俺は今、忠誠を誓った女神の命令により船に乗っている。
本来であればお側に仕えて居たいのだが、先日の外出の件もあり、酒場での給仕の仕事にこれ以上穴を開けるのはミアが許さないからと宝探しの同行を申し出る様に命じられた。
「急に大食い大会に巻き込んだお詫びにただ働きをして来なさい。土産話を楽しみにしているわ」
あの大会は女神のご意志で……いや、何も言うまい。
忠誠を誓うあの御方の命令とあらば……。
「……だが、少し判断を誤ったかも知れん」
表向きは先日の詫び、裏ではミアやフレイヤ様が手を貸したのだからと同行を頼み込み、今こうして乗っている船が進んでいるのだが、帆に風は受けず、誰もオールを手にしていない。
ならば誰かの魔力を吸い上げて走るタイプなのかというとそれも違う、魔力を供給する役割の者が居ないのはこの船の持ち主から聞いている。
目の前の窓の外を見れば神秘的な光景が広がっており、俺でも眺めていたいと思う程。
俺は今……海底を進む船に乗っていた。
事の発端はアレンを通じて呼び出された俺が同行を申し出た時、”なんかしつこそうなので”と主神に代わって同行を許されたヘルメス・ファミリア団長のアスフィ・アンドロメダと団員のルルネとやらと海まで向かった時だ。
「あれ? 船なんて無いじゃないか」
「ヘルメス様は同行を許していませんよね? どうして居るんですか?」
「君、相変わらず辛辣だな。まあ、せめて見送りだけでもさせてくれ。しかし、本当に船を用意しなくて良かったのかい?」
フレイヤ様も先日とある冒険者に試練をお与えになられたが、この軽薄な神も興味を引かれた少女……恩恵も無しに第一級冒険者に匹敵し、更には分身やら音よりも速く飛行するらしいアーシアにちょっかいを出し、今まで同じ様な事をした神同様に手痛い目に遭った。
それに懲りずに辺りをウロチョロするらしいが、フレイヤ様も放置を言い渡しているので俺は介入しない。
どうせ自分で何とかするからな。
「あの子って興味深いのよね、謎の能力を無しにしても神相手に遠慮が無いと思ったら普通にモンスターが怖かったり、魂の色を二つ持っていて、片方は私が例えすら出来ない未知の色だったり……」
そんな少女は迷惑そうな顔を神ヘルメスに向けた後、少し迷った様子で小さなボタンの付いた手の平サイズの何かを取り出し、押すと同時に海中から巨大な鯨……いや、鯨に似せた巨大な金属製の船が現れた。
「まさかこれを使うだなんて……。じゃあ、乗り込みましょう。この潜水艦に」
「潜水艦? まさか海中を進む船なのかい!? 凄い! こんなの何処で手に入れたんだい!? って言うか乗りたい! 早く乗ろう!」
「オッタルさん、お願いします」
ダンジョン奥深くまで進んでいる俺でさえ唖然とする乗り物、暇潰しに地上に降り立ち人間が生み出す物に関心を持つ神が歓喜しない訳も無い。
故に一番乗りに乗り込もうとしたその襟首を掴んで持ち上げた。
「見た物の詮索もせず、俺はフレイヤ様以外には、其方は同行者以外の誰にも見聞きした物を話さず、主神が船に乗るのは禁じる。それが同行の条件であり、無理に乗り込むのは俺が止める約束になっている」
「た、確かにそうだったけれど、こんな面白い物を……うっ!?」
往生際が悪いのでフレイヤ様から預かった伝言”あまり我が儘が過ぎるならお仕置き”を告げる。
どの口が……いや、忘れよう。
動きを止めた神ヘルメスを帰りの護衛役の団員に渡し、俺は船に乗り込んで実際に海中へと進むのを確認して驚いたのだが……土産話を聞いたフレイヤ様の反応が心配だ。
「へぇ、そんな面白い体験をオッタルだけでしたのね。ふーん」
理不尽? 神とは理不尽な存在だろう、何を今更に……。
だが、暫く拗ねた様子を見せるであろう事は悩ましい。
頼んでフレイヤ様を乗せて貰うのは……この船を隠しておく気だった様子から難しいだろうな。
「そろそろご飯が出来ますよ~」
「そうか。配膳を手伝おう」
テーブルの上を見れば数多くの料理が並べられ、これを全員分皿に移すとなると一人では……いや、数人になれるのだったな、この少女は。
主食も主菜も副菜もスープも揃っているが随分と豪華だな……。
「大丈夫ですよ。今回はビュッフェ形式ですから」
「ビュッフェか……」
四人揃って嫌いな野菜が被るガリバー兄弟なら同じ物ばかりを食べそうだし、屋台では出さない料理が多いのでフレイヤ様には何とか誤魔化したいが誤魔化すなど不敬である。
拗ねるか? ……絶対に拗ねるな。
「あの二人は潜水艦の探索に行っちゃっているから分身が連れて来ますね」
「ああ……」
絶対に不機嫌になってしまう女神の姿を思い浮かべて溜め息を吐き出しそうになった……。
うん、食事を楽しもう、この少女の料理は本当に美味い。
この時点で胃がキリキリと痛むが……うん。
女神の命令で動くのは誇らしい事なのだが、今回ばかりは他の者に任せて欲しいのだと思った。
「いやいや、凄いね、この中。誰が作ったの?」
「ルルネ! 詮索はしないという約束でしょう」
更に料理を大量に盛ったルルネは口の中一杯に料理を詰め込みながら喋るが、皿の上でソースが混ざってしまうしマナーが悪いな。
俺が注意するまでもなく団長に叱られていたが、アーシアは溜め息と共に自分自身を指差し……本当に何者だっ!?
もう彼女に関しては考えない方が良いだろう、分かっていた事だ。
「……むっ」
食事の最中、窓の外の景色の向こうから近付いて来るモンスターの群れ、俺が船から飛び出すべきかと思ったら船から光のような物が飛び出してあっという間にモンスターを貫く。
「”全自動迎撃式れーざーびぃむ”です」
「全自動迎撃式れーざーびぃむ……」
考え……ない。
「これをどうやって説明すべきなのか……」
神は人の嘘を見抜くが、見抜けなかった場合は説明がどれだけ大変だっただろうか……。
「……はぁ」
溜め息が聞こえて見てみればアスフィが俺がしているであろう疲れた顔を浮かべている、視線が重なって言葉を口にせずとも通じた。
「お互い大変ですね」
「……だな」
団長とは此処まで苦労すべき立場なのかと自由そうなルルネとフレイヤ・ファミリアの幹部の姿を思い浮かべて胃がキリキリ痛んだ。