シン・バルタン星人   作:ケツアゴ

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無駄

 どうしてこうなってしまったのでしょうか?

 

 その問い掛けは人生にであり、今の状況にであり、私の体に対する物。

 

「ま、待て! 俺達仲間じゃねぇか! そうだ、次に褒美を貰った時は俺の分を……」

 

 何時も私からお金を奪っていた男が壁際に這いながら手を突きだして接近を拒絶して命乞いをして来る。

 何時も何時も笑いながら暴力を振るって、私が頼んでも絶対に止めなかった癖に勝手な話だ。

 

「……」

 

 足下から聞こえる水音に視線を向ければ転がっている男から流れ出した血を踏んでしまっていた。

 不愉快さと同時に感じるのは飢餓、お腹が鳴って思わず唾を飲み込んだ。

 

 ああ、幼い頃はパン一つ食べるにも苦労したな。

 

 

 少し昔を思い出して止まった私に対して隙だと見たんだろう、目の前の男が剣を抜いて襲い掛かって来る。

 私では反応出来ずに斬り殺されるだけ……ちょっと前の私だったらの話。

 

「このっ、サポーター如きがぁああああああああああっ!! ……あぐっ!?」

 

 懐に潜り込んで首を掴み、これ以上なにか言われる前に首の骨をへし折った。

 放り投げれば痙攣してもう直ぐ死ぬ男の姿。

 そのまま首に口を近付け、歯を突き立てる。

 

 血の味が口の中に広がり、そのまま飲み込む。

 

「……脂っぽい」

 

 不摂生な生活の為か少ししつこい味がしたけれど、頭を支配するのはソーマを飲んだ時以上の幸福感。

 お腹が一杯になるまで血を啜り、遠くから聞こえる足音に反応してその場から離れていった。

 

 

 

「……私の方が強くなったから言っておきますけれど、そっちだって冒険者としては下の方ですよね」

 

 私の所属するファミリアは主神ソーマの趣味の為に存在している。

 酒造り以外に興味がないソーマの作る酒目当てにノルマをこなそうと必死になって、それでも力が足りないのなら更に力が無い私みたいな存在から奪うだけ。

 

 まあ、そのノルマだって数日前に急に引き上げられちゃったらしく、私から稼いだお金を奪うだけでなく持っている物全てを奪おうと此処で待ち伏せしていたんですよね。

 お陰で目立たずに食事が出来ましたけれど。

 

 

「おや、やはりガネーシャ・ファミリアの方々でしたか。治安維持の為のパトロールがご苦労な事ですよ」

 

 遠くから現場に到着した人達の会話が耳に届く。

 急に発達した五感に困らせられる事もありますが、捕まれば不味い事をしている身からすれば本当に助かります。

 

「花屋に放火したりお金のことでトラブルを起こす酒の亡者達をどうにも出来ない癖に。私が困って苦しい時に助けてくれなかった癖に」

 

 正義とか民衆の味方を自称する連中への嫌悪感を口に出した時、食欲をそそる香りが鼻孔を擽った。

 見れば極東の服装をした神が屋台を引いている。

 

 ああ、確かソーマに大変愉快な事をしてくれたパルゥムが夜の営業を雇った相手に任せる事になったと思い出す。

 血は沢山飲んだけれど懐も暖かい事だし人間らしい物も食べるとしよう。

 

 

「神様神様。トッピング全乗せをお願いします。ライスも大盛りで。……あっ、ニンニクは抜いて下さいね」

 

 ああ、それにしても私は……リリは本当にどうしてしまったのでしょうか?

 散々こき使われて稼いだ端金も奪われて、空腹と暴行のダメージから雑草が茂っている場所で気絶した日の後からこうなっていましたが、頭から突っ込んだ花の香りが甘かったことしか覚えていないんですよね。

 

 

 ……血は飲みたい、だけれど飲むのは今までターゲットにしていた連中……冒険者だけ。

 そろそろ若い血も試してみたいですね。

 

 

「先ずは呼び出しに応じてくれて礼を言おう。そして、俺が、ガネ……」

 

「屋台の営業時間が終わっても帳簿等が残っている。即座に本題に入る事を要求」

 

「そうか……」

 

 自己顕示欲が強いのは勝手だが、何度も無意味な名乗りを上げられるのは時間の浪費でしかない。

 要件は一部を伝えられ、これからの展開も予想可能である。

 

「これから入って来る相手に驚かないで欲しい」

 

「呼び出しの案件から推察、喋るモンスター。尻尾が床で擦れる音が聞こえたのでリザードマンであると思われる」

 

「う、うむ。おい、入ってくれ、リド」

 

 ガネーシャの合図と共に遠慮がちなノックが響き、団員と共にハーピーが入って来る。

 目には知性や理性を、少し戸惑っている様子からは豊富な感情を感じられた。

 

 アーシアも戸惑っているのだろう、モンスターの存在に恐怖は有るが通常の個体程では無い。

 

「あー、俺っちはリドだ。えっと、よろしくな?」

 

「この身の名はアーシアである。して、神ガネーシャ。この者達の存在の黙秘が要件で良いのだろうか? ならば了承しよう」

 

「そうか。話が早くて助かる。……俺は此奴達人語を話すモンスターが何時か人間と手を取り合って生きていけると……」

 

「これ以上の会話の遅延は迷惑だと主張。会話が可能なモンスターとの共存については無関係を主張させて貰う」

 

 何があっても巻き込むな、頼るな、関わって来るな、それを伝えた私は室内を通って玄関に向かう事すら時間の無駄だと窓から飛び出し、そのままバベルの頂上に降り立って街並みを見下ろす。

 夜の闇を照らす魔石灯の明かり、世界に普及し、今は生活に欠かせない必要不可欠の品。

 

 

「無駄な時間を過ごした」

 

 十中八九が喋るモンスターの事だと分かっていたが、簡単に引き下がりはしないだろうと呼び出しに応じた。

 治安維持を担い市民からの信頼も厚い故に顔を立てたが、あれならば玄関先で喋らない事を約束すれば済んだ話だ。

 

「非常に無駄だった」

 

 体に感じる震え、アーシアの物だ。

 恐ろしいものだと幼い頃から警告と共に教えられ、実際にその被害にあって活動停止寸前にまで追い込まれた故の恐怖。

 会話が通じるからと拭える物ではない。

 

「無駄でしか無かったな」

 

 時間を無駄にし、アーシアを無駄に怯えさせ、九分九厘無駄に終わる理想を聞かされた。

 

 私には無関係だ、興味も湧かない、何の影響も及ぼしはしない。

 只、少しだけ妙な感情が渦巻く中、バベルを……正確にはフレイヤの部屋の辺りを睨む少し精神的余裕が不足していそうな女神に気が付き、確か名前はイシュタルであり、タケミカヅチに任せた屋台が向かう先の一つである歓楽街の支配者であったと思い出す。

 

 

「……即日解雇を決定する」

 

 そのタケミカヅチだが、探してみれば即座に発見出来た。

 指定の場所まで車輪付きの屋台を引き、チャルメラなる楽器で人の気を引いているまでは良かったが、職務放棄をして店に入って行く。

 注文の為に呼ばれた風ではなく、遊びの為と推察。

 

 

 

『真面目そうな神様だったのに……』

 

 これ以上はアーシアが見たくないらしい光景(繁殖の為の行為を金銭や一時の快楽の為に行うというバルタン星人では有り得ない行為故に学術的興味はそそられるが)から目を逸らし、家に戻って帳簿と仕込みを行おうと思った時だ、残った金属の回収の為に第二のダンジョンに向かわせていたゴモラから壁を突き破った先で戦闘が始まったとの電波が届く。

 通常なら相手をせずに退く事を命じただろうが……。

 

 

 

 

「人ではないものだけ排除。人の方は適当にあしらえ」

 

 今宵の私は少しだけ不機嫌だが、危険を承知でダンジョンに向かう以上はイレギュラーは受け入れて欲しい。

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