事実だった。

 

バリアを張ってるとはいえ一般人が居る以上、あまり長引くような戦いは出来ない。

 

「(強力な奴、使いたいけど…)」

 

「そのためには魔力を溜めなきゃいけないし…)」

 

タツヤを巻き込まずにあの巨大な魔獣を倒すには、一撃で仕留める必要がある。

しかし、強力な魔法を使う為には…少しの間意識を集中させなければならない。

 

この魔獣は、自分にそのような時間を与えてはくれないだろう。

ならばどうするか、ゆまはこれまでの経験を活かし、様々な戦法を心の中でシミュレーションする。

 

「ガアア!!!!」ブンッ!!

 

「うわっと」ヒョイ

 

その間も、魔獣は続けて攻撃を仕掛けてくる。

 

ゆまはそれを全て紙一重で交わし、魔獣とある程度距離を取った。

 

「…うん、よし」

 

そして、何かを決意したかのように頷き、ふぅと息を吐く。

 

その時の彼女の表情は、今まで以上に真剣なものになっていた。

タツヤもまた、そんな彼女の表情を見て息を呑む。

 

「…頼むよ」スッ

 

ゆまは、首から胸元にぶら下げていた十字架のようなアクセサリーを額に当てる。

その行動がどういう意味を示しているのか、タツヤには理解出来ない。

 

それはゆまが自分自身に、何か祈りを捧げているかのように見えた。

 

「はぁぁああ!!!」

 

―――砂塵撃―――

 

ドゴォォォオオン!!

 

ゆまは、再びハンマーを地面に振り下ろす。

 

すると、今度は彼女を中心に…辺りの砂埃が豪快に舞い上がる。

砂埃はそのまま砂嵐のように変化し、彼女の姿を隠してしまう。

 

「ごほっごほっ…ゆ、ゆまさん…?」

 

タツヤはゆまの起こした砂嵐のせいで、思わず咳き込んでしまう。

その砂嵐は、少年達の眼前ですら全く見えなくなるくらい、辺り一面を覆い尽くした。

 

少年はゆまと魔獣、両者の姿を見失ってしまう。

 

「ガァァッァアアアアア!!!!!」

 

ブン!!ブン!!

 

視界不良の中、魔獣はその巨大な手を振り回し、砂嵐をかき消していく。

 

先程のゆまの攻撃は、視界を悪くするだけで攻撃としてはあまり効果が無いようであった。

 

「ゆまさんっ!!」

 

舞い上がった砂嵐は徐々に規模を収縮し、タツヤはその中心にゆまらしきシルエットを見つける。

 

その姿を見て、タツヤは思わず声を上げた。

 

「…」

 

しかし、戦いに集中しているのか、タツヤの言葉に対しゆまのの返事は無い。

 

「…」ヒュンッ

 

「ガアア!!!」

 

ブン!!ゴンッ!!

 

ゆまは再び魔獣と戦う為、真正面から近付いていく。

 

しかし、馬鹿正直に突っ込んだ為か…ゆまは魔獣に叩き落とされてしまう。

彼女の身体は、その拍子に思いっきり地面に叩きつけられた。

 

「ゆ、ゆまさん、大丈夫ですか!!」

 

「…」

 

大してダメージが無かったのか、ゆまは痛がる素振りも見せずただ黙って起き上がる。

 

しかし、タツヤの声が届いていないのか、彼女は少年に見向きもしない。

それどころか、無謀にも再び真正面から魔獣へと挑みかかった。

 

「ウガァァアアアアアアア!!!!」

 

ブブン!!ドゴッ!!ガンッ!!

 

当然のごとく、魔獣は再び叩き落とそうとする。

ゆまもまた攻撃を受け止めようとするが、体格差が違いすぎるためどうしても打ち負けてしまう。

 

その後も、彼女は魔獣の真正面からの攻撃を繰り返す。

途中で叩かれようが落とされようが、ゆまはまるで人形のように同じ行動を続けた。

 

「ち、ちょっとゆまさん!!それじゃあ身体が持ちませんよっ!?」

 

今の状況は『猪突猛進』といえば聞こえは良い。

 

しかし、これでは魔獣を倒す前に、ゆまの方が先に参ってしまう。

今の彼女の戦い方は、あまりに危険なものだった。

 

「おいキュゥべえ!!ゆまさんにテレパシーで何か言ってやれよ!!」

 

彼女の無謀な立ち振る舞いを見て煮え切らなくなったのか、隣にいるキュゥべえに声を荒らげるタツヤ。

 

「ゆま、君はもしかして…」

 

「おい!!人の話を聞けよ珍獣!!!」

 

しかし、珍獣は少年の言葉に耳を貸さず、ただただ戦況を見つめるばかりだった。

 

タツヤはそんな珍獣に憤りを感じつつも、ゆまの事が心配でその視線を彼女に移す。

しかし、その時だった―――

 

「ガアアアアアア!!!!」

 

ガシッ

 

「あっ!!!」

 

魔獣は何度も自分に向かって来ることに嫌気が差したのか、その両手でゆまを捕まえてしまう。

 

そして、魔獣はそのまま彼女を持ち上げ、自分の顔面付近まで近づける。

 

「だ、駄目だ!!ゆまさん、早く逃げ…」

 

「ガア!!!!!」

 

バアアアアアアアアア!!!!!

 

「っ!!??」

 

タツヤがゆまに逃げろと言おうとした時、魔獣はその顔面から巨大なレーザーを撃ち出す。

それは、先程まで魔獣が撃ってきたレーザーとは大きさが比べ物にならない。

 

魔獣の両手によって拘束されていたゆまは、その攻撃をまともに受けてしまう。

 

「あ…あ…」

 

タツヤは、その光景に言葉を失う。

 

それもそうだろう――――

魔獣の手の中にいた筈の、ゆまの姿が跡形も無く消し飛んでしまったのだから。

 

「そんな…ゆ、ま…さんが…」

 

タツヤは声を震わせる。

魔獣によって、ゆまは消し飛ばされてしまった。

 

一部始終を見た少年は、こう思ったのだろう。

ゆまが、魔獣によって殺されてしまった…死んでしまった――――と

 

「ゆまさぁぁぁぁぁぁああああああん!!!!!」

 

タツヤはその場に崩れ落ち、彼女の名前を叫ぶ。

 

しかし、そんなことをしても彼女の返事が返ってくることはない。

彼女はもう、この世にはいないのだから…。

 

だが、そうタツヤが落胆した時だった。

 

「呼んだー?」

 

この雰囲気には似つかわしくない緩い返事が、少年の耳に届く。

 

「…はい?」

 

もう聞こえる筈のない声が、自分の脳内に響いたとタツヤは間抜けな声を上げる。

 

一瞬、幻聴ではないかと自分の耳を疑う少年。

だが、この声は…そんな不明瞭なものではなかった―――――――――

 

「あーあ、やられちゃった」

 

「でも、残念」

 

「『はずれ』だよ」

 

魔獣に消し飛ばされた筈のゆまの声が、辺り一面に響く。

タツヤはその声の出所を探し出すべく、キョロキョロと視線を動かした。

 

そして、近くの高台にその視線を向ける。

すると、そこには―――

 

「『本物』はこっちだよ」

 

高台の頂上にて、巨大なハンマーを作り出していたゆまが…そこには居た。

 

「ゆ、ゆまさん…」

 

タツヤはゆまの姿を確認し、ホッとすると同時に疑問を抱く。

少年は確かに、あの魔獣に捕まって攻撃をまともに受けたゆまを目撃していたのだ。

 

逃げられる時間なんて無かった筈だと、少年は頭を悩ませる。

 

「幻覚魔法、か…」

 

「ふぇ?」

 

それまで黙って見ているだけだったキュゥべえが、ポツリとそう呟く。

 

彼女が使った魔法は、幻覚魔法―――

 

それは、魔力によって自らの分身を作り出し相手を翻弄する魔法。

かつて―――この見滝原で戦っていた魔法少女が得意とする魔法であった。

 

しかし、その事を知らない少年にとって、目の前で起きている出来事は全く理解出来なかった。

 

「ガァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

タツヤ同様、辺りを見渡していた魔獣は、やがて彼女を見つける。

 

すると、魔獣は自らの身体を裂け目から一気に押し出す。

魔獣はその巨大な腕と脚の四足で歩きだし、ゆまへと近付いていった。

 

「あ、やっと気付いた?」

 

「でも、もう遅いよ♪」

 

近付いてくる魔獣を、ゆまは余裕の笑顔で迎える。

 

それはまるで、自分の勝利を確信しているかのような微笑みであった。

 

「1、2、3」

 

「チャージ完了」

 

次の瞬間、ゆまの持つ巨大なハンマーが更に巨大化し始める。

そして、彼女のハンマーはあの魔獣すら覆い隠してしまう程の大きさへと変わった。

 

ゆまはその細い腕でハンマーを頭上に振り上げ、魔獣の頭上めがけて高台を飛び下りた。

 

「いけぇぇぇぇぇえええ!!!」

 

―――メテオインパクト―――

 

ドッゴォォォォォオオオオオオオオオオオオン

 

「ギガァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウン

 

ゆまは高台から落下するスピードを加えながら、思いっきりハンマーは振り下ろす。

その攻撃は魔獣の脳天に命中し、化け物を地面へと叩き付けた。

 

攻撃を受けた魔獣は、地面にめり込むように落下し、そのまま崩れ落ちていく。

 

カラン、コロン…

 

巨大な魔獣は先程の奴と同様、砂のようになって消えていく。

そして、その魔獣は小さくて黒いキューブのような物へと変化した。

 

「お、流石デカかっただけあってグリーフシードも大量♪大量♪」

 

ゆまはそれを嬉しそうに拾い上げ、服の中に仕舞い込む。

 

「…うへぇ」ヘナヘナ

 

一方でその光景を見ていたタツヤは、しゃがみ込むようにしてその場に崩れ落ちる。

腰が抜けたのか、あるいは緊張の糸が切れたのか、どちらにせよ足腰が立たなくなった様子だった。

 

無理も無いだろう。

魔獣に殺されたと思っていたゆまが、突然現れてそのまま魔獣を倒してしまったのだから。

驚くなという方が、難しい話である。

 

「はぁぁぁぁぁー」

 

「つっかれたぁー」バタン

 

ゆまはそう言って背伸びをした後、その場に腰を下ろす。

 

そして、仕事が終わったとでも言うようにそのまま大の字になって寝転んだ。

どうやら、戦いは終わったようだ。

 

「ゆま、さん…?」

 

「(大丈夫だよー)」

 

「(!?)」

 

タツヤが恐る恐る声を掛けようとすると、少年の脳に直接ゆまの声が響く。

 

恐らく、キュゥべえのテレパシーを使っているのだろう。

彼女の声を聴いて、少年はようやく戦いが終わったのだと再確認する。

 

「(あ、あの・・・)」

 

タツヤもゆまの見様見真似でテレパシーを使い、彼女に応える。

しかし、いざとなると何と声を掛けていいのか分からず、少年はしどろもどろになってしまう。

 

お疲れ様でした、とでも言えば良いのだろうか…と、タツヤは頭を抱えた。

 

「(ごめんねー、心配掛けちゃって)」

 

「(あ、いや…)」

 

心配を掛けた、とゆまは言う。

それは、恐らくあの魔獣との戦いを指しているのだろう。

 

あの時、タツヤはゆまが殺されたのだと勘違いして、思わず彼女の名前を叫んでしまった。

今更ながらその事を思い出し、タツヤは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする。

 

「(あ、あの…)」

 

「(ん?)」

 

「(…お疲れ様です)」

 

そして結局、タツヤは一番妥当だと思う言葉を彼女に向けて送る。

気恥ずかしそうにしていたものの、少年は

 

感謝や労いの気持ちはキチンと言葉にして相手に伝えなければならない。

 

という父の教えを守り、彼女に感謝の言葉を述べた。

最も、厳密に言えば今回は言葉ではなくテレパシーなのだが。

 

「(うん、ありがと)」

 

ゆまはそんな少年に満面の笑みを返す。

そのことで、ますます恥ずかしくなったタツヤは、思わず顔を背けてしまうのだった。

 

「(流石に魔力使いすぎちゃった)」

 

「(ちょっと休ませてねー)」

 

ゆまはその場で大の字になりながら、テレパシーで続ける。

 

やはり、あの巨大な魔獣相手にはかなりの魔力を消費したようであった。

余裕のある振る舞いをしつつも、彼女はギリギリの戦いを続けていたのだ。

 

「(…)」

 

そして、余程疲れたのか…ゆまはそのままテレパシーでも喋らなくなってしまう。

 

どうやら、眠ってしまったようだ。

 

パリィィン

 

「(あ、結界が…)」

 

彼女がしばしの眠りに付くと同時に、今までタツヤ達を囲っていた結界も消えてしまう。

 

この結界を維持するのにも、恐らく魔力を消費していたのだろう。

戦いが終わったということで、魔法も解除したのだろう。

 

「今度こそ、終わったんだよな?」

 

「恐らくね」

 

「でも、まだ瘴気が消滅しきってないから、油断しない方が良い」

 

タツヤの言葉に、隣に居たキュゥべえが応える。

 

戦いが終わった、それは確かだ。

だが、まだタツヤ達の周りには未だ不気味な瘴気が広がっている。

その状態が続いている以上、安心は出来ないとキュゥべえは言う。

 

「瘴気が消滅したらどうなるんだよ?」

 

「結論から言えば、元の空間に戻るね」

 

魔獣を倒した後もタツヤ達が居る場所に変化は無かった。

キュゥべえの言うように、まだこの場所に瘴気が充満している証拠なのだろう。

 

まだ魔獣がいるかも知れない、という事だ。

その話を聞いて、タツヤはもう勘弁して欲しいと心の中で呟く。

 

「う、うん…」

 

「あ…」

 

ふと、地面に寝かせておいた女性に視線を落とす。

すると、その女性は今にも意識を取り戻そうと寝返りを打ち始める。

 

彼女は魔法で傷を治した後、ゆまが魔獣と戦っている間もずっと気を失っていたのだ。

 

「だ、大丈夫ですか…?」

 

「ん…あ、あれ?」

 

「私…」

 

女性は、徐に起き上がり辺りを見回す。

先程のゆまの治癒魔法のおかげで、女性には傷一つ付いていない。

 

だが、彼女は意識が朦朧としているのか、自分がどうしてここに居るのか分かっていない様子だった。

 

「そ、そうだわ!!私、確か…」

 

しかし、少しずつ自分に起きた出来事を思い出したのか、震えるように声を出し始める。

 

そうなるのも、ある意味仕方ないだろう。

女性にしてみれば、突然訳のわからない化物に襲われ、危うく殺されそうになったのだから…

 

悪い夢を見ていたなんて言葉では済まされないくらい、恐ろしい体験だったに違いない。

震えが止まらなくなるのも、当然である。

 

「だ、大丈夫ですよ。もう安全ですから」

 

タツヤはその女性に近付き、怯える彼女を安心させようと声を掛ける。

 

「い…嫌、嫌っ!!」

 

だが、女性はますます怯えるように頭を抱えて塞ぎ込んでしまう。

タツヤの声は、彼女には全く届いていなかった。

 

彼女にとって魔獣に襲われたことが、一種のトラウマになってしまっているようだ。

 

「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」ダダダッ

 

「あっ!?ちょ、ちょっと!!!」

 

突如、女性は叫び声を挙げる

 

そして、一刻も早くこの場から離れたかったのか、タツヤの静止に耳を貸さず広場の出口に向けて走り出してしまう。

目は覚めたものの…彼女は未だ、悪夢を見続けているのかもしれない。そんな事を思わせるような、彼女の行動であった。

 

「(まだ、瘴気も消えてないのに大丈夫かな?)」

 

「(何か嫌な予感が…)」

 

その姿に何となく不安を覚えたタツヤは、そのままその女性の事を目で追っていく。

 

未だ瘴気は晴れていない。

そんな状態で彼女を1人してしまって大丈夫かと―――

 

「ウ゛ア゛…」

 

そう、少年が思った時――――

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

 

「きゃぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

「いっ!?」

 

彼女が向かった出口に、再び魔獣が現れる。

魔獣は彼女に襲い掛かろうと、目の前で雄叫びを上げて立ちふさがる。

 

少年の嫌な予感は、最悪の形で的中してしまった。

 

「ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「い、嫌…助けて…」

 

目の前に魔獣が現れると、女性はその場に固まって動かなくなってしまう。

身体はガタガタと震え、その表情はみるみるうちに青ざめていく。

 

一方、魔獣はその女性を標的に定め、力を溜め始める。

恐らくゆまと戦っていた時に撃っていたレーザーを放つ気なのだろう。

 

「くそっ!!!!」ダッ

 

「あ!!ま、待つんだ!!!」

 

タツヤはキュゥべえが言うよりも早く、女性が居る場所へ走り出す。

 

先程と同じように、頭で考えるよりも先に身体が動いていたのだ。

あの女性を助けねば…と。

 

「避けろって!!!」バッ

 

「きゃ!?」

 

「ア゛ア゛!!!!!!」

 

バァァァァアアアアアアア!!!!!

 

タツヤはレーザーが当たる間一髪のところで女性をを押し倒す

 

女性と共に倒れ込むような形で、攻撃をなんとか避けることができた。

 

「ゆま、起きるんだ!!」

 

キュゥべえは大急ぎでゆまを叩き起こし、状況を確認させる。

 

「えっ!?な、何!?」

 

「あ!!!!」

 

しかし、ゆまも寝ぼけているのか、何が起きているのか分からず起きるのが一瞬だけ遅れてしまう。

 

「っつ~いてて…」

 

女性に覆い被さる状態になったタツヤは、その身を何とかして起こす。

 

足や腕を擦り剥いたのか、少年の動きは非常にゆっくりだ。

 

「駄目っ!!」

 

「たっくん逃げて!!!!」

 

そして、その行動は今の状況の中ではあまりに軽率な行動であった。

 

ゆまは大急ぎで少年に声を掛ける。

しかし、やはり起きるのが遅れた事が影響したのか、その行動は一足遅かった。

 

「へ?」

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!」

 

バァァアアアアアアアア!!!!!!

 

「――っ!!」

 

タツヤが起き上がったとほぼ同時に、目の前の魔獣が再びレーザーを発射する。

 

その攻撃は今度は女性ではなく、タツヤに向けられていた。

 

「(やばっ身体が動かない・・・!!!)」

 

一瞬の出来事で反応出来なかったのか、タツヤの身体はまるで金縛りにあったかのようにピクリとも動かなかった。

 

徐々に魔獣が撃ったレーザーが、タツヤに近付いてくる。

それは…少年にとって数秒にも満たない時間の筈なのに、何故かとてもゆっくりに見えた。

 

「(や、殺られる…!!)」

 

そして、レーザーが少年の目の前まで近付いた時―――

 

「(うわっ―――)」

 

―――タツヤの目の前は、真っ暗になった。

 

 

――漆黒の暗闇の中、一つの場面が浮かび上がる――

 

――嵐のように吹き荒ぶ強風、崩れ落ちた建物、破壊された道路――

 

――映し出されたのは、全てが崩壊した町の姿――

 

――まるで世界の終焉を意味しているのかとさえ感じられる、『絶望』の縮図――

 

 

「アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!!」

 

 

――その光景をあざ笑うかのように、狂気染みた笑い声を挙げる化物――

 

 

――そして…――

 

 

――その化物を真っ直ぐに見つめ、立ち向かおうとするのは――

 

――1人の…――

 

 

――――――ビキッ

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」

 

 

ブオン、ドゴォォォォォオオオン…

 

「え?」

 

「な…」

 

タツヤはレーザーが直撃しようとした瞬間、目の前に先程ゆまが作ったような光の壁を作り出す。

ゆまのものとは違い、それは桃色に輝き不思議な模様が浮かび上がっている。

 

そして、その光の壁は魔獣の撃ったレーザーをいとも簡単に打ち消してしまった。

 

「い、今のって…」

 

「防御…結界…?」

 

ゆまは、その光景を目の当たりにすると驚き目を見開く。

 

それも…仕方ないのかもしれない。

 

「まさか、ありえない…」

 

「そんな筈…ないじゃないか…」

 

少年が作り出した光の壁。

 

それは、紛れもない―――

 

「どうして彼が…」

 

「どうして僕と契約していない彼が…」

 

「どうして『魔法』を使えるんだい…!?」

 

魔法少女達にしか使えない筈の『魔法』だったのだから―――

 

「…」

 

「……魔法、少女」

 

彼女達が動揺を隠しきれない中、タツヤはぶつぶつと何かを呟く。

下を向いているせいか前髪によって、少年の表情は見えない。

 

少年の様子は明らかに可笑しく、まるで別人のようであった。

 

「……ソウル、ジェム」

 

少年は、生気が失われたような状態で尚も続ける。

 

その言葉は先程ゆま達に教えられた魔法少女達に関するもの。

 

 

「……グリーフシード」

 

 

だが、その中には―――

 

 

「………」

 

「……………………魔女」

 

魔法少女達にしか、知らない言葉―――

 

むしろ、『今の』彼女達ですらしらない言葉が…含まれていた。

その言葉は、幸い誰にも聞こえなかったが…この少年が何故この事を知っているのかは、

 

 

まだ定かではない。

 

「タ…タっくん…?」

 

少年の異変に動揺するゆまは、恐る恐る彼に声を掛ける。

 

「…あれ?」

 

「俺…今、何を…?」

 

その声がきっかけとなり、タツヤはいつもの調子を取り戻す。

しかし、当の本人は何が起きたのか分かっておらず、惚けた顔で辺りを見回す。

 

少年は覚醒し切らない頭で必死に今までの事を思い出す。

魔獣の攻撃が自らの目の前に迫り、もう駄目だと思った瞬間、突然目の前が真っ暗になった。

そこまでは、少年も覚えている。だが、そこからがどうしても思い出せない。

一体、何が起きたというのかと少年は頭を悩ませた。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!」

 

「…って!!今はそんなこと考えてる場合じゃなかった!!」

 

少年が考えている内に魔獣は再び力を溜め始め、砲撃を行おうとしている。

 

例の女性はまだ気絶している。少年が抱きかかえて逃げる余裕はなかった。

 

「あ!!タ、タっくんっ!!」ダダッ

 

その光景を見て、慌ててゆまが少年との距離を詰める。

 

「くそっ!!どうする!?」

 

だが、ゆまのその行動も間に合わず…魔獣は再び少年にレーザー砲を放つ。

タツヤは今度こそ万事休すかと思い、思わず目を瞑った。

 

「(下がってなさい)」

 

しかし―――

 

「え?」

 

――マジカル・スコール――

 

ピュン、ピュン、ピュピュン

 

 

グサグサグサッ!!

 

「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァア!!!!!!!!」

 

突然少年が脳に直接響くような声を聴くと、魔獣の頭上に矢の雨が降き荒れる。

 

矢の雨はそのまま魔獣に襲い掛かり、レーザ砲をも掻き消し魔獣に風穴を開けていく。

 

「うわっ」

 

バシュゥゥゥゥゥゥウン・・・・・、カラン・・コロン

 

魔獣は少年の目の前で一瞬で消滅し、あの黒いキューブのような物に変化する。

タツヤはその光景を目の当たりにして、腰が抜けたようにその場に崩れ落ちた。

 

自分は助かったのかと、力が抜けてしまったようだ。

 

「い、今…何処から…」キョロキョロ

 

タツヤは先程の矢が何処から降ってきたのかと、辺りを見回す。

 

「…あ」

 

そして、魔獣を矢で射抜いた主を少し離れた場所で見つける。

 

その人物は、グレーを基調とした衣装に身を包み――

 

長く綺麗な髪の毛と――

 

それを装飾した赤いリボンが特徴的な――

 

「ふぅ」ファサァ…

 

――暁美ほむらであった

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ほむらは建物の屋上や屋根を渡り、タツヤ達に近付いてくる。

 

そして、タツヤの目の前で飛び降りると、背中から黒い翼を出現させそのままゆっくりと着地した。

彼女の手には黒い弓が握られている。やはり、先程の魔獣を射抜いたのはほむらであった。

 

「あ…暁美、さん」

 

その場に座り込んでいたタツヤは、それだけ呟いてほむらを見上げる。

彼女の姿は先程とは違う、この姿が彼女の魔法少女としての衣装なのだろう。

 

やはり、彼女もまたゆまと同じ『魔法少女』なのだと、タツヤは再確認する。

 

「…大丈夫?」

 

「あ、はい」

 

「怪我は無い?」

 

「だ、大丈夫です」

 

ほむらは無表情のまま、タツヤに問いかける。

未だに状況を呑み込めていないタツヤは、彼女の問いに戸惑いながら答える。

 

多少の外傷は負ったが、それほど気にするものではない。

大丈夫かと聞かれれば、そう答えられるレベルであった。

 

「そう」クルッ

 

ほむらはその表情を崩し、安堵の表情を浮かべる。

しかし、彼女が少年に背を向けた為、その表情は直ぐに隠れてしまう。

 

そして、そのままほむらはゆまの方へと歩き始めた。

 

「ほむら、お姉ちゃん…」

 

ほむらはゆまの目の前で立ち止まり、その視線をゆまへと向ける。

ゆまは彼女の視線に気まずくなったのか、思わず視線を逸らす。

 

身長はゆまの方が高い筈なのに、その光景はまるでほむらがゆまを威圧しているように見えた。

 

「…」

 

ほむらは視線をゆまに向けるだけで何も言わない。

しかし、少しの沈黙の後…ほむらはゆっくりと片手を振り上げた。

 

そして――――

 

バチン!!!

 

「痛っ!!」

 

「いっ!?」

 

目の前で起きたことに、タツヤは思わず声を挙げる。

 

それも、その筈だ。

ほむらはその片手をゆまに向かって思いっきり振り下ろし、彼女の頬を叩いたのだから…

 

タツヤは目の前で起きた出来事に、ますます混乱してしまう。

 

「…あなた、自分が何したのか分かってるの?」

 

「一般人を巻き込んだのよ」

 

黙っていたほむらは、静かに口を開く。

 

その口調は落ち着いているようにも見えるが、声色は明らかに怒りに満ち満ちている様子だった。

 

「…ごめんなさい」

 

ほむらの雰囲気に圧倒されたのか、ゆまは弱々しく答える。

 

先程、少年と接していた自信満々な彼女はそこにはいなかった。

 

「私が間に合わなかったら、彼は死んでいたかもしれないのよ」

 

「本当に分かってるの?」

 

徐々に語尾を強くしていき、ほむらはゆまに詰め寄る。

どうやら、タツヤを瘴気内に連れ込んだ事を相当怒っているようだ。

 

彼女の表情はあまり変わらないが、何処となく迫力があるように見える。

 

「あ、あのー」

 

「何?」

 

そんな彼女達を見て、タツヤが恐る恐る声を掛ける。

 

「も…もう、その辺にしておいた方が…」

 

「俺も無事だった訳でしたし…」

 

ゆまが不埒に思えたタツヤは、彼女達の間に割って入りほむらを宥める。

確かに、少年が彼女に巻き込まれたのは事実だ。

 

だが、それと同時にタツヤが彼女に助けられた事もまた事実であった。

そこまで責める事は無いのではと、タツヤは話す。

 

「一般人を瘴気の中に入れるなんて、常人のすることじゃないわ…」

 

タツヤの顔を見ると、ほむらは少しだけ落ち着きを取り戻す。

 

しかし、それでも怒りが収まっていないのか…尚も厳しい言葉をゆまに浴びせる。

どうしたらよいものか、タツヤは思考を巡らせその場の打開策を考える。

 

そして、少しだけ考えると何かを思いついたかのように頷き…

 

「いや、実はですね」

 

「俺が勝手にこの中に入ったんですよ」

 

少年は「自分が先にこの中に入ったのだ」とほむらに言い始めたのだ。

 

「え?」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

そう…少年はが全て自分が悪いということにして、この場を収めようとした。

タツヤの突然の発言に、後ろにいたゆまが驚きの声を挙げる。

 

ほむらもまたその言葉に呆気とした表情を浮かべた。

 

「いやーゆまさんには止められたんですけど」

 

「どーしても魔獣って奴をこの目で見てみたくなりまして」

 

「てぃひひひ」

 

タツヤはほむらに向けて、能天気に笑って見せる。

あくまでも悪いのは自分なのだと、少年はほむらに説明した。

 

最も…勝手に突っ込んでいった事は本当なのだから、あながち間違いではない。

 

「たっくん…」

 

「…」

 

ほむらはタツヤとゆまを交互に見比べながら、その顔を少しだけ歪める。

 

その表情は明らかに少年の話を信じておらず、疑っていますと顔に書いてあるようだった。

確かに、言い訳としては無理があるのは否めないだろう。

 

「…はあ」

 

「関わっちゃ駄目、って言ったわよね?」

 

やがて、ほむらは呆れたように溜息を付き、視線をタツヤに向ける。

少年を窘めるように、少しだけきつい口調で注意を促した。

 

まるで、「今回だけだ」とでも言わんばかりに…。

 

「…ごめんなさい」

 

厳しい事を言われたからか、タツヤは思わず身体を縮こまるようにして謝ってしまう。

 

年上に注意され小さくなる辺り、やはりタツヤも子供だということだろう。

 

「…もういいわ」

 

「でも、魔獣に関わるのはこれで最後にしなさい」

 

「でないとあなた、いつか本当に死ぬわよ」

 

「…はい」

 

ほむらに続けて説教をされ、タツヤは軽く凹む。

 

このまま関われば確実に痛い目を見ると脅され、少年は軽く身震いする。

それでも、先程までの怒りはすっかり収まり、その口調は穏やかなものであった。

 

「…ありがと」ボソ

 

タツヤ達がそんなやり取りを繰り返している中、ゆまがポツリと呟く。

 

その声はあまりに小さく、周りの誰にも聞こえるものではない。

だが、彼女ははっきりと口にしたのだ。

 

少年への感謝の気持ちを――――

 

「へ?」

 

「なんでもない」

 

ゆまの声はやはり少年には聞こえることはなかった。

 

タツヤはゆまに何を言ったのか聞き返すも、彼女はそっぽを向いてしまう。

その様子を見て、タツヤはよく分からないと首を傾げるのだった。

 

「いやーそれにしても」

 

「魔法少女って凄いんですね」

 

「何か『正義の味方』って感じ」

 

タツヤは自分が感じた事を率直に言葉にする。

実際に見るまでは信じていなかったタツヤだが、いざ自分の目で確かめてみるとその姿に感動を覚えてしまう程であった。

 

わざわざそんな事を口にしたのは、この場に流れる何となく重苦しい空気を変える為の少年なりの気遣いだったのかもしれない。

 

「そんな大それたものじゃないわ」

 

「戦わなきゃいけないから戦ってるだけよ」

 

タツヤの言葉に対して、淡々とした口調で返すほむら。

 

自分達は当たり前の事をしているだけだと、少年の発言を冷たくあしらった。

 

「ははは、まあ…ねえ」

 

そして、それを見たゆまが苦笑いを浮かべる。

 

その語尾に、意味深な言葉を乗せて―――

 

「さっき魔獣倒したとき箱みたいな物落ちたでしょ?」

 

「え?あ、そういえば…」

 

ゆまの一言に少年は魔獣が倒れた際、黒いキューブのようなものが落ちていたことを思い出す。

 

そのキューブは飴くらいに小さく、1度に複数落ちていたようにも見えた。

 

「あれは『グリーフシード』って言って」

 

「私達魔法少女の魔力の源なの」

 

「源…?」

 

魔力の源、ゆまは黒いキューブをポケットに仕舞いながら言う。

 

タツヤはその言葉を聞いて、ゲームなどの回復薬のようなイメージを持つ。

勿論、そんな簡単なものではないが中学生の思考力ではその程度が限界だった。

 

「うん、よっと」

 

――パアァァア

 

ゆまは掛け声と共に、猫耳の衣装から元の姿に戻る。

すると、その手には緑色に輝くソウルジェムが再び現れた。

 

ゆまは先程閉まった黒いキューブを取り出す。

 

「私のソウルジェム、少し濁ってるでしょ?」

 

「ふぇ?そ、そういえば…」

 

ゆまのソウルジェムはよく見ると変身する前に比べ、少し黒ずんでいる様に見える。

それは、綺麗に光り輝いていた筈なのに、その輝きすらも薄れているようだった。

 

少年はその様子をまじまじと見つめる。

 

「これをこうして…」

 

そして、ゆまはソウルジェムの周りに幾つかその黒いキューブを置く。

 

パァァァァアアアア

 

「おっ」

 

すると、そのグリーフシードはソウルジェムの汚れた部分を吸収し出し始めた。

 

しばらくすると、ゆまのソウルジェムは先程のような輝きを取り戻す。

逆に、穢れを吸収したグリーフシードは黒かった部分が更に黒くなったように見える。

 

「はい、これで良し」

 

「これで魔力も元通りってわけ」

 

「へー…」

 

少年はその様子は目の当たりにして、目を丸くする。

しかし、同時に回復の仕方が自分の予想と違い、少しだけがっがりしてしまう。

 

思ったより面倒くさいのだと、もっと簡単に回復できないのかと、タツヤは子供ながら思った。

 

―――その考えが、いかに甘いものだったのか…タツヤは後々知る事になる。

 

ググググ

 

「おっ」

 

「瘴気が晴れてきたね」

 

暫くすると、ゆまが言う通りタツヤ達が居た場所が本来あるべき姿に戻っていく。

不気味な建物や奇妙な植物は元に戻り、空を覆っていた霧は徐々に晴れていった。

 

そして、彼等の居た場所は無事に元の公園へと戻ったのだった。

 

「この人、どうしよう…」

 

元の世界に戻ったところで、タツヤは再度気絶してしまった女性に視線を向ける。

 

彼女はひとまず地面に寝かせてあったが、未だに目を覚ましていない。

 

「そのままそっとしておいたら?」

 

「もう魔獣もいないし、起きたら自分で帰れるでしょ」

 

「それも、そうか」

 

もう完全に瘴気は晴れていた為、そのままにしておいて大丈夫だろうと、ゆまは言う。

 

確かに最早魔獣の脅威はなくなったのだから、もう心配はいらないのかもしれない。

むしろ、この状況で起こしてしまった方が混乱させてしまうだろう。

 

「ま、それでも一応…」ンショ

 

タツヤはその女性を抱きかかえ、近くのベンチに腰掛けさせる。

 

地面に寝かせておくより、こっちの方が良いだろうと

自然と目を覚ました時、悪い夢でも見ていたのだと思って欲しいと少年は思った。

 

「ふぅ~」

 

「やっと終わった~」

 

そして、タツヤはその場に大の字になって寝転がる。

 

元通りとなった空を見上げると、暗闇を照らすように星が綺麗に輝いていた。

 

「しっかし…」

 

「あんな化物といつも戦ってるんですか?」

 

タツヤは寝転がったまま、ゆま達に話しかける。

 

先程の凄まじい戦いを彼女達は繰り返しているのだろうかと、少年は好奇心で聞きたくなった。

 

「まあね」

 

「ほぼ毎日夜は外に出て、魔獣退治かな」

 

ゆまは少年の問いに対し、そのように答える。

 

魔獣を退治する為に、自分達は毎日のようにパトロールしているのだと彼女は言った。

それを聞いて、タツヤは改めて彼女達のしている事の大変さを認識する。

 

「二人で…ですか?」

 

「うううん」

 

「私は普段は風見野の方を回ってるから」

 

「見滝原は基本的にほむらお姉ちゃん一人かな」

 

「へー、一人で…」

 

ゆまのいう風見野というのは、見滝原市の隣にある風見野市のことである。

 

見滝原程ではないが、風見野も近代化が進んでおりそこそこ大きい都市になっている。

そのような場所で一人ずつ戦っているのかと、タツヤは思わず声を上げてしまう。

 

「他に仲間って居ないんですか?」

 

そして、少年は徐に呟く。

 

彼女達の他に魔法少女はいないのか、と―――

 

「え?」

 

「え?いやほら、二人だけじゃ大変そうだし」

 

「他に魔法少女っていないのかなーって…」

 

他に魔法少女がいるのであれば、協力し合った方が魔獣退治も楽だろうと…

そんな軽いノリで、少年は尋ねる。

 

しかし―――

 

「…」

 

「…」

 

タツヤのその発言に、彼女達は押し黙ってしまう。

それは、触れてはいけない部分に…少年が触れてしまったかのように―――

 

ほむら達の間には、何処となく思い空気が流れ始める。

その様子を見て、タツヤはまずいことを聞いてしまったのかと不安になった。

 

「魔法少女ならもう一人居るよ」

 

「おわっ!?」

 

すると、タツヤの目の前に突然キュゥべえが現れる。

タツヤは目の前にこの生き物が現れた事に驚き、思わず後ずさりしてしまう。

 

色々な事を起きているせいで、この白い珍獣の存在をすっかり忘れてしまっていたのだ。

だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「魔法少女って、もう一人居るのか?」

 

「そうだよ」

 

そう、タツヤが気になった事はこの珍獣の発言であった。

 

魔法少女はもう1人いる、というキュゥべえの言葉。

 

ほむら達の他にも、彼女達のような力を持っている人間がいるのかと少年はその話に興味を抱く。

 

「まあ…」

 

「居るには、居るんだけど…」

 

「へ?」

 

キュゥべえの言葉に、歯切れの悪い言葉を重ねるゆま。

 

それは、もう一人の魔法少女には問題がある、とでも言うかのように…。

 

「アレはもう魔法少女なんかじゃないわ」

 

「使命から逃げ出した」

 

「ただの役立たずよ」

 

そこで今まであまり口を開かなかったほむらが、言葉を発する。

 

しかし、その女性にあまり良い印象は持っていないのか、その口調や言葉には棘があるように聞こえる。

むしろ…彼女のことを嫌っているように見えた。

 

「君は相変わらず彼女のことが嫌いなんだね」

 

「ええ、嫌いよ」

 

「顔も見たくないわ」

 

キュゥべえの問いに、ほむらは憎たらしそうな表情を浮かべて答える。

 

どうやら、その『もう1人の魔法少女』の事が相当嫌いのようだ。

 

「はは…」

 

その様子を見て、ゆまは何故か呆れたように苦笑いを浮かべる。

 

タツヤは彼女達の意味深な言動や表情が良く分からず、首を傾げた。

 

「まあ、そんな事は今はどうでも良いんだ」

 

「それよりも、僕は君に聞きたいことがあるんだよ」

 

「鹿目タツヤ」

 

「あ?」

 

だが、そこでキュゥべえはタツヤに視線を向け言葉を発する。

 

そう、この珍獣にとってもう1人の魔法少女のことなど…どうでも良かったのだ。

 

キュゥべえ…インキュベーターが注目した事、それは―――

 

「君は…」

 

この少年の―――

 

「あなたはもう帰りなさい」ズイッ

 

「うわっ!?」

 

だが、キュゥべえが何か言い掛けようとした瞬間、少年の目の前にほむらが現れる。

 

それは―――まるで、キュゥべえの言葉を遮りたかったかのように。

 

「ちょ、ほむらっ」

 

「え?え…え、あの」

 

ほむらの突然の行動に、タツヤとキュゥべえは戸惑いを隠せない。

 

「今日はもう遅いわ」

 

「家に帰りなさい」

 

だが、ほむらは尚も続ける。

 

この珍獣の話は聞かなくても良い、お前は早く帰れと少年に暗に伝えた。

その時のほむらは、何故か妙に迫力があるように見えた。

 

「いや、でも、今そいつが話があるって…」

 

タツヤはほむらの後ろで戸惑っているキュゥべえを指差しながら応える。

 

「ソイツの話は聞かなくて良いわ」

 

「聞くだけ無駄よ」

 

だが、ほむらはあくまでもキュゥべえの話は聞くなと少年に伝える。

この珍獣に視線を合わせる事なく、彼女は厳しい言葉を浴びせた。

 

彼女もまた、この珍獣にあまり良いイメージを持っていなかったのだ。

 

「あ、いや。でも…」

 

この珍獣への不信感は、少年も似たようなものであった。

しかし、キュゥべえのその言葉の続きが気になるのも、また事実だった。

 

一応、聞いた方が良いのではとタツヤは戸惑いながらも主張する。

 

「いいから、今日は帰って」

 

「親が心配するわよ」

 

それでも、ほむらの意見が変わることはなかった。

 

少年の言葉を遮り、親が心配するから家に帰れと続けた。

 

「は、はあ…」

 

親、というフレーズを聞いてタツヤも思わず立ち止まる。

 

確かに、少年が出歩いて良い時間はとっくの昔に過ぎている。

母親はまだ仕事かもしれないが、恐らく父親は、夕飯を作って少年の帰りを待っているに違いない。

 

「…分かりました」

 

結局、タツヤが根負けした形になり、ほむらの言うとおり家に帰ることとした。

 

「…」

 

その様子をキュゥべえは少し恨めしいというような表情を浮かべて見ている。

珍獣の表情は、未だに何かを言いたそうにしていたが、結局それが何なのかは分からなかった。

 

タツヤはそのことが気になりつつも、乱れた服装や荷物を整えて帰る支度をする。

 

「ごめんね、色々迷惑掛けちゃったみたいで」

 

「あ、いやぁこっちこそ…」

 

ゆまにはなんだかんだで助けてもらったと、少年は改めて頭を下げる。

今の自分が無傷でいられる事も、彼女のおかげであると…タツヤは信じて疑わなかった。

 

そう、タツヤだけは―――

 

「それじゃあ、俺はこの辺で」

 

「またね、たっくん」

 

帰る支度を整えたタツヤは、二人に挨拶を済ませそのまま帰ろうとする。

 

「鹿目タツヤ」

 

「え、あ、はい」

 

しかしそこで、タツヤはほむらに呼び止められる。

 

少年が振り返ると、彼女は何故か険しい表情を浮かべていた。

その姿を見たタツヤは、一体どうしたのだろうと緊張して思わず背筋を伸ばす。

 

「…」

 

だが、ほむらは何かを言いたそうにしていたものの、少年の顔を見るなり黙り込んでしまった。

 

「…いえ」

 

「真っ直ぐ家に帰るのよ」フッ・・

 

結局、ほむらは言おうとした言葉を飲み込み、タツヤを見送る。

その時の彼女の表情は、先程のものとは違い…柔らかい笑みを浮かべていた。

 

しかし、その表情は…少しだけ寂しそうにしている様にも見えた。

まるで…少年を見て、何かを思い出しているかのように―――

 

「は…はあ」

 

その微笑みに、タツヤは少しだけ違和感を覚える。

それがどうしてなのか、この少年にはまだ分からない。

 

ただ、『まどか』のこともそうだが…何となく彼女とは、この間再会しただけの関係とは思えなかった。

 

そんな事を考えながら、タツヤは帰路につく。

 

「(あー、大分夜遅くなったな…)」

 

「(父さん達に怒られなきゃ良いけど…)」

 

「(ああ見えて、父さんも怒ると怖いからなぁ…)」

 

そして、タツヤは今後のことを考え…親に怒られるなと、少し憂鬱になりながら家への道を足早に進んでいくのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…ふぅ」

 

タツヤが帰路に付いた後、ほむらは姿が見えなくなるまで少年の事を見送っていた。

そして、見送り終わると彼女は深い溜息を付く。

 

何はともあれ少年を無事に家に帰すことが出来たと、ほむらは安堵の表情を浮かべた。

 

「ほむらお姉ちゃん、随分たっくんに優しいんだねー」

 

すると、後ろに居たゆまが口を尖らせ、ほむらに声を掛ける。

 

いつも自分に接している彼女と明らかに違うと、ゆまは不満を漏らした。

 

「別にそんなんじゃないわよ」ファサァ

 

「そうかな~」

 

ゆまは納得がいかない、というような表情を浮かべる。

 

そんなに普段と違うだろうか、とほむらは首を傾げる。

どうやら、本人もあまり自覚していないようだ。

 

「あの子に感謝しなさい」

 

「本当ならもっと怒ってたところよ」

 

「う…や、やっぱり…?」

 

やはり、ほむらはタツヤがあの時嘘を付いていると分かっていた。

 

それでも、必死にゆまを守ろうとするタツヤを見て、怒る気も失せてしまったのだ。

少年の優しさが、彼女の『最愛の友人』とそっくりだったから―――

 

「とにかく、一般人を瘴気の中に入れるなんて絶対駄目よ」

 

「…は~い」ショボン

 

ほむらは再度、ゆまに忠告する。

一般人を巻き込んではいけないこともそうだが、何よりほむらはタツヤを自分達には関わらせたくなかった。

 

あの少年はこの世界のことを知るべきではない、それが彼女の考えであった。

 

「彼は“一般人”じゃないよ」

 

「!?」

 

しかし、そこでこれまで黙ってほむら達の話を聞いていたこの珍獣が口を開く。

 

「キュ、キュゥべえ…」

 

「そうだ、彼は普通じゃない」

 

キュゥべえは珍しく鬼気迫るような口調で、彼女達に訴える。

 

あの少年、鹿目タツヤは普通の人間ではないと―――

 

「ゆまだって見ただろう?」

 

「彼が魔法で結界を張ったところを」

 

「あんなの、イレギュラーとかそういう言葉で済まされるものじゃないよ」

 

そう、あの時…あの少年は確かに魔法を使った。

 

自分の目の前に結界を貼り、魔獣の攻撃を防いだのだ。

その結界自体は、別に珍しいものではない。

問題は、それを使った少年がキュゥべえにとって…契約の対象外であるということだ。

 

「…」

 

ほむらもまた、その瞬間を遠くから見ていた。

 

あの時、彼女があの場所に到着すると、タツヤが今にも魔獣に攻撃されそうになっていた。

ほむらはその様子を見て、慌てて弓に魔力を溜め魔獣を撃退しようとしていたのだ。

 

だが―――

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!』

タツヤは自分の目の前に結界を展開させ、魔獣の攻撃を受け止める。

 

魔獣の攻撃はあの結界に触れた瞬間、跡形も無く打ち消されてしまった。

 

「ほむら、いい加減教えてくれないかな?」

 

「君は、彼が何者なのか知っているんだろう?」

 

「あなたに教えることなんか無いわ」

 

実際、ほむらにもどうして少年が魔法を使えるのかが分からなかった。

 

それでも…ただ一つ、分かっていることがあった。

 

あの結界に描かれてい不思議な模様、あれをほむらは以前も見たことがあった。

そう、あの模様は―――

 

「(あれは、まどかの…)」

 

彼女の最愛の友人であり、あの少年と深い関係である鹿目まどかの魔法陣に描かれていたものであった。

その事実が、ほむらを悩ませる。

 

彼女が…あの少年、鹿目タツヤに力を与えているのだろうか…と。

もしそうだとすれば、一体何のためにそんなことをしているのか…と―――

 

「ほむら、いくらなんでもそれは…」

 

キュゥべえはほむらの言葉に納得出来ず、尚も食い下がる。

 

この珍獣が、彼女の曖昧な発言に納得する筈もなかった。

 

「駄目だよ、キュゥべえ」

 

「ほむらお姉ちゃん、こうなったら梃子でも動かないもん」

 

だが、そんなキュゥべえをゆまが首根っこを掴んで止める。

 

そのままきゅぅべえを持ち上げ、胸元に抱き寄せた。

 

「私、言われるほど頑固じゃないわ」

 

「うわー、自分で気付いてないって所がタチ悪いよね」

 

「風穴開けるわよ」

 

「うっ…ごめんなさい」

 

ほむらは少しむっとしながらゆまに反論し、彼女に謝罪させる。

あくまでも、自分は頑固ではないと、ほむらは主張する。

 

そう主張する姿が、頑固である最大の要因なのは…言うまでもない。

 

「まあ、冗談はさておき…」

 

「確かに私もたっくんが魔法を使ったことは気になるけどさ」

 

「知ったところで、どうこうなるわけでもないよね」

 

少年が魔法を使ったからといって、彼の存在が自分達にとって何か問題があるわけではない。

それなら知らなくても問題ない、ゆまはそう主張する。

 

「ゆま…」

 

その言葉を聞いて、ほむらは安堵の表情を浮かべる。

彼女にとって、この状況で彼女のその言葉は…正直有難かった。

 

それに、仮に本当の事を話したとしても…誰が信じるだろうか。

あの少年が、『彼女』と深い関係であることを…一体誰が信じるのだろう。

 

『まどか』という存在が認識されない、この世界で―――

 

「ゆっゆま、でも…」

 

「しつこい男は嫌われるぞー」

 

「なーんてね」アハハ

 

ゆまは、わざとらしく大笑いしてその場のお茶を濁す。

 

最早、キュゥべえがタツヤの事を聞ける雰囲気ではなかった。

 

「はあー分かったよ」キュップイ

 

キュゥべえはようやく諦めたのか、ゆまの拘束から脱出し地面に降りる。

その様子を見て、ほむらは思う。

 

そう、あの少年にどんな力があろうと関係ない。自分は、絶対にあの少年を巻き込んだりはしない。

 

それこそがこの世界に残された自分の使命であるとさえ、ほむらは考えていた。

 

「そう言えば、ほむらお姉ちゃんグリーフシードは?」

 

ゆまの手には、未だ未使用のグリーフシードが数個握られている。

 

「え?ああ、私はいいわよ。あまり魔力使ってないし」

 

「そっか。じゃあ残りは私がお持ち帰りするね」

 

だが、ほむらは自分は大した魔法は使ってないからと、彼女の好意を断る。

 

かつて…魔力の源であるが故に、魔法少女達がが奪い合っていたグリーフシード。

 

そのグリーフシードも、今ではこうして譲り合える程に数が拾えるようになった。

その分だけ回復量が少なくなったが、今の状況の方が平和で良いのだろう。

 

『彼女』の願いには、魔法少女達が無駄な争いをしない事も含まれているのだから―――

 

「今日の魔獣は強かったみたいね」

 

ふと…ほむらが先程の魔獣に言及する。

今日、瘴気の中で感じた魔獣の力は相当の物であった。

 

ほむらが到着する前にゆまが倒せたから良かったものの、一瞬ヒヤリとした部分があった事も事実だ。

 

「そーなんだよ、今日は中々だったんだよ」

 

「最初は大したことなかったのに~」

 

確かに、此処最近の魔獣は強くなっているように思える。

呪いの力が、それだけ強くなってきているということなのだろうか。

 

それとも…

 

「一人でよく倒したものだわ」

 

「へへ…」

 

ゆまは彼女の言葉を受けて、気恥ずかしそうに顔を掻く。

年相応の無邪気な笑みを浮かべながら、少女は嬉しそうに身体をもじもじさせた。

 

確かに、あれだけの魔獣を1人で倒したのだから、ゆまも魔法少女として立派に成長したということだろう。

 

「そうだね」

 

「まさかゆまが幻覚魔法を使えただなんて」

 

「正直驚いたよ」

 

そして、話に割り込むように、キュゥべえが彼女達の間に入り込む。

珍獣は彼女の使った幻覚魔法について言及する。

 

ゆまの得意魔法は、先程キュゥべえが話したように治癒魔法である。

幻覚魔法は、本来ならば彼女が使える魔法ではなかった。

 

そのことが、この珍獣を驚かせていた。

 

「まー、ね」

 

幻覚魔法、それはゆまが一番懐いていた魔法少女―――佐倉杏子の得意としていた魔法。

 

自分の分身を出現させ、相手を翻弄する魔法だ。

そして、その技には正式な名前が付いていた。

 

それは――――

 

「ロッソ・ファンタズマ」

 

「…」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

それは、遠い昔の記憶―――

ゆまがまだ幼かった頃の話だ。

 

「うしっ今日も大量大量」

 

「わーい、やったねキョーコ!」

 

魔獣を退治して回る、赤い魔法少女・佐倉杏子。

幼いゆまは彼女の後ろを付いて回り、治癒魔法で彼女のサポートに回っていた。

 

それこそ、2人は本当の姉妹であるかのように…良いコンビであった。

 

「さっきの魔法、ゆまも使えるようになりたいっ」

 

幼いゆまが言うのは、彼女が魔獣との戦いで使っていた魔法。

 

複数の分身を作り出し、相手を撹乱し翻弄する幻覚魔法『ロッソ・ファンタズマ』。

彼女はその魔法を駆使し、まるで魔獣をあざ笑うかのようにして戦いを続けていた。

 

ゆまは、そんな彼女にあこがれを抱き…自分も彼女のように戦いたいと思っていた。

 

「ああ?あの魔法は流石にお前じゃ無理じゃねーか?」

 

だが、佐倉杏子は彼女の願いをやんわりと拒否する。

 

他人の魔法はそう簡単に習得出来るものではないと、幼い彼女に言って聞かせた。

 

「えー!!ヤダヤダヤダ!!!!ゆまも使いたいっ!!」ジタバタジタバタ

 

だが、それでも幼いゆまは自分にも幻覚魔法を教えてほしいと懇願する。

 

手足をバタつかせ、子供が母親に欲しいものをねだるかのように駄々をこねた。

 

「だぁー、わかったわかった!!いつか教えてやるよ」

 

そんな彼女に根負けしたのか、佐倉杏子は嫌々ながらもゆまの願いを快諾する。

 

その姿はさながら妹の願いを聞き入れる姉の様であった―――

 

「本当っ!?」

 

「ああ」

 

「お前がもう少し大人になって」

 

「強くなったらな」

 

そう、それは―――

 

「わーい!!約束だよ!!」

 

「キョーコ!!」

 

1人少女の、遠い昔の『約束』―――

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「…違う」

 

「え?」

 

「私のは…ロッソファタズマじゃないよ」

 

ゆまは、どこか遠くを見つめるように顔を上げ…ポツリと呟く。

 

その姿は、いつも元気の良いゆまとは少し違うように見えた。

 

「ゆま…」

 

「分身は一体しか出せないし、動きを上手く制御できないし、魔力消費激しいし…」

 

本物とは程遠いよ、とゆまは言う。

 

元々ゆまの得意としている系統の魔法ではないのだから、当然なのかもしれない。

だが、それでも―――

 

「それに、さ」

 

「やっぱりあれは“杏子”だけの技だから…」

 

「簡単には名乗れないよ」

 

彼女にとって佐倉杏子という存在は、果てしなく大きいものなのだろう。

 

魔法少女として、立派に独り立ちした今でも――――――。

 

「あなたも、成長したのね」

 

「そーだよ。胸もおっきくなったんだよ」タユンタユン

 

そう胸を張る彼女の胸元には、女性らしく豊かに育ったものが実っている。

確かに、その部分は一般女性の平均よりも大きめに成長していた。

 

平均よりも小さいほむらと違って…。

 

「黙りなさい」

 

「」

 

魔法少女として成長した彼女も、やはり頭はまだまだ子供であった。

その姿を見ながら、ほむらは身体ばっかり大きくなってと溜息を付く。

 

目線が彼女の胸元と自分の胸元を行き来していたのは、恐らく触れない方が良いのだろう。

 

「あ、そうだ」

 

「魔獣のことがあったから、すっかり忘れてたよ」ゴソゴソ

 

「はい、これ」スッ

 

突然何かを思い出したかのように、ゆまが風呂敷のような物を取り出す。

そして、彼女はそれをほむらに差し出した。

 

何も持ってなかった筈なのに、一体何処から取り出したのだろうと、その様子をほむらは呆れ顔で見つめる。

 

「…何これ?」

 

「家のおかずの残り」

 

「これ渡そうと思って、今日来たの」

 

風呂敷の中には、プラスチックのタッパが幾つか積んである。

そしてその中には、手作りのお惣菜が色々と詰め込まれていた。

 

ゆまは、ほむらにこのお惣菜を食べるようにと渡す。

 

「それ、あなたの『保護者』が作ったの?」

 

「そだよ」

 

「作りすぎたからほむらお姉ちゃんの所に持って行きなさいって言われたんだよ~」

 

ゆまの『保護者』―――

ほむらのその言葉には、負の感情が入り混じっている。

 

そんな物…余計なお世話だと、彼女はその『保護者』の好意を突き放した。

 

「…さっき言ったでしょ」

 

「私、彼女嫌いなのよ」

 

その『保護者』へのほむらの恨みは、相当深いようだ。

 

「まあまあ、そう言わずに」

 

「どうせろくなもの食べてないんでしょ?」

 

ゆまの言葉に、確かにそのとおりだとほむらは口籠る。

 

だが…それでも、余計なお世話だという彼女の気持ちは変わらなかった。

何故自分が、その『保護者』の情けを受けなければいけないのかと、ほむらは露骨に不満を顔に出した。

 

「と に か く」

 

「食べ物粗末にしちゃ駄目だからね?」

 

ゆまはほむらの顔の近くまで接近し、ジト目で彼女を見つめてきた。

 

食べ物のことになると、ゆまは突如として厳しくなる。

一体、誰の影響なのだろうか―――

 

「はあ…」

 

「分かったわよ、有難く受け取っとくわ」

 

仕方ないと、ほむらはその風呂敷を受け取る。

 

自分が素直に受け取っておかないと、この場は収まりそうにないとほむらは察した。

 

「えへへ、うん、それでよろしい」グッ

 

「あなたね…」

 

ゆまはほむらが風呂敷を受け取った途端、とびっきりの笑顔を見せる。

ほむらは彼女のそんな態度に呆れ、ため息を付く。

 

彼女のこんな姿を見ていると、無邪気というか天真爛漫というか普通の女の子だなとほむらは思った。

 

「それじゃ、私もそろそろ家に帰るね」

 

「そう、『あの女』は家に居るの?」

 

ゆまが帰る支度をし始めると、ほむらは彼女の『保護者』について尋ねる。

 

そう、彼女と一緒に暮らしている…もう1人の『魔法少女』の事を―――

 

「んー、まだ仕事してるんじゃないかな?」

 

「そう」

 

仕事という言葉を聞いて、ほむらはあまり面白くないという表情を見せる。

 

『彼女』も一応は魔法少女の資格を持った者なのだから、その使命を全うすべきというのが彼女の考え方だった。

それなのに、魔獣退治もしないでいい気なものだと、ほむらは心の中で『彼女』の事を批判した。

 

「ゆま、帰る前に使用済みのグリーフシード回収させてよ」

 

「あ、はいはーい」ヒョイッ

 

「」パクッ

 

ゆまは傍に居た珍獣に、持っていたグリーフシードを渡す。

 

珍獣は彼女の投げたそれを口に含み、そのまま身体に取り込む。

彼女達が使ったグリーフシードは、こうしてインキュベーターに回収されていた。

 

「それじゃあね、ほむらお姉ちゃん」

 

一仕事終えたと、ゆまは帰る準備を終え…ほむらに背を向ける。

 

「夜道には気をつけるのよ」

 

「もー、もう子供じゃないよー」

 

まるで母親のような台詞を吐くほむらに、苦笑いを浮かべるゆま。

 

どんなに彼女が成長しても、ほむらにとって見れば…まだまだ子供のようであった。

 

「ふ、それもそうね」

 

「じゃ、またねっ」

 

ゆまはそういって、建物の屋根に飛び乗る。

屋根を飛び移るようにして、ネオンが綺麗に光る見滝原の町へと消えていった。

 

その様子を見て、もう少し人目を気にしろとほむらは溜息を付いた。。

 

「さて」

 

「私も帰ろうかしら」

 

ほむらもまた、ゆまに渡された風呂敷を片手に取り、帰る支度をする。

 

「というかこの量、とてもじゃないけど私一人じゃ食べきれないわよ…」

 

彼女の持つ風呂敷の中のタッパには、色取り取りの惣菜が詰められている。

野菜のものもあれば、肉や魚で作られたお惣菜もある。

 

『彼女』は一体どれだけ料理を作ったのかと、ほむらは呆れたような表情で中身を見つめる。

 

「…」ヒョイ、パクッ

 

ほむらは、徐に風呂敷内のタッパを一つ取り出し、中身を一口分だけ口に運ぶ。

 

「」モグモグ

 

「…甘いわ」

 

噛んだ瞬間に一言、ほむらが呟く

その惣菜は、砂糖を入れすぎているのか…甘さを強調した味付けになっていた。

 

そのせいか…ほむらにとって、その惣菜はもの凄く…甘かったのだ。

 

 

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