シン・バルタン星人   作:ケツアゴ

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現地民との遭遇記録

 私はバルタン星人、個体名は存在しない。それはそういう文化ではなく、我が一族は全にして一、数十億の同胞は全て同じ意識の持ち主なのだ。

 一体一体がバルタン星人という個体を形成する細胞なのだと思ってくれれば良い。

 ……無論、異常な細胞が存在するように私と数体は個人として独立した意識を持っている者が存在する。

 確かその内の一体は少し狂った感じの科学者だったな。

 

 

 

「困った。これならば皆と共に旅行に行くべきだったな」

 

 私が乗る宇宙船から鳴り響く警告音、宇宙を徘徊する巨大怪獣の尻尾が掠った時に何処か破損したのだろう、制御不能になって近くの惑星の引力に引かれて墜落して行く。

 

 

「通信による救助は望めない。どうすべきか……」

 

 あの星からは私達が苦手とするスペシウムの反応が強い、単独での活動は不可能。

 外観からして生命が生存している可能性は大、光の星の住人に咎められる可能性があるが……。

 

 いや、あの連中ならば理由を話せば母星まで連れ帰るか宇宙船の修理に協力してくれるか?

 

 

 

「現地生命への寄生行為が最善か。出来るのならば燃料及び修理に必要な材料の存在が望ましいが……」

 

 数千年以内に友好関係な異星人……メフィラス星人辺りに保護して貰えるのを願うしかない、少し諦めに似た感情を抱きながらも私は墜落の衝撃に備えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 世界の中心であるオラリオ、華々しい夢を持った者が集まり、多くの夢が枯れ果てる場所。

 そのオラリオにのみ存在するダンジョンから古代に進出したモンスターは神の恩恵を持たぬ人々にとっては悪夢であり、滅びの象徴。

 ある程度のステイタスを持っている眷属ならば苦にならずに対応可能な外のルーガルーでさえ恩恵の無い者の村なら簡単に滅ぼされてしまう。

 

 

 

 

「……くない、死に…たくない……」

 

 この日、オラリオに向かって明日出発するはずだった小人族の少女の村が滅ぼされた。

 彼女の名はアーシア、今年で十歳になる彼女は金の髪を持ち、料理人を志す父は自分の店をオラリオに持つのが夢だったのだ。

 だが、夜中に起きたモンスターの襲来、逃げている最中に家族の死体を見つけて固まった所を背中から襲われ、致命傷を追った所で空から落ちて来た火の玉に驚いたモンスターは逃げ去った。

 

 

 そして凄まじい苦痛の中、アーシアは緩やかに死を迎える……筈だった。

 

『生存への欲求を確認。質問。少女よ、何をしても生きたいか?』

 

 生きたいと思いつつも苦痛に耐えきれなくなった時、頭の中に直接声が響き、同時にその存在が姿を見せた。

 

「モン…スター………?」

 

 頭の中に話しかけて来たのは目の前の存在なのだと確信するアーシアだが、相手は蝉とザリガニと人間を融合させたかのような異形の存在。

 当然のつぶやきに対し、相手は顔を左右に振る。

 

『其れは質問と判断。内容、私がモンスターか否か。モンスターとはこの星に住む人類の敵対生物と判断。質問への回答、私はモンスターではない。それで再度の質問。少女よ、生きたいか? 肯定の場合、目的を果たすまでの間、週に六日は君の体を借りる事になる』

 

「助け…てくれる……の?」

 

『肯定。他の同胞や異星人ならば君を獣や虫と同類と扱うだろうが、私は未開の星の蛮族としか扱わない。約束の遂行を保証しよう』

 

 馬鹿にしているように聞こえる発言だが声は真面目そのものであり、アーシアは契約を受け入れることを表すように力の入らない腕を伸ばす。

 

 

 

『不覚。自己紹介を失念していた。私に個体名は無い。故にこう呼んでくれ。バルタン星人、バルタンで構わない』

 

 バルタン星人がアーシアの手にハサミで触れると彼女に吸い込まれるように消え去り、傷が完全に癒えたアーシアはその場で立ち上がって自らの両腕を見つめる。

 

 

「寄生対象の意識の存続を確認。脳内での会話は可能。スペシウムも宿主の肉体で遮断されているのを確認した。宇宙船を隠し、ペットである異星侵略用生物兵器を休眠させた後にオラリオへと向かう。宿主の意思を尊重しよう」

 

 声はアーシアの物だが話し方はバルタン星人の物。

 遥か遠くの星、地球で光の星の住人が交通事故の被害者と融合している頃、偶然にも変わり者のバルタン星人が不時着した星の少女との融合を果たしたのであった。

 

 

 

 

「宿主からの質問を受信。私が男かどうかについて。異性との体の共有への困惑と判断。返答、種族が違いすぎであり、意味の無い悩みである。人と虫の異性と認識するのを推奨。尚、父の夢を継いで店を持つ夢には協力が可能。料理とは科学であり、旅行中に立ち寄った水のない星にて、祖国に見捨てられた男から宇宙船の改造の対価として読み取った記憶にレシピに関する物もあった」

 

 バルタン星人は語る、旅行の醍醐味はその地その地の食べ物を楽しむ事だと。

 彼が言うには立ち寄った惑星で現地民と一時融合し、食を満喫したら次の星に向かうのだそうだ。

 

「警告。敵対意思を持つと思しき集団が接近。私は穏健派故に一時交渉を開始し、決裂後に排除を行う」

 

 遙か遠く……一万メートル先の米粒さえも視認可能なバルタン星人からすれば近い距離から接近してくるのはラキアという軍神アレスに率いられた国。

 侵略を繰り返し、オラリオには惨敗に次ぐ惨敗だが、地上のモンスターを相手にするには十分であり、今も指揮官の独断なのかアレスの命令なのかは定かではないが、モンスターを追い立てて別の村に向かわせていた。

 

 アーシアにその事を聞いたバルタン星人は少し考えた。

 

 

「情報提供を感謝する。推察、宿主……いや、アーシアの村が襲われたのは対象が原因と推察。報復行為を提案。交渉の予定は中止とする」

 

 この時、バルタン星人はアーシアの肉体に寄生した状態で本来のスペックを発揮出来る事に驚きつつ、アーシアに復讐を提案するも、実地テストの為の戦闘行動は拒絶の意思を示された。

 理由は恐怖、大勢の武装集団との戦いを強く拒否する行動に対し、このバルタン星人は暫し思案する。

 

 

「了解。それでは星間侵略用生物兵器の使用を提案。承諾を確認。行け……×××」

 

 その名は偶然にも地球に存在する怪獣と同じ存在、或いはバルタン星人以外の異星人が古代の地球にて遙か昔に採取したサンプルから作り出した存在。

 

 呼び声と共に宇宙船から何か射出され、空中で巨大化……本来の大きさへと戻る。

 突然の出現に混乱する軍に向かって足が振り下ろされ……。

 

 

「対象の殲滅を確認。しかし、神とモンスターの存在と人との関わりは……まさかな」

 

 

 

 この日、ラキアより出撃した軍は全滅、巨大な生物が暴れた痕跡こそ残ってはいたものの、その軍の行動が原因で目撃者は居なかった。

 

 

 

 

 そして、それから四年……。

 

 

 

 

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