「鬱陶しい。警告、これ以上はギルドに営業妨害の通達を行う」
タケミカヅチとその眷属が屋台の前で土下座をしている、そう、土下座である。
この連中の出身地では謝罪のポーズらしいのだが、アーシアにとっては意味不明なポーズであり、あの地球人が知っている国の文化も似ており、土下座も存在するのだから偶然とは驚く。
あの顛末を簡単に説明すると、良家の娘と友達になり、その娘が娼婦になっていたのでタケミカヅチが慌てて話を聞きに行けば客だと思われ通され、料金を請求されたとの事、
そうか、無関係である。
イッスンボウシという話に似た状況で家を追い出され、人買いからイシュタル・ファミリアに購入されたらしいが、間男の娘だったとか後妻と上手く行かなさそうだから追い出したとか有るだろうが、良家の娘だったのなら実家にでも連絡すれば良いだろう。
『不幸だとは思うけれど……』
アーシアの反応もこの程度、オラリオの外では普通に起きる不幸であり、生きているのだから良いじゃないかと死にかけた彼女が言っている。
つまりは別段何もする必要は無いのだろう、目の前の連中も結局は他人だろうに。
結局の所、他の者の境遇に同情を覚えてもそれまでなのが一般的な反応であり、知人が心配だからと職務放棄をする理由にはならない。
お陰で雇用主としての責任をイシュタルから問われ、出禁にしているフレイヤへの当てつけなのかイシュタル・ファミリアで開く宴の料理の依頼を引き受けさせられた、料金は払うので特に問題は無い。
「無駄な時間を過ごすならダンジョンで稼ぐのを推奨」
それで借金を返済しつつ身受けの金でも稼げば良い。
今は一刻も早く邪魔な連中を追い払いたい私であった。
「未発見のモンスターに地下建造物の発見、か。それを私に聞く理由を何か情報が入っていないかとと質問する為だと推察」
「う、うん、そうなの。ほら、アーシアちゃんの所には町中の噂が集まるでしょ?」
お昼時、世間話の体で行われるエイナからの聞き取り調査、地下建造物については存在を確認しただけであり、ゴモラはモンスターではなく星間侵略用生物兵器であるが故に虚偽ではない。
私を呼び出す訳にも行かないから客として来たついでに話をしている彼女だが、随分とギルドは騒ぎになっているらしいな。
「最近は血を抜かれた死体がまた見つかったし、アーシアちゃんが強いのは知っているけれど本当に注意して。命は一つしかないんだから」
「了解、留意しよう」
光の国の連中は命を製造可能であり、バルタン星人は数十億が集まってバルタン星人を形成している、即ち命が一つでは無いのだが、今はその様な話をしていないのだろう。
「所でヘルメス・ファミリアで小火騒ぎが起きたと聞いた」
「うん、ヘルメス様のタバコが原因だろうって。本人は床から火が噴きだしたって否定するけれどね」
「床が火を噴く訳は無いだろう。地下から炎のブレスを持つモンスターに襲われたとでも?」
噂では眷属に怒られて修理費を全額払う事になったとか、暫くお小遣いをなくされたとか面白おかしく情報が流れて来る。
だが、どうでも良い。
侵入行為への報復をした以上、奴は私にとって何の価値も存在しない相手なのだから。
「もしもし、店長さん、注文をお願いしますね」
会話を中断、仕事をしなくては。
客はソーマ・ファミリアのホームで見掛けたパルゥム、滅多に利用しないので常連ではないが、サポーターの様なので金がないのだろう。
格好からして本日は仕事の予定だったのだろうが現在は正午過ぎ、雇い主が見つからなかったのだと判断。
「了解した。焼き加減は?」
本日のメニューはステーキ丼、米に合うソースの他、米には練り梅を混ぜ込んで肉の脂っこさを抑えているが、酸っぱいのが嫌いな客の為に普通のを、ガッツリ食べたい客の為にガーリックライスも用意している。
「レアでお願いします。血が滴るようなのが良いですね。お米の方はガーリックライスでなければどちらでも」
「了解した。直ぐそこのテーブルが空いている」
「いえ、ガーリックライスの匂いが強いので彼方の方で待たせて頂きますよ。……それにしても盛況っぷりが羨ましいです。リリなんて同じファミリアの冒険者様達の問題行動が多発しているからって警戒されて雇って貰えないのですよ。誰かお人好しな新米冒険者……様に伝手とか有りませんか?」
「質問、新米冒険者との伝手の有無。返答、無い」
他にも客が居る、移動するならさっさとするのを希望。
「……はぁ。もう改宗しかないんでしょうか? 元々両親が団員だったせいで選択肢が無かっただけですし」
移動するのを希望。
「これはアダマンタイトか? これだけの建築物を造るだけでどれだけの手間と資金をつぎ込んだのか想像も出来ないな」
リヴィラの町の壊滅から数日後、アイズには悪いけれど僕はロキ・ファミリアの団長としてダンジョンの外壁にそって造られた建築物の調査に参加していた。
あの女性型モンスターや花型モンスター、それに関わっているだろう赤髪の女がアイズの風を見て”アリア”だと判断した事。
それらは気になるけれど、僕が一番警戒しているのは新種の巨大モンスターについてだ。
「リヴェリア、例の話は確かなんだね? あのモンスターが行った戦闘行動の全てで……」
「ああ、魔力は一切感じなかった。通常のモンスターでさえ炎を吐くなどには魔力を使用するのだがな」
つまりは未知のモンスターが未知の力を使うという事、それに外壁を掘って去って行ったが、掘った痕跡からして向かったのは上方面、下手をすれば地上に姿を見せているかも知れない。
「二つクリアした三大クエストが一つ増えたという事か……」
外に進出したモンスターの中でも圧倒的に強い怪物達。
ベヒモスとリヴァイアサンは既に倒され、残りは黒龍だけだと思っていたのに……。
「僕達冒険者と同じくダンジョンも成長しているのか? それにしても……」
あの花型はこの建築物を通って地上に運び出されたのだろうが、犯人は天界に帰った神タナトスだという意見が多い、つまりは崩落している以上は解決済みであり、あの巨大モンスターのみを警戒すべきだと。
でも、あの女が残党程度とは思えないし、親指が疼く。
他にも仲間が居たという事か?
捕縛された白装束達も詳しくは言わないし、前に進めない状況だ。
「これは退屈もしないし引退も暫くは出来ないね、リヴェリア」
「何だ、引退を考えていたのか?」
「いや、少なくても悲願を達成するまでは……うっ!?」
今、結婚を匂わせたら変態を見る目を向けられたトラウマが……。
「待ちやがれ! 何やってるんだ、泥棒!」
おや、何かトラブルらしい。