この星に漂流して僅か四年、
そして分かった事だが、この星の住人は理解が難しいという事だ。
バルタン星人は一体一体の区別は不要、全部合わせてバルタン星人という生命なのだ。
例えば一体を除きコールドスリープをしていたとしよう。
目覚めた時、コールドスリープ状態だったバルタン星人も起きていたバルタン星人の得た情報を自己の体験として認識可能だ。
……無論、私のように誕生の際に異常が発生して他のバルタン星人の得た情報が得られず、また此方からも送れないのもいるが、それでも私は自らをバルタン星人の一部であり、私の活動の存続はバルタン星人の存続に何一つ影響を及ぼさないと認識している。
だが、この星の住人は個として存在を完結していながら複数での共同体を成立させ、バルタン星人でもないのに互いの感情を理解し合えると思っているのだ。
更に不可解なのが自己犠牲や他者との比較、完全に存在が独立しているならば他の存在の為に自己を危機に晒す必要は感じられない。
他人の痛みを知れ、本当に意味が分からない言葉だ。
痛みなどは自ら以外に与えるべき事、避けるのが存在の継続の為に必要なのでは無いだろうか?
「アーシアたーん。ウチ、たこ焼き六個入り一つな。ソース多めで頼むわ」
考察に集中していた脳を切り替え、金銭を稼ぐ為の行動に集中すべし。
アーシアに寄生して四年……光の国の警備隊ならベテラン扱いに二万年で十分だから一眠りすれば過ぎそうな期間だが、私の目標である宇宙船の修繕費用と寄生の対価としてアーシアに店を与える為にも業務に励むべし。
「それとぉ、あーんして欲しいなあ」
「要請を拒絶。食品の販売以外の業務内容申請はしていない。契約違反は私が嫌う事の一つである」
尚、全てで一つの存在であるバルタン星人でも多少の違いは存在する。
穏健派というべき者や過激派、他のバルタン星人の存在が敵対者に排除された際に怒りを抱く者等々、結論から言えば私は目の前の細目で胸部の贅肉が異常に少ない神が……訂正、神全体が好ましくないと思う。
『どうして?』
第三者の意見も必要だと、私はバルタン星人を配下にしているメフィラス星人の中でも重要な全権委任大使とやらに教わった。
尚、食事の席だったが向こうの方が明らかに多く飲み食いしたが支払いは折半、当然経費である。
だからアーシアにも意見を求めたのだが、この星の住人は私の予想が正しいのなら被害者であり、今回の件は被害者だと認めたがらない可能性がある。
善神とされる者が不特定多数存在し、一度だけならば力を地上で使えるにも関わらずバベルで蓋をしただけのダンジョン、地上に蔓延るモンスターとて恩恵無しには敵わない存在。
そして、バベルを建てるに至った神の光臨とて最後の最後での失敗への絶望を感じたタイミング。
神が居なければどうにもならない、その状況が欲しく、善神でさえも力を振るわないのではないか。
ダンジョン自体が神にとって不都合な何か、例えば神がダンジョンの誕生に関わっている、等だ。
「注文の品が完成した。代金を要求する」
無論、正面から問いたださないし、実際にダンジョンについて聞いてもダンジョンはダンジョンだと全知無能の存在を自称する神がちゃんと返答しない辺り、何かしらの関与は有るのだろう。
まあ、私には無関係な話だ。
オラリオに来た私は今も続けている屋台を開始した、内容は日ごとのローテーション。
最初は子供の遊びと相手にされないも、この星の住人の味覚と嗅覚に最適な物を作り出すなどバルタン星人ならば楽勝である。
「フォフォフォフォフォフォフォ。失敬、思い出し笑いだ」
「相変わらず変な笑い方やなあ。あと、休みの時と口調違い過ぎへん?」
「公私で他人になるのは良い仕事をするコツである」
嘘ではない、実際に休みの日はアーシアに体を返し、料理を教えたり好きに過ごさせている。
以上、母星に帰還時に提出すべき考察レポートの一部とする。
「そろそろ客が増える時間。私一人では対応が困難と推察。分身が妥当である」
目の前ではちょうど良い焼き加減のたこ焼き、鉄板は前方と左右の三つ。
昼休みとなる時間、労働者が大量にやって来るので私は調理に専念しないとならないが、注文の受付や配膳、食べ終えた後の後片付け(折り畳み式の机と椅子を用意している)、どんなタイミングで業務が発生しようとも最高の状態で出すにはどうすべきか、其れは簡単だ。
私が左右に動けば元居た場所に残像が取り残され、私が増えて行く。
計四人、これが現在この肉体での限度である。
「私は調理に専念。分身一は接客、二と三は配膳と片づけを担当」
「「「了承」」」
さて、今日も金を稼ごう。
宇宙船の修理には上質なアダマンタイトやオリハルコンから抽出したエネルギーが必要と判断、その必要量は金額にして五兆ヴァリス……先は僅かに長い。
「……神の恩恵に頼らん地上の未知。そりゃ偶には存在するんやけれど、ありゃ異常な部類よなあ……」
「神ロキ、アルコールの持ち込みの許可はしていない。持ち帰り拠点での飲食を推奨する」
「もう少し神への敬意をやなあ……」
「拒否する」
幸いな事に私の店は神にも人にも好評らしく、作り置きをする余裕がない速度で売れていく。
特に今日は外から夢を見てやって来たのだろう冒険者志望らしき者の姿が多く見られ、何時もより忙しかった。
下拵え担当の分身を増やすか……。
「おいおい、随分と儲かってるじゃねぇか。此処は俺達の縄張りだぜ」
この忙しい時に問題発生、私に関する情報を持たないチンピラが接客担当に絡み金銭を要求している。
周囲の客は見て見ぬ振り、巻き込まれぬように列から離れる。
男が腰から下げたナイフに恐れをなした……訳ではない。
「邪魔だ」
「うおっ!?」
その必要が無いからだ。
決して小柄ではない男を背後の大男が片手で持ち上げ、そのまま路地裏に向かって放り投げる。
大きな音と共にカエルが潰れる様な悲鳴が聞こえるも、私に何かしらの影響が出る事は無いだろう。
「注文を頼む。八個入りを一つと六個入りを二十、持ち帰り用の袋も貰いたい」
これがロキさえも黙って見ていた理由。
屋台の常連であるオッタル、現オラリオ最強が居たからだ。
「了解。迅速に用意する」
「其れと女神より伝言だ。出禁を解除して欲しい、と」
「要請を拒否する。眷属か店の従業員に頼むのを推奨」
尚、彼の主神である女神フレイヤは居るだけで他の客が注文も出来ず、食べもしないので後から来る客に迷惑だと出禁を言い渡した。
何やら五月蝿い眷属を数度黙らせれば納得したらしく、偶に魅了を封じた状態で来るのは見逃しているが、可能なのならば女神として来ている時もそうして欲しかった。
「……そうか」
この男は基本的に話が通じる、偶に暴走を続ける身内の回収も行うから眷属全員を出禁にはしない。
無論乗り込んで来た相手は漏れなく出禁にしたが。
「店主! 注文の品を持って来てやったぞ」
オッタルより受けた大量の注文(女神の所望と他の仲間への差し入れと判断)を作っている最中、汗臭い眼帯の女が包みを持ってやって来た。
「今し方打ち終わってな。ほれ、これで良いな?」
「成る程、汗臭さは其れ故か。配達、感謝しよう」
この女は椿・コルブラント。常連の一人であり、最近忙しくなったので増やした分身に持たせる包丁を頼んでいたのだ。
「しかし手前に包丁を依頼するとは豪胆な娘だな、お主。おっ、今日はたこ焼きの日だったか。ついでに此処で飲んで行くから八個入りを頼む」
「列に並べ。包丁の受け渡しのついでの横入りは拒否する。それと酒の持ち込みは禁止だ」
「ぬっ! 仕方無いな、出禁にされても敵わんし……」
この女もLv.5、第一級冒険者だと聞くが、第一級冒険者は我の強い者ばかりなのか?
フレイヤ・ファミリアの面々も変わり者が多い、逆にオッタルが常識人なのは……。
「質問。オッタル、周囲から変わり者と呼ばれてはいないか?」
「……何故そうなる? 俺が何か妙な事でも言ったのか?」
「回答。いや、言ったならこの様な質問はしない」
さて、ペットに深層にて金属の採取を頼んだが、確かロキ・ファミリアが遠征中だったな。
向こうから敵対しない限りは本格的な戦闘はするなと命じているから大丈夫だろう。
本来ならば必要量発覚後直ぐに潜らせたかったが、万が一関連を疑われては困る故に放置していた。
きっと上々の成果が期待できるだろう。
何せ光の国の連中とも戦える強さを持っている自慢の異星間侵略用生物兵器だからな。
「……何故其れで俺が変わり者扱いを?」
随分と気にしているな、この男。
ダンジョンって人造ダンジョンに囲われてるよね
次回
クノックス、死す